バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第8話 SCARLET

俺の名前は中原 英治。

BREEZEというバンドでドラムをやっていた。もう15年も前の事だ。

今は昼はカフェ、夜はライブハウスを経営している。

 

自営業ってのはなかなか大変なもので、まとまった休みを取る事が出来ない。

俺には愛する妻も娘もいるが、なかなか家族サービスをしてやる事が出来ていなかった。

 

そんな時に昔馴染のバンドHONEY TIMBREが、南国DEギグという一大ギグイベントで再始動するという事で、ライブハウス『ファントム』のバンドマン達と俺の家族とでこの南の島に遊びに来たのだ。

 

まぁ、バンドマンでも家族でもない奴も連れて来たけどな。

 

南国DEギグは明日開催される。

今日は俺と妻と娘の3人で楽しく家族旅行を楽しんでいるのだ。

 

 

………そうなるはずだった。

 

 

 

--ズバン

 

--ズバン

 

「あはは、初音。いい球投げるようになったね」

 

--ズバン

 

「お母さんこそ!」

 

--ズバン

 

今、愛する妻の三咲と、愛する娘の初音は2人でキャッチボールをしている。

 

何なのあいつらの投げる球の速さと重さ。俺、あいつらの球取れないんだけど?

 

家族仲良くキャッチボールでもしようと提案したのは俺だった。

なのにあいつら手加減してくれないんだもん。

 

あいつらの仲間に入れなかった俺は少し離れた所でキャッチボールを眺めていた。

 

「ま、これはこれでいいけどな…」

 

こうやってのんびり家族3人で旅行なんてほとんどした事なかったしな。

いつもタカやトシキ、まどか、綾乃、香菜、遊太、栞。

あいつらも一緒だったからな。

 

平和だな…。

逆に言うと暇だな…。

 

さっきこうやって家族をのんびり眺めてるのもいいかと思ったがやっぱり暇なもんは暇だな。

 

俺がタバコをくわえて火をつけようとした時だった。

 

「久しぶりだな。英治」

 

名前を呼ばれたもんだから、声のした方に目を向けた。

 

「家族サービス中悪いがちょっと時間あるか?」

 

「今、家族サービス中なんであんまり時間はありませんが……付き合いますよ、手塚さん」

 

そこには15年前、俺達BREEZEが戦っていた相手。

クリムゾングループの会社の1つであるクリムゾンエンターテイメントの大幹部である手塚 智史(てづか さとし)が居た。

 

「悪いな。そんなに時間は取らせねぇ」

 

「本当に悪いと思ってるんですか?呼び出されるなら可愛いお姉ちゃんの方が嬉しいんですけどね」

 

俺は手塚さんに少し待ってて下さいと伝え、三咲と初音の元へと向かった。

 

「あれ?どうしたのお父さん。仲間に入りたくなった?」

 

「いや、さすがにお前らの球は取れねぇよ」

 

「それじゃどうしたの?別の事して遊ぶ?」

 

「三咲、悪いけど昔の知り合いに会ってな。少し話してくっから初音の事頼むわ」

 

「昔の知り合い…?」

 

三咲は俺の来た方向、手塚さんの方を見た。

 

「タカくんとトシキくんに連絡する…?あの人、手塚さんだよね?」

 

「いや、あいつらには連絡しなくていい。ちょっと行って来るから俺の戻りが遅かったらトシキの別荘に戻っててくれ」

 

「手塚さんなら…大丈夫だと思うけど…。

あなた…無茶しないでね?」

 

「おう、大丈夫だ。ちょっと話してくるだけだからな」

 

俺はそう言って初音の頭を撫でた。

 

「じゃ行ってくるな」

 

「お父さん…?」

 

「あなた…行ってらっしゃい」

 

 

 

なんか今生の別れとか俺がやられちゃうようなシーンだな!?

ないよ!そんな事ないない!

 

手塚さんは確かにクリムゾンエンターテイメントの大幹部だ。

クリムゾンエンターテイメントは俺達BREEZEの敵だった。いや、俺達だけじゃない。ArtemisにとってもArtemisの矢にとっても…。

 

だが、手塚さんだけは違った。

……と、俺は今でも思っている。

 

パーフェクトスコアで音楽の世界を支配しようとしているクリムゾンミュージックの皇紅蓮。

そのクリムゾンミュージックに属する音楽事務所や会社を総じてクリムゾングループと呼ばれている。

 

そのグループ会社の1つ。

クリムゾンエンターテイメントはクリムゾンミュージックに属する音楽会社でありながらパーフェクトスコアにそれほど心酔している訳ではなかった。

 

クリムゾンエンターテイメントの創始者である海原 神人(かいばら きみひと)

名前の通りまさに人の神になろうとしたおっさん。生きてたらもうじいさんか?

 

あいつは皇紅蓮のパーフェクトスコアを凌駕するスコアを…。

究極の楽譜(アルティメットスコア)を作ろうとしていた。

 

何の為にパーフェクトスコアを凌駕するスコアを作ろうとしていたのか…。

直接対峙した事のあるBREEZE(おれたち)でもわからなかった。

 

 

海原の率いるクリムゾンエンターテイメントは単純な組織だった。

クリムゾンエンターテイメントは4つの部隊構成で成り立っていた。

 

海原に心酔してアルティメットスコアの研究に没頭していた九頭竜 霧斗(くずりゅう きりと)

 

皇紅蓮からパーフェクトスコアを、海原からアルティメットスコアを奪い最強のバンド軍団を作ろうとした野心家のニ胴 政英(にどう まさひで)

 

音楽を争いの道具としか見ず、デュエルギグによる混沌と無秩序の世界を作ろうとした最凶最悪のクソ野郎足立 秀貴(あだち ひでき)

 

そして、自由がなくともバンドマンに音楽が出来る世界を作ろうとした手塚さん。

 

この人はクリムゾンの自由がない音楽でも、音楽を好きなバンドマンには音楽が出来るようにとクリムゾンエンターテイメントに勧誘し、自分の直属のバンドマンとして音楽をやれるようにしてくれていた。

 

だけど俺達との戦いの中でその考えを変えて俺達に味方するような形になって…。

この人の助けもあったおかげか、俺達は多大な犠牲を出した末に足立を倒し、九頭竜とニ胴を退ける事が出来た。

だが、ギタリストだったこの人も最後には二度とギターを弾けない腕になった。

 

手塚さんと足立を失ったクリムゾンエンターテイメントは、まさに手足をもがれたようなもので一気に勢力が減退。

海原も海外に渡り、クリムゾンエンターテイメントは小さい音楽事務所と成り下がった。

その後も九頭竜とニ胴は何かともがいてたみたいだけどな。

 

そしてドリーミンギグが開催され、

アーヴァルのユーゼスがあんな事になり、ダンテはどこかに幽閉された。

 

それから…15年だ。

 

まぁ、ここら辺はいつか外伝的な時にタカあたりが語ってくれるかもな。

 

「手塚さん、どこまで行くんですか?」

 

「そうだな。この辺りでなら人も通らないだろうしいいか」

 

「こんな所に俺を連れて来てどうしようっていうんです?まさか15年前の事を恨んで俺をここで倒すつもりですか?」

 

「もしそうだったらどうする?」

 

「…もう…左腕は大丈夫なんですか?」

 

手塚さんはポケットにつっこんだままだった左手を動かしてみせた。

 

「俺はスーパーでスペシャルな人間だからな。何とか日常生活は困らない程度には動かせるようになったさ。

だが、ギターはもう無理だろうな」

 

「そうですか…」

 

「それよりもだ英治」

 

「何ですか?」

 

「俺からのプレゼントは気に入ってくれたか?」

 

手塚さんからのプレゼント…?

 

そうか…。

やっぱり南国DEギグのチケットはHONEY TIMBREの奴らからじゃなくて…。

タカの嫌な予感が当たっちまったわけか。

 

「ええ、おかげさまで。

うちでライブをやってくれてる若い奴らに南国DEギグを見せてやれますし、俺も家族サービスをしてやる事も出来た。

まぁ、その家族サービスは今あんたに邪魔されてますけどね」

 

「そうか」

 

さてどうする?

手塚さんの企みは何だ…?

参ったなぁ。こんな事はタカとトシキの分野なんだけどなぁ。

 

「安心しろ。俺はもうクリムゾンエンターテイメントに属していない。

もちろんクリムゾングループにもな。

むしろクリムゾンからは追われる身だ」

 

クリムゾンから追われる身?

確かにこの人は大幹部だった。15年前の事もある。

 

クリムゾンからしてみれば裏切り者だ。

あの時はまだクリムゾンエンターテイメントの人間だったから助かってたのかも知れないが、今はクリムゾングループのどこにも属してないのなら追われてるってのもわからなくもない。

 

だが、今になって俺…いや、俺達に接触して来た理由は何だ?

 

タカがまた歌い出した…?

いや、それならタイミング的にはと思うが決定的な理由とは思えない。

手塚さんだってタカの喉の事は知っているはずだ。

 

 

……わからん。助けてタカ!

 

 

「何で今頃になって俺がお前の前に現れたのかわからない。助けてタカって顔をしているな」

 

「何ですか?しばらく見ない間にエスパーにでもなったんですか?」

 

「単刀直入に言おう。英治、反クリムゾングループ『SCARLET』を知っているな?」

 

「反クリムゾングループ『SCARLET』!?」

 

「まぁ、お前もライブハウスの経営者だ。知らないわけがないか」

 

「………すみません。知りません」

 

「ズコー!」

 

ズコー!って言いながら手塚さんはずっこけた。リアクションが古いな…。

 

「お、お前!一応ライブハウスの経営者だろ!?しかも15年前はクリムゾングループと戦ってたバンドマンだろ!」

 

そう言われても知らないもんは知らないしなぁ…。タカとトシキにも知っているか聞いてみるか。

 

「まぁ、名前からして反クリムゾングループって謳ってるわけですから、クリムゾングループに反抗してるグループってくらいならわかりますよ」

 

「チッ、いちいち説明すんのもめんどくせぇな。まぁそんな感じだ。適当に解釈してろ」

 

「で?そのSCARLETってのがどうしたんです?」

 

「そのSCARLETが今後は大々的に会社として、音楽事務所として動き出す。

とは言えまだバンド自体は1バンドしかいないんだがな」

 

「それが俺と何の関係が?」

 

「黙って聞け。

お前のファントム。そのSCARLETに所属する気はないか?」

 

は?何言ってんだこの人…。

 

「もちろん名前はファントムのままでいい。SCARLETをバックに付けてスポンサーとして扱えばいい。

ようはお前のファントムを音楽事務所として旗揚げし、Blaze FutureやDival、evokeやFABULOUS PERFUMEをお前の事務所のバンドマンとしてデビューさせるんだ」

 

「なるほど……そうきましたか…」

 

「お前らはお前らで楽しいバンド活動をやってりゃいい。SCARLETはその辺は口出ししたりしねぇ。

だが、もちろんそうなるとクリムゾングループが黙っていないだろう。そんな時の為のバックボーンのSCARLETだ」

 

意外な展開だな。

SCARLETってのがどんな組織なのかは知らないが、俺達は俺達でやれるってんならその辺は気にしなくていいのか?

 

………いやいやいや!

あいつらをデビューさせるって何だよ!

そんなバカな事出来るわけねぇだろ!!

 

「もうわかってるとは思うが俺は今SCARLETに所属している。まぁ、ディレクターみたいなもんだな。

お前らがライブをやりたいならSCARLETは出資もする。どうだ?悪い話じゃねぇだろ」

 

確かに悪い話じゃない気もするけど根本的な問題だ。あいつらをデビューさせる気もねぇし、あいつらもデビューする気もねぇだろ。

evokeとCanoro Feliceならデビューも考えもするとは思うが…。

 

「手塚さん…悪いですけど…」

 

「デビューってのは形だけでもいいぞ?デビューしたいバンドだけデビューするってのもいいな。他のバンドマンはアマチュアじゃなくインディーズって事にするのもいい」

 

なぁ!?なんだ…と…。

 

「ようはお前らファントムのバンドマンにはSCARLETが後ろについている。

その事をクリムゾングループに見せつける為だけの思索だ。その方がお前らも自由に音楽をやりやすいだろ?」

 

もうわけわかんねぇ…。

三咲にタカを呼んでもらえば良かったか…。

てか、何で手塚さんもそんな話を俺にするんだよ…そういうのはタカに言えよ。

あ、ファントムの経営者は俺だからか…。

 

タカならどうする…。こんな時あいつなら…。

 

「うちの出資者の1つには秋月グループもいる。スポンサーに困るような事もねぇ。何を悩む英治!」

 

秋月グループも…?

そもそもSCARLETって何だ…?

 

 

話を纏めると、SCARLETには秋月グループという巨大なスポンサーがついている。

俺達ファントムのバンドマンは自由に楽しい音楽のバンド活動を続ける。

 

そうするとクリムゾングループに目をつけられるバンドも出てくるだろう。

 

そうなった時の為にファントムをSCARLETの所属にして、ファントムでライブをやるバンドマン達の音楽の邪魔をさせないようにする?

 

つまりそういう事か?

いや、クリムゾングループがそれで黙ってるような奴らなら15年前に俺らあんな苦労してねーよ。

 

 

「うまい話過ぎるでしょ?

裏は何です?俺達に出資をするようなメリットがSCARLETにあるんですか?」

 

「そうだな。そこも説明しないとイエスとは言えないか…。

まず俺達SCARLETのうまみとしては、今はまだ企業としては名前が売れてないから規模が小さい。

お前らをうしろだてしておけば、お前らがライブや活動をしてくれる事でSCARLETの名前も広がる。俺達にはさっきも言ったがバンドは1バンドしかいないからな。お前らに広告塔になってもらう」

 

名前の売り込み…それが目的なら別に俺らじゃなくても…。

 

「そして2つめ。お前らは既にクリムゾングループに目をつけられている。

協力しあってクリムゾンを撃退する戦力としてもお前らが欲しい」

 

あいつらをそんなつまんねぇ音楽に巻き込めって言うのか…?

ふざけ……

 

「既に目をつけられていると言っただろう?巻き込むとかじゃない。

お前らはもう渦中に居るんだ」

 

手塚さん…本当にエスパーかよ…。

 

「そして3つ目。お前らに投資すると言ってももちろんタダってわけじゃない。

かと言って金を取るわけでもない。ここはビジネスだ」

 

ビジネス…?

まずい。これは本当にまずい。

俺では恐らくわからないだろう。

三咲か初音が居ないと俺にはどうこう出来ないぞ……。

 

「SCARLETの会社の中にはグッズを作る部署がある。お前らファントムのバンドのグッズはそこで作らせてもらう」

 

グッズを…?まぁ、それは俺らどうこうよりバンドマン達次第だわな…。

 

「その他にも派遣業務もあるからな。

お前らのライブの時に人手が居るような時はそいつらを使ってもらいたい。

そいつらの給料はこっちで持つが、スタッフジャンパーとしてSCARLETの社名の入ったジャンパーを着て作業をしてもらう。まぁ、これも広告塔扱いだな」

 

給料をそっちで出してくれるなら俺ら的にはありがたい話か。

別にSCARLETの社名の入ったジャンパーくらい着て作業をしてもらうのも構わないしな…。

 

「そしてライブの収益はもちろんお前のもんだが、うちにはネットテレビをやる予定もあってな。ファントムのバンドの冠番組とかも作りたい。もちろんその番組での収益はこっちが貰う」

 

あ、それなら渚ちゃんや奈緒ちゃんや盛夏ちゃんなら喜んでやるんじゃないか?

ネット番組やりたいとか前に話してたしな…。

 

「後はファントム以外での……ライブとは別のイベントだな。そういうのも増やしてやっていきたいと思っている。つまり、そこでお前らに協力してもらう事でうちにも利益があるわけだ。

ROASとか考え出すと……」

 

え?待ってこの人何を言ってるの?

ろあす?何それ?

あ、あかん。こういうのは三咲と初音にお願いします。

 

「……という事だ。納得いったか?」

 

ごめんなさい。途中からさっぱりわかりません。

 

「つまりこれはSCARLETにとってもビジネスでもある。これがお前らに持ち掛けた理由だ」

 

「何で俺達に?もっと大きいライブハウスやスポンサーを欲しがってる事務所もあるでしょう?」

 

「ビジネス面に関しては俺とうちのボスがお前らなら信頼出来ると思ったのと、FABULOUS PERFUMEやDival、Canoro Feliceとタカ以外のBlaze Futureなら大衆に売れると思ったからだ」

 

ボス…?

SCARLETのボスも俺達を知っているのか?

てか、タカは売れると思われてないのか…。まぁ、あいつは歌以外ダメだもんな。

 

「戦力としてはダンテにも持ち掛けたんだけどな。断られちまった。

まぁ、あいつはクリムゾンミュージックしか見えてないかも知れないしな」

 

ダンテ…?幽閉されてたんじゃないのか…?マスターやラモさん達か…?

 

「どうだ?こっちに来ないか?」

 

こんな事俺一人で決めれるわけねぇだろ…。アホか…。

まぁ、俺がやるって言っても、バンドの奴らが断ればそれでいいのか…。

 

「俺がはいと言っても、どのバンドもついてこないかも知れませんよ?」

 

「それも想定内ではある。その時はその時だ」

 

さて、本気で考えないとな…。

 

今すぐ返事なんか出来るわけねぇだろ…。

 

 

 

「……英治」

 

「はい?何ですか…?」

 

「……俺がこのタイミングでお前らに声をかけたのにはまだ理由がある。それも話しておく」

 

他の理由…?

 

「Blaze FutureもDivalもライブはまだ1度しかしていない。

Ailes Flammeも前座をしただけだし、Canoro Feliceもゲスト参加しただけだ。

だから本来ならもう少し経験を積んでからお前に話を持ち掛けるつもりだった」

 

……やっぱりタカが活動を再開したからって訳じゃなかったか。

 

「海原が日本に帰ってくる」

 

「海原が!?」

 

「クリムゾンミュージックが日本に再侵攻してくるからだろう。あいつもまた日本で何かするつもりのようだ」

 

海原が帰ってくる…。

またあんなつまんねぇ戦いが日本で起こるのか?

それこそ…あいつらを巻き込みたくねぇ。

そんな戦い知らない世界で音楽をやらせてやりてぇ…。

 

でも…もうクリムゾンに目をつけられてるなら無理なのか…?

何でクリムゾンに目をつけられた…?

 

 

……!?

 

 

雨宮 大志の娘である志保と、元charm symphonyの理奈、それと元BREEZEのタカか…!

 

 

「それだけじゃない。

クリムゾンエンターテイメントはこの15年、力を溜めていたんだ。二胴のやつがな。まさに胴体って感じだ。

海原の居なくなったクリムゾンエンターテイメントでバンドを集めてぶくぶく肥え太りやがった。

九頭竜のやつも海原が帰ってくるなら動き出すだろう」

 

二胴も九頭竜も…。

 

「そして最もやっかいなのが…暗躍しているらしい…。BREEZE(タカ)にやられた復讐の為か…決着をつける為か…」

 

「足立か…!?まさか…あいつが…!?」

 

「元仲間だった俺が言うのは何だが……。

足立も二胴も九頭竜も…あいつらは特大のクソだ。どんな手を使ってくるかわかったもんじゃねぇ…」

 

どうする…。俺はどうしたらいい?

タカ…トシキ…拓斗…。

 

「恐らく……いや、確実にクリムゾンと戦う事になればエンカウンターデュエルになる。そうなればチューナーの役割をする人間もいるだろう。チューナーを探し鍛えるのも俺達は協力する」

 

チューナー…。

バンドの演奏する音色が見えて譜面を可視化出来て正しいリズムを刻める人物…。

クリムゾンと戦うには欠かせない役割だ。

 

「英治。こっちに来い。ボスもお前らを待っている」

 

…どうする?

 

……

 

………そうだ。そうだな。

 

これが俺の本音。俺の答えだ。

 

「手塚さん…すみません…」

 

「な!?バカかお前!

お前らだけで何が出来る!」

 

「もうBREEZEは無くても…俺はBREEZEのドラマーなんです。

今でも俺は、俺の大将はタカなんですよ」

 

「……英治」

 

「昔も…今も…情けないと思われるかもしれませんが…俺は俺の大将についていくだけです。あいつが決めた事なら俺は必死になれる。頑張れる」

 

「……フッ、ハハ、ハハハハハハ!

予想通りの答えで安心したぜ。やっぱりお前は中原 英治だな」

 

「手塚さん…」

 

「お前がお前で決めてこっちに来るなら万々歳だったが…。やっぱりタカに話してみるしかねぇな」

 

「タカは手塚さんの事大嫌いですからね。望み薄ですね」

 

「あいつがバカなだけならそうだろうな。

時間を取らせて悪かった。近い内にタカに会いに行くとするわ。

家族サービス…頑張ってな」

 

そう言って手塚さんは去って行った。

 

手塚さんの提案には今の俺は乗れなかったのに…何故かその後ろ姿は嬉しそうな雰囲気を出していた。

 

……俺も三咲と初音の元へ戻るか。

 

 

「そう…そんな事が…。海原はともかく足立まで…」

 

俺は三咲に手塚さんとの事を話した。

 

「でもお父さん。ビジネスとしてはおいしいよね。もう少し交渉も必要だと思うけど。私がネゴシエートしようか?」

 

初音は盗み聞きしていた。

 

「あなたはどうするの?」

 

「……手塚さんにも言ったが俺はタカが決めた事について行きたいと思ってる。

どっちにしろお前らには苦労をかけるだろうけどな」

 

「私もタカくんが決めた事なら大丈夫だと思う。私はそんな英治くんについていくよ」

 

俺はいい女と結婚出来たものだ。

羨ましいだろ?タカ、トシキ、拓斗。

 

「やっぱりネットテレビにしてもイベントにしてもうちも出演料を貰った方がいいと思うの。ライブの収益の事も交渉しないといけなくなると思うけど…」

 

俺はしっかりした娘を授かったものだな。

 

「そしてな…三咲。初音の事なんだが」

 

「うん、わかってる」

 

「私?私がどうかしたの?

もしかして私もとうとうデビューしちゃう?歌っちゃう?」

 

「問題はタカくんが承諾してくれかどうかだね…」

 

「タカ?タカが関係あるの?

もしかして私もとうとう嫁いじゃう?結婚?」

 

俺はソッと初音の頭を撫でながら言った…。

 

「初音…お前Blaze Futureのチューナーになる気ないか?」

 

「……え?」


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