「うわぁ~。すっげぇ人だなぁ」
俺の名前は江口 渉。
FABULOUS PERFUMEのライブのゲスト参加を終え、来てくれたお客様にお礼を言う為にフロアに降りて来ていた。
「あ、あの…!Ailes Flammeの渉さんですか?」
「ああ、そうだぜ。俺の名前覚えてくれたんだな!ありがとう!!」
「はい!Ailes Flammeすごくかっこ良かったです!握手して頂けますか?」
「もちろん!これからもよろしくな!」
「は、はい!」
俺は俺の名前を覚えてくれていた女の子とガッチリ握手をした。
その子は『ありがとうございます!これからも応援してます!』と言って走って行ってしまった。
ファン?かどうかはわかんないけど、こうやって応援してくれる人と触れ合えるのって嬉しいよな。それに女の子の手に触れるとか小学生の頃以来だぜ。柔らかかったなぁ。女の子の手。
「女の子と握手してデレデレしちゃって。志保ちゃんにまたバカにされちゃうよ?」
「ん?」
声のした方に目をやるとそこには同級生の河野 紗智が居た。
「おっす!久しぶりだなさっち!」
「私、いつから江口くんにさっちって呼ばれるようになったの?お兄ちゃんに見つからないように、秦野くん探してたんだけど…」
「あ~…こんだけ人多いとな。俺もはぐれちまったし」
そう。人が多いからはぐれただけだ。
決して迷子になったわけじゃない。
「江口 渉?」
「ん?あ、確か明日香だっけ?」
声がした方に目を向けるとLazy Windの観月 明日香が居た。何で1人なんだ?迷子か?
「何で名前呼びで呼び捨て?」
そういや拓実が拓斗にーちゃんのバンドメンバーも来てるって言ってたっけ?
「そういや明日香って夏休み明けたら俺達の学校に通うんだってな!よろしくな!」
拓斗にーちゃんにも仲良くしてやってくれって言われてるしな。
「え?そうなの?明日香ちゃんだっけ?何年生?」
「マジで?江口 渉達と同じ学校なの?私は2年だけど、あんまりよろしくする気ないから」
明日香も2年だったのか。
じゃあ同じクラスになるかもな?
あ、これってフラグ?
「へぇ。じゃあ同じクラスになれるかも知れないね。私は河野 紗智。よろしくね」
「いや、よろしくする気ないって言ったよね?私は……観月 明日香」
いや、よろしくする気ないのに名乗るのな。ツンデレキャラか?
「よろしくしようよぉ~」
「てか、紗智とか言ったっけ?何なの?何でこんな馴れ馴れしいの?この子渉の彼女?」
「いや、その勘違いはマジで止めて」
おお、明日香からいつの間にか渉って呼ばれるようになっちまったな。
けどな、さっち。そんな低いトーンで否定されると、さすがの俺も胸がチクチクしちゃうぞ?
「Ailes Flammeの江口。女の子に囲まれてええのぅ」
あ?その声……。
そこにはinterludeの白石 虎次郎が立っていた。
「お前らの演奏。見せてもろたで」
何でここに……ファントムにクリムゾンの白石 虎次郎が…?
「なんや?ワイに会ったのに挨拶も無しかいな?んで、その子らはお前の彼女か?」
「「いや、マジで止めて」」
どうする…?正直ここで虎次郎に会ったって事より、さっちと明日香にあんな低いトーンで否定された事の方がショックだぜ……。胸がズキンズキンする。
「お前、生きてたんだな。あの爆発に巻き込まれて吹っ飛んだと思ってたぜ」
「あんな爆発でワイがやられる訳ないやろ」
まぁ、本当は奏さん達に聞いて無事だってのはわかってたけどな。
あ、爆発……?まさかここも…?
こいつらファントムを……?
「江口くん、爆発ってまさかこないだの南国DEギグの事…?」
さっちも知ってるのか?鳴海さんに聞いてたのか?
「こいつ見た事ある。interludeのボーカルだね」
「なんや。お嬢ちゃんはワイの事知ってるんか?………ん?お前どこかで」
まずいな。にーちゃん達に連絡した方がいいか?もしこんな所で爆発なんか起こされたら…。
俺がそんな事を考えていると、虎次郎は明日香の胸倉を掴んだ。
「痛っ!ちょっと何すんのよ!」
「ワレ……Lazy Windの観月 明日香やな?クリムゾンのブラックリストに載っとった。間違いあらへん………って痛っ!」
俺は虎次郎の腕を思いっきり掴んでいた。いくら何でも女の子の胸倉を掴むとか何考えてんだこいつ。
「江口……離せや」
「虎次郎。お前こそその手を離せよ」
「チッ」
虎次郎は舌打ちして明日香から手を離した。
「渉……助かった。ありがとう」
「え、江口くんがかっこいい…!」
お?マジか?もしかして惚れられたか?
「「いや、ないよ?」」
何で心が読まれてるんだ?泣きそうになってきた。
「観月 明日香。確かお前らのバンドに三浦 聡美がおるやろ?あいつにバンドを辞めさせろ」
「は?あんた何言って……」
聡美ねーちゃんにバンドを辞めさせろ?
虎次郎の奴何言ってんだ?
「あー!おったおった!明日香ー!」
「え?聡美?」
「チッ、まぁええ。面倒な事になる前にワイは行くわ。ここで騒ぎ起こすわけにもいかんしの」
そう言って虎次郎はこの場を去ろうとしたけど、まだここに居た目的を聞いてねぇ。逃がす訳にはいかねぇな。
俺は虎次郎の肩を掴んだ。
「待てよ。虎次郎お前何でここに…」
「チッ、離せや江口。ワイは観月から手を離したやろ?安心せい。ただお前らAiles Flammeの演奏を観に来ただけや。
九頭竜の奴はあの爆発事件の事を、海原さんにえらく怒られたらしいからな。しばらくあんな事は起こらへん」
そういやあの爆発事件は九頭竜って奴がやったって話だっけか?海原に怒られたからしばらくあんな事は起こらない?本当かよ?
「早よ離せや!聡美がこっち来るやろ!」
ん?聡美ねーちゃん?
「こ、虎次郎……?何でここに…?」
「チッ、見つかってもうたか…」
この2人知り合いなのか?
そういや2人共関西弁だしな。
「虎次郎…」
「聡美……」
「え?聡美?何なの?まさか2人は知り合い?昔付き合ってたとか?」
「「そんなんちゃう!」」
「江口くん。この人達って…?」
「あ?ああ、この虎次郎って奴は話の流れからわかってると思うけど、クリムゾンのミュージシャンだ。そんでそっちのねーちゃんが、俺達の仲間の聡美ねーちゃんだ」
「なるほど!すごくよくわかったよ!」
マジでか?今のでよくわかったの?
「つまり、そこの虎次郎って人が聡美さんって人と同じバンドをやっていたけど、ある日クリムゾンのミュージシャンにデュエルを挑まれた。そして、クリムゾンに負けたせいで、虎次郎って人がクリムゾンに引き抜かれてしまった。その事に恨みを持って聡美さんはクリムゾングループと戦ってたって事だね!でも、虎次郎って人は聡美さんがクリムゾングループと戦うのは嫌だから、明日香ちゃんに聡美さんにバンドを辞めさせるように言ったんだね!」
何でさっきの俺の説明でそこまでわかるんだ?何なのこの子。
「その通りや。聡美、そこの嬢ちゃんの言う通りや。クリムゾンに楯突いても無駄や。バンドを辞めて大人しゅうしとけ」
「虎次郎、クリムゾンなんか辞めてうちらの所に帰ってきてや!」
しかも合ってるの!?さっち何者なの!?
「それは無理や。ワイはクリムゾンを辞める気はあらへん」
「だったらうちも無理や。虎次郎が帰って来れるように……クリムゾンを潰す」
「やれるもんならやってみ……。ワイの前に立ち塞がるならお前でも容赦せぇへんぞ?」
「「私達も容赦しないから!」」
え!?何で明日香とさっちが言うんだ!?
「明日香とその子の言う通りや。………って誰やのその子!?」
「興が削がれた。ワイは帰るわ。江口、今日の演奏程度じゃワイらは倒されへんぞ!精々気張るんやな!」
「「おととい来やがれ!」」
だから何で明日香とさっちが言うの?
おととい来やがれって二度と来るなって意味だからな?デュエルで決着を……って話だから二度と来なかったら決着つかないしな?
そして、明日香とさっちは硬く握手をしていた。ああ、なんか渚ねーちゃん達に振り回されてるにーちゃんの気持ちがわかるわ……。
「で?結局明日香とおるあの子は誰なん?」
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俺の名前は折原 結弦。
チッ、奏も響も鳴海もどこに行きやがった。俺がファンサなんか出来るわけねぇだろうが…。
このまま控え室に戻るか…。
俺がそう思った時だった。
「ちょっと…マジで止めてくれない?」
「これは運命デス。結婚しましょう。もしくは、婚儀を行ないましょう」
「あの…どっちも同じ意味だと思うのですが?」
「アナタも大変お美しい。良ければ名前を書いて頂けませんか?ちょうど婚姻届を持って来てマス」
「は?あ、あの…」
「相手しなくていいよ」
チッ、こんな所でナンパかよカスが。
あんま関わり合いたくねぇが…FABULOUS PERFUMEのファンの女が、evokeのファンの奴にナンパされてんとかだったら目覚めが悪いしな……。
しゃあねぇ……助けてやるか。
「おい、テメェ、こんな所でナンパとはいい度胸だな」
俺がナンパ野郎に声を掛けた時だった。
「お、折原くん?」
「あ、折原くんこんばんは~」
Blaze Futureの柚木 まどかと、え………っと、バンド名は何だっけか?取り合えず北条 綾乃だな。
まさか、ナンパされてん奴が知り合いだったとはな…。
「ノーノー!これはナンパではありません。運命の出逢いなのデス」
こいつ何を言ってやがんだ?
「Oh!アナタはevokeの結弦デスね!
ワタシの求愛の儀の邪魔をするとはイイ度胸デスね!」
こいつ…よく見たらinterludeのギターの……。
「テメェ、クリムゾンのミュージシャンが何でこんな所に居やがる」
「おかしな質問をする男デスね。ここにワタシのハニーまどかが居るからに決まってマス」
あ?ハニーだぁ?
「誰があんたのハニーなのよ。それより何でクリムゾンがファントムに居るわけ?」
「その質問には結婚してくれたらベッドの上で教えマス。さぁ、まどか結婚しましょう」
「ねぇ、まどか?この人イライラするんだけど?」
「あたしもさっきからイライラMAXだよ。MAX通り越してマックスハートだよ」
あ?プリキュアかよ。
「おい柚木。一応確認の為だが、お前はこいつのハニーじゃねぇよな?」
「あったり前でしょ!」
なら、助けてやっか。クリムゾンのこいつが何でこんな所に居やがるのかも気になるしな。
「おい、テメェ……確か青木 リュートとか言ったよな?ここでテメェが何してやがるんだ?あ?」
「evokeの結弦。まだこんな所に居るのデスか?さっさと帰って、その下手くそなギターの練習をする事をオススメしマス」
あ?下手くそなギターだと?
「面白れぇ。テメェ俺に喧嘩売ってんだな?」
「何故デスか?」
チッ、マジでムカつくなこの野郎。
ムカつき過ぎてイライラがマックスハートだぜ。
しかし、こいつの狙いがわからねぇ。
今は揉め事を起こすわけにはいかねぇか…。どうすっか……。
「折原くん」
ん?北条?
「何だ?」
「今から私と折原くんでこの人にデュエル挑んじゃおっか?私達2人掛りでやればギター1人だし勝てるんじゃない?」
あ?こいつ正気か?狙いもわかんねぇし、仲間が居るかも知れねぇってのに…。
「Oh!美しいお嬢さんそれは後生デース!ここで揉め事を起こしてしまえば怒られるだけじゃ済みません!」
「やっぱりね…(ボソッ」
マジかこいつ。こうなる事を予想してあんな事言いやがったのか?こないだの爆発事件、こいつも会場に居たってのに。
「でも、クリムゾンのミュージシャンはデュエルを申し込まれたら受けない訳にはいかないよね?」
「確かにその通りデス……ですから、デュエルは勘弁して下さい。わかりました。アナタをワタシの第二婦人にしてあげマス」
「うわぁ♪殴りた~い♪……いいかな?」
「綾乃!ダメ!暴力はストップ!」
なるほどな。こいつはこの方法で追っ払うのがいいか……。
「デスガ、ワタシは貴女方3人で挑んで来ても負けませんケドネ」
何だとこの野郎…。
「綾乃、さっきは止めてごめん。あたしもめちゃ殴りたいわ。やっちゃおうか?」
「取り合えず裏行く?」
こいつらが熱くなってくれてて良かったな。おかげで俺が冷静でいられるぜ。
「柚木、北条ちょっと待てよ。
おい、青木 リュート。俺ら3人相手でも勝てんだよな?だったら今から正式にデュエルを申し込むぜ?いいんだな?」
「それは……本当に困りマス……海原サン怒ると怖いデス…」
海原?クリムゾンエンターテイメントの創始者か……。もう日本に帰ってきてやがんのか……?
「海原が怖いだぁ?そんなテメェの理屈でデュエルから逃げる気かよ?海原は日本に帰ってきてやがんのか?」
「海原サンはまだ日本にはいません。テレフォンで怒られマス。海原サンを怒らせたら二胴サンも雲雀も怖いデス…」
こいつがバカで助かったぜ。
ベラベラベラベラ情報ありがとよ。
「テメェが誰に怒られようが、俺らの知ったこっちゃねぇんだよ」
「そんな……殺生デース」
「ちょっと…折原くん本気?こいつとデュエルやんの?(ボソッ」
「いや、そんなバカじゃねぇよ。まぁ見てろ(ボソッ」
さて……上手くいきゃいいけどな。
「青木 リュート。どうしてもってんならデュエルを申し込むのを止めてやってもいいぜ?どうする?」
「本当デスか!?ありがとうございマス!」
「ああ、そん代わりテメェはここに何しに来たのか教えろ。嘘だと判断したら即座にデュエルを申し込む。この場でな」
「ワカリマシタ…。ではお話させて頂きマスので、デュエルだけは勘弁して下さい」
「ああ、約束してやんよ」
「ワタシ達はただファントムのバンドマンのライブを観に来ただけデス…敵情視察とか言うらしいデス」
ただライブを観に来ただけ?
「嘘だと判断したらデュエルを申し込むっつったよな?」
「本当デース!ワタシ達の新しい上司がファントムのバンドマンのライブを観たいと言って、ワタシ達を連れて来たのデス。Ailes Flammeも出演してマスから、虎次郎も観たい観たい言ってたデース」
なるほどな。どうやらフカシじゃなさそうだな。って事は新しい上司って奴は誰だ……?15年前に関係ねぇ奴なら中原さん達に聞いてもわかんねぇだろうが…。
「ねぇ、あんた。それ嘘じゃないでしょうね?そもそも新しい上司って何者よ」
「嘘じゃありまセーン。ワタシの上司は
木暮 麗香か…。後で中原さん達に聞いておくか……。
「南国DEギグの時にあんな爆発を起こしておいて、ただライブを観に来ただけってのを信じろって?」
「本当デース。そもそも爆発の件は九頭竜が勝手にやった事デス。九頭竜も海原サンに怒られていたので、この間のような事はもうない筈デス」
九頭竜……この名前も出すって事は、どうやらこいつの情報は信用出来るな…。
「わかった。信じてやるよ。テメェはもう帰れ。ライブを観に来ただけなら、もうここにゃ用はねぇだろ」
「確かにその通りデス。ワカリマシタ。今日の所は大人しく帰りマス。デスガ、まどか。次に会った時は結婚しましょう」
「絶対嫌!!」
そして青木 リュートはトボトボと帰って行った。海原はまだ日本に居ない事、あいつらの新しい上司の木暮 麗香って奴の事、中原さん達に伝えに行くか……。
----------------------
僕の名前は内山 拓実。
ライブが終わって、お客様のお見送りに来たのはいいけど、渉達とはぐれちゃったな…。
でも、僕の演奏ってまだまだ下手くそなのに、色んなお客様に声を掛けてもらっちゃった。すごく嬉しいな。
これからも頑張っていこう。うん。
「あ、拓実く~ん」
「睦月ちゃん」
僕がフロアでウロウロしていると、Glitter Melodyの永田 睦月ちゃんが声を掛けてくれた。
「今日のライブ来てくれたんだね。ありがとう」
「うん。すごく楽しいライブだった。ねぇ、ケーキ屋のスタンプカード持って来てるけど今日は押してもらえない?」
「うん、さすがに無理だよ」
「そっか。美緒達とはぐれてまで拓実くんを探してたんだけど残念」
そうなんだ。すごく欲望に忠実に行動してるんだね。すごいや。
「お、内山じゃん。今日はお疲れ様。それと……睦月じゃん。やっほ」
僕と睦月ちゃんが話をしていると、雨宮さんが声を掛けてくれた。
「あ、雨宮さん。一人なの?」
「うん。渚と理奈が迷子になったみたいでね」
そうなんだ。全く自分が迷子になったとは思わないんだね。すごいや。
「あ、志保。あたし、カラオケ屋のスタンプカード持って来てるけどスタンプは押してもらえないよね?」
「うん。さすがに無理かな」
「そっか、残念」
ん?2人とも名前呼び?親しいのかな?
「雨宮さんと睦月ちゃんって仲良いの?」
「うん。プライベートでは遊んだ事ないけど仲良しだよ」
「睦月はあたしのバイト先のお得意様だから」
そうなんだ。睦月ちゃんって僕のバイト先のケーキ屋もお得意様だし、意外と顔が広いんだなぁ。
「やっと見つけた……。内山 拓実」
僕がそんな事を思っていると、僕の前にひとりの男の子が現れた。
この人はinterludeのベースの人だ…。
何でファントムにクリムゾンのミュージシャンが……。
「「ひーちゃん!」」
ひーちゃん?雨宮さんも睦月ちゃんも?
この人と知り合いなの?
「しーちゃんにむっちゃんか。しーちゃんはファントムのバンドマンだからわかるとしても………まさか、むっちゃんもなの?」
「睦月もひーちゃんの知り合いなの?」
「うん。小学校と中学校の時の同級生。それよりしーちゃんって可愛いね。あたしもしーちゃんって呼んでいい?」
睦月ちゃんの同級生か…。って事は僕逹と同じ歳なんだ。
「昔話をするつもりはない。僕は内山 拓実に用があるんだ」
僕に?何だろう…?
「キミのベース。irisベースだよね?」
僕のベース?まさか僕のベースを狙って…?
「そうですけど?それが何か?」
「キミの演奏では、ベースのチカラが全然引き出せない。悪いけれど、キミのベースを僕に譲ってもらえないかな?」
やっぱり…『晴夜』を狙って…。
「それで?僕がどうぞって渡すと思いますか?」
「だったら、ちからずくで奪うまでだけどいい?」
まさかここでデュエル?どうしよう…。まだこんなにたくさんのお客様もいるのに…。それに悔しいけど……今の僕じゃ勝てる訳がない…。
「ちょっとひーちゃん!どういう事よそれ!てか、何でひーちゃんがクリムゾンのミュージシャンなんかに…」
「しーちゃんは黙って。僕は今、クリムゾンエンターテイメントのミュージシャン朱坂 雲雀として、ファントムのミュージシャン内山 拓実と話してるんだ」
「だったらあたしもファントムのミュージシャンとして、ここで内山とデュエルするってんなら、ひーちゃんを倒す」
雨宮さん……。クソッ僕にもっと力があれば…。
「しーちゃんの実力で僕に勝てるの?」
「あんまりあたしを舐めないでよね…。あの頃のあたしとは違うんだから…」
あの頃のあたし?やっぱり雨宮さんもこの雲雀って人と昔何か関係が…。
「そっか。デュエルギグ野盗を蹴散らしてたんだもんね。でも僕とは場数が違うよ」
「あたしの事…デュエルギグ野盗との事も知っているの…?」
「雨宮さんも……しーちゃんのお父さんも心配してたよ。でもまぁ、今はDivalに手を出す訳にはいかないか。ここで揉め事を起こす訳にもいかないしね」
ここで揉め事を起こす訳にもいかない?
良かった…。じゃあここは南国DEギグの会場みたいになる事は…。
「ねぇ?ちょっといいかな?今の話を聞いてて何となくなんだけど……ひーちゃんってクリムゾンエンターテイメントのミュージシャンなの?」
え!?睦月ちゃん今更そこなの!?
「むっちゃん……そうだよ。僕はクリムゾンエンターテイメントでinterludeのベースを担当してる」
「ふぅん……そっか。ひーちゃんが自分でやりたいと思ってクリムゾンに入ったなら、あたしは別にどうでもいいし、いいんじゃない?って思う」
「ちょっと…睦月…」
「でも、ひとつだけ確認。もしかしてクリムゾンの誰かに翔子ちゃんの事を話した?」
翔子ちゃん?誰だろう?
「翔子さんの事は誰にも話してない。そして、これからも話す気はない。だから、安心していいよ」
「そっか。だったらいい」
翔子さんの事をクリムゾンには話さない?あっ……もしかして翔子ってArtemisのギタリストの神原 翔子さん!?
「僕はそろそろ行くよ。内山 拓実、キミのベースはいつか僕が奪わせてもらう。覚悟しててね」
「その時は僕ももっとベースの腕を磨いて……絶対に負けない。『晴夜』は渡さない」
「そっか、その子の名前『晴夜』っていうのか。僕のベースの名前は『雷獣』。キミのベースと同じirisシリーズのベースだ」
……!?モンブラン栗田さんの奪われたベースの内の1本がinterludeに!?
「そうなんだね。だったら、僕がその『雷獣』を取り返してみせる。必ず」
朱坂 雲雀は何も言わずにこの場を去って行った。
「ひーちゃん……何で…」
「雨宮さん…」
「そういえばさっき聞きそびれてたんだけど、しーちゃんとひーちゃんはどんな知り合いなの?」
あ、睦月ちゃん、雨宮さんの事本当にしーちゃんって呼ぶんだ?
「あたしが小学生の頃……うちからちょっと離れた公園で、あたしがギター、ひーちゃんがベースでね。よくセッションしてたんだよ。学校は別だったんだけどね」
「そっか。ひーちゃんが小学校の6年の時に引っ越して来てからは、あたしとセッションしてたって感じか……あたし達ひーちゃんの元カノと元カノみたいだね」
いや、元カノと元カノって……。
「あははは。渚にもそんな事言われたっけ……。あたしはそんなつもり無かったよ。別に好きとかそんなのなかったし」
「え?しーちゃんってひーちゃんの事好きじゃなかったの?なのにセッションしてたの?」
「え?いや、友達としては好きだよ?でも、恋とかそんなんじゃないって意味」
「恋……?いや、それはそうでしょ。
あ、でも美緒みたいな子もいるし、そうとも言い切れないか」
「え?美緒みたいな子って?」
「ん?百合?」
あははは。百合って…。
渉が聞いたら『そっか!やっぱり雨宮って百合だったんだな!』とか言いそうだよね。
『そっか!やっぱり雨宮って百合だったんだな!』
え!?何でまた渉の声が!?
「江口ぃぃぃ(ギリッ」
「そっかそっか。しーちゃんもそっちだったのか。安心して、あたしはどっちもいけるから」
どっちもいけるって…。何を安心したらいいんだろう?
「いや、それよりさ?そもそも百合ってね……。何であたしがひーちゃんに恋をしてたら百合なの?」
「え?しーちゃんって女の子でしょ?」
「そうだけど……え?も、もしかしてひーちゃんって…」
え?朱坂 雲雀ってもしかして……
「うん。ひーちゃんも女の子だよ。あ、男の子だと思ってたの?」
「「な、何だってぇぇぇぇぇぇ!!?」」
----------------------
「今日は来てくれてありがとう」
「ナギ様。お大事にして下さいね」
「松岡さん。握手して頂けませんか?」
「あ、ああ。今日はありがとうございました…///」
俺の名前は松岡 冬馬。
FABULOUS PERFUMEのライブの後、ナギと一緒にライブに来てくれたお客様のお見送りをしている。
「大人気だな、ナギ」
「え?そうかな?でも、冬馬も人気あるじゃん。色んな女の子に握手求められて鼻の下延ばしてデレデレしちゃって(ニコッ」
「鼻の下延ばしてって……ナギと一緒に居るからってついでにって感じじゃねーか?」
まぁ、確かに音楽やドラムの感想とか応援してるとか言ってくれてるし、悪い気はしないけどな。
「松岡さん!ドラムかっこ良かったです!握手して下さい!」
「ああ。ありがとうございます///」
「ジー……」
「あ?何だ?ナギ」
「別に(ニコッ」
何だか笑顔が怖いんだけどな……。
「冬馬ちゃん♪」
え?冬馬ちゃん?
「冬馬ちゃん?(ギロッ」
怖っ!?ナギの目が怖いわ!!
メイクで目を鋭くしてるから、そんな目で睨まれたら女の子ビビッちまうんじゃねぇか!?
そう思って俺は声を掛けてくれた女の子の方に目を向け………たハズだったが、そこに居たのはガタイのいいおっさんだった。
このおっさんはinterludeの……。
「久しぶりねぇ♪まぁ私の事は覚えてないかしら?1度会っただけだものね」
「………忘れたくても忘れられるキャラじゃねぇだろあんたは」
何でクリムゾンのミュージシャンがファントムにいやがるんだ。ナギだけは守ってやらねぇと…。
「嬉しいわねぇ。冬馬ちゃんの事は本当は今日のライブまで忘れてたんだけど、あなた変わったわね。前のバンドの時はどこかつまらなそうにしていて…」
あの頃の俺は……確かにバンドやライブを楽しいとは思っていなかった。
俺がかっこいいと思うバンドをやる事、ライブをやる事、そしてOSIRISの進さんのようにかっこいいドラマーになる事。
それだけしか見ていなかった。
だけど、今の俺は違う。春太やユイユイと出会い、秋月とバンドを組んで、茅野や葉川さん、ファントムのみんなと出会って、俺が望んでいた『かっこいい』なんて、ただの俺の利己的な考えだと気付けた。
今はCanoro Feliceでいられる事が、楽しくて幸せだ。だから、クリムゾンなんかに今の幸せは、壊させねぇ。
「Canoro Feliceとの出会いがあなたを変わらせたのかしらね?」
「ねぇ…冬馬…」
ナギ、心配すんな。お前は俺が守る。
「さぁな?それよりクリムゾンのミュージシャンがこんな所で何やってんスか?
それと、あんたはクリムゾンのミュージシャンじゃなかったハズだ。確かデビュー目前って言ってましたよね?」
「そうね~。冬馬ちゃんに私が答える義務はないわよねぇ?」
チッ、めんどくせぇな…。
「まさか……南国DEギグの会場みたいに、ここも爆発させるつもりじゃないだろうな…」
ナギ…やっぱりお前も心配なんだな…。
「あら?FABULOUS PERFUMEのナギちゃん?あなたもあの会場に居たのかしら?」
「ナギだけじゃねぇ。俺もあの会場に居たんだ。
だから悪いスけどあんたの事は警戒してんスよ」
「なるほどね。あなた達もファントムのバンドですものね。Ailes FlammeやBlaze Futureが居たんだから、居てもおかしくないわね。そう言えば春太ちゃんも見掛けたしね」
春太を?そうか、江口とinterludeがデュエルをした時か…。
「ま、しょうがないわね。だったら教えてあげるわ。私達がここに居るのは、私達クリムゾンエンターテイメントの敵であるあなた達のライブを観る為よ。今日は本当にそれだけの事よ♪」
俺達のライブを?敵情視察ってやつか…。
しかし、それってつまり俺達をクリムゾンエンターテイメントは敵と認識してるって訳か…。
「あんな爆発をさせておいて…沢山の人を巻き込んでおいて…!」
「あれは本当に申し訳ないと思ってる。オレもあんな事になるとは思っていなかった……」
え!?何で!?このおっさん普通に喋れるの!?そっちの方じゃなかったの!?
「あんな事になるとは思っていなかった?それで許されるとでも思って…」
「思ってはいない。死人や大怪我をした人が出なかったとは言え、本来あってはならない事だ。だから、オレはクリムゾンのミュージシャンとして音楽で償っていくしかない。………言い訳に聞こえるかも知れないが、あの件は九頭竜の奴が勝手にやった事だ。いや、二胴さんでもやりかねないとは思うがな…」
ちょ、ちょっと待って!俺はもう二胴とか九頭竜とかより、このおっさんの変わりように驚いてんだけど!?
キャラ?あの喋り方ってキャラ作りだったの!?
「だからって……みんなライブを楽しみにしていたのに…」
「そんなわけでぇ。九頭竜も私達のボスの海原さんに、ものすごぉく怒られたみたいだから、もうあんな事は起きないと思うわよぉ。安心しなさいな」
結局その喋り方に戻るのかよ!!
「そ、その事はわかった。だけど、あんたがクリムゾンのミュージシャンになった理由は…?」
「ウフフ~。それはヒ・ミ・ツ♪」
「悪いけどその理由は俺も聞きてぇな」
そう言って俺達の間に入って来たのは、evokeのドラマー、河野 鳴海だった。
「久しぶりっすね。武さん」
「鳴海か。久しぶりだな…」
って、また喋り方変わるの!?
「俺もあんたに聞きてぇな。何でクリムゾンなんかでドラム叩いてんすか?あんなにクリムゾンを嫌っていたのに…」
クリムゾンを嫌っていた?
今はクリムゾンのミュージシャンであるこのおっさんが…?
そういえば雨宮の親父さんも…昔は……。
「クリムゾンのミュージシャンになる事が、オレにとって何よりも大事だと思ったからだ」
「武さんと一緒にバンドをやってたメンバーを捨ててでもかよ?」
「そうだ」
「見損なったぜ…」
河野さん……このおっさんと親しいのか?
それより、一緒にバンドをやってたメンバーを捨ててクリムゾンエンターテイメントに…?
「鳴海…お前にもバンドより大事なモノがあるだろう?」
「バンドのメンバーより大事なモノだと?そんなものあるわけねぇだろ」
「紗智ちゃんは?」
「すまなかった」
即答!?即答で謝罪!?
「鳴海。お前らの演奏楽しかったぞ。もちろんFABULOUS PERFUMEとCanoro Feliceの演奏もな」
このおっさん……。
「FABULOUS PERFUME、Canoro Felice、evoke。頑張れよ。オレ達なんかにやられないようにな」
そう言っておっさんは帰って行った。
何だったんだ一体……。
「ねぇ。河野くん…さっきの話って…」
「ああ、紗智の事か?あいつは俺の可愛くて可愛くて仕方ない妹の事でな…」
「いや、一応オレもさっちちゃんとは知り合いだから。学校の後輩だし。
オレが聞きたいのは、さっきのクリムゾンのミュージシャンの事なんだけど…」
「そっちかよ……あいつは玄田 武。俺がevokeに加入したての頃に、世話になったバンドのドラマーだ」
河野さんが世話になったバンドのメンバー?
「それはevokeのメンバーもっスか?」
「いや、奏達は知らねぇかもな。俺がたまたま近所でバンド練習してたおっさん達と仲良くなってな。ドラムを教えてもらってただけだ。それに奏は筋肉バカで、結弦は音楽バカ、響は寝てばっかだしな。バンドの事なんか全然無知だったし俺がな……」
今のは『バカ』と『ばっか』を掛けたわけじゃないよな?ヤバい。秋月と付き合いが増えたせいか、すぐにこういう事が気になってきちまう…。
「冬馬。貴くんと英治くんに一応伝えに行こう。クリムゾンのミュージシャンがファントムに来ていた事を…」
「あ、ああ。そうだな。河野さんも行きますか?」
「いや、俺は紗智を探してるからな。お前らだけで行ってくれ」
そう言って河野さんは去って行った。
俺達は葉川さん達の所に行くか。
しかし、あのおっさん…。
『FABULOUS PERFUME、Canoro Felice、evoke。頑張れよ。オレ達なんかにやられないようにな』
何となく悪い奴じゃねぇのかもな。
俺はそう思っていた…。