バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第25話 聖羅

俺は葉川 貴。

Blaze Futureでボーカルをしている。

 

8月21日火曜日の夜。

 

旅行からの疲れも取れないまま月曜日は休み明けで忙しく残業となり、今日こそ早く帰ってダラダラするんじゃい!って気合いを入れて仕事をしていたのに、何故か盛夏からBlaze FutureのグループLINEでファントムに招集が掛かった。

 

盛夏からの連絡に気付かなかった事にして、明日あたりに『ごっめ~ん、気付かなかった。テヘ』とかキモさ満載のLINEを送ろうと思ったのだが、追撃とばかりに個人LINEの方に俺がシフォンを押し倒してる(笑)(かっこわらい)な写真と『貴ちゃんが来なかったら奈緒とまどかさんとこの写真見ながらお話ししちゃうかも~?』等と脅迫文が送られて来たのだ。

 

だが、さすがに俺はいい大人だ。その程度の脅迫には屈しない。

ふたつ返事でファントムへ行く事を了解し(了解するのかよ)、第二の作戦を瞬時に思い付いた。

『俺も行きたかったんだがすまん。夏休み明けで仕事か忙しくてな。残業になっちまった…』と、帰宅してベッドでゴロゴロしながらLINEをしようと思っていた。

 

だが、そんな作戦を思い付いた3秒後に、『あ、そうそう渚に今日はBlaze Futureでミーティングしたいから貴ちゃんが逃げたりしないように仕事終わったら連絡頂戴って言ってあるんだ~。この写真って渚と理奈にも送ってあげた方がいいかな?』と、要約すると逃がしはしないぜ!って内容の追撃が来た。

 

もちろん俺はそんな脅迫には屈しない二度目。

すぐさま『今日は定時ダッシュで帰ります』と返事をした。

そして今、嫌々ファントムに向かいながら新たな作戦を考えているのだ。

 

「あ、貴~!」

 

俺は名前を呼ばれ、声のした方に目を向けるとそこにはBlaze Futureのギタリストの奈緒が居た。

 

「おう、こんばんは」

 

「こんばんはです。それより私を見掛けた途端すっごい嫌そうな顔しませんでした?」

 

「いや、気のせいじゃねぇか?」

 

え?そんな顔してた?

まぁ奈緒に見つかったという事はもう逃げるのは不可能だし、最近奈緒と出くわす度にボディーブロー貰ってるからな。そんな顔になっちゃったのかな?

 

「それより盛夏から呼び出しって何でしょうね?」

 

「さぁな。さっぱり用件が思い当たらん。SCARLETとかファントムの事かな?」

 

「でもそれって一応ファントムに所属するって決まったじゃないですか。

まぁ土曜日にSCARLETの本社に行ってから気に食わなかったら考えるって貴は言ってましたけど」

 

そう。俺達Blaze Futureはファントムに所属してインディーズとして活動していく事に決めてある。

奈緒と盛夏とまどかがそうしたいと希望してくれたし、俺はやっぱり15年前の事もあるしな。こいつらをもしかしたら巻き込んだのかもしれないって気持ちもあったりなかったりもする訳だが…。

 

「ま、ファントムに着いたらわかるだろ。っていうか奈緒って今仕事帰りなのか?いつもより遅くね?」

 

「夏休み明けだからか少し忙しくて……。

って!?何で貴が私の退社時間を知ってるんですか!?もしかして私の退社時間を把握して待ち伏せしておきながら、あたかも偶然を装ってご飯に誘ったりしようとか考えてたりするんですか!?」

 

いや、何でだよ…。いつも仕事帰りに盛夏と遊んでるし、何か私達楽しんでま~す的なLINEとかツイートとかしてくんじゃん…。それである程度は帰る時間とかわかるやん?

 

「もしそうだったらどうする?」

 

「いつもいつも奢ってもらうのは悪いのでたまには割勘でお願いします!」

 

え?それって俺が待ち伏せしてご飯誘ったら付き合ってくれるって事?

おっと危ない危ない。勘違いする所だったぜ。それってたまの割勘以外は奢れって事だよな?

 

 

 

 

「そういやバンやりの新規SSRマイミーちゃんゲットしてましたよね?おめでとうございます」

 

「おう、ありがとうな。俺の推しへの愛もそうだが……やはり俺は推しに愛されている」

 

「で?いくら課金したんですか?」

 

「………俺は推しに愛されている」

 

「あ~…はいはい」

 

などとヲタ話をしながら歩いているとファントムに辿り着いてしまった。

しゃあねぇな。ここまで来たら腹を括るか。

 

そして俺はファントムの扉を開き中を覗いた。盛夏とまどかは来てるかな?

 

………

…………

……………は?

 

「わ、悪い。奈緒……俺は帰る。大事な用を思い出した」

 

「え?ふぇ?大事な用?何ですか?」

 

え!?何で!?何でファントムにあいつが居るの!?まさか盛夏が連れて来たの!?

 

「えっと……じゃああれだ。今日中に片付けなきゃいけない仕事を思い出したから会社に戻らなきゃだ」

 

俺は盛夏と一緒にいる人物を確認し、急いで帰ろうと思い立った。いや、帰らねばなるまい。

 

「はい?じゃあって何ですか?

ほら、早く入りましょうよ」

 

俺の気も知らずにファントムに入ろうとする奈緒。何か作戦を考えないと…。

 

「あ、貴ちゃ~ん、奈緒~。こっちこっち~」

 

クッ…見つかってしまったか…。

 

「あ、盛夏~♪

と、あれ?盛夏と一緒にいる人って誰なんでしょう?あれ?何で英治さんは正座してるんですかね?」

 

え?英治正座させられてんの?

俺は恐る恐る盛夏の座っているテーブルに目を向けた。

 

あぁ…盛夏と一緒にいる人物が超笑顔で俺に手を振っている…。もう逃げられないな。

 

そして俺は観念し、奈緒と一緒に盛夏と盛夏の母親である聖羅の座っているテーブルへと向かった。

 

 

 

 

「久しぶりねタカ」

 

「はい……お久しぶりです…」

 

俺達が盛夏達の座っているテーブルの席に座ろうとした時、俺は聖羅に『こっち』と言われ、テーブルの横の床に正座させられている英治の隣を指さされた。

 

何で俺が正座させられなきゃなんねーんだよ。と思ったりはしたが、特に口に出す事はなく大人しく英治の隣で正座した。

 

「へぇー盛夏のお母さんなんですね。

挨拶が遅れてしまって申し訳ありません。佐倉 奈緒と申します。

盛夏さんにはいつもお世話になってます。よろしくお願いします」

 

「まぁ!あなたが奈緒ちゃんなのね!

盛夏がいつも言ってるわ。本当にすっごく可愛いわね」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「おか~さ~ん。恥ずかしいからやめてよ~」

 

「お、おいタカ。お前さっき逃げようとしたよな?盛夏ちゃんのお母さんが聖羅ってもしかして知ってたのか?(ボソッ」

 

「ああ、すまん。言うの忘れてた。

まぁ、俺が知ったのも南国DEギグの日なんだけどな。それより何でお前と俺は正座させられてんの?(ボソッ」

 

そうだよ。何でだよ。

俺は何で正座させられたわけ?

俺自分で言うのも何だけど15年前結構聖羅の事助けてあげてたよね?

 

俺はこの不条理な事態に反抗し正座を解いて一言言ってやろうと思ったが、そんな勇気はありませんでした。

まどかまだかなぁ?早く話を終わらせて帰りたいなぁ~。

 

「フッ、しかし盛夏ちゃんのお母さんが聖羅で良かった。安心したぜ…」

 

「は?何で?今まさに聖羅に正座させられてんだけど?お前ドMなの?」

 

「いや、この状況はどうかと思うがな。

盛夏ちゃんのお母さんが聖羅って事は紛れもなく盛夏ちゃんの父親は俺じゃない。そう確信出来たからな」

 

ああ…そういう事ね…。

お前もしかしてBlaze Future編第4章からもしかしたら盛夏の父親は自分かもしれないってビビってたの?

 

「あとはまどかちゃんって子だけかしらね?トシキは来れないみたいだし」

 

え?トシキも呼び出してたの?

もしかしてトシキもしばかれるリストに入ってたのか?

え?しばかれるリストって何?今から俺達しばかれるの?

嫌だなぁ。帰りたいなぁ。

 

「まどかさんは急遽夏休み明けにやる父母会の事で先生同士でミーティングが入っちゃったんだって~」

 

え?そうなの?

じゃあBlaze Futureみんな揃わないし今日はもう帰ろう。次のミーティングは土曜日でいいんじゃない?

よし、これだ。俺は今からこの提案を出すのだ。これで数日は延命出来る。

 

「だから1時間くらい遅れて来るって~。

でも必ず行くから待っててってLINE来てたよ~」

 

は!?1時間遅れて来る!?

しかも必ず行くから待っててって何!?

俺達この後1時間も正座しとかなきゃいけないの!?

 

「う~ん…ちゃんとみんな揃ってから話したかったけど、トシキも来れないし、このままタカ達を正座させとくのは可哀相だし先に話を始めとこうか?」

 

聖羅!?ああ…優しいな聖羅は…。

いや、危ない危ない。勘違いする所だった。そもそも優しかったら訳のわからないまま正座させられたりしませんよね。

 

「え~?でもBlaze Futureの大事なお話ならまどかさんも来てからしたい~」

 

「私もそう思います。まどか先輩もBlaze Futureなんですから…」

 

「う~ん…別にBlaze Futureの話って訳じゃないけど、それじゃまどかちゃんが来るまで待ってましょうか」

 

「はい(うん)!」

 

って何でだよ!Blaze Futureの話じゃないのん!?

それなら今から話してもいいじゃん!

今日は普通にカフェオープンしてるしな!他のお客様もいっぱい……多少はいるんだよ?

何でオーナーと客の俺が正座させられてんだよ!もう他のカフェ客の目が痛いんだけど!

 

と、俺がそんな事を思いながらも、これがいつか快感に変わったらどうしよう?と不安に思っていると、ファントムの扉が開かれ、一人の客が入ってきた。

 

「こんばんは~……。へぇ~…ファントムの中ってこうなってたんだ…」

 

え?澄香?何で?

 

「す、澄香…?」

 

「ん?え?……聖羅?」

 

そして澄香は俺達の方へやって来て俺と聖羅の間に入ってきた。

位置関係で言うとこんな感じな。

 

[盛夏] [聖羅] [澄香] [俺]

[ テーブル ]    [英治]

[奈緒]

 

こんな位置関係なもんだから、正座をさせられている俺の眼前には澄香ちゃんの可愛いお尻が……おっと、いかんいかん。自重しろ俺。

 

「何で…こんな所に聖羅が…?」

 

「澄香…本当に久しぶり…」

 

お~お~。感動の再会ですね。

それより澄香はここで正座させられてる俺と英治は無視なの?変に思わないの?

 

「奈緒様も盛夏様も本日もご機嫌麗しく…」

 

「澄香さんこんばんはです!」

 

「澄香さんこんばんは~」

 

「澄香?何で盛夏を盛夏様って呼んでるの?あ、盛夏は私の娘なの。盛夏が小さい頃に澄香は会った事なかった?」

 

「え…?せっちゃん?盛夏様が…?」

 

せっかく久しぶりに会ったんだからと、澄香も同じテーブルに座る事になり、奈緒の隣の席に座った。

あ~あ…お尻あっちに行っちゃった…。

だから自重しろって!!

 

「そうだ!澄香さんも私達の仲間じゃないですかー?私の事も奈緒って気軽に呼び捨てにしてくれると嬉しいんですけど?」

 

「あ、あたしもあたしも~。これからはせっちゃんって気軽に呼んでほしい~」

 

「え?そ、そうですかな?

で、では…奈緒……せっちゃん……」

 

「「はい!」」

 

何なのこれ?俺は何を見せられてるの?

さっきまではお尻を……だからもういいって。

 

「そうだ…俺はこの店のオーナーだ。仕事に戻る振りをしてこのまま逃げれば…(ボソッ」

 

いや、逃がさねぇからな?

頼む…まどか早く来てくれ…。

 

 

 

 

「お、遅れて……ごめん…ハァ…ハァ…」

 

あれから30分以上も俺達は正座をさせられたまま奈緒と盛夏と聖羅と澄香で楽しい楽しい女子トーク(笑)が続き、やっとまどかが来てくれた。

予定より10分早い。頑張ってくれたんだな。ありがとうまどか。後でビールくらいなら奢ってやろう。

 

「え?誰?」

 

「はじめまして。私、盛夏の母親の蓮見 聖羅と申します。いつも娘がお世話になっております」

 

「せ、盛夏のお母さん!?嘘!!?お姉さんとかじゃなくて!?」

 

「ふぇ?や、やだまどかちゃんったら…盛夏のお姉さんだなんて…」

 

おーおー、若く見られて嬉しそうですね。それより俺達はいつまで正座をしてたらいいですか?

 

「あ、す、すみません。あたし……じゃなくて……。コホン。

私は柚木 まどかと申します。盛夏さんと同じバンドでドラムを担当させて頂いております。

今後ともよろしくお願い致します」

 

まどかってちゃんとしてる所では本当にしっかりしてるよなぁ。お兄ちゃん感心しちゃう。いつもこうならモテるだろうに素の姿が残念だからなぁ…。

 

「タカ程じゃないよ。それよりタカと英治は何で正座してんの?」

 

俺の心が読まれている……だと…。

 

「じゃあみんな揃ったようだし話を始めようか。みんな好きなの注文して頂戴。今日は無理言って集まってもらったんだし私がご馳走するから」

 

「え?そんな…それは申し訳ないですよ…!」

 

「そうですよ。そんなのお気になさらないで下さい…!」

 

「私は呼ばれた訳じゃないし、自分の分は出すよ?」

 

「あたしはA定食とB定食とカレーとケーキセットで~」

 

「俺はビール」

 

「お、じゃあ俺もタカと同じで」

 

「もう!澄香もたまにはお姉さんに甘えなさい。可愛い妹のバンドメンバーだったんだから。

タカと英治なんか普通にビールとか言ってるし。あ、英治、あんたの分も出してあげるからみんなの注文取っちゃってよ。あ、タカも早く座って」

 

え?冗談だったのに俺らの分も奢ってくれんの?しかも正座を解いてくれますか?聖羅って実は女神様かなんかなの?ああ、ビールピッチャーで頼んでおけば良かった。

って思ったけど、このタイミングで正座を解いてもらうって今まで何の為に俺達正座させられてたの?新手の羞恥プレイ?

 

そして英治はみんなの注文を取って厨房に戻り……初音ちゃんにオーダーを通してドリンクだけを持って俺達のテーブルに戻ってきた。え?初音ちゃんが作るの?

 

 

 

 

「さて、まずはタカと英治に聞きたいんだけど…」

 

「ん?何だ?」

 

「俺とタカに聞きたい事?」

 

「私の父親の話。あいつが私の父親だって盛夏に話したのは誰?」

 

ん?盛夏に父親の話?海原の事か?

海原 神人。クリムゾンエンターテイメントの創始者。

あいつは15年前の俺達の敵であり、聖羅の父親である。聖羅の父親って事は盛夏の祖父にあたる訳だ。

 

「その前にちょっといいか?」

 

「タカが話したの?」

 

「いや、俺じゃねぇけどな。その前にちょっと聞きたいんだが…」

 

「質問してるのは私なんだけど…。タカが話したんじゃないのね?聞きたい事って何?」

 

「ああ、実は言いにくいんだが……。みんな聖羅の父親。つまり盛夏のじーさんが誰なのか知ってるの?」

 

俺の質問に対し、奈緒とまどかは頷いた。そして盛夏は『クリムゾンエンターテイメントの大ボスでしょ~?実は祖父がラスボスだったとかエモい~』とか言っていた。

 

そうか…みんな盛夏のじーさんが海原って知ってたのか。はぁ~……まぁいいか。

 

「なるほどな。だったら英治でもないから安心してくれ。英治が盛夏のかーちゃんが聖羅だって知ったのも今日だからな」

 

「そうなの?じゃあ誰が……」

 

「ん?あたしにおじーちゃんの事教えてくれたのは宮野 拓斗だよ?」

 

「拓斗…?拓斗も盛夏と関係してるの?」

 

「いや、関係はない?かな?微妙な感じ?」

 

拓斗か…あのバカ…。

これからクリムゾンエンターテイメントと戦う事になるかもって時に言うか普通……。まぁ、みんな何とも思ってないみたいだしいいけど……。

 

「まぁ、あれだ。そういう事らしいわ。もしかしてそれで俺達は正座させられたの?めちゃ冤罪じゃねーか」

 

「英治はそうかもしれないけど、タカは違うわよ?まだ嫁入り前の盛夏と一夜を共にしておいて私達に挨拶も来ないとかどう責任を取るつもり?」

 

「「「「「は?」」」」」

 

………は?

 

待って?この場の空気が凍りついたんですけど?何?何の話?

あれ?俺知らない間に違う世界線に来ちゃったの?

 

「お~!ファントムのカレーも美味しい~♪」

 

!?

カレー……カレー…だと…?盛夏と一夜を共にした……?もしかしてあの旅行の時の事か!?

あれは一夜を共にしたと言っても俺は縛られて何もしてないしされてないしな!?それこそ冤罪だろ!?

てか盛夏は自分の母親にそんな事話したの?

 

しかしこれは確かにまずい…。

何がまずいってこのカフェにいる人盛夏以外みんな固まっちゃってるよ?

関係のない他のカフェ客の皆様まで俺達の方を見て固まっちゃってるし!

あんな言い方誤解がありまくりまくってるじゃねーか!どんどけまくってんだよ!

 

--ブブ…ブブ

 

あ?LINE?え?何件来てんのこれ。

 

渚『ヘェー。それどういう事ですか?明日詳しく教えて下さいね(はぁと』

 

理奈『それはどういう事かしら?詳しく説明してもらいたいものね。ふふふ、楽しみね』

 

志保『ねぇ?何かあったの?渚と理奈が超怖いんだけど?』

 

香菜『タカ兄。悪い事は言わない。逃げて』

 

美緒『おのれ……お姉ちゃんという者がありながら…(ギリッ』

 

天使(遊太)『たか兄!お腹空いた!』

 

渉『にーちゃん……俺…俺絶対に天下一のバンドになるからっ!(涙)』

 

ちょっと待って。何でこのタイミングでこんなLINEが来てるの?本当に怖いんだけど?盗聴器か何か仕掛けられてるの?

ってか何で渉は泣いてるの?そして香菜は逃げろって?逃げれるならダッシュで逃げ出したいわ。

それより遊太のお腹空いたって何?

 

はぁ~…めんどくせぇ。

ここはちゃんとビシッと誤解だと言っておかねぇとな。

 

「にゃ、にゃんの事でしゅかにぇ?」

 

噛んだー!盛大に噛んじゃったよ!

しかも何がビシッと誤解だと言っておかねぇとだよ!めちゃしらばっくれるつもりじゃん!

 

「え~…貴ちゃん酷い~。あたし初めてだったのに~。ふぇぇぇぇん……」

 

-バリン

 

-バリン

 

-バリン

 

え?何が壊れたの?割れたの?

え?何で奈緒と澄香の持ってるジョッキが破裂してんの?さっきの音はそれ?

あれ?バリンって3回鳴ってなかった?

それにしても何で盛夏もそんな誤解を招くような言い方するの?

 

--ブブ…ブブ

 

あ?またLINE?え?見たくないんだけど。怖いんだけど。

 

渚『先輩先輩!明日飲みに行きましょう!!いつも先輩にはお世話になってるので私と理奈の奢りですよ(はぁと』

 

理奈『そうね。久しぶりに一緒に飲みたいわね。無理にとは言わないけれど、必ず来るのよ?』

 

志保『貴!あんた本当に何したの!?マジでヤバいよ!?何がヤバいってマジヤバい!!』

 

香菜『タ、タカ兄!に、逃げてー!!』

 

美緒『お姉ちゃんを泣かせたら……わかってますよね?』

 

天使(遊太)『たか兄今まで本当にありがとう!なんか急にお礼を言いたくなっちゃった!』

 

渉『にーちゃん……』

 

えええええ!?本当に何?マジで何なの?何の茶番?

 

そもそも理奈とはこないだホテルで宅飲みしたばっかじゃねーか!あ、なんかこの言い回しも誤解を招きそうですね。

それに『無理にとは言わないけど』と言いながらも『必ず』なの?それ矛盾してね?

香菜に至っては何でLINEでどもってんの?遊太も今までありがとうとか本当にやめて……!!

 

「うぉぉぉぉぉ!!やったぁぁぁぁ!!

明日は渚と理奈に奢って貰える~!

そんな訳でおかーさん。明日は晩御飯いらないのでよろしく~」

 

あ、盛夏も渚と理奈に呼び出しされたの?何で喜んでんの?

ってかマジで盗聴器か何か仕掛けられる?

 

「あ、英治ごめん。雑巾かなんか貰える?ジョッキも弁償するね。奈緒は大丈夫?怪我してない?」

 

「あ、私は大丈夫ですよ。澄香さんも大丈夫ですか?あ、明日は渚達と飲みに行くんですけど澄香さんも来ます?」

 

「お、いいね。なっちゃんとりっちゃんとも飲みに行きたいし、私もお呼ばれしちゃおうかな」

 

え?奈緒と澄香も来るの?

どうしようもうちびりそうなんだけど。

ってか何で俺はビビってるの?ただ飲みに行くだけじゃん。

みんなで飲み会楽しみだなぁ~。

 

と、完全に自分の世界に入っている場合ではない。この空間を何とかしないとな。

 

「てかな、聖羅。その件は確かに盛夏と一夜を……って言い回しをしたら事実ではあるんだが、こないだのみんなで行った旅行での話であってだな。確かに俺と盛夏は同じ部屋に居たが俺は縛られてたし何もしてないからな…。誤解を招くような言い方はやめてくれ」

 

よし!言った!言ってやった!!

ちゃんと噛まずに言えたよ!!

 

「!?タ、タカを縛ってって……初回からそんなプレイを…!?」

 

「いや!お前の想像力どうなってんの!?アホなの!?」

 

クッ…こうなったら全部話すしかねぇな…。遊太との事までバレてしまうがしょうがない。

 

そして俺はこの前の旅行での事をつつみ隠さず話した。それはもうBlaze Future編第8章を読み聞かせたレベル。

 

 

 

 

「盛夏…そうだったの?」

 

「え~…?あたしもちゃんと説明したよ~?」

 

「だってお赤飯を炊いてとかいうから…」

 

「食べたかったし~」

 

それ!?本当に赤飯を炊いてもらったの!?

 

「な~んだ。そういう事ですか。

せっかく貴と盛夏をお祝いしようと思ってましたのに~」

 

「まぁ、タカにはそんな度胸ないか~…。

だからタカはまだ結婚出来ないんだよ」

 

澄香?わかってるか?

確かにお前の方が俺よりは年下だけどそんな年齢変わらないからな?結婚出来てないのはお互い様だよ?その台詞ブーメランだからな?

 

--ブブ…ブブ

 

あ?またLINE?今度は何だよ…。

 

渚『そういや先輩って奢られるの嫌いって言ってましたよね?だからやっぱり明日は割勘にしましょう。遠慮して来ないとかなるとつまんないですし。あ、盛夏の分はちゃんと私と理奈で出しますので♪』

 

理奈『そうね。今は私達もそよ風でミーティング中なのだけれど、明日はBlaze Futureがどうするのか聞きたいわね』

 

志保『何か渚と理奈も機嫌直ったみたい。良かったぁ~』

 

香菜『あ、タカ兄。なんかもう大丈夫みたい』

 

美緒『命拾いしましたね……でも次はないです』

 

天使(遊太)『さっきたか兄にお礼を言ったの損な気がしてきた!たか兄謝って!!』

 

渉『にーちゃん。これからも俺達を見ててくれよな!』

 

本当に何なのこれ。それでも明日呼び出されるのは決定事項なの?

美緒ちゃんの次はないって何?

てか何で俺は遊太に謝らなきゃなの?

渉……俺はお前達をしっかり見てるからな!

 

もう本当に疲れたんですけど…。

 

「あはは、タカごめんね。ビールもう1杯奢るから許して」

 

は?ビール1杯でさっきの羞恥プレイを忘れろと?そういう事ですか?

はい。もう忘れました。さっきの羞恥プレイって何の事ですか?

 

「それとさ……悪いけど拓斗を呼んでくれないかな?」

 

「あ?拓斗を呼べって?おい、英治。あいつを呼び出してやってくれ」

 

「あ?何で俺があいつを呼ばなきゃなんねーんだよ。お前が呼んでやれよ」

 

「すまん……実は俺拓斗の連絡先知らねぇんだわ…」

 

「何だお前もかよ。俺もこないだ聞きそびれちまってな」

 

「まじでか……。もしかして今誰もあいつの連絡先知らないの?」

 

「……晴香に聞いてみるか」

 

「澄香は?拓斗の連絡先とか聞いてたりするか?」

 

「え?聞くわけないじゃん」

 

「え?タカも英治も本当に拓斗の連絡先聞いてないの?BREEZEって…」

 

しまったなぁ。土曜日にSCARLETの本社に行く事は伝えてるし、そん時に会えるってのあったから連絡先聞くの失念してたわ…。

そもそもぼっち民の長い俺は人に連絡先を聞くとかやり方知らないしね。

 

「……晴香も拓斗の連絡先知らないってよ」

 

「手詰まりだな」

 

「妹ですら連絡先知らないって……」

 

やだ。もしかしてこないだ誰にも連絡先聞かれなかったのあいつ。

どうしよう何か涙が出そうになってきた。今度会ったらすぐ連絡先聞いてあげよう。そうしよう。

 

「はぁ……拓斗はいいや。うん、まぁもう盛夏も知っちゃった訳だから今からグチグチ言った所でどうしようもないか…」

 

「あ?もしかして母親としてその事を文句言いに今日来たの?」

 

「まぁ…ね。盛夏にはあいつとは関わらせたくなかったし…。だから、軽音部に入るのもバンドをやるのも私も主人も反対してたんだけどね」

 

「え!?盛夏ってバンドやるの反対されてたんですか!?」

 

「す、すみません。あたし達そうとも知らず盛夏を…」

 

盛夏がバンドをやるのを反対していた?

軽音部に入る事も?ベースは買ってやったのに…?

 

「あ、奈緒ちゃんもまどかちゃんも気にしないで。盛夏がバンドに加入したって聞いた時は驚いたし、盛夏やそのバンドメンバーには悪いけど辞めさせようとは思ったわよ。

でも、盛夏がボーカルは元BREEZEのTAKAだよって言って…EIJIさんやTOSHIKIさんとも知り合いになったよって言って…。

それなら大丈夫かな?って。タカ達になら盛夏を任せられるかなって思って、応援する事にしたの」

 

「そうだったんですね」

 

「おかーさん……カレーおかわりしていい?」

 

「え?盛夏まだ食べるの?それよりさっきの話は盛夏的にスルーなの?」

 

俺達になら任せられる……か。

 

「なぁ聖羅……。盛夏が軽音部入るのもバンドをやるのも反対してた理由って…」

 

「……多分だけどこの子は梓と一緒だから」

 

梓と一緒……か。やっぱりな。

軽音部かバンドをやりゃライブなり何なりでクリムゾンに見つかる可能性がある。だから家の中だけでベースを弾くようにしてたのか。

 

「梓と一緒って…だから『狭霧』の声が…」

 

「普段はポケポケ~ってしてるけどね。

この子は自分がやるって決めた事には一途に頑張っちゃう子だから…外で演奏するのは心配だったの」

 

そうだな。こないだの旅行ん時もレポートを書いてる時はすっげぇ真面目だったもんな。

 

「あたしが叔母さんと一緒?何が~?」

 

「こら!盛夏!叔母さんとか言ってたらまた梓に怒られるわよ?」

 

へ?梓に怒られる?また?

 

「あ、そういえば盛夏って梓さんに会った事あるんだっけ?」

 

「うん。こないだ会ったのいつだっけ~?3年前?」

 

こないだ?3年前…?

 

「そうね。盛夏が高校卒業して大学の入学式くらいまでこっちに居たわね」

 

ちょ…ちょっと待って…?

3年前にこっちに帰ってきたの?

俺ももう梓とは10年?11年くらい会ってないんですけど?

いや、べ、別に会いたいって訳じゃないんだからねっ!

 

って、ツンデレってる場合じゃねぇなこれ。

ほら、そんなの英治も澄香も知らないからびっくりして目が点になって口も開いちゃってるじゃん。

ってか俺も多分そんな顔になってそうだけど。

 

「あれ?貴も英治さんも澄香さんもどうしたんですか?」

 

「あ?いや、梓ってこっちに帰ってきたりしてたの?」

 

「あれ?タカって知らなかったの?

たまに電話してんじゃないの?」

 

「わ、私もたまに電話してるけど梓がこっちに帰ってきたりとか聞いてないけど…?」

 

「え?澄香も?そうなのね…。あ、もしかしてタカ達に会いに行ったら迷惑掛けると思って…?」

 

俺達に迷惑…か。あのバカ……今更だろ…。

 

「迷惑なんてねぇから……今度こっちに来たら連絡くらい入れろって言っててくれ。ま、梓が俺なんかに会いたくねーってんならいいけどな」

 

「うん…わかった。伝えておくね。

あの子もタカ達に本当は会いたかっただろうし…」

 

「梓のやつ~今度電話した時に怒ったろかな…」

 

「大体タカに迷惑掛けたくないとか今更だろ?なぁ?どんだけ迷子になった梓をタカが見つけてやってたか…」

 

「ん~。やっぱり叔母さんって車イスだし、タカちゃん達に悪いって思ってたんじゃな~い?」

 

「え?梓さんって……もしかして15年前の事故で…?」

 

「うん。一命は取り止めたんだけどね」

 

アメリカで手術してリハビリしたらまた歩けるようには……って話だったけど、やっぱりそう簡単にはいかねぇか…。

 

「じゃあさ、今度梓が日本に帰ってきたらよろしくね。タカ。

梓が日本に居る間はずっと一緒に居てあげて」

 

「おう。次に日本に帰ってきた時にな」

 

「本当に?日本に居る間は一緒に居てあげてくれる?」

 

俺も…会いたかったしな。

きっと俺だけじゃなくてみんな梓に…。

 

「ああ、次に帰ってきた時はずっと俺が一緒に居てやるよ。まぁ仕事中とかは無理だけどな」

 

「フフ……フフフフフ……」

 

え?俺なんかおかしい事言った?

 

「言質は取ったからね。あ、ちなみにもうすぐあの子日本に帰って来るから」

 

「あ?もうすぐっていつだよ?」

 

え?もうすぐ会えちゃうの?

なんかドキドキするわ~。

渚も喜びそうだよな~。

 

「ねぇ聖羅。本当にもうすぐ梓帰ってくんの?いつ頃?」

 

「う~ん……いつ頃になるかな?色々手続きとかいるしね」

 

あ、そういうもんなの?

海外旅行者とか行った事ないからわかんねぇや。瀬戸内海とか国内の海なら渡った事あるけどな。

 

「でもタカが梓が日本に居る間はずっと一緒に居てくれるって言ってくれて良かった~」

 

あ?何?もしかして長期でこっちに居るの?

どんくらい居るんだろ?つか平日は俺仕事だよ?

 

「あの…私何か嫌な予感するんですけど…」

 

「梓が次に帰ってきたら日本に永住するからね。

家財を売り払ったりとかの手続きが大変なんだってさ。って訳で梓が日本に居る間はよろしくね、タカ」

 

「「「「「は?」」」」」

 

次に帰ってきたら……日本に…永住?

 

「お、おい。それって…梓が日本に居る間はタカがずっと一緒って事は、永遠にタカは梓と一緒って事か?2人を死が別つまで的な…?」

 

「梓……とうとう私と決着をつける時がきたか……」

 

「おかーさん。あたしも叔母さんが日本に永住するって聞いてないんだけど~?」

 

「や、やっぱり嫌な予感が当たりましたか……」

 

「こ、これは面白くなってきた!高画質のビデオカメラ買わなきゃ…!」

 

「てか何で?リハビリはどうしたの?」

 

「もう手術は成功したしね。リハビリはゆっくりこっちでやればいいし♪」

 

はは…ははははは。ま、まじかよ……。

 

「それに……」

 

それに?

 

「あいつも日本に帰って来るんでしょ?

だから梓も帰って来る決心をしたみたい」

 

あいつ…海原か…。

海原が日本に帰って来るから梓も?

まさか梓のやつ海原と…。

 

--ブブ…ブブ

 

またLINEがきたみたいだが、俺はそれを見る気にはなれなかった。

別に見るのが怖いわけじゃないよ?

 

梓が日本に帰って来る理由。

もし海原と…クリムゾンエンターテイメントと戦うつもりで帰って来るなら…。

 

今度こそは……梓も守ってやらないとな。

梓だけじゃなくて…奈緒や盛夏やまどかを…ニュージェネレーションのみんなを…。

 

もう15年前の繰り返しはごめんだ。

梓にも楽しい音楽を…。音楽は楽しむものだから……。

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