バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第16話 南国DEギグ

「あ、そういや澄香。お前何で正体隠してたんだ?姫咲が気にしてたじゃねーか」

 

「ああ、それでございますか。姫咲お嬢様にもそろそろ私の事話そうと思ってるんやけどね。

クリムゾンとの事もございますしな」

 

「喋り方混じってるよ?それ何とかならない?」

 

「英治ちゃ~ん。本当に何を食べてもいいの~?」

 

「お、おう。もちろんいいぞ。その代わりタカの手術の事俺が話したってのは内緒な(ボソッ」

 

「焼きそばと~たこ焼きと~リンゴ飴と~…」

 

「宮ちゃんは大丈夫かな?」

 

「ああ、きっと大丈夫だろ」

 

「ああ、腐っても俺らの仲間だった野郎だからな。……架純ちゃんのサイン貰ってくれねぇかな」

 

 

 

<<<ドカーン>>>

 

 

 

「「「「「は?」」」」」

 

「会場が…爆発…?何で!?」

 

「お、お嬢様!!!」

 

「奈緒!!」

 

「お~。貴ちゃんは最初に奈緒の名前を出して走って行ったか~」

 

「何がどうなってんだ…三咲…初音…!」

 

 

 

 

 

-それから少し前の時間

 

 

 

 

「まどか先輩!最高でしたね!」

 

「いやー、ほんとほんと!めっちゃ暴れられたわー」

 

あたしの名前は柚木 まどか。

今日あたし達は日本でも大きなフェスイベントの1つ。南国DEギグに来ている。

 

ちょうど今、3組目のバンドの演奏が終わり、4組目のバンド出演を待っていた。

 

「あ、次みたいですよ。HONEY TIMBRE」

 

HONEY TIMBRE。

あたしはよく知らないバンドだけど、タカ達がBREEZEをやっていた時代のバンド仲間らしい。

 

「貴と盛夏は間に合いましたかね?

二人ともHONEY TIMBREを楽しみにしてましたのに」

 

「きっと間に合ってるよ。

もし間に合ってなかったら、あたしらがしっかり見てレポしてあげりゃいいよ」

 

「そうですね。しっかり見て教えてあげたらいいですよね」

 

「お、そろそろ出てくるみたいだよ」

 

「はい!楽しみです!」

 

 

HONEY TIMBREの演奏は凄かった。

すごく深みのある音。

そしてブランクを感じさせないパフォーマンス。

これが…15年前に活躍していたバンドの演奏…。

 

「凄かったですね…。HONEY TIMBRE…」

 

「うん…あたしも圧倒されちゃったよ…」

 

「私、ライブがしたくなってきました」

 

「うん…そうだね。あたしも今思いっきりライブをやりたい」

 

<<ざわざわ>>

 

ん?なんか会場がざわついてる?

 

「あれ?どうしちゃったんでしょう?

HONEY TIMBREのみなさん退場しないですよ?」

 

「ほんとだ。どうしたんだろ?機材トラブルかな?」

 

ステージ上のHONEY TIMBREのメンバーもおろおろしている。

本当ならステージのライトが消えて、HONEY TIMBREが退場し、その後次のバンドが出て来てステージがライトに照らされる。

 

そういう演出のはずなのに…。

まぁ、まだお昼だから明るいんだけど…。

 

「ライトが消えなくなっちゃったんですかね?」

 

「本当にどうしたんだろ?」

 

あたし達がそう思っている時だった。

 

♪~

 

この曲…何で?

 

「この曲って…クリムゾンの曲…」

 

<<ざわざわ>>

 

何で南国DEギグでクリムゾンの曲が?南国DEギグはクリムゾンは介入出来ないはず…。

 

それよりまだステージにはHONEY TIMBREが…。

 

そしてステージの袖からスモークが焚かれ、ステージ全体がスモークに覆われた時、数人の人影がステージに上がったのが見えた。

 

その間も会場内に鳴り響くクリムゾンの曲。

 

今朝の英治と初音からの話を思い出して冷静に考えると、恐らくクリムゾンはこの南国DEギグに介入しに来たんだろう。

その為の志保のお父さんとinterludeだったんだろうね。

 

すごく……嫌な予感がする。

 

「あ、スモークがはれてきましたよ」

 

スモークがはれたステージ。

そこに立っていたのはinterludeの4人だった。

 

 

 

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「あちゃ~…間に合わなかったか…」

 

「しょうがないよ。まさかこんな堂々と出てくるなんて予想してなかった」

 

「二胴さんの独断なのか海原さんの指示なのか…」

 

「そんなのどっちでもいい。あたし達は帰って九頭竜に報告するだけ」

 

「美来…せめて上司なんだから九頭竜さんって呼ぼうな?」

 

「これから…始まる。クリムゾンの……いえ、あたし達の戦いが…」

 

「ほら美来~。そんな所でかっこつけてないで帰るよ~」

 

 

 

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interlude…何でこんな所に…。

 

「南国DEギグに来ているお前ら!!

よく見ろ!!ワイらがクリムゾンのロックバンドinterludeじぁぁぁぁぁ!!」

 

「interlude!?interludeってまどか先輩達が昨日会ったっていうクリムゾンのバンドですか!?」

 

「うん…やっぱりクリムゾンはこの南国DEギグに…」

 

「よっしゃいくで!『破壊者』!!」

 

そしてinterludeのメンバーは演奏を始めた。昨日はボーカルとドラムだけの演奏だったけど…ギターとベースが加わった事で昨日とは全然違って聴こえた。

音に凄味が…すごく攻撃的なロックサウンド…。

 

もし…昨日のデュエルがフルメンバー同士でのデュエルだったら…。

きっとあたし達は…。

 

 

「これがクリムゾンの音楽!!ワイらがナンバーワンじゃ!!」

 

<<キャー!ワー!>>

 

interludeの曲が終わった時、会場中はinterludeの曲に呑まれ大きな盛り上がりをみせていた。

 

「どうでしたか?マイハニーまどか」

 

は?

 

interludeのギターの金髪。

確か青木 リュートとかいったっけ?

そいつがあたし達の近くのステージ上から話かけてきた。

 

「え?ふぇ?まどか先輩?」

 

「ワタシの今の演奏はアナタの為に弾きました。惚れ直しましたか?」

 

は?こ、こいつ何言ってんの?

てか、ステージ上からあたしに声掛けないでよ!

 

「ま、まどか先輩?」

 

あ、おっと、自分の世界に入ってる場合じゃなかった…。

 

「あのさ…あたしはあんたの事なんか知らないし、あたしはあんたのハニーじゃない。大勢の前で変な事言わないでくれない?」

 

「OH!コレが噂に聞くツンデレというやつですね。ワカリマス」

 

こ、こいつ…。

こんな事ならアリーナじゃなくてスタンドの方が良かった…。

 

「ワイも気になってたんやけどな。

そこに柚木がおってそっちにはシフォンのやつがいよる。

って事は、この会場のどこかで江口のやつもワイら見とるはずやな」

 

そして白石 虎次郎はマイクに向かって叫んだ。

 

「見とるか江口 渉!!これがワイのinterludeの本気じゃ!!

次にやるのは出来立てほやほやの新曲じゃ!よー聴いとけ!!」

 

「虎次郎…また勝手な事を…」

 

「まぁまぁ雲雀ちゃん。進行には影響がないからいいじゃない」

 

「いくで!『翼を折る者(つばさをおるもの)

 

翼を折る者…?

Ailes Flammeは炎の翼って意味だって聞いた。この曲はAiles Flammeに対する曲なんだね…。

 

 

<<ワァァァァ!!>>

 

相変わらず攻撃的なサウンド。

悔しいけどinterludeはバンドとして凄い実力を持っている。

 

今のあたし達じゃ勝てないかもしれない…。

 

 

 

--------------------------------------

 

 

 

「渉…この曲…明らかに僕達に向けた曲だよね」

 

「ああ…interlude。すげぇな。まさかたった1日でこんな曲を完成させるなんて…」

 

「勝てるかな…?」

 

「まぁ、今の俺達なら絶対勝てないだろうな」

 

「あははは、やっぱりそう思うよね」

 

「でも俺達は…」

 

「うん、勝つよ。今はまだ勝てないだろうけど…必ず勝てるようになってみせる」

 

「拓実…。あははは、何か拓実がそんな事言うのって珍しいな」

 

「そうかな?でもそれがAiles Flammeでしょ」

 

「ああ、そうだな。俺達はチャレンジャーなんだからな」

 

 

 

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「さて、ここでや。

HONEY TIMBREがステージから下りてないのにワイらが登場した事は、ある余興の為の演出なんや」

 

あ、そういえばHONEY TIMBREのメンバーもまだステージに居るんだっけ…。

interludeが目立ち過ぎてすっかり忘れてた…。

 

「今からクリムゾン式公開オーディションの始まりや!」

 

<<ザワッ>>

 

そしてステージの袖から4人の男の子がステージに上がってきた。

 

「この4人は厳しいクリムゾンのオーディションを勝ち抜いて来た新人ちゃんでな。バンド名もまだ許されてへんレベルの下っ端や」

 

バンド名も許されていない…?

それってその男の子達でバンドを組んでいたわけじゃないって事…?

 

「そしてこれから最終試験!この会場におるみんなが証人や!

こいつらとHONEY TIMBREがデュエルをして勝てばクリムゾンのミュージシャンとしてデビュー!負けたら日の目を見る事もなく即引退!

音楽生命を賭けた一世一代のデュエルや!!」

 

<<ワァァァァ!!>>

 

くっ……なんて事を…!!

デビューもしてないような子をこんなステージに上げて…!

 

あの子達…震えてる。

これがクリムゾンのやり方!?

 

こんな大勢の前であんな事を言われたらHONEY TIMBREもデュエルを受けざるを得ない。

 

HONEY TIMBREはクリムゾンに負けたらもう音楽はやれなくなる。

かと言って勝ってしまったらあの子達は…。

 

「まどか先輩…私、許せないです。

クリムゾンのやり方…絶対許せないです!」

 

奈緒…。

 

「さぁ、そういうわけや。

HONEY TIMBREこのデュエル受けてもらうで?」

 

あの子達…震えながら楽器の準備を…。

楽器の準備をしている子達を見ていると一人の男の子に白石 虎次郎が近付いて行った。

 

「すまんな。正直ワイも胸くそ悪くなるやり方やけどこれが仕事なんや。

ワイらの事恨んでくれてもええ。

でもこれがクリムゾンや。最後のチャンスやで。がんばりや…(ボソッ」

 

あいつ…。

 

「さぁ!デュエルのスタートや!!」

 

スタートの掛け声の後、クリムゾンの男の子達もHONEY TIMBREも演奏を始めようとしなかった。

 

しばらくの間……。

 

だけど、クリムゾンの男の子の内の一人。ギターの子が演奏を始めた。

 

あの子…泣いてんじゃん…。

 

そしてHONEY TIMBREとクリムゾンの男の子達とのデュエルが始まった。

 

 

 

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「クリムゾンのやり方…ほんっと最低!

あの子達が可哀相じゃん!

ねぇ、志保もそう思わない?」

 

「………」

 

「志保?」

 

「間違いない…。あのinterludeのベース。ひーちゃんだ…」

 

「ひーちゃん?」

 

「小学校の頃の友達…。学校は違ったんだけどね。

あたしがギター、ひーちゃんがベースを弾いてよく公園でセッションしてたんだよ。

中学になる前に引っ越ししちゃったんだけどね。あたしの唯一の男の子の友達だったんだ」

 

「え、そうなの?もしかして志保の初恋の子とか?」

 

「ないない。そういうんじゃ全然無かったから。でも何でクリムゾンなんかに…」

 

「あの子、志保の友達だった子なんだ…」

 

 

 

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「あのドラムのおっさん…」

 

「ん?interludeのドラム?」

 

「ああ、間違いねぇ。俺がCanoro Feliceに入る前にサポートしたバンドの対バン相手だったおっさんだ」

 

「冬馬ってクリムゾンと対バンした事あったの?」

 

「いや、違う。あのおっさんはクリムゾンに関係ないバンドのドラマーだった」

 

「そのバンドを辞めてクリムゾンに入ったとか?」

 

「いや、あのバンドはメジャーデビュー目前だって話だったし、つい半年くらい前の話だぞ?どうなってんだ…何でクリムゾンに…」

 

 

 

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HONEY TIMBREとクリムゾンの男の子達のデュエルは、圧倒的なレベルの差でHONEY TIMBREが優勢だった。

 

もうすぐ曲が終わる。

そしたらあの子達は…。

 

あたしがそう思った時だった。

ステージが一瞬光った気がした。

 

「奈緒!」

 

「え?」

 

あたしは奈緒に覆い被さった。

 

 

 

<<<ドカーン>>>

 

 

 

 

「………ぱい!まどか先輩!まどか先輩!!」

 

ん………奈緒…?

良かった…無事みたいだね。

あはは、涙で顔がくしゃくしゃだけど。

 

「まどか先輩…わかりますか?私の事わかりますか!?」

 

「ん…大丈夫だよ。奈緒は無事?」

 

「はい……まどか先輩が庇ってくれましたから…」

 

あたしはゆっくり起き上がった。

良かった…あたしもどこも怪我してないみたいだ。

 

ゆっくりまわりを見渡してみる。

みんな混乱しながら、泣き叫びながら、会場内を走りまわり、我先にと逃げようとしていた。

 

ステージを見ると照明やセットが倒れ…。

見るも無惨な姿に変わっていた。

 

「まどか先輩…大丈夫ですか…?」

 

「うん…大丈夫…。怪我はないよ。爆発の衝撃でちょっと脳しんとう起こしたんじゃないかな」

 

「爆発……」

 

奈緒がさっきの爆発を思い出したのか震え出した。

 

「奈緒!」

 

このままここに居たんじゃまた爆発が起こるかも知れない。

奈緒も怖いだろう

 

<<グッ>>

 

け……ど…。奈緒?

 

「まどか先輩。私から離れないで下さいね」

 

奈緒はあたしを抱き抱えるようにして歩き出した。まだ震えてるくせに…。

 

本当に強いね。奈緒は…。

 

「しんどいとか疲れたとかありましたら言って下さいね」

 

「ん…大丈夫。ありがと」

 

「まどか先輩…何で爆発するってわかったんですか?」

 

「ん?あたし理系だったしね。ちょっとそういう実験してた時の光に似てたからさ…」

 

「なるほどです。Dival編第6章の時のまどか先輩のセリフはこの時の為の布石だったんですね!」

 

ん?奈緒?何言ってるの?

タカの影響かなぁ?

奈緒も変な事言うようになってきたなぁ…。

 

「もう少しで出口ですから…頑張って下さいね」

 

「あはは、あたしは大丈夫だよ。怪我もしてないし」

 

「あ……」

 

あたしは奈緒の視線の先を見た。

瓦礫に埋もれた出口。

そこの群がっているたくさんの人。

 

何で…?爆発はステージだけじゃなかったの…?

 

 

 

--------------------------------------

 

 

 

「茅野…大丈夫か?」

 

「うん、私は大丈夫。それより…」

 

「ああ…人の流れがバラバラだ。どこから逃げりゃいいか…」

 

「私…聞いたことある」

 

「ん?何をだ?」

 

「クリムゾンはね。負けたらステージを爆破したりマグマを噴出させたりするって…」

 

「は!?マグマ!?」

 

「うん…みんな火傷して大変だったって…」

 

「あ、あのな茅野。爆破はまぁ…あってもって気はするけどな?マグマなんてありえないからな。仮にマグマが噴出したら火傷じゃすまないから…」

 

「冬馬…ありがとう。こんな時でも冬馬は優しいね。私を怖がらせないように無理して…」

 

「え?いや、茅野?何言ってんだ?」

 

「松岡パイセン!茅野先輩!こっちだ!こっちから外に出られる!」

 

「江口…と、内山か」

 

「松岡さん、茅野先輩!大丈夫ですか!?」

 

「うん。江口くんと内山くんも大丈夫だった?」

 

「ああ、俺達は大丈夫だ。

あっちで綾乃ねーちゃんと花音ねーちゃんが出口を確保してくれてる」

 

「花音さん凄いんですよ。このパターンはあのゲームでやった事あるから。とか言って出口の確保もみんなの避難誘導とかも」

 

「そっか。江口、内山。他のファントムのメンバー見たか?」

 

「いや、俺が見たのは綾乃ねーちゃん達と松岡パイセン達だけだぞ」

 

「江口、内山…茅野の事頼めるか?」

 

「お?」

 

「冬馬……?」

 

「俺は秋月を探しに行く。あいつは俺の助けなんか無くても平気だろうけど…」

 

「冬馬…」

 

「茅野、悪いな。ここからは江口達と逃げてくれ」

 

「冬馬…やっぱり…姫咲の事…。わかってたのにね…(ボソッ」

 

「茅野?」

 

「ううん、姫咲は栞と一緒だと思うし…栞の事もお願いね」

 

「おう、任せろ」

 

「茅野先輩。大丈夫ですか?僕が肩を貸します」

 

「内山くん、ありがとう」

 

「茅野先輩!拓実!こっちだ!」

 

「行かないでなんて…言えないよ…(ボソッ」

 

 

 

--------------------------------------

 

 

 

「あ……こっちの出口も…」

 

奈緒があたしを抱き抱えながら逃げてくれているけど、奈緒の体力も心ももう限界が近いだろう。

 

あたしも自分で歩けたらいいんだけど、まだ頭がフラフラしてるし…。

他のファントムのみんなは大丈夫かな?

 

「まどか姉!奈緒さん!」

 

この声…遊太…?

 

「シフォンちゃん…?」

 

「奈緒さん!まどかさん!大丈夫すか!?」

 

秦野くんも…良かった。

二人共無事だったんだね。

 

「私は大丈夫。でもまどか先輩が…」

 

「……まどかさん失礼します」

 

「え?わっ!?」

 

そう言って秦野くんはあたしをおぶってくれた。

 

「ちょっ……秦野くん!?」

 

「ははは、すみません。お姫様抱っこの方が良かったすか?」

 

「お~!亮くんかっこいい~!!」

 

「え?シフォン?本当か?本当にそう思ってくれてるか?ここから生きて帰ったら結婚しよう」

 

「亮くん?」

 

ちょ、ちょっと待ってよ!おんぶって!

こ、これじゃあたしの体重が…重さがバレちゃう!降ろしてー!

 

「ちょ、まどかさん暴れないで下さい!」

 

「重いでしょ!?いいから降ろして!」

 

「え?全然すよ?だから大丈夫すから大人しくしてて下さい」

 

「わぁ~、秦野くんかっこいい~」

 

「奈緒さんも何言ってんすか…。それより出口探しましょう」

 

もう…。本当にかっこいいんだから。

あ~、うちのバンマス様はこんなかっこいい事出来ないんだろうなぁ~。

 

「ごめんね…秦野くん。

こんな事して……お姉さん秦野くんに惚れちゃったらどうすんの」

 

「本当に全然大丈夫すよ。あ、俺シフォンにしか興味ないんでその点も大丈夫すから気にしないで下さい」

 

「え?亮くん…?」

 

「「大丈夫。それは知ってるから」」

 

「え?まどか姉?奈緒さん?」

 

少しだけ甘えちゃうか…。

自分で歩くって言っても足手まといになりそうだし…。

 

……待って。他にアリーナ席の当たったメンバー。

 

豊永くんと折原くん!

 

あの二人は……無事なのかな…?

 

 

 

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「テメェ……正気かよ、奏」

 

「ああ、あの程度の爆発で俺がおかしくなったとでも思ったか?」

 

「あ?テメェは元から頭おかしいだろ」

 

「そうか?普通だと思うが?」

 

「あんな爆発があって逃げもせずにステージに爆発の原因を探しに来るなんて頭おかしい奴しかしねぇだろ」

 

「そうなのか?ならそんな俺に付き合ってる結弦も頭がおかしい事になるな」

 

「俺はテメェがバカやらねぇように見張ってるだけだ。一緒にすんな」

 

「………」

 

「どうした?何か見つかったか?」

 

「いや、あれは仕組まれた爆発だとは思うが…そういう痕跡はないな」

 

「やっぱりクリムゾンの仕業と思ってんのか…」

 

「いや、クリムゾンの仕業としてもおかしい点はあるしな」

 

「おかしい点?」

 

「ステージにはまだinterludeが残っていた。爆発させるにはタイミング的にな」

 

「……ならSCARLETか?もしくはSCARLETのようにクリムゾンに反抗しているグループ」

 

「それもないだろう。お前もわかってるんじゃないか?HONEY TIMBREが優勢な場面で爆発させる意味はない」

 

「だろうな。証拠や痕跡もねぇんだったら、事故として処理するしかねぇだろうな」

 

「それは警察の仕事だ」

 

「んな事はわかってんだよ!」

 

「む!?あそこ…誰か居るぞ…」

 

「あ?」

 

 

「雨宮…大志…」

 

「……折原 結弦か。その目。

どうやら心は折れていなかったようだな」

 

「雨宮 大志?あの『JORKER × JORKER(ジェイジェイ)』の雨宮 大志か」

 

「evokeのボーカル豊永 奏か。お前らここで何をしている?」

 

「この爆発の犯人を探しにな…そしたらテメェが居たわけだ。テメェこそここで何をしている?」

 

「フッ…今にもまたデュエルを挑んできそうな感じだな」

 

「ああ、ここでまたデュエルするのも悪くねぇ。だがそこまでバカじゃねぇよ。

答えろ。ここで何をしている?」

 

「お前らと同じだ」

 

「つまりこの爆発を起こした犯人を探していると?」

 

「………偶発的にあんな爆発が起こるとは考えられない。そしてこれは俺達クリムゾンの仕業ではない。

そうなると気にならない方がおかしいだろう」

 

「奏……わかってんな?(ボソッ」

 

「ああ、俺達からはSCARLETの名前は出さない(ボソッ」

 

「………安心しろ。これはSCARLETの仕業でもない」

 

「(こいつ…俺達とSCARLETの事まで!?)」

 

「……この爆発は九頭竜の仕業だ」

 

「ちょっと待て。九頭竜ってったらお前らクリムゾンエンターテイメントの幹部だろうが」

 

「そうなるな。だが九頭竜のバンドの仕業でもない。あの子らは何も知らないだろう……」

 

「意味がわかんねぇんだよ。勝手に自分で納得してんじゃねぇ」

 

「九頭竜は恐らく自分の傀儡であるバンドに南国DEギグの調査をさせていた。

そこに二胴さんの率いるバンドが南国DEギグに乱入した」

 

「あ?」

 

「二胴さんのバンドが南国DEギグに乱入した報告を受けた九頭竜は海原に気に入られたい一心で、二胴さんの計画を……手柄を潰そうとした。

南国DEギグ自体無くなれば二胴さんの計画は成功しない」

 

「共食いかよ…どこまでも汚ねぇなクリムゾンは…」

 

「だが雨宮 大志。あんたは何故そこまでわかる…それも俺達を撹乱させる罠とも受け取れるぞ?」

 

「見ろ…こいつらは俺が先程倒したデュエルギグ暗殺者(でゅえるぎぐあさしん)共だ」

 

「なっ!?」

 

「こいつら…」

 

「これでこの爆発はクリムゾンの仕業だったとわかる。そして二胴さん率いる俺達はこんな計画を知らなかった。

そうなれば九頭竜の仕業だと容易にわかる」

 

「こいつら…生きてんのか…?」

 

「今はな。俺が気絶させておいた。目が覚めた後どうするかは俺の知った事ではない」

 

「雨宮 大志!テメェ!」

 

「タカとトシキと英治に伝えておけ。

HONEY TIMBREのメンバーは無事だとな。ついでにinterludeもあの男の子達も…」

 

「お前……」

 

「さらばだ…」

 

「結弦…俺達も戻るぞ。この事を中原さん達に伝えねばな…」

 

「あ、ああ…」

 

 

 

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「ハァ…ハァ…」

 

「奈緒さん、大丈夫?」

 

「シフォンちゃん…ありがとう。大丈夫だよ…」

 

奈緒…。

渚の実家への旅行からずっと旅行続きで昨日はデュエル。

盛夏の事もあって今日こんな事になって、きっと心身ともに疲労困憊なんだ…。

 

「ここもダメか…」

 

アリーナ席のあったこの場所からは逃げられずにいる人達で溢れていた。

怪我をしているような人は見ないけど…きっとみんな恐怖や不安でいっぱいだろう。一体誰が何の為にこんな事を…?

 

「爆発もあれ以来起きてないみたいですし、少しここで休みましょうか……。

まどかさん、降ろしますよ」

 

「あ、うん。秦野くんごめんね」

 

奈緒も少し休めるかな?

 

「美緒…大丈夫かな…」

 

そっか。美緒ちゃんの事も心配だよね。

みんな無事でいるといいんだけど…。

 

 

 

--------------------------------------

 

 

 

「グフッ…」

 

<<ドサッ>>

 

「おお!美緒さんも麻衣さんも志保も凄い!かっこいい!」

 

「なんだってデュエルギグ戦闘員(でゅえるぎぐこんばっと)がこんな所に…」

 

「三咲さん…渚は大丈夫ですか…?」

 

「あはは、大丈夫だよ。志保、心配しないで。

三咲さんすみません。おんぶしてもらっちゃって…」

 

「大丈夫よ渚ちゃん」

 

「そうだよ渚さん。お母さんは昔浮気性だったお父さんをしばく為にあらゆる格闘技やって鍛えてたから!」

 

「初音…余計な事言わないの」

 

「あたしがぼさっとしてたから…」

 

「違うよ、志保。あれは志保のせいじゃないよ…」

 

 

 

 

 

『志保!何やってるの!?早く逃げないと!』

 

『何で…爆発なんか…まさかクリムゾン…?お父さんが…?』

 

『志保!今は逃げなきゃ!しっかりして!』

 

『渚…あたし…』

 

『……!?志保!危ない!』

 

『え?』

 

<<グキッ>>

 

『あ、危なかった~…瓦礫があたしの横に落ちてくるなんて…。あれ?渚?どうしたの?』

 

『ぐぉぉぉぉぉ…志保を庇おうと…走ろうとしたら足を挫いたぁぁぁぁ……』

 

 

 

 

「あれは…私の不注意だよ…」

 

「渚…」

 

「でも私とお母さんが通りかかって良かったよね」

 

「あはは、おかげで助かりました」

 

「美緒。どう思う?やっぱりこの爆発は…」

 

「麻衣…」

 

「あ、志保さん…ご、ごめんなさい…」

 

「ううん。気にしないで。爆発した時はびっくりしたけどさ。

美緒さんと麻衣さんってさっきの奴らの事デュエルギグ戦闘員って呼んでたし…。もし何か知ってるなら二人の考えを聞かせて欲しい」

 

「志保さん…うん、わかった」

 

「じゃあ美緒、私から話すね。私達はファントム以外のライブハウスでよくライブしてたんだけどね。

やっぱりそうやってライブをやってるとクリムゾンとデュエルする事もあって…」

 

「え!?麻衣ちゃん達ってクリムゾンとデュエルした事もあるの!?」

 

「ええ…まぁ、お姉ちゃんには内緒にしててほしいんですけど…」

 

「その時にデュエルギグ戦闘員の事とか色々と…うちの軽音楽部の先生から聞いてて…」

 

「そっか。じゃあやっぱり…この爆発はクリムゾンの仕業なんだ?」

 

「うん…多分…」

 

「麻衣、志保さん。お喋りはそこまでです」

 

「美緒?」

 

「デュエルギグ戦闘員…!!クッ!」

 

「美緒ちゃん!ひとりで走って行っちゃ危ないよ!」

 

「あたしも行く!」

 

「志保…!?」

 

 

 

「グハッ」

 

<<ドサッ>>

 

「志保さん、やるじゃないですか」

 

「美緒さんこそ。歌も凄いしベースも。

まるで理奈と演奏してるみたいだった」

 

「ぴぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「み、美緒さん!?」

 

「わた、わた、私如きが理奈さんみたいだなんて…なんと恐れ多い……」

 

「だ、大丈夫?」

 

「ええ…大丈夫です。すみません、取り乱しました…」

 

「あ、そだ。あたし達同い年なんだしさ。タメ語でいいよ。志保って呼び捨てにして」

 

「うん、私も…美緒でいいよ。志保」

 

「コラ!二人とも!急に走って行っちゃ危ないじゃない!」

 

「三咲さん、ごめんなさい…」

 

「すみません…」

 

「それよりさ志保」

 

「ん?初音?どうしたの?」

 

「この爆発は志保のお父さんとは関係ないみたいだよ」

 

「え?ほんとに!?」

 

「さっき麻衣さんとお母さんに聞いたんだけど、デュエルギグ戦闘員ってのは九頭竜派みたいなんだよ。

でも志保のお父さんは二胴派だから」

 

「でも…」

 

「大丈夫よ、志保ちゃん。

あの二人が協力するなんて事はありえないから」

 

「うん、志保のお父さんが二胴派ならこの件は関係ないと思う」

 

「美緒?いつの間に志保さんの事呼び捨てするようになったの?」

 

「そっか。お父さんは関係ないんだ…。

少し…安心した」

 

「それより早く出口を探しましょう。英治くん達も心配してると思うし」

 

「「「はい!」」」

 

 

 

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「ダメっすね。あっちの出口も人でごった返してて…」

 

「あっちもダメだったよ…。どこかの出口に絞って順番を待った方がいいかな?」

 

「いや、その出口から出られる保証がないだろ?どこかの出口から出られるならもう少し人が減ってても…」

 

そうだ…秦野くんの言う通り。

このアリーナから外に出られる出口があるならもう少し人が減っていてもいいはず…。

まさかここは完全に閉じ込められている?

 

「だったらどうしよっか?ここで座って救助が来るのを待つ?ボク達このアリーナ一周したよ?それでも出口見つからなかったし…」

 

救助を待つっていうのも手だと思うけど…。

 

「ハァ…ハァ…」

 

早く奈緒を何とかしてあげないと…。

でも…救助を待って体力を温存させてた方がいいのかな…。

こんな時…タカや英治、トシキならどうする?あの三人なら…。

 

 

 

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「………ん?あれ?ここ…は?」

 

「香菜。やっと目が覚めたようね」

 

「え?理奈ち!?あたし理奈ちにおんぶされてる!?」

 

「あんまり大きい声を出さない方がいいわ。あなた、頭を打ってるのよ?」

 

「頭を…?え?わ!?これ血!?

な、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁ!?」

 

「だから……大きい声を出さない方がいいって言ってるじゃない」

 

「それで理奈ちがあたしを運んでくれてるんだ?」

 

「ええ、出口がなかなか見つからないのよ。それにこの辺りは人が全然いなくて…」

 

「もしかして…迷子?」

 

「違うわ。私の直感が出口はこっちだと告げているのよ」

 

「あ、トイレだ。こっち行き止まりだね」

 

「………引き返すわよ」

 

 

「理奈ち。あたし重いっしょ?」

 

「香菜。女性にあんまりそういう事を言うものじゃないわ」

 

「いや、何言ってんの理奈ち?

あたしも目が覚めたわけだしさ。歩くよ」

 

「あなたはうちの大事なドラマーなのよ?そしてそれ以上に私のと…友…友…」

 

「友達?」

 

「わかってるなら言う必要はないわね」

 

「もう~理奈ちは~…。

あたしも理奈ちは大事な友達だよ。だから負担は掛けたくない。降ろして」

 

「負担になんてなってないわ。

それに私、charm symphonyの時に番組の企画で熊と戦った事があるの。力には自信あるのよ」

 

「熊と…?え?冗談だよね?」

 

「当たり前じゃない」

 

「びっくりしたじゃんか…」

 

「……私の直感はこっちが出口だと告げているわね」

 

「いや、そっちトイレって看板出てるよ?」

 

「そう。なら逆の方向に行きましょうか」

 

 

「出口ないね…それどころか人もいないし…」

 

「困ったわね。ここはどこなのかしら?」

 

<<ドカーン>>

 

「え!?わ!?また爆発!?」

 

「そこの壁が爆発したみたいね。

もしかしたら…そこから外に出られるかも」

 

「ふっふっふ~。美少女JDベーシスト盛夏ちゃん登場~」

 

「「盛夏!?」」

 

「およ?理奈と香菜だ~。ヤッホー」

 

「盛夏…あんた何やって…」

 

「ん~?何か外に逃げて来た人達の話だとね。まだ逃げられてない人が中にいっぱい居るって言ってたし~。壁を破壊して出口を増やしたらみんな逃げて来られるかな~?って」

 

「壁を破壊って…あなた何をしたの?」

 

「ん~?石破天驚拳だよ~」

 

「盛夏…大丈夫か?あ、理奈、香菜」

 

「「英治さん(先生)」」

 

「良かった。お前ら無事だったか。もう大丈夫だぞ。って香菜!お前血ぃ出てんじゃん!?」

 

「助かったわね」

 

「うん、理奈ちありがと」

 

 

 

--------------------------------------

 

 

 

タカ達なら…こんな時どうする?

出口も見つからない。

救助もいつ来るかわからない。

そして…奈緒の状態…。

 

「まだ…見てない所ありますよ…」

 

「奈緒?」

 

「秦野くん、まどか先輩の事お願い出来ますか?」

 

「いや、俺は大丈夫すけど、奈緒さんの方こそ大丈夫すか?」

 

「私は大丈夫です。それで…あそこから逃げれないかな?と思いまして」

 

そう言って奈緒が指を指した先はステージだった。

 

「あそこならミュージシャンの出入りする通用口とか色々あると思いますし」

 

奈緒…でもまたステージで爆発が起こったら。

今はどこでも爆発は起きてないみたいだけど…。あそこから逃げる道を探すのがベストなのかな?

 

「貴ならあそこから逃げると思うんですよね」

 

タカなら…?確かにタカなら意地でも出口を見つけ出して脱出しそうだけど…。

英治はアリーナが無理ならスタンドから逃げようってスタンド席にのぼろうとしそうだし、トシキなら瓦礫をどけて出口を開けそうだよね…。

 

「それに…」

 

それに?

 

「なんとなく…なんとなくですけど…

あそこから貴が助けに来てくれる気がします」

 

「わかりました。行きましょう。まどかさんもいいすか?」

 

「うん…奈緒のタカへの愛の力を信じてみるよ」

 

「まどか先輩。愛の力とかそんなんじゃないので。気持ち悪い事言わないでもらえませんかね?」

 

はいはい。

 

「よし!奈緒さんボクが肩貸すよ!一緒に行こう!」

 

そしてあたし達はステージへと向かった。

 

 

 

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「栞ちゃん…大丈夫ですか?」

 

「ん!大丈夫…!グスッ」

 

「でも俺達も合流出来て良かったよね」

 

「うん。まっちゃんも他のみんなも大丈夫かなぁ?」

 

「双葉に何かあったらボク…」

 

「大丈夫ですわ。松岡くんは甲斐性も無くて態度も悪くて女性に免疫のないヘタレ野郎ですが…やると言ったらやり遂げてくれる男です。必ず双葉を守ってくれてますわ」

 

「……うん」

 

「それより俺達も早く脱出しよう。出口を探さないと」

 

「ええ、人があっち行ったりこっち行ったりしててどこから脱出出来るかわからないですわね」

 

「秋月!春太!ユイユイ!小松!」

 

「え?まっちゃん?」

 

「あ…双葉がいない…何で…グスッ」

 

「あの男は…本当に何を…!!」

 

「あ、姫咲!そっちは危ないよ!」

 

「え?」

 

「秋月!上だ!危ねぇ!」

 

 

<<ドカッ>>

 

 

「ふぅ…何とか間に合いましたな。

姫咲お嬢様…大丈夫ですか?」

 

「あ、はい。大丈夫ですわ。でも…あなたは…?」

 

「うわ~。まっちゃん派手に転けたねぇ。顔から転んだよ…」

 

「と、冬馬…大丈夫かな?」

 

「た、助けていただいてありがとうございます…でも…」

 

「皆様ご無事なようで安心致しました。

出口はこちらでございます。さ、着いて来て下さいませ」

 

「そのしゃべり方…あなた…じいやですか?」

 

「はい。セバスでございます」

 

「セバスさん…やっぱり女性だったんですね…」

 

「いやはや。この姿でお会いするのはいささか恥ずかしいものですな」

 

「セバスちゃん…こんな綺麗な女の子だったんだ…」

 

「結衣様。お褒めいただいてありがとうございます。ですが、もう女の子という歳ではございませんがな」

 

「おい。松岡 冬馬。生きてるか?大丈夫か?」

 

 

「さぁ皆様。こちらでございます。

足元にお気をつけて…」

 

「じいや…と呼ぶのも失礼ですわね。

何故今まで正体を隠してましたの?」

 

「ハッ、その件につきましてはここから無事脱出した後に…」

 

「では…名前だけでも聞かせていただけませんか?あなたの本当のお名前を…」

 

「……澄香。瀬羽 澄香(せば すみか)と申します」

 

「瀬羽 澄香……。

やはり…Artemisの方でしたのね」

 

「はい」

 

「まじかよ…あのセバスが…。

ま、まさかあんな可愛らしいお姉様だったとはな…」

 

「それより松岡 冬馬!本当に双葉は無事なんだろうな!?」

 

「ああ、茅野は大丈夫だ。出口まで江口達が連れていってくれてる」

 

「それにしてもセバスさんがArtemisのメンバーだったなんて…。

だからアルテミスの矢ではないって言ってたんだ…」

 

「『せばすみか』だからセバスって名乗ってたのかなぁ?春くんはどう思う?」

 

「あ~、なるほど。そういう事なのかな?」

 

「姫咲お嬢様」

 

「え?はい?なんでしょう?」

 

「怒っておられますか?正体を隠していた事…」

 

「そうですわね。澄香さんにも色々とあったのかと思います。クリムゾンとの事とか。……ですから怒ってはいません」

 

「ありがとうございます…。

そこの角を曲がれば出口にございます。

さぁ、急ぎましょう」

 

「はい」

 

 

 

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あたし達はステージに上り、その裏手の方から外へと向かっていた。

 

「ここからなら出られそうかな?」

 

「どうだろうな。でもここに賭けるしかない」

 

そうだね。それに……。

 

あたし達がステージに上がったもんだからそれを見ていた他の人達もあたし達についてきちゃったしね…。

 

この先に出口があればいいんだけど…。

 

「これ…出口なかったら私達超ひんしゅくですよね……ああ、プレッシャーが…」

 

あはは…確かに…。

 

「あ…」

 

行き止まり…。

参ったなぁ…。ここからでも出られないか…。

 

それよりここから引き返したりなんかしたら…。

 

「……聞こえます。……貴?」

 

え?奈緒?

奈緒は何かに導かれるように脇の道を歩いて行った。

 

「な、奈緒さん?どうしたの?」

 

「聞こえませんか?貴の声…」

 

「え?たか兄の?」

 

タカの声?あたしには全然聞こえ…

 

-まどか!

 

聞こえる…?確かにタカの声が聞こえる。

 

-奈緒!

 

「こっちです」

 

「な、奈緒さん?」

 

「秦野くん。奈緒について行って。

あたしにも…聞こえたから。タカの声が」

 

「え?は、はい。わかりました」

 

そしてあたし達は奈緒に導かれるように歩いた。

 

そして…。

 

「……見つけました」

 

「奈緒!まどか!亮!ハニー!

あ、ハニーじゃなかった。シフォン!」

 

タ、タカ?

え?あんた普段遊太の事ハニーとか思ってんの?

 

「本当にたか兄がいた…」

 

「貴…!」

 

「奈緒…」

 

奈緒は遊太から離れ、貴の方に走って行った。え?まさかこのままみんなの前で抱きつくつもり?

 

「フン!」

 

「グホッ」

 

と、思ったけど奈緒はタカのボディーにいい一撃を入れた。

 

「た、助けに来て何なのこの仕打ち。

俺何で殴られたの?あれ?こないだもこんな事なかった?デジャビュ?」

 

「助けに来るのが遅いです。遅すぎです。何をやってたんですか?

まさか盛夏とイチャイチャしてたとかですか?マジありえないです。超キモいです」

 

「あ、あのね?ちょっと色々とありましてね?」

 

「もう…!それより出口はどっちですか?

早く連れていって下さい」

 

「あ、ああ。はい…」

 

そしてタカが立ち上がった時だった。

 

「お?おっと…ん?おい?奈緒?」

 

奈緒は貴に会えて安心したのか、そのままタカに寄りかかって気を失ってしまった。

 

「奈緒…熱あるみたいだな…。頑張ったんだな。………よっと」

 

え!?タカが!?

奈緒をお姫様抱っこ!?

 

「気を失ってくれたのは幸いだな。

こんなのセクハラですとか通報しますとか言われそうだし…」

 

タカが…そんな…。

まるでタカじゃないみたい…。

 

「さ、出口はこっちだ。さっさとこんな所から出ちまおう。他のみんなも心配だしな」

 

 

 

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「グハッ」

 

<<ドサッ>>

 

「チ、雑魚が…」

 

「拓斗…この辺りのデュエルギグ戦闘員はあらかた倒した」

 

「ああ、しかし妙だな…」

 

「妙?葉川 貴に殴られた所が腫れ上がってきて確かに拓斗は妙な顔をしている」

 

「……俺の話じゃねぇよ」

 

「拓斗くん、あっちの出口は開けて来たで。これでもう少し避難も捗るはずや」

 

「こっちも…大丈夫。ついでにデュエルギグ戦闘員も片付けて来た」

 

「ああ、助かった」

 

「ププ……拓斗くん…その顔やめて…」

 

「拓斗さ…ゴホッゴホッ…そんな顔でかっこつけられても…ゴホッゴホッ」

 

「お前ら……」

 

「それより妙な事って?」

 

「ああ、それなんだけ…」

 

「お願い拓斗。こっち見ないで」

 

「………さっきの会場の爆発は恐らくデュエルギグ暗殺者の仕業だろ。戦闘員共にはそんな度胸もねぇだろうしな」

 

「確かにそうだね。なるほど、これだけの数のデュエルギグ戦闘員が会場の外にも居る。それが不思議なんだね」

 

「ああ、爆発が終わった今デュエルギグ戦闘員(こいつら)を配置させてる理由。それがわからねぇ」

 

「お義姉さん、木南さん、ここから出られそうです」

 

「助かったぁ~…」

 

「良かった。みんな、こっちから出れるみたいだよ。押さずに順番にゆっくりついてきて!」

 

「この声…」

 

「あ、拓斗さん…」

 

「達也か。久しぶりだな」

 

「はい。お久しぶりです」

 

「兄貴…?」

 

「晴香……」

 

「兄貴……しばらく会わない間に変な顔になったね」

 

 

 

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あたし達は全員無事に脱出出来た。

 

無事にとは言っても、あたしと奈緒、香菜と渚は念の為に病院で診てもらう事にした。

 

タカにお姫様抱っこされていた奈緒は実は途中から目が覚めてたけど、もうちょっとだけとか思っていたら渚と理奈に見つかってしまったらしい。

しかも起きていた事まで二人にバレてしまい、

この旅行が終わった後、渚の家でお泊まり会が開かれるそうだ。

 

そしてこの日はみんなの疲れや考えたい事もあるだろうという事で、それぞれホテルへと戻り、翌日飛行機の時間までの間、再びトシキの別荘で話し合おうという事になった。

 

翌日の朝。あたしは新聞を見て目を疑った。

 

『南国DEギグ!今年も大盛況!』

 

あの爆発事件は無かった事になっていた…。


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