俺の名前は宮野 拓斗。
昔BREEZEというバンドでベースを担当していた。
今は
俺のバンドのメンバー。
キーボード担当の観月 明日香。
この子はまだ16歳だ。
10年前…この子がまだ6歳の時、ミュージシャンだったこの子の両親はクリムゾンに敗れ、この子を置いて行方知れずになった。その時から俺はこの子の親代りとして一緒に過ごしている。
この子は両親の仇としてクリムゾンを恨んでいる。
タカの言う通り、俺はこの子がクリムゾンを憎みながらの音楽をやらせるのではなく、楽しんでやる音楽を教えてやるべきだった。
そして、ドラム担当の三浦 聡美。
こいつは高校の頃からバンド活動をやっていた現役の女子大生だ。
半年ほど前のある日、こいつのバンドはクリムゾンのミュージシャンとデュエルギグをして敗れた。
バンドメンバーのボーカルがクリムゾンに引き抜かれ、バンドは解散。その事でクリムゾンを恨んでいる。
ある日こいつは奪われた仲間を取り戻そうとクリムゾンにデュエルを挑んだ。その時に俺が助けてやり、それから俺に着いて来るようになった。
俺は聡美に復讐なんて辞めさせるべきだったんだ…。
ギター担当の御堂 架純。
こいつはBlue Tearというアイドルグループで活躍していた。
その中でもダンスと歌の上手いセンター3人組の一人。
だが、Blue Tearの事務所はクリムゾングループに潰され、Blue Tearは解散。
その後、センター3人組はクリムゾンエンターテイメントに引き抜かれ、日々の過酷なレッスンの強要により、1人は倒れ、架純ともう1人は喉を壊し歌えなくなり、自分と友達の夢を壊したクリムゾンを恨んでいた。
喉を壊し歌えなくなる。
俺はタカを見てきただけに架純の苦しさがよくわかった。だから俺は架純を連れて行こうと思った。
だが…、架純はどうも昨日の一件からタカの事を気にしている様子だ。何かタカの事やたら質問してくるし。
これは由々しき事態だ…。
英治が架純の事を好きで、架純がタカの事が好きとかなると、どこかで聞いた事のあるような話になる。
まるで誰かが梓の事を好きで梓がタカを好きだった頃のような…。あ、苦い思い出が…。頭痛い頭痛い。
まぁ、英治は妻子持ちだし大丈夫か。
それに架純。いくらお前であってもタカは渡さねぇからな!!
あ、一応言っておくが俺がタカの事を好きとかそんな話じゃないからな?
「拓斗くんお待たせ。用意出来たで」
「ああ、わかった…」
俺達は英治にトシキの別荘に来るように言われていた。
何か大事な話があるらしいが…。
「ん?お前ら…」
「ん?どしたん?」
「何でそんないい服着てるんだ?」
「そやねん。なんか明日香も架純も…」
「気のせい…だよ。たまたまこの服しか…なくて…」
う~む…。架純と会ってまだ3ヶ月程度だがスカート履いてる所なんて初めて見るんだが…。
「これから拓斗もお世話になるわけだしね。保護者として正装でお邪魔しないと…。恥をかくのは私なんだから」
いや、何でだよ。保護者は俺の方だし。
むしろそんな正装でお邪魔した方が余計浮くし恥かいちゃうからな?
「はぁ…まぁ…行くか…」
・
・
・
トシキの別荘か。久しぶりに来るな。
「あれ?拓斗…さん?」
「お前…拓実?何でトシキの別荘に…」
そこには2日前の夜。
俺達の泊まっている旅館で出会った内山 拓実がいた。
まさか拓実もファントムの関係者だったとはな…。
「あ、拓斗さん」
「うー!宮野 拓斗…!」
奈緒、盛夏…。
「貴に…聞きました。その…何て言えばいいか…あはは」
「奈緒~。あたしは先に別荘に入ってるね~」
「あ、盛夏…。
す、すみません…盛夏は…その…」
「いや、元々は俺の勘違いが原因だ。俺の方こそ…悪かった。もうBlaze Futureに解散しろとか言わねぇから……安心してくれ」
「はい…。安心しておきます」
「拓斗!悪かったじゃないでしょ?
ちゃんと頭を下げてごめんなさいでしょ!」
あ?明日香?元はと言えばお前がタカが喉の手術とか言うから…。
「佐倉 奈緒さん。先日は本当に申し訳ありませんでした。ほらっ!拓斗も!」
「ああ、はい。どうもごめんなさい」
そう言われしぶしぶ頭を下げた。
「そんな!気にしないで下さい!拓斗さんも貴を心配しての事だったじゃないですか!?私ももうそんなの気にしてませんので…!頭をあげて下さい!」
「あのコレお詫びと言うか…。つまらない物ですが…」
そう言って奈緒に何か大きな箱を差し出す明日香。あれ?俺どっかであの箱見た事あるぞ。
「え?あの…これは何ですか?」
「BREEZEの今までのライブやプライベートライブ、PVやリハ風景などもろもろ。それに当時の練習風景なんかを撮影したDVDセットです」
は!?お前それ俺の大事な…!!
「え!?まじですか!?ガチですか!?
め……めちゃくちゃ宝物…いえ、もう国宝と言っても過言じゃないレベルの代物じゃないですか…。こんなのいただいちゃっていいんですか…?」
いや、待って!それ本当に俺の大切な宝物なんですけど!?
「はい。どうぞ」
どうぞじゃねーよ!
「ありがとうございます!これは佐倉家の…いえ、私の一族一丸となって家宝として永遠に奉ります!」
ありがとうじゃねーよ!待って!それだけそれだけは…!
「拓斗さん…本当にありがとうございます。大切にします(ニコッ」
「あ、ああ。別に構わねぇよ。俺には大したもんじゃねぇしな」
言っちゃった!つい構わねぇよとか言っちゃったよ!
あんな嬉しそうにいい笑顔でありがとうとか言われたら返してくれなんて言えねぇよ!!
ああ…さようなら俺の思い出…。
そして奈緒はスキップしながら別荘へと入って行った。
「これで佐倉 奈緒へのつかみはオッケーね!」
「あ、あの…拓斗さん大丈夫ですか?」
「すまん、拓実…俺の心は今折れちまった…」
クッ、いつまでもクヨクヨしててもしょうがねぇ…。もしかしたら英治も持ってるかもしれねぇしな。ダビングさせてもらえねぇかな……。
「あ、拓斗さんだ。拓実くんもおはよ~」
「あ、香菜さん!おはようございます!」
香菜…次は香菜か…。
よし、明日香に言われるより先に…。
「香菜、先日はすまなかった。
俺が悪かった。迷惑を掛けちまったな。
本当にごめんなさい」
そう言って俺は深々と頭を下げた。
どうだ明日香。これで文句ないだろう?
「わ、拓斗さん!拓斗さんもタカ兄を心配しての事だった訳ですし、気にしないで下さい!頭をあげて下さい!」
「あの…雪村 香菜さん。これつまらない物ですがお詫びの品という事で…」
な、何だと!?明日香!お前香菜には何を……。
…………は?ドラムスティック?
ああ、香菜はドラマーだからな。ドラムスティックをお詫びに渡すわけか。
ドラムスティックは消耗品だからな。
フッ、明日香にしてはなかなかのベストチョイスだ。
「え?あ、ドラムスティック?ありがとう。使わせてもらうよ」
「いえ!使うなんて勿体ない!
それは拓斗が昔アーヴァルのダンテから頂いたドラムスティックですよ!ほら、ここにサインが」
え…?待て明日香。
それも俺の宝物じゃん!すっごく大事にしてたのお前も知ってるじゃん!
「わ、本当だ!こ、こんなお宝…貰っちゃっていいの…?」
「はい。香菜さんはアーヴァルのダンテがお好きだと聞きましたので」
「ありがとう!うわー!すっごく嬉しい!!」
ああ…もう諦めるしかないよな…。
さようなら俺の宝物…。
香菜はスキップしながら別荘に入って行った。
「これで雪村 香菜へのつかみもバッチリだわ!」
明日香ぁぁぁ(ギリッ
「おう、拓斗か。お前何やってんだ?
拓実くんも一緒かよ。早く入れよ、みんな揃ってるぞ?」
ああ、英治か…。
「あ、英治さん。これからうちの拓斗がお世話になります。これつまらない物ですが…」
何ぃぃぃぃ!?英治にも何か渡すの!?
ちょっと待って!何を渡すつもり!?
「おお!これはっ!架純ちゃんのサイン色紙!!いいのか!?貰っちゃっていいのか!?」
あ、何だ…架純のサインか…。
「はい♪拓斗の事よろしくお願いしますね」
「うぉぉぉぉぉ!額縁!額縁買わなくちゃ!」
英治はスキップしながら別荘に入って行った。
「ふっふっふ。これで英治さんのつかみもパーフェクトだわ」
「た、拓斗さん。別荘に入りましょうか。拓斗さんのバンドメンバーの他の女の子達はとっくに入って行きましたし…」
え?聡美も架純も先に別荘に入っちゃったの?何で?
ハァ……俺達も別荘に入らせてもらうか…。
・
・
・
俺達Lazy Windとファントムのメンバーはある一室に通され、四角いテーブルを囲むような形で座っている。
-ピシッ
タカと英治とトシキと初音はホワイトボードの前に立っていた。
-ピシッ
しかし……。
「ああ、みんな集まってもらって悪いな。今から大事な話をするわけだ。ぶっちゃけめんどくせぇけど聞いてくれ」
-ピシッ
「昨日は南国DEギグであんな事があったわけだが…」
-ピシッ
「タカ、ちょっと待ってくれ。話の前にひとついいか?」
-ピシッ
「あ?拓斗…?何だ?お前に発言権はない」
-ピシッ
「いや、あのな…」
「何だよめんどくせぇな。飛行機の時間まであんま余裕ねぇんだしさっさと話終わらせたいんだけど?」
-ピシッ
「ああ、それには俺も同意なんだがな。さっきから向かいの席に座ってる盛夏が俺に輪ゴムを飛ばしてきてんだけど?
地味に痛いんで止めさせてもらえねぇか?」
「あ、輪ゴム無くなっちゃった~」
「盛夏様。どうぞ輪ゴムでございます」
「お、澄香さんありがとう~」
いや、ほんと止めて?地味に痛いから。
何で澄香は盛夏に輪ゴム渡してんの?
お前俺の事嫌いだったっけ?
「チ、拓斗のくせに面倒な事言いやがって。あ~、盛夏。ゴム飛ばすの止めてやれ。痛いらしいわ」
「え~?やだ~」
「嫌だとよ。諦めろ拓斗」
何でだよ!止めろよ!大事な話なんだろ!?さっきからピシピシうるさいじゃん!
「で、昨日は南国DEギグであんな事があったわけだがみんな本当に無事で良かった。お疲れ様だったな」
「いや、本当に止めないのかよ!そのまま話続けんの!?」
-ピシッ
あ、痛い。ほんと、ほんと止めて。
・
・
・
その後、英治が盛夏にお菓子を渡し、なんとか輪ゴムを飛ばしてくるのを止めさせる事に成功した。
タカからは昨日の労いの言葉と、爆発の原因はクリムゾンエンターテイメントの九頭竜派の仕業だろうという事が語られた。
「ま、昨日の件はそんな感じだ。マスコミとかにも規制入ってるみたいだしな。
みんな口外はしない方がいい。この件の話はそんだけだ」
ほう…。昨日の件でもっとざわつくかとも思ったが…。
フッ、さすがタカの…ファントムの仲間だな。みんな覚悟はあるという事か。
-ピシッ
痛っ、痛い。何で?盛夏は何でまた輪ゴム飛ばしてきたの?
「ニヤニヤしてて気持ち悪かった」
「盛夏様。わかります」
え?澄香?お前ほんと俺の事嫌い?
「さて、俺からもういっこ大事な話があるんだが…」
ん?大事な話だと?
「言いにくいなぁ…言うの怖いなぁ…。おい、英治かトシキから言ってくんね?」
「あ、俺みんなのお茶煎れ直してくるわ」
「俺は場所を提供してるって事で」
「なんなら拓斗か澄香でも可。あ、三咲でもいいぞ?」
あ?俺?そもそも俺は何の話するのか知らねぇし。
「私よりタカくんの口から言った方がいいよ?晴香にしばかれそうになったら止めてあげるから」
「へ?あたし?あたしがタカをしばき倒すような話なの?」
〈〈〈ざわざわ〉〉〉
晴香がタカを?
すまねぇ、タカ。晴香からは守れる自信はねぇ…。
晴香がタカをしばくとなったら俺が止めに入った所で二人まとめてしばかれるだけだろう。許せ友よ。
「ハァ…しゃあねぇな…。
みんなArtemisのボーカル、木原 梓って名前を聞いた事くらいはあると思うんだが…」
「梓お姉ちゃん…?」
「梓は15年前に道路に飛び出した子供を守る為に車にひかれたんだが…」
「子供を守る為に…」
「そうだったのね。梓さんはそれで…」
「実は死んでねーんだわ。元気に生きてたりするんだよこれが」
「「「「「え?」」」」」
「梓お姉ちゃんが…生きてる…?」
「タカァァァァ!!!!」
ひっ!?晴香!?
「ヒィ!?ほら!やっぱ晴香怒ったじゃん!三咲!助けろよ!」
「テメェ…!!」
晴香はタカに飛びかかり胸ぐらを掴んだ。
よし、巻き添えをくらう訳にはいかん。今のうちに逃げよう。俺も晴香に隠してた訳だしな。
「ヒィ!?誰か!誰か助けて!
あ、英治トシキ拓斗!お前ら何逃げてんだ!」
「タカ…あたしに隠してたってのは不問にしてやる…」
「ほんとですか?助けてくれますか?ありがとうございます。ありがとうございます…」
「助けてやるとは言ってないよ…」
「ヒィ!?三咲!三咲助けて!
え?あれ?三咲いないじゃん!どこ行ったの!?あ、澄香もいねぇ!?」
「いいか?今からあたしはお前に質問をする。命が惜しかったら真面目に答えろ。変なボケはいらねぇ。そして余計な事は喋るな」
「は、はい。かしこまっ!」
「余計な事は喋るなって言ったよ?」
「コクコク」
「さっきの話は本当?本当に梓は生きてるの?」
「はい。生きてます…」
「嘘だったらあんたの痔をこの場で破裂させる!」
「おまっ、何で痔の事を…」
「そんな事はどうでもいい。それよりまた余計な事喋ったね?」
「す、すみません。本当です。本当に梓は生きてます…。今はアメリカに住んでます…」
「アメリカに…?何で?」
「事故の時の怪我を…療養の為なんですぅ…」
「じゃあ…本当に…本当に梓は生きてるんだね」
「はい。本当です。本当の話でございます。ですから何卒…何卒命だけは…」
「……うぇ」
「上?」
「うぇぇぇ…梓…生きてたんだ…あたし…ずっと……うぇぇ…良かったよぉ…あずさぁ~うぇぇぇん」
「晴香……。………悪かったな、黙ってて」
「何勝手にあたしの頭を触ってんだ?
そして余計な事を喋ったね?3度目だよ?」
「ちょっ、まっ…すみませんすみません本当にごめんなさい。ヒィ!?」
「梓お姉ちゃん……本当に…生きてるの?」
「ギャァァァァァァァァ」
・
・
・
タカの叫び声が聞こえる…。
やはり晴香には慈悲の心はなかったか。
我が妹ながら恐ろしいやつ…。
俺は晴香の暴力という名の制裁に恐怖し、別荘の外へと逃げていた。
「ん?何だよ結局拓斗も逃げて来たのか」
「たりめぇだ。俺はまだ死にたくねぇ」
「あはは、大丈夫。きっと三咲ちゃんが助けてくれてるよ」
まぁ、三咲なら格闘技もそれなりにやってたしな。何とかなんだろ。
「いやー、相変わらず怒った晴香は怖かったね」
「ほんとだよね。うっかり私も逃げて来ちゃった。タカくん大丈夫かなぁ?」
え?三咲も澄香も?
待てよこれやばくね?タカを助けてくれる人いないんじゃねぇか?
「三咲お前…タカを助けてやってたんじゃねぇのか…?」
「え?怒った晴香ちゃん怖かったし」
「澄香ちゃんも…はーちゃんを助けてあげれば良かったのに…」
「いやーあれはさすがに無理だって…」
「おい、それよりこれからどうする?
どのタイミングで戻る?」
「ん~?晴香の怒りが収まるまで?」
「はーちゃん一人の犠牲で晴香ちゃんの怒りは収まるかな?」
「拓斗。俺はお前を親友だと思っている」
「は!?ふざけんな英治!あいつは身内相手でも容赦するような事はねぇんだぞ!それより三咲なら晴香にも勝てるだろ!?」
「英治くん、様子見てきてよ」
-ドサッ
ん?何だ?
「ねぇ?あんた達みんな知ってたって事?」
クッ…晴香…!?
ん?待て…晴香が引き摺っているアレは何だ…?
「ねぇ晴香ちゃん。……もしかしてなんだけどね?その引き摺ってるのってはーちゃん?」
「ん?コレ?うん、さっきまでタカだったモノかな」
タカ…!?まじでか!?
「おいおい、晴香ちょっと待てよ。
これは青春×バンドのお話だぜ?ホラーじゃないんだからよ?その辺で止めとこうぜ。な?」
「次は英治か……」
「は?お前何言って……ん?あれ?
ちょっと待って!何で三咲もトシキも拓斗も澄香も居ないの!?俺を置いて逃げたの!?」
-ガシッ
「つ~かま~えた~」
「おい、晴香ちょっと待てよ。話し合おう…な?俺、まだ小さい初音を置いて死ねねぇよ」
「あたしに隠してた事…不問にしたのはタカだけだから」
「ギャァァァァァァァァァァァァ」
・
・
・
「本当に梓お姉ちゃん…生きてるんだ…」
「良かったわね。渚…」
「うん…でも…何で隠してたんだろう?
ずっと…15年も…」
「クリムゾンから身を隠す為。それとお前らの為でもある」
「拓斗さん!?」
俺は外で逃げるより敢えて室内に戻る逃げ道を選んだ。
まさか室内に戻ってるとは思わないだろう。
フッ、せいぜい外を探し回るがいい。
そしてその怒りをお納めください。お願いします。
-トントン
「あ?誰だ俺の肩を気安く叩くやつは?」
「さっすが兄妹だよね。次に兄貴が逃げそうな所。すぐわかったよ」
なっ!?バ、バカな…!何故室内に戻って来た!?
トシキも三咲も澄香もまだ外だろ!?
いや、それより英治は!?英治はどうなった!?
「兄貴はついでに今まで放浪してた分もあるよね」
「待てよ晴香、落ち着け…。俺は妹であるお前を1日足りとも忘れた事はない。愛しているぞ我が妹よ!」
「それが遺言か?あたしはたまに兄貴の事思い出さない日もあったよ。サヨウナラ兄貴」
まずい…やられる。
チ、のこのこ戻ってくるんじゃなかったぜ…。明日香、聡美、架純、強く生きろよ…。
「晴香さん!待って下さい!!」
「ん?渚?どうしたの?」
「あの、拓斗さん…さっき梓お姉ちゃんの事を黙ってたのは身を隠す為と私達の為って言ってましたよね?どういう意味ですか?」
「え?あたし達の為?
………兄貴、どういう事?」
俺は…助かった…のか…?
「兄貴?」
「あ?ああ、梓の事か?お前も聞いた事あんだろ?梓がクリムゾンの奴らに殺されたって噂」
「え?うん…だから兄貴は梓の仇討ちの為にクリムゾンと戦ってると思ってたんだけど…?」
「……どこから話せばいいか。
まず、梓達Artemisはクリムゾンエンターテイメントに狙われていた。
それは梓ならアルティメットスコアを歌えると思われていたからだ。
アルティメットスコアなんか完成もしてねぇ。存在すらしねぇスコアなのにな」
そうだ。アルティメットスコアなんて存在しないのに…梓は…Artemisは…。
「梓お姉ちゃんがアルティメットスコアを…って」
「どういう事なんすか?アルティメットスコアなんてないんすよね?」
「それだけの理由で梓さんを?」
〈〈〈ざわざわ〉〉〉
「クリムゾンエンターテイメントの創始者海原には特別なチカラが2つあった。
楽器の声を聴くチカラ、感情や想いを音色に変えて歌うチカラだ」
「楽器の声を聴く…?澄香さんが仰ってた…」
「単体でそういった特別なチカラを持ってる奴なら稀にいるんだけどな。タカにも…」
「貴にも…ですか?」
「そういや貴ちゃんには物体を爆弾に変えるチカラが~」
「ええ、貴さんにはキラークイーンがあるわね」
「それなら私にも時間を吹き飛ばす力があると思うんだよ」
「さすがにーちゃんだぜ…」
「そうだよ!たか兄にはキラークイーンがあるんだから、昨日の南国DEギグの時も外壁を爆破してくれたらみんなもっと早く避難出来たのに!」
「ねぇ双葉。みんな何を言ってるの?」
「ああ、うん。貴くんのスタンド能力の話だよ」
「チ、キラークイーンか…奏、まずいな」
「ああ、葉川さんと戦うとなると最初から本気で挑まねばな…」
いや、お前ら何言ってるの?
キラークイーン?
「それで?その海原のチカラってのと梓に何の関係が?」
「あ、ああ。話を続けるぞ。
単体でそういうチカラがある奴はいるが、海原はその2つのチカラを合わせて『楽器の声を歌声にのせるチカラ』が使えた。
海原はそのチカラがアルティメットスコアには必要だと思ったんだろう」
「それを…梓は使えたって事?
だったら海原がアルティメットスコアを歌えば…!何で梓を!」
「海原は音痴だった。だから歌えなかった」
〈〈〈音痴?え?海原って音痴だったの?〉〉〉
「そして海原と同じチカラを持つ娘は歌は問題ないが楽器がまるでダメだったしな」
「海原の娘って…聖羅の事?」
「聖羅?お~、お母さんと同じ名前だ~」
「そりゃそうだろ。お前は海原の孫だからな」
〈〈〈え!?〉〉〉
「ちょ…ちょっと待って?どういう事?
盛夏が海原の孫…?」
「え?え~っと…マジで?」
「あたしのおじーちゃんがクリムゾンエンターテイメントのボス?」
「なぁ拓斗にーちゃんってさりげに爆弾発言してないか?」
盛夏が海原の孫だとみんな知らなかったのか…?まさかタカ達も盛夏自身も…?
チ、まずったな…。いらねぇ事言っちまったか…。
盛夏も母親から聞かされてなかったのか…。
「ん~?…あっ!!
そっかそっか~。あたしがクリムゾンエンターテイメントのボスの孫だから宮野 拓斗はあたしだけは認めないって言ってたのか~」
「あたし達…盛夏のおじいさんを…」
「……あっ!?もしかして~、あたしみんなの敵?」
〈〈〈そんな訳ないっ!〉〉〉
こいつら…全員で声を揃えて…。
「盛夏!バカな事言わないで!
盛夏は私の大事な親友だよ!!盛夏のおじいちゃんが海原だろうと誰だろうと関係ない!!」
「そうだよ盛夏!奈緒の言う通りだよ!今度そんな事言ったら私怒るからね!」
「そうそう。それにそんな事で敵になるなら、あたしのお父さんもクリムゾンなんだしさ。あたしもみんなの敵になっちゃうよ」
「そうよ盛夏。あなたは私の大事なと…友…友…」
「も~、理奈ちもこんな時くらい恥ずかしがらずに友達って言いなよ~」
「い、言わなきゃわからないなんて盛夏も香菜もまだまだね」
「盛夏。あたし達はあんたの敵じゃない。大事な仲間であり、大事な友達の蓮見 盛夏なんだから」
こいつら…。いい仲間だな。
「みんな~………ありがとう~。
でもね?あたしが貴ちゃんの彼女になっても友達?敵じゃない~?」
「あったり前じゃんか。どんな事があっても友達だよ!ね?みんな?」
「そうだよ盛夏。そんな事くらいで敵になるわけないよ。ね、みんな?」
「「「「…………え?うん?まぁ?もちろん?」」」」
「え?あれ?奈緒?理奈?渚?ってか志保まで?さっきまでのは何だったの?」
「盛夏。お前の母親の聖羅もな俺達と仲間ではあった。海原の孫だろうが何だろうが関係ねぇ」
「宮野 拓斗…」
そう言って盛夏は俺の所まで近付いて来て…
「ペッ!」
え?俺なんで唾を吐きかけられたの?
「それでそのチカラを使えた梓が狙われたってわけ?」
「ああ、梓も海原の娘だからな。梓がArtemisとしてこっちで歌い始めたせいで狙われたんだろうぜ」
〈〈〈は?〉〉〉
「梓が…海原の娘…?」
「ああ、妾の娘だがな。知らなかったのか?」
「梓お姉ちゃんが…海原の娘…?」
「ん?って事は~?たまに会ってた叔母さんが梓さん?」
「え?それって盛夏は梓に会った事あるって事!?」
「たまに~?」
「貴さんは盛夏が梓さんに会った事あるって知ってたのかしら?」
「もうタカ兄には聞けないもんね…」
え?タカにはもう聞けないの?
タカどうなったの?
「それで…梓はクリムゾンエンターテイメントに…?」
「ああ。梓も含めArtemisのメンバー全員がクリムゾンのやり方には反対派だったしな。そして俺がアルテミスの矢を作ってクリムゾンエンターテイメントとの戦いが本格化し始めた。
まぁ、この辺りはまた外伝的なもんで語られるだろ」
「だったら余計にさ。梓がクリムゾンエンターテイメントには必要だったわけでしょ?何で殺されたなんて…」
「それはな。梓が事故にあった時に庇ったガキがクリムゾンエンターテイメントのガキだったからだ」
「クリムゾンエンターテイメントの…?」
「くそったれの九頭竜があらゆる音楽の英才教育を施し育てていたガキ共がいる。その内の一人だ」
「そうだったんだ…」
「でも何でその子がクリムゾンエンターテイメントの子ってわかったんだ?」
「そうだな。確かにまだ謎は多いな」
チ、しゃあねぇか。ここも話すしかねぇな。命が惜しいし。
タカもこの事も話すつもりだったかも知れねぇしな。
「俺達はその子を『サガシモノ』と呼んでいた。俺はそのガキを探す為にずっとクリムゾンと戦っていた」
「それが兄貴のクリムゾンと戦ってた理由?まさかその子に復讐するつもり?」
「『サガシモノ』?それって澄香さんも探してたっていう?」
「俺達は…?つまり貴兄達も?」
「タカにも英治にもトシキにもそんな話聞いた事なかったよ…」
「そのガキは海原に盲信している九頭竜が作り上げた生命体
梓の遺伝子を培養して作った生命体だ」
〈〈〈は?〉〉〉
「ちょっと待て…何だそりゃ…」
「作り上げた生命体?しかも梓さんの遺伝子で…?」
「そんな事許される訳が…!」
「海原は梓をクリムゾンエンターテイメントに取り込もうとして、九頭竜はその生命体を梓の代わりにしようとしていたらしい。だから九頭竜には梓は邪魔だったんだ。梓が殺されたって噂はそのせいだろう」
「九頭竜には梓さんが邪魔だった…?」
「九頭竜はその子を使って梓さんを?」
〈〈〈ざわざわ〉〉〉
「いや、梓の遺伝子で作られたガキは、梓に会いたいと思ってクリムゾンエンターテイメントを脱走したらしい。
梓が事故にあったのはその時にたまたまだ」
「クリムゾンエンターテイメントを脱走?」
「梓さんに会いたかったからって…」
「そのガキにとっては梓は母親みたいなもんだからな…。梓が事故にあったのを目の前で見てしまったガキは自分が脱走をしたせいで梓が事故にあったと思い、クリムゾンエンターテイメントに戻った。だからガキも梓が生きている事は知らねぇだろう」
「そんな…」
「自分の母親のような人が自分のせいで…」
「その子…かわいそう…」
「一命を取り留めた梓はそのガキをクリムゾンエンターテイメントから救い出したいと思っていた。だから俺はそのガキを探していたんだ」
「そっか…だから兄貴は…恨みからじゃなかったんだ…」
「いや、クリムゾンに恨みもあったぜ?
梓もそんな事がなければ事故に合わなかったかも知れねぇし、タカの喉が悪化して歌えなくなったのもクリムゾンとの戦いが長引いたせいだしな」
みんな静かになったな。まぁ、無理もないか。
こんなのまるで漫画やゲームの話みたいなもんだ。現実でこんな事が起こるなんて、関わり合う事になるなんて思ってもみなかっただろうな。
「それで梓が生きているとなるとまたクリムゾンに梓は狙われる事になるだろうし、梓を探す為に、関係が深かった俺達のまわり連中も、梓の実家の近所の連中もクリムゾンに狙われるだろうって事でな。梓は死んだ事にしてたわけだ」
「そうだったんだ…それで隠してたんだね…」
晴香!わかってくれたか!?
「じゃあ…連絡もなく放浪してた分だけにしとこっか」
え?
「ここだとみんなの目もあるし、兄妹水入らず、アッチで逝こうか」
待って晴香!
言い方間違えてるよ?『あっちで』じゃないよ『あっちに』だよ?日本語はちゃんと使おうな?あと『いこうか』の漢字がおかしいから!
「ほら、こっち来い」
俺は『え?こいつ本当に女?』と思うような力で晴香に引きずられた。
「待って!誰か!誰か助けて!
明日香!架純!聡美!!」
「ほら、早く。タカも英治もきっと待ってるから」
嫌だ!嫌だ嫌だ嫌だぁぁぁぁぁぁ!!
「ギャァァァァァァァァァァァァ」