バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第13話 初音

「だから俺らが行ってくるから心配すんなって」

 

「私もBlaze Futureです!連れて行って下さい!」

 

「タカが何と言おうとあたしも行くよ。

盛夏は仲間なんだから」

 

「奈緒ちゃんもまどかちゃんも。はーちゃんの言う通り、えーちゃんの話を聞いてた方がいいよ?」

 

「で、ですけど…」

 

「奈緒とまどかさんの言う通りですよ!先輩、私達も盛夏を探しに行きたいです!」

 

「だ~か~ら~。俺はもう盛夏がどこに行ったのか香菜からの話で見当ついてんの。本来なら俺ひとりでも大丈夫なの。

一応の為にトシキと晴香と達也と三咲に頼んでんだしな」

 

「見当がついてるなら尚更連れて行ってほしいわ。それに英治さんの話というのは例の事でしょう?

私達の気持ちは決まっているもの」

 

「だからな……」

 

オレの名前は秦野 亮。

さっきからオレは全く喋る事が出来ないでいる。

そんな間もないくらいに貴さんがBlaze FutureとDivalのメンバーに詰め寄られていた。

 

それというのもオレ達南のグループのひとりである盛夏さんが、朝からどこかに居なくなっていたからだ。

 

『夜には戻ります。心配しないでください』

 

盛夏さんはそんな書き置きを残していた。だから別にこの中から誰かが居なくなった。とかのミステリーではない。

 

貴さんとトシキさん、晴香さん、東山先生、英治さんの奥さんの三咲さんは盛夏を探しに行く事にしたんだが、奈緒さん達も一緒に探しに行くと言って聞かないのだ。

 

「でも盛夏ちゃんどうしたんだろう…?ボクも心配だよ…」

 

こんな時に不謹慎だとは思うが、今日のシフォンも可愛いな。抱き締めたくなる。

渉に変な事をされてないといいんだが…。

 

「盛夏はちゃんと俺が連れて帰ってくる。だから大丈夫だ。俺が今まで嘘ついた事があるか?」

 

「私にはBREEZEなんて知らないって言ってましたよね?」

 

「うっ…」

 

「それに……何か隠し事もしてるみたいですし…」

 

「は?隠し事?」

 

奈緒さんはそう言って貴さんの腰あたりを見た。隠し事って痔で手術する事を言ってるんだろうな……。

 

「別に何でもないです。それより…!」

 

「頼む奈緒。まどかも。

英治の話はこれからの俺達にとって大事な話だ。ちゃんと聞いてどうしたいのか考えてほしい」

 

「うっ…こ、こういうとこずるいですよね……」

 

「タカが…あたし達に頭を下げるなんて…」

 

「いや、頭は下げてないけど?

え?頭下げて頼めって事?」

 

貴さんも大変だなぁ…。

 

っと、そういやまだ西のグループは来てないんだな。

ここに雨宮や茅野先輩まで入って来たらまたややこしくなるもんな。

 

「わかりました。

貴、約束ですよ?

ちゃんと盛夏を連れて帰って来て下さいね」

 

「おう。任せろ。

ああ、そうだトシキ。もし盛夏を探してる途中で拓斗を見つけたら伝えといて欲しい事があるんだけど」

 

「ん?宮ちゃんに伝えたい事?」

 

「ああ、拓斗に会ったら------------------」

 

 

そんなやり取りが終わった後、

貴さん達が出発したのと入れ違いの形で、西のグループが到着し、オレ達はバンド毎に固まって座っている。

 

「私も一緒に探しに行くって言ったのに何で…(ブツブツ」

 

「私はどうするかもう決めていると言ってるのに何で連れて行ってくれないのよ…(ブツブツ」

 

そしてさっきから渚さんと理奈さんが何かブツブツ言いながら怒っていて怖い。

隣に座っている雨宮と香菜さんも怯えている。

 

「今日はせっかくの南国DEギグだってのに悪いな。みんな集まってくれてありがとう。

まぁ、タカと盛夏と達也は居ないけどな」

 

英治さんがみんなに声を掛けた。

 

オレ達Ailes Flammeは

ボーカルの渉、ギターのオレ、ベースの拓実、ドラムのエンジェル……おっと、あまりにも眩しいので天使と錯覚してしまった。

ドラムのシフォンと全員揃っている。

 

Blaze Futureはベースの盛夏さんが行方知れず。それをボーカルの貴さんが探しに行っているから、ギターの奈緒さんとドラムのまどかさんだけだ。

 

Canoro Feliceからはボーカルの一瀬さん、ギターの結衣さん、ベースの秋月さんにドラムの松岡。…………と、秋月さんの隣に座ってるのはセバスちゃん?こういう場にセバスちゃんが居るなんて珍しいな。

 

Divalはボーカルの渚さん、ギターの雨宮、ベースの理奈さん、ドラムの香菜さんで座っている。Divalもフルメンバーって感じだな。

 

evokeのメンバーはボーカルの奏さんとギターの折原さん。

何で奏さんは鉄アレイを持ちながら筋トレしているんだ?

 

ドラムの北条さんとボーカルの大西さんの所はまだバンド名は決まってないんだったな。

…………って、あの二人と一緒に居るお姉さんは誰なんだ!?いや、ほんと誰!?

 

「あのねーちゃんの名前は木南 真希さんって言ってな。なんか綾乃ねーちゃんのバンドでギターやるらしいぞ?にーちゃんとねーちゃんの会社の人らしいぜ?」

 

渉…。その情報はありがたいがナチュラルにオレの心を読むのはやめてくれ…。

 

コホン

 

そしてFABULOUS PERFUMEからはベースのナギである茅野先輩とドラムのイオリである小松。

二人とも正体は秘密って事らしいが、ここにいるほとんどの人はもう知ってるんだよな…。てか、二人とももう隠そうともしてないし…。

 

gamutのメンバーはベースボーカルの佐倉さんとキーボードの藤川さん。

そういや二人共オレ達と同い年なんだよな。

 

これだけいるバンドメンバーに、英治さんと初音ちゃん。

 

今この部屋にはこれだけの人がいる。

トシキさんの別荘って広いんだな…。

 

「まずどこから話せばいいのか…。本当はタカに任せるつもりだったから俺ん中ではちゃんとまとまってないんだけどな」

 

そう言って英治さんは、

北のグループのinterludeとの話、

西のグループの雨宮の親父さんとの話、

南のグループの拓斗さんとの話をし、

それから本題の話が始まった。

 

「今回のこの南国DEギグの旅行なんだが、実は反クリムゾングループのSCARLETに仕組まれた事だった。HONEY TIMBREからの招待じゃなかったみたいだ。あはははは」

 

ザワッ

 

「SCARLETって俺達を助けてくれた?」「え?どういう事?」「反クリムゾングループ?」「 SCARLETって聞いた事ありますわね」「ハッ。秋月グループが出資している組織でございます」

 

SCARLETの名前を聞いてみんながざわめきだした。

渉達を助けてくれたSCARLETが俺達を招待した…?

 

「それというのも俺のライブハウス『ファントム』はクリムゾングループに目を付けられているらしくてな。そこでライブをやってくれているみんなはクリムゾングループに狙われているらしい」

 

みんな何も言わなかった。

それもそうだろう。クリムゾングループに狙われる。

 

それは楽しい音楽、自由な音楽をやっていればいつかはぶち当たる壁だから。

まだオレ達のレベルや認知度で狙われるのは早い気もするが、アルテミスの矢として戦っていた英治さんのライブハウスだ。

クリムゾングループには気になるバンドなんだろう。

 

「そこでSCARLETが持ち掛けてきたのが、ライブハウス『ファントム』で音楽事務所を設立し、ファントムでライブをしてくれるみんなを俺の事務所に迎え、クリムゾングループと戦おうという提案だ」

 

ザワッ…

 

「音楽事務所!?」「クリムゾンと戦う!?」「え?これってデビュー出来るチャンス?」「どういう事かわかんないんだけど…」「戦うってどういうつもり?」

 

驚いた…。メジャーデビューとかそういう事は考えた事がない訳じゃないけど…。

でもそれでオレ達はどうなるんだ?

ライブだってevokeの前座しかさせてもらった事がないのに…。

 

「まぁ、クリムゾングループと戦うと言っても俺ももちろんみんな何もしなくていい。クリムゾングループに邪魔をされたり挑まれたりしたら戦わずにいられないのは音楽やってりゃ一緒だしな。

ようはクリムゾングループに俺達のバックにはSCARLETがいる。と牽制する為の案だ。その方がみんなもバンド活動をやりやすいだろ」

 

確かにそんな組織がバックについているならクリムゾンもそう簡単には俺達に手を出せなくなるか…。

 

「正直俺も悩んでる。タカも悩んでるみたいだしな。でも、もしそれが自由な音楽をやりたいと思ってるみんなを守る力になるなら…。俺はやってみてもいいと思った。だからみんなファントムに所属するバンドになるかどうか考えて答えを聞かせて欲しい。もちろんメジャーデビューする必要はないぞ。インディーズって形でも構わない。以上だ」

 

以上だ。って…。

そんなの急に決めれる訳ないじゃ…。

 

いや、少なくともinterludeは既にオレ達Ailes Flammeを意識しているだろう。

雨宮の親父さんが拓実の事を知っていたとなると他のクリムゾンのバンドにも知られている可能性もある。

オレ達はSCARLETに所属した方がいいのか…?

 

「お父さんのアホ!」

 

ん?初音ちゃん?

 

「初音。父親に向かってアホとは何だ。泣いちゃうぞ?わかってんのか?」

 

「今の説明じゃみんなわからない。混乱するだけだよ。そもそもそれに寄ってどうなるとかこうなるとかの説明もないじゃん!」

 

「初音。お父さんもう涙目だ。だってこういうの俺苦手なんだもん」

 

「じゃあ私から説明する。なんかおかしいとかお父さんやタカの意図してない事を言ってたら訂正して」

 

「御意」

 

初音ちゃんは本当にしっかりしてるなぁ…。

 

「私が聞いた話じゃないし、ところどころ間違いもあるとは思いますが、ファントム代表として私が説明させて頂きます」

 

「待て初音。代表は俺だ」

 

「まずSCARLETに関してですが…」

 

初音ちゃんは英治さんの言葉を無視して話を進めた。

 

「SCARLETの事に関しては私もよくわかっていませんでした。反クリムゾングループという名前だけで、クリムゾングループとどういう関係なのか、どのように戦っているのか。

ただ北のグループのみなさんのお話ではSCARLETの人が、Ailes Flammeとinterludeの間に入ってくれて、interludeはSCARLETとのデュエルを避ける為に退散したと聞いています」

 

「なるほど」「春太そうなのか?」「うん、SCARLETと揉めるわけには…みたいな感じだった」「SCARLETって何なんだろう?」

 

「そこで私は色々とSCARLETの事を調べてみました。どんな組織なのか…。クリムゾンとの関係…。そして…金にな…私達にどんなメリットがあるのか」

 

今、初音ちゃん金になるのかとか言おうとしてなかったか?

 

「まずSCARLETの行っている活動についてですが、表向きはライブハウスやコンサート会場への派遣事業、ゲーム開発、開発したゲームのグッズ作成等を行っているそうです。どうやら『バンドやりまっしょい』ってゲームはSCARLETが開発しているゲームだそうです」

 

「表向き?」「え!?バンやり!?」「奈緒、ちょっとバンやり起動してみて」「あ、はい。………M&Sソフトって書いてま……あ!クレジットの所にちっちゃくSCARLETって書いてます!」「ま、まじなのか…」

 

「そんな会社が何故?と思われるかも知れません。そもそもクリムゾンと関係ないじゃん。と思っている人もいると思います」

 

確かに…それだけじゃクリムゾンが撤退するような感じはないよな…。

 

「そこで私はネットの掲示板で気になる書き込みを見つけました。

『反クリムゾングループSCARLETについて語ろうぜ』ってスレの書き込みですが…」

 

いやそのまんま過ぎるだろ!?

 

「見て下さい。……お父さん、プロジェクターをオンにして」

 

「はい。わかりました」

 

そして巨大なスクリーンが天井からおりてきて、どこから出したのか初音ちゃんがノートパソコンを取り出し画面をスクリーンに映した。

初音ちゃんがしっかりしているというか何というのか…。それにも驚いてはいるんだがトシキさんの別荘本当にすごいな!

 

「ある人はこんな書き込みをしています。『今日のクリムゾンとのデュエルやばかったけどSCARLETのバンドマンに助けてもろたwww』とか、『SCARLETとクリムゾンのデュエル初めて見た!』とか、『SCARLETってマジなにもんなん?何でクリムゾンと戦ってるん?教えてエロい人』とか『あ~、SCARLETが本気を出してクリムゾンを潰してくれたらいいのにな~』とかとか」

 

「あの、質問があるのだけれどいいかしら?」

 

「理奈さん。何でしょう?」

 

「そのSCARLETのバンドマンに助けてもらったって人の書き込みなのだけれど、wwwって何なのかしら?」

 

そこ!?理奈さんそこが気になるんですか!?

 

「このwというのは(笑)のようなもので、笑いと文字を打つときにwが1文字目なのでwとだけ打って略してるんです。

他の使い方としてはwwwっていう風にwが並んでいると草が生えてるみたいに見える事から『草生えた』って使い方もあります。まぁ、諸説はあるかも知れませんが」

 

「なるほど。ありがとう、よくわかったわ。そういう事だったのね…」

 

って初音ちゃんもちゃんと質問に答えるんだな!偉いな初音ちゃん!

 

それよりメタな事言うと理奈さんってもしかしてDival編第2章からずっとwの事気になってたんですか!?

デュエルギグ野盗の事は調べたりしてたのに!?

 

「このSCARLETのスレは現在part8までありますが、ざっくり見た感じではSCARLETのバンドはクリムゾンとデュエルギグをして負けそうなバンドに加勢しているようです。そしてクリムゾン主催のライブやイベントに乗り込んだりしている訳ではないようです。

そこだけで判断するわけにはいけないとは思いますが、SCARLETはクリムゾンと敵対している。かといってクリムゾンに戦いを仕掛けているわけではない。そう見て取れます」

 

「そう言えばあのお姉さんもそんな感じだったよね」「ああ、interludeが退散したら何もしなかったしな」「これって晴香さんに聞いた貴達と同じ感じじゃない?」「Artemisの矢か…」

 

「そこで!私は考えました!」

 

初音ちゃんが大きな声を出してみんな静かになった。

 

「私はファントムとしてSCARLETのグループ会社として…ファントムを音楽事務所にしようと思います!ですが!!」

 

みんな初音ちゃんの言葉に耳を澄ましている。

 

「これからもファントムは昼にはカフェを、夜にはライブハウスと変わらず営業します。そしてもちろんファントムに関係のないバンドがうちでライブをやりたいと言ってくれれば、これまでと変わらずうちでライブをやってもらいたいと思ってます。ライブスタッフはSCARLETから派遣されたスタッフさんにお願いしたりするかも知れませんが…えへへ」

 

「あの…初音?それ俺と貴とトシキで考えた事だけど…?」

 

「みなさん。ファントムが音楽事務所になるからといってそこに所属する必要はありません。他の事務所に所属しても変わらずうちを使って頂いても構いません。だから重くは考えないで下さい。

まずはここまでで質問はありますか?」

 

「所属する必要はないって言っても…」「実際にはクリムゾンには狙われてるわけだよね?」「メジャーデビュー?」「でも英治さんはデビューしなくてもいいって…」

 

「あ、後言い忘れてました。これは貴と私で思った事なのですが、クリムゾンが私達ファントムにデュエルを挑んで来ても、SCARLETは助けてくれる訳ではないと思います」

 

「え?初音?それどういう事だ?俺はそれ聞いてないけど?」

 

「ここまでの話ではSCARLETに対するメリットがありません。SCARLETのスタッフを使う事での広告塔。そこの役立たずのおじさんにはそう言ったみたいですが、それはあまりメリットではないと思ってます」

 

「役立たずのおじさんって俺の事か?そうなんだな初音…」

 

「SCARLETの思惑としては私達がクリムゾンを打ち倒す事。私達がSCARLETに所属すれば余計に私達はクリムゾンにとっての脅威になると思うんです」

 

「あ、なるほどな。そう言われたらそうだな」

 

「私達のバックにはSCARLETがいるから下手に手出しは出来ないという後楯も出来ますが、今以上に名を知られて狙われる事になる。そう思ってます。

クリムゾンとのデュエルは負けたら終わりのデュエルですから…私達は勝たないといけない。そして私達が勝てばクリムゾンのバンドは減る。

SCARLETにはバンドが1組しかいないから私達を戦力にしたい。SCARLETの狙いにはそこにもあると思ってます」

 

「…負けたらお互い終わりだもんね」「もし俺達がクリムゾンに負けたらネオAiles Flammeでバンドやろうぜ」「渉は本当に貴さんに似てるね」「クリムゾンに脅威に思われればクリムゾンのトップアーティストに狙われるかもな」「奏。俺達のレベルアップにはありがてぇ話だな」

 

「みなさん静かに!思う所もあると思います。質問は受け付けますのでひとりひとり聞いてきて下さい」

 

初音ちゃん本当にオレ達より年下なのか?

 

「あの…いいですか?」

 

「はい!双葉お姉ちゃん!」

 

「もし…私達が…あ、私じゃないけど…、FABULOUS PERFUMEがクリムゾンのミュージシャンに負けた場合…私達はどうなりますか?あ、心がどうとかじゃなくてファントムとして…って事です」

 

「うん。ファントム的には何も問題ないと思ってます」

 

「問題…ない?」

 

「これも私とタカで話してた事ですが、もしファントムのバンドがクリムゾン関係なく、仕事や学校、プライベートな事情でもなんでもバンドを解散する。音楽を辞めるって事になっても出来るだけではありますがバンドの意思を尊重しようと思ってます。

逆にクリムゾンに負けてもバンドを続けたい。音楽をやりたいと思ってるならファントムのみんなで助け合えばいいと思ってます」

 

「でもそれじゃクリムゾンは…」

 

「クリムゾンとか関係ないですよ。本人の気持ちが大事です。万一それでSCARLETがそのバンドに辞めさせろとかいうなら……私はSCARLETととも戦います。ですから負けた場合なんか気にせず楽しんでバンドをやって下さい(ニコッ」

 

「初音ちゃん…うん、わかったよ」

 

「あの…」

 

「はい!一瀬さん!」

 

「ファントムに所属したら……プロに…メジャーデビュー出来るって事ですか…?

も、もちろんインディーズでも全然いいんですが、そのチャンスはあるのかな?と…」

 

「そこもこの後にお話しするつもりでしたが、先に言っておきますね。

メジャーデビューは約束します」

 

「え?初音?マジ?お父さんお前が違う人みたいで心配なんだけど?」

 

「もちろんすぐにって訳ではないですし、SCARLETにこれからネゴシエーションも必要とは思ってますが、メジャーデビューをする事については約束します。

ですが給料とかCDを出したいとかライブをやりたいとか…その辺りは各バンドの頑張り次第だと思ってます。

ビジネスのお話にもなりますし、出来るだけしたくはないですが、売れなければ嫌な仕事もしないといけない事もあるかもですし。

音楽イコールビジネスとは思ってませんしそういうのは私も嫌いですけどね。

理奈さんなら…少しわかってくれるんじゃないかな?」

 

「ええ、そうね。プロならプロとしての仕事もある…。

でも初音ちゃんが…ファントムの代表が音楽イコールビジネスと思っていないと聞けて安心したわ」

 

「理奈?音楽イコールビジネスとは俺も思ってないけどな?ファントムの代表は俺だからな?初音じゃないから」

 

「わかりました。ありがとうございます」

 

「他に質問はありませんか?」

 

オレは今のところは大丈夫かな。

あ、待てよ…。オレ達は…。

 

「は、はい」

 

「亮さん…。いくらでも質問して下さい!」

 

え?いや、ひとつしかないけど…。

 

「オレ達Ailes Flammeはまだ高校生です。他にも学生のいるバンドも多いと思いますがプロに…メジャーデビューしたとして学校とかどうしたらいいすか?」

 

「さすが亮さん。いい質問ですね♪」

 

え?そうかな?

 

「そこも考えている所ではありますが、学生と仕事は両立出来るようにしたいと思ってます。ですから亮さんが大学に進んでも……拓実さんがパティシエになって店を構えてもそこは当人のやりやすいようにしたいと思ってます。

もちろんそこはお給料に響くとは思いますけどね」

 

拓実の夢の事まで…。

だったらオレ達Ailes Flammeにはありがたい話か…?

 

「ファントムはSCARLETのグループになっても、みなさんはSCARLETじゃなくてファントムの所属です。そこはちゃんとSCARLETとも約束しますので安心して下さい。他には何かありますか?」

 

みんな何も言わず静かにしている。

 

「他に質問はないようですので次にいきますね」

 

続きもちゃんと聞かないとな。

これからのオレ達の事だし…。

 

「次にSCARLETに…いえ、ファントムに所属した場合の規約なんですが…」

 

「規約!?」「どんな規約だろう?」「でもこういうのがあるなら聞いておきたいよね」「初音ちゃんってしっかりしてるね」

 

「まず1つ目ですが、今後ファントムのバンドマンのグッズはSCARLETで製作してもらいます。もちろん製作をSCARLETで。という事ですので、今まで変わらずグッズの収益やどんなグッズを展開するかは今までと変わらずで大丈夫です。

って言ってもこれに関係あるのは今はevokeとFABULOUS PERFUMEだけですかね」

 

「グッズに関しては私達も大丈夫かな?」「いつも違う所に発注してるもんね」「奏。うちは問題あるか?」「いや、問題ないと思う」

 

「そして2つ目ですが、SCARLETのイベントにも参加してもらう事もあると思います。そこももちろんバンドの気持ちも尊重したいとは思いますが、一瀬さんの質問の時も言いましたように、プロとしての仕事と割り切ってやってもらう事もあると思います」

 

「仕事としてか…」「どんな事やらされるんだろう?」「俺はあんまり人前に出るのはな」「正直この事に関しては複雑な気持ちだわ」「あ~、理奈はcharm symphonyの事あるもんね」

 

「規約としては以上です。

他にも細々とした事もあるとは思いますが、道徳的な事はみなさんもわかってらっしゃると思いますし、まだ私達がSCARLETと話し合って決まる事もあるとは思います。

その点はまた決まり次第改めてお話させて頂きます。ここまでで質問はございますか?」

 

「はい!」

 

「はい!ユイユイさん!」

 

「イベントってどんな事をやるのかな?」

 

「はい、そこはまだ正式に決まってませんが、多分CD発売時にリリースイベントとか、バンドマンによるトークショーとかそんなのじゃないかな?って思ってます。後、インターネットTVとかもやりたいって言ってました」

 

「リリースイベントか…」「理奈はリリイベとかやった事あんの?」「一応あるわよ」「インターネットTVとか私やってみたいかなぁ?」「トークショーとか俺は自信ないな」

 

「このあたりも正式に決まってからのお話になると思いますし、バンドの方向性とかもあると思います。他に質問はありますか?」

 

「はーい!」

 

「ゆ……シフォンさんどうぞ!」

 

「ボク達はまだライブした事もないしグッズとか全然考えてないけど、ライブするならグッズを作らないといけないとかあるのかな?」

 

「それはいいと思いますよ。グッズもタダってわけじゃないし、15年前に解散したどっかのバンドみたいにグッズが余りまくっても大変だろうし」

 

「初音。そのどっかのバンドって俺達の事か?」

 

「他にありますか?」

 

「初音?だからそれってBREEZEの事言ってんだよな?」

 

「では。最後のお話をさせて頂きたいと思います。これはすごく大事な事です」

 

大事な事?規約とかよりも大事な事なのか?

 

「これまではSCARLETの事をお話させて頂きましたが、クリムゾンについてお話させて頂きます」

 

クリムゾンの事…?

確かにクリムゾンも謎だらけではある。

 

「まずみなさんも知っているように皇紅蓮の率いるクリムゾンミュージック。

XENON(ゼノン)を筆頭にパーフェクトスコアを歌えるミュージシャンが揃っています。私達ファントムだけじゃなく、全世界の自由な音楽を歌うミュージシャンの脅威です。

ですが、私達ファントムの最大の脅威はクリムゾンミュージックではありません」

 

「クリムゾンミュージックじゃない?」「どういう事?」「しっ、静かに。みんな初音の話を聞こう」「ゴクリ」

 

「私達の最大の脅威はクリムゾングループの会社…音楽事務所なのかな?

クリムゾンエンターテイメントが私達の最大の脅威。これからはクリムゾンエンターテイメントとの戦いになると思います」

 

「クリムゾンエンターテイメント?」「お父さんの事務所か…」「クリムゾングループ全体が敵じゃないの?」「どういう事だろう?」

 

「この中にも知っている人はいると思いますが、Blaze Futureのタカは15年前にBREEZEというバンドをしていました。

その時にメジャーデビューを夢見たArtemisというガールズバンドと出会います。

そのArtemisがクリムゾンエンターテイメントに狙われ、解散するかクリムゾンエンターテイメントに所属するかという状況になりました。

そこでBREEZEを筆頭に『アルテミスの矢』というグループを作り、Artemisを守る為にアルテミスの矢とクリムゾンエンターテイメントの戦いが始りました」

 

「Artemisが…?」「これは聞いた事あるよね」「アルテミスの矢ってそういうグループだったんだ…」「結弦は聞いた事あるか?」「知らねぇ」

 

「そしてそのクリムゾンエンターテイメントはパーフェクトスコアを凌駕するスコア。アルティメットスコアを作ろうとしています。理由は15年前に直接戦ったBREEZEにもわからなかったそうです」

 

「アルティメットスコア?」「パーフェクトスコアよりすごいの?」「そんなスコア存在するのか?」「私はパーフェクトスコアよりまっちゃんの作る曲が好きだよ!」「あ、ありがとうな…」「それより初音は何でこんな詳しいんだ?パパ心配なんだけど?」

 

そして初音ちゃんはクリムゾンエンターテイメントの事を説明してくれた。

 

アルティメットスコアを作ろうとしたクリムゾンエンターテイメントの創始者である海原 神人。

アルティメットスコアを研究していた九頭竜 霧斗。

最強のバンド軍団を作ろうとした二胴 政英。

クリムゾンに負けたミュージシャンを救済していた手塚 智史。

クリムゾンの名前を利用し、デュエルギグによる争いの世界を作ろうとした足立 秀貴。

 

15年前、アルテミスの矢は手塚の力を借りて足立を倒し、海原を海外に退ける事が出来た。

 

手塚は今はSCARLETとしてクリムゾンと戦っている。オレ達がSCARLETに属すれば味方となるだろう。

 

そしてクリムゾンエンターテイメントに力を蓄えていた九頭竜と二胴。

日本に帰ってくる海原と、暗躍していると噂のある足立。

それが…オレ達の敵…。

 

雨宮の親父さんのバンド。それにinterludeもクリムゾンエンターテイメントのバンドマンのようだ。

もちろん他にもすごいバンドマンはたくさん居るんだろうが…。

 

「私達はそんな戦いをしなくちゃいけないと思います。出来ればそんな戦いはしたくないと思ってますが…。だから…。みなさんもその事をよく考えてこれからをどうしたいか決めて下さい。

私からのお話は以上です」

 

「はい。質問」

 

「え?まどかお姉ちゃん?」

 

「何?あたしが質問したらいけない?」

 

「い、いえ……どうぞ…」

 

「クリムゾンとは戦いたくない。関わり合いたくない。そんなバンドはファントムではどうなりますか?」

 

「え?……私はいいと思います」

 

「いいんだ?じゃああたし達がクリムゾンにデュエルを挑まれても逃げてもいいんだね」

 

「まどかお姉ちゃんは…戦いたくないの?

それならそれでいいと私は思う。さっきも言ったけど私も出来れば戦いなんて避けたいし…。でもBlaze Futureはタカが…」

 

「タカは関係ないよね」

 

「関係ないって…」

 

「みんながクリムゾンと戦ってる中でも、あたしは怖いからクリムゾンと戦いたくない。だからクリムゾンから逃げる。でもファントムではライブをやりたい。それでもいいって事?」

 

「ちょ、まどか先輩…!」

 

ザワッ

 

まどかさん?どうしたんだ?

全然まどかさんらしくない。

みんなもざわつきだしている。

 

「まぁ、例えばここに居るBlaze Futureはあたしと奈緒だけ。タカや盛夏が戦うと決めても、あたしと奈緒は戦いたくないと言えばそれまでだし、それはあたし達バンドの問題。

初音の言う通りあたし達が考えて決めるべきだと思う」

 

「お、おいまどか」

 

「英治は関係ない。黙ってて」

 

「関係ないって…ファントムの代表は俺なんだけど…」

 

「初音。それもいいこれもいい。だから皆さん考えて決めて下さい。ずっとそれだけじゃん」

 

「そ、それのどこがいけないの…?

ファントムの音楽事務所に入って戦うのはバンドのみんなだもん…」

 

「戦うのはあたし達バンドだけじゃないでしょ。ライブハウスのスタッフ、音楽事務所としてのファントムのみんな。

初音、あんたも戦う事になるんじゃん」

 

「そんなのわかってるよ…だからみんなに…」

 

「あたしが聞きたいのは初音の気持ち。

あたし達がどうこうの前に、初音はどうしたいのか。初音はあたし達にどうしてほしいのか。あたしはそれを聞かせてほしい」

 

ザワザワ…

 

「私の…気持ち…?」

 

まどかさん…。

そうか。そうですよね。

初音ちゃんはさっきからオレ達にファントムに所属するかしないのか。

それをオレ達で決めてくれと言っていた。

 

だけど、初音ちゃんはファントムとしてクリムゾンと戦うと言っているのに、オレ達にどうしてほしいかは言っていない。

もしオレ達がファントムに所属しない。クリムゾンとは戦いたくないって決めたら…初音ちゃんは…。

 

「言って…いいの?私がどうしたいのか…どうしてほしいのか…きっと迷惑になるよ?」

 

「あたしがそれを質問してんの。だから言っていいの」

 

「私は……大変な事とか…忙しい日もいっぱいあったけど、ファントムでの毎日が大好き。タカやまどかお姉ちゃんもバンドやりだしてから、いっぱい来てくれるようになって、遊ちゃんや志保…もいっぱい遊びに来てくれるようになって…」

 

みんな初音ちゃんの気持ちをしっかりと聞いている。

 

「Ailes Flammeの音楽はすごく元気になって、私も頑張ろうって気持ちになれて…」

 

初音ちゃんはオレ達の方を見てそう言ってくれた。

 

「Blaze Futureはかっこよくて、楽しい気持ちになれて熱くなってつい暴れちゃて…。

Canoro Feliceはキラキラしてて、明るい気持ちになって気付いたら笑顔になってて…。DivalはBlaze Futureとは違うかっこよさがあって、楽しいとか元気とかを分けてもらってる感じあってドキドキして…」

 

初音ちゃんはそれぞれのバンドを見て、ゆっくりと話していた。

 

「evokeもすごく暴れたくなる熱さがあって叫びたくなるかっこいい音楽で、FABULOUS PERFUMEは演奏の1つ1つに美しさとか凄みとかがあって、ドキドキして感動して泣きそうになったりもあって…。綾乃お姉ちゃん達やgamutのライブはまだ見た事ないけど、今からすごく楽しみにしてて…」

 

初音ちゃん…。

 

「私は…みんなの音楽が大好き。そして、みんなといる毎日が大好き。

だから…私は…」

 

初音ちゃんは言葉を詰まらせていた。

 

「私…は…」

 

「初音ちゃん!言っていいよ!ボクも初音ちゃんの気持ちを聞きたい!」

 

シフォンが声をあげて立ち上がった。

 

「初音!あたしも!あたしも初音の気持ちを聞きたい。迷惑とかないよ」

 

続くように雨宮も立ち上がった。

 

「俺も!」「私も!」「初音ちゃん言って!」「みんな初音ちゃんの言葉を待ってるよ」「僕も!」「初音様お聞かせ下さい」

 

みんな立ち上がって初音ちゃんの言葉を待った。もちろんオレも。

 

「みんな…私…私は…。

みんなと一緒がいい。みんなと一緒にファントムで頑張りたい。

みんなに…ファントムに入ってほしい…。

いつも通りの毎日をみんなと一緒に…」

 

ワァァァァァ!!!!

 

「もちろん!」「当然ね」「一緒に戦うぞー!」「俺達はファントムだ」「みんなずっと一緒だよ」「頑張ろうな!」「これからもよろしくね」「バンドやろうぜ!」

 

みんな歓声を上げた。

そしてみんな…本当にちゃんと考えてんのかな?ハハハ…楽しいな。ファントムは。

 

 

その後、冷静になった初音ちゃんはこう言った。

 

「あ、でも今のは私の気持ちですから、バンドのみなさんもちゃんと話し合って決めて下さいね!まだ正式な契約とかではありませんので!」

 

本当にしっかりしてるな。初音ちゃんは…。

 

「あ、それとクリムゾンとのデュエルはエンカウンターデュエルになると思います。

エンカウンターデュエルにはチューナーと呼ばれる存在が必要になります。

チューナー探しもSCARLETは協力してくれるそうですが…Blaze Futureのチューナーは私がやるからね。よろしくね。まどかお姉ちゃん、奈緒さん♪」

 

 

 

そしてトシキさんと晴香さん、東山先生と三咲さんが戻って来て、オレ達は南国DEギグの会場へと戻った。

 

貴さんからはグループLINEで

『盛夏はバッチリ見つけたから心配すんな。ただ一度そっち戻ったら南国DEギグに間に合いそうにねぇから直接会場向かうわ』

との事だった。

 

盛夏さんも無事に見つかったみたいで良かったぜ。

 

 

 

 

 

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「ねぇ美緒。私達もさっきついファントムに入るって言っちゃったけど良かったかな?」

 

「ん、別に問題ないでしょ。それに私自身ファントムでやりたいと思ったのは本当だし」

 

「それは私もそうだけどさ?ファントムのみんな楽しいし」

 

「じゃあいいんじゃない?」

 

「だけど神原先生に怒られないかな?」

 

「SCARLETとクリムゾンの事?」

 

「うん…私達って前からクリムゾングループのバンドとはデュエルする事もあったしそれは問題ないと思うけど…」

 

「SCARLETの事も大丈夫じゃない?先生も好きにしたらいいって言ってたじゃん」

 

「でも…まぁ美緒はDivalもBlaze Futureもファントムに入ったら理奈さんも奈緒さんも一緒だからそっちの方がいいかも知れないけど…」

 

「うん、まぁね」

 

「あれ?反応薄いね?いつもならもっと喜びそうなのに」

 

「え?そんな事ないよ?嬉しいし喜んでるし」

 

「ハッハ~ン。この麻衣さんには全てわかりました。ズバリ!理奈さんや奈緒さんとやれるより葉川さんと一緒の方が嬉しいんだね?」

 

「は!はぁ!?麻衣何言ってんの!?そんな事ないし!お兄さんは義理の兄になる予定のただのラーメン仲間だし!」

 

「義理の兄ねぇ?こないだ私達で練習後に何か食べに行こうってなった時、たまには美緒のラーメン付き合うって言ったのに、お兄さんとラーメン食べに行く約束してるからごめんって先に帰っちゃうし~?」

 

「だ、だからあの日は先にお兄さんと約束してたからだし!私がお兄さんとの約束破ってお姉ちゃんのポイントが下がったら困るし!」

 

「私達も一緒に連れて行っても良かったんじゃない?ファントムギグの話とかもあるしみんな顔見知りではあったし」

 

「だからってみんなでいきなり行ったらお兄さんも驚いちゃうでしょ」

 

「それにそのベースケースに大事そうに付けてるマスコット。葉川さんに取ってもらったやつじゃん?」

 

「はぁ!?な、何でその事知ってんの!?こ、これはせっかく取ってもらったから付けないのはお兄さんに失礼かな?って思って…」

 

「ありゃ?本当に葉川さんに取ってもらったやつなんだ?」

 

「え?」

 

「ふんふん。そっかそっかぁ~。これは美緒の初恋かにゃ?」

 

「ま…麻衣…本気で怒るよ…?」

 

「あははは。美緒カッワイ~」

 

「そんなんじゃないから…本当に…もう…」

 

「あ、待ってよ。美緒」

 

 

 

 

 

「ど…どうしよう…聞いてしまった…。

ファントムの事、頑張ろうねって声を掛けに来ただけだったのに…。

………gamutってSCARLETの事も知っているみたいでしたけど何か関係があるのかな?

いえ、それよりも……。

貴って何であんなにモテるんですか?

渚といい理奈といい…。何か黒い陰謀?

……

………

それにしても…

美緒の初恋かぁ~……。

美緒……。何で?

何で寄りによって貴なの…?

お姉ちゃん…どうしたらいいの?」


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