8月22日水曜日。
俺は今日も元気に社畜している。
推しに貢ぐ為!そう思えば嫌な仕事も楽しんでやれるというものだ。
すみません。嘘吐きました。
拙者働きたくないでござる。
俺の名前は葉川 貴。
今日は何故かDivalのボーカル様とベーシスト様に飲み会に呼び出されている。俺何かしたっけ?
「先輩先輩。今日は頑張って仕事しましょうね!目指せ定時退社です!」
そんな事を考えていると隣に座っているDivalのボーカル様が話し掛けてきた。
「いや、月曜は色々忙しかったから残業になっちゃったけど、普段は定時退社だからね俺達。昨日も定時退社だったし」
「わかんないじゃないですか~?もし何かあったらどうするんですか?」
「何かって?もし何かあったら俺一人残業して、水瀬は帰らせてやるから安心してくれ」
「何を言ってるんですか!もし残業とかになったら私も手伝いますよ!運命共同体です!(何言ってるの?逃がすわけないだろうが)」
おかしいな。また渚の声がステレオで聞こえる。逃がすわけないって何?僕やっぱりしばかれちゃうの?
「葉川、水瀬さんお疲れ様」
「あ、木南さんお疲れ様です」
俺がせっせと社畜していると経理部の木南が話し掛けてきた。経理部が何の用だ?
「どうした?経理部がうちに何か用か?」
「いや、特に用って訳じゃないんだけどね。今日はファントムに行く事になってるからさ。行き方を教えてもらおうと思って」
ファントムへの行き方?何か説明しにくいんだよな。
「あれなら俺らもファントムに行くし連れてってやろうか?」
「いや、いいよいいよ。私は残業になるだろうし待たせんの悪いし」
「少しくらいなら全然待ちますよ?一緒に行きますよ」
「ありがたいとは思うけどね。それに待たせてるって思うと焦っちゃって仕事も集中出来ないしさ」
あ~…なるほどな。
「そっかわかった。んと、簡単な地図と行き方書いてやるから少し待ってろ。そんでGPSで確認しながら行きゃわかんだろ」
俺は簡単な地図と行き方を書いた紙を木南に渡した。
「わぁ~わざわざありがとう。まるで昔同人誌描いてたのが嘘みたいなクオリティだね」
ほっとけ。
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「さ!定時だー!何事もなくしごおわー!さ、先輩!行きますよ!急ぎますよ!」
「あ~…はいはい。んじゃ行くか…」
仕事も定時に無事に終了。
理奈や盛夏とはファントムで待ち合わせをする事になっている。
「先輩…二人きりですね」
いや、本当に何なのそれ?やっぱDivalで流行ってんの?
「それより今日は何で呼ばれたの?何の話?」
「何だと思います?」
「いや、さっぱりわからんな」
「ふふふ。内緒です(しらばっくれてんじゃねぇぞコラ)」
怖いわぁ。何なの?本当に何なの?
「行けばわかりますよ~♪」
ハァ…観念してファントムに向かうか…。何かヤバそうなら英治にこっそり頼んで助けてもらおう…。
「そういえば今日は澄香お姉ちゃんも来てくれるみたいですけど、先輩はArtemisのみんなとは飲み会とかした事あるんですか?」
「あ?まぁそりゃな。あいつらが成人してからは飲み屋ばっかだったな…」
「へぇー、そうなんですね。梓お姉ちゃんとかお酒は強いんだろうなぁ~」
「いや、あいつは酒は好きだが超弱いぞ。大丈夫大丈夫って言いながら飲んで地べたに寝たりとか、フラフラ歩いて電柱にぶつかって喧嘩売ったりしてたな……」
懐かしいな…。そういやあいつがそうなる度に俺と澄香で介抱してたよな…。
「そうなんや…。いつか梓お姉ちゃんとも飲んでみたいなぁ…」
「ああ、そういや梓なんだけどな…」
「はい?梓お姉ちゃんがどうしました?」
「……たまにリバースもしてたからな。一緒に飲み会する時には気を付けてな」
「そんなに飲むの!?」
危ない危ない。梓がもうすぐ日本に帰ってくる事を言っちゃうところだったぜ。
これは間違いなく渚が小躍りして喜びそうな情報だ。
俺がしばかれそうになった時の気を紛らすリーサルウェポンにしとかないとな。
「でも澄香は強いぞ?あいつのペースで飲むなよ?」
「そうなんや?なら澄香お姉ちゃんと飲み比べしなきゃやなぁ」
「俺の話ちゃんと聞いてた?」
そんな話をしながらファントムへ向かう俺達。俺も澄香と飲むのも久しぶりだしな。少し楽しみでもあるか。
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「いらっしゃっせー!……ってタカと渚さんか。あ、そっか。今日は飲み会なんだっけ?」
「ああ、理奈達は来てる?来てなかったら飲み会は中止の方向で」
「何言ってるんですか先輩は。今日は先輩が逃げないように予約してるんですからね。先輩が逃げたら晴香さんにしばかれますよ?」
え?まじで?あ、南の島でのトラウマが…。
「ちょっと待て。そよ風って予約不可だろ。何だよ予約って」
「フッフッフ、私達Divalは超お得意様ですからね!リザーブ権を晴香さんから戴きました」
何なのそのリザーブ権って俺らですらそんなの貰ってないよ?Divalの皆様はそんなにそよ風に通ってるの?
「おう、タカ。理奈達はまだだけどな。今日はAiles Flammeと志保とそのお友達ちゃんが来てたぞ。亮くんと拓実くんとお友達ちゃんは帰っちまったけどな」
英治がそう言って奥のテーブルに指をさした。
「にーちゃん!ねーちゃん!」
「たか兄!渚さん!こっちこっち!」
「貴ほんとに来たんだ…香菜に逃げろって言われてたのに…」
志保が不安になるような事を言っているが気にせず渉達の方に近づいた。
「渉もシフォンも志保もこんばんは。今日はどうしたんだ?亮と拓実は帰っちまったんだってな」
「ああ、亮は今日は家の手伝いで拓実はバイトだ!にーちゃんが来るって雨宮に聞いてたからな。俺は挨拶してから帰ろうと思って」
「ボク達はここで夏休みの宿題してたんだよ。渉くんと亮くん拓実くんはまだ終わってないみたいで」
「あたしなんかもう夏休みの宿題全部終わらせたってのに、このおバカさん達ときたら…」
え?志保の夏休みの自由研究って絵日記だったよな?なのにもう終わったの?
「さすが志保だね。私も学生の頃は夏休みの宿題は7月中に終わらせて8月には遊び倒す派だったよ」
「俺もそうだな。一気に終わらせてわ」
「さ、さすがにーちゃんとねーちゃんだ…。俺も来年こそは…」
「そういや渉は自由研究は何にしたんだ?」
「俺は読書感想文だ!」
読書感想文?高校生で読書感想文っていいの?
「この夏休みにドラゴンボール全巻読破したぜ」
って漫画の読書感想文!?
「秦野は日本の蕎麦の歴史ってレポート書いててさ。もう800ページくらいになってたのにまだ書き足りないって嘆いてたよ。そんで内山はスイーツのレシピ本作ってた」
俺が学生の時ってどんな自由研究にしたっけか?
「私が学生の頃はスタンド能力についてレポートを書いたよ」
ああ…渚らしいわ…。
「こんばんは~……あれ?お姉ちゃんは来てないのかな?」
「あ、美緒じゃん。お~いこっちこっち!」
え?美緒ちゃん?珍しいな美緒ちゃんがファントムに来るなんて。
「こんばんはです。お姉ちゃんから晩御飯いらないって連絡が来たのでファントムに居るのかな?って思ったんですけど……」
「ああ、奈緒ももうすぐ来ると思うぞ?
何か用事?じゃあ今日の飲み会は中止だな」
「先輩もいい加減覚悟決めたらどうですか?」
まぁここまで来たら覚悟もしてるけどな。え?覚悟?何の?
「あら?美緒ちゃんも居るのね」
「あれ?何で美緒がここに居るの?」
「貴ちゃんも渚も志保ももう来てたんだ~?あたしお腹空いた~」
「渉くんとシフォンも居る。もしかしてみんなで飲み会?」
お、理奈と奈緒と盛夏と香菜も来たか。
後は澄香だけだな。
奈緒は仕事が終わった後に盛夏に連絡をしたら、理奈と香菜と一緒に図書館に行ってるみたいだったからと、時間潰しに図書館に行ってから、みんなでこっちに来たらしい。
「お姉ちゃん……今日は晩御飯いらないってどういう事?」
「え?あ、あはは~。今日は家で食べるよりみんなとご飯食べたいな~って思って…」
ん?え?マジで奈緒は何か用事あったの?
「ずるい……」
「え……っと、奈緒は今日は用事があったのかしら?もしそうなら…」
「あ、用事とかじゃなくてね。今日はお父さんとお母さんが初めて会った記念日とかでパーティーする事になっててね」
「毎年同じDVDを観させられてバカ夫婦のイチャイチャっぷりと惚気話を延々聞かされる1年の中で数回催される奇怪なイベントの1日なのです」
初めて会った記念日って……。
「後はデート100回目記念日とか、他人様に言えないような記念日とかのイベントもあってね。もう娘の私達はうんざりで…」
「お姉ちゃんが今日は外食とかになったら、その地獄のような苦しみの時間を私一人で過ごさなきゃならなくなりますので…」
「そ…そうなのね。大変ね…」
本当に大変そうだな。
俺も親父とお袋にそんな話を延々と聞かされたら苦痛でしかないわ…。
「あ~、だったらさ。美緒も私達とご飯行く?お母さんには私から連絡しとくし」
「……!?いいの?」
「別にいいんじゃない?渚大丈夫だよね?」
「うん。いいと思うよ。人数にもまだ余裕あるし」
人数にもまだ余裕あるって何?
予約してんじゃないの?そよ風の予約ってどうなってんの?
「わぁ~美緒ちゃんいいなぁ。ボクもたか兄達とご飯行きたいよぉ~」
「え?そう?だったらシフォンも来る?
渚、シフォンも来ても大丈夫かな?」
「え?シフォンちゃんも?全然大丈夫だよ」
「本当に!?やったぁぁぁぁ!!」
え?シフォンも来るの?
どうしよう今日の飲み会が超楽しみになってきた。
「あ!シフォンずりぃ!はいはーい!それなら俺も行きたい!!」
「渉もか?渚、渉も大丈夫か?」
「渉くんも?大丈夫ですよ」
「だとよ。渉も来るか?」
「おう!行く!酒は飲まないから安心してくれ!」
よし、渉とシフォンと美緒ちゃんが増えた事で俺がしばかれるような話は回避出来る可能性が増えた。
「後は澄香さんだけだね」
「うん、澄香さんが来たら出発しようか」
俺達はその後ワイワイと話しながら澄香を待った。
待ち合わせ時間までもう少しあるけど、あいつにしては来るの遅いな。
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「た、大変申し訳ございません!遅れてしまいました…!」
待ち合わせ時間から遅れて来る事3分。
まぁ、3分くらい何とでもなるだろ。
「澄香が時間に遅れて来るって珍しいな。何かあったか?」
「Canoro Feliceのスタジオ練習に付き合っててね。姫咲お嬢様を屋敷まで送ってたら渋滞に巻き込まれちゃって…。姫咲お嬢様は送らずに行って下さいって言ってくれてたんだけどね」
「あ、そうなの?そういやお前姫咲の専属執事だろ?昨日も今日も姫咲から離れてていいのか?」
「ああ、私は専属執事はクビになったんだよ。昔みたいに友達としての雇用になったっていうか…」
は?クビ?友達としての雇用?何それ。
「だから今は付きっきりって訳じゃなくて……お嬢様のお世話はするけど、時間も9時から18時で週休2日の雇用になったしね。残業はしたいだけしていいみたいだけど」
何なのそれ?何て職種なの?金持ちのやる事はわからんわぁ…。
「それにしてもさ。タカ兄よく来れたよね?大丈夫なの?」
「あ?何が?」
「あたしも貴の事だから難癖つけて逃げると思ってたんだけどな~」
「そういや昨日のLINEでヤバいとか逃げろとか言ってたよな?何かあったの?俺何かした?」
「それがさ。わかんないんだ」
「うん、あたしと香菜は何があったのかわからずに怯えてただけだし」
怯えてた?え?何かあるの?
超怖いんだけど…。
「渚と理奈にはヤミモードってのがあってね。あ、それは奈緒もか」
ヤミモード?何それ?
「昨日は普通にうちらでこれからの事話してたら、急に理奈ちと渚がタカ兄に…」
「志保、香菜。何を言っているのかしら?」
「り、理奈……!?
まずい…聞こえたか…(ボソッ」
「何でもないよ理奈ち!今日はタカ兄と呑むのも久しぶりだから楽しみだなぁ~って……」
「そう。確かに楽しみね」
え?何なの?渚と理奈が俺にって何?
やっぱり帰ろうかな……。
「あ、そうだったわ。渚に借りてたのを忘れてたわ…。うっかりね」
そう言って理奈が俺の方に近付いて来た。
「貴さん……」
理奈が俺の手を握り紅潮した顔で俺を上目遣いで見てきた。
何なのこの可愛さ。ヤバいんですけど…。
こんな事されたら勘違いしてうっかり告っちゃってフラれて泣いちゃうレベル。
「貴さん…」
ゴ、ゴクリ……な、何ですかね…?
ハッ!?まさか俺にもとうとう青春×バンドの青春の部分が…!?
俺がそう思った時だった。
-ガチャ
「ん?」
俺の手に手錠がかけられた…。え?何で?
そして手錠の片方は理奈の手にかけられている。
「あ、あの…理奈…?」
「本当に屈辱的で気持ち悪い事この上ないのだけれど、あなたが逃げ出さないように手錠で繋がせてもらうわ。
そよ風に着いて席に通されたら外してあげるから安心しなさい」
な、な、な、何されんの俺!?
ここまで来て逃げ出すと思うような事されるの!?
あ、ダメだ。こんな事考えてたら怖くて心臓がビビって止まっちゃう。
「お?にーちゃんどうしたんだ?理奈ねーちゃんと手錠なんかで繋がって……あ、そういうプレイか?いいなぁにーちゃん…」
「江口くん。気持ち悪い事言わないで頂戴。これはこの男が逃げ出さないように嫌々やっている事よ。け、決して貴さんと繋がっていたいとかじゃないわ」
いかんいかん。今の理奈の言葉は聞き流そう。渉の言う通りだ。
これはきっと理奈なりの『貴方と離れたくないのプレイ』に違いない。きっと。
アブノーマルだけどこれは青春×バンドの青春の部分なんだ。うん。
俺を逃がさない為とかそんなんじゃないんだ。そう思おう。
「あ、理奈。ちゃんと先輩が逃げ出さないように手錠使ってくれたんだね」
「ええ。みんな揃ったようだし、そろそろそよ風に向かいましょうか。貴さんは必ず逃がしはしないわ」
必ず逃がしはしないわって何なの?
ほんと謝るから俺が何をしたのか教えてくれ……。
「うん、頼んだよ理奈。じゃあ、ゆっくり歩いても予約時間には余裕あるけど、最終人数確定の連絡を晴香さんにするね。ん……と、11人かな?」
「いや、渚ちゃん12人だぞ。俺も行くからな」
え?英治も来るの?
それはそれで助かるんだが……。
「え?英治さんも…ですか?」
「え?何その反応…俺が行くのはダメなの?泣いちゃうぞ?」
「いや、だって英治さん……お仕事中ですよね?」
「あ、渚さん、私は大丈夫だよ。お母さんがすぐに来てくれるし、お父さんは居ても居なくても………いや、居ない方が仕事は捗るから」
居ない方がいいって……。
「な?そういう事だからさ。それにさっきの初音の台詞も酒を飲んで忘れたいし」
「まぁそういう事でしたら……」
そうか。今日は12人か……なかなかの人数だな。これは色々と話題があるに違いない。何か嫌な予感がしたらタバコ買いに行くとか行って逃げても問題無さそうだな…。この手錠さえどうにかなれば…。
「あ。そういや今日はまどか姉は来ないの?まどか姉ともご飯したかったのに」
「ああ、うん。まどか姉は来れないよ。
何か夏の日の思い出がどうとか言ってたよ。よくわかんないけど地獄のミーティングには行くの怖いとか言ってた」
夏の日の思い出?地獄のミーティング?何じゃそりゃ。
「ああ、そういえばまどか先輩ってあの日隅っこで小さくなって震えてたっけ?」
「そうね。あの日は私も何度も気を失いかけたわ」
「何でだろ?楽しくて明け方までみんなで話してたよね?」
あ?もしかしてこないだ渚の実家に行った時に何かあったのか?俺これからそんな目に合うの?
「俺は居酒屋なんて初めてだから楽しみだな!」
「私も居酒屋なんて初めてです…。
ほ、ほろ酔い理奈さんを拝める……ハァ…ハァ…」
「美緒ちゃ~ん。涎出てるよ~。はい、ハンカチ」
何か不安な気もするが俺達は居酒屋そよ風へと向かった。
・
・
・
「こんばんは~」
「こんばんはで~す」
不安な気持ちを消せないままそよ風へと辿り着いた俺達ご一行様。
渚と奈緒が先陣を切ってそよ風へと突入した。
「ほら、いい加減観念してキビキビ歩きなさい」
俺は理奈に引っ張られるように歩いていた。何で理奈ってこんなに力が強いの?
「い、いらっしゃいませ。な、何名様でしょ……う…か?」
「あ、予約してた水瀬です。今日もよろしくお願……え?拓斗さん?」
「あれ?拓斗さん?どうしてこんな所に?」
ん?拓斗だと?
「あ?拓斗?」
俺が入り口から中を覗くと拓斗が受付をしていた。
あいつまさかここでバイトする事にしたのか?
「おお、拓斗か!もしかしてお前ここで働く事にしたのか?」
「う~!宮野 拓斗…!!(ギリッ」
「せっちゃん、気持ちはわかるよ」
「何で拓斗にーちゃんがここでバイトしてるんだ?」
「ああ、江口は知らないんだっけ?
ここは晴香さんが経営してる居酒屋なんだよ。だからじゃない?」
「晴香さんって居酒屋さんの経営者だったのですか…?」
「うん、そだよ。拓斗さんをここで見るのは今日初めてだし、もしかして今日がお仕事初日かな?」
「ふぅん…晴香さんのお店だからボク達未成年でも入れてもらえるのかな?」
「ご、ご予約されてた水瀬様ですね…こ、こちらへどうぞ…」
俺達は拓斗に案内され店内の奥へと進んで行った。
「おい、拓斗。お前いつからここで働いてんだ?架純ちゃんは一緒じゃねぇのか?」
「あ、ああ今日からだ。英治はファントムは今日は閉めてんのか?」
「ファントムの事は聞かないでくれ…」
「は?何があったんだ?
あ、お客様、こちらの席でございます」
俺達が拓斗に通された席は個室にはなっている6人掛けのテーブルが2つある部屋だった。
さて……ここからが本番だな。
俺の座る席それで天国か地獄が決まる。
さぁ、誰か『どう座る?』って言うんだ。我に策あり!!
「ねぇねぇ。テーブル2つに分かれてるけど席はどうするの?」
よし!シフォンよく言った!
このタイミングを待っていたんだ!(この間0.8秒
「まぁ、席はどうでもいいんじゃね?
取り合えずシフォン。お前は俺の膝の上だ。異論は認めない」
しまったぁぁぁぁぁ!!
何が我に策ありだよ!思いっきり欲望を曝け出しちゃったよ!
「な、何を言ってるのたか兄は…」
くそっ!策士策に溺れるとはこの事か…!
策もくそも欲望を口にしただけだけど。
「取り合えずお前ら注文はどうすんだ?
最初のドリンクは俺が通さなきゃなんねぇんだけど」
「拓斗?お客様に向かってお前らって何なの?一般教養がなってないんじゃない?」
「そーだそーだー。澄香さんの言う通りだー」
「クッ……お客様。ご注文はいかが致しましょうか…?」
「「「「ビール(コーラ)(オレンジジュース)(メロンソーダ)」」」」
「すみません……お一人ずつお願いします…」
拓斗は俺達の注文を取り、肩を落としながら厨房へと戻って行った。
頑張れ拓斗。今日のこのメンツの接客をこなせたらきっと他の接客は楽なもんだ。多分。知らんけど。
「それより本当に席はどうするんだ?俺とタカはタバコ組だし固まった方がいいか?」
「そうだな。それより理奈、そろそろ手錠を外してくれ」
「そうね。ここまで来たら逃げないでしょうし。外してあげるわ」
理奈は俺達の手錠を外してくれた。よし、これで自由の身だ。
「なんだ?にーちゃんと理奈ねーちゃんもう手錠外すのか?なかなかお似合いの2人だったのに」
渉……止めてくれ。俺は手錠に繋がれる趣味はねぇんだよ。
「江口くん。さっきも気持ち悪い事言わないでと言ったはずよ。なかなかお似合いだとか気分が優れないわ」
「ああ…わ、悪い…」
「素直に謝っていい子ね。いいわ。今日は江口くんの分は私が出してあげるわ。
これからは私と貴さんがお似合いだとか気分が悪くなるような事は、たまにしか言ってはダメよ?」
「本当か!?いいのか理奈ねーちゃん!
約束する!たまにしか言わねぇ!……お?たまに?」
「「理奈?」」
さて、俺は今のうちに奥の席に……。
「待った!タカ兄!!」
何だと!?香菜……どういうつもりだ!?
「ちょっと香菜……貴には奥に行ってもらった方が良かったんじゃない?そのまま渚と理奈と奈緒を貴の方に行かせれば…(ボソッ」
「それじゃダメだよ志保。タカ兄と渚と理奈ちと奈緒が固まっても4人。英治先生をそっちに行かせても5人だよ。ここは6人席。誰か1人は地獄を見る事になる…(ボソッ」
「あ、そっか……。で、でもさ澄香さんなら渚も理奈も下手に手が出せないんじゃない?(ボソッ」
「あの3人がヤミモードになった怖さはあたし達がよく知ってるでしょ(ボソッ」
「ねぇ?さっきから香菜姉と志保は何をこそこそ話してるの?」
「なら席は前みたいにくじで決めるか?
それなら誰も文句はねぇだろ」
まぁ、それが妥当か。
このままじゃ席も決まらんし拓斗に迷惑掛けちまうしな。
「じゃあ俺が仕事用の紙持ってるしくじ作るわ」
「先輩?仕事用の紙って何ですか?それ使っていいやつですか?」
俺がくじを作り、テーブル席の左奥から1番、2番と番号を割り振っていった。
フッ、賢明な読者なら既におわかりだろう?もちろんこのくじには細工が施されているのだ。
「ほら、作ったぞ。みんな一人ずつくじを引いて……」
「はい。ありがとうございます。くじは一旦私が預かっちゃいますね~」
え……?
「な、奈緒ちゃん?何を言っているの?」
「ほぇ?ただのくじですよね?だから私が預かってみんなに引いてもらおうと思いまして。ですから私はもちろん最後でいいですよ」
ま、まじでか…。
「このくじに書かれている席は絶対ですので……。みんなわかってますよね~?」
「「「「は~い」」」」
や、やば…やばい……。
「じゃあ俺から引くー!お、9番!ラッキー9だ!」
ラッキー9って何だ……?
「じゃあ次はボクー!あ、7番だ」
クッ…シフォンは7番か…!
と、なるとシフォンの隣に座るには8番しかないか…!
「じゃあ、あたしが、引かせてもらおっかな~?……これにしよ。お、11番。真ん中席かぁ」
香菜が11番か……香菜がアレを引いてくれても冗談で済みそうだし良かったんだが…。
「次はあたしが引く~。………お?5番~」
「次は私が引かせて貰おうかしら。………4番ね」
「じゃあ私が引こうかな。……10番だ!」
「あたしは何を引くかな~?……出来れば2番か6番か12番………あ、3番だ。江口の真正面……理奈と渚からも近い席か……終わった……」
こんだけ引いて何で誰もあれを引かないんだ?だがこれでいい。あれを英治か澄香…もしくは俺が引けば問題はない…。
「では私が引かせてもらいますね。理奈さんの隣は無理だし、お姉ちゃんの隣になるといいなぁ…………え?は?」
………ま、まさか美緒ちゃんが?
一番引かれたらまずい人物に……。
「お姉ちゃん。この紙に書かれてる席は絶対なの?」
「え?うん、まぁ……。何番だったの?」
「ふぅん………まぁいいでしょう。早く席を決めちゃいましょう」
………え?え?あれ?俺何か間違えた?
まさか字が汚くて読めなかったとか?
「よし次は澄香が引いていいぞ」
「うん、わかった………8番か。ヤダ若い男の子に囲まれるなんてお姉さん照れちゃう」
キ…キモ……。
しかし澄香め……シフォンの隣をゲットするとはなんて羨ましいやつ…!!
「キモいな澄香……さ、俺が引かせてもらうか」
「英治…女の子にキモいとか言うな……。これはタカの真似だよ」
え?俺そんなキモい事言ってる?
「俺は12番だな。………ここならしばかれる心配はないか」
英治?
「さ、貴も引いて下さい。美緒は何番だったんでしょう?」
そうだよな……多分美緒ちゃんが引いたのはアレだよな。俺が細工をしたのは1番だし残るは2番と6番……。
2番なら隣は美緒ちゃんと志保。6番なら隣は盛夏。
フッ、どちらにしてもしばかれる心配はない訳だな。
「……2番だ」
「じゃあ私が残り~っと。6番ですね」
ああ……美緒ちゃんが文句言ったりしなかったのは最後に出なかった番号の所に座ればいいと思ったからか。
俺がしばかれないように気を使ってくれたんだな……。ありがとう美緒ちゃん。
「よし、じゃあみんな決まった席に座ろうぜ。実は部屋の前で拓斗が既にドリンク持って来ててここに入れなくて泣いてやがる」
え?そうなの?ごめんね拓斗。
そして俺達は拓斗からドリンクを受け取り、各自引いたくじの席に座った。
………けど、何で美緒ちゃんは座らないんだ?1番だから奥だし俺と志保が座っちゃうと座りにくくないか?
「あら?美緒ちゃんどうしたのかしら?
美緒ちゃんが引いたのは1番でしょう?」
「あ、いえ………では座ります…」
そう言って美緒ちゃんは俺の隣に来て……
「で……では、お兄さん……し、失礼します」
俺の膝の上に座った……。
-ガタガタガタッ
「み、美緒……?あんた何やってん…の…?」
「美緒ちゃん!今すぐ離れなさい!!貴さんの菌が感染してしまう前に!」
「ね~ね~。ご飯の注文していい~?」
「み…美緒?な、何で貴の膝の上に座ってるんですか……?え?何で…?」
「み、美緒って大胆なんだな…」
「み、美緒様…!?スナイパー!…スナイパー部隊に連絡をしなくては……!」
「ま、まさかたか兄本当にボクを膝の上に座らせようとしてたとか…?」
「み、美緒ちゃんが……先輩の膝の上に……う、羨ま……じゃない。え?これって現実…?」
「ちょっ…!?渚!?何であたしの腕を掴んでんの!?いた…いだだだだだ……志保っていつもこんな目に!!?」
「良かったぁ。俺の席ここで…」
終わった…。どうやら俺の命運もここまでか。ファントムギグ…やりたかったなぁ。
「だって……わ、私も嫌だし恥ずかしいですけど…くじに『葉川貴の膝の上』って書いてあったし…」
「み、美緒ちゃん……その…す、すまん。それ1番って意味なんだわ…その書き間違えたみたいで…あは、あははは…」
『1』と『葉川貴の膝の上』ってどうやって書き間違えるんだよ…!?無理あり過ぎだろ!
「そ、そうなのですか…?くじに書かれてる席は絶対と言われましたので……その…意外と座り心地いいんですけど降りた方がいいですか…?」
す、座り心地いいって……。いかんいかん。
「キャッ!わっ!?」
俺は美緒ちゃんを抱っこする形になったが、無理矢理隣の席に座らし、何事もなかったかのように……
「さ、乾杯すっか」
「「「「貴(さん)(先輩)」」」」
やっぱりダメだよなぁ…。甘んじてしばかれるか……。しょうがないな。俺が悪ふざけしたせいだもんな……。よし、やむを得ん……。
「渚。そういえば梓がもうすぐ日本に帰ってくるらしいぞ。今度帰って来たら日本に永住するらしい。良かったな。うん、めでたい!」
俺はリーサルウェポンを発動した。
「「「「それが遺言か?」」」」
しかし、不思議なチカラでかきけされた。
-ダッ
タカは逃げ出した。
しかし、まわりこまれてしまった。
ギャァァァァァァァァァァァ!!!!