バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

55 / 147
第23話 幸せの音色を届ける為に

「ま、まじかよ…ここって私服で入っても大丈夫なのか?怒られたりしないよな?」

 

「こ、ここが姫咲の家…?

ど、どうしよう…手土産とか持って来た方が良かったかな…?」

 

「春くんもまっちゃんも姫咲の家は初めて?私も最初に来た時はびっくりしたよ」

 

俺の名前は一瀬 春太。南国DEギグの旅行から帰ってきた翌々日の火曜日。

Canoro Feliceのこれからの事を話し合う為に、俺達は姫咲の家に呼ばれていた。

 

「と、取り合えずインターホンを押すね…」

 

俺が震える手でインターホンを押してみた。

 

〈〈バパパパーン〉〉

 

なっ!?どこからともなくファンファーレが!?

 

〈〈ドーンドーン〉〉

 

「は!?花火!?何で!?」

 

〈〈ヒヒーン〉〉

 

「姫咲の家のインターホンって凄いよね~」

 

いや、凄いってレベルじゃないよね!?

何で!?馬も鳴いてるんだけど!?

 

「あ、でもね。そのインターホンを1秒間で16連打したら普通のインターホンの音になるんだよ」

 

1秒間に16連打!?

そんなの無理に決まってるじゃん!

何名人なんだよ!

 

ダメだ。ツッコミ所満載だけどクールになるんだクールに。

きっと姫咲の家はいちいちツッコミを入れていたら体力がもたない事になる。

 

俺がそんな事を考えていると大きな門が開き、そこから澄香さんが出てきてくれた。

 

「一瀬様、結衣様、松岡様。お待ちしておりました。さ、どうぞこちらへ」

 

俺達は澄香さんに案内されるまま秋月家の門を越え、奥にある屋敷へと向かった。

 

「ハッ!ハッ!ヤーッ!」

 

屋敷へと向かう途中、スーツ姿の女の人達が戦闘の訓練をしているようだった。

ある者は武器を手に、またある者は素手で、そしてまたある者は楽器を持っている。

え?何これ?

 

「こ、この人達は何をしているんだ…?」

 

「ああ、この者達は私の私設部隊の者達でございます。日々万事に備えて訓練をしております」

 

澄香さんの私設部隊…?

確かに澄香さんにはセバスさんの時にも私設部隊の人達も居たけど、みんな男の人だっ……ま、まさか!?

 

「フフフ、一瀬様。気付かれたようでございますな」

 

「ええ……こちらに居る私設部隊の方達も…。男装をしていたんですね…。澄香さんがセバスさんになっていたように…」

 

「仰る通りでございます。強要等しておりませなんだが、彼女達もまた自らを男の姿に変え、お嬢様を見守っておりました」

 

何て事だ…。セバスさん…いや、澄香さんの私設部隊の人達もまさかみんな女性だっただなんて……。

正直『何でそんな事してたんですか?』って聞いてしまいそうになってしまった。危ない所だった…。

 

「私も澄香の姿でこれからお嬢様をお守りしていく。そう決めた時、彼女達もまた本来の姿でお嬢様を守ろうと決心されたようでございます」

 

くそっ!さっぱり意味がわからない!

ダメだ春太!しっかりしろ!

まだこんな事でつっこんじゃダメだ!

 

「なぁ、ユイユイ。わざわざ男装して秋月の警護をするって何か意味があるのか?(ボソッ」

 

「みんな姫咲を想ってこそだよ!」

 

「え?何で?」

 

クッ…冬馬はやっぱりつっこんでしまった…。冬馬……最初からそんな調子じゃこの先の戦いが辛くなるよ?

 

「あ、お姉様~」

 

そう言って訓練中の女の子が澄香さんの方にやってきた。……ってお姉様!?

 

「お疲れ様。朝から精が出るわね」

 

「はい。私達のお嬢様とお姉様の為ですもの」

 

「良い心懸けです。これからも期待しているわ」

 

「はい。それでは私は訓練の続きに戻ります。それでは」

 

そう言って女の子は訓練に戻ろうとしたけど…

 

「待ちなさい!」

 

それを澄香さんが呼び止め、女の子の方に近付いて行った。

 

「タイが曲がっていてよ」

 

「お姉様……」

 

そう言って女の子のネクタイを直す澄香さん。

いやいやいや!何で!?

ほんの数日前までみんな男の人の姿で過ごしてたんだよね!?

何でいきなりこんな関係になってるの!?これ何?澄香様が見てるなの!?

 

危ない危ない…またつっこんでしまう所だった…。落ち着け春太。クールになれ。

 

「いや、何だこれ?澄香様が見てる?」

 

「ん?まっちゃんどうしたの?」

 

冬馬……やっぱり冬馬はもうダメか…。

 

「大変お見苦しい所を見せてしまいましたな。さ、お嬢様がお待ちでございます。参りましょう」

 

そう言って澄香さんはまた俺達の先頭を歩き始めた。

 

「ハッ!ハッ!ヤーッ!」

 

屋敷へと進んでいくと、メイド服の女の人達が何かの訓練をしているようだった。

ある者はお盆を手に、またある者は掃除機を持って、そしてまたある者は紅茶を淹れている。

いや、本当に何これ?

 

「こ、このメイドさん達は何をしているんだ…?」

 

「ああ、この者達は秋月家のメイド達でございます。日々家事等を完璧にこなす為に訓練をしております」

 

いや、訓練って何で!?

今この時間も家事とかしてた方がいいんじゃないの!?

 

「まぁ、彼女達はメイド長の部隊でございますからな。さ、先を急ぎましょうか」

 

そして大した説明も無し!?

 

「メイドって訓練がいるものなのか?

いや、もう何をつっこんだらいいかわからねぇ…」

 

「まっちゃんさっきからどうしたの?」

 

 

 

 

俺達は屋敷を越えてテラスの方へと案内され、そこにはお茶をするのにちょうど良さげなテーブルとイスがあり、姫咲はそこに居た。

 

あのメイドさん達の訓練からは特に何もなかった。

特に何もなかった事に拍子抜けして、『何もないのかよ!』って危なくつっこんでしまう所だった…。

 

「みなさん、お待ちしておりましたわ。どうぞこちらへ」

 

俺達は姫咲の元へ行きイスに腰を掛けて挨拶を交わした。

 

「では私はお茶を淹れてきますね」

 

澄香さんはそう言ってその場を後にした。俺達のこれからの話だから澄香さんにも聞いてもらいたいんだけど…。

 

「では私達Canoro Feliceの今後の事をお話したいと思います。ですが…」

 

「うん。この話は澄香さんにも聞いてもらいたいもんね。澄香さんがお茶を持って来てくれてから話をしよう」

 

でも俺達にお茶を持って来てくれたのは澄香さんではなく、別のメイドさんだった。

 

「すみちゃん何処に行っちゃったんだろう?」

 

「困りましたわね。これからの話には澄香さんにも聞いていただきたいのに…」

 

「ああ、澄香さんも俺達Canoro Feliceの一員だからな。これからの話には必要だ」

 

「結衣……は迷子になりそうだから俺と冬馬で探して来ようか」

 

「え?私迷子にならないよ?」

 

「そうだな。俺と春太で探して来る。ユイユイと秋月はここで待っててくれ」

 

「え?私も探しに行くよ?」

 

「春くん、松岡くん、よろしくお願いしますわね。結衣は私がしっかり見張っておきますわ」

 

「うん、よろしく」

 

「え?あ?え?うん、行ってらっしゃい」

 

そして俺と冬馬で澄香さんを探す事になった。

 

「しかしこんだけ広い敷地内で澄香さんを見つけられるか?」

 

「そうだね。闇雲に探してもダメだろうね。まずはさっきのメイドさんや私設部隊の人達が訓練してた場所に行ってみよう」

 

俺の予想はビンゴだった。

さっきメイドさんが訓練していた場所。

そこに澄香さんは居た。

 

「婦長さん!!!」

 

「まだまだです!澄香さん!!」

 

何故か澄香さんと婦長さん…メイド長さんかな?

2人は戦っていた……。

 

「さすがです澄香さん!セバスの衣を捨て、その姿になってからスピードが格段に上がっていますね!」

 

「婦長さんこそさすがです…。まさか今の私のスピードについてこれるとは…。

もしかして今までは手を抜いてくれてたんですか?」

 

「いいえ。そんな事はありません。いつもフルパワーでしたよ。

ただし試合用のフルパワーですが……!」

 

婦長さんがそう言った後突然消えた。

いや、消えたんじゃない。物凄いスピードで澄香さんの後ろにまわったんだ。

何だこれ?

 

「クッ!?」

 

「ほう…。まさかバトル用フルパワーの私の攻撃をかわすとは…ですが!」

 

また婦長さんの姿が消えた。

だけど澄香さんは婦長さんの動きを読んでいたのか、背後に拳をくり出し、澄香さんの一撃は婦長さんの胸を貫いた。

……胸を貫いた!?

 

「クッ!?残像ですか!?」

 

残像!?

 

「遅い!これでトドメです!真・流星婦長拳!!」

 

「それも読んでますよ!婦長さん!」

 

「な、何ですって…!?」

 

〈〈〈バキッ!!〉〉〉

 

婦長さんの必殺技?と澄香さんが光る拳を繰り出した後、一瞬の閃光とぶつかり合ったような音が鳴り響き、2人は交差して立っていた。

本当に何これ?

 

「さすがです…婦長さん…」

 

「その姿ではスピードが上がった分パワーが下がる……。そう思っていましたが…。フフフ、澄香さんも今まで本気ではなかった……という事ですか……グフッ」

 

ドサ

 

「いいえ…今までもフルパワーでしたよ…。ただし、スミカモードではなくセバスモードでですが……」

 

いや、本当に何これ。

 

「おかしいな…いや、おかしい事だらけだな。俺まだ寝てるのかな?これは夢か?」

 

冬馬…。

 

「あ、澄香さん、こんな所に居たんですか」

 

そして俺は何も見てない風を装って普通に声をかけた。

 

「これはこれは一瀬様。いかがされましたかな?」

 

「何をやってるんですか。澄香さんも俺達にとってはCanoro Feliceのメンバーなんですから。澄香さんも居てくれないと話が始まらないですよ」

 

「し、しかし私が居ると話辛い事もあるかと…」

 

「みんな待ってますから。来て下さい」

 

姫咲だけじゃない。

澄香さんは俺達みんなの事もずっと見守ってくれてたんだから。

 

 

 

 

 

 

「あ、春くん達が澄香さんを見つけてくれたみたいですわね」

 

「うん、ごめん。お待たせ」

 

俺達は5人で1つのテーブルを囲むように座った。

 

「さてそれでは私達の今後に関してですが…」

 

「うん。みんなそれぞれ想いも違うかもしれないしね。まずはバンマスである俺からどうしたいか言おうか」

 

「そうだな。じゃあ春太、ユイユイ、秋月、俺の順に話していくか」

 

「すみちゃんも私達の想いをちゃんと聞いてね!」

 

「すみちゃん?それは私の事でございますかな?」

 

「あ、その前によろしいですか?」

 

俺が話を始めようとした時、姫咲が何か言いたそうだったので俺は姫咲の言葉に耳を向けた。

 

「どうした秋月」

 

「澄香さん。いきなりは難しいかもしれませんが、出来ればタカさんや渚さんや理奈さんと居る時と同じように。

私達にもセバスの話し方ではなく、澄香さんとして接して頂けませんか?」

 

「お嬢様…」

 

「元々は。私の付き人ではなく遊び相手。友達として雇われたのでしょう?

これからはCanoro Feliceの仲間として一緒に居てほしいです」

 

そうだね。もうクリムゾンから隠れる為のセバスさんは居ない。

俺達と一緒に居るのは澄香さんなんだから。

 

「俺もそうして欲しいです。もう一瀬様とは呼ばずに気軽に春太って呼んで下さい」

 

「私も!結衣って呼んでほしいよ!」

 

「俺も呼び捨てにして頂いた方が話やすいっす」

 

「お嬢様…みなさま…わかりました」

 

「お願いしますね」

 

「じゃあ俺から気持ちを発表させてもらうね。

俺はファントムに所属してメジャーデビューを視野に入れて、ここに居るみんなでCanoro Feliceとして活動していきたい。姫咲と冬馬はまだ学校があるし、メジャーデビューするとなるとまだ先の話になるかもしれないけどね。

それにクリムゾンの音楽より俺達のキラキラした音楽の方がずっと凄いんだってみんなに見せてあげたい」

 

これが今の俺の気持ちだ。

俺はCanoro Feliceでメジャーデビューしたい。アイドルとかメジャーになりたいとかじゃなくて俺達で…。

 

「次は私だね。

私はクリムゾングループは怖いと思ってる。Blue Tearの時に事務所が潰された事もあるし、昔の話や架純の話。そして南国DEギグの事。すごく怖い」

 

結衣は一度クリムゾングループに事務所を潰されてるし、Blue Tearの時のメンバーの事もある。クリムゾンが怖くても仕方ない…。

 

「でもね。事務所の事や架純達の事、そして南国DEギグの事も考えるとね。

やっぱりクリムゾンはやっつけなきゃいけないと思う。もう架純達みたいな人を出さない為に。私達の、Canoro Feliceのキラキラした音楽でクリムゾンをやっつけたい。音楽はすごく楽しくてワクワクドキドキするものなんだよ。ってクリムゾンに教えてあげたい!」

 

結衣…。

 

「だから私もファントムに所属して戦いたいって思うよ」

 

「次は私ですわね。私はCanoro Feliceが大好きです。春くんのダンスと歌が。結衣のギターの音が。松岡くんのドラムのリズムが。

ですからクリムゾンが私達の楽しい音楽を邪魔をしてくるようでしたら叩き潰すまでです。私達に歯向かった事を後悔する程に。徹底的に」

 

姫咲が言うとすごく怖く聞こえるのは何故だろう…。

 

「ですから正直な所、SCARLETとかファントムとかより、Canoro Feliceで楽しく音楽をやれれば私は問題ありません。

春くんと結衣がファントムに所属したいなら私はついていくだけですわ」

 

「最後は俺か。

春太とユイユイと秋月が言いたい事を言ってくれたってのあるからな。あんまり多くは語らねぇが、俺もファントムに所属してCanoro Feliceでやっていきたいと思ってる。そんだけだ」

 

冬馬も…Canoro Feliceのみんな同じ気持ちでいてくれて良かった。

 

「すみちゃんは私達の話を聞いてどう?

昔、Artemisとしてクリムゾンと戦ってて…。私達の考えは賛成してくれるかな?反対かな?」

 

「そうですね。路上ライブをしてた頃。あの頃のCanoro Feliceなら私は反対したと思います。でも今のCanoro Feliceなら…。

クリムゾンと戦っていけると思います」

 

「では私達の考えに賛同して…これからも一緒に居て頂けますか?」

 

「ですが……もし私が反対したら…皆様は考えを改めてクリムゾンと戦わない道を選んでくれますか?」

 

「「「「選びません!」」」」

 

「でしたら…私の答えは1つです。

Canoro Feliceの皆様を見届けさせて頂きます。Canoro Feliceの仲間として」

 

澄香さん……。ありがとうございます。

 

「それと澄香さん」

 

「はい?何でしょう?」

 

「『サガシモノ』の事ですが……。

それも私達にお手伝いさせて頂けませんか?」

 

うん。姫咲の言う通り。俺達も澄香さんの力にもなりたい。

そしてその子に梓さんが生きている事を伝えたい。

 

「私も!その子可哀相だもん!クリムゾンから助け出してあげたい!梓さんの事を教えてあげたい!」

 

「その件は…多分もう大丈夫です。気にしないでください」

 

気にしないでって…。

俺達じゃ澄香さんの力になれない?

 

「澄香さん……何故…」

 

「恐らくですが……確証はありませんが…『サガシモノ』は多分タカが…見つけております」

 

貴さん?貴さんが『サガシモノ』を見つけた…?

 

「葉川さんが?澄香さんは葉川さんからそれを?」

 

「はい…タカも確証はないようですが…。

でもタカは本当は確信しているんだと思います。私が『虚空』の封印を解いたように…。タカも封印を解いたから……」

 

貴さんも?封印を解いた?

あ、もしかして渚さんに渡していた梓さんのギターかな?

 

『サガシモノ』って誰なんだろう……。

 

「あ、それと皆様にお伝えしときたい事がございます」

 

俺達に伝えておきたい事…?

 

「先程私は『サガシモノ』の事を気にしないで下さいと言いましたが、それはタカが見つけた可能性があるからです。

もし、私が困った時や助けてほしい時はCanoro Feliceに頼らせて頂きますので………よろしくお願いします」

 

澄香さん……。

 

「もちろんですわ!私達もまだまだこれから沢山の事を澄香さんに頼ると思います。ですから澄香さんも私達を頼って下さいませ」

 

「そうだよ!何かあったらすぐに言ってね!」

 

「俺も…出来る限りはサポートさせていただきますんで…その、よろしくお願いします」

 

「俺もです。これからも改めてよろしくお願いしますね」

 

 

 

 

その後は金曜日にゲスト出演させてもらうFABULOUS PERFUMEのライブ事、そして俺達の今後の方針を話し合った。

 

俺達の今後の方針としては姫咲と冬馬の卒業を待たず、メジャーデビューを視野に入れて活動していく事にした。

いつの日か姫咲は秋月グループの総統となるらしいけど、そこはまだまだ先の話だからその時に考えるとの事だった。

 

「これである程度の方針は決まりましたわね」

 

「うん、後は土曜日にSCARLETに訪問した時に……だね」

 

「土曜日はすみちゃんも来てくれるよね?」

 

「はい。もちろんです。タカが居るから大丈夫だとは思いますが、相手はあの手塚ですしね。私も同行させてもらいます」

 

手塚さん…。元クリムゾンエンターテイメントの大幹部か…。

今なら澄香さんに色々聞いても答えてくれるかな?

 

「澄香さん…少し質問しても大丈夫ですか?」

 

「何でしょう?私でわかる事でしたら何なりと」

 

「以前に梓さんのお墓参りをしてたと思うのですけどあのお墓って…。

梓さんは亡くなってないんですよね」

 

「はい。あのお墓はクリムゾンエンターテイメントの目を眩ませる為のダミーです。梓の実家に遺骨を送ったという情報も万一の為の情報。クリムゾンの目や耳は何処にあるかわかりませんから…」

 

「そこまでしないとヤバい相手なんすか…」

 

「冬馬くんは怖くなった?」

 

「と、冬馬くんって……。

い、いえ、怖くなった訳じゃないですけど、クリムゾンは一筋縄じゃいかないなと思って…。英治さんの話じゃクリムゾンエンターテイメントも手塚と足立って人が居なくなって弱体化したって言ってたのにと思って…」

 

そういえばそうだ。

梓さんを狙っていたのはクリムゾンエンターテイメント。そのクリムゾンエンターテイメントは海原が海外に行って、4人の幹部の内2人を……。

 

「冬馬くんの言う通りです。

ですが、海原が居なくなり、手塚と足立も居なくなったからこそ、私達は九頭竜の暴走を恐れていました」

 

九頭竜?

あの海原に盲信して遺伝子を培養した生命体を造ったっていう…?

 

「九頭竜は海原に盲信しておりました。

海原が海外に逃亡した後のクリムゾンエンターテイメントを任された二胴と九頭竜は何をするかわかりませんでしたから…」

 

なるほど…そんなに危険な相手なんですね…。

 

「まぁ、足立はタカが倒してくれたから…梓にしか興味のない九頭竜の暴走だけに気をつけていれば良かったので、私達は動きやすかったのですが…」

 

「葉川さんが足立を倒した…?

なぁ、俺達ってバンドやってんだよな?これって音楽の話なんだよな?」

 

「松岡くん、黙りなさい」

 

「その足立って人と九頭竜って人がヤバかったの?二胴って人は?」

 

「足立は何を考えていたのか…。クリムゾンエンターテイメントの幹部と言えども足立にとっては世の中の全てが敵みたいなもので、凄く危険な男でした……ただ音楽の才能だけは神がかっていただけに残念です…」

 

そんな相手を貴さんが…。

 

「二胴は海原が海外に逃亡した後はめっきり動かなくなりました。あの男は野心家で全ての頂点に立とうとしてましたから何か考えがあったのでしょう。それが今になって動き出した……」

 

手塚って人は自分からアルテミスの矢になったって聞いている。

その人の助けがありながらも足立しか倒せなかった…。今の俺達は戦っていけるんだろうか?

 

ダメだダメだ弱気になるな。

何とかなるよきっと。

それにこれって音楽の話だしね。

 

「フフフ、私の話を聞いて少し怖くなりましたか?15年前は私達Artemisやアルテミスの矢が居たのに勝てなかったのか……と」

 

「そんな事…ありませんわ」

 

「う~ん、多分何とかなると思う」

 

「なっちゃんの居るDivalは私達Artemisによく似ています。あの子達を見ていると昔を思い出します」

 

DivalがArtemisに…?

 

「ボーカルとベースがタカの事好きっぽいのも何かね…(ボソッ」

 

え?何?何か聞こえちゃったんですけど…。ボーカルとベース?渚さんと理奈さん?そして梓さんと澄香さん?

 

あ、もしかしてお墓参り行った時に言ってた梓さんは戦友ってそういう事?

 

「さっきの発言は聞こえなかった事にしますわ。断じて認めません。

それより澄香さんはDivalの皆さんが居るから大丈夫と?」

 

あ、姫咲にも聞こえてたんだ。

 

「いえ、逆です」

 

逆?

 

「Ailes Flammeの皆様は昔のBREEZEによく似ています。Ailes FlammeとDivalを見ていると15年前を思い出せます。

ですが、15年前はクリムゾンエンターテイメントに勝てなかった」

 

Ailes FlammeがBREEZEに?

 

「あ~、言われてみたら江口は葉川さんに雰囲気が似てるよな…」

 

「あ、なんかそれ私もそう思うかも」

 

「ですがCanoro Feliceの雰囲気に似ているバンドは15年前は居ませんでした。

私はこの戦いの鍵はCanoro Feliceだと思っています」

 

澄香さん…。

15年前は俺達に似ているバンドは居なかった。だから俺達が居る今なら…。

 

「そういう事ですのね。フフフ、これは澄香さんの期待に応えなくてはいけませんわね」

 

「うん。そうだね。届けよう幸せの音色を。みんなに!」

 

きっと俺達ならCanoro Feliceの名前に相応しい幸せの音色を奏でられると思う。

俺と結衣と姫咲と冬馬と澄香さんが居れば。俺達5人ならきっと…。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。