バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第3話 美来と有希

「はぁ~、1週間よく頑張った俺」

 

俺の名前は葉川 貴。

今日は金曜日。明日と明後日の休みをいかにだらだらと過ごすか必死に考えている。

 

朝の5時には起きてゲームを起動し、イベントを走り、録画溜めしていたアニメを観ながらラーメンを食べて過ごそうか?はたまた何か新しいグッズや漫画が出ていないかとアニメショップへ向かおうか?

 

ふふふ、これはどの選択をしたとしても有意義な休日を過ごせるに違いない。オラわくわくしてきたぞっ!

 

そんな事を考えていると、俺のスマホが鳴り響いた。

し、しまった…。俺とした事が帰宅したのにサイレントモードにするのを忘れていた。

よし、このまま気付かない振りをして風呂に入ってくるかな。

 

 

 

 

俺は1時間ほど風呂に入り、ゆっくりとホカッてきた。

後は寝るだけである。何て幸せな時間なんだろう。そう思いながらベッドにダイブしようと部屋に入ったんだが……まだ俺のスマホ鳴り響いてんですけど?

 

何なの?俺が風呂に入ってる間ずっと掛けてたの?暇なの?俺はそう思い、誰からの電話なのかを確認した。

 

電話を掛けてきたのはArtemisのボーカルの木原 梓だった。何なの?何か用事ですかね?

このまま電話を無視したとしても、こいつの性格上俺が出るまで延々と電話を鳴らし続けるだろう。

 

それなら早く出て用件だけ聞いて早目に切ってしまうのが吉だ。

 

俺はしぶしぶと電話に出る事にした。

 

「あ、もしもし…梓か?悪い、寝てたわ…」

 

「……」

 

ん?

 

「梓?」

 

「……」

 

何で?何で無言なの?こいつ、まさかとは思うが俺に電話を掛けるだけ掛けて寝てしまった?それともなかなか出ない俺におこ?

 

「もしも~し?梓?切るぞ?電話切っちゃうぞ?」

 

よし、これはチャンスだ。このまま電話を切ってしまおう。履歴には俺が電話に出た事が残るはずだから、今度何か文句を言われる筋合いもないだろう。

 

俺がまさに電話を切ろうとした時…、

 

『あ、タカくん?やっと出てくれた』

 

チッ、逃げられなかったか。

 

「お前人に電話掛けておいて何してるの?」

 

『なかなか出ないからゲームしながら放置してたんだよ』

 

「そうか。それは大変だな。ゲームの続きがしたいだろう?もう切るぞ?」

 

『あたしが電話してるのに無視してお風呂に入って来たくせにそんな事言うの?』

 

何で知ってんだよ。まさか俺の部屋監視されてるの?

 

「む、無視なんかするわけないじゃん。何言ってんだよ。それより何の用?」

 

『ああ、それなんやけどね。明後日暇だよね?タカくんのお仕事土日休みやし』

 

明後日?何かあんのか?

まさか明後日こっちに遊びに来るとか?

 

「それが残念な事に明後日は忙しいんだよ。悪いな」

 

ん~、久しぶりに会いたい気もするが、11月末か12月にはこっちに帰ってくるなら、いつでも会えるようになるしな。明後日は渚なら暇だと思うぞって伝えて、渚と会わせてやった方がいいだろ。

 

『家でだらだらとごろ寝するのは忙しいって言わないよ?』

 

何でそう思ったの?遊びに行くとか思わないの?

 

『まぁ、そんな訳でさ。あたし明後日、日本に帰るから迎えに来てくれないかな?って思って』

 

やっぱりか。なら渚に伝えて渚に迎えに行かせてやるか。

 

「そういう事なら渚に頼んだらいいんじゃねーか?渚も梓に会いたいだろうし」

 

『あ、うん。なっちゃんも呼んでくれるなら呼んで欲しいけど』

 

なっちゃんも?『も』って何だよ。なっちゃんだけでいいじゃん。

 

『タカくんが来てくれないと荷物重いし、あたしの可愛いなっちゃんには持たせられないよ』

 

は?荷物?荷物持ちかよ。

だったら俺が行くしかねぇか。てか、渚や理奈の方が俺より力強いですけどね?

 

「荷物持ちかよ。わかったよ俺も行ってやるよ」

 

『ありがと~。わぁ♪頼れるぅ~♪』

 

「んで?何時頃にどの空港なんだ?」

 

『あ、それは後でメールするよ。英治くんとトシキくんも出来れば連れて来てね。荷物大変やと思うし』

 

「は?英治とトシキも?どんだけ荷物あんだよ」

 

『大体は送っちゃったんだけど、英治くんとトシキくんには部屋への搬入とか?お引越しのお手伝いして欲しいかな?って』

 

「は?引越し?」

 

『うん。明後日からあたし日本に永住するから』

 

「は!?」

 

『よろしくね。タカくん』

 

「お前…明後日から永住って11月末か12月くらいじゃなかったのかよ!?」

 

『その予定だったんだけど、あたしだけ早く帰る事にしたんだ。おじいちゃんは残るんだけど』

 

「あのな…それでもいきなりすぎるだろ」

 

『あ、タカくんがなかなか出てくれなかったから電池切れちゃう…!ま、またメールするからっ!』

 

「あ、あのなっ!」

 

『ずっと会いたかったよ。…早く会いたいね。タカくん』

 

「あ、ああ。俺も会いたい…かも」

 

『フッ、ちょろ』

 

なっ!?こ、こいつ…!!

 

-プツッ

 

そこで電話は切れてしまった。

 

はぁぁぁぁ……一気にめんどくさくなっちまった。

でもまぁ渚達にも連絡しとく……。

 

俺は渚達にも梓が明後日の日曜日に日本に帰って来てそのまま永住する事を伝えようと思ったが、その前にやるべき事を思い出した。

 

梓が帰ってくるまでに、ハッキリとさせておきたかった事。

渚達に連絡するのはその話が終わってからでいいだろう。明日の土曜日もだらだろ出来なくなるが…。

 

俺は英治とトシキ、澄香と日奈子と翔子とあいつに連絡した。拓斗は……どうすっかな…。

 

 

 

 

 

翌日の土曜日。

俺は駅前である人物を待っていた。

ある人物と言っても、前回の2話のラストでネタバレしてるし、読者には誰の事かわかってるだろうけどな。

 

えっ?待って!?

って事は俺はこの後殴られる運命なの!?

ヤバい。これは今のうちに逃げるしかない。

 

大事な話もあるし、俺がこの場から逃げてしまうと呼び出した人物は待ちぼうけをくらう事になる。

だからと言ってこのままここに居ても、俺は殴られる運命にある。ど、どうすればいいんだ…。

 

 

「お待たせ。待った?」

 

 

ああ、来ちゃったか。もう運命を受け入れるしかないか。

 

「おう、美来。今日は呼び出したりして悪かったな」

 

「連絡先を交換早々にデートのお誘いとは。タカくんはやはり軽薄」

 

「ん、まぁデートじゃないんだけどな」

 

「そうなの?それで?何処に連れて行ってくれ……何処に連れ込まれるの?」

 

「何でわざわざ言い直したの?それより美来、1人なのか?」

 

「?1人だけど?」

 

何だと!?前回のラストでは確かに美来は、渚と美緒ちゃんに連絡したと言っていた。なのに1人…?

俺が今日呼び出したのは、美来とBREEZEとArtemisのメンバーのみ…。

美来が1人という事は俺は運命に抗う事が出来たという事か…!?

 

「タカくん?」

 

「い、いや、何でもない。ちょっと早いけど飲み屋に行かないか?ゆっくり話も出来るだろうしな」

 

「飲み屋に…?お酒?」

 

「あ、ああ。どうかな?」

 

「まさかあたしを酔わせてその勢いで?」

 

「いや、ないから」

 

「まぁいい。ちょっと飲みたいと思ってたとこだし」

 

「じゃ、じゃあ行こうか」

 

やった!やった!やったぞ!!

俺の殴られる未来は回避出来た!俺の時代が来たという事か!?

 

俺と美来はそのままそよ風に向かった。

殴られる予定だった未来を回避出来た俺は少し浮かれていたが、今から美来や英治達に大事な話をしないとな。

 

 

 

 

「このお店?」

 

「ああ、本当は予約とか出来ない店なんだけどな。今日は特別に個室を予約させてもらったんだよ」

 

「個室…?不安になってきたんだけど?」

 

「何もしないから安心しろ」

 

「何もしてくれないのか…」

 

「あ?何か言ったか?」

 

「別に。何でもない」

 

そして俺は美来と一緒に店員さんに予約していた個室へと通してもらった。他の奴らはもう来ているだろうか?

 

俺が個室の中に入ったその刹那。

 

-ドゴッ

 

「ぐはっ…!」

 

な、なにぃぃぃぃぃ!?

俺が油断していた所にリバーブローを入れられた。

俺にリバーブローを入れてきた人物…!

俺は苦痛に堪えながらその姿を捉えた。

 

 

……奈緒!?

 

 

バカな。何故奈緒がこんな所に…!?

次の瞬間奈緒が俺の視界から消えた。

奈緒がこの場に居たという事は渚も…?

 

まずいっ!俺はとっさに顔面を殴られない為にガードを上げた。しかし、それが俺の判断ミスだった。

 

-ドゴッ!

 

「ガッ…!!」

 

俺がガードを上げた所を狙われ、下から突き刺さるように顎を殴られた。ガゼルパンチ…!?

俺の顎を突き上げた人物が視界に入る。

 

 

……理奈!?

 

 

-ヒュン、ヒュン、ヒュン

 

理奈の後ろでは渚が∞の字の軌道でウィービングしながら俺に近付いてくる。

リバーブローからのガゼルパンチ…そしてこれは…デンプシーロール!?

 

間違いない。これは幕ノ内一歩が千堂を破り日本チャンピオンになった時のフィニッシュブローだ…!

 

そう思った時には既に遅かった。

 

-ドスン

 

渚の一撃目が俺の両手のガードの上に入る。重い…!

何とか一撃目をガードする事は出来たが、すぐに二撃目が…!

 

-ドスン

 

-ドスン

 

-ドスン

 

二撃目、三撃目、四撃目と物凄いスピードで渚のデンプシーロールが俺に襲いかかる。

 

ダメだ。今のところは何とかガード出来ているが、すぐに俺のガードも弾かれる…!そしたら…俺は…!

 

このままやられる訳には…!!

 

「うがぁぁぁぁぁぁ!!」

 

-ヒュン

 

俺は防ぐ事を止め、逃げる道も選ばず、渚のパンチに自ら飛び込み、ギリギリの所で渚のパンチをかわした。

これだけ前に突っ込めばデンプシーロールは止まらざるを得ない。俺の勝ちだ!!

 

渚のパンチをかわした俺は勝利を確信した。

しかし……。

 

-ズドン

 

俺がかわした先には美緒ちゃんのパンチが…。

俺は渚のデンプシーロールを破る事には成功したが、美緒ちゃんのパンチに自ら突っ込む形で、思いっきりカウンターで喰らってしまった。

 

「お兄さん…次はないと言ったはずです」

 

俺の意識はそこで途切れた。

 

 

 

 

「おい。タカ?生きてる?お~い」

 

俺は何とか意識を取り戻す事が出来た。

かに、思えたがどうやら俺は地獄に落ちてしまったらしい。もっと生前に徳を積んでおけば良かった…。

 

「……どうやら俺は死んでしまったらしいな。鬼がいる」

 

-ドゴッ

 

「す、澄香さん?」

 

「すみませんお嬢様。タカはもう…」

 

「ははは、澄香ちゃん、ちょっとやりすぎじゃないかな?」

 

「だ、だよね。そんな事よりトシキさん、一緒にお酒飲むの久しぶりだね?」

 

「翔子先生が翔子先生じゃない…」

 

「あ、美緒ちゃんにしてみたらこの光景って珍しいのか?俺らからしたら懐かしい光景だよな、拓斗」

 

「ああ、トシキの前だといつも翔子はああだけどな。俺らは見馴れた光景だよな」

 

ん?あ?ここって地獄じゃなかったのか。

え?もうみんな集まってんの?

それより頭がすごく気持ちいいんだけど何だこれ?

 

「ああ、俺死んだ訳じゃなかったのか。みんな揃ったの?」

 

「いや、お前が呼んだみんなってのが誰だかわからねぇんだけど?」

 

「タカ兄はもしかしてBREEZEのメンバーとArtemisのメンバーを呼んだとか?だったら日奈子さんがまだかな?」

 

「ねぇ~、あたしお腹空いたんだけど~。注文していいかなぁ?」

 

「あはは、盛夏はいつもそれだね。ん、じゃあ先にあたしらで始めちゃう?」

 

何なの?何でBlaze FutureとDivalのメンバーまで居るの?あ、そういや姫咲まで居やがる。

 

俺がそんな事を考えていると、俺達の居る個室の扉が開かれた。

 

「遅れちゃた?ごめんね~」

 

どうやら日奈子も到着したようだ。

俺の意識が回復したのはタイミングが良かったな。

てか、意識が回復するのに普通はタイミングが良いとか悪いとかないからね?

 

「は!?何で!?」

 

「何でここに…?」

 

あ?志保と有希まで来たの?

後ろに居るのは渉か?

 

「ん?しーちゃんに有希?えぐっちゃんも?1週間振りだね」

 

美来が志保達に挨拶をしていた。

ん?志保は会った事はあるし、渉も会った事はあるかもだが、有希とも会った事あんのか?

 

「あ?美来って有希とも知り合いなの?」

 

「うん。知り合い」

 

「ちょっと!美来さん!?先週あんな事言ってて何でここに!?」

 

「志保?美来お姉ちゃんと先週会ったの?え、私聞いてないよ?」

 

「タカくんに大事な話があるから来いと言われた。まさかプロポーズかと不安に思って、なっちゃんとみーちゃんに相談したらみんな集まった」

 

ああ、そういや前回のラストそんな感じの話をしてたな。てか、何なの?俺が呼び出したらプロポーズなの?

そもそもプロポーズどころか告白とかする勇気もありませんけどね?

 

「そうか。だから俺はここに到着早々に渚達に殴られたのか。謎は全て解けた」

 

てか、こいつら本当にそれで集まったの?

怖いわぁ。何が怖いって俺がそんな人間に見られて殴られる運命にあるのが恐い。

 

「タカ、みんな集まったみたいだよ。話って何?」

 

澄香。さっき俺を思いっきりぶん殴っておいてそんな台詞が吐けるのか。さすがだな。

……さっきの思いっきりだよね?手加減してあの威力じゃないよね?

 

「タカくん…まさかこんなに人を集めてあたしと結婚宣言するつもり?どうしよう。こんな人数の前では否定しきれない…。結婚するしかないのか…」

 

「美来。頼むから黙れ。とりあえずお前ら全員座ってくれ。まどか、悪いけど話を遮られたくねぇし盛夏の好きなのしこたま注文してやってくんねぇか?」

 

「いや…うん、それはいいんだけどね?」

 

「あ?どした?」

 

「た、タカもさ?いつまでも奈緒に膝枕されてないで座ったらどうかな~?って思って」

 

「膝枕?」

 

俺が頭を上に向けると顔を真っ赤にしながら、明後日の方向を見ている奈緒の顔があった。

 

ふぁ!?

 

「まさか意識を失って倒れている俺を奈緒が膝枕してくれているとは…。俺は今まで膝枕されている事なんてちっとも気付いていなかったが、慌てて飛び起きた」

 

「この男は何をモノローグで説明していますって体で口走っているのかしら?」

 

「アハッ、せんぱ~い。今日の呼び出しがつまらない内容でしたら明日の陽を見る事はありませんからネ?」

 

「貴も目が覚めたなら…その…あの…も、もう起き上がって大丈夫ですか?まだしんどいようでしたらもう少し…」

 

「お姉ちゃんは何を言ってるの?」

 

し、心臓に悪いんですけどマジで。

ああ、だから頭が気持ち良かったのか…。チッ、もう少し堪能しておけば良かった…。

 

 

 

 

それから俺達は適当に席につき、注文していた料理とドリンクが並べれたので乾杯をする事にした。

 

「あ、乾杯の前にちょっといいか?」

 

「貴ちゃんなぁに~?焦らしプレイ~?早く食べたいんだけど~?」

 

「い、いや、俺が呼んだのは美来とBREEZEとArtemisだけなんだけどね?何でみんないるの?」

 

「私は美来さんからお兄さんに呼び出されたのでプロポーズされるかも知れないから助けてと…」

 

何で俺が呼び出したらプロポーズ?

 

「私もそうですよ?先輩が身の程をわきまえずに美来お姉ちゃんにプロポーズしたら大変だと思って。気が付いたら奈緒と理奈にLINEしてました」

 

気が付いたら奈緒と理奈にLINEしてたって何なの?

 

「私も貴さんが美来ちゃんにフラれたショックで犯罪を犯しては大変だと思って来ただけよ」

 

フラれたくらいで犯罪なんか犯すわけねぇだろ。フラれちゃったら家帰って泣くのに忙しいんだよ。

いや、そもそも告白でもプロポーズでもないしな?

 

「あたしは理奈ちと盛夏とレポート書いてたら、理奈ちがスマホを握り潰そうとしてたからヤバいと思って逃げようとしたんだけどね?」

 

そのまま逃げとけよ!いや、何で来たの?

てか理奈を止めろよ!香菜は俺に好きな人出来ても告白なんかする勇気ねぇ事くらい知ってるよね!?

 

「理奈が今日はそよ風でご飯しようって言ってたから~。貴ちゃんも来るって言ってたし~?」

 

今日は奢らないよ?何なの?そよ風でご飯しようって言ったら盛夏はついて来るの?うわ、お兄ちゃんはそんな盛夏ちゃんが心配です。

 

「私はまどか先輩とお買い物してたら、渚から変なLINEが来ましたので…」

 

だから来たの?変なLINE来たら取り敢えず来て俺を殴るの?

 

「あたしは何か面白くなりそうだから来た」

 

まどか……お前は平常運転か。なんか安心だわ。

 

「私は澄香さんがタカさんに呼び出されたと聞きましたから、タカさんが澄香さんを襲っては大変だと思いまして」

 

ちょっと待て。俺が澄香呼ぶとか今日に始まった事じゃないよね?あ、何かこれ俺がいつも澄香呼び出してるような感じじゃん?そんな事ないからね。

 

「あ、あたしは有希さんと大事な話が…」

 

「お、俺もゆきねぇちゃんと大事な話が…」

 

「私はボスについてきただけだ」

 

こいつら俺の事何だと思ってんの?

まぁ、渉と志保と有希はいいとしてもな…。

 

「貴ちゃ~ん、早く早く~!お腹空いた~!」

 

「ああ、はいはい」

 

そして俺達は乾杯をして、俺はビールを一口飲んでから美来に話掛けた。

 

「美来、悪かったな。こんな大人数になって」

 

「何で謝るの?あたしはみんなの方が楽しいよ?

デートって訳じゃないんなら(ボソッ」

 

「あ?何か言ったか?」

 

「別に?それより今日は何の集まりなの?」

 

「ふぅ……」

 

「え?ため息?」

 

さて、どう切り出すか。

 

うっわぁぁぁ、めんどくせぇ……。

何だよこれ。わざわざ渚や理奈には聞かせたくなくて、気を使ってたってのに、ほんと何でみんな居るの?

 

あ、もういいや。ストレートに言っちゃうか。

 

「美来。梓は生きているぞ。お前の事を心配してたし、お前と一緒に居たいって…お前の事をずっと探してた。15年前のあの日からな」

 

 

シーン……

 

 

少しの間の静寂。

この場に居るみんなが喋る事を忘れ俺の方を見ていた。

 

ま、普通はこうなるよな。

 

美来、何て答える?

 

 

『何の事?梓って誰?』

 

 

俺は美来がそう言ってくれるのを待っているのか、それともそう答えて欲しくないのか…。

 

 

「せ、先輩は何を…」

 

「渚。静かに」

 

 

理奈。ありがとうな。

 

さて、美来は…。

 

 

「タカくん」

 

 

「ん?」

 

 

「お母さんが生きてるって何…?お母さんは…15年前にあたしの目の前で…」

 

「「「「!!?」」」」

 

 

 

はぁ~……やっぱり美来は梓の…。あの時の子か…。

 

 

 

「お母さんが生きている訳ない!!お母さんは…!!」

 

美来はそう言って立ち上がったが、俺は美来の手を引っ張って無理矢理座らせた。

今はまだ…逃がす訳にはいかねぇ…。

 

「わっ!?ちょ、タカくん…!」

 

「いいから座って飲め」

 

「……うん」

 

澄香達も何か言いたそうにしていたが、俺と美来の会話を待っているのか、何も言わずに俺達を見ているだけだった。

 

 

だけど……。

 

 

「う~ん、やっぱりそよ風のご飯は美味しい~♪」

 

 

盛夏は平常運転だった。

 

 

 

 

「お母さんが生きているのは…本当なの?」

 

「ああ、あの事故でも何とか一命を取り止めてな。美来にも…やっと話せたわ」

 

「こんな話って事は、あたしの正体わかってるって事だよね?有希に聞いたの?それともしーちゃん?えぐっちゃん?」

 

あ?それって有希と志保と渉も知ってるって事か?

 

俺は3人の方に目をやったが、3人とも顔を思いっきり横に振っていた。

 

「あいつらも知ってたのか。あいつらに聞いた訳じゃねぇよ。お前の御守りが梓の持ってたやつとな…それに美来は梓に似すぎだからカマ掛けただけだ」

 

「あ、そっか。御守り…」

 

南国旅行の時に見た美来の御守り。

やっぱりあれは梓の御守りだったか。

 

さて、ここからが本題だ。

渚の前で言うのは、はばかれるんだけどな…。

 

 

「美来、お前はクリムゾンのミュージシャンだな?俺達の敵か?」

 

 

「先輩…何で…」

 

「渚…落ち着きなさい…」

 

「お兄さん…」

 

 

さぁ、美来。お前は俺達の敵なのか?それとも…。

 

 

「あたしはBlaze FutureもDivalも倒す。だから、あたしはファントムのバンドの敵」

 

 

ファントムのバンドの敵か…。

くそっ…。こうもハッキリと公言されちまったかぁ。

 

「そうか。次の質問だ。さっきも言ったように梓は生きてる。梓もお前と一緒に暮らすつもりでいる」

 

「お母さんが…?あたしと…?タカくんと3人で暮らすと…?」

 

え?何で俺も?そんな事言ってないですけど?

 

「先輩?それどういう事ですか?」

 

「渚、許可するわ。一緒に貴さんを尋問するわよ」

 

「渚さん、理奈さん。今はお二人の話を聞きましょう」

 

「そうだよ。ちゃんと聞こ?」

 

ああ、奈緒、美緒ちゃん…優しいなぁ、佐倉姉妹は…。

 

「「貴(お兄さん)を葬るなら店を出てからでも遅くないですし」」

 

そうか、店を出たら葬られるのか。

やだなぁ。時間止まらないかなぁ?てか、こうなる事を恐れてBREEZEとArtemisしか呼ばなかったのになぁ。

 

あ、怖くて泣きそうになってきた。頑張れ俺。

 

 

「それでな、美来。お前クリムゾンを抜けて俺達の所に来るってのは…」

 

「それは無理。お母さんの申し出も嬉しいけど、あたしがクリムゾンを抜けたら、またお母さんが狙われるかも知れない。それよりタカくんは何で泣いてるの?そんなにあたしと暮らしたかったの?」

 

あ、やべ。店を出てからの惨劇を想像して泣いてしまっていたか。

 

「美来ちゃん、何でクリムゾンを抜けれないの?クリムゾンにまた梓も狙われるかもってのは想定内。今、私達には秋月グループがついてくれている。美来ちゃんと梓くらい私達で守るよ」

 

「澄香」

 

「そうですわ、美来さん。私の秋月グループはクリムゾンなんかには負けませんわ。また一緒にゲームとかしましょう?」

 

「きさきっちゃん」

 

「そうだよそうだよ!私達SCARLETも居るしね!有希ちゃんもこの15年ずっと守ってきたんだし大丈夫だよ!」

 

あ?有希を15年守ってきた?

 

「日奈子…。みんなの申し出はありがたい。だけどあたしにはあたしの事情もある。クリムゾンは裏切れない」

 

「その事情って?」

 

「あたしは今、makarios biosで最強最高のバンドを組んでいる。ちなみに海原のお気に入り」

 

ああ、そういやあの野郎パーフェクトスコアもアルティメットスコアも必要ない最高のmakarios biosが居るみたいに言ってたっけ?それが美来達の事なのか。

 

「あたし達のバンドが本気を出せばクリムゾンエンターテイメントくらい軽く倒せると思う。あたしお母さんと一緒で天才だから」

 

ああ、そういや梓と一緒で方向音痴だよな。

 

「クリムゾンエンターテイメントを倒せるなら尚更…」

 

「あたし達がクリムゾンエンターテイメントを抜けない条件。今、バンドを組んでいない他のmakarios biosの生活の保証。それと今後一切makarios biosを造らないこと。まぁ他にもあるけど」

 

なんだと……?

 

「あたしがクリムゾンエンターテイメントを抜けたら、今、平和に暮らしている他のmakarios biosが狙われるかも知れない。それに、また新たなmakarios biosが造られるかも知れない。だから…無理」

 

「そんな…だからって美来お姉ちゃんが!」

 

「なっちゃん。あたしは大丈夫」

 

ま、すんなり上手く話は転がらねぇか…。

 

「そっか、わかった。だったらやっぱあの手しかないか」

 

「あの手?」

 

 

「美来、俺はお前達を倒す。

クリムゾンエンターテイメントもな。makarios biosも2度と造られないように徹底的にな」

 

 

やっぱりこの手しかないか。

美来も…クリムゾンエンターテイメントも倒す。

美来の帰る場所を…壊す。

 

「先輩…」

 

「タカ…」

 

「にーちゃん…いいのか?」

 

俺は美来の帰る場所を壊す。だから…。

 

 

「だから、そん時は…こっちに『帰ってこい』」

 

 

チッ、なんか気恥ずかしいな。こんな事言うのキャラじゃねぇんだけどな。

 

 

 

「まさか…みんなの前でプロポーズされるとは…」

 

「いや、ほんとお前の耳どうなってんの?あれがプロポーズに聞こえたの?」

 

「タカくん…。でもあたし達は負けないから」

 

「おう、そうでっか。まぁ、俺の話はそんだけだ」

 

「タカくん」

 

「あ?」

 

「タカくんの話が長いから、せっちゃんがあたしの分の唐揚げまで食べてしまった。もっかい唐揚げ頼んでいい?」

 

「は?唐揚げ?」

 

「ほぇ~?あたし~?」

 

いや、うん。唐揚げくらい頼んでもいいよ?

え?てか、さっき俺らは敵同士って公言したよね?

俺はこの話の後、美来に逃げられるとか思ってたんだけど、飲み会続けるの?

 

「?唐揚げダメなの?」

 

「え?いや、唐揚げくらい別にいいけど…。美来はいいのか?」

 

「あたしが唐揚げ食べたいんだけど?」

 

「いや、そうじゃなくて…。その…お前ファントムの敵なんだよな…?」

 

おいおいおい、こんな事質問させんなよ。超気まずいじゃん。

 

「ファントムはあたしの敵。タカくんのBlaze FutureもなっちゃんのDivalもあたしが倒す。何か問題が?」

 

いや、問題だらけだろ。ここに居るの美来以外ファントム関係者ですよ?あ、トシキと翔子は微妙な立ち位置か。

 

「ん?あ、ああ。そういう事か。タカくん」

 

「あ?何?」

 

「あたしはファントムの敵。Blaze FutureもDivalもAiles Flammeもあたしの敵」

 

「お、おう」

 

「でもタカくんもなっちゃんもりっちゃんも。ここに居るみんなはあたしの敵じゃない。友達だと思っている」

 

 

……

………

…………あ?

 

 

「バンドとプライベートは別。だからあたしがみんなと遊んでも何も問題はない」

 

は?そんな事まかり通るの?いや、まかり通ってくれたら俺も嬉しいし、渚達も嬉しいとは思うが…。

 

「あたし達のバンドはMalignant Dollという。ギターボーカルのあたし、ギターの小夜、ベースの沙耶、ドラムの美奈。それぞれがクリムゾンエンターテイメントから抜けない条件を提示している」

 

「バンドのメンバーが各々?」

 

「うん。36番の事もあったし、あたし達を抜けさせない為に九頭竜はあたし達の望みを1つだけ聞いてくれる事になった。あたしはさっき言った今後一切makarios biosを造らないこと。小夜が造られたmakarios bios達の生活の保証をすること」

 

36番の事…か。

 

「チッ、九頭竜の野郎…やっぱあん時に俺が…」

 

「宮ちゃん、あれは宮ちゃんのせいじゃないよ。俺もだったから…」

 

「そして残りの2人の望みが、あたし達も普通の女の子として友達を作って遊ぶ事の許可。だから、ステージの上や九頭竜や海原の策略以外でタカくんやなっちゃんとお近づきになれたのは良かった」

 

「あっ…だからこないだ美来さんは貴や渚に上手く近付けたって…?」

 

「うん。そういう事」

 

ん?あ、あ~あ~…なるほどな。

普通の女の子として…か。だから旅行とかは行けたって事か。

 

「でもまぁ、夏の旅行でタカくんやしーちゃんやせっちゃんに助けて貰ったのは九頭竜の策略なんだけどね」

 

あれって九頭竜の策略だったのかよぉぉぉぉ!?

 

「あたしがみんなとはぐれて迷子になって、タカくん達に助けてもらうってシナリオだったけど、野生のデュエルギグ野盗に襲われたのは好都合だった」

 

ああ、あいつらに荷物取られた所までは計算外だったのか…。

 

「なるほどな。まぁ、美来にも梓に会わせてやりたいし、その……友達としてか?そんな感じで付き合えるなら俺も嬉しいけどな」

 

「あたしと付き合えるなら嬉しい?やはりこれはプロポーズ」

 

いや、違うから。もう否定すんのもめんどくせぇわ。

 

てか、何なの?これって茶番なの?

美来をクリムゾンから取り戻す。

それは俺達の願いでもあったけど、そんな上手くいかねぇって思ってたしな。

実際美来はクリムゾンを裏切れないって言ってるし、Blaze FutureもDivalも敵だって公言されたけど、俺達とは友達?プライベートなら一緒に居てもいい?何なのこれ。俺達の15年なんだったの?

 

あかん…頭痛くなってきた……。

 

 

 

「あ、でもこれはもちろんファントムのみんな。タカくんやなっちゃんも、あたしを友達と思ってくるならってのがあるけど」

 

「も、もちろんだよ!私は美来お姉ちゃんの友達だよ!でも、私達Divalも負けない。美来お姉ちゃんをちゃんとクリムゾンから取り戻すよ!」

 

「なっちゃん…」

 

はぁ、何か色々考えてたんだけどな。でも、これはこれでいいか。

 

「俺も…その美来の事…まぁ、あれだ」

 

「あれ?嫁って言いたいの?」

 

疲れるなぁ。しんどいなぁ。俺が嫁って言ったら結婚してくれるの?ないよね?フラれて殴られて泣く未来しか見えない。もう何なのこいつの頭の中身。

 

 

 

「あ、そだそだ。美来ちゃんも何とか大丈夫ってわかったし、私もタカちゃんに話があるんだけどいいかな?」

 

「何だと?日奈子が俺に話だと?嫌だ、聞きたくない」

 

「な~ん~で~よ~!?」

 

「俺らは日奈子のその話とやらのせいで何度か死にかけた事もあるしな。そりゃタカも聞きたくねぇだろ」

 

「拓斗ちゃんまで!?」

 

「いいよボス。私から話そう」

 

あ?有希から?

 

「タカ。私は36番、お前のmakarios biosだ。以上だ」

 

 

 

「「「「は!?」」」」

 

 

 

………は?

 

 

え?有希が36番…?

海原が言っていた美来と一緒に脱走したmakarios bios?

 

 

「ゆ、有希さんが先輩の…?こんなに綺麗な人が?」

 

「そ、そんなの嘘ですよ。タカの遺伝子でこんな綺麗な人が…」

 

「makarios biosを造る課程で失敗したんじゃねぇか?タカの遺伝子じゃこうはならないだろ?いや、タカが失敗で有希が成功って事もありえるか…」

 

英治?

 

「有希さん、今まで大変だったんじゃないかしら?これからは私に甘えていいわよ」

 

「り、理奈さん何を言ってるんですか!?」

 

「日奈子、あんたは知ってたの?」

 

「うん。私と手塚は知ってたよ」

 

「有希さぁ~ん、このお刺身食べる~?」

 

「盛夏が他人に食べ物を!?」

 

 

ちょっと待て…。有希が俺のmakarios biosって…。

美来がハッキリと梓のmakarios biosってわかったところなのにこれってな。やば、頭が全然追い付かねぇ。

 

 

「タカくんは知らなかったの?」

 

「あ?あ、ああ。そもそも俺のmakarios biosが居るって知ったのもこないだだしな…」

 

「サム。サムは何でタカくんに会わなかったの?元々あたしはお母さんに会う為に。サムはタカくんに会う為に脱走したはず」

 

ん?あ、そうなの?

ってかサムって何?

 

「美来。私の事はサムと呼ぶな。まぁ色々とな、私としてはタカを見ることは出来たわけだし、私が名乗り出てどうなるという問題でもないと気付いたしな。余計な負担を掛けると思ったからさ」

 

俺に負担か…。今なら一緒に生活ってなっても経済面的には大丈夫なんだけどな。って俺は何を考えてるの!?

 

「なぁ、ゆきねぇちゃん?」

 

「江口くん?どうしたかね?」

 

「今日は何でにーちゃんの事をタカって呼んでるんだ?先週みたいにパパって呼べば良くねぇか?」

 

「ふぇ!?え、江口くんは何を言ってるんだ…!!?」

 

パパ?俺が?俺が…パパだと!?

 

「有希(ニコッ」

 

俺は有希に向けて微笑み掛けた。

 

「タカ…すまないが気持ち悪い顔をしないでくれないか?ここは食事の場なんだよ」

 

え?何なのこの仕打ち。

 

「た、貴。気を落とさないで下さい。さっきの顔はちょっとアレだと思いましたけど…」

 

「せっかくの美味しい食事が台無しね」

 

「先輩。今のお顔はヤバいですよ?捕まっちゃいますよ?」

 

何で俺の笑顔ディスられてんの?

 

 

「それより日奈子ちゃんって、有希ちゃんがはーちゃんのmakarios biosだって知ってたんだよね?どうして今まで内緒に?」

 

「うん、それなんだけどね。タカちゃんって喉壊して歌えなくなったじゃん?」

 

今まさにボーカルとして歌ってますけどね?

 

「タカちゃんも含めて誰もタカちゃんのmakarios biosが居るのって知らなかったじゃん?」

 

まぁそうだな。makarios biosって存在は知っててもどれだけの人数いるか知らなかったしな。

美来が39番だってから、39人は居るんだろうな~とは思ってたけど…。

 

「もしあの時、タカちゃんのmakarios biosが存在するって知ってたら、タカちゃんの事だからクリムゾンとの戦いを止めたりしなかったでしょ」

 

「は?買い被りすぎだろそれは。俺はそんな人間じゃねぇよ?」

 

「タカちゃんは止めないよ、絶対」

 

「俺もそう思うよ。はーちゃんって逆口だけだもんね。やる気ない振りしてても勝手にやっちゃうって言うか」

 

「今は本気でやる気ない男になったけどな。何がこいつをここまで…」

 

英治?

 

「あ、それよりよ。もしかして梓やタカ以外のmakarios bios。俺や拓斗やトシキのmakarios biosも居たりするのか?」

 

「……あたしは一応クリムゾンエンターテイメントの人間。あんまり情報は渡せない」

 

ああ、梓どころか俺のmakarios biosも居たんだもんな。

そりゃあの時代のバンドの……。

 

 

 

待てよ。って事はもしかしてアーヴァルや、雨宮さんや氷川さん達のmakarios biosも?

 

 

 

「でも、有希もあたしと一緒だったし、有希からなら教えてもらえるかもね」

 

美来がそう言った後、俺達の視線は有希へと向いた。

あ、今まであんまり気にしてなかったけど有希って可愛いな。さすが俺の遺伝子だな。

 

「やれやれ…。私達makarios biosはあの時代のバンドのボーカルからのみ造られた。まぁ、例外も居るには居たがね」

 

ボーカルからのみ?

ああ、もしかしてアルティメットスコアを歌う為にって感じか?

 

「有希さん、その例外って何なのかしら?」

 

「澄香だ。澄香のmakarios biosは存在する。他のボーカル以外のmakarios biosも存在するのかも知れないが私は知らないな」

 

「私…?私のmakarios bios……」

 

「す、澄香さんのmakarios bios!?その子は絶対に可愛らしいに違いありませんわ!」

 

澄香のmakarios bios?

他のmakarios biosはボーカルからのみ造られたってのに、何で澄香だけ?こいつそんな歌が上手かったっけ?

それとも別の理由か?

 

「ね、ねぇ…こんな事聞くの……。ううん、やっぱり聞きたい。私のmakarios biosは?今も元気なの?」

 

「うん。元気。あたしと一緒にバンド活動してる。だから安心するといい」

 

「そっか…良かった…。って、え?美来ちゃん?」

 

「お、俺が俺のmakarios biosが居るか聞いた時は教えてくれなかったのに何で澄香の時だけ…」

 

「澄香はお母さんの親友だから。澄香の質問には答えたい」

 

何なのそれ。何基準なの?

 

「お前のバンド。確かMalignant Dollとか言ったか?他のメンバーは誰のmakarios biosなんだ?」

 

「拓斗くん…。悪いけどそれは教えられない。あたしはクリムゾンエンターテイメントのミュージシャンだから」

 

「未来…頼む。教えてくんねぇか?」

 

「タカくんのお願いでも無理なものは無理。ごめん」

 

さすがにこればかりは教えてもらえねぇか…。

 

「未来お姉ちゃん…教えて…」

 

「ギターの小夜はしーちゃんのお母さん、雨宮 香保の遺伝子から。ベースの沙耶は澄香の遺伝子。そしてドラムの美奈は浅井 蓮(あさい れん)の遺伝子から造られた(ペラペラ」

 

え?喋っちゃうの?

 

「はっ!?しまった。なっちゃんにお願いされたとは言え、うっかり喋ってしまった。タカくん、誘導尋問とはなかなかやる」

 

「そうか。取り敢えず美来は帰ったら、誘導尋問って言葉を辞書で調べておけ」

 

「美来お姉ちゃん…私がお願いしたから…(トゥンク」

 

そんで渚は何でときめいてんの?

 

「お母さんの遺伝子から…小夜さんが…?え?何で…待ってよ!」

 

「落ち着け雨宮。美来ねーちゃん、浅井 蓮って亮の親父さんだよな?亮の親父さんはドラマーじゃねぇ。ギターボーカルだった。なのにドラムをやってるって事か?」

 

そうだな。浅井さんはギターボーカルだった。

亮のお袋さんである律子(りつこ)さんもリードギターだったしな。だから亮はギタリストになったんだ。

なのに何でドラムを?それに香保さんもギターボーカルだったけど、ギターの腕前なら浅井さんの方が上だった。当時の遺伝子を培養して造られたんなら…。

 

ってか、渉も亮の本当の名字は浅井って知ってたの?

俺が亮に聞いた時は、俺にしか話してないって言ってたけど…。

 

いや、待て。

そもそもmakarios biosはボーカルから造られたって言ってたよな。

BREEZEのボーカルの遺伝子で有希。

Artemisのボーカルの遺伝子で美来。

Code Joker(コード ジョーカー)のボーカルである香保さんの遺伝子、そして、DD ACTION(ディーディー アクション)のボーカルである浅井さんの遺伝子。

なのに何で澄香の遺伝子でもmakarios biosが造られた?

 

Blaze Futureの俺、Ailes Flammeの亮、Divalの志保、Canoro Feliceの関係者である澄香。

有希はこっち側としても、ファントム関係者のmakarios biosが多いよな。たまたまなのか?何かの陰謀?

 

いや、バンドはやってなくても、他にもmakarios biosは居るって話だしな。アルテミスの矢だったバンドやあの時代のバンドのmakarios biosは他にも存在してるって事だよな?って事は本当にたまたま?

 

くそ、わかんねぇ事だらけだな…。

 

 

「貴?大丈夫ですか?何か顔が死んでますけど…」

 

「ああ。色々な事がドドーンババーンって来たからな。めんどくせぇってのとか色々な」

 

「ふぅん、そうですか。私達がやってるのってバンドですのにね。これって青春×バンドのお話なのにバンド活動ほとんどやってないですよね~」

 

「ああ、俺も青春の部分めちゃ欲しいんだけどね。切実に」

 

「うわっ、キモすぎです。ってかマジキモいです」

 

いやいや、青春大事だからね?わかってる?

 

……っても奈緒も。

何で奈緒があんな歌声出せたんだ?奈緒の歌は確かに上手いとは思っていたが、こないだのライブでの歌声はいつもと違っていた。

俺とも梓とも違う…。まるであの歌声は……。

 

 

「あ、あの…貴?その…あんまり見詰められると…その…」

 

「お、お兄さん。お姉ちゃんの事をそんなに見詰めて…」

 

「あ、悪い。こいつ何で俺をディスってんの?って思ってな」

 

「べ、別にディスってる訳では…!」

 

 

考えるだけ無駄か…。俺が考えて何かしてどうなる問題なら15年前にどうとでもなってるわな。

 

今が楽しければ…。今のこいつらが好きな音楽をやれるならそれが一番なんだよな。

 

渉や渚や奈緒や盛夏、まどかや美緒ちゃん。

ここに居る奴らだけじゃなくて、今、音楽をやってるみんなが。いつかは美来も…。

 

 

 

『音楽?俺がやってるのは音楽じゃねぇ!

俺が奏でてるのは音だ。音楽じゃねぇんだよ!』

 

 

 

「あっ…」

 

「ん?にーちゃん?どした?」

 

「いや、何でもねぇよ。ビールのおかわり頼もうかな?って思ってよ」

 

 

嫌な奴の事思い出しちまったな…。

 

 

その後俺達は、美来や有希の話って何だったの?

って言っちゃいそうなくらい、今の飲み会を楽しんだ。

 

梓が明日、日本に帰ってくる事も美来にも伝える事が出来た。

 

 

 

 

 

 

「しまったぁぁぁぁ!明日!明日梓お姉ちゃんが帰ってくるって知っていれば、美容院に行ってエステに行ってネイルも…!くっ!」

 

「渚さぁ?エステにも行かないしネイルもしないじゃん?」

 

「わ、私も行っていいのかしら?」

 

「理奈も梓さんとは会ったりしてたんでしょ?行ったらいいんじゃない?あたしは明日はさっちと明日香のライブ見に行く予定なんだよね~」

 

 

 

「おかーさんも叔母さんが帰ってくるの明日って知ってるのかな~?あたしはどうしよっかな~?」

 

「私もお会いした事あるみたいですけど、どうしましょうかね。美緒は翔子さんの事もあるし行くの?」

 

「うん。私も梓さんとはお会いしたいと思ってたし、お兄さんが良ければ行かせてもらいたいかな」

 

「美緒ちゃんも奈緒ちゃんも来たらいいんじゃない?俺も梓ちゃんと会うのは久し振りだし楽しみだよ」

 

「あ、明日もトシキさんと会える…///」

 

「翔子ちゃんは平常運転だね。私は明日は忙しいんだよね~」

 

 

「タカ、悪い。梓にはよろしく言っててくれ。明日はLazy WindとAiles Flammeの対バンがあるからよ…」

 

「な、何で俺は梓の帰国日にライブを入れてしまったんだ…」

 

「あはははは、拓斗にーちゃんは残念だったよな。でも、明日のライブは夕方からだし夜には梓ねーちゃんに会えるんじゃねーか?」

 

 

「美来。お前は明日は梓に会いに行くのか?」

 

「行かない。あたしはクリムゾンエンターテイメントのミュージシャン。お母さんに会うわけにはいかない。有希からよろしく言ってて」

 

「美来ちゃん。きっと梓も美来ちゃんに会いたいと思ってると思うよ?」

 

「澄香さんの言う通りですわ。美来さん、せめて明日は…」

 

 

みんな思い思いに話してんな。

飲み会を終えた俺達はそよ風の前で少し話をしていた。

ああ、明日は梓のお迎え行かなきゃいけないってのにな。早く帰りたい。

 

 

「ねぇ、タカ」

 

「ん?まどか?どした?」

 

俺がいかにこの場のみんなに解散しようと提案するか。そんな事を考えているとまどかが話し掛けて来た。

そういやこいつ今日の飲み会の間ずっと静かだったな。

 

「こないだのライブの事なんだけどね」

 

「こないだの?Glitter Melodyのライブん時か?」

 

「奈緒の歌声ってさ…」

 

-ドキッ

 

「あ?奈緒の歌がどうかしたか?」

 

まさかまどかから奈緒の歌について話されるとは思っていなかったからびっくりした。

まどかも奈緒の歌を聴いて何か思うところがあったんだろうか?

 

「…何でもない。ごめん」

 

何でもない?お前、何でもないって顔じゃないだろそれ。

 

俺はいつもの癖でまどかの頭に手をやろうとしてしまった。あ、ヤバい。このまままどかの頭を撫でたりしたら、こいつにセクハラだとか何だとか文句を言われかねない。

 

俺はまどかの頭に向けて出した手を引っ込めようとした。でもまどかは俺のその手を握って…。

 

 

「辞めないよね?タカはBlaze Future辞めないよね?抜けたりしないよね?」

 

 

泣いてこそはいないが、すごく寂しそうな。

今にも泣き出しそうな顔を俺に向けてまどかはそう言った。

 

「何で俺がBlaze Futureを辞めると思ったの?

抜けたりしねぇから安心しろ」

 

そう言うべきだったんだろうけど、Blaze Futureを抜けるとか今は考えてねぇんだけど、俺はまどかにそう言ってやる事が出来なかった……。


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