私の名前は秋月 姫咲。
FABULOUS PERFUMEのライブが終わり、今はファントムのフロアで、ライブに来て下さったお客様のお見送りをしています。
澄香さんにもご挨拶をと思いましたが、今はファントムのお手伝いとして、達也さんとドリンク出しをしてらっしゃいました。
お忙しいみたいですので、挨拶は後でいいですわね。
それにしても先程見掛けた春くんや松岡くんは握手などを求められてましたのに、何故私には『ぶってください』とか『踏んでください』とか求められるのでしょうか?
Canoro Feliceとしてライブをしている時は猫を被って、大人しい清楚な女性のように振る舞ってますのに…。そう、Cure²Tronのユキホ様のように。
「秋月、お疲れ様」
「あら、チヒロ様。お疲れ様です」
私がフロアをウロウロしていると、FABULOUS PERFUMEのチヒロ様が声を掛けて下さいました。
「Canoro Feliceの演奏。こないだよりずっと凄かったな。正直驚いたぜ」
「いえ、そんな事ありませんわ。私達はまだまだです。
いつかの約束。FABULOUS PERFUMEとデュエルを出来るように、精進して参りますわ」
「ははは、それは俺達もうかうかしてられねぇな」
FABULOUS PERFUMEの演奏はとても素晴らしい演奏でした。曲もパフォーマンスも『美』という言葉が、ピッタリと当てはまるような演奏でしたわ。
「あ、姫咲ちゃん、チヒロさん。こんばんは~」
私がチヒロ様とお話をしていると、Divalの水瀬 渚さんが声を掛けて下さいました。
「水瀬さん、今日は来てくれてありがとう」
「渚さん、本日はありがとうございます」
「そんなそんな!私こそありがとうだよ。FABULOUS PERFUMEもCanoro Feliceも凄かった。私達Divalも負けてらんないな~って思ったよ」
そういえばハロウィンにはDivalとも、一緒にライブが出来ますのね。楽しみですわ。
「私も凄い演奏だと思ったよ。FABULOUS PERFUME、Canoro Felice」
私達がお話をしていると、今度は長身の女性が話し掛けて来た。確かこの方は……。
「久しぶりだね、秋月さん。そしてチヒロもね」
「お久しぶりですわね、天花寺さん」
この方は私達秋月グループのライバル企業である天花寺グループのご令嬢、
事あるごとに私に対抗意識を燃やしてくる……正直あまり好ましくない相手ですわ。
「紫苑……お前がこんな所に居るなんてな。まさか俺達の応援……って事はねぇよな」
まさかチヒロ様と過去に何か…?このお二人はどのような関係なのでしょう?
「私がチヒロの応援なんかするわけがないだろう?そして、さっきから気になっていたが、そこのレディはDivalの水瀬 渚さんかな?」
渚さんの事まで知っていますの?
「あの……えっと……どなたですか?」
知り合いって訳じゃありませんでしたのね…。
「私の名前は天花寺 紫苑。君達の敵クリムゾンエンターテイメントのミュージシャンさ」
「「「クリムゾン!?」」」
そんな…。天花寺さんがクリムゾンエンターテイメントのミュージシャンに…?一体どういう事ですの?
「紫苑…それはどういう事なの?クリムゾンエンターテイメントのミュージシャンって…」
「フフフ、私の会社。つまり天花寺グループはクリムゾンエンターテイメントと提携する事になってね。クリムゾンエンターテイメントの重役に、是非とも私にボーカルをやって欲しいと頼まれたのだよ」
天花寺グループがクリムゾンエンターテイメントと提携?どういう事ですの?クリムゾンエンターテイメントも会社であるとは言え、クリムゾンミュージックのグループ会社のひとつに過ぎない。
そんな会社と提携して、天花寺グループに一体何のメリットが……?
「私達天花寺グループは更に大きくなるだろう。チヒロ、私達のカフェを辞めた事を後悔させてあげるよ」
チヒロ様が天花寺グループのカフェに?そこを辞めた?いや、そもそもチヒロ様の正体を天花寺さんは知っている?
「あたしは天花寺グループのカフェを辞めた事は後悔した事ないよ…。それにクリムゾンエンターテイメントと提携か。尚更辞めて良かったと思うよ……」
「これから後悔するんだよ。キミは」
読めませんわね。クリムゾンエンターテイメントと提携を組んで、わざわざ天花寺さんがバンドをやる理由。そこも気になりますが、私達にその事を伝える意図、そしてファントムに来た理由……。
まさかとは思いますがファントムがSCARLETと提携する事を知っている?
SCARLETには私達秋月グループが出資をしているから?
いえ、秋月グループがSCARLETに出資をする事は知っていても、ファントムがSCARLETと提携する事は知っているはずはありませんわよね。
「それはわかりました。天花寺さんでしたっけ?あなたが
「水瀬さん、私達は本当にただライブを観に来ただけですよ。敵情視察とでも言えばいいかな?」
まだるっこしいですわね…。
私が直接聞いた方が早いでしょうか…?
「へぇー、ただライブを観に来ただけですか。では、そろそろお引き取りを。ライブは終わってますからね」
な、渚さん!?何故ですの!?
ここはもう少し情報を引き出した方が…。
「嫌われたものだな。まぁ、いいだろう。秋月さんとチヒロに宣戦布告をしたかっただけだしね」
そう言って天花寺さんは帰って行った。
本当にただの敵情視察だったのでしょうか?
「ごめんね、姫咲ちゃん。もうちょっとあの人から情報を聞き出したかったかもだけど」
渚さん?わ、わかってて帰らせましたの?
「ありがとうございます、渚さん。助かりました」
チヒロ様?
「喋り方。また戻ってますよ?」
喋り方…?
「あ、ああ。そうだな。助かったぜ渚さん、サンキューな」
あ、ああ……そういう事でしたのね…。
私とした事が配慮が足りませんでしたわね…。
まだ、このフロアにはたくさんのお客様がいらっしゃいますわ。
ですが、チヒロ様は天花寺さんにお会いして、動揺したのか弘美さんの部分が出てましたものね。
それに、天花寺さんも『チヒロさん』と呼んではいましたが、カフェの事等も話してましたし、ここで話を続けるのは望ましくありませんでしたわね。
「渚さん、チヒロ様…申し訳ございません。私は…」
「ん。そうだ。ちょっと場所変えよっか」
・
・
・
私達は控え室に行き、3人で少し話をする事にしました。まだ控え室には他の方は戻ってきていないみたいですわね。
「さっきの人もこないだの南国DEギグの会場みたいに何かするつもりかな?って思ってたけど、何もせずに帰ってくれて良かったよね」
「あ…渚さんも秋月さんも大変だったんだよね。双葉と栞から聞きました」
「いえいえ、私は自爆したようなもんだし」
そういえば渚さんは三咲さんにおぶってもらってましたわね。何があったんでしょうか?
「あいつは……紫苑はあたしの幼馴染でね。天花寺グループのカフェを、世界一のカフェにする事をあたしらは夢見てたんだ」
天花寺さんとチヒロ様が幼馴染?
「あたしは短大に進んだからさ、紫苑とは大学が別になってね。あたしらは会う事が少なくなってた。でも、天花寺グループのカフェを世界一の……って夢はお互い想ってると信じて、あたしは天花寺グループに就職した」
「でも、そこは辞められたのですね?何がありましたの?」
「メイド喫茶や執事喫茶。色んな事業に手を出しては大成功して、天花寺グループは秋月グループと並ぶ程の会社になった。でもね、それと同時にお客様へのサービスとかさ。真心ってのかな?そういうのが天花寺グループには無くなっていったんだ」
お客様への…。会社を大きくする事に囚われてしまったのですわね。
「それが嫌になって辞めた。そんな時に入ったメイド喫茶が凄く素敵な店で、あたしはそこに再就職したんだけどね」
「それであの人は弘美さんの事を恨んでるとか、許せないとかそんな感じなの?」
「それもあるとは思うけどね。あたしが再就職してFABULOUS PERFUMEを始めた頃かな。そんな時に紫苑があたしの家に来てね。あたしに戻って来てくれって言ってきたんだ」
天花寺さんは弘美さんとの事を大事にしてたのですわね。
「今のお店にもお世話になってたし、FABULOUS PERFUMEの事もあったけど、あたしも天花寺グループに戻ろうかな?って考えたんだ。だから、紫苑にお客様への真心を、サービスを昔のように……出来るだけでいいから戻してくれないかとお願いした」
「それで仲違いしちゃったんですね…」
「うん。紫苑は『真心で会社は大きくなるのか?』ってね。『利益をどれだけ出してどれだけ儲かるかが大事』ってさ。
それで大喧嘩。あいつの世界一ってのはあたしの世界一とは違って、お金の大小の世界一だったんだってさ」
確かに……天花寺グループの事業は効率的で無駄が無い。ですが無機質な感じです。
お父様とお母様も、だから天花寺グループは嫌っていると言ってましたわね。
「そっか。それで天花寺グループはクリムゾンエンターテイメントと提携を開始した。うんうん、なるほどなるほど」
渚さん何かわかりましたの?
「この事を先輩か英治さんに話したら何か色々わかるかも知れないね!私には考えてもわからなかったけど!」
あ、わかりませんでしたのね…。
まぁ、そうですわよね。
確かに気になる事はたくさんありますが、私がもうひとつ気になる事…。
『水瀬さん、私達は本当にただライブを観に来ただけですよ。敵情視察とでも言えばいいかな?』
天花寺さんは『私達は』と言った。
このファントムには、他にもクリムゾンエンターテイメントのミュージシャンが……。
何事もなければ良いのですけど……。
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私の名前は夏野 結衣。
今日のライブはすっごくすっごく楽しかった!!
楽しかった…けど…。
「はーい!握手はお一人様10秒以内でお願いしますー!お写真はすみませんが今回は…」
「Blue Tearの頃から大ファンでした!」
「ありがとうございます。これからも応援お願いしますね(ニコッ」
「あの…!私今年受験なので、応援して下さいませんか!?」
「今年、受験なんだね。大変だと思うけど志望校に合格するように頑張ってね(ニコッ」
べ、別にいいんだけどさ。
何でさっきから握手は架純ばっかり求められてるの?私は?
「ああ!そちらの方!!横入りは止めて下さいー!」
私がお見送りをしようと思って、フロアでお客様と握手している時だった。
架純が私の所に挨拶に来てくれたから、嬉しくて大喜びしていたら、お客様に架純の事がバレちゃって私達は大混乱。
そこにGlitter Melodyの藤川 麻衣ちゃん。
通称まいまいが来てくれて、列の整列から何から何までやってくれたから、何とか助かってる。
私ももちろん握手は求められてるけど、やっぱり架純は私の比じゃないや。
さすがセンター3人組のひとりだよねぇ~。
・
・
・
「ふぅ、何とかなりましたね…」
「まいまいごめんね~。助かったよ~」
「藤川さん、ありがとう。結衣もお疲れ様」
何とか並んでいたお客様達との握手も終わり、私達はひと息ついていた。
もしかして今日ってリリイベの握手会より、握手した人多かったんじゃないかな?
「それにしても結衣のギターってBlue Tearの時よりすごく良くなってた」
「そ、そうかな?えへへ」
「結衣さんすっごく楽しそうに弾いてましたもんね!観てる私もすっごく楽しくなりましたよ!」
えへへ、ギターの演奏誉められるのって嬉しいな。まだまだ下手だけど、Blue Tearの頃からギターやってたんだもんね。
「あの…すみません。握手はもうして頂けませんか?」
え?握手?
「あ、すみませ~ん。握手はちょっと……って……この人ってBlue Tearの…」
「かり…」
「結衣、ストップ」
私達に握手を求めて来てくれてた人。
その人はBlue Tearの元メンバーである
私はまた嬉しくて名前を叫びそうになり、架純に口を塞がれた。
危なかったぁ。また、架純の時みたいに人いっぱい来ちゃうかも知れないもんね…。
「久しぶりだね、花梨。もしかして結衣の噂を聞いて観に来てくれたとか?」
ん?架純?どうしたんだろう?
急に声のトーンが低くなった?
あ、もしかしてまた喉が痛くなっちゃったとか…?
「久しぶりだね、架純。ついでに結衣も」
え?私はついでなの?
「質問の答えになってないね?今日は何でここに来たの?」
「本当はわかってるんじゃない?いや、まだ予想してる段階かな?」
ん?架純?花梨もどうしたんだろう?
「やっぱり……そういう事なのね」
「架純も大変よね。喉を壊してクリムゾンを追い出されて、そして復讐の為にクリムゾンと敵対なんかするから、今じゃクリムゾンのブラックリストに載っちゃってさ」
クリムゾンのブラックリスト?架純が?
クリムゾンと戦っていたから?
今は架純も楽しい音楽をやろうとしてるのに……。
「別に……私の事なんて優香や瑞穂に比べたら…」
「優香も瑞穂も壊れちゃったんだっけ?架純も可哀想よね、中途半端に壊れたもんだから…」
ちょっ!花梨!!何を言ってるの!?
何でそんな言い方…!!むぅ~…文句を言ってやりたいけど、まだ架純は私の口から手を離してくれないし……。
「ちょっと待って下さい!そんな言い方酷くないですか!?」
まいまいありがとう~。私もそれが言いたかったんだよ~。
「藤川さん…ただの挑発だから気にしないで」
「あれ?架純は怒らないの?」
「別に……本当の事だし、私を怒らそうとしてるのも見え見えだし」
何で?何で花梨は架純にそんな酷い事を言えるの?私達Blue Tearってみんなライバルって感じだったけど、仲良かったじゃん……。
「私達Blue Tearからクリムゾングループの事務所に移籍になったメンバーは、クリムゾンエンターテイメントの私と優香と瑞穂だけ。他の子は結衣のように音楽関係の職場を紹介されたりと色々あったようだけど?」
あ、そっか。私も元々はライブハウスエデンで働きながらバンドを探すようにって紹介されたんだもんね。春くんと出会って、私は今はCanoro Feliceだけど……。
待って…私って今の毎日がすごく楽しくて、すっかり忘れてたけど、みんな私がCanoro Feliceだって知ってる訳ないじゃん。
架純はたっくんとバンドをやってたから、ファントムの事を知ってたんだろうけど花梨は……。
「私が紹介されたのは、とある小さい音楽事務所でね。そこでメイド喫茶とかに派遣されたりして、私は歌とダンスをそこで披露してた」
「そう。良かったわね。普通の音楽事務所に行けて、普通に歌とダンスをやれて…」
普通……か。架純達はその普通が出来なくて…。架純も優香も瑞穂もすっごく辛かったよね…。
「普通?普通の何処がいいの?私はテレビ番組で輝いていたかった!世界中に私の輝きを届けたかった!架純達がセンターになって、私はバックになって……いつかセンターを奪ってやるって気持ちで頑張ってたのに事務所が潰されて…!それで移籍先が小さい音楽事務所!ふざけないで!」
「ふざけてるのはどっち?小さい音楽事務所?歌えるだけでも…少ないお客様の前ででも、花梨は歌えるんじゃない。輝けるんじゃない」
そうだよ!架純も優香も瑞穂も…ステージで歌う事はもう……。
「花梨、あなたは頑張りが足りなかったんじゃないの?目久美ちゃんは小さい音楽事務所に行ったけど、今はあんなに輝いている。テレビで観ない日もないくらい。それはあの子が頑張ったからの結果。結衣も今はCanoro Feliceとしてしっかり輝いてる」
架純……ありがとう…。そう言ってくれて…。
「それに花梨も結衣も、バラエティ番組では私達より輝いてたじゃない。おバカアイドルとして、クイズのコーナーとかの時はしっかり抜いてもらってたじゃない」
おバカアイドル?え?架純?
「私の欲しかった輝きはあんなのじゃない!あんたなんてただ可愛くてスタイルが良くて、少し歌とダンスが上手かっただけ!クリムゾンを倒そうという気持ちは無かった!」
「そうね…私はBlue Tearの時は、歌とダンスはすごく努力してたけど、クリムゾンに勝とうという気持ちは無かった。
だから事務所はクリムゾンに勝てなかったのかもと思うと…後悔してもしきれない。私はただすごく可愛くてスタイルが良かっただけ。そしてすごく可愛かっただけだわ」
架純?いや、確かに架純は可愛いけどね?
「あの~…?アイドルですよね?可愛くてスタイルが良くて、歌とダンスが上手かったら、それでもいいんじゃ…?普通はクリムゾンを倒すぞーって動機で音楽やらないと思いますし……」
「花梨、認めるわ。私は可愛い。
でもね?それで何でクリムゾンに入ったの?あなた今クリムゾンの人間だよね?」
「え!?クリムゾン!?」
嘘……何で?何で花梨がクリムゾンに?
嘘だよね?だってさっき小さい音楽事務所に移籍したって…!
「やっぱり気付いてた?そうよ。私は今はクリムゾンエンターテイメントのミュージシャン。あんた達と同じギターをやっているわ」
「寄りによってクリムゾンエンターテイメントか……。まぁ、そうじゃなきゃ私がクリムゾンのブラックリストに載ってる事も、結衣がバンドをやっている事も知ってる訳ないもんね」
架純達の居たクリムゾンエンターテイメントに?花梨が?
だから私の事もファントムの事も知っていたの?
「私が派遣されたあるメイド喫茶でね。スカウトされたのよ。
そして私はそのメイド喫茶の会社に就職した。そしたらたまたまその会社がクリムゾンエンターテイメントと提携してね。そこのご令嬢とクリムゾンエンターテイメントのバンドマンとして音楽をやる事になったの」
え?どうしよう?よくわかんなかった。
「そこで架純達と結衣の事を知ってね。すごく驚いたけど嬉しかった」
嬉しかった?
「私があんた達を音楽で倒すチャンスが与えられたんだもん。こんな嬉しい事なんてないよね」
花梨…!?
「花梨…あなたはバカだったけど、そんな事を言うような子じゃなかったのにね」
「私はあんた達センター3人組に嫉妬していた。結衣もギターをやりだしてから注目されるようになって…」
「嫉妬か…。そんな気持ちで音楽をやって…あなたの思う輝きってのを、手に入れられるんならいいんじゃない?復讐に囚われていた私は偉そうな事は言えないし」
架純…。でも架純も今は…。
「でもね、そんな気持ちで音楽をやったって私達は負けない。音楽は楽しんでやるものだから。私はそれを教えてもらったから……」
架純…うん!そうだよね!
「そうですよね。音楽は楽しんでやるもの。楽しんでやらない音楽は誰にも伝わらない。もちろん自分達にも」
「そう。なら楽しみにしているわ。あなた達の楽しい音楽ってやつより、私達の音楽の方が優れていると証明する日をね」
そう言って花梨は私達の前から去って行った。花梨、そんな日は来ないよ。
楽しい音楽が一番なんだって、私が教えてあげるからね!
「花梨がクリムゾンエンターテイメントに…その提携した会社ってのも気になるし、拓斗さんに……あ、やっぱりタカさんに伝えに行こう。チャンスだし」
「チャンス?チャンスって何のチャンスですか?」
私達はそのまま控え室へと戻る事にした。
それより架純はいつまで私の口を塞いでるんだろう……?
----------------------
「う~ん……ハッ!?ヤバ…寝てた…」
俺の名前は日高 響。
evokeでベースを担当している。
今日のライブは楽しかった。久しぶりに寝ないで他のバンドの曲を聴いて、やっぱり音楽って楽しいなって思った。
でもそろそろ限界…。
FABULOUS PERFUMEのファンの女の子でいっぱいだし、眠気に負けて倒れちゃったら騒ぎになりそうだしね。
もう控え室に戻って寝ちゃおうかな?
奏達も控え室に戻って来たら起こしてくれるだろうし。
「う~ん……理奈ち達も来てるはずだけど、みんなに会えないね」
「人がいっぱいだしね~。いつかあたし達のライブもこれくらいの人達に観てもらいたいよね~」
うん?あれはBlaze Futureの蓮見さんと、Divalの雪村さん?
俺達のライブに来てくれてたのか。
挨拶だけはしといた方がいいかな。
俺は2人に声を掛けてみた。
「蓮見さん、雪村さん、こんばんは」
「ん?あ、日高さんこんばんは」
「お、いつも寝てる人だ~。こんばんは~」
「こら、盛夏。ちゃんと日高さんって呼びなよ。何よいつも寝てる人って~」
「いや、別にいいですよ。いつも寝てるし間違えてないし」
うん。いつも寝てる人って認識されてる方がありがたい。急に寝ちゃって大騒ぎされたりすると面倒だしね。
こないだもコンビニで寝ちゃって倒れたもんだから、周りの人達に心配されたみたいだし。
「それより今日は俺……僕達のライブを観に来てくれたんですか?」
「あ、実はそれが~…あは、あははは」
「あたし達今日は病院に行ってまして~。実はライブは観れてないんですよ~」
え?病院?2人で?病院って2人で行くものだっけ?
それより俺達のライブ観れてないの?何しにここに来たの?
「あ、それで今日は挨拶だけでもと思って来たんですよ」
「本当はライブも観たかったんですけど~」
ああ、なるほど。挨拶ね。
俺も控え室に戻ろうと思ってた所だし、連れていってあげようかな。
2人共ファントムの関係者だし、俺が一緒なら大丈夫だよね?
「みんなお見送りしてるかも知れないけど、僕は眠いし控え室に戻るよ。良かったら一緒に来る?」
「え?いいんですか?」
「確かにここじゃ、いつ誰に会えるかわからないしね~。お邪魔させて頂きますか~」
「それじゃ行きましょうか」
俺が2人を連れて控え室に戻ろうとした時だった。
「evokeの日高 響さん、Blaze Futureの蓮見 盛夏さん、Divalの雪村 香菜さんですね。はじめまして」
「ん?誰?僕達のファンの子?」
そこには……何て表現したらいいだろう?
えっと……可愛いには可愛いとは思うけど、片目が完全に前髪で隠れちゃってて、ダークな雰囲気と言うか、儚い雰囲気と言うか……。そんな女の子が立っていた。
「えっと……誰だろ?何であたし達の名前まで知ってるの?」
「ま!まさか……そんな…!」
ん?蓮見さんは知ってるのかな?
「盛夏?この子の事を知ってるの?」
「その前髪に隠された目は…もしや邪気眼!」
は?邪気眼?何?
「ちょ、盛夏……。す、すみません。この子ちょっとアレもので…」
「まさか…私の邪気眼を見破られているとは…さすがファントムのバンドマンと言ったところですね………ハッ!まさか…あなたのその右腕の包帯は…」
「ふっふっふ~。いや~、見破られてしまいましたか~。この右腕には封印されし……」
「ちょっと盛夏も何言ってんの~。それってさっき病院で巻いてもらったんじゃん」
「え~?そうだっけ~?」
あ、あれかな?中二病ってやつかな?
紗智ちゃんも中学の頃ヤバかったっけ?
それより俺はもう眠いんだけど、どうしたらいいかな?
「あ、それでさ?えっと、お姉さんはあたし達のファンとかかな?って思っちゃったり?」
「す、すみません、申し遅れました。私、クリムゾンエンターテイメントのバンドでベースを担当させて頂いている
「「「クリムゾン!?」」」
え?マジで?この子クリムゾンのミュージシャンなの?何でこんな所に?
「ちょっと待って、風祭さんって言ったっけ?本当にあなたクリムゾンエンターテイメントのミュージシャンなの?」
「はい。本格的に活動していくのはこれからなのですが、クリムゾンのミュージシャンとして、必ずあなた方を倒させて頂きます」
え~……っと。俺達を倒させて頂きますって言われてもね…。
「特に雪村 香菜さん。あなたは…あなただけは…!」
「え!?あたし!?」
「およ~?ベースなのに香菜なの?日高さんやあたしじゃなくて?」
ふぅん…。雪村さんと何かあるのかな?
雪村さんはこの子の事は知らないみたいだけど……。
「はい!あなただけは私の手で…………うっ、これは…まさか…」
え?どうしたの?
「クッ……皆さん!逃げて下さい…!!私の目に封印している魔力が……もう抑えきれない……!!」
「「「え?なんて?」」」
「ぐっ……あ……ああ…逃げて…くださ…」
え~?どうしたらいいかな?
逃げろって言われてもなぁ…。周りにはまだまだお客様もいらっしゃるのに、お構い無しかな?
「ど、どうしたんだろうこの子……まさかここを南国DEギグの会場みたいに…!?」
「香菜ぁ。安心していいよ~?多分右目に封印していた魔力が暴走して、第2の人格が出てきたりとか、魔王的な何かが復活するだけじゃないかなぁ?」
紗智ちゃんもそんな事してなぁ。
鳴海に包帯を巻いてもらって、封印がどうのとか言ってたっけ…。
「んと……あれ?あれ?」
ん?どうしたんだろうあの子ポケットをゴソゴソしながら何かを探してる?
あ、今度はバッグをゴソゴソしだした。
「あ、あった」
バッグから取り出したのはゴム紐?
ゴム紐を取り出した女の子は、右目にかかっていた前髪を上げて、ゴム紐で縛った。これで両目が見えている状態になった。
「クックック、どうやら…アタシの力が目覚めてしまったようね。こうなってしまっては誰もアタシを止める事は出来ない?」
「え?どうしたのこの子?口調も変わっちゃったし」
「今のアタシは風祭 百合子ではない。アタシは『闇を漆黒に染めし朱き混沌《ダークリリー》』だ」
「や、闇を黒に染めちゃうんだ?なのに朱き混沌…?」
「眠気もなくなっちゃう衝撃だね。百合だからリリーなの?」
「あ~…ガッカリだぁ。まさかその程度だったとはぁ~…」
ん?蓮見さん?その程度?
「何?…ガッカリ?その程度?どういう事だ…」
「んとね~…ちょっと見ててね~」
そう言って蓮見さんはバッグをゴソゴソとしだした。何をするつもりだろう?
「いくよ~?………うっ、目が…!あたしの中に封印していた朱き眼の力が…暴走しようとしている……グッ、ああ…」
蓮見さんはそう言いながら、右目を押さえてうずくまり、そして右手で右目を隠しながら立ち上がった。
「見るがいい!あたしの…!闇を切り裂く
そう言って右目から右手を離し、そこから現れた蓮見さんの右目は朱く染まり、オッドアイになっていた。
「え?わっ!すごいです!それどうやってるんですか!?ま、まさか本物?」
あの子『本物』とか言っちゃってるよ。自分のは偽者って暴露しちゃってるよ。
「んと、これはね。カラーコンタクトを素早くはめてるの~。馴れるまでは難しいんだけどね~」
「な、なるほど……。そんな手が……勉強になります!」
もうこの子ブレッブレだね。
「あ、あのさ?それよりどうしてあたしを倒そうとしてるのかな?って~。
ちょっと気になってるんだけど…」
「おお~!そうだそうだそうだった~。
何で香菜を倒したいの?」
「あ、そうでした。
………雪村 香菜!貴様は我が兄のカタキ!だからアタシが倒す!」
雪村さんがこの子のお兄さんのカタキ?
それって現実のお兄さんの話なのかな?それともアッチの世界のお兄さん?
それよりそのダークリリーは続けるんだね…。
「あたしが風祭さんのお兄さんの?えっと……ごめん。正直何の事かさっぱりなんだけど…」
「フッ、貴様は兄の事なぞ知るまい。
兄は貴様に破れ去った名も無きデュエルギグ野盗、ダークドラゴンだ!」
名も無きデュエルギグ野盗なのに、ダークドラゴンって名前あるんだ?
って事はお兄さんの名前には龍って漢字がつくのかな?
「あ、えっと…どう言っていいかわからないんだけど……あたしがデュエルギグ野盗狩りしてた頃の…?」
「いかにも!兄はメジャーデビューを夢見たバンドマンだった。
しかし、兄はクリムゾンのミュージシャンに破れ、デュエルギグ野盗へと堕ちた」
デュエルギグ野盗狩り?そういえば一時期そんなのがいるって噂を聞いた事あったっけ。それが雪村さんだったんだ?
「そしてデュエルギグ野盗へと堕ちた兄は、一般のバンドマンや市民を襲い、アタシ達家族すらも震えさせる最低の人間へと成り下がった。
しかし、アタシはいつかあの頃の優しかった兄に戻る。いつかまた優しいベースの音色を聴かせてくれる。そう信じていた」
「そしてそのお兄さんをあたしが…?」
「そう。兄はあなたに……デュエルギグ野盗狩りに破れた。
それからの兄は、モヒカンだった髪型を整え、中小企業に就職し、朝は5時に起きてランニング、朝食を済ませてから会社に行き、週3回のトレーニングジムに通い、その日以外はアタシ達家族と夕食を食べるようになり、お風呂の後は軽いストレッチをし、寝る前にホットミルクを飲んで夜の11時には就寝する。
そんな生活へと変わってしまった…」
「ぇ~?それっていい事じゃない?」
「ほうほう。香菜がお兄さんを更正させたのか~」
「今では兄にもアタシにも優しく、アタシ達の家族を大事にしてくれる、綺麗な彼女も出来、毎日充実した幸せな日々を過ごしている」
「だからそれっていい事じゃないかな?デュエルギグ野盗狩りにやられて良かったんじゃない?」
「ほうほう。貴ちゃんに知れたらキラークイーンで吹き飛ばされそうなお兄さんですなぁ~」
「しかし、兄は音楽を辞めてしまった。もうアタシは兄のベースを聴かせてもらえなくなった……だからアタシは兄から音楽を奪った雪村 香菜!貴様を許さない!!」
「そっか……あたしが…良かれと思ってやっていたデュエルギグ野盗狩りが……風祭さんのお兄さんから音楽を奪う事になっちゃったんだ……」
「ぇ~?雪村さんが気にする事じゃないと思うんだけど?」
「ん~……人の幸せってわからないものですな~。でもお兄さんが幸せな日々を過ごしているならいいと思うんだけどなぁ~」
「風祭さんが何であたしを恨んでいるのかはわかったよ。でも、あたしはデュエルギグ野盗は許せなかった!だから…。
それで…風祭さんは何でクリムゾンに入ったの?元々お兄さんをそんな風にしたのはクリムゾンに負けた事が原因でしょ?」
「そこだよね?」
「あたしもそう思いま~す」
「わからない人ですね。あなたを倒すにはクリムゾンに入るのが手っ取り早いと思ったからです。そして、あなたの大事な場所。Divalを壊すならここ以上の場所はないでしょう?」
「あたしの大事な場所…Divalを…?」
「あなたに関わりを持ったDivalは私が壊します。兄の使っていたベースで…必ず!」
それって完全に逆恨みじゃないのかなぁ?
風祭さんはそう言って、雪村さんに宣戦布告をして帰って行った。
途中から中二病設定なくなっちゃってたよね。……あの子にとってはそれくらいに思い詰めた事だったのかな?
「あたしのせいで……風祭さんのお兄さんは音楽を…。風祭さんはクリムゾンに……。Divalも……」
「香菜ぁ?気にしない方がいいよ~?お兄さん自身は今は幸せかも知れないし~。風祭さんの事もDivalで楽しい音楽を見せてあげればさ?何か変わるかも知れないし~?」
「でも……」
こっちも色々大変そうだね。
何とかしてあげたいけど、これからどうなる事やら……ね、奏、結弦、鳴海…。
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オレの名前は秦野 亮。
今日はFABULOUS PERFUMEのライブにゲスト出演させてもらう事が出来た。
ガキの頃からやりたかったバンド活動。こんなにも楽しいモノだったんだな。と、オレは今ファントムの外で余韻に浸っていた。
「あ、秦野くん」
「あれ?こんな所でどうしたんです?」
オレが余韻に浸っていると、Noble Fateの大西 花音さんとBlaze Futureの佐倉 奈緒さんが声を掛けてくれた。
この2人こそ何でこんな所に?
「こんばんは。今日は来てくれたんすね。ありがとうございます。
オレはお見送りを少し休憩して、ちょっと外の風に当たりに…」
「あ~、なるほど。あたしもフロアが人でいっぱいだったから疲れちゃって…」
「私達もちょっと外の風に当たりにね~。秦野くんも今日のライブお疲れ様」
そっか。確かにフロアはまだ沢山のお客様でいっぱいだしな。外のこの辺りにもまだ人は多いけど…。
「あ、そういや渉に聞いたんすけど、Noble FateもBlaze Futureも、Glitter Melodyのライブに出るんですってね。オレも観させてもらいますよ。楽しみにしてます」
「うっ……そうなんだよね…。まだ曲もないし練習もしなきゃなのに、もう2週間後か…」
「もう!花音も自分でやりたいと思ってバンド始めたんでしょ?せっかくなんだから楽しまなきゃだよ」
「いや、でもまさかあたしが歌詞を作る事になるとは思ってなかったしね…」
へぇ、Noble Fateは花音さんが歌詞を書くのか。
「佐倉さん?あんた佐倉 奈緒よね?」
ん?
オレ達が話をしているとひとりの女性が奈緒さんに話し掛けてきた。
FABULOUS PERFUMEのファンの人に奈緒さんの知り合いが居たのか?
「あ、えっと、す、すみません。どなたですか?」
「は!?あんたマジ!?あたしの事忘れてるとか超ありえないんだけど!?」
「えっと……ほんとごめんなさい…」
奈緒さんは本当に忘れてるって感じだな。
「ちょっと…奈緒。本当に覚えてない人なの?よく思い出してみなよ」
「え?いや、本当に覚えてないし……思い出せって言われても…」
「くぅ~~……!ちょっと!マジでムカつくんだけどっ!!」
「奈緒さん、ほら例えば昔の同級生とか、なんかそういうのないっすか?」
「同級生……うぅ~ん…基本的に小中高とぼっちだったし、誰とも関わらないように生きてきたしなぁ~。あ、もしかして大学かな?」
き、基本的にぼっちって…。だ、誰とも関わらないように生きてきたんすか…?
「大学でもほとんどぼっちでしょ…?あたしと綾乃さんとまどかさん以外と交流あったっけ?」
「あ、ないや」
ないの!?
「ほんとに忘れてるとかありえないんだけど…。まぁあんたは休み時間もイヤホンして机に突っ伏して寝てたし、誰が話し掛けてもガン無視してたよね」
誰が話し掛けてもガン無視って…。
「あたしはあんたと高校の頃3年間一緒だった
「若月……菫……さん?」
「は!?名乗ったのに思い出せないの!?」
名前を出してもらったのに思い出せないって……奈緒さん…。
「あの…本当にそれ私の事ですかね?」
思い出せないもんだから人違い説を持ち出した!?
「いや、この人ちゃんと佐倉 奈緒って言ってるし、やっぱり奈緒の同級生だった人じゃないの?」
「う~~ん……あ、もしかして授業中に居眠りしてて、いきなり『出ろぉぉぉぉ!ガンダァァァァム!』とか叫びだした……」
「違う!それは山下!」
「え……っと、それじゃ修学旅行のお土産屋で木刀を買って、龍槌閃の練習をして足の骨を折った……」
「それは山本!」
「………体育の授業でバスケの時にイグナイトパスの練習をして…」
「それは山崎!」
「テニスの授業で手塚ゾ…」
「それは山岸!」
「ごめんなさい…わかりません…」
「何でよ!?同級生の名前より、そんなどうでもいいエピソードの方が覚えてるって言うの!?」
それにしても奈緒さんの同級生の『山』率高いな…。
「ほら奈緒……いい加減思い出してあげなよ」
「そうは言われても…さっきのエピソードだって、こんな事があったなぁってだけで、顔も名前も覚えてないし……」
奈緒さんはどんな青春時代を過ごしてきたんだろう……。
「佐倉さん……あんたさ?もしかしたらサッカー部の池綿くんの事も忘れてるわけ?」
「サッカー部……?いけわた?………誰ですか?」
「サッカー部のエースで生徒会長にもなったあたし達の学校の女生徒の憧れ!池綿くんよ!」
「…その池綿くんが何か?」
「キィィィィィ!!あたしはね!中学も高校も学校中の男子と女子の憧れの的だったわ!まさにトップカースト!」
「はぁ……だったら尚更、底辺カーストだった私とは関わりがないと思うんですけど…」
自分で底辺って認めているのか……。
奈緒さんの見た目ならトップカーストに入れただろうに。今はオレ達にも優しいし、気さくに話し掛けてくれるし。
まぁオレにはシフォンの方が魅力的だが。
「そんなあたしが唯一落とせなかった存在がサッカー部の池綿くんなのよ!」
「そうなんですね…。それで私に何の関係が?」
「池綿くんはあんたの事が好きだったから!だから!」
何だそりゃ?それってただの逆恨みなんじゃねぇのか?
でも、交流もないのにそんな人からも惚れられるとか、さすが奈緒さんだな。
「ハッ、まぁいいわ。過去の事をネチネチ言うつもりもないし」
あ?別にそういう訳じゃねぇのか。
まぁ奈緒さんが高校の時って言ったらもう5年も前の事だしな。
「それよりさっきから気になってんだけど、そっちの彼。Ailes Flammeの秦野くんだよね?」
あ?オレ?
「え、ええ。そうですよ。オレが何か?」
「ふぅん……佐倉さん、秦野くんと親しそうだったけど、もしかして彼氏?」
「ないですよ」
秒で否定されたな。まぁ、別にいいけど…。
でもシフォンに否定されたら泣いていただろうな……。
「いや、あたしの目は誤魔化せないわ。あなた、秦野くんに惚れてるわね。秦野くんもまたあなたに惚れてると見たわ」
「「なんで?」」
いや、この人の目大丈夫か?
オレにはシフォンがいるし、奈緒さんには貴さんがいるしな。
-ゾクッ
あ?何だ今の寒気は…?
「あたしね。今バンドをやってるのよ。ドラムを担当してるの」
「は、はぁ…そうなんですね」
「いつか正式にあなた達Blaze Futureともデュエルをする事になると思うわ」
奈緒さんがBlaze Futureだと知っているだと?この人まさか…。
「フッ、佐倉さん、顔色が変わったわね」
「私がBlaze Futureのメンバーだと知っている。まぁ、可能性のひとつですけど、若月さんでしたっけ?クリムゾンでバンド活動をやっているんですね?」
「そうよ。あたしはクリムゾンエンターテイメントのミュージシャン」
やっぱりそうか。
しかし何だってファントムにクリムゾンのミュージシャンが?
奈緒さんも災難だな。元同級生がクリムゾンのミュージシャンだとか…。
「ふぅん。だったら奈緒ももちろんですけど、あたし達の敵って訳ですね。そんな人がファントムで何をやっているんですか?敵情視察とかそんな感じですか?」
「まぁ、そんな所よ。あたしにはぶっちゃけクリムゾンだとかファントムだとか関係ないんだけどね。クリムゾンに居れば露出も多いから目立つ。あたしは周りからチヤホヤされたいだけだったし?」
周りからチヤホヤされたい……か。
まぁ音楽をやる動機なんか人それぞれか。
「でも気が変わった。あたしらはあんたのBlaze Futureを潰す」
「は?どういう事ですか?」
「あたしがあんた達Blaze Futureに勝ったら……あんたの彼氏の秦野くんを貰うわ///」
は?オレ?何で?
てか、オレは奈緒さんの彼氏じゃねぇしな。
「奈緒……気持ちはわかるけど、顔に出てるよ。ものすっごい嫌そうな顔になってる」
あ、本当だ。奈緒さん……さすがにそんな嫌そうな顔をされるのは、いくらオレでも胸がチクチクします。
「フッ、秦野くんを取られるのが相当嫌なようね。あたしの好きだった池綿くんのハートを奪ったあなたへの復讐には、いい機会を手に入れたものだわ」
いや、結局その事恨んでたのかよ!?
「精々束の間の恋人同志を楽しんでおく事ね。………秦野くん、いずれお姉さんが大人の恋愛を教えてあげるから楽しみにしてなさい……フフフ///」
そう言って……っていうか、言いたい事だけを言って、若月 菫は帰って行った。
何だったんだ一体……。
「あ、あははは。な、奈緒も秦野くんも大変な事になっちゃったね……。いやぁ、これはしんどいわ…」
「ハァ……秦野くんごめんね。何か巻き込んじゃって…」
「いや、奈緒さんこそ……。まぁ、オレは奈緒さんの彼氏に見てもらえたのは男として嬉しいですよ(ニコッ」
「それってシフォンちゃんの前でも言えますか?」
「すみません…言えません…」
「……面倒な事になる前に貴に相談しときますか。渚と理奈に聞かれるのは避けたいけど無理だろうなぁ~。しんどいなぁ……」
あの2人は喜びそうですしね……。
オレもシフォンには丁寧に説明しておかないとな…。勘違いされても困るし。
「ま、まぁ奈緒もさ?タカさんを奪われるってよりいいんじゃない?ね?」
「は?花音は何を言ってるの?貴とか関係無いですし……」
しかし、さっきの若月 菫の感じだと、ひとりでファントムに敵情視察ってのは考えにくいな……。
控え室に戻って貴さんと英治さんに伝えるか…。
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私の名前は小暮 沙織。
いや、今はFABULOUS PERFUMEのシグレ。
ライブが終わりお見送りをしていたが、フロアの人達もまばらになってきた。
私もそろそろ控え室に戻って、着替えるとするかな。
「シグレ」
私が控え室に戻ろうとしていると、木南 真希さんに声を掛けられた。
彼女は私の姉の友達で昔からお世話になっている。私の正体を知る数少ない人のひとりだ。
「真希さん、今日もありがとうございます」
「いやいや、私もすっごく楽しませてもらったよ。Ailes FlammeもCanoro Feliceもevokeも凄かった。………やっぱりライブは最高だね!」
「はい、私もそう思います」
真希さんのバンドが解散って聞いた時は寂しい気持ちになったけど、まさか真希さんも私達ファントムでバンドをやる仲間になるとは思ってもみなかったな。
「あれ?あそこに居るのは美緒ちゃんかな?」
私が真希さんの指を指した方に目を向けるとgamut……いや、今はGlitter Melodyの佐倉 美緒ちゃんが居た。
「お~い、美緒ちゃ~ん」
「え?真希さんにシグレさん?」
私達に気付いた美緒ちゃんは私達の元へと歩いて来てくれた。
「真希さんもシグレさんもこんばんはです。シグレさんはライブお疲れ様でした。今日もかっこ良かったです」
「ふふ、ありがとう美緒ちゃん」
美緒ちゃん達のバンドとは直接対バンや、一緒にライブをした事はないけれど、私も美緒ちゃん達のライブを観に行った事もあるし、美緒ちゃんも睦月ちゃんと私達のライブによく来てくれている。
「あ、そういや美緒ちゃんありがとうね。大切なデビューライブのオープニングアクトを私達にやらせてくれるって」
「いえ、私達こそありがとうございます。せっかくですからゲスト出演して頂いても…って思ってたんですけど」
「私らはまだ曲が無いしね。でも必ずかっこいい曲を完成させて、Glitter Melodyのオープニングアクトにバシッとキメちゃうからね。期待してて」
「はい。よろしくお願いします」
Glitter Melodyのデビューライブでオープニングアクト?
それは楽しいライブになりそうだ。
日程が合えば私も観に行かせてもらいたいな。
「楽しいライブになりそうだね。よかったら私も観覧させてもらいたいのだが、日程は決まっているのかな?」
「その話、私も詳しく聞きた~い!」
え?この声は……。
私達の話に入ってきた人物。
その人は私の姉、小暮 麗香だった。
姉さんが何でファントムに…?
まさか本当に私の正体を知って…?
いや、バレるはずがない。
この姿で姉さんと会うのは初めてだ。
でも、クリムゾンエンターテイメントの情報網は……。
探らせてもらうわ。姉さん……。
「レ、レイ。何でここに?もしかしてFABULOUS PERFUMEのファンなの?」
真希さんも姉さんの仕事の事は知っている。クリムゾングループの会社というだけで、クリムゾンエンターテイメントに異動になった事までは知らないと思うけど……。
だから、真希さんは姉さんにも私の正体を秘密にしてくれている。
「私の職場でライブハウス『ファントム』は有名だからさ。ちょっとどんなライブやってるのか観に来たんだよ」
さて、私はどう対応するか…。
下手に喋らない方がいいかしらね…?
「それより真希ってバンドまた始めたの?うちにスカウトしようと思ってたのに残念だよ。あ、今のバンドのメンバーとうちに来る?優遇するよ?」
「いつも言ってるでしょ?それはお断り。もう歳も歳だしメジャーとかは考えてないよ。ただの趣味の延長だよ」
「そっか。残念。で?キミはgamutの佐倉 美緒ちゃんだよね?私、実はキミのファンなんだよね~。ね?うちでメジャーデビューする気ない?どうかな?」
「え?メジャーデビュー…ですか?えっと…」
「うん。うちはクリムゾンエンターテイメントだよ。聞いた事はあるでしょ?」
「クリムゾンエンターテイメント!?」
「ちょっとレイ……クリムゾンエンターテイメントに異動になったの?」
「そそ。大出世だよ~。ねぇ美緒ちゃん。どうかな?優遇しちゃうよ~」
「あ、あの……えっと…その…」
まずいな。美緒ちゃんはまだ高校生。
上手くはぐらかす話術なんて、まだ知っている訳がない。特に姉さんは強引だから…。
しょうがない。少し危険だけど私が…。
「はじめまして。真希さんのお知り合いですか?今日は私達のライブに来てくれてありがとうございます」
さぁ姉さん…どう応える…?
「はじめまして。FABULOUS PERFUMEもすごくかっこいいバンドだよね。どう?FABULOUS PERFUMEもうちに所属とか考えてみない?」
はじめましてか…。
私の正体がバレているというのは杞憂だったかな。
「すみません。私達はどこかに所属とか今は考えていませんでして…」
「そっかぁ。残念だなぁ」
「あの、私はそろそろ……」
そう言って美緒ちゃんはこの場を離れようとした。賢明な判断ね。
今はこの場から離れた方がいい。
「あ~ん、待ってよ美緒ちゃん。まだ返事聞いてないし~」
「ちょっとレイ!美緒ちゃんはまだ高校生だしさ。もうこんな時間なんだから引き留めるのも……」
「え~?ちょっとくらいいいじゃ~ん」
しょうがない。私も加勢して美緒ちゃんを逃がすかな。
「ねぇ?沙織もそう思うよね?せっかくクリムゾンエンターテイメントの幹部がこうやってファントムに来てあげたってのにさ」
………え?
今、姉さんは私の事を沙織と呼んだ?
やっぱり姉さんは私の正体を……。
どうする?どう誤魔化す…。
誤魔化せる?姉さんを?出来るの?私に?
「レイ……あんた何を言って…」
「その反応……やっぱり真希も沙織の事知ってたんだ?まさか可愛い妹と親友が私の敵だったなんて……ああ、なんたる悲劇なのかしら…」
敵?私達は姉さんの敵?
違う。私達はクリムゾンエンターテイメントの敵なだけで、姉さんの敵では…。
私は怯えている…姉さんを。
ずっと見てきた姉だから。姉さんは敵と認めたモノには…。
「ねぇ?沙織も真希も私の敵なんでしょ?だって私はクリムゾンエンターテイメント。あなた達はファントム。
美緒ちゃんも私のお誘いを断るって事は私の敵になっちゃうのかな?ねぇ?」
「レイ……わ、私は別にレイの敵って訳じゃ…」
「え?じゃあ真希はクリムゾンエンターテイメントに来てくれるの?」
「いや、あの…そういう訳じゃ…」
「私達はオセロの黒と白。決して交わる事はないの。だったらひっくり返って同じ色になるしかないでしょ?」
私達は姉さんの敵…。
「あの…」
美緒ちゃん?まずい……美緒ちゃんだけはこの場から逃がしてあげないと…。
「シグレさんも真希さんも怯えているって事は、お姉さんはきっと怖い人なんでしょうね」
「そんな事ないよぉ~。優しいお姉ちゃんだよ?ただ敵には容赦しないだけ♪」
「だったら言っておきますね。私はgamutじゃなくて、これからGlitter Melodyとしてバンド活動していきます。
クリムゾングループは嫌いですので、クリムゾンエンターテイメントに所属する事はありません。
だから、それで敵だという事になるんなら、私はお姉さんの敵になるんだと思います」
美緒ちゃん!?
「へぇー。そっかそっかぁ。美緒ちゃんは私の敵かぁ」
「レイ……ごめん。その理屈なら私もレイの敵だわ。レイとは友達って思ってんだけどさ。やっぱクリムゾンは私の敵だから」
真希さんまで…。
「真希まで私の敵になっちゃったかぁ」
真希さんも姉さんの容赦の無さは知っているだろうに…。
………ここならお客様も居ないし、大きな声を出さなければ大丈夫かな。
「申し訳ないが私達FABULOUS PERFUMEもクリムゾンエンターテイメントには所属は出来ない。
…………だから姉さん、私も姉さんの敵だわ」
「へぇー……沙織まで……」
「私はFABULOUS PERFUMEのシグレなんだ。一応正体不明なのでね。悪いがこの姿の時はシグレと呼んでもらえるとありがたいんだが…」
「あ~、そっかそっか、ごめんねシグレさん」
やけに素直ね…。逆に怖いわ…。
「プッ……ククッ…あは、あははははははは。もうダメ…苦しい。あははははははははは…」
ね、姉さん…?
「いやぁ、良かった良かった。沙お……シグレさんも真希も私の怖さって知ってる筈なのにさ?そう堂々と敵だ!って言ってくるとは。あははは」
良かった?
「レイ?良かったってどういう事?」
「いや、だってね?せっかくクリムゾンエンターテイメントの幹部になったのにさ。敵が居ないってのつまんないじゃん?あ、もちろんうちに来るって決めてくれてたら、それはそれで良かったよ?でも、やっぱり敵が居た方がゲームは面白いじゃない?」
ゲーム……?
「だからぁ…み~んな私が壊してあげる。ファントムもSCARLETも……私の敵はぜ~んぶ♪」
-ゾクッ
私にはわかる。ずっと姉さんを見てきたから…。
姉さんは本当に全く怒っていない…。
むしろ楽しんでいる……。
「覚悟しててね。私達に簡単に潰されないでね♪」
「潰されませんよ。私達は」
え?初音ちゃん?
いつから私達の話を聞いていたんだろう?私達の会話に初音ちゃんが入ってきた。
「あら?お嬢ちゃん誰?」
「私はここのオーナーの娘の中原 初音といいます。実質のボスです」
え?初音ちゃんがボス?
いや、さすがにそれは中原くんだろう?
「へぇ。ファントムはこんな小さい女の子がボスなの?面白~い」
「貧乳はステータスです」
「いや、小さいって胸の話じゃないよ?」
初音ちゃん…何でここに来たの?
中原くんか葉川くんが一緒ならまだしも…。
「それで?ファントムのボスが私に何のお話かな?」
「いえ、わざわざクリムゾンエンターテイメントの幹部様にお越しいただきましたようですので、私もご挨拶をと思っただけですよ」
「へぇー、そうなんだ?私は小暮 麗香。クリムゾンエンターテイメントには最近異動になったんだけどね」
「なるほどです。今後ともよろしくお願いしますね(ニコッ」
初音ちゃんは何を考えているの?
控え室に戻るよう言った方がいい?
「本当に?ファントムのボス様は私とよろしくしてくれるの?私達はあなた達の敵でしょ?」
「さぁ?敵とか味方とか私達はそんなつもりはありませんよ?私達ファントムはバンドマンが楽しいと思う音楽を、楽しんでライブをやる。そんな場所を提供しているだけですし」
「へぇー?そう。ファントムは私達クリムゾンにはノータッチ。そういう事かな?」
「もちろんですよ。クリムゾングループのような大きな会社に、私達みたいな小さいライブハウスがわざわざ噛みつくわけないじゃないですか」
なるほど。初音ちゃんもさすがと言ったところね。こうやって姉さんを上手くかわすつもりね。まだ[ピー]歳とは思えないわね。
あら?今の自主規制音は一体……?
「へぇ。そっかそっかぁ」
「ですが」
「ですが?何?」
「私達ファントムで楽しんでライブをやるバンドの邪魔をするなら私は絶対許さないです。容赦しません」
「何それ?結局それって私達の敵って事じゃん?」
「だからぁ、敵とかないですよ?私達を敵だと思うのはそちらの勝手です。私達は楽しんでライブをやるだけ。その邪魔をしてくるなら潰してあげるって言ってるんです。ですから私達の邪魔をしなければいいだけですよ(ニコッ」
「私達はクリムゾンだよ?そんな自由な音楽を今の世界で出来ると思う?」
「出来ますよ。音楽は自由に楽しんでやるものですから」
初音ちゃん…。
「世の中を知らないガキがナマ言ってんじゃないよ?(ニコッ」
「楽しいライブをやる私達に僻んでる年増女は、私達にちょっかい出したりせずに黙って見てて下さい(ニコッ」
初音ちゃん!?それはちょっと…!
「と、年増女……レイと同い年の私も初音ちゃんにはきっと…」
「ま、真希さん落ち着いて…」
「私が……ひが…んでる…?」
「あら?違いましたか?それは失礼」
「面白いね。初音ちゃんだっけ?
教えてあげるわ。クリムゾングループに歯向かう事がどれだけ無駄な事なのか」
「こんな事をゲームにするような連中に私達は負けませんよ。楽しい音楽が一番なんだって、きっとファントムのバンドがあなた方に教えてくれます」
「………なら挨拶がてら面白い情報を教えてあげるわ。九頭竜はDivalを敵視してる。なんだかあの子達が邪魔みたいだよ?」
九頭竜…?確かアルティメットスコアを研究していて遺伝子がどうこうって言ってた?
「そして二胴はBlaze FutureとLazy Windを危険視して潰そうとしているわ。きっと15年前の事があるからかしらねぇ?」
葉川くんと宮野さんの事か…。
やはりBREEZEとの事があるから?
「そして私は天花寺グループとの提携に成功させた事を買われてね。今ではあの2人と同列の幹部。JORKER×JORKERとinterludeを私の駒として二胴から引き抜いたの。二胴には他にも手駒はいっぱい居るしね」
JORKER×JORKERと言えばあの雨宮 大志のいるクリムゾンエンターテイメントのトップバンド…そんなバンドを姉さんが?
「そして今は全クリムゾングループから私の気に入ったメンバーを引き抜いてバンドを作ろうとしている所よ。7つくらいのすんごいバンドを率いて『麗香七武海』とか名乗るのも面白そうよね~」
全クリムゾングループから?
姉さんにそんな実権が…?
「私達クリムゾンエンターテイメントはそれくらい巨大な組織になってるんだよ。どう?怖くなったりしてないかな?それでも私達と戦える?」
「……何を怖がるんですか?貴重な情報ありがとうございます。お礼に私達も情報を」
初音ちゃんまさかSCARLETの事を!?
確かに姉さんに伝えれば牽制にはなるかも知れないけど、今はまだ……。
「私達ファントムはライブのやってない日はカフェを営んでいるんですよ。是非、コーヒーでも飲みにまた来て下さい(ニコッ」
「へ?それが情報?」
カフェって……初音ちゃん…。
「プッ……ククッ…あは、あははははははは。それが情報…あははは。てっきりSCARLETの事とか出してくるかと思ってたけど…あははは。おっかし~」
SCARLETの事!?まさかクリムゾンエンターテイメントはその事も知っているというの!?
「あははは。うんうん!初音ちゃん!私はあなたが超気に入っちゃった!やっぱりファントムを潰すのはやめとくわ~」
え?ファントムを潰すのを止める…?どういう事?
「あ、語弊があるね。うん。
ファントムは潰さないけど、ファントムのバンドは潰す。そして初音ちゃんに『ごめんなさい。ファントムを助けて下さい』って言わせてみせるね。ファントムとその時に残ってたファントムのバンドが私の手駒になるなら許してあげる♪」
姉さん……あなたはどこまで…!!
「じゃあね。私は帰るわ。またコーヒー飲みに来るね♪」
「お待ちしていますね♪その時はまたクリムゾンの情報もお願いします(ニコッ」
「了解♪」
そう言って姉さんは帰っていった。
初音ちゃん……本当にすごいな。姉さんに負けてなかった…。
その後、控え室に戻った私達は葉川くんと中原くんと佐藤くん、そして瀬羽さんに姉さんの事を伝えた。
どうやら他にもクリムゾンエンターテイメントのミュージシャンと会った人も居たらしい。
私達は情報を交換したが、葉川くんと中原くんと佐藤くんと瀬羽さんは声を揃えて『何とかなるんじゃね(ない)?』と言っていた。全く……本当にこの人達は…。
そして翌日。
私達はファントムに再び集まった。
双葉も病院に行っていたようだが、応急措置が良かったのか特に悪化はしていなかった。だが無理はさせられないので、私はまた松岡に双葉の面倒を見るように伝えた。
私達はこれからSCARLETの本社へと訪問する。