バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第21話 私達の始まり

「おはよ」

 

「おはよう美緒。

……あら?制服なんか着て学校に行くの?」

 

「うん。先生にも言わなきゃいけないし、睦月達にも……」

 

「そっか。大変な事もいっぱいあると思うけど、自分で決めた事なんだから、奈緒も美緒も頑張るのよ。お母さんとお父さんも応援してるから」

 

「いや、お父さんの応援はいらない。

お父さんとお姉ちゃんはもう出掛けたの?」

 

「うん。奈緒も今日からお仕事だしね」

 

「そっか。お姉ちゃんも忙しいね。

私も行ってきます」

 

「朝ごはんはいいの?気を付けて行ってらっしゃい」

 

私の名前は佐倉 美緒。高校2年生。

 

昨日までの南国DEギグへの旅行。

 

楽しい事もありましたが、それ以上に色んな事があった。

会場の爆発事件、ファントムとSCARLETの事、クリムゾングループの事、15年前の事。

 

昨日帰宅した私とお姉ちゃんは、早速お父さんとお母さんに私達の今後の事を話した。

 

私達はファントムに所属してバンド活動を今後もやっていきたいという事を。

そしてこれからクリムゾングループと戦う事になるだろうという事を…。

 

主にお姉ちゃんが説明してくれたんだけど…。

 

お父さんもお母さんも最初はビックリしてたけど、お母さんもさすが元BREEZEのファンと言ったところです。

15年前のお兄さん達とクリムゾンとの戦いの事もそれなりには知っているようだった。

 

その事もありお母さんも私達がバンドをやる以上は、いつかこんな日が来るかも知れないと予想していたようで、すぐに承諾し私達を応援してくれるとの事で話は纏まった。

 

お父さんは

 

『奈緒も美緒もデビューしたらお父さんとしては嬉しいし応援するぞ。そうだ!事務所の近くとかにマンションを借りて2人で住んだらどうだ?お父さんが家賃も払ってあげるから』

 

きっとお父さんは私とお姉ちゃんに出ていってほしいだけなんだ。

そんな事になったら私に歳の離れた弟か妹が出来かねない。

お父さんめ……そうはさせない…!

 

そして私もお姉ちゃんに私のバンドの事も話した。

これまでもクリムゾンのミュージシャンとデュエルをした事がある事を。

 

お姉ちゃんは私を優しく抱き締めてくれて

 

『そうだったんだ。頑張ってたんだね美緒。これからはお姉ちゃんも一緒だからね。知らなくて気付いてあげれてなくてごめんね』

 

そう言ってくれた。

お姉ちゃんが悪いわけじゃない。私が心配をかけたくなくて黙っていただけなのに……。

 

それにしてもお姉ちゃんは何であんな柔らかくていい匂いがするんだろう?妹じゃなかったら一線越えちゃってたまである。

 

そして今日、私の軽音楽部の顧問の先生と、南国DEギグに行けなかったバンドメンバーの睦月と恵美にもファントムの事と南国DEギグでの事を話すつもりだ。

 

高校に入学した1年前の春。

私は憧れの氷川 理奈さんのようにベースをやりたいと思い、軽音部に入部した。

 

そこで出会った顧問の先生、神原 翔子先生は優しく気さくな先生だ。

 

私達軽音部のメンバーはみんな先生からArtemisの事、クリムゾングループの事を聞かされていた。

私達の軽音部はライブハウスでライブをさせてもらえる。だけど、そうなるとクリムゾンと関わる事にもなるだろうからと…。

 

私達の学校の軽音部には当然私達以外のガールズバンドもいる。

女子高なのでガールズバンドしかいないわけだけど……。

 

私達のgamutというのは『全音階』という意味の言葉で、実はバンド名ではなく、うちの部活の名前である。

 

私達がライブハウスで活動しているのは部活の行事。だから私達はgamut。

私達と同じ軽音部の子達のバンドもgamut。

これはクリムゾンにgamutというバンドを特定させない為の目的もあったそうだ。

 

もし私達が部活から離れてファントムに所属するなら、私達も本格的にクリムゾンと戦う事になる。

そしたら私達のバンド名も必要になるよね…。

 

「美緒!おっはよー!」

 

「あ、麻衣。おはよ」

 

学校へ向かっている途中で、藤川 麻衣と出会った。

麻衣は私達のバンドのキーボードを担当している。子供の頃からプロのピアニストを目指してピアノをやっていたそうだ。

 

クラシック志向だった麻衣は、中学の頃にテレビでガールズバンドの演奏を見てロック志向になり、高校からキーボードに転向した。

 

「何か考え事しながら歩いてたみたいだけど何かあった?」

 

「ん、ちょっとバンド名の事…」

 

「バンド名?あ、そっか。

私達がファントムに所属してもgamutって名乗っちゃったら…」

 

「うん、他の部活のメンバーに迷惑かかると思うし」

 

「そっか…そうだよね。

そもそも私達が学生の間だけ使う名称ってだけだったし、SCARLETに所属したらバンド名を作るって話だったんもんね」

 

そう。SCARLETの事。

私達はSCARLETの事も少しだけ知っている。

 

翔子先生はSCARLETに古い知り合いがいるらしい。英治さんの話だと元クリムゾンエンターテイメントの手塚さんという人だろうか?

 

私達、軽音部の生徒は本年度から、つまり私達の1つ上の先輩方から、希望するならSCARLETに所属させてもらえる事になっていた。

 

もちろん他の事務所に所属するのも本人達の自由だけど、特にオーディション等もなく所属させてもらえるわけだし、大学に進学して、学生生活を楽しみながらの活動でもいいそうで、私達軽音部のメンバーには魅力的な話だった。

 

私も理奈さんへの憧れからメジャーデビューも夢見てたから、私も大学に進学するとは思うけど、SCARLETに所属させてもらいたいと考えていた。

 

「美緒ちゃん、麻衣ちゃん、おはよう」

 

「あ、恵美。おはよ」

 

「恵美~!おはよ~!

今日は部活もないのに招集かけてごめんね~」

 

「ううん。大丈夫だよ。お婆ちゃんの家からのお土産も渡したかったし」

 

この子の名前は松原 恵美。

私達のバンドのドラムを担当している。

 

この子は元々音楽が好きでバンドにも興味はあったみたいだけど、引込み思案な性格が災いしたのか今まで楽器をやったりや、自分でバンドを組んだりとかは考えた事はなかったみたい。

 

私と麻衣と恵美、今はここには居ないけど睦月の4人は、1年の時に同じクラスになり、あ、2年の今も同じクラスなんだけど。

私達4人はウマが合ったのか、すぐに仲良しになった。

 

私と麻衣と睦月がたまたま同じ軽音楽部に入部する予定でいたので、恵美もその流れで同じ軽音楽部に入部。

私がベースボーカル、睦月がギター、麻衣がキーボードという事で恵美はドラムをする事になった。

 

根が真面目で何事にも一生懸命な恵美はみるみるドラムの技術が上り、今では軽音楽部内では一二のドラムの腕前にまでなっている。

 

一番ビックリした出来事が、いつもは引込み思案なくせに、部活の先輩がクリムゾングループのミュージシャンに卑怯な手で負けそうになった時、

 

『美緒ちゃん!あのクリムゾンのミュージシャン許せないよ!あたし達がステージに上がってやっつけよう!』

 

そう言ってステージに乱入した事かな。

 

「あ、美緒ちゃんと麻衣ちゃんは南国DEギグはどうだったの?楽しかった?」

 

「あ~……うん、その事なんだけど…。

ね、ねぇ美緒…」

 

「ん?どうしたの?まさか楽しくなかったの?」

 

「恵美。今日の招集はその話をする為の招集なんだ。睦月も合流したら話すよ」

 

「あ、そうなんだ?わかったよ」

 

私達は学校に着いて上履きに履き替え、今日の集合場所にしていた部室へと向かった。

今日は部活はないから誰も居ないとは思うけど、もし自主練とかで誰か来てたら場所を変えないとなぁ。

 

 

「あ、美緒、麻衣、恵美。おはよ~」

 

私達が部室に着くと、睦月が出迎えてくれた。

 

あ~…やっぱり自主練に来てる部員もそれなりに居るね…。

ってなると屋上か中庭に移動した方が良さげかな。

 

「おはよ睦月。ちょっと屋上に行こうか」

 

「え?屋上に呼び出し?

もしかして今からあたし告白されるの?それとも決闘?」

 

「どっちも違うから。行くよ」

 

「あ、うん」

 

永田 睦月。

私達のバンドのギターを担当している。

勉強はとても残念な子で、うちの高校によく合格出来たね?って感じなんだけど、ギターの技術は本当に凄い。

 

それというのも子供の頃から、うちの軽音楽部の顧問である神原 翔子先生にギターを教わっていたらしい。

その為か睦月は15年前のArtemisの事やクリムゾンの事にとても詳しく、お兄さん達BREEZEの事も知っていた。

 

睦月はArtemisのギタリストであった翔子先生の果たせなかった夢。

メジャーデビューする事を夢にしている。ファントムに所属すればメジャーデビューするという夢は叶うと思うけど……。

 

私がそんな事を考えていると学校の屋上に着いた。

まわりをサッと見て人がいない事を確認する。

 

………うん、誰もいないみたい。

 

「美緒?一体何の話?」

 

「昨日まで行ってた南国DEギグの旅行の事かな?」

 

今から私と麻衣で恵美と睦月に話す。

南国DEギグで起こった事。

クリムゾンの事。

SCARLETの事。

ファントムの事。

Artemisの梓さんの事。

15年前の事。

そして私がこれからどうしたいのかを。

 

 

「そ、そんな事があったんだ…。

美緒ちゃんも麻衣ちゃんも大変だったね…」

 

「それでファントムに所属してやっていきたいって事?軽音楽部はどうするの?」

 

「軽音楽部の事については練習もあるし翔子先生に教わりたい事もあるから続けていきたいと思ってる。だけど……翔子先生に相談してからかな?」

 

「私も美緒もね。このまま軽音楽部でgamutとして続けていくのも考えてみたよ?でもさ。ファントムのみんなとこの3日間一緒に居て……私達もファントムのバンドとして戦いたいなって…」

 

「うん。あたしはいいよ?あたしはこのメンバー以外とはバンドやりたいとは思わないし、SCARLETやデビューの事もお父さんもお母さんも今では私の好きにしたらいいって言ってくれてるし」

 

「あたしもいいよ。あたしは美緒の歌が好きだから。メジャーデビューがあたしの夢だけど、今はこの4人でメジャーデビューする事があたしの夢だから」

 

睦月…恵美…。

良かった。2人も同じ想いで。

 

「私も……この4人でバンドをやりたい。やっていきたい」

 

「うわ~!睦月ー!恵美ー!良かったよぉ~。反対されたりしたらどうしようかって~…」

 

「まぁ、あたしとCanoro Feliceの一瀬さんは同じバイト先仲間だし、Ailes Flammeの内山くんのバイト先にはよくケーキ買いに行くし、Blaze Futureの盛夏さんとはよく楽器屋で一緒になるし、Divalの雨宮さんのバイト先にはよく遊びに行くし、evokeの河野さんの妹とは中学の頃の同級生だし、綾乃さんとはSNSから繋がった家庭菜園仲間だし、FABULOUS PERFUMEのライブにはよく行くし、初音とはファントムのカフェタイムの時によく話すもん。

あたしもファントムの仲間って感じだから」

 

「え!?睦月それマジ!?」

 

「うん、マジ」

 

睦月……。ファントムのバンドの人達とそんなに交流あるの…?

てか、それってファントムのバンド網羅してない?

 

「あ、あはは。睦月ちゃんって意外と顔広いんだね…」

 

「それじゃバンド名決めなきゃだよね。

美緒か麻衣が考えて来てくれたの?」

 

あっ…バンド名…か。

 

「バンド名も決めなきゃってのはわかってたんだけどさ。ごめん、考えて来てない。まずは睦月と恵美に話してからって思ってたし」

 

「あはは~。私は朝に美緒から言われるまでバンド名の事は失念してて……」

 

「そっか。恵美は?何かいいバンド名ある?」

 

「え!?きゅ…急に言われても…」

 

「うん。それじゃ翔子ちゃんに話しに行く前にバンド名決めちゃおう」

 

バンド名を?これから?

 

「だってバンド名ってあたし達の大事な名前だよ?しっかり決めてから翔子ちゃんに、私達はこうして行きますって話さなきゃ。それに土曜日にはSCARLETに行かなきゃいけないんでしょ?バンド名ないと困るじゃん」

 

睦月って勉強は出来ないくせにこういう所はしっかりしてるんだよね…。

 

「ありがとう美緒。それ誉め言葉だよね?」

 

え?私口に出してないよ?

 

「う~…バンド名かぁ。確かに決めないとね。いきなり過ぎて何も浮かばないけど…美緒と睦月と恵美はこんなのがいいとかある?」

 

「私はかっこいいのがいいかな」

 

「あたしは可愛いやつがいいかも」

 

「ん~…あたしは音楽とか関係してる言葉がいいかな」

 

「美緒がかっこいいやつで、睦月は可愛いやつで恵美は音楽関係の言葉か~」

 

「そういう麻衣はどんなのがいいの?」

 

「私はキラキラした言葉がいいかな~」

 

え?キラキラ…?

 

 

私達はそれから辞書やスマホを見ながらあれでもないこれでもないと話し合っていた。

 

「なかなかこれっていうのが決まらないね…」

 

「かっこよくて~かわいくて~音楽関係のキラキラした言葉~」

 

「そんな都合のいい言葉あるかな?

Divalみたいに造語にしちゃう?」

 

「え?美緒ってDivalのバンド名の由来とか知ってるの?」

 

「歌姫のDivaと戦乙女のvalkyrieを合体させた造語だって志保に教えてもらったよ」

 

「あ、理奈さんや渚さんからじゃないんだ?それより本当にいつの間に志保さんの事呼び捨てになったの?」

 

「それならあたし達も神話とかそういうのから探してみる?神原先生達のArtemisも神話の女神の名前じゃない?」

 

う~ん…女神の名前かぁ…。

アテナとかフレイヤとか?

歌の女神だとミューズだっけ?

あ、あれは9人の女神か…。

 

「あ!そうだ!Divalだ!思い出した!」

 

「ん?どうしたの睦月?」

 

「ねぇ美緒。この写真どう?」

 

「え?写真?」

 

そう言って睦月は私に1枚の写真を見せてきた。

 

……

………え?天使?

何ですかこの可愛い女の子は…。

え?本当に何ですか?女神?天女?

 

そういえば睦月は南国DEギグは家族旅行で来れないって言ってたよね?

家族で天国まで旅行に行ってたの?

いやいや、落ち着きましょう。天国まで旅行って何ですか。無理無理。

って事はヴァルハラ?桃源郷?楽園?

 

「美緒?生きてる?」

 

「………」

 

「ね、ねぇ…美緒ちゃん瞬きもしないんだけど…大丈夫かな?」

 

「………」

 

「ありゃ~本当に写真に見入っちゃってるね?睦月、この写真の女の子誰なの?」

 

「あ、この子ね。理奈さんの子供頃の写真。翔子ちゃんが持ってたから貰ってきた」

 

「む……むつ……き…」

 

「あ、美緒。良かった、生きてた」

 

理奈さん……やはり子供の頃から美しさと可愛さを兼ね備えた御方だったのですね。正直堪りません。

 

「この写真いくらですか?言い値で買います」

 

私は急いでスクールバッグから財布を取り出した。あ、まずい。財布の中3,000円しかない……。

 

「言い値でって……10万って言ったらどうするの?」

 

「ちょっと私明日からバイト始める。いや、待ってよ定期預金を解約すれば…」

 

「そんなに欲しいの!?」

 

「ああ、美緒冗談だから。タダであげるタダで」

 

「マジですか!?ガチですか!?本当ですか!?睦月、実は神様だったの!?」

 

そして私は震える手で幼女理奈さんの写真を受け取った……。こ、これは物凄いお宝を手に入れたものだ。ゴクリ。

 

「それでバンド名どうしよっか?美緒はこんな感じだしあたし達で決めちゃう?」

 

「いやいや、睦月のせいでしょ。それより本当にどうしよっかバンド名」

 

「なかなか…決まらないね…」

 

「う~ん、こうなったら『かっこよくてかわいくて音楽関係のキラキラした言葉』ってのから少しだけ離れてみる?」

 

「あ、そうだ。一瀬さんがCanoro Feliceのバンド名を考えてた時の案がキラキラしてるバンド名だった」

 

「え?そうなの?」

 

「うん。一瀬さん達はCanoro Feliceにしちゃったし、あたし達がその名前使わせてもらおっか?」

 

「どんなバンド名?聞かせて」

 

「えっと…ノートに書くね。

………………これ。『KIRAKIRA☆BOYS』って書いてキラキラスターボーイズ」

 

「おお!さすが一瀬さん!すっごいキラキラしてる!」

 

「あ、あの睦月ちゃん、麻衣ちゃん。あたし達…ボーイじゃないよ。ガールだよ?」

 

「あ、そっか」

 

「じゃあさ。…………………こう。『KIRAKIRA☆GIRLS』って書いてキラキラスターガールズ」

 

「ナイス!睦月!」

 

「ど、どうしよう…美緒ちゃん、起きて。お願いだからこっちに帰って来て…!このままだと大変な事に…」

 

ハッ!?

そうだったそうだった。

私達はバンド名を考えないと…。

この写真を堪能するのは夜のお楽しみにしておこう。

 

「ん。恵美、ごめん。大丈夫」

 

「良かったぁ…美緒ちゃんが帰って来てくれて…」

 

っていうか一瀬さんのセンスどうなってるの?絶賛してる麻衣もどうかと思うけど……。

 

「ねぇ、睦月も麻衣も正気なの?」

 

「美緒、大丈夫。あたしもこれはどうかと思ってる」

 

「え?何で?キラキラしてて良くない?」

 

麻衣……。

 

「あ、そういえば美緒がモンブラン栗田さんに貰ったベースって『花嵐』って名前だっけ?」

 

「うん、そうだよ」

 

「花嵐……ふぅん『風で桜の花が散り乱れること』ってな感じの意味か。

私達のバンド名に桜って入れちゃう?」

 

「このバンドは私のバンドって訳じゃないし。私達のバンドだし。私個人に由来させるのはなぁ」

 

「でもあたし達のリーダーは美緒ちゃんだしいいんじゃないかな?」

 

「桜って事はチェリーブロッサム?かな?それはそれでそのまま過ぎるかな?」

 

う~ん……恵美もそう言ってくれたけど、やっぱり私は個人に由来するバンド名はなぁ…。

 

「薄いピンク…」

 

「お!睦月冴えてるね!確かに桜って薄いピンク色って感じだもんね」

 

「いや、桜の話じゃなくて今日の美緒のパンツの色が……」

 

へ?私の?パンツ?

………………って!!?

 

「ちょっ!睦月!!どこ見てんのよ!」

 

「美緒~。女子高だからって油断しすぎだよ?」

 

ま、全く睦月は……。

 

「あ~まさか美緒のパンツを拝めるとは。今日は学校に来て良かった」

 

こ、これからは下に短パンか何か履くようにしよう…。

 

 

「なかなか決まらないね。このまま下校しなきゃいけない時間になったりして」

 

「まぁ、神原先生にはバンド名はまた考えておきますって事にして土曜日までにまた集まって決める?」

 

「でも…あたしはちゃんとバンド名も決めてから神原先生に報告したいかな。さっき睦月ちゃんも言ってたけど、神原先生にはきちんと話したいし」

 

「私も恵美と同じ意見かな。それにこれだけ考えて決まらなかったら、結局ずるずると決まらない気がする」

 

そうだ。バンド名ってすごく大切だと思う。gamutも私達には大切な名前だった。だから翔子先生にもちゃんと私達のバンド名を決めてから話したい。

 

gamut…そうだ…。

 

「ねぇ、今更だけどさ。私達のバンド名は『G』から始まる言葉にしない?」

 

「「「Gから始まる言葉?」」」

 

「うん。gamutのG。gamutは私達4人の始りだから。gamutの始りの文字のGを入れたいなって……」

 

gamutは私達4人の始りの名前。

もうgamutと名乗る事は出来ないけど、その名前は私達に残したい。

 

「うん、そうだね。

あたし達の始り。あたしも美緒ちゃんのその案に賛成」

 

「オッケ~!じゃあGから始まる言葉で絞って決めちゃおう!」

 

「さすが美緒。伊達に薄いピンク色のパンツを履いてないね」

 

パンツは関係ないし……。

 

「でもGって多いよね~。さっきの女神ってのもGoddessだからGだし、GloryとかGlowとか輝くって感じの言葉も多いし、Grooveとか音楽関係の言葉だし」

 

確かに……まぁさっきまでよりは絞れるけど…。

 

「ねぇこれは?『Glitter』。

キラキラ輝くって意味みたい。『Glitter何とか』にしたらいいんじゃないかな?」

 

「お!キラキラ!恵美ナイス!」

 

「うん。私もいいと思う」

 

「Glitterに続ける言葉か。なんかそれって振り出しに戻ってない?」

 

「「「あ……」」」

 

そうだった…。まさか睦月に言われるなんて…。

Glitterに続く言葉か…Glitter Rina…キラキラ輝く理奈さん。素敵な言葉になったけどさすがにこれはダメだね。自重しよう。

 

「さっきの麻衣ちゃんの案の桜を入れて『Glitter Cherry』とか?」

 

「桜……薄いピンク…『Glitter Pants』」

 

「睦月…もうパンツネタ禁止」

 

「ん~。美緒の大好きな人のいるバンドの名前から……『Glitter Future』とか!キラキラ輝く未来!」

 

「麻衣…本当に怒るよ?」

 

「何で?何で美緒の大好きな人のいるバンド名でFuture?Divalじゃないの?

あ、奈緒さんがBlaze Futureだから?」

 

「ねー?奈緒さんのBlaze Futureから取ったのに何で私怒られるんだろう?私わかんな~い」

 

クッ……しまった。

 

「もしかして美緒ちゃん…」

 

「違うから!姉妹でFutureとか入れちゃうとかまるで私もBREEZEのファンみたいに思われるのが嫌なだけだから!それなら『Glitter Charm』とか『Glitter Symphony』とかのがいいし!!」

 

「ああ、そういう事か。確かに『Glitter Symphony』もかっこかわいくていいんじゃない?」

 

な、なんとか誤魔化せたかな…。

いや、そもそも誤魔化すとかじゃないし。麻衣め……。

 

「ね、ねぇ…麻衣ちゃん……。もしかしてそういう事?姉妹で…なの?」

 

「うっふっふ~。後でコッソリね!」

 

恵美も変な勘違いしないでっ!

麻衣…恵美に変な事言ったら本当に怒るからね!!

 

「結局Glitterに続く言葉を考えるとなると、Gから始まる言葉って絞った意味もないよね。どうしよっか?」

 

う~ん……原点に戻ってみようかな…。

 

私がかっこいい言葉…。

うん、Glitterってなんかかっこいいよね。そしてGlitterの意味はキラキラ輝くだから麻衣の希望も入ってるよね。

あとは……睦月のかわいいってのと、恵美の音楽に関係する言葉か。

 

音楽に関係する可愛い言葉を考えてみる?

 

「あ、Glitter Melody(グリッターメロディ)とかどうかな?」

 

「Glitter Melody?あ、なんか響きは可愛いかも。略すとグリメロ?うん。略しても可愛い」

 

「Glitter Melodyかぁ。それだと確かに恵美の希望した音楽の言葉ってのも入ってるね」

 

「うん。あたしもGlitter Melodyっていいと思う。Glitter Futureもいいなって思ったけど、それだと美緒ちゃんと奈緒さんで大変な事になりそうだしね」

 

ちょっと待って恵美!私とお姉ちゃんで大変な事って何!?

 

「Glitter Melodyのギタリスト!睦月でっす!!

…………どう?可愛い?」

 

「じゃああたしも。

Glitter Melodyのドラムス!恵美です!」

 

「うん!いいんじゃない?

Glitter Melodyのキーボード担当!麻衣です!」

 

「ほら、美緒も」

 

「え?私もやるの?まじで?」

 

ちょっと恥ずかしいんだけど…。

 

「ほら!早く早く~!」

 

しょ、しょうがないな…えっと…。

 

「Glitter Melodyのベースボーカル!美緒です!」

 

こ、これでいいかな…?

 

「さ、バンド名も決まったし翔子ちゃんに報告に行こうか」

 

「うん、そうだね」

 

「神原先生は何て言うかな?」

 

ちょっ!ちょっと!

何で何も言ってくれないの!?

私何か変な所あった!?

 

 

 

 

「そっか。あんた達の気持ちはよ~くわかった。あたしとしては心配もいっぱいあるけどな。Glitter Melodyか……応援するよ」

 

バンド名の決まった私達は職員室に行き、誰にも聞かれたくない話があるという事で来賓室に通してもらい、そこでSCARLETとファントムの事を翔子先生に話した。

 

「それにしてもBREEZEか……。まさかあたしの教え子があいつらと関わる事になるとはね…」

 

「あの……神原先生…変な事質問してもいいですか?」

 

「ん?何?このスタイルを維持する秘訣?」

 

「いえ、そういうのじゃなくてですね……う~ん…」

 

麻衣?どうしたんだろう?

 

「えっと……な、何で神原先生はファントムでgamutのライブをしなかったんですか?中原さんや佐藤さん、葉川さん達とは会ったりしてたんですか…?」

 

「そんな事か……」

 

そして翔子先生は『タバコ吸っていいか?』と私達に断りを得てタバコに火をつけた。

 

「あたし達Artemisはね。すんげーBREEZEに世話になってた。それこそ頭も上がらないくらいだよ。本人達には言えないけどな」

 

BREEZEにお世話に…。

うん、お兄さんもトシキさんも英治さんも優しいもんね。よくわかります。

元々関西が拠点のArtemisは初関東がBREEZEとのデュエルだったみたいだし、その事も色々助けてもらったってお話は聞いてましたしね。

よく迷子になる梓さんをお兄さんが助けてたとかも……。

 

「トシキさんとタカは同人誌を描き始めて、英治は三咲さんと結婚する為に仕事を頑張ってた。拓斗は知らんけど。

あたし達Artemisには『サガシモノ』があったからね。あいつらに会っちゃうとさ。音楽の世界から出たあいつらにまた頼っちゃいそうで…」

 

『サガシモノ』……梓さんが庇ったっていうクリムゾンエンターテイメントの女の子ですか…。

拓斗さんもその『サガシモノ』をしてたんですよね。

ん?そういえば何でトシキさんだけ『さん』付け?

 

「澄香は『サガシモノ』を探すって言ってたけど、あたしは正直3人で見つけるのは無理だと思った。そこであたしが考えたのが楽しい音楽をやれる次世代のバンドを育てる事。そしてそのバンドが卒業した後もバンド活動するようなら、卒業の時に『サガシモノ』の事を話してもし見つけたらあたしに教えてって伝えてきたんだ」

 

なるほど。そういう事ですか。

確かに闇雲に探すよりはその方が可能性は増えますよね。

部活の行事として色々なライブハウスでライブをしてれば『サガシモノ』の噂とかも聞く事もあるかもしれませんしね。

 

「って言っても梓には悪いけど正直『サガシモノ』より、あたしは音楽は楽しんでやるものってバンドの楽しさを若い奴等に教えたかっただけなんだけどな。あははは」

 

でもそれだと何故ファントムでライブをしなかったのか…。英治さんはライブハウスを作ったわけだから音楽の世界に戻って来た事になるのに…。聞いても大丈夫かな…。

 

「翔子ちゃん。それで何でファントムでライブしなかったの?英治さんはライブハウスを作ったんだから頼っても良かったんじゃない?」

 

あ、睦月が聞いてくれた。

 

「睦月…学校では一応先生って呼べって……」

 

「うん、わかった。翔子ちゃん先生何で?」

 

「まぁいいか…。ファントムでライブをしなかった理由はあたしが英治と会ってファントムでライブをするようになったらタカとトシキさんの耳にもあたしの話が入るかも知れない。だからだよ」

 

そっか……それで…。

 

「トシキさんには…会いたかったけど…頼っちゃうのは…(ボソッ」

 

あ~…やっぱり翔子先生トシキさんの事…。

 

「ねぇ麻衣ちゃん、もしかして神原先生って…(ボソッ」

 

「うん、多分佐藤さんの事…(ボソッ」

 

うん、麻衣も恵美もそう思うよね…。

 

「そっか。だから翔子ちゃん先生はまだ独身なんだ?」

 

「は?睦月…喧嘩売ってんのか?」

 

ちょっ!睦月何言ってるの!?

 

「今度の土曜さ。みんなでSCARLETの本社に行くんだけど翔子ちゃん先生も行こうよ。タカさん達にも会いたいでしょ?」

 

「は?せっかくの休みにめんどくさい。みんな音楽の世界に戻って来たなら、久しぶりにタカに会いたい気もするけどさ」

 

「英治さんにも会いたいでしょ?」

 

「英治か…。まぁ会いたいって気持ちもあるけどな。タカと英治にならあんた達も任せてられる。だからあたしはいいよ」

 

「そう?トシキさんも来るよ?」

 

「え?ト…トシキさんも…あ、会いたいけど、あたしもうこんな歳になっちゃった…し…な、なんか恥ずかしい…でも…どうしよっかな?土曜日かぁ……」

 

うわ!?明らかにお兄さんや英治さんの時と反応が違う!

こんな可愛くなった翔子先生始めてなんだけど!?

 

「そうですよ神原先生!久しぶりに会ったらどうですか?私達のバンドの保護者って事にして!」

 

「保護者…保護者なら…仕方ないかな…」

 

あ、そうだ。翔子先生にまだ伝えてない事があったんだった。

 

「翔子先生。澄香さんも来られますよ。久しぶりに澄香さんとも会いたくないですか?」

 

「澄香!?澄香もファントムの仲間なの!?」

 

「はい。澄香さんも私達の仲間です」

 

「澄香が……ファントムの…。

あのバカ…たまに連絡はくれてたけど、全然大事な事言わないんだから…そっか…」

 

 

 

 

こうして私達のバンド名は決まり、土曜日のSCARLETへの訪問には私達Glitter Melodyの4人と翔子先生の5人で行く事になった。

 

私は翔子先生に言えていない事が1つある。それは私達が南国DEギグの翌日、私達がトシキさんの別荘から空港に向かう時、澄香さんがトシキさんの別荘に大型バスを持ってきてくれて、みんなの荷物を英治さんとトシキさんがバスに乗せてくれている時だった。

 

 

 

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「ちょっとタカ…急に何?

こ、こんな人がいない所に私を連れて来て……。まさか告白?」

 

「んな訳ないだろ。ちょっと話があるだけだ拓斗も呼んでんだよ」

 

「拓斗も?……なんだ二人きりじゃないのか(ボソッ」

 

お兄さんが澄香さんの手を引っ張って人気のない所に連れて行くものだから、お兄さんが澄香さんを襲ってはいけないと思い後をつけてみた。

 

「おう、タカ。やっと来たか。話って何だ?」

 

「ああ、悪いな。まだトシキにも英治にも話してねぇんだけどな。お前らには先に話しておこうと思ってな」

 

「トシキと英治には話してない?何で?」

 

「まだ確証もねぇ事だしな。ただ何となく?もしかしたら?そうなのかも?って思ってるだけなんだけどな」

 

「まだるっこしいな。何だよ。俺と澄香にだけって…」

 

「俺な。多分『サガシモノ』見つけた…」

 

!?

お兄さんが?『サガシモノ』を?

 

「ちょっ…ちょっと待ってタカ…それってどういう事…?」

 

「タカ…テメェ……それがふかしだったらお前でも容赦しねぇぞ…?」

 

「だから多分って言ってんだろ。その子に1度目に会った時にな。梓に似てて驚いた。

だけどもしかしたらその子が『サガシモノ』なんじゃねぇかと思ってな…」

 

「1度目に……?って事は2度以上会ってるって事か?」

 

「ああ、2度目に会った時には……梓の持ってた御守りとそっくりなやつを持っててな。お母さんから貰ったって言ってた」

 

!?

御守り……?お母さんから貰った…?

それってもしかして……。

 

「タカ!何でその子を保護しなかったの!何で…!!」

 

「……確証がねぇって言っただろ。その子の話じゃ友達も居れば普通に仕事もしてるらしいしな。

それに………名前もあった」

 

「仕事だと…?仕事や名前はダミーって可能性もあんだろ…」

 

「どこで会ったの?」

 

「1度目は志保と盛夏と遊太と旅行に行った時。

その子も友達と旅行に来てるみたいだった。そん時は野生のデュエルギグ野盗に荷物を盗られてたみたいでな。俺達で取り返してやったんだよ。

そんで2度目は2日前に俺達のホテルの近くでな…仕事の出張みたいだった」

 

2日前に私達のホテルの近くで…。

やっぱり……お兄さんが『サガシモノ』と思っている人って……………美来さん。

 

「野生のデュエルギグ野盗に荷物を…?

確かに九頭竜のmakarios bios(マカリオス ビオス)ならそんなヘマはしないし自力で取り返せるか…」

 

「なるほどな。確かに梓の御守りもただの恋愛成就の御守りだったしな。親から受け継いでってのは一般家庭でもあり得るか」

 

「それと年齢も25って言ってたしな。それだと計算が合わねぇ」

 

「makarios biosだから年齢のスタートは10歳くらいなのかもよ?」

 

「梓の庇ったあの子が10歳くらいに見えたか?俺はタカと違って遠目でしか見てねぇけどな」

 

「ま、何にせよもし本当に『サガシモノ』だったとしたら、あの子はまだ無事って事だ。そしてファントムで音楽やってりゃ、またあの子に会う機会はあるだろうしな。先にお前らには話しておこうと思っただけだ。ただのそっくりさんの可能性もあるしな」

 

「そっか……確かにそれじゃ確証もないか…。ごめん…責めたりして…」

 

「まぁ『サガシモノ』だったとしても元気に無事でいるってわかっただけでもマシか…」

 

「それにタカがそんな事を私達に話してくれたのも嬉しいよね。いつもなら一人で勝手に抱え込みそうなのにさ」

 

美来さんが……『サガシモノ』かも知れない。

 

そしたら…未来さんはクリムゾンエンターテイメントのミュージシャンって事になる。もしそうなら私達はいつか美来さんと……?

渚さん…あんなに美来さんと仲良くなったのに……。

 

「それともう1つ気になる事はある」

 

「気になる事?」

 

「さっき盛夏は梓に会った事あるみたいに言ってたけどな。盛夏もその子に会ったはずなんだが特にびっくりした様子はなかったんだよな……志保でも似てるって驚いてたのにな」

 

「いや、でも盛夏だろ?ボーッとしてたんじゃねぇか?」

 

「拓斗。その事は盛夏様に伝えさせてもらうね」

 

「なぁ?お前やっぱり俺の事嫌いなの?」

 

 

 

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私も確証があるわけじゃない。

だからお兄さんもトシキさんや英治さんにはまだ言えていない。

私も翔子先生に言うべきじゃない。

 

来賓室から職員室へと戻り、翔子先生の机に飾ってある写真に目をやった。

 

きっとあの真ん中にいる人が梓さんなんだろう…。

本当に美来さんに似ている……。


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