バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第7章 アルテミスの矢

オレはライブハウス『ファントム』に一人来ていた。

 

「りょ…亮さん。あの、コーヒーのおかわり…いかがですか?」

 

そう言ってファントムのオーナーの娘である初音ちゃんが話し掛けて来てくれた。

 

「ありがとう、初音ちゃん。是非お願いするよ」

 

「は…!はい!!」

 

まだオレより全然年下なのに、親の手伝いも接客もしっかりして…。

初音ちゃんは偉いな。

 

オレの名前は秦野 亮。

Ailes Flammeというバンドでギターをやっている。一応オレがバンマスらしい。

 

そう。オレがAiles Flammeのバンマスなのに、オレは今、バンドの練習を用があるとサボってコーヒーを飲んでいる。

 

渉も拓実もシフォンも、今頃はスタジオで練習してるだろう。それなのにオレは…。

 

「あれ?秦野?」

 

名前を呼ばれたので声のした方に目をやった。

 

「おう、クールビューティーか」

 

「は?あんたまで何言ってんの?」

 

そこには同じ学校の雨宮 志保がいた。

オレとは同じクラスじゃないが、最近はよく話す仲だ。

 

「秦野がファントムに居るのもあれだけどさ?一人とか珍しくない?江口とか内山は?」

 

「こないだ言わなかったか?オレ休日はたまにここにランチとかしに来るって」

 

「いや、もう夜だよ?それに今日平日だし」

 

何を思ったのか雨宮がオレと同じテーブル席に座った。一人で考え事してたかったんだけどな…。

 

「雨宮…。席なら他にも空いてるだろ?」

 

「え?迷惑?」

 

いや、面と向かって迷惑とか聞かれてもな…。

 

「迷惑って訳じゃないけどよ…」

 

「何か悩んでそうだな~って思って、話を聞いてあげよっかな?って。シフォンの事?」

 

なんでみんなオレが考え事してるとシフォンの事だと思うんだ…。

まさか、オレがシフォンに惚れているのがバレている?ふっ、まさかな…。

 

「なんでシフォンの事なんだよ。色々だよ色々…」

 

「ふぅん……色々って何?」

 

「色々っちゃ色々だ」

 

「ふぅ~ん……あ、初音、あたしアイスコーヒーお願い」

 

「は~い」

 

雨宮の注文に奥にいる初音ちゃんが返事をした。なんだよ、結局この席に居座るのかよ。

 

 

 

 

 

「………なぁ、雨宮」

 

「ん?何?」

 

どれだけ時間が経ったんだろう?

雨宮はアイスコーヒーを半分以上飲み終わっている。

それなのにあれから一切会話をしていない。

 

「お前さっきから全然喋らないな?」

 

「ん?何か悩んでんじゃないの?だから一人で考えたいのかな?って思って話し掛けなかったんだけど…」

 

いや、そうだけどよ。

 

「ならわざわざこの席に座らなくて良かったろ?雨宮も退屈だろ?」

 

「いや、別に?この席でも他の席でも一人でボーっとしてる事になるなら一緒じゃない?」

 

「……そう言われたらそうだけどな。何か話した方がいいかな?とか、オレが気にするじゃねーか」

 

「お?何か話す気になった?話してみ話してみ」

 

そういう意味じゃねーよ…。

 

「大体、お前は何でファントムに来たんだ?家に帰ったら愛しの渚さんが居るんじゃないのか?」

 

渚さんとは、雨宮がやっているバンドDivalのボーカル水瀬 渚さんの事だ。

挨拶程度しか話した事はないが、一応顔見知りではある。

雨宮は今、渚さんと一緒に暮らしているそうだ。

 

「あたしはその渚も含めてDivalのメンバーとここで待ち合わせだよ。バイトの終わり時間勘違いしててね。家に帰ってまたここに来るのもめんどくさいし」

 

「結局ファントムにも用事あるのか?」

 

「いや、今日はあたしのバイトの日だから晩御飯の用意出来なかったからね。またみんなで居酒屋でご飯しようって事になって。ここから近いお店だし」

 

「居酒屋って……お前、オレらまだ高校生だぞ!?」

 

未成年の飲酒ダメ!絶対!

 

「あたしはお酒は飲まないよ。居酒屋のご飯メニューが大好きでさ?ほら、家じゃ作れないのとか、作るの面倒な料理とかあんじゃん?」

 

「でもだからってな……」

 

「店長さんともお友達になったし、うちらミーティングとかよくその居酒屋でやってるんだよ。あ、たまに貴とか英治さんも来るよ」

 

「貴さんと英治さんまで…。そういや前にそんな事も話してたな。シフォンが行きたがってたっけ……」

 

まぁ、それだけ大人がついてるなら酒を飲む事もないか…。

 

「渚と理奈がすごいお酒好きだからね。家でもいつも2人は飲んでるし」

 

「渚さんも理奈さんもそんなに飲むのか…。何かイメージと違うな」

 

「ん?どんなイメージ持ってた?言ってみそ?」

 

「渚さんは…元気な明るい女子って感じで、歩き食い出来るようなクレープとかアイスとかそういうの好きそうなイメージで、理奈さんはいいとこのお嬢様って感じかな。テラスで紅茶を飲んでるような」

 

「あはは、そんなイメージだったんだ?あたしは?」

 

「雨宮は…昼に弁当食ってるのも見てるし、最近はよく話すからな。今更イメージとか言われてもな…」

 

「それもそっか」

 

「……さっきの悩んでる事の1つだけどな」

 

「うん?」

 

「オレ達Ailes Flammeにはまだ曲が1曲しか出来てない。渉もシフォンも歌詞を考えてくれてるけどな。もっと曲を完成させないとライブも出来ないな。ってな」

 

「う~ん…曲かぁ。うちも最近は理奈に任せっきりだしなぁ」

 

「Divalも3曲しかまだないんだよな?」

 

確か先日のライブでは3曲しかないって言ってたもんな。

 

「そうだねー。理奈が頭悩ませながら曲作りしてるけど…」

 

「11月のファントムギグまでには5曲…いや、6曲くらいは欲しいよな…」

 

「確かにね…でもAiles Flammeには曲はあるんでしょ?貴にアドバイスもらったんじゃないの?」

 

「自分達が伝えたい気持ちとか、かっこいいって想いをそのまま歌詞にすればいいってやつな」

 

「シフォンへの想いをそのまま歌詞にするとか!」

 

「バカ、そんな曲作ったら1曲でライブの出演時間終わっちまう」

 

「そんな長いの…?」

 

今は自分の伝えたい気持ちとか、音楽への想いとか…。そんな事がわからなくなっている。

オレが今日の練習をサボってしまったのもそれが理由だ。

 

evokeのライブでオープニングアクトをさせてもらって、ライブが楽しいって気持ちを知る事が出来た。

 

Blaze FutureとDivalのライブを見て、やっぱり音楽はすごい。音楽は楽しいって気持ちを改めて感じる事が出来た。

 

だけど、貴さんと出会ってBREEZEを知り、親父とお袋に昔の事を初めて話してもらって、クリムゾンミュージック……いや、クリムゾングループの事を改めて知って……。オレは音楽でどうなりたいのかわからなくなった。

 

オレから渉や拓実にバンドの話を持ちかけておいて…。

渉にもバンドを、ライブをやっていこうと言ってもらったってのに…。

 

親父達の復讐の為にオレは音楽をやるつもりはない。それはオレの親父とお袋も望んでいない。

オレがオレらしく楽しい音楽をやる。それが親父とお袋の望みでもある。

 

だけどオレは……。

わからない…。どうしたいんだ…。

 

「秦野?聞いてる?」

 

「あ、わ、悪い。考え事してた」

 

雨宮と一緒に居るのに思いっきり自分の世界に入ってしまってたぜ…。

 

「でさ?何?」

 

「だから考え事してて聞いてなかったって…」

 

「そうじゃなくて!秦野のほんとの悩み事。もうすぐみんな来ちゃうしさ。今のうちに話してみな。話してみたら何か変わるかもよ?」

 

「何か変わるかもって言われてもな…」

 

「うん、それってやっぱり他に悩んでる事があります。って事だよね?」

 

「あっ……」

 

雨宮ってそういうとこ鋭いよな。

 

「少なくともあたしはさ。Divalのみんなと話して……変わった。……変われたよ」

 

確かに1年の頃と比べたら雨宮は変わった。こうやってオレ達と話すようにもなったしな。

 

「Ailes Flammeのみんなには話し辛い事もさ。赤の他人のあたしになら話せるってもんでしょ」

 

赤の他人って…。思いっきり同級生じゃねぇか……。

 

「ハァ……。わかった。オレも一人で考えてても答えなんか出ないだろうしな」

 

オレは雨宮に話す決心をして、『少し長くなるかも知れないぞ?』と先に言った。

雨宮は黙って頷いてくれた。

 

「オレの親父とお袋は昔バンドをやっていてな。小さなライブハウスでライブやったりしながら生計を立ててたんだ。幼稚園児だったオレも渉もたまにライブに応援しに行ったりしててな。オレ達は親父達のバンドの曲が大好きだった」

 

雨宮は黙って聞いてくれている。

 

「けど、オレが小学生になった時くらいに解散したんだ。オレはガキなりな。うちはそんな裕福ってわけじゃなかったし、経済的な問題で解散したのかな?と思ってた。でもな…」

 

オレは熱くなりそうな気持ちを抑えて、静かに冷静に口を開いた。

 

「でもな。解散した理由はそうじゃなかった。親父達のバンドはクリムゾンに……」

 

「クリムゾン!!?」

 

オレは驚いた。いつもクールな雨宮が大声をあげて立ち上がったからだ。

 

「あ、雨宮…?」

 

「ごめん…。大きな声出しちゃって…。続けて…」

 

「あ、ああ……。その…クリムゾングループの会社にな。潰されたんだ。妨害とか色々とあったらしい」

 

オレはそのまま話を続けた。

 

「オレの親父達はそれよりずっと昔からクリムゾングループの音楽のやり方、在り方に反感があって、ずっと戦っていたらしくてな。結局は最終的に潰されたってわけだ」

 

「そっか。それで?何を悩んでるの?」

 

「オレはオレが大好きだった親父達を潰したクリムゾングループが憎い。クリムゾングループをぶっ潰してやりたいと思ってる。でも、そんな復讐の為に音楽をやりたい訳じゃない。オレは好きな音楽を復讐の道具にしたくない。Ailes Flammeのみんなをこんな事に巻き込みたくもない。それで、今、オレがこれからどうしたいのかわからなくなったんだ。楽しい音楽をやりたい。でも、クリムゾングループも潰したい…」

 

「うん」

 

「こないだ渉にも少しこの事を話した」

 

「江口は?何て言ってた?」

 

「楽しんで音楽やって、何かあったら何かあった時に考えりゃいいって…」

 

「あたしもそれでいいと思うよ」

 

「ああ…、そうなんだけどな…」

 

「あたしの知り合いにね」

 

「ん?」

 

「んー、あー……。めんどくさいな…」

 

雨宮?

 

「うん、まぁいっか。……あたしの知り合いじゃなくて、あたしの話なんだけどさ?」

 

それから雨宮は自分の事を話してくれた。

 

自分の両親がバンドをやっていた事。

母親が事故で亡くなってバンドを解散した事。

そしてその後、父親がクリムゾングループのバンドに入った事。

父親がクリムゾングループ以外のバンドを潰していっている事。

父親に潰されたバンドのメンバーに恨まれて襲われるようになった事。

雨宮も復讐の為に音楽をやっていた事。

そして、Divalのメンバーと出会って変われた事。

 

「だけどあたしもね。今もお父さんを、クリムゾングループを倒す為にって気持ちも消えてないよ。いつか必ず倒す」

 

「雨宮…」

 

「でもそれは通過点なの」

 

「通過点…?」

 

「あたし達Divalは最高のバンドになる。お父さんを倒す事も、クリムゾングループを倒す事も、最高のバンドになる為の通過点だよ」

 

『天下一のバンドな。なろうぜ、俺達が』

 

渉…。

 

「あたしは最高のバンドになる為に楽しんで音楽をやる。それだけだよ」

 

「渉も言ってたな。天下一のバンドにオレ達がなろうって。そうだな。天下一のバンドになる頃には、クリムゾングループもぶっ潰してる事になるか…」

 

「は?江口と一緒にしないでくれない?」

 

雨宮…。渉にはきついな…。

 

「雨宮、ありがとうな。渉にもそう言われてたのにな。やっと…吹っ切れた気がするよ…」

 

拓実とシフォンにもこの事はちゃんと話そう。オレはそう思った。

 

 

 

 

「話は聞かせてもらった!」

 

オレ達が声のする方に目を向けると…。

 

「亮!お前、幼馴染の俺も同じ事言ってたのに!なんで雨宮の言葉で吹っ切れるんだ!?俺涙目じゃねーか!」

 

わ、渉!?何でここに!?

 

「亮!水くさいよ!!僕らに先に話して欲しかったよ!!僕も亮と一緒に戦いたいんだよ!」

 

た、拓実?

 

「亮く~ん!練習をサボって志保とデートとかやるじゃ~ん!まぁ、それはいいとして!!

クリムゾングループはボクも嫌いなんだからね!ボクも戦うよ!!悩んだらボク達に相談して?仲間じゃん」

 

「ありがとうな、シフォン。でもこれはデートじゃない。あいつが勝手にオレのテーブルに座ってきただけだ。オレがデートしたい相手は目のま…」

 

「私達も話は聞かせてもらった!途中からだけど!」

 

また!?次は誰だ!?

今からシフォンに大事な事を伝えようとしてたのに!

 

オレ達がまた別の声がする方に目を向けると…。

 

「志保!まさかAiles Flammeのギターくんとデートをしているとは!?」

 

「渚……?話は聞かせてもらった!って言ってたよね?話を聞いてたくせにそう思ったの?」

 

「志保、そのAiles Flammeのギターくんにはちゃんと謝っておきなさい。私達が最高のバンドになるのだから、天下一のバンドになれる事はないわ」

 

「理奈はなんでそんな強気なの?」

 

「ごめんね~。渚も理奈ちも志保のバイト終わるまでにウォーミングアップしとこうとか言って、家でもう戦乙女を2本あけるくらい飲んじゃってさ……止めなかったんだけどねっ!」

 

「今から飲むんでしょ!?ウォーミングアップって何よ!?いきなりラストスパートくらい飲んでるじゃない!」

 

「最初から最後までクライマックスだぜ!」

 

「渚~、少し落ち着こう?ね?」

 

渚さんも理奈さんももう飲んでるのか…。

大変だな、雨宮……。

 

そして渚さんがオレに近寄って来た。

 

「秦野くんだっけ?亮くんだっけ?」

 

何で貴さんと同じ聞き方するんだ、この人。

 

「どっちも合ってます。あの、なんすか?」

 

「クリムゾングループを倒すとか、お父さんとお母さんの仇を討つとか。それも大事な事なのかも知れない。でもね?秦野くんが楽しく音楽がやれないなら、それは意味のない事なんだよ。だから、今は楽しんで音楽をやって。そして、その時が来たら戦おう。私達も同じ音楽が好きな仲間だよ。一緒に戦うよ」

 

渚さん…。

 

「ぷっ、ふふ、くふふ…」

 

「笑われた!?私なんかおかしい事言った!?」

 

「す、すみません、渉も渚さんも…貴さんと同じ事言うから…おかしくて…ふふ」

 

「先輩と同じ!?」

 

「貴さんも言ってくれたんすよ。その時が来たら一緒に戦ってくれるって」

 

「先輩と……同じ…だと……!?」

 

「そんなショックなんすか?」

 

渉や貴さんや渚さんだけじゃない。

拓実もシフォンも一緒に戦うと言ってくれた。

雨宮もクリムゾングループを倒す気でいる。

 

オレは音楽が好きなのにな。

好きだからバンドをやる。それだけなのにな。

こんな事で自分がわからなくなるなんてバカみたいだな。

 

「仲間…か。貴さんも…昔のBREEZEもそう思って戦う事にしたんだろうな。クリムゾングループと」

 

「うん!そうだよ!たか兄もおっちゃんもトシ兄も!仲間の為に『アルテミスの矢』になったって言ってたもん!」

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

オレとシフォンが楽しく愛を語らっていると雨宮が割り込んできた。

 

「『アルテミスの矢』って何?何なの!?」

 

雨宮が珍しく興奮している。さっきのクリムゾンの名前が出た時といい今日は珍しい雨宮を見れる日だな。

 

「『アルテミスの矢』って実在したのね。うちの父の戯言だと思っていたのだけれど…」

 

「ん?理奈ちのお父さんも『アルテミスの矢』だったん?」

 

理奈さんと香菜さんも『アルテミスの矢』を知っているのか。

そういえば香菜さんもシフォンと同じように英治さんにドラム習ったんだもんな。

 

「だから、その『アルテミスの矢』って…」

 

おっと、雨宮に説明するの忘れてたな。

オレも詳しく聞いた訳じゃないが教えてやるか。

 

「雨宮、『アルテミスの矢』ってのはな。昔に居た伝説のガールズバンドArtemis(アルテミス)ってバンドが中心となってクリムゾングループと戦っていた団体の名称だ」

 

オレが説明しようとしたら渉が説明しだした。何でお前がそんな事知っているんだ?

 

「団体って言っても別に徒党を組んで戦ってたわけじゃないし、中には会った事ないバンドさんも居たりもしたし、まぁ、クリムゾングループを倒すぞー!傘下にはならないぞー!って同志の集り。仲良しバンドの集りみたいなもんだ。元々はにーちゃんのバンドの拓斗って人が結成したらしい」

 

「江口…何であんたがそんな事知ってんのよ……」

 

オレもそれは疑問だ。しかもオレより詳しいし。

 

「いや、そこで英治にーちゃんがカンペ持ってるから読んだだけだぞ?」

 

「英治さん!?」

 

「ハッハッハ、見つかっちゃったか」

 

そういやここファントムだもんな。

英治さんも居るわな…。

 

「英治先生ちわ~す!」

 

「おっちゃんハロー!」

 

香菜さんとシフォンが挨拶をした。

 

「いやー、なんか懐かしい話してるなって思ってな」

 

「英治さん…。あたしのお父さんとお母さんも『アルテミスの矢』だったの?」

 

雨宮のご両親も?ちょ、待てよ。

雨宮の親父さんって今はクリムゾングループに……。

 

「タカ……は、言わないか。誰かに聞いたのか?」

 

英治さんが雨宮に質問した。

 

「ううん、まどかさんの部屋で…昔のアルバムを見せてもらって……そこに貴とお父さんとお母さんの写真があって。段幕に『アルテミスの矢』って、反クリムゾングループって書いてたから…」

 

「あー、拓斗が悪ふざけで作った旗か。あいつヤンキー漫画好きだったからなぁ…。てか、何でまどかはそんな頃の写真を持ってるんだ…?俺はそれが怖い」

 

雨宮の親父さんは今、クリムゾングループの事務所のバンドをやっている。

けど、昔はクリムゾングループを倒す為の『アルテミスの矢』の一員だったって事か…?

 

「英治さん、教えて。お父さんも『アルテミスの矢』だったの?」

 

英治さんは少し困った顔をしたが…

 

「そうだよ。大志さんも香保さんも『アルテミスの矢』だった。俺達と一緒にクリムゾングループと戦うバンドマンだった」

 

「そっか。だからお父さんがクリムゾングループでギターやってるって言った時、英治さんは遠い目をして、貴は話を打ち切ろうとしたのか…」

 

「いや、関係ないよ。俺は昔が懐かしくて思い出してただけだ」

 

「お母さん……胸大きかったもんね…」

 

「ああ…、大きかった。いつも見てた。………うん?違う!違うぞ!?別に香保さんのおっぱいを思い出してたわけじゃない!!」

 

「雨宮、元気出せ。それなら遺伝的にはいつか雨宮も大きくなるかもしれない」

 

「江口……そんなに学校卒業したくないの?」

 

雨宮…大丈夫なのか…?

 

「ありがと、英治さん。おかげでスッキリした」

 

「そうか?なら良かったけど…」

 

「お父さんが昔にクリムゾングループを倒そうと戦ってたとしても、今はクリムゾングループのバンドマンだったとしても。あたしのやる事は変わらない。楽しんで音楽やってくだけだから」

 

雨宮…、強いな。いや、Divalのみんなのおかげで強くなったのか。

オレもAiles Flammeのみんなと居たら、もっと強くなれる気がする。

いや、今はそう思える。

 

「渚、理奈、香菜!ごめんね!そろそろ行こうか」

 

「ええ、行きましょうか」

 

「うん、行こ。あたしお腹空いちゃったよ~」

 

雨宮がそう切り出して理奈さんと香菜さんが応え、ファントムを出ていった。

なのに、渚さんだけは英治さんの側に居た。

 

「渚ちゃん?どした?」

 

「英治さん。Artemisってバンドなんですけど…」

 

Artemis?

『アルテミスの矢』の中心だったってバンドか?

 

「渚ちゃん、Artemisを知ってるか?この辺じゃライブもあんまりやってないし、CDも出してない伝説のバンドって感じなんだけど……」

 

オレもArtemisってバンド知らないしな。

正直聞いた事もない。

 

「いえ、ほとんど知りません」

 

ほとんど…?

 

「あ、そっか。渚ちゃん関西だっけ?Artemisは拠点が関西だったからな。あっちでは名前くらいは通ってたのか?東のアーヴァル、西のArtemisって言ってたくらいだしな!俺らが勝手にだけど!」

 

「Artemisのボーカルは木原 梓(きはら あずさ)さんですか?」

 

「そうだけど…?渚ちゃん、梓の事知ってるのか…?」

 

「やっぱりそうですか。ありがとうございます」

 

「渚ちゃん?」

 

英治さんと渚さんがそんな話をしていると…

 

「渚ー!行くよー!」

 

「わ!待って!すぐ行く!」

 

雨宮が渚さんを呼んで、渚さんももう一度だけ英治さんに頭を下げて走っていった。

 

「亮!」

 

オレが走っていく渚さんを見ていると渉が話し掛けて来た。

あ、そうだ。オレも渉達に聞きたい事があったんだ。

 

「そうだよ!渉!お前ら今日は練習じゃなかったのか!?何でファントムに居るんだよ!」

 

渉!とは、言ったもののオレは拓実とシフォンにも問いただすつもりで聞いてみた。

 

「あ?そんな事か?」

 

そんな事って…。

 

「井上くんがね。なんか亮の様子が変だって言ってたみたいでね。シフォンにその連絡が行ってさ。

僕達も練習を休んで亮の様子を見ようって思ってさ」

 

「亮はボーっと歩いてるみたいだったからな!尾行するのも簡単だったぞ!」

 

「そうだったのか…。悪かったな心配かけて……。って、その井上は来てないのか?」

 

「ああ、今日はどうしても大事な用事があるらしくてな?俺達もシフォンの連絡先知らないから大変だったぞ?俺と拓実で尾行しながら井上に連絡して、井上からシフォンに連絡してもらって、シフォンからの返事をまた井上が俺達に連絡してくれて。って感じで」

 

「そうか…。井上にも迷惑かけちまったな……」

 

「……お前も大変だな、シフォン(ボソッ」

 

「おっちゃん…お願い…。ボクにシフォン用のスマホ買って…。みんなボクが遊太だって未だに信じてくれないし…(ボソッ」

 

明日、学校行ったら井上にも礼を言わないとな。

 

「なぁ、渉、拓実、シフォン。今日はすまなかったな。そして、ありがとうな」

 

「気にすんな!」

 

「もし今度僕が悩んだりしたらその時はお願いね、亮」

 

「そうだよ亮くん。ボク達は仲間なんだからね!」

 

みんな…ありがとう。

そうだな。オレ達は仲間なんだよな。

 

そしてオレはある事を思い付いた。

 

「そうだな。オレ達は仲間だもんな。それで今思ったんだけどな」

 

「なんだ?」

 

「ライブの時はさ。オレ達Ailes Flamme のトレードマークみたいなお揃いの何かを持ってみないか?ほら、BLASTならバンダナ、キュアトロならピンキーリングとかあるだろ?なんかそんな感じでさ」

 

「わぁ!いいね!それ!僕は大賛成だよ!」

 

拓実が賛成してくれた。

 

「ボクも!なんか可愛いのがいい!」

 

そうだな。シフォンは女の子だし、男女で持てるようなものがいいな。

そしていつかオレとペアリングとかしような。シフォン。

 

「俺もそれはいいと思うけどな。どんなのにするんだ?」

 

「それを今から4人で話し合おうぜ」

 

「「「そうだね(な)」」」

 

 

 

 

 

そしてその日4人で色々話し合い、オレ達のアイテムが決まった。

 

英治さんにBREEZEの時はそういうトレードマークみたいな物はあったのか聞いてみたら、それぞれメンバーには自分のピックがあって、それをネックレスとかブレスレットとかに着けてたそうだ。

 

貴さんが黒色のピックで、英治さんが金色のピック、トシキさんが銀色のピックで、拓斗って人は白色のピックだったらしい。

 

ピックのネックレスとかいいんじゃないか?と、渉が言ってそう決まった。オレ達Ailes Flammeは個人ではなくバンドとしてのピックを作り、そのピックに紐を通してネックレスにしようという事になった。

カラーは話し合った結果、炎と翼のイメージから赤地と白文字のピックにしようという事になった。

 

このピックのネックレスが

オレ達Ailes Flammeの仲間の証になった。

 

それから夏休みに入り、オレ達は曲作りも順調で、夏休みを活かして渉と拓実はリゾートバイトに行く事になり、夏休みの後半には、オレ達のライブが決まった。


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