バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第5話 新しい風

「もう9月も半ばだってのに暑いな~」

 

俺の名前は一瀬 春太。

Canoro Feliceのダンサーボーカルをしている。

 

今日はライブハウス『ファントム』で、Lazy WindとAiles Flammeのライブがある。

 

渉くんのライブはもちろん、拓斗さんのライブも観てみたい。俺達Canoro Feliceのメンバーはライブに行く予定ではいたのだけど、昨日の夜、俺達Canoro Feliceのグループラインに、澄香さんから連絡があった。

 

 

 

『澄香さん:一瀬様!松岡様!夜分遅くに申し訳ございません!お願いしたい事がございます!!

 

俺:澄香さん?どうしました?話し方がセバスさんになってますよ?大丈夫ですか?

 

冬馬:俺もまだ起きてます。どうしましたか?

 

澄香さん:実は姫咲お嬢様と結衣ちゃんには内密で、お願いしたい事がございまして…。

 

結衣:あ、私も起きてるよ~(о´∀`о)

 

俺:姫咲と結衣に内密にって、これCanoro Feliceのグループラインですよ?

 

結衣:え?なになに?( ̄▽ ̄= ̄▽ ̄)

 

澄香さん:ええ、実はお願いっていうのは…

 

俺:あ、話は続けるんですね。

 

冬馬:あ、話は続けるのか…。

 

澄香さん:明日はAiles Flammeとアホの拓斗がいるLazy Windのライブがある事はご存知だとは思いますが

 

俺:アホの拓斗さんって…

 

冬馬:澄香さんって宮野さんに何か恨みあるのか?

 

澄香さん:明日は急遽私に用事が出来ましてな。ファントムのお手伝いに行ってもらいたいのです。もちろんバイト代は出させて頂きます。

 

結衣:そうだよね!明日は架純のライブでもあるもん!すごく楽しみだよ!!

 

俺:ファントムのお手伝いですか?

 

結衣:え!?ファントムのお手伝い!?私も架純のお手伝いしたいよ(≧∇≦)

 

冬馬:俺は大丈夫です。

 

結衣:バイト代なんていいよ!架純は友達だもん!

 

結衣:英ちゃんにもすみちゃんにもお世話になってるし!

 

結衣:どんなお手伝いでもばっちこいだよ!

 

結衣:スタンプ

 

(結衣…レスポンスがめちゃくちゃ早いね…)

 

冬馬:ファントムの手伝いって何をしたらいいんですか?

 

澄香さん:複雑なPAとかは英治がやってくれるやろけど、何をするかは当日に英治からの説明があると思われます。

 

(結衣って完全に無視されてるなぁ…。確かに結衣に手伝いとか何か失敗されそうな気がするけど…)

 

澄香さん:本当に申し訳ございません。春太くん、冬馬くん、明日はよろしくお願いします。

 

冬馬:了解っす

 

結衣:私達に任せて!!

 

(結衣…いくらなんでもこれじゃ結衣が可哀想だよね。結衣だって架純さんの力になりたいだろうし)

 

澄香さん:結衣ちゃん、大変申し訳ございません。結衣ちゃんはお手伝いは結構でございます。

 

(澄香さん!?そんなハッキリ言うのは…)

 

結衣:え?何で?私も手伝いするよ?

 

澄香さん:本当は結衣ちゃんに気付いて欲しかったのですが…。結衣ちゃんには手伝いより大事な事があると思います。

 

(え?手伝いより大事な事…?)

 

結衣:え?なになに?

 

澄香さん:私が言えるのはここまででございます。失礼ながら結衣ちゃんは失念してるかな?と思ってグループラインで連絡させて頂いたわけですが。

 

結衣:え!?私何か失念しちゃってるの!?

 

(どういう事だろう?結衣が何かやらかしそうだからって訳じゃなかったのか?)

 

澄香さん:結衣ちゃんは元Blue Tearですから。

 

結衣:あ!わかった!!そっかそっか!お手伝いしてたら出来なくなるかも知れないもんね!

 

(え?結衣は何かわかったの?)

 

冬馬:えっと、どういう事ですか?

 

結衣:そんな訳だからさ。春くん、まっちゃんごめんね(>_<)私はお手伝い行けないや(^o^;)

 

俺:いや、それは構わないよ

 

冬馬:俺も別にいいけどな

 

澄香さん:結衣ちゃん。出来れば姫咲お嬢様もお願い出来ますか?姫咲お嬢様が手伝いとか行くと何か色々やらかしそうだから…。

 

姫咲:澄香さん?

 

(あ、姫咲もこのグループライン見てたんだ?)

 

結衣:すみちゃん任せて!姫咲!後で個別にラインするね!

 

姫咲:何か納得出来ませんが、わかりましたわ。』

 

 

 

と、いうような内容の話が行われた。

あの後も少しラインはしていたけど、結衣には何か別の事をしてもらいたかったから、俺と冬馬だけにファントムの手伝いを依頼したんだろうか?

 

ライブには結衣も来るだろうし、その時に何があったのか聞けばいいかな。

 

 

そういった訳で、俺は今駅前で冬馬を待っていた。

約束の時間からまだ5分程しか過ぎてないけど、時間には正確な冬馬にしては遅れるって珍しいな。

 

 

「おう、春太。悪い、遅れちまった」

 

「おはよ冬馬。いや、全然いいよ」

 

「取り敢えずファントムに向かおうぜ。ちょっと話したい事もあるしな」

 

大した遅刻じゃないから俺は気にしてないけど、話したい事か?一体何なんだろう?

 

俺は冬馬と一緒にファントムへと向かった。

 

 

「それで?話って何かな?」

 

俺はファントムに向かう道中で、冬馬に聞いてみた。

歩きながらでも出来る話ならいいけど。

 

「ああ、それなんだけどな。こないだ遊園地で演奏しただろ?」

 

遊園地で?

冬馬と双葉ちゃんのデートの時のあれかな?

 

「もちろん覚えてるよ。結衣が居なくて残念だったけど、秦野くんや双葉ちゃんと一緒に楽しい演奏が出来たよね」

 

「ああ…俺もまぁ楽しかったと思う」

 

どうしたんだろう?改めてあの時の話って…。

 

「春太。あのな」

 

「うん?何?」

 

「さっきな。あの遊園地でライブイベントをやってた主催者の人に会ったんだ」

 

あの時の主催者さんに?

 

「それで再来週の土日に商店街でヒーローショーをやるみたいなんだが、そのヒーローショーの後でエンディングとして俺達に演奏して貰えないかって言われたんだ」

 

ヒーローショーの…エンディング?

ちょっと待ってよ。俺、あんまり特撮とか詳しくないよ?再来週の土日って日もあんまりないじゃん。

 

「冬馬。ちょっと待って。さすがにそれはキツいんじゃないかな?」

 

「…だよな。さすがに無理だよな」

 

「ダンスが無ければ俺は歌詞を覚えるだけだけど、結衣も姫咲も冬馬も無理じゃないかな?」

 

「そうだよな。今から曲と歌詞を作ってってなると、再来週には間に合いそうもないよな…。俺もそんな曲を作れるかわかんねぇし」

 

え?曲と歌詞を作る?

ヒーローショーのエンディングだよね?曲はもうあるんじゃないの?

 

「でもな春太。俺達って今の所ハロウィンまでライブ予定無いし…」

 

冬馬?冬馬はやりたいのかな?

でもさすがに再来週ってのはキツいと思うし、作詞作曲って…。

 

「……悪い、春太。忘れてくれ」

 

忘れてくれって…。忘れられるわけないじゃないか。

冬馬がやりたいって思ってくれたイベントなんだろうし…。

 

「冬馬。冬馬はやりたいんじゃないの?」

 

俺は冬馬の前に回り、顔をしっかりと見て聞いてみた。

 

「バッ、バカな事言うなよ!俺はかっこいいバンドをやりたいって思ってんだぜ!?ヒーローショーのエンディングなんか…」

 

「だったら何でその話を俺にしたの?」

 

「お前が俺達の…Canoro Feliceのバンマスだからだ。春太の意見を聞きたかった…」

 

バンマスの俺の意見か。

そっか。だったら俺はこの件は…

 

「そっか。だったらCanoro Feliceはそのイベントには参加出来ない。冬馬がやりたいって訳じゃないイベントに、参加しようとは言いたくないよ」

 

「春太…」

 

俺はそれ以上は何も言わず、冬馬の目を見ていた。

これ以上冬馬が何も言わないなら、この話は忘れてしまおう。

 

 

……

………

 

 

冬馬はそれ以上は何も言わなかった。

だったら俺もこれ以上何か言うべきじゃない。

 

「冬馬、行こっか。澄香さんにも頼まれてるんだし、しっかりファントムのお手伝いしなきゃね」

 

俺は冬馬に背を向けてファントムに向かおうとした。

 

 

 

「ま、待ってくれ春太!」

 

 

 

「何?どうしたの?」

 

「歩きながらでいい。聞いてくれ」

 

「ん?うん、わかった」

 

俺は冬馬と並んだ形で歩き始めた。

冬馬が俺にバンマスとしての意見を聞きたいのなら、俺もちゃんと冬馬の話を聞かなきゃいけない。そして応えなきゃ。

 

それがCanoro Feliceの為になるのかどうかはわからないけど、俺をバンマスと認めて話してくれる冬馬への俺の出来る事のひとつだと思うから。

 

「春太。俺がCanoro Feliceに入った頃に言ってたの覚えてるか?」

 

「もちろんだよ。かっこいいバンドになりないってやつでしょ?OSIRISの進さんに憧れてるんだよね」

 

「ああ、OSIRISの進さんは俺の憧れだ。かっこいいバンドであの人みたいなドラマーになりてぇ」

 

わかるよ冬馬。俺もFairy Aprilの葵陽みたいなキラキラしたボーカルになりたい。Fairy Aprilみたいになりたい。でも俺は……。

 

「春太、今でも俺はそう思ってる。いや、これからもずっとそう思いながらドラムを叩いていくと思う」

 

「うん、いいと思うよ」

 

「でもな。俺はCanoro Feliceが好きなんだ。昔、俺が目標としていたかっこよさとは違うが、俺はCanoro Feliceでもっともっとかっこよくなりたいと、なれると思ってる」

 

冬馬…。そういえば言ってたよね。Canoro Feliceでかっこいいドラマーになるって。

 

「ヒーローショーのエンディングとかさ。子供受けするような曲になると思うし、OSIRISのようなかっこよさとは違うかも知れねぇけど……。俺はこの曲を作りたい。Canoro Feliceでショーの後にエンディングを演奏したい」

 

「それが冬馬の気持ち?」

 

「ああ。Canoro Feliceらしいヒーローモノに合ったかっこいい曲を作ってみせる……だからっ!」

 

「だったら俺が言う事はひとつだよ」

 

俺は冬馬の方をしっかり見て言葉を続けた。

 

「Canoro Feliceのバンマスとしても、一瀬 春太個人としても。俺もやりたいと思う。冬馬と一緒に、結衣も姫咲も一緒にCanoro Feliceで。是非そのイベントに参加させてもらおう」

 

「春太…。ああ、ありがとう。俺も明日からさっそく曲作りに入る。今日はしっかりとファントムの手伝いをしなきゃな」

 

そう言って冬馬は笑ってくれた。

 

だけど、さっきから俺が気になっている事。

俺はそれを冬馬に聞いてみる。

 

「あのさ冬馬。それはいいんだけどさ」

 

「ん?何だ?」

 

「曲作りって何なの?ヒーローショーのエンディングだよね?そのヒーローのエンディング曲を俺達がやるんじゃないの?」

 

「あ、悪い。説明が中途半端だったな。ヒーローって言っても、商店街のご当地ヒーローってヤツでな。執事戦隊セバスマンってヤツらしいんだ」

 

……冬馬。

ごめん、つっこみたい気持ちで俺の胸はいっぱいだよ。

いや、いっぱいいっぱいだよ。

 

商店街のご当地ヒーローってまではいいよ。

色んな所でもご当地ヒーローとかご当地アイドルとか大人気だし、俺もテレビとかでもよく見るよ。

 

冬馬はその話を聞いた時に変に思わなかったの?

執事戦隊とか商店街関係無いし、セバスマンって思いっきりセバスチャンくさい名前じゃない?

これってセバスさん…いや、澄香さんが絡んでるんじゃないの?

 

「あ、春太は…ご当地ヒーローとかって嫌か…?」

 

ううん、冬馬。

ご当地ヒーローでも全然いいよ。

むしろ今、テレビで放送されてるヒーローモノより、ご当地のヒーローなら、俺もこの地域に貢献出来るんだって気持ちにもなれるし、誇らしくも思うよ。

 

「春太…?」

 

えっと…何をどう言おうか。冷静になるんだ俺。

 

「な、何でもないよ。でも執事戦隊セバスマンって聞いた事ないなって思ってさ。澄香さんなら商店街にも知り合い多そうだったし、何か知ってるかもね」

 

どうだ冬馬。敢えて澄香さんの名前を出して、もしかしたら澄香さん絡みかも知れないと思うように匂わせた。

でも、本当に澄香さんが関係あるのかもな。

澄香さんが俺達が演奏出来るように手回ししてくれた可能性もあるか…?

 

「ああ、それはダメだ。主催者さんも俺達のメンバーに秋月が居る事を知ってるからか、澄香さんの事も知ってるみたいでな。このご当地ヒーローの事は澄香さんには内密にしててくれって頼まれてんだよ」

 

え?何で?

 

「考えたくはねぇけど、もしかしたらこの商店街は秋月グループと敵対している企業がスポンサーって事もありえるんじゃねぇか?」

 

ああ、うん。その可能性もあるっちゃあるけど…。

それなら執事戦隊セバスマンとかにしないと思うんだけどなぁ~。

 

「ねぇ、確認だけど主催者さんは澄香さんに内密にって言ってたの?セバスさんじゃなくて?」

 

さぁ冬馬!セバスさんって俺は言ったよ。気付いて!

 

「あ?ああ、そうだ。主催者さんは澄香さんじゃなくて、セバスに内密にって言ってた。

まぁ、主催者さんはセバスの正体が澄香さんって事は知らねぇだろうからな。俺が澄香さんに内密にって思っただけだ」

 

あ~…。そうなんだね。

って事は商店街で人気のあったセバスさんをモチーフにして、勝手に作ったご当地ヒーローなんだろうね。

だから商店街としては澄香さんに知られたくないんだろうな。

 

「しかし…何で澄香さんには内密なんだろうな?」

 

冬馬。俺は割と冬馬は賢い方だと思ってたんだけど…。

 

「そ、そうだね。俺達が曲を作って演奏するとなると、遅かれ早かれ澄香さんに気付かれる事になるとは思うけど…」

 

まぁ、バレずにってのは無理だろうな…。

 

「姫咲と結衣には俺から話しておくから、冬馬は主催者さんと話を詰めててよ。作曲もあるから大変だとは思うけど、その執事戦隊セバスマンの事は冬馬が聞いてた方が曲作りも捗るでしょ」

 

「あ、ああ。悪いな。俺のやりたいってワガママで…」

 

「ううん、俺はむしろ嬉しいよ。冬馬がCanoro Feliceでライブを、演奏をやりたいって言ってくれて」

 

「な!?お、俺は昔からCanoro Feliceで…その…」

 

「あはは、わかってるよ」

 

さて、問題は色々とありそうだけど、どの時点で澄香さんにバレちゃうかだな。

あんまり早目にバレちゃうと……また、変な茶番に付き合わせられかねない…。それだけは回避しないと…。

 

 

 

 

俺達はその後もヒーローショーについて話しながら歩いていると、いつの間にかファントムの前に到着していた。

 

ファントムの入り口にはCLOSEDの札がかけてあった。

 

「裏から入ればいいのかな?」

 

「取り敢えず裏に回ってみるか?もしかしたら喫煙所に英治さんもいるかも知れねぇしな」

 

ファントムの裏口に回って、そのまま中に入る事も出来るかも知れないけど、もしかしたら冬馬の言うように喫煙所に英治さんが居るかも知れない。

そう思って喫煙所へと行ってみた。

 

 

そこには英治さんだけじゃなく、Ailes Flammeのメンバーが居た。いや、あれ?渉くんは見当たらないな。

 

 

「おう、一瀬くんも松岡くんも悪いな。今日は手伝いしてくれるんだってな」

 

俺達を見つけた英治さんが声を掛けてくれた。

 

「いえ、俺達も英治さんにはお世話になってますし。至らない所とかあると思いますがよろしくっす」

 

「俺達もファントムの仲間ですし気になされないで下さい。それで何をお手伝いすれば…」

 

「ああ、一瀬くんも松岡くんもAiles FlammeとLazy Windのライブ見たいだろ?開演前の列整理だけ頼まれてくれねぇかな?って思ってな」

 

開演前の列整理?

え?こう言っちゃ失礼だけどLazy WindとAiles Flammeのライブってそんなにお客様が来てるの!?

 

そう思った俺を見透かしたのか英治さんが続けて言った。

 

「今日は元Blue Tearの架純ちゃんが復活ライブしますって宣伝をやったからお客様いっぱいでな!満員御礼で俺としてもありがたいぜ」

 

そう言って英治さんは笑っていた。

なるほどね。Blue Tearの架純と言えば、大人気アイドルだ。Blue Tearを解散した後は露出も無かった訳だし、復活ライブってなるとファンはみんな見たいと思うだろう。

 

でもそう言って笑っていた英治さんが苦い顔をして

 

「……なのに、当のLazy Windのボーカルの拓斗もAiles Flammeのボーカルの渉くんもな」

 

英治さんが指をさした方向。

そこには悲壮感漂うオーラを発しながらしゃがみこんでいる渉くんと拓斗さんが居た。

 

どうしたんだろう?俺は2人に近付いてみた。

 

 

「梓…何で帰ってくるのが今日なんだ…。お迎えに行きたい人生だった…」

 

拓斗さん?

 

「にーちゃん…何で梓ねーちゃんのお迎えに行っちゃったんだ…。頑張れよ渉!って声を掛けてもらいたい人生だった…」

 

渉くんもか…。

 

「あの、英治さん。渉くんと拓斗さんって…」

 

「ああ。見ての通りだ。

拓斗は梓を迎えに行けない事に落ち込んで、渉くんはタカに激励してもらえない事に落ち込んでてな」

 

あ、そうなんだ…。

 

「まぁ、拓斗も渉くんもゲネプロはしっかりしてたし、ライブは問題無いと思うけどな。今は架純ちゃんと明日香ちゃんと聡美ちゃんで最終リハやってるから暇なんだろ」

 

ゲネプロはしっかりやったなら大丈夫なのかな。

でも架純さん達だけで最終リハって何か気になる事でもあったのかな?

 

その後、俺と冬馬は英治さんについて行き、開場時間まで列整理をして、開場後しばらくしてからSCARLETのスタッフがヘルプに来てくれた。

それからは俺と冬馬は手伝いから解放され、関係者席へと通してもらった。

 

開演10分前。これからまずはLazy Windのライブが始まる。何とか開演には間に合って良かった。

 

 

 

 

「あ、春くんもまっちゃんもお疲れ様!」

 

「春くん、松岡くんこんにちは」

 

関係者席に入ると結衣と姫咲、雨宮さんと紗智さん、まどかさんと栞ちゃんが居た。

 

「あれ?綾乃さんと雪村さんはまだ戻って来てないの?」

 

結衣と姫咲以外のメンバーはファントムの手伝いをしていたメンバーだ。

綾乃さんと雪村さんはドリンク出ししてるみたいだったし、まだあっちは忙しいのかな?

 

 

\\ワァァァァー//

 

 

ん?大きな歓声だ。

ステージがライトアップされ、Lazy Windの演奏が始まった。

 

すごく激しいサウンドだ。

これがクリムゾンと戦ってきたバンドの音楽か…。

 

 

 

 

Lazy Windの4曲目が終わり、次が最後の5曲目となる。

拓斗さんのサウンド、架純ちゃんのパフォーマンス、聡美さんのリズム、明日香ちゃんのメロディー。

 

みんながみんな凄かった。今の俺達じゃLazy Windの演奏には並ぶ事も出来ない。俺はもっとパフォーマンスを磨かなきゃ…。そう思わせてもらえる音楽だった。

 

 

 

「何とかギリギリ間に合ったか…」

 

「そうね。これからラストコールでLazy Windの最後の曲のようね」

 

ちょうどLazy Windのラストの曲の前に、貴さん達が俺達の居る関係者席に入って来た。

貴さんがおんぶしている女性……この人が木原 梓さんか。

 

「先輩って意外と力持ちですね?だけど梓お姉ちゃんをおんぶした時に太股とかお尻を触りましたよね?明日の光は見ることはないです」

 

「梓さんも貴さんなんかにおんぶされて気持ち悪くなかったかしら?その屈辱は私が晴らしてあげますね」

 

「ねぇ澄香。なっちゃんもりっちゃんもやっぱりなの?」

 

「……なっちゃんとりっちゃんだけじゃないけどね」

 

「梓ちゃん、はい車イス」

 

「あ、トシキくんありがとう。タカくんもここまでおんぶしてくれてありがとうね」

 

「めちゃ重かったわ…」

 

「貴、拓斗さんの曲…始まりますよ」

 

俺もみんなに挨拶をと思ったけど、今はLazy Windのライブ中。俺はもっとLazy Windのライブを、パフォーマンスを見たい。挨拶は後回しにしてライブに集中する事にした。

 

 

♪♪~

♪♪♪~

 

 

「すごいね拓斗くん。でも拓斗くんってよっぽどタカくんの事好きなんだね。タカくんのパフォーマンスにそっくり」

 

え?拓斗さんのパフォーマンスって貴さんとそっくりなの?そうか、拓斗さんもBREEZEのベーシストだったんだもんね。クリムゾンとの戦い以前にライブ馴れもしてるんだ…。

 

「あ?そうか?」

 

「俺は少し安心したかな。宮ちゃんの音楽、こないだまでとは全然違う」

 

「トシキさんもそう思いましたか?あの時と全然違いますね。みんなすごく楽しそうです」

 

「ま、それでもあたしにはまだまだ敵わないけどね~?やっぱり貴ちゃんの隣はあたしの場所だよね~」

 

「え?せっちゃん?」

 

Lazy Windの演奏が終わった。

俺達Canoro Feliceとは曲調も違うアグレッシブなサウンドだったけど、俺にとっては色々と考えさせられるライブだった。拓斗さん、架純さん、聡美さん、明日香ちゃん。ありがとう。

 

 

次はAiles Flammeのライブだ。

江口くん達の演奏も楽しみだ。しっかり見ておかないと。

 

「次はAiles Flammeくんだっけ?澄香にBREEZEに似てるって聞いてるし楽しみにしてたんだ~♪」

 

Ailes FlammeがBREEZEに似てる?

そういえば澄香さんも以前そう言っていた。

そしてDivalはArtemisに…。

 

「あ?あいつら何やってんだ?……あっ」

 

え?

俺がステージに目をやると、ステージ上にはまだLazy Windが居た。架純さんをセンターにして…

 

 

「皆さん、Lazy Windの曲を聞いてくれてありがとうございました。………次の曲が、新しい私達の、新しいLazy Windの音楽です」

 

 

新しいLazy Windの音楽…?

架純さんはそう言った。

 

まさか…架純さんに歌を…?喉は大丈夫なの?

 

 

「聞いて下さい。Lazy Windで『新しい明日へ(あたらしいあしたへ)』」

 

 

-ドキン

 

 

明日香ちゃんのメロディーから、架純さんの歌が始まった。俺はLazy Windの曲を聴いて胸がドキドキした。

だってこれは今までのLazy Windの曲とは違い、明るくポップな…俺達Canoro Feliceの曲調に近いような…そんな音楽だった。

 

この曲や歌詞を作ったのは誰なんだろう?

この曲にはドキドキやワクワクが詰まっている感じがする。俺がやりたいと思ってた音楽だ。

 

 

「 わぁ~、すごいね。これって拓斗くんが作ったのかな?」

 

「曲はそうかも知れないけど、この歌詞は宮ちゃんには書けないんじゃない?」

 

「すげぇな。拓斗も架純ちゃん達も」

 

「はーちゃんもそう思う?」

 

「ん?ああ。みんな楽しそうに演奏してんよな。あん時のデュエルでこの曲やられてたら、俺らが負けてたかもな」

 

「タカが素直に負けを認めるとか珍しいじゃん」

 

「翔子。でも今のLazy Wind見たら私もそう思うよ。私も拓斗に負けてらんなんな」

 

 

タカさん達もLazy Windの演奏すごいと思ってるんだね。

 

「ひぐ…ぐす…ぐす」

 

「結衣?大丈夫ですか?」

 

結衣?泣いてる…?

あ、そうか。架純さんが歌ってるんだもんね。

 

「架純…喉が…なのに、昔みたいに……ううん、あの時よりずっとすごい…架純…」

 

結衣…。良かったよね。また架純さんの歌が聴けて…。

 

 

俺がそう思った時だった。

 

 

「……!?」

 

 

架純さんの歌声が止まった。

 

 

会場に鳴り響くのは架純さんのギター、拓斗さんのベース、聡美さんのドラム、明日香ちゃんのキーボードのみ。

 

演出と取れなくもないタイミングだったけど、俺達にはわかってしまった。

 

きっと架純さんは声が出なくなったんだ。

 

 

数秒とも数分とも感じられる間奏。

これ以上間奏が続くとお客さんにも変に思われ兼ねない…。こんな時ってどうすれば…。

 

「架純…嘘だよ。こんなの…」

 

「結衣!?何処に行きますの!?」

 

「ステージだよ!このままじゃ架純は…!」

 

「何をバカな事を言ってますの!?結衣が行ってどうなるというのですか!結衣がステージに上がったりしたら、それこそ架純さんを追い詰める事になりますわよ!」

 

「わかってる!わかってるよ!でもこのままじゃ…!」

 

「結衣ちゃん。気持ちはわかりますが今はこの場で祈るしかありません。架純様を信じるしか私達は…」

 

「すみちゃん…でも…でもさ…」

 

結衣の気持ちもわかる。何とか助けてあげたい。

だけど俺達には何も出切る事なんて…。

 

 

♪~

♪♪~

♪♪♪~

 

 

え?

 

 

♪~

 

 

Lazy Windの曲調が少し変わった。

俺がそう思ってステージを見た時、明日香ちゃんが歌い始めた。さっきの演奏の繋がりに不自然を感じさせないメロディーを奏でながら。

 

 

「さっすが明日香!やるじゃん!!」

 

「うん、志保の言う通りだね。あの場で即興で曲を繋げて歌い始めるなんて…。技術だけじゃなくてこの曲をよくわかってこそって感じだよね!」

 

うん、渚さんの言う通りだ。

即興で曲を作って演奏しても、この曲に合わなければそれまでだったし、まわりに違和感を持たせる結果になったはず。こんな事を土壇場でやってのけるなんて…。

 

「明日香のやつなかなかやるな。だが…」

 

「うん、やっぱりこのままじゃまずいよね」

 

え?タカさんと梓さんには気になる事が?

 

「たぁくん、あずあず!それってどういう事!?」

 

「え?あずあず?それってあたしの事?」

 

結衣…。早速梓さんもあだ名呼びなのか…。

 

「そうね。今は御堂さんにトラブルがあって、観月さんが即興で曲を繋げる事は出来た。だけど、問題はこの後よ。このまま観月さんがラストまで引っ張れる訳がないわ」

 

「理奈の言う通りだな。このまま架純ちゃんのパート無しだとラストに違和感が残る」

 

そうか…。確かにこのまま明日香ちゃんのパートで終わらせる訳にはいかないか…。でも架純さんはもう…。

 

 

♪~

 

 

!?

架純さんが明日香ちゃんの歌声に合わせて歌い出した。

綺麗にハモっている。すごい。まるで本当にこの曲はこうあるべき曲だったような…。

 

いや、架純さんと明日香ちゃんだけじゃない。

拓斗さんも聡美さんも何の相談もなくリズムをふたりに伝えたなんて…。もしかしたらファントムで一番上手いバンドなんじゃ…。

 

 

「奈緒」

 

「ふぇ?貴?どうしました?」

 

「拓斗のクソバカに負けてらんねぇからな。Blaze Future、もっとがんばんぞ」

 

「貴…?………はい!もちろんです!」

 

 

 

「明日香…やるじゃん」

 

「志保!理奈!私達も!!」

 

「ええ、負けていられないわ。まだまだ上を目指すわよ」

 

「志保!帰ったらまた私の練習に付き合って!」

 

 

 

「まさか拓斗のバカがこんなに…」

 

「翔子先生。悔しいですけど私のベースじゃ拓斗さんには…」

 

「美緒ちゃん。拓斗さんだけじゃないよ。

あたしもまだ聡美さんみたいに上手くリズムを繋げるなんて出来ないと思う」

 

「明日香さんのキーボードすごい。即興であんなパフォーマンスや曲を…」

 

「美緒、恵美、麻衣。明日からもっと練習するよ。翔子ちゃん先生、付き合って」

 

 

 

「架純…。すごい!すごいよ!!」

 

「さすがですわね。これがBREEZEの……いえ、クリムゾンと戦ってきたベーシストの…バンドの音楽…」

 

「姫咲お嬢様。多分そうではございません。これまでのLazy Windであれば……」

 

「澄香さん?」

 

「明日からは覚悟して下さいませ。私のベーシストとしての技術。全て姫咲お嬢様に叩き込んでいきますので」

 

「……クス。いいですわね。望むところですわ」

 

 

 

何て言えばいいんだろう。

今日のLazy WindのライブはBlaze FutureやDival、俺達Canoro Feliceにも…きっとステージ袖で見ているAiles Flammeにも刺激的なライブになったと思う。

 

Glitter Melodyにも今日観に来てくれているお客様にもきっと…。

 

 

 

そして、Lazy Windの演奏が終わり、ステージはライトアップされたまま誰も何も声を出さなかった。

架純さんを見ていたらわかる。顔は笑顔でいるけれど、心ここにあらずって感じだ。

 

きっとこの後は架純さんのMCで終わる予定だったんだろう。でも架純さんはもう声は…。

さっきの曲で架純さんは出し切ったんだ。

 

「春太。すげぇな、拓斗さんもLazy Windのメンバーみんな」

 

「うん、俺達もあんなライブが出来るようなバンドになりたいよね」

 

「……なれると思うぞ。俺達ならな」

 

「冬馬…」

 

「た、多分だけどな。きっとな!

きっと…俺達ならCanoro Feliceならもっとすげぇバンドに…な」

 

「うん。そうだね」

 

冬馬がこんな事を言うなんてね。

南国への旅行も今日のLazy Windのライブも俺達にとって本当に良い風だったんだと思う。

 

俺達も幸せの音色を風に乗せて届けられるように、もっとかっこよくてキラキラしたバンドに……きっとなるよ。

 

 

「…あ!私!架純達の所行ってくる!」

 

「あ、結衣…」

 

結衣は俺の呼び止めにも反応せず、そのまま関係者席から出て行った。

……俺は結衣を呼び止めて何を言うつもりだったんだろう。

 

俺も行く!

 

そうだね。きっとそれが言いたかった。俺も行きたいんだ。

結衣は架純さんの事を心配しているんだろうけど、俺はあんな凄い演奏をしたLazy Windと話がしたいんだ。

 

「よし、行くか」

 

「え?え?貴さん…?」

 

急に貴さんが俺の肩に手を回してきたものだからびっくりした。

行くかって一体…?

 

「あの…貴さん?」

 

「あ?まぁあれだ。俺は渉と亮と拓実に激励とな。シフォンに愛を囁きに行こうかなってな」

 

え?シフォンに愛を…?

 

「まぁ、それで俺ひとりで行っても拓斗に見つかってもな。あいつには別にかけたい言葉とか無いし?」

 

いや、無いし?って聞かれても…。

 

「あれだ。一瀬くんには拓斗達Lazy Windに声を掛けてもらって、俺はAiles Flammeを激励する。その為にな」

 

貴さん…もしかして…。

 

「ありがとうございます。ご一緒します」

 

「あ?何でお礼言われてんの?ただお互いwin-winなだけだし」

 

お互いにwin-winか。

俺は一言もLazy Windと話したいとは口に出してないのに…。貴さんも本当に凄いな。

 

 

 

 

「コホッコホッ」

 

「ああ!無理に喋らなくていいよ!」

 

俺と貴さんが舞台袖に着いた時には、結衣は架純さん達Lazy Windと一緒に居た。

 

「あ?タカ?」

 

「コホッ……え?タカさん?(キリッ」

 

「え?架純…?」

 

俺と貴さんに気付いた拓斗さんが俺達の方へと歩いて来てくれた。

 

「タカ、俺達の演奏…どうだったよ?」

 

「あ?どうでもいいけど?それよりAiles Flammeはどこ?てか、お前誰?」

 

貴さん……。

 

「て、てめ…」

 

「あー、梓は関係者席に置いてきたんだったわ。さっきのバンドの演奏良かったとか言ってたなぁ」

 

……拓斗さんは何も言わずに走って行った。

これが…BREEZEか…。

 

「よ、架純ちゃんも聡美ちゃんも明日香もさっきの演奏良かったな。観てる俺も最高に楽しかった」

 

「貴さん…あ、ありがとうございます…///」

 

「タカさん…何で私は呼び捨てなの?」

 

「貴くんは何でそれを拓斗くんに言わへんの?照れ屋なん?」

 

おっと、俺も声を掛けておこうかな。

 

「今日のLazy Windのライブ最高でした。俺も楽しかったです」

 

「一瀬さん、ありがとうございます。

コホッ、Canoro Feliceにも刺激のある演奏になってたら嬉しいです。コホッ」

 

「架純…」

 

「結衣…、本当にありがとう。私が最後まで歌えたのは結衣の差し入れのおかげだよ。コホッ、結衣が…応援に来てくれたから」

 

「架純ぃ~…」

 

結衣が差し入れに?

そっか、昨日澄香さんの言ってた結衣のやる事ってのは…。

 

 

「おーい、Ailes Flamme!準備OKだぞ!」

 

 

英治さんが舞台袖に居る俺達、いや、Ailes Flammeに声を掛けてくれた。

 

 

「よし!!亮、拓実、シフォン!行くぜAiles Flamme!」

 

「ああ、Lazy Windに負けてらんねぇしな」

 

「うん、拓斗さんに僕の演奏をしっかり見てもらわなきゃ」

 

「行くよ!Ailes Flamme!!」

 

 

そして、Ailes Flammeがステージに上がろうとした時、渉くんは俺達の方へ向かって

 

 

 

「にーちゃん、春さん達も明日香達も見ててくれよな!

俺達のAiles Flammeのステージを!!」

 

 

 

Ailes Flammeの演奏が始まる…。


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