バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第7話 青い涙

「南の島だよ南国だよ!!」

 

「あはは、結衣は相変わらず元気だね~」

 

「あたしはお腹空いた~。何か食べたい~」

 

「晴香さんが来るまでもうちょっとかな?盛夏、クッキー食べる?」

 

「食べる~」

 

「あ、盛夏さん、私キャンディなら持ってますよ?食べます?」

 

「食べる~」

 

「待ち合わせ場所ってここで合ってんだよな…?」

 

私の名前は夏野 結衣。

Canoro Feliceのギター&コーラス担当だよ。

 

私達はライブハウス『ファントム』のみんなで南の島まで来ているんだ~。

 

何でかというと明日開催される南国DEギグってイベントを観る為なんだよ。

そして今日は自由時間!

 

大きなギグイベントを観るのも楽しみだけど、姫咲の話だと私達の泊まるホテルのまわりには綺麗な景色の見れる所がいっぱいって話だからね。

そこを見て回って写真をいっぱい撮るのも楽しみだなぁ~。

 

「盛夏さんもお腹空いてるなら、奈緒さん達は先に行ってもらってもいいっスよ?結衣さん達にはオレがついてますんで」

 

「あはは、ちゃんとお姉ちゃん達が晴香さんが来るまでしっかり保護者するからね」

 

「保護者って…」

 

私達の南のホテルに泊まるメンバーは、

Ailes Flammeのギター担当の秦野っちこと秦野 亮くん。

Blaze Futureのギター担当の奈緒ちんこと佐倉 奈緒ちゃん。

Blaze Futureのベース担当のせいちゃんこと蓮見 盛夏ちゃん。

Divalのドラム担当の香菜ぽんこと雪村 香菜ちゃん。

gamutのキーボード担当のまいまいこと藤川 麻衣ちゃん。

そして私の6人。

 

私とまいまいは綺麗な景色の見える所をまわって写真をいっぱい撮りたい派だったんだけど、せいちゃんと香菜ぽんは食べ歩きしたい派なんだよね。

 

それでどうするか?って昨日の部屋割りの時に話してたんだけど…。

 

 

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『おっすー!あたしがこの南グループの美人引率者こと東山 晴香だよ。

はじめましての子もいるけどよろしくね!』

 

『晴香さん、明日はよろしくお願いしますね』

 

『奈緒と盛夏と香菜もいるからあたしは楽出来そうかな~。あ、みんなは明日行きたい所とかあるの?』

 

『はいはーい!私は景色の写真いっぱい撮りたいでーす!』

 

『私も結衣さんと一緒で、色んな写真撮りたいです!gamutのSNSに色んな写真をアップしたくて!』

 

『は~い!あたしは食べ歩きしたいで~す』

 

『景色の綺麗な写真もいいかな~って思うけど、あたしも盛夏と一緒で食べ歩きがいいかな~?って。

せっかくの南の島だし、ザ・南国って食べ物食べたいんだよね~』

 

『そんな訳で…、結衣ちゃんと麻衣ちゃんが観光で、盛夏と香菜が食べ歩きって感じで意見が分かれてまして…』

 

『ありゃ~?そうなんだ?奈緒と…秦野くんだっけ?はどっちに行きたいの?』

 

『私はどっちでもって感じですかね~?

どっちでも楽しそうですし』

 

『オレもどっちでもって感じです。女子の行きたい所でいいっスよ』

 

『うんうん、なるほどなるほど。

だったらどうしようかな…どうすればあたしは楽が出来るか…うぅむ…』

 

『あの、晴香さん?』

 

『よし!決めた!奈緒!』

 

『は、はい?』

 

『あんたを南グループB班の隊長に任命する!』

 

『はい?班なのに隊長なんですか?』

 

『ユイユイちゃんと藤川さんと秦野くんはあたしと同じA班として写真撮りまくりツアーに行こう!

そして盛夏と香菜は奈緒に引率してもらって食べ歩きツアーだ!

これでみんなの希望は叶っちゃうね!うん!』

 

『お~、さすが晴香さん』

 

『わ、私が盛夏と香菜の引率ですか…?』

 

『そ、奈緒と盛夏と香菜は成人してるしそんなに心配もいらないでしょ。

あたしは未成年組って事でユイユイと藤川さんと秦野くんを引率するよ』

 

 

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そんな事になって私達は今晴香さんを待ってるとこなんだよね。

それにしても遅いなぁ…。

 

「奈緒~、クッキーなくなっちゃった」

 

「え?もう全部食べたの?これから食べ歩きだよ?」

 

「それにしても晴香さん遅いですね…」

 

「ほんとだよね。何やってるんだろ?」

 

「あの、結衣さん、待ち合わせの場所って本当にここで合ってるんスか?」

 

「ムッ!秦野っちは私の事を信用してないのかな!?」

 

「い、いや、そんな訳じゃないっスけど…」

 

「ほら!晴香さんからもらったメール!ここでしょ!?」

 

「あの…そのメールの場所が待ち合わせ場所ならここじゃないっスよ?」

 

「……え?」

 

私達は走った。

晴香さんとの待ち合わせ場所に…。

えぇぇぇぇ…?このメールの場所ってここじゃないの…?

 

「はぁ…はぁ……こ、ここ…かな?」

 

「あ、晴香さん居たよ…はぁ…はぁ…」

 

「はぁ…はぁ…お腹空いたぁ~」

 

「うぅ…み、みんなごめんね…」

 

私達が晴香さんの元に駆けつけた時、晴香さんは泣きながら待っていてくれていた。本当にごめんなさい…。

 

 

「ま、みんな無事で良かったよ。じゃああたし達は行こうか。

奈緒、ちゃんとそっちの引率任せたよ」

 

「はい、まぁ適当に…」

 

「知らないおじさんに着いていっちゃダメだよ?事故とか怪我とかしないように」

 

「もう子供じゃないんですし大丈夫ですよ」

 

「何かあったらタカからHなお仕置きされるからね?気を付けるんだよ?」

 

「た…貴からHなお仕置きって…考えただけでもおぞましいので、ちゃんと気を付けますから安心して下さい」

 

「晴香さ~ん、それじゃ奈緒にはお仕置きにならないよ~。ご褒美になっちゃう」

 

「な、何言ってんの盛夏は!!?」

 

「あはは、盛夏も香菜もちゃんと気を付けるんだよ?さ、あたし達は行こうか」

 

そうして私達と奈緒ちん達は分かれた。

私ももう失敗しないようにしなくちゃ…。

 

 

「この階段…何段あるの……き、きつい」

 

「藤川さん頑張れ。まだ若いんだしさ」

 

「ほ、本当にこの先なんスか?」

 

「わ、私も結構キツイかも…」

 

私達は奈緒ちん達と分かれた後、バスに乗って少し離れた…山?なのかな?

そこまでやって来た。

 

晴香さんの話だとこの山を上った所に絶景ポイントがあるらしいけど…。

どこまで登るんだろう…。

 

「ほら、もうゴールが見えてきたよ」

 

晴香さんのその言葉で私とまいまいは元気を取り戻してダッシュで階段を駆け登った。

 

「うわぁ……すごい…!」

 

私はその光景を見て驚いた。

山の上の方だから海が見えるとか町並みの景色が綺麗な所を想像してたけど、ここは一面緑で木の間から入ってくる日射しがすごく幻想的な場所だった。

 

「ゆ、結衣さん!ボーっとしてる場合じゃないですよ!写真!写真撮らないと!」

 

「う、うん!そうだね!」

 

SNSに写真をアップする為に、色んな綺麗な景色を見て回りたかったからスマホしか持ってきてないけど、せっかくだからデジカメも持って来たら良かったなぁ…。

 

「うおっ!ほ、本当にすごいっスね、ここ。オレも写真撮っておくか」

 

「苦労して登った甲斐があったっしょ?

もう少し奥に行ったら滝もあるよ」

 

滝!?

 

「結衣さん!」

 

「うん!まいまい!行こう!」

 

私達は奥の方に向かってダッシュした。

 

「あはは、あの子ら元気だなぁ。またあの階段を下りなきゃいけないってわかってんのかな…」

 

「あの…晴香さん」

 

「ん?何?」

 

「いえ…何でもないっス。オレらも滝の方に行きましょうか」

 

「そだね。走って転ばれて怪我でもされたらタカと英治にグチグチ言われそうだし」

 

 

私達はその後も色んな場所に連れて行ってもらって写真を撮りまくった。

すごいなぁ。こんな景色が綺麗な所がいっぱいいっぱいあるんだね。

 

「ここで最後だよ。はぁ~、楽出来ると思ったけど結構歩き回ったよね…。おばさんはクタクタだわ…」

 

「ねぇ、晴香さん。ここが最後ってどこが絶景ポイントなの?」

 

私達は最初に待ち合わせをした場所に戻ってきていた。

もう少ししたら奈緒ちん達と合流して晩御飯だ。なんか時間が経つのってあっという間だなぁ。

 

「時間的にはもう少しかな。ここから見える夕焼けが最高なんだって」

 

夕焼けかぁ…。うん!いいね!

夕焼けって好きなんだよね~。

昔、Blue Tearの時に練習の後とかみんなで事務所の屋上から夕焼けを見たりしてたっけ…。

 

Blue Tearの事務所が潰れちゃって、みんなバラバラになっちゃったけど元気にしてるかな?

TVで見かけるのって目久美ちゃんくらいだもんなぁ。舞台で頑張ってる子もいるけど…。

優香も架純も瑞穂も今はどこで何をしてるんだろう?

 

……あれ?私何で今頃Blue Tearの事を思い出したんだろ?夕焼けってだけで…。

 

「結衣さん!」

 

「わ、え?まいまい?何?」

 

「どうしたんですか?ボーっとして」

 

「あはは、ご、ごめんね。ちょっと考え事してて。それでどうしたの?」

 

「見て下さいよ!あそこ!観覧車!

観覧車の上から写真撮ったらすっごく綺麗だと思いませんか?」

 

「おお!ナイスアイデアだね!」

 

「あはは、いいよ。もう少し時間はあるし。行っておいで。

あたしは下で待ってるよ」

 

「オレも待ってます。2人で行って来て下さい」

 

私達は観覧車の下まで行きチケットを2枚買って観覧車に乗った。

やっぱり頂上で写真撮りたいよね!

 

 

---------------------------------

 

 

「あ、秦野くん、あたしそこのコンビニでタバコ吸ってくんね」

 

「オレも付き合いますよ」

 

「あ?吸わせないよ未成年」

 

「タバコは吸わないっスよ。コンビニ前まで晴香さんに付き合うって事っス」

 

「あはは、そっか。

………う~、久しぶりのヤニだぁ」

 

「そういや今日は吸ってなかったっスね」

 

「ん~?まぁ、未成年ばっかの前でバカバカ吸うのもね…。それで?」

 

「それで?とは?」

 

「あたしに何か聞きたい事あんじゃないの?昼間も何度かそんな感じしてたし」

 

「聞きたい事…か…」

 

「あ、あたし一応旦那も子供もいるからね?」

 

「何を言ってんスか…?

何でオレもA班にしたんスか?」

 

「それが聞きたい事?」

 

「……逆に晴香さんがオレに聞きたい事があるからオレをA班にしたんじゃないですか?

それがオレの聞きたい事っス」

 

「なるほどね」

 

「観覧車もしばらくは帰ってきませんし、いいスよ何でも聞いてくれても。

あ、オレ、一応好きな子いますんで」

 

「あはは、そっかぁ。せっかくだから聞かせてもらおうかな」

 

「はい。何スか?」

 

「志保から秦野くんのご両親もクリムゾンと戦ってたって、Artemisの矢だったって聞いてる。

あたしもArtemisの矢の事はよく知ってるんだ」

 

「雨宮から?ええ、まぁ、親父もお袋もArtemisの矢だったらしいですよ」

 

「………あたしは秦野なんて知らない。

あんたのご両親本当にArtemisの矢だったの?」

 

「そんな事っスか…」

 

「まぁ確かにそんな事なのかも知れない。あたしもArtemisの矢の全てを知ってるわけじゃないしね。最後ら辺は兄貴達すら知らないバンドもArtemisの矢を語ってたみたいだし」

 

「渉も知らないし、貴さんにしか話してないんスけど…」

 

「うん?」

 

「オレの秦野って苗字は母親の姓なんスよ。クリムゾンの目から逃れる為に父親の姓から母親の姓を名乗る事にしたんス」

 

「あ……そっか、そうだったんだ…。

なんかごめん……」

 

「別に晴香さんが謝るような事じゃないでしょ。オレももちろん親父達も全然気にしてませんし」

 

「うん…でも、Artemisの矢は兄貴が作ったグループだからさ…」

 

「関係ないっスよ。本当に。

親父達はBREEZEが解散した後もArtemisの矢が無くなってからもバンドを続けてましたから。だからクリムゾンに目をつけられたんだと思いますし」

 

「そ、それなら尚更さ…!」

 

「BREEZEが解散したのもArtemisの矢が無くなった事もタカさんや晴香さんのお兄さんのせいじゃない。そしてその後もクリムゾンと戦ってたのは親父達の責任です。親父達もそう思ってますよ」

 

「ちょ…!ちょっと待って!BREEZEが解散した後もクリムゾングループと戦ってた!?

も、もしかして秦野くんのご両親って…」

 

「浅井っていうんスよ。オレの親父の名前」

 

「ええええええ!?あ、浅井さんのお子さんが秦野くんなの…!?」

 

「ははは、貴さんもすごく驚いてましたよ。

Ailes Flammeって実はオレが浅井で、シフォンが井上、拓実が内山で渉が江口。

苗字の頭があ、い、う、えって続いてんスよ。面白いでしょ?」

 

「ほ、本当にびっくりした…。今はお二人共元気なんだね?」

 

「ええ、うるさいくらいに元気っスよ。

………お、そろそろ結衣さん達戻ってきますね。行きましょうか」

 

「良かった…。浅井さん達……元気なんだ」

 

 

---------------------------------

 

 

「たっだいま~!」

 

「秦野さん、晴香さん!見て下さいよ写真!すっごく最高の景色でしたよ!

………あれ?晴香さん泣いてます?」

 

「あはは、いや、2人が観覧車乗ってる間にって思ってタバコ吸ってたら煙が目に入っちゃって…あはは」

 

タバコの煙かぁ。

でも晴香さん…なんか嬉しそう。

久しぶりにタバコ吸えたのが嬉しかったのかな?

 

「あ、そだ。あんた達。もうすぐ夕焼けの時間だよ。急がないと」

 

「わぁぁぁ、ほんとだ!まいまい!急ごう!」

 

「は、はい!せっかくですもんね!

最後の絶景ポイントでもしっかり写真撮りたいですよね!」

 

やばいやばい!

観覧車からの景色も最高だったけど、夕焼けの綺麗な写真も撮りたいもんね!

 

私達がさっきの夕焼けの場所に戻ろうとした時だった。

 

「久しぶり、結衣」

 

え?誰?

夕日が逆光になって顔がわからないよ?

 

「え?誰?」

 

そしてその人影は私を誘うように路地裏へと消えて行った。

誰だかわからないけど…追わなきゃ。

 

「晴香さん、まいまい、秦野っち。

ごめん、私行ってくる」

 

「え?」

 

私はその人影を走って追い掛けた。

 

「ゆ、ユイユイ!どこ行くの!?

秦野くん、ごめん。あたしはユイユイを追い掛ける!藤川さんの事頼んだ!」

 

「は、はい!」

 

えっと…どっちに行ったんだろう?

こっちかな…?

 

あ、いた。

 

私はその後ろ姿を見て誰だかやっとわかった。

 

「架純…?」

 

「久しぶりだね。結衣」

 

そう言って振り向いた人は間違いなく、Blue Tearのセンター3人組のひとり。

御堂 架純(みどう かすみ)だった。

 

すごいすごい!

こんな所で架純に会えるなんて!

 

「うわぁー!久しぶりだね!架純!」

 

「結衣はいつも元気だね」

 

「あはは、私って元気だけが取り柄だからね」

 

どうしたんだろう?

なんか架純の声が変…?風邪かな?

 

「あ、居た!ちょっとユイユイ勝手にさ…」

 

「あ、晴香さん、ごめん…」

 

「誰?友達?」

 

「うん、Blue Tearの時の友達だよ」

 

「友達…ね。友達だった。が正しいんじゃない?」

 

え?架純?

まぁ、今はBlue Tearもないわけだし、今はお互いに連絡も取ってないけど…。

 

「結衣はいいね。楽しんで音楽がやれて」

 

え?え?え?

どういう事?私の事知ってくれてる?

 

「あはは、うん、メジャーではないし、まだまだ下手っぴだけどね。バンド…楽しくやってるよ」

 

「羨ましい…」

 

羨ましい…?

 

「そ、それよりさ?架純は今はどうしてんの?優香や瑞穂も一緒にどこかの事務所に行ったんだよね?」

 

「あんた…私達……が…ゴホッ、ゴホッ」

 

「わ!?大丈夫?声も少し変だしさ?風邪?」

 

「少し…変…?これが少しだって言うの?」

 

「え?」

 

そして架純は私の近くに寄って来て、私の胸倉を掴んで壁に押し付けできた。

 

「ちょっ、あんた何やって…!」

 

「か…架純…?」

 

な、何で…?どうしちゃったの架純…。

 

「私達の…紹介された事務所はクリムゾンエンターテイメント…クリムゾングループの事務所よ」

 

クリムゾン…?クリムゾングループの事務所…?

 

「あんた…クリムゾングループの人間なの…?」

 

「元…ね…」

 

元?

 

「…!取り合えずその手を離しな!」

 

晴香さんのそのひと言で架純は手を離してくれた…。

どういう事なの?さっぱりわからないよ…。

 

「ごめん…結衣。あんたには何の責任もないのにね…ただの妬み…ごめん…」

 

「架純…。う、うん、全然いいよ。

それより…どうしたの?どういう事なの?」

 

「私達は……Blue Tearの事務所が潰れた後、クリムゾングループの事務所に紹介された。私達の事務所を潰したクリムゾングループの事務所にね…」

 

私と晴香さんは架純の話を黙って聞いた。

 

「クリムゾンの事務所の練習はキツかった。朝から晩まで歌の練習。

事務所のスタッフがOKを出すまでずっと歌い続けていた。

訳わかんかったよ…。私も優香も瑞穂もちゃんと歌えてた。歌えてたのに…」

 

朝から晩までって…そんなに歌い続けてたら…。

 

「それだけじゃない。私達は楽器の練習もしなきゃいけない。バンドを組む為にね。

私と優香はギター。瑞穂はベース。

寝る間も惜しんで練習したよ。早くデビューしたい。早くキラキラ輝くようなライブをやりたいって一心で」

 

架純…優香…瑞穂…大変だったんだね…。

 

「そしてまず瑞穂が壊れた」

 

壊れた!?

 

「え…?瑞穂…どうしたの…?」

 

「ストレスと過労。それで瑞穂は倒れて精神的に傷を負った。今も病院で入院してる」

 

「そんな…瑞穂……グスッ」

 

「私と優香は瑞穂の分も頑張ろうって…。私達はデビューしようってお互いに励まし合って練習をしていた。

けど…そんなハードな練習に耐えられる訳ないよね。優香も私も喉を壊した。もう昔のような声は出せなくなった」

 

「そんな…そんなのって…」

 

「優香は私よりもっと酷い。声がほとんど出せなくなった。

そして私と優香は商品価値がないからとクリムゾンをクビになり棄てられた」

 

何で…どうして架純達がそんな目に…。

クリムゾン…酷い事をいっぱいしてるって聞いてたけど…ここまでだなんて…。

 

「優香は声が出なくなったから…田舎に帰ったよ。もう…あの子の綺麗な歌声は一生聴けない…」

 

うぅ……優香…

 

「私はその事が許せなくて…あの子達の分も文句を言ってやろうと思って…事務所に乗り込んだ。

ふふふ、その時にね。事務所のスタッフが話してるのを私…聞いちゃったんだ…」

 

 

---------------------------------

 

 

『いやー、あのBlue Tearの事務所から来た3人。壊れてくれて良かったですよね』

 

『ほんとだよな。毎日毎日しごかれて可哀相だったもんな』

 

『でも上も怖いですよね。自分達でBlue Tearの事務所を潰しておいて…。

復讐されるのが怖いからって人気があって歌の上手かったメンバーをクリムゾンに引き抜いて…』

 

『引き抜いておきながらメジャーになられたら復讐されるかもしれないからって壊れるように仕向けたんだもんな』

 

『歌が上手かっただけに怖かったんでしょうね』

 

『まぁ、これであの3人が二度と歌えなくなったんだから上も万々歳だろ』

 

『そうですね。あはははは』

 

 

---------------------------------

 

 

「そんな…そんな事って…酷い…酷すぎるよ……うわぁぁぁん」

 

「クリムゾンのやつら…まだ…そんな事を…!」

 

「私はその話を聞いて…すぐに事務所を飛び出した。私達が何をしたっていうの?

私達はただ好きな歌を歌っていたかっただけ…!それだ……け…ゴホッゴホッ」

 

「架純!」

 

「だ…大丈夫…。大きい声を出そうとするとね…こうなるの…。

だから私は…クリムゾンに復讐する事を心に誓った。クリムゾングループを完全に叩き潰す…」

 

「ふ、復讐って…!」

 

「私はそれから必死でギターを練習した。歌えなくなったからね。

もう私がクリムゾンのミュージシャンと戦うには楽器で戦うしかない…」

 

「悪いことは言わない…辞めときな復讐なんて…」

 

「そ、そうだよ。架純!復讐なんて勿体ないよ!

きっと…きっとね、優香も瑞穂も復讐なんて望んでないよ?ギターも必死に練習したんでしょ?

だったら…もう歌えないかもしれないけど…ギターでバンドをやってさ?キラキラなライブやればいいじゃん?

私も協力するし。優香も瑞穂もその方が…」

 

「結衣は優しいね…。

それもいいかな?って思った事も確かにある。

でもクリムゾンのミュージシャンのライブを見てたらね。やっぱり潰さないといけないと思ったよ」

 

「そんな…」

 

「クリムゾンのミュージシャンが主催のライブに乗り込んではデュエルを挑んで倒す。私はそうやって来た。

でもね。さすがに歌もないギター初心者の私だけで勝ち続ける程クリムゾンは甘くなかった。

順調に勝ち続けてた私も…負けそうになった事があったの。

そんな時にね。私は出会ったの。拓斗さん。宮野 拓斗さんに…」

 

「兄貴に…?ど、どういう事!?」

 

「私がもうダメだと思った時、ステージに上がってきて助けてくれた人。その人が拓斗さん」

 

みやのたくと?

確かたぁくん達のバンドでベースをしていた人?

 

「拓斗さんは凄かった。ベースも歌も…」

 

「歌を!?兄貴が…!?」

 

「私は拓斗さんのおかげでデュエルに勝てた。

そして拓斗さんは私に言ってくれた。お前も来るか?って」

 

「あんた…兄貴と一緒に居るの!?今兄貴は…」

 

「ふふ。私は拓斗さんについていった。そこには私と同じようにクリムゾンを憎む子達がいた。

両親がクリムゾンに壊された子、バンドメンバーをクリムゾンに壊された子…。

そこで私はクリムゾンがどれだけ酷い事を続けてきたのかを聞いた。私は…拓斗さん達とバンドを組む事にした」

 

「兄貴とバンド…?」

 

「私達はお互いに腕を研き、そしてクリムゾンのミュージシャンと戦っていた」

 

そんなの…そんな音楽勿体ないよ…。

 

「兄貴…バカ兄貴…」

 

晴香さん…晴香さんも泣いてる…。

 

「そろそろ…時間も大丈夫かな…?

晴香さん…まだここに居ていいんですか?今頃、拓斗さんは会いに行ってるはずですよ。

佐倉 奈緒と蓮見 盛夏に…」

 

「兄貴が…奈緒と盛夏に…何で…」

 

「拓斗さんの敵はクリムゾンだけじゃない。Blaze Futureも拓斗さんには敵なんですよ」

 

「そんな…ハッ!?

ユイユイ!帰るよ!急がないと!」

 

「え?でも…」

 

「でもじゃない!奈緒と盛夏が危ないの!もしかしたら香菜も!」

 

「え?奈緒ちん達が…?」

 

奈緒ちん達が…危ない…?

訳がわからないよ…色んな事が起こりすぎて…。

私はどうしたら…。

 

「結衣…久しぶりに会えて良かったよ。

私達の為に泣いてくれてありがとう。

まだこんな私を友達と言ってくれて嬉しかった。

………でもごめんね。これは時間稼ぎだったの」

 

「架純……」

 

「ユイユイ早く!」

 

架純も気になるけど…

しっかりしなきゃ。今は奈緒ちん達だ。

危ないなら急いで帰らなきゃ…!

 

「架純!また今度ゆっくり話そう!

ごめんね。私行くね!」

 

「バイバイ、結衣」

 

私は架純と別れて晴香さんと一緒に秦野っちとまいまいの元へと戻った。

 

今すぐ奈緒ちん達と合流する予定の場所に帰ると言う晴香さんの必死さに、秦野っち達は訳もわからずオロオロしていたけど、そのまま何も言わずに帰る事を了解してくれた。

 

まいまいも夕焼けの写真はバッチリ撮れたようだった。

夕焼けの写真…忘れてたよ……。

 

 

 

 

私達が奈緒ちん達との合流場所に着くとそこには奈緒ちんもせいちゃんも香菜ぽんもすでに合流場所で私達を待ってくれていた。

 

みんな居たけど…。

みんな俯いていた…。

 

「奈緒!盛夏!香菜!あんた達大丈夫!?」

 

「あ、晴香さん…」

 

奈緒ちんが私達の方を見た。

奈緒ちん……泣いてる…。

せいちゃんと香菜ぽんは俯いたままだ。

 

「奈緒…兄貴に会ったんだね?」

 

「はい…お会いしました…」

 

「奈緒…泣いてんじゃん。何があったの!?何をされたの!?」

 

「私達…ごめん…な…さい…」

 

「何があったの?何を言われたの?」

 

晴香さんは奈緒ちんに優しく声を掛けたけど、奈緒ちんはそれ以上何も話さなかった。

 

「盛夏?あんたは?大丈夫?」

 

「…」

 

「盛夏…」

 

せいちゃんも何も言わずに俯いている。

みんなに何があったの?

 

「晴香さん…あたし達…」

 

香菜ぽんはドラムスティックを握りしめたまま…震えた声で言った。

 

「デュエルで…負けちゃった…」


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