バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第30話 電話

俺の名前は葉川 貴。

 

え?何で?何で2話連続で俺のモノローグなの?

それならわざわざ次の話にする事なかったんじゃない?

 

などと思っていると、いつの間にか注文されていた料理が拓斗によって運ばれて来た。

 

「うー!宮野 拓斗…!」

 

「盛夏はまだ拓斗さんの事を怒っているの?」

 

「いや~、別に何となくなんだけどね~。やっぱり今貴ちゃんの隣はあたしの場所だし~?昔の男がしゃしゃって来て貴ちゃんの隣は自分の場所とか言われても~みたいな?」

 

「盛夏……気持ちはわかるけれど…その言い回しは誤解を招くわよ」

 

昔の男って……別に拓斗とはそんな関係じゃありませんでしたけどね。

 

「あ、拓斗さん。そのキムチは先輩にお願いします」

 

「あ?はい、かしこまりました。………ってタカ、お前キムチ好きだっけか?」

 

「嫌いじゃねぇけどな。どっちかというと好きな方だし……ただな…」

 

「ただ?」

 

「せ~んぱい♪キムチ好きですよね?(ニコッ」

 

「そうよね。何なら特別サービスで私が食べさせてあげてもいいわよ?(ニコッ」

 

「タカ、今のうちに拓斗におかわり頼んどく?(ニコッ」

 

「ああ…いえ……結構です…」

 

さっきしばかれて口の中が切れてるからキムチとか沁みるんだよなぁ…。

 

「あ?何なんだ一体…」

 

「奈緒ちゃんはタカ苛めに参加しないのな?」

 

「英治さん……貴苛めって何ですか…。

まぁ、美緒を膝の上に……ってのは、『姉として』怒ってはいますけどね…色々思う所もありまして…」

 

「思う所…?何なのそれ?後、姉としてって強調しなくても…はははは」

 

「まあ、色々ですよ。それに貴の病気って……あんまり辛い物良くないって聞きますし」

 

「ああ…そういやそう言われてるな」

 

 

「あ、そうだ。おい、盛夏」

 

「ん?宮野 拓斗?」

 

「………これやるよ。俺の奢りだ。食え」

 

「おお…!!こ、これは…!!?」

 

拓斗が盛夏に渡したのは、ドーナツが大量に入ったでかいパフェだった。

え?あれもしかして一人で食べるの?

 

「まぁ、これで許しを乞うつもりはねぇけどな。奈緒にはDVD、香菜にはドラムスティックをお詫びにプレゼントしたが、お前には詫びの品は渡してなかったしな」

 

「う~……宮野 拓斗から……拓斗さんに昇格してあげる……」

 

「ハッ、ありがとよ」

 

そう言って拓斗は厨房に戻って行った。

そういや拓斗と連絡先交換しとかねぇとだったな……。

 

俺はバッグから紙とペンを取り出し、俺の電話番号、メアド、LINEのIDを書いた。まぁ、Twitterはいらねぇだろ。

 

「悪い志保。ちょっと後ろ通るな」

 

「え?貴?どこ行くの?」

 

俺は厨房に戻った拓斗を追った。

 

「おい、拓斗!」

 

「あ?どうした?ビールのおかわりか?」

 

「ああ、そうだな。ついでにそれも頼むわ。んで、これだ。受け取れ」

 

俺は拓斗に連絡先を書いた紙を渡した。

こないだ誰もこいつの連絡先知らなかったしな。また何かあった時困ってもめんどくせぇし。

 

「あ?んだこれ?

………え?これお前の連絡先か?」

 

「おう。俺の個人情報だからな大切に扱えよ。いらねぇようだったらシュレッダーして捨てろ」

 

「ああ…サンキューな。バイト終わったら一度連絡入れるわ…」

 

「おう。出れるかどうかわからんけどな。ワンギリでもくれりゃ登録しとくわ。後、ビールのおかわり忘れんなよ」

 

「あ、ああ。わかった。すぐ持って行くから待ってろ」

 

「後な………一応お前はファントムの仲間だしな。何かあったら俺を頼れ。俺の手が届く所に居るなら……ついでに守ってやっからよ」

 

「あ?急にどうしたんだよ気持ち悪い……。俺はもうお前に守ってもらう程弱くねぇし、どっちかっつーと昔の歌声を出せねぇお前の方が危ないだろ……」

 

まぁ、そうなんだろうけどな。

こいつも歌もベースも昔より上手くなってたし、今のこいつには新しい仲間が居るしな。

 

「ただのお節介だから気にすんな。それに………『サガシモノ』の事だけでクリムゾンと戦ってたわけじゃねぇんじゃねぇの?何か隠し事してね?」

 

「は?何言ってんだお前……。

まぁ、そんな事があったらテメェにも話しすっから心配すんな」

 

「そっか。ならいい。心配してんわけじゃねぇけどな」

 

そう言って俺は席に戻った。

 

「…………(ボソッ」

 

あ?今何て言った?

 

俺は拓斗が何か言ったような気がして、拓斗の方を見てみたが、あいつは振り返る事なく厨房へと戻って行った。

 

やっぱりお前……俺達に何か隠してんだろ……?

 

 

 

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「ただいま」

 

「あ、貴おかえり」

 

「貴さん、何処に行ってたの?」

 

「ん?ああ、こないだ拓斗に連絡先聞きそびれてたからな。俺の連絡先渡しにな」

 

「ああ、そうなのか。あ、俺も連絡先渡しときゃ良かったな……」

 

「紙とペンならあるぞ?拓斗もまたこっちにも来るだろ」

 

そう言って先輩は英治さんに紙とペンを渡していた。

そっか。拓斗さんに連絡先教えに行ってたんだ。

 

私の名前は水瀬 渚。

さっき先輩をしば……スキンシップする前に先輩が言ってた事……

 

 

『渚。そういえば梓がもうすぐ日本に帰ってくるらしいぞ。今度帰って来たら日本に永住するらしい。良かったな。うん、めでたい!』

 

 

あれって本当の事なのかな?

それともただ苦し紛れに言った事なのかな?

 

「渚?どしたの?あんま食べてないじゃん」

 

「あ、うん……ちょっと考え事してて…」

 

「渚さん、これ美味しいよ。食べる?」

 

「あ、ありがとシフォンちゃん」

 

シフォンちゃんが差し出してくれた唐揚げ。うん、美味しい。

でも気になるなぁ…梓お姉ちゃん…。

 

聞いてみてもいいかな…?私は先輩に目をやった。

 

 

「キムチ美味しいなぁ……でも沁みるなぁ…痛いなぁ…」

 

「にーちゃんキムチばっかじゃ辛いだろ?この刺身も美味いぞ!」

 

「ありがとうな渉。でも醤油がな……」

 

「タカ、これ食べる?おでん。好きだったでしょ?」

 

「いや、好きだけどこれ全部カラシみっちり塗ってあるじゃん…」

 

「おでんと言ったらカラシでしょ?タカも好きだったじゃん」

 

「お兄さん、餃子食べますか?」

 

「ありがとうな美緒ちゃん。でも餃子のタレがね…」

 

 

何事もなかったかのように飲み会を楽しんでるなぁ。話し掛け辛いや…。

 

「どうしたの渚。貴の方をジッと見て。

それよりあれって渚には楽しんでるように見えるんだ?」

 

志保に心を読まれている!?

 

「渚はさっきの話が気になっているのでしょう?」

 

「え?り、理奈……さっきの話って何の事かな?」

 

理奈って本当に鋭いよね…。

いつもまわりを見てるって証拠かな…。

 

「食事中に言うような事ではないのだけれど……さっきの英治さんと奈緒との話……貴さんの病気の事ね?」

 

え!?違うよ!?全然鋭くなかった…!

 

「確かに…タカ兄も手術しなきゃなんだもんね……大変だよね…渚も心配なんだね」

 

香菜まで!?

 

「貴ちゃんが手術で入院になったら渚もお仕事大変だもんね~もぐもぐ」

 

は!?そうだよ!別に先輩の痔の事を考えてた訳じゃないけど、先輩が入院とかになったらヤバいじゃん…!!

 

「晴香にも容赦なく蹴られてたからな。悪化してなけりゃいいけどな……」

 

容赦なく蹴られて!?悪化!?

 

「でも貴って私達みんなが貴の病気の事知ってる事に気付いてるんですかね?

思いっきり晴香さんに暴露されてましたけど…」

 

「ああ、確かに晴香さんが破裂させるって言ってたのはビックリしたよね。まさか先輩がそんな病気になってるとは…」

 

「まぁ、あたしら南のグループは英治先生に聞いて知ってたけどね」

 

「おい、香菜。声がでかい。もう少し小さい声で…!」

 

「貴が入院になったら渚がナースコスでもして看病してあげたら?喜ぶんじゃない?」

 

ナ、ナースコスで先輩を看病……だと…!?

 

「ああ、そういえば麻衣さんが言ってたけど、手術後はなかなか大変らしいよ?座薬入れたりとか色んな薬を塗ったりなきゃいけないみたい。ボクは絶対たか兄の看病するの嫌だけどね」

 

座薬とか色んな薬を塗る!?

おっとヤバい…妄想が暴走してR18な事を考えちゃったよ…。あ、鼻血出そう…。

 

「いや、冗談だったんだけど何で渚も理奈も奈緒も顔を真っ赤にしてんの?変な想像したの?」

 

理奈も奈緒ももしかして自分が先輩の看病をとか考えちゃったとか?

 

「あ?どうした澄香?顔が真っ赤だぞ?カラシ辛かったのか?」

 

「な、何でもございませぬよ…お気になさらないで下され……」

 

澄香お姉ちゃんにも聞こえてたのか……。喋り方がセバスちゃんに戻ってるし……。

 

「そういやにーちゃんっていつ手術するんだ?もぐもぐ」

 

「あ?渉?何言ってんの?」

 

渉くん!?それ聞いちゃうの!?

 

「渉が聞きたいのはお兄さんの痔の事じゃないですか?」

 

「あははは、美緒ちゃんもおかしな事を言うな?俺が痔?そんなバカな」

 

あ、先輩まだバレてないと思ってるんだ?

 

「全く……渉も美緒ちゃんもおかしな事を仰る。夢か何かなの?それとも今の高校生で流行ってんの?あ、話題変えようか。渉と美緒ちゃんって仲良しなの?お互い名前呼びだし」

 

「貴、みんな知ってるから観念しちゃいなよ。痔って本当に大変らしいよ?早く手術しなきゃさ」

 

「何でみんな知ってんだよ……」

 

「ほぇ?たか兄が晴香さんにしばかれてた時、『嘘だったらあんたの痔をこの場で破裂させる』って言われてたじゃん」

 

「あ……そか、それでみんな知ってるのか…。てか、何で晴香はそんな事知ってやがったんだ?」

 

「タ、タカ!それはもういいじゃねーか。それより本当に早目に手術した方がいいんじゃねぇか?ファントムギグも会場も決まらないし、出演バンドが9組になったろ?日程も延ばそうと思ってんだよ」

 

「あ?日程を延ばす?それどういう事だよ?」

 

日程を延ばす…?え?ファントムギグって11月にやるんじゃないの?

 

「ちょっと…英治先生。ファントムギグの日程ってどういう事ですか?」

 

「ああ、実はな。秋月グループが小さい武道館みたいなイベント会場を造ってるらしくてな。ファントムギグはそこでやりませんか?って話が来てんだよ」

 

「あ、それ私も旦那様から聞いた事ある。今年の秋月グループの年末にやる年次総会をやる為にイベント会場を建造中って…」

 

へぇ……武道館みたいな会場かぁ。

姫咲ちゃんの家って本当に凄いなぁ…。

 

「まぁ姫咲ちゃんの居るCanoro Feliceも参加するイベントだから提案してくれたんだろうけどな。スタッフがうちは少ないからと思ってたんだがSCARLETのスタッフを借りれるなら大きな会場でやるのもアリかな?って」

 

「そりゃ確かにすげぇ話だけどな。収容人数何人?その会場いっぱいになるくらいお客様来てくれるの?

FABULOUS PERFUMEとevokeが居ても他はほとんどデビューしたてだよ?」

 

あ、そっか。確かにそんな凄い所でライブやれたら最高だろうけど、私達の知名度じゃそんなにお客様も来ないかな?

 

「大丈夫だぞにーちゃん!俺達Ailes Flammeもライブをガンガンにやっていこうって話してるしな!きっとオーディエンスは満員御礼だぜ!」

 

「渉くんはどうしてそんなに自信満々なの?ボクもAiles Flammeならいけなくはないって思ってるけどね~♪」

 

「あ~…武道館みたいなって言っても秋月グループの会議用施設だからね。3,000人程度のキャパのはずだよ」

 

「3,000人か…。でも全盛期時代のBREEZEとArtemisの対バンの時もめちゃ宣伝しても1,000人いったかいかなかったくらいじゃん」

 

え!?BREEZEもArtemisも凄いって思ってたのに、1,000人入らなかったの!?

 

って思ったけど1,000人って凄くない?

いや、それより秋月グループの会議用で3,000人キャパって……。

 

「そもそも俺らの対バンの時の会場のキャパはいつも1,000人の会場だったじゃねぇか。テメェはリスク計算し過ぎでネガティブ過ぎだ。………追加のご注文分お持ちしました」

 

「拓斗…。まぁそうなんだけどな……しかし3,000人か…」

 

「お兄さん武道館でライブやりたいって言ってましたよね?武道館って14,000人ですよ?」

 

「そうだぜタカ。お前と梓でいつか対バンを大阪城ホールでしたいって言ってたじゃねぇか。あそこ16,000人だぜ?」

 

「夢と野望はでかい方がいいだろ」

 

「でも貴。3,000人ならいけそうじゃないですか?」

 

「そうね。FABULOUS PERFUMEはいつも完売しているみたいだし。それに私達Divalが居るもの」

 

「あたし達ならいけるいける~。あたし達もそれまでにライブするだろうし~。ファンも増えてくれると思うし~」

 

「そうだよタカ。それにBREEZEも一夜限りの復活とかしてみたら?解散ライブって結局やれてないでしょ?」

 

「!?それです澄香さん!一夜限りのBREEZE復活ライブ!最高です!!」

 

「あ?俺はトシキが良けりゃ構わねぇけどな。タカと英治はどうだ?」

 

「俺もお前らが良けりゃって気もするけどな。久しぶりにステージに立つのも楽しそうだし」

 

「あ?ならArtemisも一夜限りの復活ライブやってみたら?お前らも解散ライブやってねぇだろ。翔子の所在もわかってるし、梓も帰ってくるしな」

 

やっぱり…!梓お姉ちゃん帰って来るんだ……!

 

「いや、でもうちらは日奈子が何処にいるのか……」

 

「先輩!梓お姉ちゃんが…梓お姉ちゃんが帰って来るって……」

 

「マジかタカ!?梓が日本に帰って来るのか!!?」

 

え?拓斗さん?

拓斗さんも知らなかったの?

 

「いや、渚も拓斗も声でかいね?

もしここにクリムゾンエンターテイメントの奴らが居たらどうすんの?」

 

あ、そ、そっか。確かにそれは危ない…。

 

「まぁ、最近のクリムゾンの奴らが梓の事知ってるとは思えんけどな」

 

「拓斗はまだ梓に未練あるの?50回くらいフラれてんのに?」

 

「うるせぇよ澄香。まだ54回だ。101回目までは諦めねぇ…」

 

え?拓斗さんってそんなに梓お姉ちゃんにフラれてるの?

 

「お~…叔母さんにそんなにフラれてるのか~。南無~」

 

「ちょっと盛夏…そんな事言っちゃ拓斗さんが可哀想だよ?」

 

「あの……拓斗さんはその…梓さんの気持ちは知ってるの?かな?」

 

「ちょっと香菜。止めなさい。もし知らなかったとしたら、拓斗さんは屈辱でこの先の人生を生きていけなくなるわ」

 

「いや、ちゃんと知ってるからな……。その事を知らねぇのはタカだけだ…」

 

は?先輩だけ?

 

「ん?俺だけ知らないって何だ?何かあんの?」

 

「タカは知らなくていいの。

……知られるとヤバそうやし(ボソッ」

 

え?知られるとヤバそう?それってもしかして梓お姉ちゃんが先輩を好きだったって事?

知られるとヤバそうってまさか先輩も梓お姉ちゃんの事……?

 

「そ、それより貴さん、その話は本当なのかしら?梓さんが日本に……って」

 

「ん?ああ、いつ頃なのかはわかんねぇけど、こっちに帰ってくるんだと。

また梓に電話しようとは思ってんだけどな……。ん、あ、そうだ」

 

そう言って先輩はスマホを触って何処かに電話した。ま、まさか……。

 

「あ、もしもし?俺だけど。俺だよ俺」

 

何でそんな電話の掛け方なの?

 

「……………うちにはあんたみたいな息子はいませんって言われて切られちまった」

 

何やってんの先輩は……!

 

「ねぇ、貴。もしかして電話の相手って……」

 

「ああ、もっかい掛けてみる。ちょっと待ってね…………あ、もしもし?俺だけど。てか電話番号でわかるよね?何で切ったの?」

 

先輩……梓お姉ちゃんに電話……?

 

「ああ、色々聞きたい事あるんだけどな?まぁ、今日はそれはいいや。

………は?声が聞きたかったの?って?ないよ?

………ああ、今飲み会しててな。

………いや、いるよ?澄香もいるし」

 

澄香お姉ちゃんの名前を…。

やっぱり電話の相手って梓お姉ちゃん…。

 

「タカめ……私と飲み会してるとか梓に言うなよなぁ…」

 

澄香お姉ちゃんも先輩の電話相手は、梓お姉ちゃんって思ってるんだ…。

 

「ああ、ちょっとな。お前の声聞かせてやりたい奴がいるんだわ。お前ん家の近所のなっちゃんだけど。

…………いや、お前声でかいよ。うるせぇよ。何叫んでんの?

…………代わるからちょっと待ってろ」

 

え?代わる…?なっちゃんに…?私…?

 

「ほれ。渚」

 

そう言って先輩は私にスマホを渡してきた。

え?え?え?梓お姉ちゃんと……電話…?

 

「声聞きたくねぇの?」

 

「き、聞きたい…!!」

 

私は先輩からスマホを受け取って……。

 

 

 

「も、もしもし…?」

 

『もしもし?なっちゃん?わぁぁぁぁ!久しぶりぃぃぃぃ!!会いたかったよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!』

 

「あ、梓お姉ちゃん……声が大きいよ…。

それに会いたかったって…これ電話やし」

 

『あ、そっか。えへへ。なっちゃん元気だった?タカくんと飲み会って、なっちゃんもお酒飲める歳になったんだね』

 

「うん…もう22やし…私はめっちゃ元気やったよ。梓お姉ちゃんは?元気?声は元気そうやけど…」

 

『めっちゃ元気やで!そっかぁ。なっちゃんももう22かぁ。いつの間にかなっちゃんもあたしより歳上かぁ~』

 

え?何を言ってるの梓お姉ちゃんは…。

 

「いや、梓お姉ちゃん…もう[ピー]歳だよね?」

 

あれ?何この自主規制音?

 

『いや、あたし永遠の20歳やから』

 

あ、何かそれ前に先輩が言ってたやつだ。

 

「そんな事言ってると先輩……あ、タカみたいになっちゃうよ?」

 

『まじでか。え?てかなっちゃんってタカくんの事呼び捨てやの?タカくんに変な事されてない?セクハラとかセクハラとかセクハラとか。お姉ちゃん超心配』

 

梓お姉ちゃん……。何か先輩と話し方似てる。笑っちゃいそう。

 

「あ、タカは私の会社の先輩でいつもは先輩って呼んでるんやけど、梓お姉ちゃんには先輩って言っても誰かわからないかな?って思って……。セクハラはたまにされてるかな?」

 

『な、なんやて……!?あ、あたしのなっちゃんになんて事を……!!』

 

 

 

「いや、渚のやつ梓に何言ってんの?俺セクハラなんかしてないけど?え?してないよね?」

 

「貴さんは存在自体がセクハラのようなものじゃない」

 

「え?そうなの?」

 

「昨日、ファントムで私のお尻ずっと見てたやん…」

 

「え!?バレてたの!?」

 

「え!?冗談やってんけどマジで!?

うわ、キモッ!信じられへん…!この変態!!」

 

「お兄さん?この唐揚げに付いてたレモン食べますか?食べさせてあげましょうか?」

 

 

 

『なっちゃんも今はバンドやってるんやってね。どう?楽しんで音楽やってる?』

 

梓お姉ちゃん…。本当に元気そう。

先輩が言ったのかな?私のバンドの事。

 

「うん。Divalってバンドでボーカルやらせてもらってるよ。バンド最高に楽しい」

 

『そっかそっか。おっちゃんもなっちゃんの事応援してるって言ってたよ。ギターはやらへんの?おっちゃんに教えてもらえばええのに』

 

え?おっちゃん?

ギター?梓お姉ちゃんに教えてた…?

 

「梓お姉ちゃん。そのおっちゃんってもしかしてお父さんの事?」

 

『ん?そだよ?タカくんにもなっちゃんがバンドやってるの聞いてたけど、こないだおっちゃんと電話した時に聞いてね』

 

あんのクソ親父ぃぃぃぃ!!

梓お姉ちゃんが生きてるって事知ってたって事!?

 

『あたしがこんな事になって、今はアメリカだからさ。おっちゃんも心配してたけどね』

 

あっ……そっか…。

お父さん…梓お姉ちゃんが事故にあったからじゃなくて、クリムゾンエンターテイメントに狙われてたから…。だから、私のバンド活動を反対してたんだ…。

 

「大丈夫だよ。私は…」

 

『タカくんもいるもんね。きっとタカくんがなっちゃんの事守ってくれるよ』

 

 

 

「渚嬉しそうだね」

 

「そうだな。俺もこないだ渚ちゃんが梓の家の近所のなっちゃんだって聞いた時は驚いたもんな…」

 

「あ、英治さんもなっちゃんの事覚えてるんですか?」

 

「ああ、まぁな。梓の実家に行ったのなんてあん時くらいだし。タカはたまに梓の実家に行ってたけどな。あのギターの調整するのと、渚ちゃんのお父さんに会う為に」

 

「な、渚のお父さんに…ですか?

何か嫌な予感がするんですけど…」

 

「ああ、多分そんな話じゃないよ。奈緒ちゃんが言ってる嫌な予感って、なっちゃんが大きくなったらタカが結婚してやるってやつの事だろ?」

 

「ち、違いますからっ!」

 

「おお~…貴ちゃんめ~!あたしという者がありながら~。もぐもぐ」

 

「え?渚が大きくなったらタカ兄と結婚って何?タカ兄と渚結婚するの?」

 

「香菜?バカな事言わないで頂戴。渚はDivalの大切なボーカルよ。貴さんなんかには渡せないわ。子供の頃の約束なんてノーカンよ」

 

「そういやタカの奴ってやたらと子供と結婚の約束してるよな。初音にも結婚してやるって言ってたし、理奈が子供の頃にも結婚してやるって言ってたしな」

 

「やっぱり子供の頃の話とはいえ約束は大切だわ」

 

「「「理奈(ち)?」」」

 

 

 

『いや~、でも嬉しいな。久しぶりになっちゃんの声が聞けて。あたしの事なんか忘れちゃってるかな?とかも思ってたけど』

 

忘れない…。忘れるわけない…!

 

「忘れないよ。梓お姉ちゃん…」

 

『もう少ししたらさ。あたしも日本に帰るから、きっと会おうね』

 

「うん。絶対に会おう。約束だよ?

いつくらいに帰って来るか決まってるの?」

 

『あ、うん。色々手続きとかしてからだから、11月の末くらいか遅くても12月の頭って予定だよ』

 

11月末くらいか…。長いなぁ。

でも梓お姉ちゃんが帰ってきてくれる。

また会える…。楽しみだな……。

 

『なっちゃんのライブも観たいしね♪』

 

「うん!絶対楽しいライブにする!」

 

 

 

「あたしも久しぶりに叔母さんと話したいな~もぐもぐ」

 

「お、いいな。俺も話してぇな。タカいいか?」

 

「あ?いいんじゃね?」

 

「タカ……お、俺もいいか?」

 

「拓斗?あんた仕事は?」

 

「晴香に休憩にしてもらった」

 

「私も会った事あるようだけれど、あんまり覚えてないわけだし、電話を代わってもらうのは悪いわね」

 

「声を聞いたら思い出すんじゃない?」

 

 

 

『でもなっちゃんにはあんまり迷惑掛けたくないけどね』

 

え?迷惑…?何で…?

 

「え?梓お姉ちゃん?それってどういう事?」

 

『あ、深い意味はないよ?なっちゃんにもあんまり迷惑かけたくないなぁと思っただけだし』

 

「迷惑なんて…!そんな訳ないよ!」

 

『な、なっちゃん…?』

 

何で…何で迷惑なんて……。

 

 

 

「あのバカ……渚に何言ってやがんだ……」

 

「梓……なっちゃんに迷惑掛けたくないとか言ったんじゃ………なっちゃん!貸して!」

 

「え…?」

 

私は澄香お姉ちゃんに先輩のスマホを強引に奪われた。

 

 

 

「ちょっと!梓!あんたなっちゃんに何言ったの!?」

 

『ふぇ?澄香?』

 

 

 

「梓お姉ちゃん…何で私に迷惑掛けたくないなんて…」

 

「渚~」

 

「盛夏?何…?」

 

「叔母さんはね~。事故の後遺症で車イスなんだよ。だから渚に負担を掛けちゃうとか思ってんじゃないかなぁ?車イスくらいあたしが押してあげるのに~」

 

梓お姉ちゃんが車イス…?

そんな事…そんな事くらいで…私は…。

私だって梓お姉ちゃんくらい押してあげるのに…。

 

 

 

「は?何それ?あたし達に負担かけるとか思って言ったんじゃないの?」

 

『え?あたし負担かな?』

 

「いや、全然そんな事ないよ。梓の事だからそう思って遠慮とかしてんのかな?って…じゃあ何でなっちゃんに迷惑掛けたくないとか言ったの?」

 

 

 

「およ?違うのかな?もぐもぐ」

 

え?違うの?じゃあ何で迷惑って…。

 

 

 

『なっちゃんもあたしの愛弟子だからね!あたしが日本に居ない間に出来たであろう聖地!そう!ヲタショップ巡りに付き合って欲しいから!なっちゃんももう22歳……R18もとっくに解禁だからね!』

 

「……は?」

 

『でもあれから15年……もし、なっちゃんがヲタ卒してたらさ…。そんな所に連れて行ってとか迷惑掛けるじゃん?』

 

「あ……ああ、そう……。ごめん。やっぱり梓は梓だわ…」

 

『あ、それよりね!あたし澄香に聞きたい事あったの!』

 

「私に聞きたい事…?」

 

『ネェ……何でタカくんと飲んでるノ?抜け駆けなノ?アハッ♪別にタカくんと澄香が一緒に飲んでもあたしは全然いいんだけどネ?もしさ?タカくんがお酒の勢いで澄香を襲ったりしたら大変じゃない?』

 

「ヒィ!?」

 

『ネェ?何でなの?』

 

「あ、あ、あ、梓?りっちゃん!りっちゃん覚えてる?ここにりっちゃんも居るんだよ!か、代わるね!」

 

『え?りっちゃん?』

 

 

 

そう言って澄香お姉ちゃんは理奈に先輩のスマホを押し付けていた。

どうしたんだろう?

 

「はい!りっちゃん!梓だよ!」

 

「え?私も……ですか?」

 

「理奈も久しぶりに梓お姉ちゃんと話してみたら?」

 

「そ、そうね…」

 

理奈は先輩のスマホを耳に当てて…

 

 

 

「え、あの…えっと…もしもし?り、理奈です」

 

『わぁぁぁぁ!りっちゃぁぁぁぁん!!

久しぶりだね!charm symphonyの曲も聴かせてもらったよ!ベースも歌もすっごく上手だね!』

 

「え?charm symphonyをご存知なんですか?あ、あのえっと…あ、ありがとうございます…」

 

 

 

「危なかったぁ……いきなり梓がヤミモードになるんだもん…電話だからって油断してた…」

 

ヤミモード?何それ?

 

「え?澄香さん…梓さんもヤミモードとかあるんですか?」

 

「そうなんだよ…ああなった梓は色んな意味で怖いから…」

 

「「「へぇ~……」」」

 

ん?何で志保も香菜も奈緒も私を見るの?

 

「あ、それで澄香お姉ちゃん。梓お姉ちゃんは何で私に迷惑掛けたくないなんて…」

 

「ん、ああそれね。何か日本に帰ってきたら、なっちゃんにヲタショップ巡りに連れて行ってほしいんだって。それでなっちゃんがヲタ卒してたら迷惑掛けるって思ったみたい」

 

梓お姉ちゃん…そんな事を心配してたんだ…。

 

「ヲタ卒なんてするわけないじゃん…!!」

 

「「「「ですよね~」」」」

 

志保?香菜?盛夏?奈緒?

 

 

 

『え!?りっちゃんってあたし達の事覚えてへんの!?』

 

「あの……本当にごめんなさい…」

 

『ショックやなぁ。でも、しょうがないかな?まだりっちゃんも小さかったし、あの頃はタカくんにベッタリやったもんね』

 

「へ……?あ、あの…それは梓さんが?って事ですか?」

 

『あははは、ちゃうよちゃうよ。りっちゃんがずっとタカくんにベッタリやったし、氷川さんが連れて帰ろうとしたらタカくんから離れたくないって泣いてたし』

 

「わ、私が…?ごめんなさい…頭が痛くなってきたわ…」

 

 

 

理奈が『へ?』とか言うなんて珍しいなぁ。何を言われたんだろう?

 

「あ、先輩。そういえば梓お姉ちゃんは11月末か12月頭くらいに帰ってくるそうです」

 

「あ、そうなの?ならファントムギグを延期するのもアリか…。まぁ、これも土曜にみんなに話してみるか」

 

「私達も翔子先生の教え子ですからね。私達の演奏も梓さんに観てもらいたいです」

 

「私もCanoro Feliceを梓に観てもらいたいかなぁ」

 

 

 

『そう?今はタカくんの事好きって訳じゃないん?優しいし意外とかっこいいんやけどなぁ』

 

「はい。それは……よく知ってます」

 

『あはは、やっぱりタカくんの事まだ好きなんだね』

 

「ご、ご想像にお任せします……」

 

『そっかぁ。やっぱりあたしも早く日本に帰らないとね』

 

「あの…梓さんもまだ…?」

 

『ご想像にお任せします♪』

 

「クス、はい。わかりました」

 

『あたしが日本に帰ったらりっちゃんも会おうね。りっちゃんのライブも楽しみにしてるからね』

 

「はい。ご期待に応えられるような最高のライブにしてみせます」

 

『うん』

 

「梓さんとお話してたら…少し昔の事思い出しました…。すごく懐かしい感じを…」

 

『そう?イントネーションが関西弁やからかな?』

 

「かも知れませんね。あ、盛夏が代わってほしいみたいですので、お電話代わりますね。ありがとうございました」

 

『盛夏?せっちゃん?』

 

 

 

「待たせたわね、盛夏」

 

そう言って理奈は隣の盛夏にスマホを渡した。

 

「ありがとう~。もぐもぐ」

 

「ちゃんと食べ終わってから電話なさいよ?」

 

「わかってる~。もぐり」

 

 

 

「もしもし~。美しい堕天使シャイニング梓お姉様ですか~?お久しぶりです~」

 

『せ、せっちゃん!?そ、そこにはタカくんもなっちゃんもみんな居るよね!?何でその呼び方するの!?しかもそんな大きな声で…!!』

 

「ほえ~?だって叔母さんって呼ぶと怒られちゃうし、そう呼ぶように言われてたし~?」

 

『た、確かにそう呼べとは言ったけど、時と場所を考えて…!』

 

 

 

美しい堕天使シャイニング梓お姉様?

何それ?梓お姉ちゃんって盛夏にそう呼べって言ってるの?

 

「さすが梓だな。クソださい中二病は健在か」

 

「梓……せっちゃんにまでそんな事を…」

 

「梓さんって面白い人なんだね。さすがたか兄のお友達だよね」

 

「おい、シフォン。確かに梓のそういう所は変だけどな。タカの友達って纏めるな。タカの友達ってなると俺と英治とトシキも入っちまう」

 

「さすがにーちゃんの友達だぜ。センスがかっこいいよな!俺もそんな呼び名が欲しいぜ」

 

「え?江口……あんた正気?」

 

 

 

「そんな事より~」

 

『全然そんな事じゃないよ!?あたしの死活問題だよ!?』

 

「おかーさんに聞いたんだけど日本に永住するの?うちに住むの?」

 

『あ、うん。日本には永住するんやけどね。なっちゃんの家が経営してるマンションがあるからそこに住まわせてもらおうと思ってて』

 

「ほえ~?うちで一緒に住めばいいのに~」

 

『少しの間ならそれでもいいけどね。

あたしも一人で生活出来るようにしなきゃだし。いつまでも居候は出来ないでしょ』

 

「本当に?それが理由?あたしは美しい堕天使シャイニング梓お姉様と一緒でも全然いいよ?むしろずっと居てくれるならその方が嬉しいし~」

 

『あ、まだその呼び方するんだ?せっちゃんの気持ちも嬉しいけどね。あたしには色々あるし』

 

「車イス……の事…?」

 

『ううん、それは関係ないよ。それならせっちゃんにお願いしちゃうよ』

 

「そっかぁ~。なら良かったぁ。でもそれならそれこそ何で?」

 

『うん……色々だよ』

 

「あたしのおじーちゃんの事?海原って人が日本に帰って来るから?」

 

『せっちゃん……知ってるの…?』

 

 

 

盛夏…?海原の事を…?

 

「あ、そうだ。おい拓斗」

 

「あ?何だ?」

 

「お前…海原の事盛夏のお祖父さんって話したらしいな?聖羅が怒ってたぞ」

 

「あ、ああ。ついな。みんな知ってるもんだと思ってな…」

 

 

 

「実の祖父がラスボスとかエモいよね~。さっすが盛夏ちゃん。すごい運命を背負ってるよね~。そこにシビれる憧れるぅ~」

 

『そっか。せっちゃんも知ってるんだね。でもね?実の父親がラスボスって方がエモいから。まるで王道ファンタジーの主人公みたい』

 

「大丈夫大丈夫~。海原って人はあたしが倒しちゃうから~。タカちゃんとあたしの石破ラブラブ天驚拳で~」

 

『いやいや、お父さんはあたしが邪王炎殺黒龍波で倒しちゃうから。邪眼の力をなめちゃダメだよ?

って、せっちゃん?石破天驚拳じゃなくてラブラブの方なの?もしかしてせっちゃんもそうなの?』

 

「ん~?別に~。それもアリかなぁ~?って思うけど~?やっぱりあたしは奈緒の友達だし~?」

 

『え?なお?誰それ?』

 

 

 

「え?盛夏は何で私の名前出してるんですか?何か怖いんですけど…」

 

盛夏?奈緒の味方なの?

 

「ねぇ香菜。盛夏って意外と怖いもの知らずだよね。近くに渚も理奈も居るのに」

 

「うん。志保も意外と怖いもの知らずだよね?隣には理奈ちが居るのに…」

 

 

 

『ねぇ……せっちゃん?なおって…もしかして佐倉さん?佐倉 奈緒ちゃん?』

 

「ほえ?奈緒の事知ってるの?何で~?

奈緒は佐倉さんちの奈緒ちゃんだよ~。すっごく可愛いんだぁ」

 

 

 

「え?梓さんって私の事知ってるとかですか?まじですか?」

 

え?梓お姉ちゃんが奈緒の事を知ってるの?何で?

先輩がBlaze Futureの事も梓お姉ちゃんには話してるだろうし、だからかな?

 

「何で梓が奈緒ちゃんの事知ってるんだ?俺は悪いけどあの頃の奈緒ちゃんは覚えてないぞ?」

 

「英治先生は子供には興味無かったからじゃないですか?」

 

「いや、そんな事はない。理奈の事は覚えてたし。単純に奈緒ちゃんには会った事ねぇだけだ」

 

「まぁ確かに私は楽屋とかにお邪魔した事はありませんし、BREEZEのファンの1人って感じでしたしね~。た、貴は覚えててくれたみたいですけど…」

 

「さすが貴さんと言った所ね。ロリコンの鑑だわ」

 

「先輩ってボーカルだしファンの1人1人ちゃんと見て歌ってたんじゃない?」

 

「てか、マジで梓が奈緒を知ってるのってびっくりなんだけど?奈緒ってArtemisのライブも行ってたのか?」

 

あれ?やっぱり先輩が話した訳じゃない?

 

「何度かはあると思いますけど、多分BREEZEとの対バンくらいだと思いますよ?」

 

「私もあの頃の奈緒は知らないんだけどな~?何で梓が奈緒を知ってんだろ?」

 

「俺も奈緒の事は覚えてるぞ?親子でよく来てくれてた客だったしな」

 

「やはり…お姉ちゃんは可愛すぎて天使過ぎるから……」

 

「奈緒ねーちゃん、すっげぇ可愛いもんな。子供の頃から目立ってたんじゃねーか?」

 

 

 

『せっちゃん……そこにトシキくんか英治くんか拓斗くんいる?』

 

「ほえ?英治ちゃんか拓斗さんなら居るよ~」

 

『そっか。ごめん、英治くんに代わってくれないかな?』

 

「ほ~い。りょ~か~い。…………………英治ちゃん、美しい堕天使シャイニング梓お姉様が代わってって~」

 

 

 

盛夏は英治さんにスマホを渡した。

てか、結構長電話してるけど、国際電話だよね?先輩、通話料金は大丈夫ですか?

 

「叔母さんには英治ちゃんか拓斗さんが居るよって言ったんだけどね~。叔母さんは拓斗さんじゃなくて英治ちゃんに代わってってさ~」

 

「なぁ盛夏。やっぱりまだ俺の事怒ってるのか?」

 

「ざまみろーって感じだよね」

 

「なぁ澄香。やっぱり俺の事嫌いなの?」

 

 

 

「お、もしもし?美しい堕天使シャイニング梓お姉様か?久しぶりだよな!」

 

『え、英治くんまで何言ってるの…?

久しぶりだよね。英治くんは全然連絡くれへんし』

 

「ははは、お前たまにこっち帰って来てたんだってな?それなら連絡くれたら良かったのによ」

 

『まあ……あたしまだ歩けないしさ…』

 

「ん……そっか。それで?俺もお前と久しぶりに話したいと思ってたけどな?俺に代わってくれって何だ?」

 

『うん、それね。タカくんにはまだ知られたくないし適当に相槌打ってくれない?』

 

「ん?ああ、いいぞ」

 

『佐倉 奈緒ちゃんってバンドやってるの?』

 

「おう。まぁな」

 

『タカくんと一緒のバンド?それともなっちゃんと一緒のバンド?』

 

「ああ、それなら前者だ」

 

『そっか…タカくんと一緒か……』

 

 

 

英治さんって梓お姉ちゃんと何の話してるんだろ?

 

「英治のやつ早く俺に代わってくれねぇかな」

 

「まだ休憩時間あるんだろ?そんな時間かかんねぇだろ?何ならここの料理何か適当に食ってていいぞ?晴香も普通に食いに来るし」

 

「いや、それは悪いからな。遠慮するわ。ってか、晴香って客の料理に手ぇ出してんの?」

 

「あ、なら拓斗さんも何か飲む?ボクもコーラおかわりしようと思ってるしついでに」

 

「あ、いや、このテーブル飲み放題だろ?グラス交換制だからグラスが1つ増えるのはな。でもありがとうな」

 

「晴香さんはよく休憩時間にはビール頼んで飲んでるわよ?拓斗さんもアルコールじゃなければいいんじゃないかしら?」

 

「晴香のやつ……やりたい放題だな……」

 

 

 

『英治くん……奈緒ちゃんの事なんだけどね…』

 

「そうだよ。お前奈緒ちゃんの事何で知ってるんだ?」

 

『ちょっ!適当に相槌打ってって言ったでしょ!?』

 

「そこら辺は大丈夫だ。任せろ」

 

『もう……。奈緒ちゃんはね……奈緒ちゃんっていうか奈緒ちゃんのお母さんとなんだけど。BREEZEのライブで知り合ったの。お忍びでライブに行ったら安定の迷子になってね。その時に奈緒ちゃんのお母さんに助けてもらって……この事はいつか外伝とかで、語られると思うんだけど』

 

「安定の迷子って……。そんなどうでもいい事は外伝とか出ないと思うぞ?」

 

『それからBREEZEのライブ行く度に見掛けるようになって仲良くなったんだよ』

 

「あ~なるほどな。謎は全て解けた!」

 

『それでたまにライブ前にも会うようになってね。カラオケに行った時に奈緒ちゃんの歌を聴いた』

 

「ん、そっか」

 

『奈緒ちゃんがもしバンドをやってるなら……歌ってるならお父さんに狙われるかもしれない……』

 

「………奈緒ちゃんはタカのバンドでギターやってんだよ。そっかそっか。それで梓も奈緒ちゃんの事知ってるんだな。あははは」

 

『そっか…。ギターか…。奈緒ちゃんはもしかしたらタカくんと同じ力を持ってるかも知れない。あたしの力も……』

 

「………奈緒ちゃんには妹も居てな。妹ちゃんはベースボーカルやってんだよ。じいさんからirisシリーズのベースも託されてな。タカに聞いたんだが妹ちゃんは軽音部に入ってんだが、翔子が顧問の先生やってるらしいぞ」

 

『翔子の教え子?翔子からあたしの歌を思い出す子が居るって聞いてたけど、奈緒ちゃんの妹ちゃんの事かな…?』

 

 

 

「え、英治さん美緒の事まで……超恥ずかしいんですけど…」

 

「美緒の顧問の翔子って誰だ?」

 

「私の顧問の翔子先生はArtemisのギタリストだったの」

 

「へぇ~。そういや南国DEギグの時、美緒も麻衣さんもクリムゾンの事詳しかったもんね?その先生から聞いてたんだ?」

 

「うん。いい先生だよ」

 

「ほぇ~。美緒ちゃんの学校の軽音部の顧問も凄いんだねぇ。ボクの学校の軽音部の顧問は東山先生って言って拓斗さんにベース教えてもらってたらしいよ」

 

「あ?シフォンの学校って達也の学校なのか?」

 

「ほぇ?うん、そうだよ!」

 

「お前ら拓実と同じ2年だよな?」

 

「そうだぞ!拓実と雨宮は同じクラスだしな。シフォンと亮は隣のクラスだけど」

 

「え!?江口!?シフォンって誰だか知ってるの!?」

 

「ん?ああ。俺も亮も拓実も知ってるぞ?」

 

「あはは……何かね…みんな知ってたみたい……ボクの苦労って…」

 

「そうか……亮の奴も知ってるのか…。なるほどな。あいつもとうとう俺の域に達したという事か…さすがだな」

 

「たか兄?」

 

「そうか。お前らみんな同じ学校か。夏休み明けたら俺のバンドの観月 明日香って奴がお前らの学校に通う事になんだけどよ。良かったら仲良くしてやってくれ」

 

「おう!わかったぞ!」

 

「へぇ~。拓斗さんのバンドの子があたしらの学校に通うんだ?楽しみだな」

 

「ボクも……シフォンの格好なら仲良く出来るとは思うけど…」

 

 

 

『うん。そうだと思う。だから……英治くん。奈緒ちゃんと奈緒ちゃんの妹ちゃんの事よろしくね。あたしも日本に帰ったら出来るだけ力になるから』

 

「おう。わかった。タカには代わらなくていいか?」

 

『うん。今はまだ言わなくていいと思う。今タカくんがその事知っちゃったら、また一人で抱え込んじゃいそうだし…』

 

「そっか…。わかった。そういや拓斗が話したいってよ。拓斗に代わっていいか?」

 

『拓斗くん?うん、いいよ』

 

 

 

「拓斗。ほらよ」

 

そう言って英治さんは拓斗さんにスマホを渡した。梓お姉ちゃんと何の話してたんだろ?奈緒の事?

 

「英治さん……その…梓さんと私と美緒の事話してたんですか…?」

 

「ん?ああ、梓が俺達BREEZEのライブを観に来た時に迷子になったらしくてな。その時に奈緒ちゃんのお母さんに助けてもらったんだと。それで奈緒ちゃんのお母さんと友達になって、奈緒ちゃんの事も知ってたみたいだ」

 

「あ~……そうなんですね。あんまり私は覚えてないんですけど…」

 

「それで奈緒ちゃんには妹が居て、その子もバンドやってるぞって話してただけだ」

 

そうなんだ。梓お姉ちゃんが迷子ってよく聞くけど、そんなに迷子になってたの?

 

「英治先生。梓さんってよく迷子になってたの?」

 

「ん?ああ、よく迷子になってたぞ。その度に俺らで探し回ってな」

 

「梓はバイクにも乗ってたけど、うちらの高校にも辿り着けずに迷子になってたりしたからね。いつも私の家まで来て、私が梓を学校まで連れて行ってたんだよ」

 

梓お姉ちゃんってそんなに方向音痴だったんだ……。

 

 

 

「も、もしもし?あ、梓か…?」

 

『うん、そだよ。拓斗くん久しぶり~』

 

「………」

 

『拓斗くん?』

 

「………」

 

『お~い。拓斗く~ん?』

 

「………」

 

『あれ?もしかして電話切れちゃってる?拓斗くん聞こえてる?』

 

「……!?あ、わ、悪い。久しぶりだな…。その、久しぶり過ぎて話したい事いっぱいあったんだけどな……その、何から話せばいいか…」

 

『あはははは。そっかぁ。本当に久しぶりだもんね。あたしも拓斗くんとお話したかったよ』

 

「そ、そうか。お、俺…まだお前の事…」

 

「はい。しゅ~りょ~」

 

 

 

あ、晴香さんだ。

 

晴香さんが電話中の拓斗さんからスマホを奪い取った。なんか拓斗さん可哀相…。

 

「ちょっ!晴香テメェ…!」

 

「兄貴?時間見てみ」

 

「時間だぁ!?………あっ」

 

「そんな訳だから……仕事に戻ってね(ニコッ」

 

「は、はい……わかりました…」

 

「あ、それからあたし今から休憩だから。ここにビール持ってきてね。ついでにみんなの分の注文も聞いてあげて」

 

「か、かしこまりました……」

 

そして拓斗さんはみんなの注文を聞いて肩を落としながら厨房へと帰って行った……。

 

「休憩時間は終わっちゃってるけど、本当はあたしも兄貴にもう少し梓と話させてあげたかったんだけどね……。何かいきなり告ろうとしてたみたいだからさすがにね……」

 

あ、ああ……だから無理矢理スマホ奪ったんだ?

 

「それよりも……と」

 

 

 

「もしもし?梓?あたし~晴香だよ。兄貴は仕事に戻ったからあたしが代わるね」

 

『え?晴香ちゃん!?久しぶりー!!!

拓斗くんお仕事中だったんだ?悪い事したかな?何を言いかけてたんだろ?』

 

「兄貴の事はどうでもいいよ。それより…梓生きててくれて……あり…ありがと……ふぇぇぇぇん……あずさぁぁ…」

 

『は、晴香ちゃん?な、泣かないで。あたしは元気に生きてるよ。ごめんね、連絡してなくて…』

 

「良かったよぉぉぉ…」

 

 

 

「晴香さん…。晴香さんも本当に嬉しそう。晴香さんも梓お姉ちゃんが生きてるって知らなかったんだもんね…」

 

「そう言えば英治さん達は何で晴香さんにまで内緒にしてたんですか?晴香さんなら大丈夫だったんじゃ…」

 

「ああ、梓の事を知ってるのは梓の意識が戻った時に病院に居た連中だけなんだよ。意識が回復した後はすぐに関西の病院に転院したしな。それで渚ちゃんのお父さんとお祖父さんにだけ話してな」

 

「え?私のお父さんとお爺ちゃんにですか?」

 

「梓さんの父親は海原だよね?梓さんのお母さんはどうしたの?」

 

「あ、梓のお母さんはね。元々身体が弱くてね。私達が高校生の頃に亡くなってね。その時なんだよ。梓が父親の海原や聖羅に初めて会ったのは……」

 

「そうだったのね…。梓さんはそれまで父親の事を…」

 

「私達はその頃にはもうArtemisをやってたけど、海原はまだその事を知らなかったからさ。梓の事を引き取るとかもしなくてね。梓の姉である聖羅。盛夏のお母さんは、それからはよく梓の所に遊びに来てて仲良くなれたんだけどね」

 

梓お姉ちゃん…そうだったんだ…。

 

「梓のお母さんの家系は割と大きな地主だったし、お金には困ってなかったんだけどね。だから好きなだけヲタグッズを買えてた梓は拍車がかかって……クッ…」

 

好きなだけヲタグッズを!?さすが梓お姉ちゃんだ…。

 

「あたしがこうなったのも叔母さんの影響だしね~。まだ子供の頃から英才教育されてたし~」

 

なんと!?じゃあ私は盛夏の兄弟子にあたるわけか!?

 

「あの…渚のお父さんはわかりますけど、渚のお祖父さんって…?渚のお祖父さんは海外を旅してるって聞いたんですけど?」

 

あ、そうだよね。私もそう聞いてるんだけど。

 

「ああ、渚ちゃんのお祖父さんが梓と一緒に暮らしてるからな。何だっけ?梓のじいさんの兄弟が渚ちゃんのお祖父さんなんだっけ?」

 

「あ?どうだっけか?何か遠い親戚ってのは覚えてんだけどな。渚のじいさんの妹が梓のばあさんじゃなかったか?」

 

「なっちゃんのひいお爺ちゃんの兄妹が梓のひいお爺ちゃんだかひいお婆ちゃんじゃなかった?」

 

え?そうなの?てか澄香お姉ちゃんの話なら本当に遠い親戚だね。

 

 

 

『うん。あたしも晴香ちゃんと飲むの楽しみにしてるね』

 

「あはは、梓はお酒弱いじゃん。あんまり飲ませないからね」

 

『いやいや、この15年の間に強くなったよ。多分やけど』

 

「何それ。多分なの?あ、結構長電話しちゃったよね。どうする?誰かに代わろうか?」

 

『あ、うん。じゃあタカくんに代わって』

 

「はいよ。…………………タカ。梓が代わってって」

 

「お?おう」

 

 

 

そして先輩は晴香さんからスマホを受け取った。私ももうちょっと梓お姉ちゃんとお話したかったなぁ。

 

 

 

「ん?どした?俺の声でも聞きたくなったか?」

 

『うんって言ったらどうする?』

 

「別に……」

 

『お父さんが……海原がまた日本に帰ってくる。せっちゃんが知ってたって事はタカくんも知ってるよね?』

 

「ああ……まぁな」

 

『なっちゃん達を守ってあげてね。って言いたいけどさ。勝手にタカくんは守っちゃうんだろうし』

 

「まぁやれる範囲でな」

 

『いつもそんな風に言って……だからモテないんだよ?』

 

「どんな風に言ったらモテますかね?」

 

『ん~。モテないタカくんの方が面白いから教えてあげない』

 

「あ。そうなの?土下座したら教えてくれる?」

 

『結婚してくれたら教えてあげるよ?モテて浮気したら○すけど♪』

 

「その○す?まるすって何なの?怖い漢字が伏せられてるとかじゃないよね?てか結婚してくれんの?」

 

『タカくんがあたしの事が好きで好きでどうしようもなくて、全裸で土下座しながら都会の中心で愛を叫んでくれたら、少しだけ考えてあげる』

 

「無茶振りもいいとこだな。俺それ捕まっちゃうし」

 

『…………絶対に無茶はしないでね。あたしも日本に帰るから』

 

「いや、全裸で土下座とか絶対しないから。無理だから」

 

『そっちちゃうし!もう!わかってるくせに!』

 

「もう無茶する程若くねぇよ。永遠の20歳だけど」

 

『あたしとタカくんいつの間に同い年になったの……?』

 

「はいはいワロスワロス」

 

『なっちゃん達と電話させてくれてありがとう。すごく嬉しかった…』

 

「あ?別に。渚に聞いたけど11月末くらいに帰ってく……」

 

『タカくん?何でなっちゃんの事を渚って呼び捨てなノ?もしかしてぇ?あの夏祭りの日のなっちゃんが結婚してくれるって約束を本気にして彼氏面してるノ?アハッ♪ちょ~ウケるんだけどぉ~?

ネェ、何で?何でなっちゃんを呼び捨てなノ?』

 

「ヒィィィィ!?」

 

 

 

先輩はスマホを投げ出した。

どうしたんだろう?それよりさっきの『結婚してくれんの?』ってどういう事なんだろう?ネェ、先輩?

 

「こ、こえぇ……思わずスマホ投げちゃったよ…。あ、電話も切っちゃったか」

 

「ごめん!貴!あたしトイレ行ってくる!盛夏一緒に行こう!」

 

「ん~?トイレ?あたしは別に~」

 

「いいから早く!」

 

「あ?志保?どうしたんだ?」

 

「タカ兄!ごめんね!あたしもトイレ!シフォン。一緒に来な!」

 

「え?香菜も?」

 

「え?香菜姉?ボクさすがに女子トイレには入れないよ?」

 

「悪いタカ、俺もトイレ。渉くん一緒に来るんだ」

 

「え?お、おう?英治にーちゃんどうした?」

 

志保も香菜も英治さんもどうしたんだろう?

ア、それより先輩にさっきの事詳しく聞かなきゃネ♪

 

「何なんだ一体……。あ、俺もトイレ行っとくか………ん?あれ?立てない?」

 

「お兄さん……次はないと忠告したはずです」

 

「え?美緒ちゃん?何で俺の肩を掴んでんの?え?全く動けないんだけど?」

 

アハッ♪美緒ちゃんが捕まえててくれるんだね。さっきの話ゆっくり聞けるネ♪

 

「え?渚?目のハイライトどうしたの?職務放棄?理奈も前髪で目が隠れちゃってるよ?大丈夫?奈緒も頬っぺたパンパンに膨らんでるけど大丈夫?破裂したりしない?」

 

「タカ……?梓に結婚してくれんの?とか言ってたよね…?あれ……どういう事?」

 

「え?澄香?何か目が血走ってない?」

 

「タカ…さようなら…ごめんね」

 

「は?晴香?何言ってんの?え?お前厨房戻るの?」

 

「先輩?梓お姉ちゃんと結婚したいんですカ?」

 

「貴さん…?梓さんに言ってた事…詳しく教えてくれるかしら?」

 

「貴……お尻は勘弁してあげますね♪」

 

「何言ってんのお前ら?あれはいつもの梓との冗談の掛け合いだ。お前らから梓を取ったりしねぇから安心しろ。そもそも梓と結婚とかなったら拓斗と気まずくなるじゃねぇか」

 

え?あ、冗談の掛け合い?

 

「なぁんだ。貴のいつもの冗談ですか。そう言えば夏祭りの回想シーンでもそんな事言ってましたっけ?」

 

「全く……貴さんの事だからフラれるでしょうし心配したじゃない」

 

「えっ……と…ま、まぁいいか。タカだしね……確かに昔からあんたらはそうだったよね……」

 

「私はちょっと納得いきませんけど、お姉ちゃんがいいならいいか……命拾いしましたね」

 

「全くぅ。先輩も早く結婚出来たらいいのにって思ってますけど、私の梓お姉ちゃんはダメですからね?わかりましたか?」

 

「いや、だからないって…」

 

そっかぁ。先輩は別に梓お姉ちゃんの事……。そうだよね。もしそうなら15年前にきっと…。

 

 

 

-----------------------------------

 

 

 

おかしい……静かだ…。

あたしの名前は雪村 香菜。

あたし達は巻き添えを食わないように、避難している。

 

「ねぇ?香菜姉?どうしたの?」

 

「志保~あたしお腹空いてるんだけど~?」

 

「え?盛夏ずっと食べてたよね?なのにお腹空いてるの?」

 

「英治にーちゃんどうしたんだ?トイレ行かないのか?」

 

「あ、ああ……おかしいな、静か過ぎる」

 

「英治先生もそう思いますか?」

 

何故タカ兄の悲鳴が聞こえないんだろう?ま、まさか…!!?

 

「英治さん、香菜……もしかしたら貴はもう……悲鳴をあげる間もないくらいに…」

 

「ああ、もしかしたらそうかも知れないな…」

 

タカ兄………そんな……!

 

「なぁに?みんなどうしたの~?ディアボロの『死んだことを後悔する時間をも与えん』的な~?それより席に戻ろうよ~」

 

盛夏はそう言って走って行った。

もしあたし達が席に戻った時…タカ兄が…。ごめんねタカ兄。あたし達が我が身可愛さに逃げてしまって…!!

 

しかしそれは杞憂に終わった。

あたし達が席に戻った時、みんな楽しそうに食事を楽しんでいた。

 

「あ~、あたしの焼き鳥が無くなっちゃってる~」

 

「あ、ごめんね盛夏。私が食べちゃったー」

 

「ほら、盛夏。私の唐揚げあげますから」

 

タカ兄にも外傷は増えてないように見える…。どういう事…?

 

「ねぇ、香菜。そろそろ席替えしない?(ボソッ」

 

席替え?あたしは志保の提案に乗るべきか否か。確かに席替えをするならこのタイミングしかない。しかし…。

 

「俺もその方がいいと思うぞ?渚ちゃんと理奈が近くの席というのはお前も志保も危ないんじゃないか?」

 

確かに英治先生の言う通りだ。

あたしもさっき渚に掴まれて痛い目を見た。

だけどどうする?もし…もしも渚と理奈ちに挟まれたりしたら…。

 

渚と理奈ちに挟まれる確率……。ダメだ。受験の時以来勉強らしい勉強をしていないあたしではわからない。

そしてゆっくり計算している時間もない……ど、どうする…?

 

「香菜も志保も英治さんもどうしたのかしら?座らないの?」

 

クッ……ここまでか…。

 

「せ、席替えタ~イム……」

 

あたしのこの決断は浅はかだった。

 

このまま何もなく過ごせば良かったのに…。

さっきタカ兄が作ったくじ。あのくじで再び席を決める事になった。

タカ兄の膝の上という訳のわからないくじを残したまま。

 

渚と理奈ちと奈緒と盛夏と志保と……何故か渉くんが必死にそのままのくじでとアピールしたからだ。

盛夏と志保はまぁ?とか思ったけど、まさか渉くんまでとは……。

 

そしてみんなのくじが引き終わった。

 

奥側の席左から、美緒ちゃん、理奈ち、あたし、渚、志保、渉くん。

手前側の席左から、奈緒、澄香さん、英治先生、盛夏、タカ兄、シフォン。

という席順になった。

 

志保は渚と渉くんの隣という事でげんなりしていたが、あたしは理奈ちと渚に挟まれる席になった。どうしてこうなった!?

 

お気づきの方もいるとは思うが、タカ兄の膝の上というVIPチケットは、美緒ちゃんが再び引く事になった。

そのくじを引いた時、美緒ちゃんは密かにガッツポーズをしていたのを見逃さなかった。

 

そして美緒ちゃんは『さっき座り心地が良かったので再びお邪魔します』と言ってタカ兄の膝の上に座り、タカ兄が『いや、だからそれ1番って意味だから』と言った後、あろう事か美緒ちゃんは『くじに書かれてる席は絶対と念を押されましたので。お兄さんが悪いです。どかせたいならさっきみたいに抱っこして1番の席まで運んだらどうですか?』とか言うものだから、タカ兄は『やれやれ…』と言いながら、美緒ちゃんを抱っこして1番の席まで運んだ。

 

その後は当然のようにタカ兄はしばかれたわけだけど、それは些細な事件。

本当の惨劇はこれから始まろうとしていた……。

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