私の名前は茅野 双葉。
いや、今はFABULOUS PERFUMEのナギ。
これから私…オレ達のライブが始まる。
「シグレ、ナギ、イオリ。やるぞ、俺達のライブだ」
「ああ、ゲストで来てくれているCanoro FeliceやAiles Flamme、evokeの前にオレ達で会場を熱くしよう」
「ああ、だけどナギ…無理はするなよ」
「会場のみんなに届けよう。私達の香りを……」
「「「「FABULOUS PERFUMEいくぞ!!」」」」
オレ達は気合いを入れ、ステージへと向かった。
「すげぇな…FABULOUS PERFUME」
「なぁ亮!俺達もステージに上がる前にやろうぜ!ああいうの」
「FABULOUS PERFUMEかぁ。俺も今日は寝ずに聞いておこうかな?」
「珍しいな……響」
「ナギのやつ……足は大丈夫なのかな…」
「うん……。心配だよね。ナギっちも無理はしないって言ってたけど…」
オレ達はステージに立った。
シグレの台詞とタイトルコールの後、ステージのライトアップと同時にオレ達の演奏が始まる。
「今宵、私達の香りに
♪~
♪♪~
♪♪♪~
今日は8月24日。
本来ならオレ達FABULOUS PERFUMEのワンマンライブの予定だったが、オレの不注意で足を怪我してしまった。
チケットはありがたい事にソールドアウト。オレは何としても今日のライブを中止にはしたくなかった。
オレ達の音楽を楽しみにしてくれているみんなが待ってくれているんだから。
オレもバカじゃない。こんな足の状態で、ライブをやりきれるとは思っていない。だから、Canoro FeliceとAiles Flammeとevokeにお願いしてゲスト出演してもらう事にした。
オレ達が3曲演奏し、evokeが3曲、Ailes Flammeが3曲、そしてCanoro Feliceが3曲演奏した後にオレ達で2曲やる。
オレ達がやれる曲は5曲だけだけど、全力でやりきってみせる!!
「ハァ…ハァ………ありがとうみんな!私達がFABULOUS PERFUMEだ!!」
〈〈〈ワァー!キャー!!〉〉〉
「では、早速だがメンバー紹介をさせてもらおう!私がボーカルのシグレだ!」
〈〈〈キャー!シグレさまぁー!〉〉〉
「そしてドラムの……」
-ドンドドドドンドドドシャンドンドドドン
「イオリだ。今日は僕の音を君達のハートに響かせてあげる」
〈〈〈イオリさまぁー!〉〉〉
「そしてギターの……」
-ギュイーン……ギャギャギャギャ…ギューン…ギュッ
「俺がチヒロだ!俺の香りでお前らを満たしてやるぜ!」
そう言ってチヒロは胸元に入れていた薔薇を客席に向かって投げた。
チヒロめ…そんな事するって聞いてないぜ?
〈〈〈ステキー!チヒロさまぁー!〉〉〉
「そして我らがFABULOUS PERFUMEのリーダー!ベースの……」
よぉし……私も私らしさを前に押し出す気持ちで……おっと双葉に戻っちゃった。
オレはナギ……オレはナギ……!!
-ドゥーンべべンドゥンドゥン
わた……オレはステージの端から端へと回り踊りながらベースを奏でる。
よし、全然動ける大丈夫…!!
そしてステージを1周しセンターに立ち、
「オレがFABULOUS PERFUMEのベーシスト、ナギだ!みんな盛り上がっていくぞぉぉぉ!!」
〈〈〈キャー!ナギさまぁー!好きー!!〉〉〉
「ちょっとナギやり過ぎだ。足は大丈夫なの?(ボソッ」
「ああ、まだ全然大丈夫だ。シグレ2曲目にいこう(ボソッ」
オレは定位置に戻りながら客席に向かってピックを投げた。オレも薔薇とか用意してたら良かったなぁ~…。
「では、2曲目にいこう!みんな!手を上げてよろしく!………『
オレ達の演奏開始と共にオーディエンスが手拍子を始め、オレ達とオーディエンスのみんながひとつになる。
♪~
♪♪~
♪♪♪~
いい感じだ。すごく楽しい。
もっとみんなでこの時間を……
-ズキン
えっ…?
-ズキッズキッ
嘘でしょ…?まさか痛み止めが切れた…?
どうしよう…でも、まだ2曲目だし…。
ううん。やれる。オレなら…私なら…!!
♪~
♪♪~
♪♪♪~
「ありがとう!!みんなと1つなれた最高の演奏だったよ!」
「みんな!僕も楽しかったよ!もう一度自分と隣の友達に拍手!」
どうしよう……痛みが増して来た…。
でもこの流れからはevokeにバトンタッチは出来ない。もう1曲…全力で…!
シグレとチヒロがオレを見てる?
えっ?まさかオレのMC待ち!?
ど、どうしよう…何を言えば…。
「みんな!今日はありがとう!俺達のホームページやTwitterで知っているとは思うが、ナギの奴は足を怪我してしまってな」
え?チヒロ?それはオレがCanoro Feliceの演奏の後に言うはずだった……。
「そこで私達は盟友であるCanoro Feliceと、Ailes Flammeとevokeにゲストとして今日のライブを盛り上げてもらう事となった。彼らの音楽もとてもファビュラスな音楽だ!みんな楽しんでくれ!」
〈〈〈ワー!〉〉〉
「ナギさまぁー!」「大丈夫ー?」「無理はなさらないで下さいー」「チヒロさまぁー!」
みんな…。ごめんね。ありがとう。
でもまさか…もうevokeに交代するつもり?オレは不安な気持ちでシグレを見た。
「………では!evokeにバトンタッチする前に聴いてもらおう!『
良かった…。ちゃんと3曲やってくれるんだ…。良かった…。
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俺の名前は豊永 奏。
FABULOUS PERFUMEの演奏の後、俺達がステージに上り演奏する事になっている。
「茅野……ナギの奴、辛そうだな。奏、予定変更だ。このまま俺達がステージに上がるんじゃなくて、ステージのライトを消してもらおう。あいつまともに歩ける状態じゃねぇだろ」
「ああ…確かにそうだな…」
「ああ、俺もそれがいいと思う。どうする?俺が葉川さんに伝えてくるか?」
「河野さん大丈夫だよ。私からタカにイヤモニで言っておく。evokeはライトが消えたら直ぐにステージに上がって」
「初音ちゃんはしっかりしてるねぇ」
初音ちゃんから葉川さんに伝えてくれるなら大丈夫か?だがいきなり演出を変えてFABULOUS PERFUMEは大丈夫だろうか?
「奏さん。それも多分大丈夫。タカとトシキさんに任せてたらいいよ」
初音ちゃん…。俺そんなわかりやすい顔をしてたかな?
「そろそろ3曲目が終わるぞ?行けるな?」
「結弦…。誰に言っているんだ?俺達はevokeだぞ」
俺達がステージに上がる準備をしていると、佐藤さんから指示が入ってきた。
FABULOUS PERFUMEの演奏が終わり次第、オーディエンスの拍手が鳴り止む前にライトが消される。
そして俺達がステージに上り、FABULOUS PERFUMEがハケたのを確認してから、俺達の演奏を始める。
俺の歌い出しと共にライトアップされるとの事だ。
さすが佐藤さんだな。この一瞬でそんな違和感のない演出を思い付くとは…。
〈〈〈ワァー!キャー!〉〉〉
FABULOUS PERFUMEの演奏が終わったか。
「行くぞ!evoke!地上最強への道を!」
俺達はステージに上がる。
「みんな…ごめんね…」
茅野は右足を引き摺っている。歩くのも辛そうな表情だ。
こいつ…こんな状態で笑顔のまま、あのパフォーマンスをやり遂げたのか…!!
「大丈夫?ナギ?」
「うん、イオリ……ごめんね。シグレもありがとう。3曲目までやらせてくれて」
「無理はしないと約束したのに……」
「evoke…悪い。後は任せる」
「確かチヒロとか言ったか?心配すんな。後は俺らに任せやがれ」
ナギが盛り上げたこの会場。
俺達が盛り下げる訳にはいかんな。
「今日だけは紗智の為じゃなく……あいつの為に演奏してやるか…。フッ、紗智に知られたらヤキモチを妬かれちまうな」
安心しろ鳴海。紗智ちゃんは全く何とも思わないはずだ。
しかし、お前今までevokeの為じゃなく紗智ちゃんの為に演奏していたのか……。
「FABULOUS PERFUMEハケたよ。オーディエンスを待たせてもアレだし、俺達も演奏始めよ。俺も同じベーシストとしてあの子の為にも全力でやるよ」
ああ、もちろんだ。
「俺は準備は出来たぜ?テメェらはいいか?」
俺達は黙って頷き、それから結弦がギターを鳴り響かせ、俺達evokeの演奏が始まった。
俺の歌い出しはそろそろだな…。
-パッ
俺の歌い出しと同時のライトアップ。
さすが佐藤さんだ。いや、葉川さんか?タイミングがこれ以上ないくらいにバッチリだ。
うおっ!?
明るくなったステージから客席を見て俺は驚いた。いつもと違う風景。
俺達evokeとは全然違うオーディエンス。
それはそうだな。俺達のゲスト参加が決まった後に、2階のホールから地下のホールに変更し追加販売したとはいえ、ほとんどはFABULOUS PERFUMEのファンで売れたようだしな。
それでも完売とはさすがと言わざるを得ないな…。
おっと、オーディエンスにくわれている場合ではないな。俺は歌に集中しなくては…!!
♪~
♪♪~
♪♪♪~
「ハァ…ハァ…ふぅ……。evokeで『
〈〈〈ワァー!!〉〉〉
「かっこいいー!」「すごい激しかったよね」「FABULOUS PERFUMEの雰囲気とは違うけど良かった」
よ、良かった…。俺達の曲はFABULOUS PERFUMEの曲の雰囲気とは全然違う。
FABULOUS PERFUMEのファンには受けは悪いかもと思っていたが、そんな事は無かったようだな。
フッ、ナギの……茅野の言った通りだな。
『了解した。ならば俺達evokeがゲストバンドのトップバッターを任せてもらおう』
『うん、よろしくね豊永くん』
『FABULOUS PERFUMEのライブの雰囲気を壊さないようにセトリも考えてやらせてもらう』
『それはダメ!』
『ダメ……?何故だ?俺達の曲調とFABULOUS PERFUMEの曲調は違うだろう?なら、俺達の曲の中からそれなりに近い雰囲気の曲を選んだ方が……』
『豊永くん達evokeがその曲をやりたいと思ってやるなら大歓迎だよ?でも、
『いや、しかしファンの多くはFABULOUS PERFUMEの曲を聴きに来るようなものだろう?』
『うん、そうだね。追加販売したとはいえ、大半のお客様はFABULOUS PERFUMEのファンだと思う。だからこそ、私達に合わせるのは良くないよ』
『意味がわからないな。どういう事だ?』
『豊永くんが、evokeがその日その時にオーディエンスに届けたいと思う曲じゃないと意味は無いよ。evokeのファンの人もきっといるし、私達のファンの中からevokeの曲を好きになってくれる人もいるかも知れない』
『!?………確かに茅野の言う通りだが』
『evokeがFABULOUS PERFUMEのライブに合わせた曲というコンセプトで、やりたいと思ってやるのは全然構わないよ?
自分で言うのもちょっと偉そうな気もするけど、せっかく大勢のオーディエンスのいる大きなステージでevokeの曲を伝えるチャンス。evokeのやりたい曲をやらなきゃ』
『そうだな……。すまない』
『わわっ!私こそごめんなさい。偉そうな事言って。だから謝る必要は…』
『いや。茅野の言う通りだ。俺は俺達の伝えたい曲をやる。FABULOUS PERFUMEのファンをevokeのファンにかっさらう気持ちでな』
『うん。私達もevokeのファンのお客様にFABULOUS PERFUMEのファンになってもらうつもりでやるからね』
『フッ、望む所だ。それにアレだな。
俺達もFABULOUS PERFUMEに合わせたセトリにしてしまうと、Canoro FeliceとAiles Flammeも大変だしな。あいつらは曲が少ないし、コンセプトを合わせる事は出来んしな』
『あ、本当だ。それもそうだね。あはははは』
俺達が今やりたいと思った曲。
FABULOUS PERFUMEとAiles FlammeとCanoro Feliceとのライブを盛り上げる為、そしてFABULOUS PERFUMEのファンの為に組んだセットリスト。
これが今日の最高のevokeだ。
「では続けて聴いて下さい。『
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「ナギ、痛み止めは?」
「うん、さっき飲んだよ」
「ナギ……大丈夫?ボク…」
「あ~、イオリ泣くな。ナギは大丈夫だ」
ライブ前にも痛み止めは飲んでたのに…。何で……ライブ中に…!!
「茅野……悪い。俺がちゃんとお前の事を守ってやってれば…」
冬馬…。違う。冬馬のせいじゃない。
「冬馬…オレは大丈夫だ。それにアレはオレの不注意のせいだからな」
「お母さんを連れてきた!」
「双葉ちゃん、大丈夫?」
初音ちゃん?三咲さんを?え?何で?
「とりあえず脱いで」
は?………脱げ?
「み、三咲さん!ダメですよ!と、冬馬が居るのに脱げだなんて……そ、その恥ずかしいじゃん!!」
と、冬馬の前で脱がされるとか……その……無理無理無理無理!!
「いや、ブーツの話なんだけどね?松岡くんが居なかったら脱いでたの?」
え?ブーツ?
「お母さんは昔色々格闘技やってたし、応急措置くらいならと思って…」
「応急措置とは言っても冷却スプレーしてテーピングするくらいしか出来ないけどね」
テーピング……それだけでも…。
「三咲さん!お願いします!」
私はブーツを脱いで足を三咲さんに見てもらった。
「あ~…少し腫れちゃってるね。本当なら今日のライブはもう出ない方がいいと思うんだけど……」
そんな……もしかして悪化しちゃってる…?
「これくらいなら冷やしてテーピングしてたら大丈夫かな。一応明日の朝には病院に行ってね」
「本当ですか?良かった…」
「三咲さん……双葉治る?」
「栞ちゃん大丈夫だよ。ちゃんと固定せずにブーツを履いて動き回ったから、少し腫れて痛みが出てきたんだと思う」
「三咲さんすみません…ご迷惑おかけします…」
「弘美ちゃん。迷惑とかないから気にしないで。私もこうやって役に立てたなら良かったよ。はい、お仕舞い。ブーツはまだ履かないで次の出番までは安静にしててね」
「ありがとう三咲さん。うん、ほとんど痛みは感じなくなったよ」
良かった…。まだ私はステージに立てる。
ステージの様子も気になるけど、出番までは安静にしておこう。
「じゃあ私はまた戻るから、初音はここに居て何かあったら双葉ちゃんをお願いね」
「うん、わかった。私じゃ無理そうならすぐ連絡する」
そう言って三咲さんは戻って行った。
三咲さんもすごく忙しいだろうに…本当にごめんなさい。そして、ありがとうございます。
「双葉、私もステージ袖に戻る。弘美と栞は双葉に付いててやってくれ」
「ああ、わかった。そろそろevokeの出番も終わるだろうし、Ailes Flammeの事頼むな」
「あ、ボク……ちょっと…」
栞………?あ、そっか。
「栞も沙織と行っておいで。私は弘美と初音ちゃんが居てくれるから大丈夫。シフォンちゃんに頑張れって言っておいで」
「べ、別にゆーちゃんは関係ないし!Ailes Flammeは一応同級生だからってだけなの!」
「クス、じゃあ栞行こうか。Ailes Flammeもそろそろ準備しているだろうしね」
「い、行って来るけど、双葉も安静にだよ!弘美も初音ちゃんも双葉をよろしくね!」
そう言って沙織と栞は戻って行った。
Ailes Flammeの演奏か…。頑張れ内山くん!
「じゃ、じゃあ俺もCanoro Feliceの準備があるし戻るけど、ナギ安静にしてろよ」
「うん。約束する。心配して来てくれてありがとうね冬馬」
「いや、それはいいんだけど、みんなFABULOUS PERFUMEから中の人に戻ってたけど良かったのか……?」
----------------------
ボクの名前は井上 遊太。
いや、今はAiles Flammeのシフォン。
これから僕…ボク達のライブが始まる。
ゲスト参加だけど。
「渉、拓実、シフォン。やるぞ、オレ達のライブだ。ゲスト参加だけど」
「うん、ゲストに呼んでくれたFABULOUS PERFUMEの為に僕達で会場を熱くしよう」
「うん、だけどシフォン…無理はしないでね。
別に怪我してるとかないのに無理はしないでって何なの?」
「会場のみんなに届けようぜ。俺達の歌を……」
「「「「Ailes Flammeいくぜ!!」」」」
ボク達は気合いを入れ、ステージへと向かった。
「いや、みんな何やってるの?ステージへと向かったじゃないよ。まだevokeの3曲目やってるし」
「もしかして今のは私達の真似なのかな?」
「ほら、渉……シグレさんもイオリさんも呆れちゃってるじゃん…」
「いや、だってFABULOUS PERFUMEのねーちゃん?にーちゃん?達みんなかっこ良かったしよ」
だからって真似する必要はないでしょ。
色々無理あり過ぎるし、ボクなんてモノローグまでやらされたし…。
「渉…確かに良かったがオリジナリティーが無かったな。オレ達らしくもう1回やり直そうぜ」
「まぁAiles Flammeはあまり緊張していないという事なのかもね」
いやいやいや、めちゃ緊張してますよ。
ボクなんて手汗びっしょりだし、スティックを落とさないように気を付けなきゃ…。
「あ、evokeの曲終わったよ。そろそろだねAiles Flamme」
よ~し…!頑張るぞぉ~!
「よし!行くか!拓実、シフォン!」
ボク達は渉くん以外の楽器隊がステージに上り、それぞれ担当楽器のメンバーとバトンタッチをする。
そして楽器の準備を始めて、渉くんがステージに登場し、奏さんからマイクを受け取る。それからボク達の演奏が始まる。
「ゆ、ゆーちゃん!」
ふぇ?ゆーちゃんって……。
「ボク今はシフォンなんだけど?」
「が、頑張って…!///」
イオリちゃん……?
「うん!頑張ってくる!見ててね!!」
『栞ちゃん』って続けて言おうと思ったけど、止めておいた。だって今は栞ちゃんはイオリちゃんだもんね。頑張って来るよ。FABULOUS PERFUMEからevokeに託されたバトンを、Canoro Feliceに届ける為にもね。
ボク達はステージに上がって、各々担当楽器のメンバーの元へと行った。
-パァン
「確かに繋げたぜ?俺達のバトン」
「はい。必ずオレ達もCanoro Feliceに繋げます」
-パァン
「俺は精一杯叩いた。次はお前がこの会場を飲み込んでやれ」
「うん!ボクのリズムでもっともっと盛り上げてみせるよ!」
-パァン
「FABULOUS PERFUMEのナギはすごく頑張ってた。俺……僕達はあの子と同じベーシストだ。あの子に負けないような演奏を見せてね」
「はい。僕の今の精一杯を楽しんでやりきってみせます」
よし、ボク達は急いで楽器の準備を…。
そろそろ渉くんが出てくる。
……………よし!ボクは準備オッケーだ。
そして奏さんがステージ袖の方へ歩いて行き、渉くんが奏さんからマイクを受け取った。
「江口。interludeとのデュエルで聴かせてもらった歌声を期待しているぞ」
「奏さん。ちゃんと聴いててくれよ。あの日よりもっとすごいぞ今日の俺は」
「ほう……」
「俺達はAiles Flammeだからな」
そして渉くんがステージの中央に立った。
…………けど、そのまま歩いて行った。え!?何で!?
渉くんがステージの中央に立ってボク達の演奏開始だよ!?
渉くんは拓実くんの所まで歩いて行き、拳を拓実くんに突き出した。
「渉…?」
「ん!」
拓実は一瞬戸惑っていたけど、渉くんの突き出した拳に拳を合わせた。
〈〈〈ワァー!〉〉〉
そのまま無言でボクの方まで歩いて来て、今度はボクに拳を突き出してきた。
もう……そんなの聞いてなかったよ?
ボクは渉くんの拳に拳を合わせた。
〈〈〈キャー!〉〉〉
次に亮くんの所に行って亮くんと拳を突き合わせ、ステージの中央に今度こそ立った。
「………『Challenger』!!」
♪~
♪♪~
♪♪♪~
〈〈〈ワァー!キャー!!〉〉〉
やった!大成功だ!!
ボク達の演奏は大成功し、オーディエンスを盛り上げる事が出来た。
「Ailes Flammeだって知ってた?」「全然聞いた事もないけどすごくかっこ良かった!」「あのギターの人かっこいいー!」
「みんな!聴いてくれてありがとう!!俺達がAiles Flammeです!」
〈〈〈ワァー!キャー!〉〉〉
「俺達の事知ってる人ー!手を挙げてー!」
え!?渉くん!?そんな事聞くの!?
てか、これ昔のたか兄のMCのパクりじゃん!?
「お!全然居ないと思ってたけど、何人かは居てくれてるんだな!ありがとう!」
本当だ。チラホラ手を挙げてくれてる人がいる。
「でも知らない人の方が一杯だな!じゃあメンバー紹介するから、しっかり聞いて覚えていってくれ!忘れちまったら次に来てくれたら、また教えるけどな!」
あ、ここら辺はたか兄とは違うね。そっか、たか兄の昔のライブDVDとか観てMCも勉強したんだね。
「じゃあまずは…!誰から紹介しようかな?」
「クスクス」「えー?決めて来てないのー?」「名前教えてー」
「よし!じゃあさっき俺が拳を合わせた順に紹介していくな!まず、夢はパティシエベーシストの拓実だ!」
え!?渉くんが名前まで言っちゃうの!?
「え!?いきなり僕から!?え、えっと、Ailes Flammeのベーシストの拓実です!よろしくお願いします!夢は紹介されたようにパティシエベーシストです。あはは」
「パティシエベーシストだって」「あ、あの子ケーキ屋の子じゃない?」「私も見た事ある!」「夢に向かって頑張ってー!」
「みんな!Ailes Flammeのベーシストの拓実だ!覚えていってくれよな!
次はAiles Flammeの紅一点!ドラムのシフォンだぁぁぁ!!」
Ailes Flammeの紅一点……か。
「ボクがAiles Flammeのドラマーのシフォンです!あははは、紅一点って言ってもボク実は男の娘なんだけどねっ!」
言っちゃった……言ってしまった。
でも後悔はしてない。これがボクなんだから。
「男の娘だって」「全然わかんないよね。てか、あたしより可愛いし」「すっごく可愛いー!」「シフォンちゃーん!」
みんな……良かった。すごく嬉しい。みんな受け入れてくれるんだ…。
あれ?亮くんは何で耳を塞いでるんだろう?
「あはははは。シフォンって本当に可愛いよな!そしてAiles Flammeの定食屋亮だ!」
「いや、お前定食屋って何だよ。オレを紹介するならギタリストだろ」
「定食屋って…」「クスクス」「ねー?定食屋なのー?」「かっこいいー!」「ギター弾いてー!」
「えっと、紹介にあずかりました実家が定食屋のギタリスト亮です。蕎麦が好きです」
そう言って亮くんはギターの演奏をした。蕎麦が好きって事も自分で言っちゃうんだ。
「リクエストが聞こえたので、少し演奏させてもらいました。よろしくお願いします」
そして亮くんはピックを客席に向かって投げた。本当に亮くんってかっこいいよね!
-ゾクッ
え?何だろ?亮くんの事かっこいいと思ったら一瞬寒気がしちゃった。
「さあ、みんなの紹介も終わった所で、俺達の2曲目を聴いて下さい。次の曲は…」
「おい、お前自分の事は紹介しないのかよ?」
「え?」
「クスクス」「ねー!ボーカルくんのお名前はー?」「教えてー!」「もしかして自分の紹介忘れてたの?クスクス」
「わ、悪い。緊張しすぎて自分の紹介忘れてた。俺はAiles Flammeのボーカル、渉だ!わ・た・る!みんな覚えてくれたかな?じゃあみんなで一緒に!」
え?渉くん……もしかしてコレがやりたくての演出だったとか?
「俺がボーカルの!」
〈〈〈わたるー!!〉〉〉
「ありがとう!!じゃあいくぜ!『雨上がりのピクニック』!!」
♪~
♪♪~
♪♪♪~
----------------------
「江口のやつ……歌も凄いが相変わらずMCも上手いな」
「生真面目のテメェにゃ出来ねぇMCだな」
「俺がアレをやってうけると思うか?」
「夢に見ちゃいそうだからやめて…あ、逆に寝れなくなっていいかなぁ?」
「えぐっちゃんならではって感じのMCだよね」
「私達Canoro FeliceのMCも負けてませんわ。春くんならもっと会場を沸かせてくれますわ」
「ごめん姫咲。無茶振りは止めてくれないかな」
----------------------
「ハァ…ハァ…『雨上がりのピクニック』でした。こういうポップな感じの歌も俺達の持ち味です。楽しんでくれましたかー?」
〈〈〈楽しかったー!〉〉〉
渉くん凄いなぁ。歌もどんどん上手くなってるし、パフォーマンスもステージいっぱい使ってやってる。
MCも本当に上手いし、まるでデビュー仕立てって感じさせない。
「じゃあ次で俺達の曲はラストです!
みんなで盛り上がって暴れて下さい!『SUMMER DAYS』!」
よし!ボク達Ailes Flammeの最後の曲だ!後でもっと頑張れば良かったって思わないように、思いっきり叩いちゃうよ!
----------------------
私の名前は秋月 姫咲。
私達Canoro Feliceはステージ袖で待機していた。
「そろそろ俺達の出番だ。俺達のキラキラをオーディエンスに届けよう」
「うん!今日は架純も来てくれてるみたいだし、私も楽しんで演奏するよ!」
そう言えば関係ありませんけど、結衣ってBlue Tearのメンバーはあだ名呼びじゃなくて名前呼びなのですね。
「俺も茅野が……FABULOUS PERFUMEがガッカリしないように、精一杯演奏する。もちろんオーディエンスに楽しんでもらう為にもな」
「私もFABULOUS PERFUMEの皆さんが、私達に任せて良かったと思って頂くように、私にこのベースを託してくれた澄香さんの為にも、最高に楽しい演奏をオーディエンスに届けてみせますわ」
今日は澄香さんもドリンク出しのお手伝いをしてくれています。
私達の出番の時には演奏を聴きに来てくれるとの事でした。無様な演奏を見せる訳にはいきませんわ。
「ありがとうー!Ailes Flammeでしたー!」
あ、Ailes Flammeの出番が終わったようですわね。この後、Ailes Flammeは拓斗さんのLazy Windと9月に出演するライブの告知をして退場してくる。
Ailes Flammeが退場した後、松岡くんだけがステージに上り、ドラムを叩いて会場を盛り上げる。
そして私達がステージに上り、春くんが挨拶とメンバー紹介をして演奏が始まる。
口下手な松岡くんにこんな大役が出来るとは思えませんが……信じますわよ。
「楽しかったぁぁ!精一杯暴れ回ったけど、まだ暴れ足りねぇぜ!」
「だよね!僕も楽しかった!」
「ボクもボクも!まだまだ叩きたい!」
Ailes Flammeの皆さんが戻って来たようですわね。
「じゃあ俺も行ってくる」
「まっちゃん!頑張ってね!」
「冬馬、任せたよ」
「松岡くん、頼みましたわよ」
「松岡、茅野先輩の事はオレ達の責任。
そんな事思う必要はねぇからな。思いっきり楽しんで来い」
「秦野。観てろよ。俺のCanoro Feliceの演奏を」
「ああ、楽しみにしてる」
松岡くんはステージに上り、ドラムの準備を始めた。何も喋らず一人黙々と……。
やはり松岡くんでは難しかったでしょうか…。
-ドンドンドンドン
松岡くんは無言のままドラムの演奏を始めた。このままではオーディエンスも困惑してしまいますわね。私達もすぐに…。
「待って姫咲。冬馬を信じて」
「ですが……」
「姫咲。まっちゃんなら大丈夫だよ」
わかりましたわ。もう少し様子を見ていましょう。
私がそう思った時でした。
「さぁ!みんな俺のドラムのリズムに合わせて手拍子!……を、お願いします///」
最後は照れが入ったみたいですけど、松岡くんは立ち上り、身体を使ってダイナミックに、ですが、オーディエンスがリズムを取りやすいように優しい音でドラムを叩き続けた。
「よーし!じゃあ次はもう少しリズムを変えて叩くけど、みんなついてきて……くれたら嬉しいっす///」
-ドドドンドドドンドドドン
最後は締まりませんでしたが、松岡くんのリズムに合わせて、オーディエンスが手拍子し、会場がひとつになっている。
「よし!じゃあスピードアップ!」
-ドドドドドドドドドド
「さっすが!みんなついてきてくれてありがとう!………ございます///」
やはり照れますのね。
「さぁ!Canoro Feliceのメンバーの登場だ!みんな手拍子を……続けて///」
松岡くんの台詞の後、私達はステージに上がって各々の定位置に着いた。
〈〈〈キャー!ワァー!〉〉〉
「春く~ん!」「ユイユイー!」「姫咲さまぁぁぁぁ!ブヒィィィ!」「松岡くんかっこいいー!」
みんな先日に一度FABULOUS PERFUMEのライブにゲスト参加をしただけの私達を覚えててくれてますのね。
何か私の名前を呼ばれた時は少し異色な感じがしましたが…。
「みんなー!こんばんはー!」
春くんの挨拶が始まる。松岡くんもホッとした顔をしていますわね。とても盛り上がった登場シーンでしたわ。ありがとう、松岡くん。
「早速だけどメンバー紹介行くよ!俺がボーカルの春太です!」
そう言って春くんは軽くダンスをし、ステージ中央でターンをしてポーズを決めた。
「春くんかっこいい!」「春くん手を振ってー!」「春太くん最高!!」
「そして!ギターの結衣!」
結衣は無言で松岡くんのリズムに合わせてギターを弾き、笑顔で右手を高々と挙げた。
「結衣ちゃーん!」「可愛いー!」「ユイユイー!」
「ベースの姫咲!」
私は春くんの紹介と共にベースを弾き始める。松岡くんのリズムに合わせて…。
双葉、澄香さん、オーディエンスの皆さん!見て下さいね。私の楽しいキラキラした演奏を!!
『一緒に踊ろう』
え?何ですの?
私はベースの演奏を終了し、黙って深々と頭を下げた。
「姫咲ちゃーん!」「姫咲さまぁぁぁぁ!」「罵って下さいぃぃぃ!ブヒィィィ!」
『一緒に踊ろう』確かに聞こえた気がしたのですけど、オーディエンスのどなたかが言ってくれたのですかね?
ですが、罵って下さいって何なんでしょう?私先日のゲスト参加の時も、大人しくしていたはずですが…。
「そしてドラムの冬馬!」
松岡くんはドラムの演奏を止め、両手を挙げた。
「松岡くーん!かっこいい!」「抱いてー!」「まっちぁぁぁぁん!」「とうちゃーん!」
まっちゃん!?とうちゃん!?
松岡くんが再び座り、ドラムでリズムを取る。そこに結衣と私が合わせて曲が始まる。まずは……。
「行くよ!『idol road』!」
♪~
♪♪~
♪♪♪~
----------------------
「よし!大丈夫。痛みもない。ありがとうね初音ちゃん」
「うん、無理はしないでね。頑張って」
オレはブーツを履き、チヒロと共にステージ袖へと向かった。
「驚いた。一瀬くんのダンスも歌声もすごく上達している」
「うん、一瀬 春太だけじゃない。松岡 冬馬もユイユイも姫咲も、こないだと全然違う。すごく上手くなってる」
「本当だ。みんないつの間にこんなに…」
「あ!ふた……ナギ!」
「ナギ、足の痛みはどうだ?」
「うん、大丈夫。もう無理はしない」
「当たり前だ。次の出番の時は最低限のパフォーマンスにしとけ」
最低限のパフォーマンスか。
しょうがないね。思いっきり暴れたかったけど、もうオーディエンスのみんなにもシグレ達にも心配掛けるわけにはいかないし。
「大丈夫。約束する。だから、シグレ、チヒロ、イオリ、ひとつだけお願いがあるんだけど……」
----------------------
「次で俺達Canoro Feliceの曲はラストです。これからやる新曲はみんなで踊れるように簡単な振付を考えて来ました。
出来ればみんなでやりたいので、覚えて下さいね。まずサビの部分でキラッキラッキラッって所があるので……」
春くんがオーディエンスに新曲の振付を教えてみんなで練習している。
これが私達の最後の曲。
私達とオーディエンスがひとつになって、みんなで演奏する曲。
最後まで全力で輝いてみせますわ。
「よし!練習もバッチリだね。じゃあ行くよ!『
♪~
♪♪~
♪♪♪~
私達の3曲目が終了し、私達一人一人が挨拶をしてステージ袖へハケる。
私達がステージを降りた後はライトが消され、FABULOUS PERFUMEの2度目の出番となる。
「春太、冬馬、結衣、姫咲。すごく良かった。本当にありがとう」
「次は私達に任せてくれ。最高のラストを飾ってくる」
「Canoro Felice。ありがとうな」
「一瀬 春太!松岡 冬馬!耳と目をかっぽじってよく観てろよ!ユイユイと姫咲も応援よろしくね!」
そしてFABULOUS PERFUMEがステージへと上がって行った。
FABULOUS PERFUMEの全員がステージへ上がった後、ライトアップされて演奏が始まる。
-パッ
あら?
ステージ中央にだけスポットでライトアップされ、その中央にはナギ様がイスに座っている。
「みんな、今日は来てくれてありがとう。それなのにオレの不注意で怪我をしてしまって…本当にすまない」
オーディエンスは黙ってナギ様の言葉を聞いている。
「でも、今日、Canoro FeliceやAiles Flammeやevokeがゲストとして、演奏をしてくれて。みんなすごくかっこいい曲で。オレはすごく幸せな1日になったと思っている」
ナギ……双葉。それは私達もですわ。
きっとオーディエンスもみんな…。
「これからオレが歌うのは、そんなみんなへの気持ちを込めた曲です。聴いて下さい。『
双葉が歌を……!?
双葉はアコースティックギターを持ち、優しい歌声で歌い出した。
「か、茅野ってベースだけじゃなくて、ギターも出来たのか…?」
「松岡は知らなかったのか?」
秦野くん?いえ、秦野くんだけじゃありませんわ。evokeとAiles Flammeのみんながこの場に。
「茅野先輩は学校の軽音部ではギターをやってるからね。ドラムも叩けるし一通りの楽器は出来るよ」
そうなのですね。双葉…。
「いい曲だな」
「うん。本当に心地好い曲。せっかく寝るの我慢してるのに、ゆっくり眠れそう」
「茅野先輩の想いが伝わってくるような曲だね」
「ああ、きっとオーディエンスにも伝わってるな」
あなたのこの歌に込めた想い。
確かに私達にも届いてますわ。
♪~
♪♪~
♪♪♪~
ナギ様のソロ曲の後、FABULOUS PERFUMEは予定通り2曲演奏し、私達のライブは終了した。
私達は控え室で少し休憩しながら、本当に最高に幸せな1日になったと、充実感と達成感で溢れ返っていた。
「さて、お客様がみんな帰っちゃう前にお見送りに行こうか」
「そうだな。今日は奈緒ねーちゃんとまどかねーちゃんも来てくれてるし」
「盛夏ちゃんと香菜姉は腕の事があるから今日は病院みたいだけど、志保と渚さんと理奈さんも来てくれてるしね」
盛夏さんと香菜さんは病院?腕の事って何か怪我でもされたのでしょうか?
「そういやgamutの………今はGlitter Melodyか。あの4人も来てくれてるらしいな」
「拓斗さんはお仕事らしいけど、観月さんや、御堂さん、三浦さんも来てくれてるらしいよ」
「うん、架純からも今日来てくれるって連絡あったし!楽しんでくれてたらいいけどなぁ」
「綾乃姉達も来てくれてるらしいよ。東山先生も……。さすがに僕の事をみんなの前で小松とは呼ばないと思うけど……」
栞ちゃんのイオリ様キープ時間がどんどん短くなっていってる気がしますわ。
「紗智ちゃんも来てくれてるみたいだしねぇ。みんなでお見送りに行こうか。俺の眠気もそろそろヤバいし……」
私達は今日来てくれたオーディエンスをお見送りする為にフロアに向かった。
私達の1日は最高の終わりを迎えると思っていた。
そう……この時までは……。