俺は江口 渉。
シフォンが俺達のバンドのライブ予定を入れてくれてからもう1週間が経った。
10日後の土曜日は俺達の初ライブだ。
まぁ、前座なんだけどな。
俺はいつもクールに平静を装ってはいるが、内心は奮えている。
みんなの前で歌う楽しみな気持ちと、
まだ、曲出来てないよどうしよう?って気持ちと、前回、前座をするライブの日がやって来たって締めた割にライブの日じゃねぇよ今日って気持ちでだ。
「ねぇ…渉…」
そんな事を考えてると拓実が話し掛けてきた。
「渉…あのね、渉の気持ちもわかるけどさ…。授業中にそわそわし過ぎだよ…?」
お?
「あのさ、江口…ちょっと言いにくいんだけどさ」
拓実と話してるとクールビューティーもとい、ビューティー雨宮が話し掛けてきた。
「あんまりさ…授業中に変な動きしないでくれない?ちょっと…気が散るっていうか…」
おお?
「あ、志保ちゃん…」
俺がビューティー雨宮と話してると、次はその雨宮の数少なき友達の一人、さっちとやらが話し掛けてきた。雨宮に。
このさっちって人同級生なんだろうけどな!話した事もないな!
「さっきの授業のノート取ってる?」
「ああ、ごめん。どっかのバカが気になってさ…授業どころじゃなかった」
「や、やっぱりそうだよね。江口くんが気になって授業どころじゃなかったよね…」
ん?授業どころじゃないくらい俺が気になってるのか?悪いな、さっちとやら。俺はお前の事よく知らないんだ。でも気持ちは嬉しいぜ。ありがとう。
「あ、ご、ごめんね。江口くん。本人を前に…」
「なんだかわからないけど気にすんな!」
男としてはやっぱり『あなたの事気になってるの』発言は気付かない振りをしてやるのが一番だよな。ちゃんと告白してくれるのを待ってるぜ!
俺はそうしてさっちとやらと初めて会話する事に成功した。
「あはは、わ…渉くんもそんな感じだったんだね」
そう言ってやって来たのは隣のクラスの井上と……あの死んだ顔をしてるのは亮か?
「どうしたんだ亮、そんな萎びた蕎麦みたいな顔をして」
「ああ…歌詞がさっぱり出てこなくてな。萎びた蕎麦を美味しく食べる方法ならいくらでもあるんだけどな」
「へぇー、そんな方法あるんだ?教えてよ」
「蕎麦汁につけて食べる。蕎麦はそれだけで美味い」
「聞いたあたしがバカだったわ…」
「亮くんも……授業中に変な動き…したり、唸ったりしてるしさ…。休憩時間の度に、僕の席に来て…シフォンの物真似で『亮、頑張って』って励ましてくれとか言ってくるし……」
さすが亮だな。幼馴染の俺もドン引きするきもさだ。
「あはは、渉も亮もさすが幼馴染って感じだよね」
拓実、失礼だな。俺は井上にシフォンの物真似なんか頼まないぞ?
「曲作りってほんと難しいよな…」
「てかさ、秦野こないだ曲は子供の頃からたくさん作ってるって言ってなかった?」
「愚問だな、雨宮。オレは曲ならもう50以上は作ってる。渉の声にもオレ達の音楽性に合う最高の曲だ」
「ああ、俺達の曲はライブハウスのオーディエンスをスタンドアップさせるくらいすごい曲ばかりだ」
「ねぇ、ライブハウスってほとんど立ち見だからみんなスタンドアップしてると思うんだけど?」
「でも…曲に合う歌詞が…全然なくて…」
「あはは、僕達文系じゃないからね…」
「え?あたし達のクラスも秦野達のクラスも文系クラスじゃん?」
「ふぅ、これだからバカ宮は…」
〈〈ゴシャ〉〉
「わ…渉くん…!」
「うむを言わさずグーで殴ったか。容赦ねぇな…」
「ゴシャっていったよ!?ゴシャって!」
「それで?曲はあるけど歌詞がないって感じなんだ?」
「うん…確かに僕達は…みんな文系クラスだけど…」
「オレは芸術系だし、渉は体育会系。拓実はスイーツ系だしシフォンは可愛い系だからな」
「あっそ…」
「し…志保は歌詞とか…書いてる…?」
「まぁ、あたしも曲作りはするし、歌詞も書くけど、うちは最近は理奈に任せっきりだしなぁ~」
「そ…それでも…歌詞書いてるんだ?」
「あたしは歌詞から書くから。フレーズが浮かんでそこに曲付けるからね。あんた達とは違うでしょ」
「う~ん…そっか…」
「それだ!!」
「あ、江口生きてたんだ?」
「亮には悪いがまず歌詞、フレーズを考えてそれに亮が曲を付けてくってのはどうだ?」
「今後はそれでもいいかも知れないけど、今は時間がないよ。この曲にしようってその曲ばかり練習してるしさ?」
「それにオレも今から曲を作るのはな。それも歌詞が出来てからってなると…」
「でもこのままじゃまずいのも確かだろ?」
「そう…だよね…」
「なんか井上には悪いよな。いつもオレ達に付き合ってもらって」
「あ、あはは、だ…大丈夫…だよ」
何とかしないとな…。もう日にちがほとんどない。俺も歌詞を合わせて練習しないといけないのに…。
「あ、そうだ。井上ちょっと…」
雨宮様が井上を呼んで教室から出ていった。もう殴られたくないからしばらくは雨宮様と呼んで機嫌を損なわないようにしよう。
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「え?たか兄に?」
「そ、貴に助言貰ったらいいんじゃない?貴も昔も今もバンドやってんだし曲作りもそれなりにはしてるっしょ」
「そっか…それもそうだね…うん、たか兄に聞いてみるよ」
「オッケ、じゃあ早速LINEしよ。今夜ファントムでいいよね?」
「え、志保も…来るの…?」
「うん」
「なんで…?」
「面白そうだから」
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「え?今日は練習無し?」
「うん…シフォンから連絡あって…」
「そうなのか。なら今日はオレか渉の家で歌詞を考えるか」
「そうだね。僕も行くよ。いい?」
井上から今日の練習が無い事を聞いた俺達はどこかで集まって歌詞を考えようって事になった。
「お、そろそろ最終授業が始まるな。井上、教室に戻ろうぜ。また放課後にな」
「うん、ま…またね、みんな」
亮と井上は自分達の教室に帰って行った。
そうか。今は最終授業の前の休み時間だったのか。その割には展開がすごく長かったな。昼休みか放課後なんだとばかり思ってたぜ。
「ぷはー!緊張したぁ」
いきなりさっちが喋りだした。
居たんだな。もういつの間にか居なくなってたかと思ってた。
「やっぱり秦野くんかっこいいね。志保ちゃんは普通にお喋り出来て羨ましいよ」
「秦野ってそんなかっこいい?」
俺も雨宮様の意見に同意だな。
ん?さっちとやら。さっきは俺の事を気になってるって言ってたのに、亮をかっこいいと思ってんの?
「あ、それよりさ江口、今日なんだけどね?」
俺と亮と拓実は駅前でジョジョ立ちをしながら雨宮様を待っていた。
バンドの事で大事な話があるから、放課後に雨宮様が来るまで駅前でジョジョ立ちして待ってろとの仰せつかっているのだ。
もうすぐ19時だからかれこれ2時間くらいジョジョ立ちをしている。
周りからの視線が気持ちいいぜ。
「ねぇ?ほんとに雨宮さん来るの?そもそもジョジョ立ち必要なの?」
「どうした拓実。辛くなってきたか?」
「そうだぞ拓実。雨宮がここでジョジョ立ちで待ってろって言ってたんだ。逆らってもいい事ないだろ?オレは渉のように殴られたくない」
「僕だって殴られたくないけどさ…」
「拓実もう少し頑張ってみろ。そしたら周りの視線が気持ちよくなるぞ!俺なんか雨宮様が来たらこの至福の時間が終わってしまうのかって焦燥感にもかられてるくらいだ」
「ああ…渉がとうとう違う世界の人に…」
「オレ達はああならないようにしような?」
「亮も大概だからね?」
「え?なんで!?」
もっと人に見られたい。もっと俺を見てくれ。俺はそんな気持ちで興奮していた。だが、そんな至福の時はとうとう終わりの時間を迎えてしまった。
「えーーー!?なんでみんな居るの!?」
「あたしが江口にここで待ってろって言ったの。まさかほんとにジョジョ立ちしてるとは思ってなかったけど。へぇー、あれがジョジョ立ちっていうんだ?」
「あ、雨宮さん!?ジョジョ立ち知らないの!?知らないで渉にジョジョ立ちしてろって言ったの!?」
「いや、あたしジョジョ読んだ事ないし」
「なんだ、雨宮様。ジョジョ知らないのか?人生70%くらい損してるな!」
「そんな得した人生送ってるわけじゃないし、損してる事にも気付いてないよ。江口ってたまに貴みたいな事言うね?」
「ボクもそう思う…
……ってそれより!なんでみんなを呼んだの!?」
貴って誰だ?それよりもうジョジョ立ち止めなきゃいけないか?
「シフォン。今日は会えないかと思ってたが…今日の服も可愛いな」
「亮くん!ありがとうね!って、亮くんはジョジョ立ちしてないんだ?」
「ははは、オレは渉や拓実とは違うからな。ちょっとジョジョ立ちで記念撮影しようとかなら付き合うけど、ジョジョ立ちでずっと立って待ってるとか変だろ?」
さすがだぜ亮。さっきまで雨宮様のパンチに怯えてジョジョ立ちしてたやつの台詞とは思えないぜ。
「それより時間も時間だし行くよ」
拓実は良かったぁとか言ってるが俺からしたらこの時間が終わったのは辛いな。
雨宮、俺から至福の時間を奪ったんだ。本当にバンドの大事な話なんだろうな?
おっと、雨宮に様付けるの忘れてた。
「志保ぉ~…ほんとにみんなファントムに連れて行くつもり?」
「シフォンが心配する事にはならないよ。大丈夫だから」
俺達は雨宮とシフォンに連れられるまま歩いていた。
「なぁ、渉」
「なんだ?」
「シフォンの歩いてる後ろ姿…可愛い過ぎるよな。変な男が寄って来ないか心配になるぜ。抱き締めたくなる」
「ははは、俺は亮の将来が心配になったぞ!」
「まともなのは僕だけか……」
雨宮とシフォンに連れて来られたのはライブハウスだった。
「ここ…ライブハウスだったんだな…」
「え?亮はここ知ってるの?」
「ああ、ここ結構いい曲流すからな。休みの日とかたまにランチにな。ずっとカフェだとばかり思ってた」
「お前休日にこんなお洒落なカフェとか来てるなら俺にも声掛けろよ。誘えよ!幼馴染の知らない姿知ってぷちショックじゃねぇか!」
「あんたらうるさい。入るよ」
そして俺達はライブハウスに入った。
エデン以外のライブハウスに入るのは初めてだな。
「いらっしゃ~……あっ!」
店員?の女の子が俺達を見て急にこっちに走ってきた。
「あの、亮さんいらっしゃいませ。こんな時間にいらっしゃるとか珍しいですね」
「初音ちゃん、こんばんは。平日でもお父さんの手伝いしてるのか?偉いな」
「そんな。お父さんのお仕事のお手伝いなんて当然の事です。偉くなんかないですよ」
「それでもオレは偉いと思うぞ」
「ありがとう…ございます…」
「シフォン……誰これ?あたしの知ってる初音じゃないんだけど?」
「うん、こんな初音ちゃん見るの初めてだしびっくりはしてるけど、ボクは志保が初音ちゃんの事をいつの間に呼び捨てにするくらい仲良くなってたの?って、そっちの方がびっくりしてるよ?そんなにファントムに来てるの?………キャッ!?」
雨宮とシフォンがなんか話してるな~って思って店内を眺めてたら、急にシフォンが悲鳴らしきものをあげた。シフォンの方に目をやると、変なにーちゃんがシフォンを抱き締めていた。
「ゆ……シフォン。今日も可愛いな。今日の服装は俺の大好きオブ大好きな服装だ。結婚しよう」
「ん…もう!たか兄!!急に抱き締めてくるとかびっくりするじゃん!ちゃんと挨拶してからにしてよ!!」
え?挨拶してからならいいの?ってか、もしかしてシフォンの彼氏とかか?そう思って亮を見てみた。
血の涙を流すって比喩的な言葉あるけど、本当に人間って血の涙が出るんだな。さすが亮だぜ。
「シシシシシ…シフォン……そそそそ、その方は、かかかか、彼氏とかなんかかなななな?」
いい感じで亮がぶっ壊れている。さすが俺の幼馴染だ。
「彼氏!?全然違うよ!ただの昔馴染みのお兄さんだよ!」
「そうか、まぁオレはそう思っていたけどな」
お、復活した。
「その昔馴染みのお兄さんが彼氏になる日が今日ってわけだな。わかります」
「もう!たか兄もボクのバンドのメンバーの前で変な事言わないで!!でも本気ならいいよ?たか兄の彼女になっても。そのかわりキュアトロのライブにボクと手を繋いで行ってね?」
「すまん。さっきの事は忘れてくれ。それで何で初音ちゃんはそこの男の子を笑顔で見つめながら俺の足踏んでんの?超痛いんだけど?泣くよ?泣いちゃうよ?」
このにーちゃんは誰なんだろ?
なんだこの置いてけぼり感。
「それより志保。俺何で呼ば……グホッ」
そう言ってにーちゃんは少し浮いてから倒れた。何なんだ一体。
「あ、先輩ごめんなさいです。わき腹に蚊がとまっていたので、かいかいになっちゃうと可哀想だな~って思って叩いたんですが。当たりどころ悪かったんですかね。テヘッ」
「フヒュー、フヒュー」
このにーちゃん喋る事も出来ないくらい悶絶してるぞ?大丈夫か?
「な、渚!?何でここに居るの!?」
「あ、志保。志保こそ何でこんな所にいるの?今日は女の子のお友達と買い物なんだよネ?アハ、もしかして先輩を呼び出したJKって志保だったとか?それより先輩って志保の事呼び捨てにしてなかっタ?あれ?志保と先輩っていつ知り合ったの?」
「こいつです。こいつが貴を呼び出しました」
「え?え!?ボク!?」
そう言って雨宮はシフォンを差し出していた。
「へぇー、そうなんだ?可愛い子だね?私は渚だよ!水瀬 渚!よろしくね!」
「え?あの…」
「すっごく可愛いね。ほんとに女の子みたいだよ(ボソッ」
水瀬 渚と名乗ったお姉さんがシフォンに何かを言っていた。
「私もキュアトロ好きだしね。わかるよ。でもごめんね、ちょっと志保とお話があるから志保借りるネ?(ボソッ」
「はいぃぃぃ!どうぞ!どうぞです!」
「ありがと。志保、私ね。志保から今日は晩御飯一人で食べてってLINE来たからさ。晩御飯どうしよっかな~って思ってたの」
「は、はい…」
「それでね!先輩がたまたま今日家で一人なんだって言ってたからさ!飲みに行こうって誘ったんだよ」
「土下座…土下座したら許されますか?」
「何で志保が土下座するの?そしたら先輩がね。飲み放題付けるならいいぞって言ったからさ!今日は飲むぞー!って思ってたの」
「ほんと…すみません…。は、初音!ビール!ビール持ってきて!大至急!!」
「それなのにさ。先輩が『呼び出し来たから今日は無理になった』とか言うの。約束してたのにさ」
「ははは、な、渚との約束を破るとか…ほんと貴はダメダメだね!やな奴だね!」
「でしょ?私もそう思ったんだ。そしたら先輩がね。『本当に今日はすまん。今度必ず埋め合わせするから。全部俺の奢りでいいから……その…本当にごめんな』とか言うのよ」
「うわーいい男だね!全部奢りとか!超高級なお店行っちゃおう!ね?」
「だからさ。私は『まぁ、先輩ですしね。最初から期待してないです。埋め合わせとかいいですから、何で無理になったのか教えて下さい』って言ったの」
「は、はぁ…」
「そしたらね。『あぁ、なんか大事な話があるってJKに呼び出しくらったんだわ。あ、そだ。なんなら水瀬もこっち来るか?』って!」
「貴!あんた何言ってんの!?アホなの!?」
「先輩がJKを襲ったりしたら大変だからと思ってついてきたらさ?まさかそこに志保が居るとはね。渚ちゃんびっくり」
「フヒュー、フヒュー」
「うふふ、ここだとあれだし私と志保はあっちのテーブルでお話しよっか」
「渚、あの爪が…爪があたしの腕に食い込んでます。すみません、痛いです」
「それとさ?志保って先輩の事、貴って呼んでるんだね!渚ちゃんダブルびっくりだよ」
「フヒュー、フヒ……ヒュー」
雨宮はそのまま引きずられて行った。
これは雨宮の弱点を知った貴重な機会だった。下剋上のチャンスが到来したわけだ。
よし、俺達Ailes Flammeの戦いは…
これからだっ!!
「何を終わらせようとしてるのさ!!」
シフォンに怒られちゃったぜ。
「いや、だってな?これ俺達の話のはずなのに、俺達完全に置いてけぼりだったしな」
「それで雨宮さんとシフォンは何で僕らを連れて来たの?」
「ボクが連れて来たわけじゃないけど……そこに倒れてフヒューフヒュー言ってる人が昔にバンドやってたんだけどね。最近もまたバンド始めたみたいなんだけど。それで、歌詞を作るアドバイスを貰おうって思ってさ」
「でも今日話すのは無理そうじゃないか?喋るどころか起き上がる事も出来なさそうだぞ?」
「う~ん、多分大丈夫だよ。ちょっと待ってね」
そう言ってシフォンはスマホを取り出した。今時の女子にしては珍しくカバーも何も付けてないようだ。
「たか兄たか兄。聞こえる?聞こえてる?」
「コフュー。カフュー」
そうにーちゃんに話しかけて、シフォンは数歩ほど離れた。
「たか兄!すごいよ!マイリーのオフショが公開されてる!すごい可愛いよ!」
ガバッ!
ガタッ!
にーちゃんがその言葉に反応して起き上がった。そしてそれと同時くらいに水瀬 渚ってねーちゃんもイスから立ち上がった。
そうかにーちゃんもねーちゃんもマイリーが好きなのか。
俺はどっちかと言うとユキホ派だ。
拓実はシェリー派で、亮とシフォンはミント派だ。4択なのに『どっちかと言うと』って言い回しおかしいよな?
「起きたねたか兄!」
「起きたねじゃねぇよ。油断してた所に思いっきりリバーブローだよ?知ってる?肝臓って人体の急所なの。それも背後からだから水瀬の右ブローだよ?これ絶対何本かあばらもっていかれてるよ」
「たか兄少し浮いてたもんね」
「それより早くマイリーのオフショ見せなさい。俺は早く癒えねばならん」
「うっそぴょーん!」
「は?」
「…志保!よそ見しないの!ちゃんと答えなさい!」
「え!?よそ見してたの渚だよ!?」
あのねーちゃんと仲良くなったら雨宮に怯えて生きなくてよくなるかな?
「は?お前、嘘ってどういう事だよ?お?マイリーのオフショ楽しみに死の淵から戻ってきたんだぞ?わかってんのか?あ?」
「そんな事より!ボクはたか兄に聞いて欲しい事があるのだ!」
「聞いて欲しい事だぁ?遺言か?いいだろう。聞いてやる」
「むー?いいの?ボクにそんな口聞いて!」
「それが遺言か?よし、歯を食いしばって祈れ」
「渚さんにあのこと言っちゃうかも?シフォンの時のボクっておしゃべりだからさ?(ボソッ」
「そ、そんな事で俺がビビると思ってんの?ちなみにあの事って何ですか?」
「でもまぁボクもたか兄にはお世話になってるし?たか兄が志保に渚さんがTwitterやってるってばらしてたとか言えないけどね(ボソッ」
「シフォン。俺に聞きたい事ってなんだ?ゆっくり聞いてやるぞ?」
「じゃあ、ボク達の紹介からね!まずはボーカルの江口 渉くん!」
「よろしくな!」
「そしてギターの秦野 亮くん!」
「うす。それよりシフォン。さっきのうっそぴょーんってすごく可愛かったぞ」
「亮くんありがとう!
で、この子がベースの拓実くん!」
「どうも」
「そしてボクがドラムのシフォンちゃんだ!」
「はぁ、どうも。えっと俺は昔BREEZEってメジャーでもないバンドでボーカルやってた葉川 貴っていいます」
「むー、適当な自己紹介だなぁ」
「え?俺の自己紹介の方が情報量多いけど!?」
「昔ってどれくらい昔にバンドやってたんすか?」
「15年前かな」
「15年前!?僕達まだ2歳だよ!?」
「え?にーちゃん何歳なんだ?27、8くらいかと思ってた…」
「永遠の20歳だ」
「それはいくらなんでも無理があるよ?」
「で?聞きたい事って何なの?可愛い女の子の口説き方?そんなの俺が教えてほしいんだけど?」
「ん、んとね!ボク達のバンド今度前座やらせてもらうじゃん?」
「ああ、そんな事言ってたな」
「そこでボク達のデビュー曲発表しようと思ってるんだけどね。曲はあるんだけど歌詞が浮かばなくてさ。どうしよっかってなってて」
「そうか。ふぅむ…曲はあるんだな?」
「え?あ、はい。オレがガキの頃から作曲するの好きでして曲だけなら…」
「それで僕らで亮の曲を色々聞いて、これいいって思ったやつをデビュー曲にしようと思ったんです」
「う~ん、なら割りと簡単なんだけどな。あれか?かっこいい曲がいいとかバンドのイメージに合う曲がいいとかかっこいい単語とか英語調べて使ってみたり、可愛い曲がいいとかそんなんで歌詞出来ないとかか?」
「それ!まさに今の俺達それなんですよ。俺はせっかくのデビュー曲だし、かっこいいのがいいって思ってて」
「オレもせっかくですしかっこいい曲にしたいって思ってます。ですが、どれもしっくり来ないって言うか……」
「ん~~、そだな。じゃあ俺が今からマイリーの可愛さを語るから聞いてくれるか?」
「「「「は?」」」」
「ダメか…じゃあ、OSIRISの京ちゃんについて熱く語るから聞いてくれ!」
「あのさ…たか兄何言ってるの?ボク達真剣に相談してるんだけど?」
「そうか…。ありがとうな!にーちゃん!俺、帰って早速歌詞書いてくる!」
「「「え?」」」
「おう。前座は俺も見に行ってやるわ。だから頑張れ」
「おう!任せてくれ!じゃあ、悪い。俺は帰る…!」
そうか…そうだよな。
俺は根本的な事を忘れてた。今なら書けると思う。
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「お、おい、マジで渉のやつ帰りやがったぞ?」
「僕もびっくりだよ。さっきの話で何か掴んだのかな?」
「んー、まぁ、渉くん?だっけ?あの子にはわかったって事じゃね?」
「え?ボクもさっぱりはてなって感じなんだけど?どういう事?」
「俺がかっこいいって思うのはOSIRISの京ちゃんで、可愛いって思うのはキュアトロのマイリーだ」
「え?え?どゆ事?」
「そ、そうか。オレ達がかっこいいって思う単語を並べ立てたり、こんな事言ったらかっこいいって思って書くような歌詞は、オレ達が本当に伝えたい言葉じゃない。そんな歌詞じゃまわりにも自分達にすらも伝わらないって事か…」
「ま、そういう事だわな。自分がかっこいいって思う事を伝えたいって気持ち。せっかく曲にすんだから、その自分のかっこいいってのはどこがどうかっこいいのか。何でバンドやろうと思ったのか。とか?自分の想いを誰かに伝えるつもりで書かないとな。上辺だけのかっこいい単語を並べるとか独りよがりに伝えるだけじゃ、バンドメンバーにすらしっくりこねぇ歌詞になるよ」
「あ、なるほど。そうか、そうだよね。僕達が音に乗せて何を伝えたいか。それが僕達の歌詞であり曲なんだね」
「渉くんはさっさと帰っちゃったから、こっからも大事な事だけどな。渉くんが歌詞を完成させても曲にはうまく合わんと思う。そこはみんなで相談しながら曲に合うようにフレーズなり曲を調整していくようにな」
「あ、ありがとう!たか兄!」
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で…出来た…。
久しぶりに徹夜したぜ…。眠い…。
亮の曲聞きながら何度も曲に合うフレーズになるように書き直してたりしてたらもう朝かよ…。おやすみなさい……って、ダメだダメだ!!今は寝るわけにはいかない!
学校に行って亮と拓実にこの歌詞見せないとな!それにこの眠気も必死で我慢してたら、いつしか快感に変わるかもしれないしな。
俺は眠気で誘惑してくる睡魔と戦いながら学校に登校し、昼休みまでぐっすり寝る事に成功した。ふぅー!よく寝たぜ!
昼休み、いつもの屋上で亮達と昼メシを食べていた。
「渉ずっと寝てたね?いびきすごいし、みんなで起こそうとしてたけど…」
「ああ、だから目が覚めたら俺廊下にいたのか?」
「渉くん、もしかして…徹夜した…の?」
「ああ!おかげで歌詞も完成した。多分俺達の今にピッタリな歌詞だと思う」
「お、見せてくれよ。どんなのだ?」
「おう!せっかくだし井上も見てくれよ!」
「曲名は『
「一応、亮の曲に合わせながら書き直してみたりしたけど、早速今日の練習の時にでも歌詞入れた練習したい」
「なかなかいい歌詞だな。確かに今の俺達にピッタリな感じがする」
「うん、僕も…シフォンも気にいると思うよ」
「よし!今日の放課後から早速練習だな。歌詞が曲に合わないって箇所があったら都度修正していこう!」
「おう!」
こうして俺達のライブのデビュー曲。
Ailes FlammeのChallengerは何とか完成した。
みんなで音合わせの時とかに色々修正とかしたけど、俺達がみんなに伝えたい曲が出来たんだ。
練習もバッチリ。前座の時間もシフォンがライブハウスのおっちゃんと調整したりでセトリやMCを入れる時間も決まった。
そして本当にライブの前座をやる日の朝がやって来た。
俺達は朝から集まって、スタジオで何度も何度もリハーサルをして、今日の前座に挑んだ。
やるだけはやった!
後は本番でぶちかますだけだ!!
俺達はライブハウス『ファントム』の前に立っていた。