バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

6 / 146
第6章 その先へ…

とうとうこの日がやってきた。

 

今日は俺達Ailes Flammeが初めてオーディエンスの前で歌う日だ。

 

「みんな!準備はバッチリ!?」

 

「ああ、やるだけはやった。後は本番だ」

 

「うん…僕も緊張はあるけど…やるよ」

 

「…俺達、とうとうやるんだな。ライブ」

 

俺は江口 渉。

今俺達はファントムの前に立っている。

 

「で?俺達はいつ入ればいいんだ?やっぱり前座やらせてもらうんだし、挨拶もちゃんと行った方がいいよな?」

 

「うん、そうだね。ボクもおっちゃんを挟んでのやり取りしかしてないんだけど、前座をやらせてくれるバンドさんの名前はevoke(イヴォーク)。4人組の男の子達の大学生バンドだよ」

 

「evokeか…聞いたことはないな」

 

「ボクもそれまでは知らなかったけど、それなりに人気のあるバンドさんらしいよ。曲も聴いてみたけど王道ロックって感じだね」

 

「王道ロックか…ならオーディエンスもロック好きが多いんだろうな。ちょうどいい!俺達でファンをかっさらっちまおうぜ!」

 

「渉はすごい自信だね…」

 

「シフォン!」

 

「ほぇ?」

 

俺も声のする方に目を向けた。

そこには雨宮と綺麗なねーちゃんがいた。

 

「志保!それにまどか姉も!」

 

「シフォンの晴れ舞台だもんね。お姉ちゃんとしてはしっかり観ておかなきゃ」

 

ん?この人シフォンのねーちゃんなのかな?

 

「うわ~…綺麗な人だなぁ…シフォンのお姉さんかな?まどかさんかぁ…」

 

「え?一目惚れってやつか?」

 

「ち、違うよ!?綺麗な人とは思うけど…」

 

「まぁ、オレはシフォンの方がいいけどな」

 

拓実のやつまじなのかな?そうなったらまずいな。亮はシフォンが好きで、拓実がこのねーちゃんを好きになっちまったら、俺だけただのバンド野郎で、青春×バンドの青春の部分がなくなっちまう…。

 

「あ、江口?だからってあたしは止めてね?あたし好きな人いるし江口タイプじゃないから」

 

これは本格的にまずいな。別に雨宮とかどうでもいいんだが、モノローグで考えてる事が読まれてる可能性が出てきた。

 

あ、まずい。これ読まれてるなら雨宮とかどうでもいいって思ってる事も読まれてる事になる。ヤバい。もう殴られたくない。

 

「それよりまどか姉と志保って珍しい組み合わせだね?仲良かったの?」

 

「ああ、昨日うちらと志保んとこのバンドで飲み会したんだよ」

 

「そ。それで飲み会の後でラーメン食べに行ってね。そのままあたしん家でお泊まり会にしたんだよ」

 

「ちょ…ちょっと待って…!飲み会に…って志保!まだボク達高校生だよ!?それにまどか姉のとこのって事はたか兄も居たの!?」

 

「あたしはお酒は飲んでないよ。貴もだけど英治さんもトシキさんも居たよ」

 

「え!?ずるい!ボクも行きたかったよそれ!!」

 

「あはは、次は呼んだげるよ。あ、そいや香菜も居てね。香菜は志保とバンドやってるんだってさ」

 

「香菜ちゃんも!?うわぁぁぁ…いいなぁ…」

 

雨宮はあのねーちゃんとお泊まり会したのか。うんうん、百合百合しいな。

 

「江口ほんときもい…」

 

雨宮ほんと怖い…。

 

「それよりオレはそんな飲み会の場にシフォンが行って、貴さんにセクハラされないかが心配だ。って、それより貴さんは来てくれるのかな?」

 

「どうしたんだ?にーちゃんに会いたいのか?」

 

「ああ、ちょっとな…。聞きたい事があってな」

 

「シフォンとの関係とか?」

 

「拓実…。オレはいつもいつもシフォンの事ばかり考えてるわけじゃないからな…?」

 

 

 

 

 

そろそろevokeのリハーサルも終わるだろうという事で俺達は裏からファントムに入った。

 

表側では物販とか色々で人が多いとかで関係者は裏から入るらしい。

え?雨宮達も関係者なのか?

 

「お、来たな。Ailes Flamme」

 

「た、たか兄!!」

 

シフォンがにーちゃんに駆けて行った。

 

「ゆ、シフォン。今日はお前の晴れ舞台だもんな。結婚しよう」

 

「何を言ってるのたか兄は…。ここじゃシフォンだっけ?久しぶり!」

 

「香菜ちゃん!!」

 

にーちゃんも来てくれてたんだな。

 

「うわ~…綺麗な人だなぁ…香菜さんかぁ…」

 

「え?一目惚れってやつか?二股はどうかと思うぞ?」

 

「ち、違うから!」

 

「貴さん、ちわっす」

 

「あ?亮くんだっけ?秦野くんだっけ?」

 

「どっちも合ってます。あの、ちょっと話いい……」

 

「にーちゃん!!!ありがとうな!おかげで俺達の曲出来たぜ!」

 

「おお、渉くん?だっけ?曲も出来たなら良かったよな。でも、抱き付いてくるの止めてね?あれだから。興奮するから」

 

「にーちゃん!にーちゃん!!」

 

「江口…貴から秒で離れないと…潰すよ?」

 

俺はつい抱き付いてしまったにーちゃんから離れた。雨宮怖ぇ…何を潰されるんだろう…。

 

「あ、あれだ。亮くん?なんか話あんのか?シフォンの事か?」

 

「あんたまでオレがシフォンの事ばっかり考えてると思ってんすか?……後でいいんでまた話聞いて下さい」

 

「お?おういいぞ」

 

「それより貴!見てよこの手!」

 

「うわ、傷になってんじゃん、どしたのこれ?昨日のやつ?」

 

「そだよ!責任取ってよ!乙女を傷物にした責任!」

 

え?にーちゃん雨宮を傷物にしたのか?

 

「責任って何?俺なんかした覚えないんだけど?じゃあ結婚する?」

 

「奈緒と渚と理奈に内緒でよろしく!」

 

「それ可能か?無理くさくね?」

 

「ある事は証明出来ても…」

 

「え?お前あれ見てたの?土下座したら忘れてくれる?」

 

あれ?雨宮って百合じゃねぇのか?それより亮はどうしたんだ……?お前のそんな顔、俺見た事ないぜ?

 

 

 

 

 

「はぁ……シフォン…可愛いなぁ。子供は何人にしようか…」

 

「どうしたんだ、亮」

 

「渉か…」

 

亮が現実逃避してたみたいだったから、つい話しかけてしまった。

 

「何でもねぇよ。オレは天才的なギタリストと思ってたからな。それがバンド組んでから色々あって、ただのギター好きなイケメンだったって事に絶望してるだけだ。あ、だからって今日のライブに自信ないわけじゃねぇぞ?」

 

お前はいつも嘘をつくのが上手いよな。

おかげで俺も嘘つくのが得意になっちまった。

 

「お前のギターは心配してねぇよ。天才的なボーカリストのバンドのギタリストだろ?どうしたんだ?シフォンの下着の色とか気になってるのか?」

 

「シフォンの下着の色か…。確かに気になるな…」

 

「…」

 

「…」

 

「…」

 

「…」

 

「お前!幼馴染の俺が心配してやってんのに何だそれ!シフォンの下着の色だと!?」

 

「お前こそ何言ってんだ!シフォンは可愛い明るいピンクとか水色とかが似合うだろうが!それを実は黒とかだった時どうすんだ!?萌えるしかないだろ!?」

 

「さすが俺の幼馴染。とんだ変態野郎だぜ」

 

「お前、そういうのはモノローグで言えよ…」

 

「何を考えてんのか知らんけどな。今はライブを楽しもうぜ。

その後でな。また話聞いてやるよ。幼馴染の俺がな」

 

「めんどくせぇな。幼馴染は」

 

「だから俺達は今、Ailes Flammeなんだろ」

 

俺達がそんな話をしていた時だった。

 

「何だこいつら」

 

「青春ってやつじゃないか?俺達も昔はあんな感じだったんじゃない?あ、俺の妹も今青春やってるかと思うと心配になってきた!女子校に入学させるべきだったよな?」

 

「またその話かよ。きめぇ……頼むから黙れ」

 

「うにゅ…眠い…」

 

この場所にいる俺達以外の人。

この人達がevokeの人達か…?

と、取り合えず挨拶しないとな。挨拶?挨拶ってどうやんだ?

 

「あ、す!すみません!evokeの皆様ですか!?リハーサルお疲れ様でした」

 

あ、なるほど。亮みたいにやりゃいいか?

 

「お疲れ様です。今日は前座を俺達にさせて頂いてありがとうございます」

 

こんな感じか?

 

「お前ら…高校生か?」

 

「は、はい」

 

「応援してる。ライブの参加費の割引ってのに乗せられたってのはあるけどな。俺達も高校の時からバンドやってたしな。音楽の好きな者同士今後ともよろしく。俺はボーカルの豊永 奏(とよなが かなで)だ。奏って呼んでくれ」

 

そう言って奏は俺達に手を差し出してくれた。それを俺はしっかりと握り返して。

 

「Ailes Flammeのボーカルの江口 渉です!よろしくお願いします!」

 

「ああ、よろしく。俺達のオープニングアクトだとか気にしないで、俺達のファンをかっさらうくらいに頑張ってくれ。俺達も見させてもらうからな」

 

「はい!」

 

感じのいい人だな。怖い人のバンドじゃなくて良かったぜ。

 

「奏。てめぇ、何言ってんだ?俺らの敵はDESTIRAREしかいねぇ。DESTIRARE以外のバンドを見てる暇はねぇよ」

 

「もちろんだ。俺はDESTIRAREを、ディズィを越える。俺がボーカルの四響になる。だがな。ディズィを越えるボーカルは他にもいるかも知れない。このAiles FlammeがDESTIRAREを越えるバンドになるかも知れない」

 

「奏は相変わらず熱いね。ごめんね。こいつの言うことは気にしないで気楽に頑張って!あ、でも今日は妹が来てるからダサい演奏はしないでね?」

 

「本番まで寝てていい?もう寝ないと死んじゃう…」

 

「ああ、悪いな。リハーサル長かったしな。じゃあ、また後でな」

 

そう言ってevokeの人達は楽屋に戻って行った。あの人達の期待を裏切らないようにしなきゃな。

 

 

 

 

ライブの時間がもうすぐ始まろうとしていた。

 

今回のライブの演出は俺達は幕の前で演奏をする。演奏と挨拶が終わった後に俺達がはけて、幕が開いてevokeが現れて演奏を開始する。そんな演出らしい。

 

つまりステージの前にある幕。その前のスペースしか俺達のステージはない。ドラムや機材を置いたらもうスペースいっぱいいっぱいだ。

そこでしか俺達は演奏は出来ない。

 

でも、その準備をしていた時、手伝ってくれてた、にーちゃんに言われた。

 

『前座とかってこんなもんだ。俺もこういうとこで歌った事もある。でもな?自分達の歌を伝えるのに場所の広さもパフォーマンスも関係ねぇよ。歌を伝えるのは場所じゃないからな。あ、でも武道館でワンマンライブしたかったわぁ』

 

にーちゃんの言う通りだ。そう。ここがスタジオでもカラオケでもライブハウスでも武道館でも関係ない。俺は俺の想いを歌に乗せて届けるだけだ。

 

そして、会場の客を楽しませる音楽が止まり、会場の照明が落とされた。

 

暗闇の中、俺達はステージに出て照明に照らされた。俺達のライブが始まった。

 

「え?evokeじゃないよ?」「誰あれ?」「がっかりだよね?」「早くevoke出してよ」ざわざわ……

 

ちょ…ちょっと待て…。何だこれ何だこれ。

みんなの顔が見える。でも誰も楽しそうじゃない。落胆した顔。楽しみにしてたプレゼントを開けて欲しいものじゃなかった時みたいな…。わかりやすく言うとソシャゲで推し狙いでガチャして、レア演出が来たから喜んでたら持ってる恒常が来た時みたいな…。

 

俺…今からこんな所で歌うのか…。

 

『あ、あとな。緊張して歌えないとか、怖いとか思ったらこう思えばいいぞ。オーディエンスを野菜とかに思えばいいとかよく聞くけどな。そんなの無理だし。だから、今この場に居る人はな。今後一生会うこともない人ばっかりって思っておけ。もしかしたら今後会うことあるかもな人も居るかもだけどな?』

 

『は?はぁ…?』

 

『お前小学校の1年とか2年の時に隣の席だった人とか覚えてる?』

 

『うーん、覚えてないかな?亮以外は覚えてないかも?』

 

『でもそん時は隣の人に友達になって下さいとか、気安く話し掛けたりとか、恥ずかしいお願いしたかもしれんぞ?ただ覚えてないだけで』

 

『まぁ、覚えてないからそれは無いとは言えないかな?』

 

『ライブもそんなもんだ。最初の友達になって下さい。が、大事だ。それが恥ずかしいとその時は思ってもな。何日か何ヵ月か何年かしたら忘れる。そんな気持ちでやりゃいいわ。あ、だから色々最初からぶっちゃけ過ぎて俺まだ結婚出来てないのかな?』

 

『なんとなく、なんとなくだけど、にーちゃんの言いたい事わかった』

 

『そか。まぁ、頑張れ。あ、あとな?楽器組は俺らボーカル以上に緊張してると思うわ。ボーカルは喋りで色々あとからでも言えるからな。歌詞間違えても、この会場だけの特別な歌詞です!とか。でも、楽器はそうはいかねぇ。ボーカルがちゃんと引っ張ってやれよ?』

 

『あはは、それめちゃプレッシャーじゃん』

 

亮…。拓実…。シフォン…。

みんなすげー顔をしてるな。完全にオーディエンスに飲まれてる。

にーちゃんありがとうな。俺はAiles Flammeのボーカルとしてやってみるよ。

 

「みんな!こんばんはー!」

 

ざわ…ざわ…

 

「あはは!楽しみにしてたevokeじゃなくてがっかりしたって顔だな!俺達は今日のオープニングアクトをやらせてもらうAiles Flammeです!」

 

そしてシフォンを見て合図した。

 

ドン♪ドドドドドド…ドン♪シャン♪

 

さすがシフォンだな。よし…。

 

「今日は俺達の名前だけでも覚えいって下さい!……って、あ、これじゃ漫才師みたいだな。あはは!」

 

「お前何言ってるんだ?オレ達はバンドマンだぞ?まぁ、漫才師の方が盛り上がるかもしれないけどな」

 

亮…。上手いぞ。よし。

 

「で、いきなりだけどな。俺達の自己紹介からやらせてもらうな!まずはギターの亮!」

 

亮にスポットが当てられギターを弾く。

台本にはなかったのに、照明さんありがとう!

 

「オレがイケメンギタリストの亮です!ギターのレベルはまだまだかもしれませんがよろしくお願いします!」

 

「お前、普通自分でイケメンって言うか?」

 

「すまん、それしか今は紹介出来る事がなくてな」

 

「クスクス」「何あれ」「でもギター上手くない?」「あたしあの人タイプかも」

 

「次はベースの拓実!」

 

拓実にスポットが当てられ軽快なベース音が鳴り響く。

 

「ベースの拓実です!一生懸命頑張ります!」

 

「お前他にも自己紹介あるだろ?パティシエになりたいとか、お菓子作りが趣味とか」

 

「も!もう!そりゃお菓子作るの好きだけどさ!」

 

「あの子お菓子作り趣味なんだって」「なかなか可愛いしいいよね?」「パティシエベーシストとかかっこいいよねー」

 

良かったな。拓実。ここはみんな俺達の味方だ。

 

「みんなー!俺は拓実のお菓子美味しいから好きなんだけどな!男でお菓子作りが趣味ってどう思うー?」

 

「「「かわいいー!!好きー!」」」

 

「あ、ありがとう!みんなありがとう!!」

 

「さぁ、次は俺達のバンドの紅一点!ドラムのシフォンだー!」

 

ドラムの重低音が会場に鳴り響く。

さすがだな。シフォンのドラムは。

 

「ボクがドラムのシフォンです!みんなよろしくね!!」

 

「ね、あの子可愛いよね」「女の子なのにすごい力強いドラムだよね」「私あの子推しに決定!」

 

よし、いい感じだ。でも時間が押してる。こんなの予定になかったしな…。

 

「そして俺がボーカルの渉だぁぁぁぁ!まずは聴いて下さい!BLASTでDreamer!!」

 

 

 

 

------------------------------------

 

 

 

「な?奏、こんなもんだよ。高校生バンドなんてな。時間の無駄だったな」

 

「そうだな…。MCはなかなか良かったが…がっかりだ…」

 

 

 

------------------------------------

 

 

俺達はBLASTのDreamerを歌いきった。

オーディエンスの反応は……

うん、思ってた通りだ。全然ダメだな。

 

「みんな!聴いてくれてありがとう!今の曲はBLASTのDreamerって曲だ。俺達はまだまだ下手くそなバンドマンだからな。この曲を俺達が歌った所でみんなには響かなかったと思う」

 

ほんとはこのまま2曲目にいくんだけど、これじゃダメだ。悪いな。みんな。

 

「それは、こんな素晴らしい曲を作ったBLASTにも、ライブを楽しみに来てくれたみんなにも、俺達なんかにオープニングアクトをさせてくれたevokeのみんなにも本当に失礼な事だと思う。だから、Ailes Flammeを代表して、みんなに謝りたい。ごめんな!」

 

「渉…?」

 

「俺はさ。バンドって、ライブってもっと簡単なものだと思ってた。正直、カラオケ行ったり音楽の授業で歌が上手いって褒められてさ。俺は歌が上手いって思ってたんだ」

 

「わ、渉…?」

 

「でもそんな事全然なかった。俺達はまだまだだ。でもな!俺達はこれからなんだ!ここに居るみんな。スタッフのみんな。evokeのみんな。俺達がオープニングアクトをするからって手伝ってくれた友達のみんな。そんなみんなのおかげで、俺は大切な事に改めて気付けたんだ。歌は。みんなに俺達の想いを届けるものだって!」

 

「渉くん…」

 

「だからそんな想いを込めて歌います。これが俺達の……Ailes Flammeの曲です。………。聴いて下さい。Challenger」

 

 

 

 

 

------------------------------------

 

 

「奏」

 

「なんだ?」

 

「最初から全力でやるぞ。こんな所でこいつら如きに負けてられねぇ」

 

「ああ、そうだな。すごい曲と歌声だ。コピーの時とは全然違う。これがAiles Flammeか…」

 

 

 

------------------------------------

 

 

 

「ハァ…ハァ…。みんな!聴いてくれてありがとう!」

 

 

〈〈〈ワァァァァーー!〉〉〉

 

「ねぇ、すごくいい曲だったくない?」「うん!良かった!私めちゃ身体動いたし!」「最高だったよー!」「シフォンちゃーん!かわいいー!」

 

オーディエンスの反応がさっきと全然違う…。これがライブなんだな。

楽しい。もっと歌いたい。もっと、もっとだ。

 

「渉…そろそろだぞ」

 

「ああ、わかってる」

 

名残惜しいけどな…。

 

「じゃあ、そろそろevokeの出番だ!この後もみんな熱いライブを楽しんでくれよな!」

 

「えー?」「告知とかないのー?」「もっと歌ってよー」

 

告知…告知か…。でも何もないよな…。

ど、どうしたらいいんだ…?

 

「みんな!ありがとうね!ボク達まだまだ始めたばっかりのバンドだから、今のとこは予定とか未定なんだけど!」

 

シフォン…?

 

「いっぱいカッコいい曲を作って、きっとライブするから!よかったらみんなも来てね!」

 

〈〈〈ワァァァァ!〉〉〉

 

「いくよ、渉くん。みんなに挨拶して」

 

そしてシフォンは拓実と亮を連れてステージ袖にはけて行った。俺も急がなきゃな…。

 

「みんな!じゃあ、またなー!」

 

俺がステージ袖にはけた時、そこにはevokeのメンバーが居た。

 

「あ、あの、少し時間をオーバーしてしまいまして、本当にすみませんっした!」

 

「素晴らしいオープニングアクトだった。お前らが盛り上げてくれた会場を俺達がさらに熱くしてやるよ」

 

「え、あの…」

 

「テメェ、ギターのテクはあるみたいだが、まだまだガキだな」

 

「う、うす…」

 

「俺のギターをよく見てろ。バンドのギターの役割を教えてやる」

 

「は、はい!」

 

「君のベースはまだまだだね」

 

「す、すみません…」

 

「ううん、でも楽しそうに弾いてて、僕も負けてられないなと思ったよ。眠気なんか吹っ飛んじゃった」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「お前も可愛いだけじゃなくてなかなかやるな」

 

「とーぜん!」

 

「ま、可愛さも俺の妹には敵わないし、ドラムも俺のが上手いけどな」

 

「むー!絶対ボクのが可愛いもん!」

 

俺達の演奏…evokeの人達にも良かったって事かな?

 

「で?お前らもやっぱりメジャーデビュー目指してんのか?」

 

「あ、いや、俺達は…」

 

「まだそこまでは考えてないか」

 

「俺達はBLASTを倒すって事を目標にしてて…」

 

「BLASTか。なかなかに手強い相手だな」

 

「は、はい…」

 

「BLASTを倒した後は?」

 

「しょ、正直考えてません。でも、なんか…違うんですよね…」

 

「違う?どういう事だ?」

 

「俺はBLASTを倒したい。その気持ちは変わらないんですけど、今まで練習やって来て、今日ライブをやらせてもらって…。俺はもっともっと先に行きたい。音楽の世界の…もっと先を見たい。それが何なのか…わかんないんですけど…」

 

「そうか。なら俺達のライブを見ていろ。お前の見たいその先を…俺達が見せてやる」

 

 

 

 

 

「あ、おかえり~」

 

俺達が関係者席に戻ると、まどかねーちゃん達が迎えてくれた。

 

「ま、まどか姉!香菜ちゃん!!」

 

「よく頑張ったじゃんシフォン」

 

「おかえりー!」

 

「うん…!うん……」

 

シフォンはまどかねーちゃん達の元に行き泣き出した。シフォンも…緊張してたんだな。

 

「江口」

 

「んあ?」

 

「かっこ良かったよ。お疲れ様」

 

雨宮…。

 

「おう、ありがとうな」

 

あぶねぇ、雨宮に惚れそうになった。

 

「え?マジでやめてね?」

 

なんで聞こえてるんだ?

 

「お疲れさん」

 

にーちゃん!

 

「にーちゃん!どうだった俺達の歌!」

 

「なかなか良かったぞ。俺がお前らんくらいん時はあんなライブ出来なかったわ。あ、タイムマシン欲しい。あの頃に戻りたい」

 

「そうか…。ありがとうな」

 

「渉くんよ」

 

「にーちゃん、渉でいいぞ」

 

「渉。お前らの機材の片付けん時に聞こえたんだけどな」

 

「お?」

 

「evokeのライブしっかり見とけ。evokeとオーディエンスとをな。そしたら、ぼんやりお前の言うその先も見えるかもな」

 

「え?お、おう…」

 

「貴さん…」

 

「ん?」

 

「すんません、ちょっといいすか?」

 

「ああ、何か話あるんだっけ?いいぞ?」

 

そして亮とにーちゃんは関係者席から出て行った。何なんだろう?

 

〈〈〈ワァァァァ!〉〉〉

 

お、evokeのライブが始まったか!

亮とにーちゃんの話も気になるけど、今はevokeのライブだな!

 

 

 

------------------------------------

 

 

 

「亮くん、どした?わざわざ部屋から出てまで?」

 

「すんません、オレの親父もお袋も、昔バンドやってたんで、BREEZEってバンドを知ってるか?って聞いてみたんです」

 

「え?まじで?」

 

「そしたら…知ってると…」

 

「うわ~、マジでかよ。亮くんとこといい、志保とか理奈とか、俺らがバンドやってた時代の知り合いの子供がバンドやってるとかなぁ……。あ、どうしよう。涙出そう」

 

「オレの親父とお袋はクリムゾングループと戦ってたんすよ」

 

「クリムゾンと…そうか…」

 

「貴さん、あんたらのBREEZEって――――」

 

 

 

------------------------------------

 

 

 

すげぇ……。evokeの演奏は…。初めてBLASTを見た時のような…。

 

「わ、渉…」

 

「ああ、すげぇな。音楽って本当にすげぇ…」

 

BLASTに勝ちたい…。でも、俺は今はライブがやりたい…。もっともっと歌いたい…!!

 

「拓実!シフォン!」

 

「うん、多分僕も同じ気持ちだよ」

 

「ボクも…。やろう!ライブ!!」

 

「ああ!やるぜ!俺達のライブ!」

 

「まずはライブやれるだけの曲作りだな」

 

「お、亮。にーちゃんとの話は終わったのか?」

 

「ああ、まぁな」

 

あれ?にーちゃんは戻って来てないのか?

 

「ねぇ、秦野、貴は?」

 

「ああ、タバコ吸ってくるってよ」

 

「外の喫煙所かな?よし、あたしも行ってこよ」

 

「お前、にーちゃんと何の話してたんだ?」

 

「……ああ、シフォンの事でちょっとな」

 

「ボクの事って何!?」

 

 

 

 

 

 

evokeのライブも終わり、拓実とシフォンと駅前で別れてから、俺と亮は家路を歩いていた。

 

「渉…」

 

「お?」

 

「お前さ、クリムゾンミュージックって知ってるか?」

 

「あ?あのゼノンの?」

 

「おう、そうだな」

 

「それがどうかしたか?」

 

「クリムゾンミュージックには他にもグループ会社が色々あってな。日本にも昔からその息のかかった音楽事務所は色々あるんだ」

 

「ちょっと待て。お前何言ってんだ?メジャーデビューしたいとかそんな感じか?クリムゾンミュージックとか確かにでかいけどよ…」

 

「オレの親父もお袋も、クリムゾングループの会社にな。潰されたんだよ。バンドを」

 

「は?」

 

亮の親父さんとお袋さんがバンドやってたってのは知ってるけど、そんな話初めて聞いた。

 

「そんな話初めて聞いたぞ?」

 

「ああ、悪い」

 

「別に?それで?」

 

「オレはお前と…。拓実やシフォンとバンドを…ライブをやる。それだけで良かったんだ」

 

「亮…」

 

「渉…。オレはな…」

 

「だったらやろうぜ。ライブを。やっていこうぜ。バンドを」

 

「渉…」

 

「俺はもうBLASTに、東雲 大和に勝ちたいだけじゃないんだよ。もう。

お前と拓実とシフォンと俺と。Ailes Flammeで行きたいんだよ。音楽の…その先へ」

 

「…」

 

「その先に行きたいって事は、いつかはクリムゾングループともぶつかんだろ」

 

「お前…」

 

「俺らは俺らで楽しんで音楽やってよ。何かあったら何かあった時。そん時に考えりゃいいさ」

 

「ぷっ…あははは、お前マジかよ」

 

「あ?なんか可笑しかったか?」

 

「お前…貴さんと全く同じ事言うからよ」

 

「は?にーちゃんと?」

 

「渉」

 

「ん?」

 

「さっきの話な。その、クリムゾングループの事」

 

「ああ」

 

「オレは親父達の敵討ちとか復讐とかそんなつもりはねぇよ。そんな気持ちでバンドやるつもりはねぇ」

 

「おう」

 

「ただな。クリムゾングループがオレ達の前に立ちはだかるならな。例えどんなすげーバンドが相手でも逃げたりしねぇ。それを先に謝ろうと思っただけだ」

 

「お前バカかよ。当たり前だろ。BLASTだろうがevokeだろうが、四響だろうが四皇だろうが海賊王だろうがぶっ倒す。俺達の歌でな。もちろんクリムゾングループもな」

 

「ああ、オレ達が1番になるんなら、いつかは雨宮も貴さんも倒さないとな」

 

「東雲 大和の言ってた天下一のバンドな。なろうぜ、俺達が」

 

 

 

 

------------------------------------

 

 

 

今日のライブ楽しかったな~。

evoke…。ボク達ももっともっと練習してライブやれるようにならなきゃね!

ボクも歌詞とか書いてみようかな?

 

およ?

 

何でこんなとこにドラムヘッドが落ちてんだろ?

 

あれ?これって…。このロゴはクリムゾングループの…。え?この街にももうクリムゾングループのバンドが…?

たか兄とおっちゃんに伝えるべきかな?

 

〈〈〈ガシャン〉〉〉

 

「わっ!?」

 

びっくりしたぁ…何の音だろ…

あの路地の所から?かな?

 

ボクは路地をこっそり覗いてみた。好奇心旺盛シフォンちゃんには覗かないって選択肢はなかったのだ。

 

「え?」

 

これって…。

 

そこには数人のバンドマンが倒れていた。何故バンドマンとわかったのかというとみんな楽器を持って倒れていたからだ。

 

何だろこれ。警察か救急車呼んだ方がいいのかな?

 

「お……お前何者だよ…わかってんのか…俺達はクリムゾンだぞ…」

 

「パーフェクトスコアも持ってない雑魚がクリムゾンとか謳ってんじゃねぇよ」

 

んにゅ?奥に誰かいる…?

 

「てめぇ…クリムゾンに逆らってただで済むと思ってんのか…」

 

「ただで済まないのはお前らだろ?ベース一人にデュエルで負けたんだ。お前らはもう終わりだよ」

 

「うっ……」

 

ベース1人で…?嘘でしょ…?

 

「た、頼むよ…この事は誰にも言わないでくれ。な?事務所にバレたら俺達もうバンドやれねぇよ…」

 

「脅しの次は泣き落としか?」

 

「頼む…金ならやるから…な?」

 

うわ~。最低だ。これがクリムゾンか。たか兄とおっちゃんの言ってた通りだね。

 

「俺はお前らクリムゾンに所属してるバンドは全て壊す。2度と音楽がやれないようにな」

 

「なっ、ま、待ってくれよ…!」

 

奥にいた人がこっちに歩いて来た。ヤバッ!隠れなきゃ!ボクはしゃがんで物陰に隠れた。

 

「お嬢ちゃん。ここで見た事は内緒でね?」

 

「ふぁ!?」

 

バ…!バレてる!?ボクの可愛いオーラは隠れても隠しきれなかったというのか!?

 

ボクは顔をあげてその人を見てゾッとした。優しい声なのに…すごく怖い、すごく冷たい目。この人に関わっちゃいけない。そう思った。

 

「じゃあね」

 

そう言ってその人は去って行った…。

 

あの人…どこかで見た事あるような…。

 

ダメだ。もう忘れた方がいい。

ボクは今日ここで見た事をソッと記憶の奥に封印した。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。