バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第4章 ボクが主役だよ!

僕の名前は井上 遊太。

高校2年生。近所に住むお姉さんの影響で小さい頃からドラムをやってきた。

 

最近になって僕はバンドをやる事になった。

ずっとやりたいと思ってたバンド活動。

思いっきり頑張りたいと思う。

 

でも…問題が1つあって…

 

「おう、井上。今日も頼んでいいか?」

 

同じクラスの秦野くんが話し掛けてきた。

 

「え…あの…うん……い…いいよ」

 

「そうか、悪いな。本当はオレ達からシフォンに連絡出来たらいいんだけど…」

 

「だ…大丈…夫だよ」

 

「井上にもいつも世話になってるし、いつかちゃんとお礼もしないとな。今度よかったら練習見に来てくれよ」

 

そう言って秦野くんは自分の席に戻って行った。

秦野くんが僕に頼んで来たのは、秦野くん達のバンド『Ailes Flamme』のドラム。シフォンって女の子にバンドの練習時間を連絡する事。

ごめんね、秦野くん。せっかくだけど僕はみんなの練習を見に行く事は出来ないよ。

 

そして僕は学校が終わると急いで帰宅する。ゆっくりしてると時間がない。

 

制服を脱いで、服を着替える。

そしてメイクして…ウィッグをつける。

 

 

 

そしたらボクの完成だ!

鏡に向かってウインクしてみる。

うん!今日も可愛い!!

 

そう!実はボクがシフォンちゃんなのだ!

 

んー、遊太にお礼をしたいって亮くんの気持ちもありがたいけどね!

よし、じゃあ遊太の代わりにボクがアイスでも買ってもらってあげよう!

胃袋の中に入ったら一緒だしねっ!!

 

そしてボクはいつもボクらの練習してるスタジオに向かった。

 

「おう、シフォン!今日も早いな!」

 

「シフォン、今日もよろしくね」

 

「うん!渉くんも拓実くんもよろしくだよ!って、おりょ?亮くんは?」

 

「ああ、亮のやつはいつも教えてもらって悪いからってシュークリーム買ってくるってよ。シフォン甘いの好きって言ってたろ?」

 

「僕達だけで先に練習しててってさ」

 

「シュー!クリーム!!」

 

わぁー!さっすが亮くん!!

今日もみっちり教えてあげるよ!

 

 

 

「ダメダメ!渉くん、また歌い出し早いよ!!ちゃんとメロディを聴いて合わせて!」

 

「う…悪い…もっかい頼むよ」

 

「おう、みんな遅くなって悪かったな。シフォン、今日もよろしく頼むよ」

 

ボク達が練習していると亮くんがやって来た。

 

「あ、亮お疲れ様」

 

「シュークリーム!!!!」

 

「はは、後でみんなで食べよう」

 

「うん!じゃあ休憩までみっちりやるよ!!」

 

うー!シュークリーム楽しみぃ!!

よーし!練習頑張っちゃうよ~!

 

 

 

 

 

 

「はむはむ。むふぅー!このシュークリーム美味しい!最高!」

 

「そ?そうか?よかったらオレの分も食うか?」

 

「お、いいのか?悪いな、亮」

 

「お前じゃねえよ、俺はシフォンに言ってんだ」

 

「いいの!?ありがとう!亮くん!大好き!!」

 

ボクは思わず亮くんに抱きついた。

 

「ありがとう…」

 

亮くんはそう言い残して気絶した。

どうしたんだろう?思いっきり絞めすぎたかな…?

 

「拓実くんもベースすごく上手になったよね!」

 

「あ、ありがとう…でも、みんなに付いていくのでやっとだよ」

 

「よし!そろそろライブやってみる?」

 

「え?」

 

「まじかよ?いいのか?」

 

「うん、正直全然ダメダメだけどね。ここで4人だけでやってても煮詰まっちゃうでしょ?」

 

「おっしゃ!やろうぜ!ライブ!」

 

「で、でも僕達全然曲ないよ?」

 

「うん、言い方が悪かったね。ボクの知り合いにライブハウスやってる人いるからさ?その人に頼んでライブやるバンドさんの前座をやらせてもらおうと思って。曲は3人の好きなBLASTのコピーでやろう!」

 

「前座か…」

 

「確かにそれなら1、2曲だし僕らも出来るかもしれないけど…」

 

「ん?前座じゃ嫌とか?デビューは華々しくしたい?」

 

「いや、それはどうでもいい!俺はみんなの前で歌ってみたいし、自分達のレベルを知るにはそれが手っ取り早いしな」

 

「ああ、そうだな。それより問題はオレ達の前座でちゃんと盛り上げれるかってとこだな」

 

「あ、亮、起きたんだね」

 

「ああ、川の向こうに綺麗な花畑があったんだけどな。なんとか川を渡らずに帰ってきた」

 

「んんん?盛り上げる自信ないんだ?3人共かな?」

 

「う…ん、やっぱりやらせてもらえるならありがたいけど、そのバンドさんに悪いって言うか……」

 

「この…バカチン共がぁぁぁ!」

 

怒った!ボクは怒った!激おこだよ!

 

「シ…シフォン?」

 

「そんな事言ってたらいつまで経ってもライブなんか出来ないよ?」

 

「そ、そうは言ってもだな…」

 

「いや、シフォンの言う通りだな。こんな事言ってたらいつまで経ってもライブなんか出来ない。俺達がここでウダウダやってる間にもBLASTは進んで行ってるんだ」

 

「渉……。そうだな…渉とシフォンの言う通りか…。よし、やろう。もちろんオーディエンスを盛り上げるつもりでな」

 

「うんうん!拓実くんは?」

 

「わ、わかったよ…。やるからには思いっきりやるよ」

 

「よし!じゃあボクは明日にでも早速…」

 

「シフォン、でもちょっとだけ時間をくれないか?」

 

「ほえ?」

 

「どうせやるなら俺達のAiles Flammeの曲でやりたい。作ろうぜ、俺達の曲」

 

「そうだな。1曲だけでも作ろう。オレ達の曲を」

 

「ほ…本気?」

 

「ああ、本気だ」

 

ボク達の……Ailes Flammeの曲……。

 

「うん!わかったよ!じゃあボクは明日知り合いのライブハウスに行って頼んでくる!渉くんと亮くんは早速曲作りに入って!拓実くんは引き続きベースの練習ね!」

 

「ああ!」

 

「わかったよ…僕も足を引っ張らないように頑張る!」

 

うん!みんなやる気になってきた!

よーし!頑ろう!ボク達みんなで!

 

 

 

 

 

ふぅ、今日は学校終わったらライブハウス『ファントム』に行かないと…。

男の格好のままで行っても、うまく頼めないかもしれないし、シフォンの格好で行くか…。

 

「やっほ、井上。どしたの?浮かない顔して」

 

「あ、あま…雨宮さん…ど、どうも…」

 

「ん?やっぱりその格好じゃ話辛い?」

 

「あの…その…女の子と話すとか……その…」

 

「はぁ~…じゃあこっち来な」

 

そう言って雨宮さんに引っ張られて来たのは演劇部の部室。

 

「うりゃ!」

 

そう言って雨宮さんは女性用のカツラを僕に被せた…。

 

「あの…雨宮さん…?」

 

「う~ん、やっぱこれじゃダメか」

 

そりゃただカツラを被っただけなのと男の娘は違うよ…。

 

「で、どしたの?ゆっくりでいいから話してみ?」

 

あ、やっぱり話しはさせられるんだ?

 

僕は雨宮さんにこれからのAiles Flammeの予定を話した。

 

「へぇー、ライブの前座…かぁ。そういうのもあるんだね」

 

「ま…まだ、ライブをやれるレベルじゃないから…」

 

「それで曲作りか。あはは。道理で江口も秦野も生気のない顔してると思った」

 

「が…頑張ってるんだね…」

 

「ん?うん、なんかそうみたいね。で?井上はそれで何で浮かない顔してんの?」

 

「ほ、ほら僕…人と話すの苦手だから…うまく頼めるかな…?って…」

 

「あは、あはははは。何それ?知り合いのとこでしょ?それでも苦手なんだ?あはははは」

 

雨宮さん笑いすぎ…

 

「だから…その、シフォンの格好で…行こうかと…」

 

「ふぅー、ごめんごめん。そうなんだ?それあたしも行ってもいい?」

 

「え?」

 

「ほら、あたしもバンドやってるじゃん?いつかはライブもやりたいし。それに」

 

それに?

 

「シフォンとまた話したいしね」

 

もう…!

 

「じゃ、じゃあ、学校終わったら着替えて……駅前に…集合で…」

 

「おっけ。じゃあ放課後によろしくね」

 

 

 

 

 

 

 

そしてボクは駅前で雨宮さんを待っている!まだ約束の時間じゃないけど、その間に何人もの男の人に声かけられてウザいったらしょうがない!!

 

「ごめん、シフォン。遅れた」

 

そして雨宮さんが来た。

なかなかに可愛い私服だ。どこのお店の服だろ?

 

「大丈夫だよ!まだ時間前だし。それよりその服可愛いよね。どこのお店で買ったの?」

 

「ああ、これ?ここの近くのアパレルショップだけど…時間あるなら今から行ってみる?」

 

「え?いいの?雨宮さん、時間大丈夫?」

 

「うん、今日はもう夕飯の仕度も済ませて来たし、遅くなるかもって連絡も入れてあるから」

 

「そっかそっか!なら行きたい!!」

 

「じゃ、行こうか」

 

「うん!」

 

 

 

 

「あ、これ可愛い!これとかシフォンに合うんじゃない?」

 

「え?どれ?あ、ほんとだ可愛い!」

 

「ね?いいでしょ?」

 

「む~…3,600円か……悩むなぁ…」

 

「あ、あたしこれ買おうと思ってたし、悩んでるなら一緒に会計しない?6,000円以上で20%引きだって」

 

「20%引き!?買う!買うよ!」

 

「あたしの4,200円だし助かるよ」

 

 

 

 

 

「いや~!いい買い物したね!」

 

「ほんとに。てかさ、実際は男と女なんだしデートみたいなもんだけど、完全女子の買い物だったよね」

 

「もう!可愛いのが目の前にあったら男も女も関係ないの!」

 

「あはは、ごめん。あ、もう19時なんだね。シフォンは大丈夫?」

 

「少しお腹空いてるけど大丈夫!ちゃちゃっと行っちゃおー」

 

「そうだね。もうちょっと遅くなるって連絡しとく」

 

「あ、ごめんね…」

 

「全然、あたし今一緒に住んでる人いるからさ。先にご飯食べててってだけだし」

 

え?そうなの!?彼氏かな?

雨宮さんって実は大人!?

 

「おっけ。さ、ライブハウス行こ」

 

「うん、こっちだよー」

 

 

 

 

そしてライブハウス『ファントム』に到着した。

 

「ここ?」

 

「うん、パッと見はライブハウスってよりカフェって感じでしょ?実際、ライブのない日はカフェやってるらしいよ」

 

「へぇー、そうなんだ?」

 

そしてボク達がファントムに入ったそこには……

 

「いらっしゃっせー!って、なんだ遊ちゃんか」

 

「ひゃっほ~初音!それにまどか(ねぇ)にたか(にぃ)も!」

 

そこにはここのオーナーの娘さんの初音ちゃんと、ボクがドラムを始めるきっかけになった近所のお姉さんであるまどか姉と、ボクとまどか姉のドラムの先生でもあるファントムのオーナー中原 英治(通称おっちゃん)と昔バンドをやっていたたか兄が居た。

 

「およ?遊太じゃんどしたの女の子連れて。タカに自慢しに来たの?」

 

「ボクの学校の友達だよ!」

 

「遊太か。今日も可愛いな。俺がもう少し若かったら全力で口説いてるまである。俺と付き合おう。それか結婚しよう。」

 

「マイリーより愛してくれるなら歳の差も気にしないよ?」

 

「何?まじでか?くっ…どうするか…でもな…マイリーより愛すとか無理ゲーもいいとこだな。諦めるしかないか…」

 

「え?この人シフォンが男の娘って気付いてない系?」

 

「ううん、ボクが男の娘になる前からの知り合いだし?あ、これいつもの掛け合いみたいなもんだよ。たか兄本気じゃないし」

 

「あ、そうなんだ。渚に同情しちゃうとこだったわ」

 

「なぎさ?あ、でもマイリー愛は本物だよ?」

 

「やっぱり大変そうだなぁ」

 

そうして雨宮さんが遠い目をしていると、たか兄が近付いて来た。

 

「こんばんは」

 

「え?あ、はい。こんばんは」

 

たか兄が雨宮さんにいきなり声掛けるものだから、ボクもだけど雨宮さんもびっくりしている。知り合い?

 

「タカ?どしたん?その子に一目惚れ?」

 

まどか姉もびっくりした様子だ。

そして素早い動きでスマホを操作しだした。誰かに報告してるんだろうなぁ。

 

「何?タカその子に一目惚れしたの?遊ちゃんの友達って事はJkだよ?わかってる?このロリコン」

 

初音ちゃんはさらにもっと年下だけどね?

 

「お前ら揃いも揃ってアホなの?そんなんじゃねぇよ。この子はあれだ。水瀬の友達だ。………あー、ですよね?」

 

「水瀬?誰?」

 

ん?たか兄の友達の友達が雨宮さんなのかな?

 

「え?え?何であたしが渚の友達って知ってるんですか?まさか渚にストーカー?」

 

「え?いや、違いますから。お願いだからそのスマホをしまってくれませんかね?通報だけは勘弁して下さい」

 

「なんだ、違うのか。渚に報告して喜ばせようと思ったのに(ボソ」

 

「てか、先々週の日曜に水瀬と一緒にライブ来てましたよね?水瀬が俺に挨拶に来てくれたから。あれ?時系列的にこれいつだ?」

 

「あ、あの時あたし達に気付いてたんですか?」

 

「まぁ、そんなとこです」

 

「……渚がもしかしたら彼氏と来てるのかもとか思って戻った先を確認したとか?」

 

「いや、ないよ?」

 

「ふぅん…あ、あたし雨宮 志保っていいます。志保って呼び捨てで呼んで下さい」

 

「雨宮…?」

 

「いえ、だから志保って呼んで下さいって」

 

「どうしたタカ、雨宮って聞いて雨宮さん達思い出したか?」

 

「おう、英治。まぁ、ちょっとだけな」

 

そんな話をしてるとおっちゃんがボク達の前にやって来た。

 

「あたしの名前に何か?」

 

「ああ、俺達の知り合いにも雨宮って人が居てな」

 

「そうそう、俺らがバンドやってた時にな」

 

「へぇー、あたしの父も母もバンドやってましたよ?同一人物だったりして」

 

「名前…お父さんは大志(たいし)で、お母さんは香保(かほ)だったりする?」

 

「お父さんと…お母さんですね…」

 

「まじでか」

 

「そうなのか!お父さんもお母さんも凄いバンドマンだったぞ。俺達も何度かデュエル負けたしな。あはは」

 

へ~、雨宮さんのお父さんとお母さんもバンドやってたんだ?

たか兄やおっちゃんと知り合いって事は15年以上前になるのかな?

 

「大志さんも香保さんも元気か?」

 

「母は…亡くなりました」

 

「「!?」」

 

「そか、悪い」

 

「雨宮さん、大志さんは?」

 

「父は……今もギターやってます。クリムゾングループで…」

 

「クリムゾンで…」

 

「そか、色々あると思うけど、元気ならそれでいい。俺にはこんな事しか言えんけどな」

 

そう言ってたか兄が雨宮さんの頭を撫でだした。

ちょっと待ってよ!これボクのお話だよね!?なんでこんな展開になってるの!?

 

「遊太。これがね、空気になるってやつなのよ。覚えときな?」

 

まどか姉……

 

「あ、あの…頭」

 

「あ、悪い」

 

「あ、いえ、渚の言ってた通りだな…」

 

「あ?水瀬?」

 

「あ、あたし今渚と住んでますんで!それで色々聞いてまして!昔にバンドやってたって事とかも」

 

「ああ、水瀬の弁当ってし…志保が作ってんのか。あれだ。前に一回たまご焼き貰ったわ。めちゃ美味かった。ごちそうさん」

 

「え?あたしの弁当食べた事あるんだ?お、美味しかったなら良かった…です」

 

「遊太。これがね、フラグ立てってやつよ。覚えときな?」

 

いやいやいや、ないでしょ。たか兄だし。ってかほんとボク空気じゃん!ぷんすこだよぷんすこ!

 

「で、遊太。それより今日はどうしたんだ?雨宮さんとこの娘さんをタカに自慢しに来たのか?」

 

「なんでまどか姉と同じ発想なのさ!今度どこかのバンドさんのライブで、ボクらのバンドの前座をさせてくれないかな?って頼みに来たの!!それなのにボクいつの間にか空気だしさ!」

 

「ああ、悪かったな。てか、前座でいいのか?ライブやってみるのもアリじゃね?」

 

「ん~…ボク達まだ曲がないんだよ。でも、そろそろオーディエンスの前で歌うって経験も必要だと思って、とりあえず前座から馴れていこうと思って」

 

「おいおい、前座舐めてんのか?前座大変だぞ?盛り上げなきゃならんし、オーディエンスは目当てのバンドのファンばかり。むしろ敵って感じだぞ?」

 

「だから逆にいいかな?って!そこでへこたれたり演奏出来なくなったりしたらそれこそもうバンドとしてはダメだとボクは思うしね!」

 

「そか、ならいいんじゃねぇの?俺らも前座した事あるしな」

 

「そうなんだ?たか兄達の時はどうだった?」

 

「全然盛り上がらなかった。やっぱり緊張してたのもあるしな。俺らの場合はメインバンドから頼まれてやったから良かったけどな」

 

「むぅ~…なら気合い入れてやらないとね!よーし!頑張るぞ!おー!

ってわけで、おっちゃんよろしく!」

 

「わかったよ。ならどっかのバンドに頼んでみるわ」

 

「えへへ、ありがとう!さすがボクの師匠だね!!」

 

「へぇー、シフォンのドラムってオーナーさんに教わったんだ?」

 

「そだよ!おっちゃんはBREEZEってバンドのドラムやってたんだぁ!」

 

「BREEZE!?BREEZEのドラム!?」

 

「お、俺達の事知ってるのか?もしかしてお父さんとお母さんから聞いてるとか?」

 

「あ、いえ、そういうわけではないんですけど…」

 

「おお!そういうわけじゃないのに知ってるのか!俺達有名人になった気分だな!」

 

「こないだちょっと曲を聴く機会がありまして」

 

「え?マジで?水瀬も聴いたの?」

 

「え?はい」

 

「まじかよ…」

 

「あ、それよりさ!たか兄とまどか姉は何しに来てたの?おっちゃんに会いに来ただけ?」

 

「ううん、私達もバンドやる事にしたからさ。ライブやらせてくれって頼みに来たんだよ」

 

「え?ライブ?たか兄また歌うの?」

 

「ああ、まぁな」

 

「ほえ~、それならさ!たか兄達のバンドの時に前座やらせてよ!!」

 

「あ?断る」

 

「なんでさ!いいじゃん!ケチ!今度デートしてあげるからさぁ?」

 

「まじでか?よし前座やらせちゃう。それでどこにデート行く?」

 

「わぁ!やったー!!ありがとうたか兄!」

 

「冗談だけどな」

 

「な!?何で!アホ!変態!ロリコン!」

 

「全く身に覚えのない事で罵倒を浴びても心に響かないな」

 

「むー!!」

 

「てかな、俺らのやるライブはまだまだ先なの。だから、どうせならお前らのバンドも俺らのライブに参加しろよ。前座じゃなくな。曲がないならコピーでも可」

 

「ほえ?」

 

「私達がやろうとしてるライブはね。規模は小さいしライブハウスも小さいしオーナーの度量も小さいけどさ」

 

「お前ライブやらせてやんねーぞ?」

 

「ドリーミン・ギグみたいに、複数のバンドでライブをやるって企画なんだよ。時間もそんなに取れないから1つのバンドの時間は30~40分くらいって考えてもらったらいいよ。それを4バンドくらいで集まってやろうと思ってんの」

 

「そ…そんなのにボク達のライブ出してもらっていいの?」

 

「まぁ、参加費はいただくけどね。今から色々話してやるって段階だけどやるのはやる。日程は11月12日!どう?」

 

「それ面白そう!あたし達のバンドも参加させてもらっていいですか?」

 

「え?志保達のバンドと遊太達のバンドって別なの?」

 

「うん、ボク達は同じバンドじゃないよ」

 

「あ、ダメ…ですか?」

 

「いや、全然。参加してくれるならむしろ助かる。よろしく頼む」

 

「やった!いきなりライブが決まった!後でみんなにLINEしとこ」

 

「詳細とか決まったら水瀬に伝えとくわ」

 

「あ、いえ、あの…よかったらせっかくですし…その…連絡先交換しませんか?」

 

「いいけど。LINEでいい?」

 

「あ、Twitterとかもやったりしてます?」

 

「まぁ、やってるけどな。Twitterは水瀬の垢から適当に来てくれ。タカってのが俺だから」

 

「え?渚ってTwitterやってるの?」

 

「え?知らないの?あ、言っちゃヤバかったかな…まずい。しばかれる」

 

「ふぅん…じゃあ、まずこれLINEね」

 

「はいはい」

 

「葉川 貴か…で?Twitterだけど…IDは?」

 

「水瀬に言うなよ?水瀬を探すなよ?」

 

「どうしよっかな……?」

 

「なら教えれるわけないよね?」

 

「なら渚に直接聞く!もちろん貴さんの名前も出す!」

 

「いやいやいや、待って下さい。お願いします」

 

「なら、あたしからもこれから敬語じゃなくタメ口でいかせてもらうね。それと……た…貴って呼ばせてもらうから…それでOKなら渚にも言わないし探したりしない」

 

「はぁ……香保さん思い出すわ…」

 

「え?そうなの?」

 

「そういう強引なとことかそっくりだぞ。あははは」

 

「これがTwitterのIDだ」

 

「またさ。お父さんとお母さんのあの頃の話…聞かせてよ。おけ、フォローした」

 

「あ、ああ。また今度な。フォロバしといた」

 

だ~か~ら~!

これはボクのお話なんだってば!!

 

「あ、遊太、再来週の土曜とかどうだ?」

 

「再来週?」

 

「ああ、さっき予約の確認の電話があったらしくてな。使用料10%オフにするからどうですか?って言ったら二つ返事でOKくれたらしいんだよ」

 

「え?え?ほんとに?てか、らしいって何、らしいって…」

 

「ああ、初音が応対してくれたみたいだ。オーナーの俺に内緒でそんな話進めるとかさすが俺の娘だよな。ははは」

 

え?ほんとに!?てか、初音ちゃん居たんだね!ありがとう!

 

「よーし!前座もライブも決まった~!うー!やる気出てきた!ボクも頑張らないと!」

 

「あ、遊太もライブ出てくれるんだ?」

 

「もちろんだよ!まどか姉達には負けないよ!ボクがおっちゃんの正当後継者として下剋上するチャンスだしね!」

 

「え?そんな不名誉な称号いらないけど?」

 

「まどか。ヤバイぞ。俺涙目だ」

 

「まどか姉がそうでもまだ綾乃姉(あやのねぇ)もいるしなぁ…」

 

「綾乃もそんなのいらないと思うよ?」

 

「まどか…もうダメ…俺もう瀕死。初音~パパを慰めて…」

 

「だったらタカのまわりの女全部排除してきて?そしたらまたパパって呼んであげるよ。仕事もせずに遊んでるおじさん」

 

さすが初音ちゃんだね!たか兄の大好きなヤンデレ属性も手に入れてるとか!

 

「遊太」

 

「ん?どしたのたか兄?ボクに欲情した?通報するよ?」

 

「いや、確かにお前は魅力的だけどな。マイリーの次に愛してるまである」

 

「はいはい。で?何?」

 

「ライブ参加の事ありがとな。なんかバンドの事で困った事あったら相談くらいには乗るからよ」

 

そう言って、たか兄は頭をガシガシ掻き出した。

ふふ~ん、雨宮さんとか初音ちゃんにならそういう時は頭撫で撫でだよね?

やっぱりボクは男として見てくれてる。こんな格好してても。

 

たか兄もおっちゃんもトシキちゃんも、ボクが男の娘やり出した時…変な人扱いせずに受け入れてくれた。だから、ボクもこの格好が大好きだよ。

 

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『こ、こんにちは…』

 

『え?誰かな?』

 

『可愛い子だな?ここはライブハウスだぞ?見た目はカフェみたいだけどな』

 

『やばいな。可愛いな。おい、俺通報されたりしないかな?大丈夫?』

 

ボクは英治先生の所に行った

 

『え?えーちゃんの知り合い?』

 

『いや!知らないぞ!?こんな可愛い女の子俺が忘れると思うか!?』

 

『大変ですよー!三咲ー!初音ちゃーん!不倫どころか色々ヤバいまであるよー!!あ、俺の弟警察だった。電話しよ』

 

『待てタカ!早まるな!!今度可愛い客が来たら合コンとかセッティングしよう!』

 

『君、どこの子?ここはライブハウスだよ?俺…僕達の誰かの知り合いかな?(イケボ』

 

たか兄……合コン行きたいの?初音ちゃんとまどか姉にちくるよ?

 

『あの…ボク…遊太で…す。やっぱり変かな?』

 

『何だよ遊太かよ。危なく英治が捕まるとこだったじゃねぇか。それよりその格好可愛いな。今からホテ…は、早いからお風呂屋さんとか行かないか?汗かいたろ?』

 

『なんだよ~、遊くんか。俺ドキドキしちゃったじゃん…はーちゃんよりは早く結婚しないって決めてるのに』

 

『いや、待てよトシキ。その発言ヤバイからな?』

 

『遊太。タカには気を付けろ。俺は大事な弟子の……ん?お前そっち?』

 

『ち…違います…ボクも何か変われるかもと思って…』

 

『お前あれだよ?男は狼だよ?お兄ちゃん超心配。

そんな見た目だけ変わっても中身変わらなかったら一緒だからな?よし、俺の性癖をエクセルにまとめてくるから、ちゃんと熟読しろ。悪い、俺帰るわ』

 

『遊太。タカに襲われる前に俺に襲われとくか?』

 

 

 

--------------------------

 

今から思うと笑えちゃう展開だよね。

あれ?態度変わってるね?みんなボクの魅力にメロメロ?

 

「そういやさ。貴も昔バンドやってたんだよね?」

 

え?雨宮さん今更そこ気になるの?

 

「は?まぁ、そうですね」

 

「貴のそん時の曲とかないの?聴いてみたい!」

 

「は?こないだ聴いたんじゃないの?……あ」

 

「え?雨宮さん何言ってるの?たか兄はおっちゃんと同じBREEZEだよ?」

 

「あー、俺も志保って下の名前で呼ばせてもらうな。さっき俺達の曲聴いたって言ってなかったか?タカは俺達BREEZEのボーカルだぞ?」

 

「ちょ、ちょっと待って…。貴ってBREEZEのTAKAなの?」

 

「あの、あれだ。水瀬には水瀬のバンドには俺がBREEZEのTAKAっての内緒にしてくれって頼まれてたんだったわ……。水瀬には内緒にしててくれ」

 

「え?え?え?まじで?まじなの?渚はそれ知らないの?」

 

「いや、水瀬は知ってるぞ?あれだろ?ベースの子が俺のファンだったんだろ?」

 

「あ……あぁ…そういう…」

 

「どしたの?たか兄がBREEZEっての内緒だった?」

 

「ううん、別に。…そか、理奈が貴の事好きだから…」

 

「俺としては俺のファンだったって子には会いたい気持ちはあるんだけどな。まぁ、今の俺見ても幻滅するだけか…」

 

「ん…どっちなんだろ…返答によっては渚を怒らなきゃだね。気持ちはわかるけどさ……。あ、今日は皆様ありがとうございました。ごめんねシフォンあたし帰るね。大事な用を思い出したから」

 

「え?あ、うん。ボクもありがとう!また明日学校でね!」

 

「うん、またね」

 

そう言って雨宮さんは帰っていった。

ボクもそろそろ帰ろうかな。

 

 

 

 

 

そして翌日。

 

「どうしたんだ井上?」

 

「シフォンから連絡あったのか?」

 

「な、なんかいつもごめんね」

 

僕は江ぐ……渉くん、亮くん、拓実くんを呼び出していた。

うん、今から…言うんだ。

 

「あ……あの…ね」

 

「ん?なんだ?」

 

「わら…笑わないで…聞い…てくれる…かな?」

 

「ん?友達の事笑うわけないだろ?」

 

「まて、亮。もしかしたらすごいギャグを言いに来たのかもしれない。それを笑わないのは井上に失礼じゃないのか?」

 

「なるほどね。井上くん!僕は面白かったら笑うよ!」

 

ちょ、ちょっと…みんな空気読んでよ…。

 

よし……

 

「渉くん!亮くん!拓実くん!聞いて聞いて!決まったよ前座!!日程は再来週の土曜だからね!それまでに曲を作って披露出来るようにしなきゃだよ!!」

 

「…」

 

「…」

 

「…」

 

あ、あぅ……

 

「んん!それだけじゃないよ!11月12日だけどね!その日にボクらはライブやるからね!!詳細とかはまだ決まってないけど…。

前座も決まった!ライブも決まった!これからはもっともっと練習だからねっ!!みんなで頑張るよ!おー!!」

 

「…」

 

「…」

 

「…」

 

「ど…どう…かな?」

 

「まじかよ…」

 

「ああ、正直まだ信じられないけどな」

 

「え…あの…ほんとなの?…」

 

いきなりこの格好でシフォンやっちゃって…びっくりしたよね…

 

「井上ってすげーシフォンの真似上手いな!本物かと思った!」

 

え?渉くん?

 

「いや、まだまだだな。シフォンの声の方が可愛い」

 

いや、亮くん、どっちも僕だよ?

 

「前座とライブか…頑張らないと…」

 

うん、そうだね。でも拓実くん、僕の気付いて欲しかったとこはそこじゃないよ?

 

「ありがとうな井上!わざわざシフォンの真似までしてもらって!」

 

ち、違う…!

 

「オレらも曲作り頑張ろうぜ」

 

うん!そこは頑張って!でも違うんだよ。

 

「井上くんってほんとシフォンに似てるよね?兄妹とか?」

 

違います…同一人物です…

 

「が…頑張って…ね」

 

「ありがとうな!井上!」

 

僕はとぼとぼと教室に戻るしかなかった。

 

「お疲れ井上。見てたよ」

 

「あ、雨み…志保ぉ…」

 

「あははは、あたしの事志保って呼んでくれるんだ?ありがとう遊太」

 

僕は志保に泣きついた。

これもちょっとした進歩かな…。

 

「でもね」

 

「ん?何?」

 

「乙女の胸に顔を埋めすぎ!!」

 

「あ、ごめん、あんまりボクと変わらなかったから…つい」

 

「へぇー」

 

志保に思いっきり殴られた。グーで…。

 

そして…僕達の前座をやるライブの日がやってきた。


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