バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第7話 母と娘と

あたしの名前は木原 梓。

 

まさか死んでいたと思われていた人物が実は生きていて、アメリカでリハビリ中なのに日本にさっさと帰って来て早々にモノローグ回があるとは…。

 

実はあたしが日本に帰って来てから2週間が経った。

 

あの日からは、なっちゃん達Divalのメンバーや、奈緒ちゃん、せっちゃん、まどかちゃんといった、タカくん以外のBlaze Futureのメンバーにお世話になりながら今の生活にも馴れてきた所だ。

 

って、何でBREEZEのメンバーもArtemisのメンバーもあたしに会いに来てくれないの?もしかしてあたし嫌われてる?

手塚さんもこないだ話した日以来会いに来ないし。

 

おっと、ついネガティブになっちゃったよ。タカくんの影響かな?

 

 

あたしが日本に帰って来た日。

奈緒ちゃんをボーカルとしてプロデュースしたいと言った手塚さん。

あたし達ArtemisとBREEZEのプロデュースでバンドを作ろうと提案してきた。

 

奈緒ちゃんの歌には何かがある。あたしやタカくんとも違う何かが…。だからあたしは奈緒ちゃんに歌わせるのはお父さん……いや、クリムゾンエンターテイメントに狙われるかも知れない不安から危険だと思った。

だけど、お父さんが…海原が居ないなら…。バンドとして奈緒ちゃんの音楽は、ひとりのバンドマンとして、あたしは聴いてみたいと思ったのも確かだ。

 

 

 

「ま、タカくんは反対だろうなぁ~」

 

そう。今は海原もクリムゾンエンターテイメントも居るんだから。それがあたし達の現実だから。

 

そしてあたしは部屋のカレンダーに目をやった。

 

とうとう待ちにまった日がやってきたのだ。

 

せっかくの1日だというのに、Divalは今日はスタジオで練習があり、Blaze Futureも今日はタカくん以外のメンバーとNoble Fateとで合同練習らしい。

何でタカくんは合同練習に参加していないんだろう?という疑問はあるけれど、今日のあたしにはそんな事は些細な問題だった。

 

 

だって今日は…。

 

 

あたしの推しソシャゲ(乙女ゲーム)のイベントがとあるデパートで開催される日!!

澄香は今日は秋月家の仕事で忙しいらしく、翔子は修学旅行の準備やら日奈子は仕事とかで誰も誘う事は出来なかった。あたしはぼっちで行くしかない…!!

 

「あたしは!ひとりでも負けないっ!!」

 

あたしは玄関のドアを開け外に出た。

 

「あ、暑い…帰りたい…」

 

早速心が折れそうになってしまった。

 

だけどあたしは行かねばならない。推しキャラのグッズが売り切れる前に!!

 

 

 

 

あたしは車イスで馴れない街並みを走っていた。

そう、馴れない街並みなのだ。

 

「こ、ここはどこだろう…?」

 

だからあたしは迷子になった訳ではない。決して。

 

しかし本当に困っちゃったな。

わかる道まで引き返そうかとも思ったけど、既にわかる道までの道のりがわからない。

 

こうなったら迷惑かも知れないけど、なっちゃんかタカくんに電話して…。

 

ダメだ。タカくんはともかくなっちゃんの邪魔はしたくない。なっちゃんも志保ちゃんもりっちゃんも香菜ちゃんも、Divalを一番頑張ってもらいたいし。

 

かと言ってこのまま迷子…じゃない。

『さ迷える孤高の狼』のままじゃイベントの時間にどんどん遅れる事になる。

 

さ迷える孤高の狼って…。

こないだせっちゃんにも『考えてみたらさ~?美しい堕天使シャイニング梓お姉さまって呼び名ダサいよね~』とか言われちゃったし、そろそろ中二病も卒業しないといけないかな。そもそも卒業出来るならとっくに卒業してる気もするけど。

 

あたしがそんな事を考えていると…。

 

-ドン

 

「「わっ!?」」

 

あたしは曲がり角の所で誰かとぶつかってしまった。

まさか白馬に乗った王子様!?

 

とか、考えてる場合じゃないって!

あたしは車イスだし大丈夫だったけど、ぶつかった人は…!!

 

 

-ドクン

 

 

え?

 

 

この子は…。

 

 

胸が痛い。まさかこんな事って…。

鼓動が早くなるのがよくわかった。

 

 

「……ぶつかってしまってごめんなさい。あたしは大丈夫。だから気にする必要はない。じゃあバイバイ」

 

 

あたしとぶつかった女の子はそう言って、その場から立ち去ろうとした。

 

呼び止めなくちゃいけない。

 

「あ、あの…」

 

あたしはその女の子に声を掛けようとした。

 

「あたしは忙しい。だから…。あたしに構わないで」

 

その女の子はあたしの方を見る事もなく、そう言って走って行こうとした。

 

「あ、足が…うぅ…」

 

「え?」

 

あたしが足を痛めた振りをするとその女の子は心配そうに振り向いてくれた。騙しちゃってごめんね。

 

「足が…くっ……」

 

「だ、大丈夫…?」

 

もう少しかな…。

 

「うぅ…も、もうダメ…」

 

「お母さん…!」

 

お母さん。その女の子はあたしの事をそう呼んで駆け寄って来てくれた。そしてあたしは…。

 

「えい!」

 

車イスから立ち上がって、その女の子へと抱きついた。

 

「え?わ、わわわわ…」

 

「やっと捕まえた。美来ちゃん」

 

この女の子はあたしのmakarios bios。39番、美来ちゃんだ。

 

「な、何で…足は…?」

 

「手術も成功したしリハビリも頑張ってるからね。少しだけなら立って歩くくらい出来るよ」

 

「木原 梓。あたしを騙したの?」

 

「うん、ごめんね。走って行かれちゃったら、追っかけられないから。でも何で名前で呼ぶの?さっきはお母さんって言ってくれたのに」

 

「は?はぁ?何言ってるの?それは多分気のせい。あれがあれだから。あれだし」

 

「タカくんやなっちゃんから少し話は聞いてたけど、元気そうで良かった。ごめんね、あたしの事で…15年間苦しかったよね…」

 

「何で謝るの?謝るのはあたしの方じゃない。あたしがあの日脱走しなかったら、木原 梓は事故に合うことも…Artemisの事も…足も…」

 

「15年前も言ったけど、お母さんでいいんだよ。美来ちゃん。美来って今は名乗ってくれてるんだってね。ありがと」

 

「……お母さんが…付けてくれた名前だから」

 

「へへへ、あの頃はそんな名前嫌だって言ってたのにね」

 

「だって…美しい未来なんかあたしには無いのに…」

 

「今、あたし達は会えたよ。15年前からしたら今は未来だよ」

 

「……おか…さん」

 

 

 

 

あたしが抱き締めていた手を緩めると、美来ちゃんは走って逃げようとしたが、すかさず腕を掴み、少しだけでいいからお話がしたいと懇願した。

 

それでも無理とか嫌とか言って逃げようとしたが、少し付き合ってくれないと駄々っ子のようにここで泣きじゃくると脅……説得し、何とかお茶だけ付き合ってもらえる事になった。母親の威厳よ……。

 

 

「取り敢えずしょうがないからお茶だけ付き合ってあげる。あたしが忙しいっていうのは本当だから」

 

「ほ、本当にごめんね。忙しいって、誰かと約束かな?」

 

「いや、あたし休日はぼっちで居たいし。ちょっとした買い物」

 

休日はぼっちで居たいって…。美来ちゃんあたしの遺伝子から造られてるんだよね?タカくんの遺伝子じゃないよね?お母さん超心配なんだけど…。

 

「買い物かぁ。何買いに行くの?あたしも付き合おうか?」

 

「あたしが買いに行くのはオシャンティな秋物のお洋服。だからお母さんは…そのあれだよ?」

 

「あれだよって何?あたしだってオシャンティな服を見立てるくらい出来るよ?」

 

「チッ、お母さんをあんな所に連れて行けるわけないじゃん…(ボソッ」

 

「え?何?ちょっと聞こえなかったんだけど…」

 

「何でもない。それよりお母さんこそこんな所で何をしていたの?この辺に用事?」

 

「え!?え、ええ……まぁ…」

 

「この辺に用事って何?」

 

うっ…、何でそんなぐいぐい聞いてくるの?

言える訳ないじゃん。『実はソシャゲのイベントが開催されてるからそのグッズを買いにね!でもイベントやってるデパートに辿り着けずに迷子になっちゃって』なんて!!あ、迷子って認めちゃったよ。

 

くっ、どう言うべきか…。恥ずかしくない言い訳を考えなくては…!!

 

「お母さん?」

 

「あ、そういえば美来ちゃん。クリムゾンエンターテイメントに戻ったんだってね」

 

あたしはズルい…。結局言い訳が思い付かずに話を反らしてしまった。

 

「タカくんやなっちゃんから聞いているんでしょう?あたしはクリムゾンエンターテイメントでバンドをやっている」

 

「うん。色々事情があるみたいだって…」

 

「ん?お母さんが気にするような事じゃない。あたしは好きに歌っているし今のバンドも好きだから。九頭竜とクリムゾンは嫌いだけど」

 

そっか。クリムゾンエンターテイメントでも美来ちゃんは好きに歌えてるんだ…。

 

でも何でだろ?お父さんが許してもクリムゾンエンターテイメントもクリムゾングループの会社にすぎない。

それで何で美来ちゃん達は自由な音楽を…。

 

アルティメットスコアも完成している訳がないのに。

 

アルティメットスコアなんて存在し得ないんだから。

 

 

「その事情ってのはあたしは詳しく聞いてないけどさ。……あたし達の元に来てくれないかな?もちろん美来ちゃんのバンドメンバーも一緒に」

 

「それがお母さんがあたしにしたかった話?あたし達にファントムのバンドになれって事?」

 

「……ちょっと違うかな?あたしは正直、美来ちゃんが今、楽しんでバンドをやってるならSCARLETでもファントムでもクリムゾンでもいいよ」

 

「クリムゾンでもいいんだ?」

 

「うん。本当に楽しんでやってるならね」

 

あたしは美来ちゃんの目を真っ直ぐに見た。

 

「……わかんない。あたしは楽しんで歌っている。だけど、結局はデュエルギグでクリムゾングループ以外のバンドを潰していっている事に変わりはない。そこは仕事として割り切るようにはしているけど」

 

「そんな悲しくなるデュエル…辞めちゃいなよ」

 

「そう出来るならそうしたい気もする。でもこれがあたしの選んだ道だから。あたしはもう九頭竜にはmakarios biosを造らせたくない。それがあたしのクリムゾンで歌う理由」

 

そっか。美来ちゃんは九頭竜に…お父さんにそう言われて…。だからクリムゾンエンターテイメントで歌っているんだね。

 

お父さんと九頭竜の事だから…きっとそんな約束は…。

 

「お母さん?」

 

「あ、ごめんね。やっぱ今度こそ海原も九頭竜もやっつけちゃわないとなぁって思って。あはは」

 

「タカくんもそんな事言っていた」

 

もうタカくんには頼りたくないんだけどね。

あたし達が頼っちゃったから…。タカくんは足立と…そして喉を…。

 

「そろそろ時間。あたしは行く」

 

え?もう?

 

「も、もうちょっといいじゃん。ね?もうちょっとだけ」

 

「さっきも言ったようにあたしは忙しい。売り切れちゃうとへこむし」

 

え?売り切れちゃう?

 

あっ!忘れてた!あたしもイベントに急がなきゃ!

 

「あ、ならさ、あたしと連絡先交換しよ?また時間のある時にでもさ?」

 

あたしはスマホを取り出して、美来ちゃんと連絡先の交換を提案した。

 

「お母さん、ごめん。あたしはお母さんともう会うつもりはない。だから…連絡先の交換は出来ない」

 

え…?もう会うつもりはないって…何で…?

あたしは会いたい。もっと美来ちゃんと一緒に居たいのに。

 

あ、そっか。

あたしは美来ちゃんにお母さんって呼んでもらっているけど、実際はあたしは美来ちゃんのお母さんじゃない。

あたしと美来ちゃんは同じ遺伝子。美来ちゃんはあたしのクローンだから…。

だからオリジナルであるあたしの事は…。

 

「…あたしの遺伝子だもんね。あたしの事イヤだよね」

 

「違う!お母さんの事は好き!本当はあたしも一緒に居たい!」

 

美来ちゃん…?

 

「あたしは…クリムゾンエンターテイメントの人間だから。

お母さんが生きている事はあたし以外は知らないはず。お母さんがあたしと一緒に居る事で、お母さんの生存が知られたら…またお母さんがクリムゾンエンターテイメントに狙われたりしたら…」

 

美来ちゃん…。そっか、美来ちゃんはあたしの事を心配して…。

 

「美来ちゃんスマホ貸して。これからいっぱい連絡する。これからはいっぱい会おう?」

 

「お母さん…!あたしの話聞いてた?」

 

「うん、聞いてたし気持ちもわかるよ。でもね、あたしが日本に帰ってきたのは、お父さんと…クリムゾンエンターテイメントと向き合う為だから」

 

「お母さん…」

 

そう。あたしは今度こそお父さんを…。クリムゾンエンターテイメントを…。

15年前、タカくん達があたし達の為に戦ってくれたように。今度はあたしがファントムのみんなや、美来ちゃんが楽しんで音楽をやれる為に…。

 

 

 

 

あたしと美来ちゃんは連絡先を交換し、会計を済ませて店を出た。美来ちゃんに車イスを押してもらいながら…。

 

「そういえばお母さん。お母さんはこの辺に何の用事なの?」

 

うっ…。結局その話に戻っちゃうか…。

 

「あ、えっと…ちょっと商店街近くのカクイデパートでお買い物をと思って…」

 

「商店街近くのカクイデパート?超奇遇。あたしもそこにお買い物。………入り口まで一緒に行こっか」

 

美来ちゃん…ふふ。

 

「さっきまではあたしから逃げようとしてたくせに」

 

「なっ!?あれだから。たまたま目的地が一緒なだけだから。別にもうちょっと一緒に居たいとか思ってないし。全然思ってないし」

 

「車イス押すの大変じゃない?あたしは大丈夫だよ?」

 

「こんなの全然屁でもない。それより商店街近くってここからちょっと遠いけど、何でこんなところに?ここら辺に住んでるの?」

 

「ひ、久しぶりの日本だから迷子になっちゃって…それにほら。あたし関西が拠点だし?この辺は詳しくないし?」

 

そうだよそうだよ!あたしは関西の人間やもん!

この辺の地理に詳しくなくてもしゃーないし!

迷子になっても仕方ないし!!

 

って、何を力説しているんだろうあたしは…。

 

「なるほど。ならあたしに任せるといい。この辺はあたしの庭みたいなもの」

 

「そうなんだ?じゃあ道案内頼んじゃおうかな」

 

この辺は美来ちゃんの庭みたいなもの…か。

15年前とは違って今は自由に外出も出来るんだね。

 

 

 

 

「ねぇ美来ちゃん。ここさっきも通った気がするんだけど…?」

 

「………カクイデパートに着いたらお母さんとバイバイしなくちゃいけない。だからわざと遠回りしている」

 

美来ちゃん…。そっか。あたしの遺伝子だもんね…。

 

「これは果てしなく困った。ここはどこだろう?」

 

美来ちゃん、心の声が駄々漏れだよ?やっぱり迷子なんだね…。けど、本当にこれは困った事になっちゃったな。

 

あたしがこれからどうしようかと考えている時だった。

 

 

「あれ?美来さん?」

 

「ん?気安くあたしを呼ぶのは何者?…あ、しおりん」

 

しおりん?美来ちゃんのお知り合いかな?

 

「お久しぶりです。先日はごちそうさまでした!」

 

「気にしなくていい。それよりしおりんはどうしてこ……こ…に、な、なんだ…と…!?」

 

ん? 美来ちゃん?どうかしたのかな?

 

「こんにちは。はじめまして。栞のお友達さんかな?」

 

「あ、あの…もし違ったら申し訳なく思う。も、もしかして…ふたにゃんさんです…か…?」

 

「ふぇ!?わ、私の事知ってるんですか?」

 

「あ、あたし!ふたにゃんさんのコスのファンでして!その、Twitterもフォローさせて頂いてます!」

 

そう言って美来ちゃんはふたにゃんさんと呼ばれる女の子に土下座していた。

 

「わ、わわわ、や、やめて下さい土下座なんて…!」

 

「ハッ、あ、あたしとした事が…!!

すみません。今から地面にめり込んでみせます!」

 

「そ、そんなの本当にいいから頭を上げてっ!?」

 

「あははは、双葉大人気だな!」

 

「ひ、弘美も止めてよ!一緒にこの子を説得して!」

 

ふたにゃんさんと呼ばれる女の子、しおりんと呼ばれる女の子。そして弘美と呼ばれる女の子と、知的なイメージの綺麗なお姉さん。そんな4人があたし達の前に居た。

 

「あ、あの、美来ちゃん?」

 

「ハッ、お母さんごめん。ちょっと我を忘れてしまった」

 

「「「「お母さん!?」」」」

 

目の前にいる4人の女の子達は、美来ちゃんにお母さんと呼ばれるあたしを見てびっくりしている。

 

「ちょ、み、美来さん?この方って美来さんのお母さんなの?お姉さんじゃなくて?」

 

「うん。血は繋がってないけどね。あれ?繋がってるのかな?その辺どうなんだろ?」

 

あ~…確かに血は繋がってないよね…。

 

「そ、そうなんですか?お二人そっくりですのに」

 

「ちょ!弘美そんな事を本人達の前で…!」

 

「あ、ふたにゃんさん、気にしなくていい。みんなもファントムのバンドマンなんだし知ってるでしょ?この人はArtemisの木原 梓」

 

え?この子達も…ファントムのバンドの…?

 

「え!?美来さんボクがファントムのバンドマンって知ってるの!?」

 

「もちろん知っている。しおりんはFABULOUS PERFUMEのイオリでしょ?」

 

え!?この子がFABULOUS PERFUMEの!?

FABULOUS PERFUMEって、男装バンドって聞いてたけど、こんな可愛い女の子がやってるんだ…?

 

「な、何でボクの事…」

 

「栞、待ちなさい」

 

「ふぇ?沙織?」

 

そう言って沙織と呼ばれた知的なイメージのする女の子が、しおりんちゃんとあたし達の間に入ってきた。

 

「栞がFABULOUS PERFUMEだと知っている。あなたもしかしてクリムゾンの人間?」

 

「うん。あたしはクリムゾンエンターテイメントのミュージシャン」

 

「そう。なら…」

 

「でも安心するといい。あたしはクリムゾンのミュージシャンだけど、お母さん、木原 梓はファントム側の人間だから」

 

美来ちゃん…?何でそんな事を…。

 

「…!?どういう事かしら?」

 

「FABULOUS PERFUMEのシグレだよね?

ならタカくんや英治くんから聞いていると思うんだけど?木原 梓のmakarios bios、39番の事」

 

「……なるほどね。あなたが葉川くん達が探していたというmakarios biosなのね」

 

 

そして美来ちゃんはあたしと美来ちゃんの関係を。今の状況を目の前の4人の女の子達に話した。

 

 

「なるほど。あなたはクリムゾンエンターテイメントのバンドMalignant Dollsのバンドマン。私達ファントムのバンドFABULOUS PERFUMEの敵。そして、クリムゾンとしてSCARLETの木原 梓さんとも敵同士」

 

「うん」

 

え?あたしってSCARLETの木原 梓なの?ファントムじゃないんだ?

 

「でも、美来という個人としては、栞とは友達だし、梓さんとは母娘のような関係と…?」

 

「うん。あたし個人としてはね。まぁ、それを受け入れるかどうかはあなた達次第」

 

「栞…。あなたはどう思う?」

 

「ふぇ?ボク?双葉じゃなくて?」

 

「栞はこの子と知り合いなんでしょ?」

 

「う~…ん、ボクは美来さん好きだし友達だと思ってるよ?美来さんの言う事も何となくわかるし。ほら、ボクらもゆーちゃん達と同じファントムの仲間って言ってもさ?Ailes Flammeももちろん、たか兄達Blaze FutureもCanoro Feliceともライバルだとは思ってるし」

 

「クリムゾングループとはそんな簡単に割り切れる関係ではないと思うのだけど。…そうね。私も姉がクリムゾンエンターテイメントの人間な訳だしね」

 

「FABULOUS PERFUMEのシグレの姉がクリムゾンエンターテイメントの人間?誰だろ?」

 

ふぇぇぇぇぇ!?

ちょっ…!!何なのこの展開!!

あたし達が戦ってた15年前より関係が複雑じゃない!?

15年前よりキツいんじゃ…。

 

「私の姉は小暮 麗香。あなた達クリムゾンエンターテイメントの幹部なのでしょ?」

 

「ん?シグレってレイレイの妹?……そっか。レイレイには妹がいたんだ?知らなかった」

 

「え?知らなかった…?」

 

小暮 麗香?クリムゾンエンターテイメントの幹部?

またあたしの知らない人だなぁ~…。

 

「あ、あの~…?」

 

「はい?」

 

美来ちゃんは沙織と呼ばれた人と引き続き何かを話しているようだった。そしてあたしはふたにゃんちゃんとしおりんちゃんに声を掛けられた。

 

「あの、貴くんや英治くんから話を聞いてまして…。木原さんが生きているって聞いた時は、一度お会いしたいと思ってました」

 

「ボクも!ボクはおっちゃんの…中原 英治さんにドラムを教わったんですよ!」

 

「そうなんだ?あたしもFABULOUS PERFUMEの事は聞いてるよ。これからよろしくね。

しおりんちゃんは英治くんにドラムを教わったって事はまどかちゃんや香菜ちゃんと一緒なのかな?」

 

まどかちゃんはこっちに来てから何度か会ったけど、あたしの事は覚えてなかったみたいだったよね。

まどかちゃんと綾乃ちゃんは昔に会った事があるんだけどね。

 

「うん!ボクも梓さんに会えるの楽しみにしてました!」

 

わぁ~。可愛いなぁこの子。

え、英治くんに変な事されてないかな?お姉さんはとてもとても不安です。

 

…でもそっか。こんな可愛らしい女の子達が…この子達がFABULOUS PERFUMEなんだね。

まだ演奏は聞いた事ないけど、タカくんも英治くんもかっこいいバンドって言ってたし、この子達の演奏を聞くのも楽しみだな。

 

「…お母さん!」

 

「え?あ、美来ちゃん?どうしたの?」

 

「どうしたの?は、あたしの台詞。あたし達の話聞いてた?」

 

あ、ご、ごめんね美来ちゃん。ちょっとボーっとしてたよ…。

 

「…カクイデパートだけど、これからさおりん達も行くらしい。それで一緒に行こうって事になったけど、お母さんもそれでいい?」

 

え?さおりん?誰それ?

っていうか、あたしも美来ちゃんも迷子なんだし、一緒に行ってくれるならその方が…。

 

「え?沙織って美来さんからさおりんって呼ばれるようになったの?ボクもこれからはさおりんって呼んでいい?」

 

「栞…頼むから止めてちょうだい…」

 

 

 

 

あたしと美来ちゃんはFABULOUS PERFUMEのメンバーに、カクイデパートに連れていってもらい、何とか昼前に到着する事が出来た。

オープン前から並ぶはずが何でこうなった!?

 

「んー、ちょっと早く着きすぎちゃったか。沙織、双葉、栞。あたしらはどうする?」

 

「そうだねー。まだ時間には余裕あるし、お昼ご飯でも食べに行こうか?」

 

「さんせーい!

そういう訳でボク達はお昼ご飯食べに行くけど、美来さんと梓さんも一緒にどう?」

 

そっか。もうそろそろお昼時だもんね。

FABULOUS PERFUMEのみんなとは仲良くしときたいし、ご一緒したい気もするんだけど…。

 

「あはは、ごめんね。あたしここで買い物あるし、また今度誘って」

 

「あたしも申し訳ない。せっかくふたにゃんさんとご飯出来る良い機会ではあるけど、あたしもここに買い物がある」

 

「そっかぁ~。残念」

 

うぅ、ごめんねしおりんちゃん。

ああ、本当にしおりんちゃん可愛いなぁ。

 

「じゃあ私達は行こっか。梓さん、またArtemisの時のお話聞かせて下さいね」

 

「うん、ふたにゃんちゃん、またね」

 

「あ、私ふたにゃんが定着しちゃったんだ…」

 

そしてFABULOUS PERFUMEの4人はあたし達と別れ、あたしと美来ちゃんのお別れ時間もやってきてしまった。

 

 

「美来ちゃん、連絡先の交換…ありがとうね。

また絶対連絡するから…」

 

「お母さん…。あたしも…また連絡する。したい。ううん、本当はまた…会いたい。生きててくれ…て、ありが…と…」

 

そう言って美来ちゃんは顔を伏せたまま…。

 

「だから…もうバイバイは言わない…。お母さん…また…ね」

 

「うん。美来ちゃん…またね」

 

 

またね。

 

 

あたしと美来ちゃんはそう言って別れた。

 

 

 

あたしはエレベーターに乗り、イベントの催しが行われている6階へと辿り着いた。

さすがイベント会場といったところだ。

ゲームのキャラのポスターやら、メニュー表やら、色んな物が所狭しと貼られてある。

 

いつものあたしならこのポスターやイベント会場の風景を思い出に残すべく、スマホで写真を撮りまくっていただろう。

だけど今はそんな事をする余裕はあたしには無かった。

 

 

だって……

 

 

あたしの前に並んで、色んな角度からポスターの写真を撮ったり自撮りをしている女の子…。

どう見ても美来ちゃんだもん……。

 

 

え!?ホント何で美来ちゃんがここに並んでるの!?

しかも何で写真撮りまくってるの!?

エレベーターで『同じイベントに参加ですか~』って話してたお姉さん達は、あたしが車イスだからって前を譲ってくれたし、今さらこの列から出るなんて出来ないし!

さっき『美来ちゃん……またね』とか言って別れたのに、そのまたねの場所がソシャゲ(乙女ゲーム)のイベント会場ってどうなの!!?

 

ああ、このまま美来ちゃんに気付かれないまま無事にイベント会場から脱出したい…。

 

 

 

 

それから少ししてイベント会場に入れる時間になった。

もちろんあたしの前に並んでいた美来ちゃんも同じタイミングではあるけど、美来ちゃんはポスターの写真撮影に夢中になっている。

 

本当はあたしもポスターを撮りまくりたいところではあるけど、今日の目的は完売する前に推しのグッズを買う事!!あたしは急いで物販コーナーに向かう事にした。

 

 

-ドクン

 

 

胸が弾けたのかと思った。

 

 

-ドクン、ドクン

 

 

鼓動が早くなるのがわかる。何で…ここに…?

 

 

そこには…あたしの推しの隆弥(たかや)くんの等身大ポップが、こっちに手を出し『おかえりなさい』という吹き出し付きで立っていた。

 

何なのこの尊さは…。

 

あたしは美来ちゃんに見つからないようにしなきゃという事なんかどうでもよくなり、誰かこの等身大隆弥くんとあたしのツーショを撮ってくれないだろうか?とか、

せっかく隆弥くんが手を出してくれているのに、『展示物にはお手を触れないで下さい』という注意書きのせいで触る事が出来ないとか、そんな事ばかりを考えていた。

 

 

「何で…隆弥くんが手を出してくれているのに…触れれないの…?」

 

ん?隣の女の子もこの隆弥くんの手に触れたくて葛藤しているんだね。わかります。

 

「くっ…この等身大ポップ欲しい。10万までなら出すのに…!」

 

10万?フッ、あたしなら20万は出すよ。

次の日から1日1食カップ麺生活になるかもしれないけど…。

 

ああ…でも本当に…。

 

 

「「隆弥くん尊い」」

 

 

ん?

 

「ん?」

 

この隣に来た女の子も隆弥くん推しなのか!

あたしはそう思ってその女の子の方を見た。

 

隣に居た女の子は…美来ちゃんだった。

これはまずい…!!

 

「ん?え?は?お、お母さ…」

 

 

世界(ザ・ワールド)!!

 

 

美来ちゃんは微動だにしない。

な、何とか世界を発動させて時を止める事が出来たかな…。危なかった。

 

やれやれだぜ。久しぶりに…15年振りに時を止める事が出来たぜ。

だが、今のあたしは何秒時を止められる?

 

いや、今はそんな事を考えている場合じゃない。

あたしの世界は発動された。

今あたしがやるべき事は、この止まった時の中で美来ちゃんの前から立ち去る事だ。車イスに座ってる訳だから立ち去るっていうか座り去るんだけれども!

 

あたしはこの場から去ろうと車イスを動かそうと……、何!?バ、バカな…!!?

 

あたしは車イスを動かそうとしたが、車イスは動かない。いや違う。車イスを動かそうとしているのに身体がぴくりとも動かない。

 

意識はある。車イスを動かそうと手を動かそうとしている。だけど、手も足も…何も動かす事が出来ない。

そう、まるで時を止められたかのように…。

 

 

ハッ!?

 

 

そこまで考えてあたしはハッとした。

動かない身体で美来ちゃんに目をやる。

 

美来ちゃんもあれから微動だにしていない。

美来ちゃんの時は止まっている。

そして、あたしの身体も動かない。

 

美来ちゃんはあたしの遺伝子から造られたmakarios bios。

あたしと美来ちゃんは同じ『個の存在』。

美来ちゃんも…美来ちゃんのスタンドも時を止める能力を有している可能性が……いや、美来ちゃんのスタンドも時を止める能力があるに違いない。

 

つまり…あたしが時を止めたタイミングで美来ちゃんも時を止めたんだ。

あたしは何秒時を…美来ちゃんは何秒時を止められる?

先に動いた方が……。

 

 

「あ、あのポスター可愛いー!」

 

え…?

 

「ちょっ!この角度マジ尊いんだけど!」

 

「え?アクスタ1人5限なの!?推し来なかったらどうしよう!?」

 

ま、待って…!!

あたしはまだ身体が動かない…!そして美来ちゃんも動いていない。

なのに何でまわりの女の子達は普通に動いてるの?

まるで時が止まっているのは、あたしと美来ちゃんだけみたいな……。

 

 

……

……そうだよねぇ。スタンド能力なんかある訳ないよね。時が止まってるのはあたしと美来ちゃんだけ。

お互いにびっくりして止まってしまってるだけだよ…。

 

あ~…どうしよ…。本当にあたしに世界のスタンドがあれば…。

 

はぁ…。いつまでもこうしててもしょうがないか…。

 

 

「み、 美来ちゃんさ…?」

 

あたしは思い切って美来ちゃんに話し掛けた。

 

「美来?美来って誰の事?あたしはそんな名前ではない。それじゃバイバイ」

 

美来ちゃん…無理があり過ぎるよ…。

さっきあたしの事お母さんって呼びかけてたじゃん…。

 

「あたし今から購入上限いっぱいまでアクスタ買うんだけどさ。お互いの推しが出なかったら交換しようよ」

 

「さすがお母さん。あたしもそれがいいと思っていた」

 

……あたしの遺伝子かぁ。

 

 

 

 

そしてあたしと美来ちゃんはグッズを購入し、トレード用に開けられたスペースでアクスタの中身確認をした。

 

「チッ、あたしは推しが出なかった」

 

「……あたしもだよ。ね、交換しようよ。美来ちゃんは誰が推しなの?」

 

「あたしの推しは隆弥くん」

 

推し被りかよぉぉぉぉぉぉぉ!!

あたしの遺伝子ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!

 

そういえばさっき等身大ポップの前で葛藤してたもんね。

 

「あたしも…隆弥くん推しなんだよね…」

 

「お母さんも?チ、推し被りか…」

 

どうしようかな?ここで隆弥くんのトレード探そうかな?美来ちゃんはどうするんだろ?

 

「誰か隆弥くんの交換募集してないかな?」

 

あ、美来ちゃんも同じ考えだった。

 

 

 

 

それから20分程交換相手を探してみたけど、残念ながら交換相手は見つからなかった。

 

「あれ?梓さんと美来ちゃん?」

 

「ん?あたしとお母さんを知っている?何者?」

 

あたしと美来ちゃんが声のした方に目を向けると、そこには沙織ちゃんと弘美ちゃんが居た。

 

「あれ?沙織ちゃんも弘美ちゃんもどうしたの?ご飯に行ったんじゃないの?」

 

「ああ、あたし達はもうご飯も食べ終えて…」

 

「双葉と栞がこのイベント会場でアクスタを買いたいと言ってたので、時間もあまりないのですが、グッズだけ買うとの事で…」

 

なるほど。ふたにゃんちゃんとしおりんちゃんもこのゲームが好きなのか。うん、超仲良くなれそう。

 

「沙織、弘美、ごめんね。待たせちゃって。

あれ?梓さんに美来ちゃんも?」

 

「双葉!あんまり時間も無いし先に屋上行こ!開封式はそこで!」

 

「あ、ああ、うん、そだね」

 

あ、FABULOUS PERFUMEのみんなはこれから屋上に行くのかな?

 

「あ、そうだ。梓さんも美来ちゃんもこれから一緒に屋上に行きませんか?もし良かったらですけど」

 

今からあたし達も屋上に?

 

「しおりんは屋上で開封式をするの?」

 

「うん、そだよ。あ、もしかして美来さんもアクスタ買った?ボクの推し来なかったら交換しない?推し被りしてなかったらだけど」

 

「……お母さん、あたしは今からしおりん達と屋上に行ってくる」

 

あはは…。

今から屋上かぁ。あたしもこの後は用事は無いし。

 

「じゃあ、あたしもご一緒しようかな」

 

 

 

 

あたしと美来ちゃんはFABULOUS PERFUMEのメンバーと一緒に屋上に行く事にした。

そこには小さなステージがあり、ステージ前には観覧用のイスが並べられていた。

 

今から誰かのミニライブでもあるのかな?って思ったけど、ステージには『執事戦隊セバスマン』と看板がかけてあった。特撮物のショーがあるのかな?

 

 

「席がちょうど空いていて良かったわね」

 

「ちょうど空いてたっていうか、あんまり人も居ないけどね…」

 

弘美ちゃんの言ったように、この会場にはさほど人は居なかった。

 

観覧席には子供ばっかりだもんね。

まわりにはチラホラ若い学生っぽい男女も多いけど…。

子供達にまじって観覧席に座るのが恥ずかしいのかな?

 

「まぁ、チビッ子が来たらボク達は立てばいいんじゃない?それより開封式~っと♪」

 

「ちなみにしおりんは誰推しなの?あたしとお母さんは隆弥くん推し」

 

「お?美来さんと梓さんは隆弥推しなんだ?ボクは悠聖(ゆうせい)推しだよ」

 

え?しおりんちゃんの推しは悠聖くん?

 

「む、悠聖くんならお母さんが当たっていたはず」

 

「まじで?梓さん、ボク悠聖は無限回収したいくらいだから、隆弥が出たら交換しますよ?」

 

「しおりんちゃんありがとう~」

 

「あ、美来ちゃん。私は刀児(とうじ)くん推しなんだけど、刀児くん持ってない?」

 

「ふたにゃんさん!?

刀児くんならあたしが持っている。もし、隆弥くんが当たったら是非交換して欲しい」

 

 

 

〈〈〈執事戦隊!セバスマン!!〉〉〉

 

 

\\ワァー!!//

 

パチパチパチパチパチ……

 

 

 

あ、特撮のショーが始まっちゃった。

 

「まず1個目~。………お!いきなり悠聖が来た!!

ふひひ、ボクは推しに愛されている」

 

ん?あれ?ショーは見なくてもいいの?

 

そう思ってFABULOUS PERFUMEのメンバーに目をやると、しおりんちゃんとふたにゃんちゃんはアクスタの開封式をしている。そして、沙織ちゃんと弘美ちゃんは2人で何かを話している様子だった。

 

あ、美来ちゃんはステージに目が釘付けになってる。

 

 

『セバスレッド!』

 

\\ワァー!//

 

『セバスブルー!』

 

\\ワァー//

 

『セバスグリーン!』

 

\\ワァー//

 

『セバスカレー!』

 

\\ワァー//

 

え?カレー?え?衣装は黄色みたいだけどイエローじゃないの?

 

『セバスショッキングピンク!』

 

\\ワァー//

 

ショッキングピンク!?

ピンクでいいじゃん!?

 

『セバスブラック!』

 

\\ワァー//

 

あ、普通に戻った。

 

『セバスオフホワイト!』

 

\\ワァー//

 

も、もうつっこまないよ?

 

『セバスゴールド!』

 

-シ~ン

 

何でシーンとしちゃったの!?ゴールド良くない!?

思わずつっこんじゃったよ!?

 

『セバスシルバーシート!』

 

\\ワァー//

 

シート!?え!?

 

『セバスブラウン!』

 

\\ワァー//

 

『セバスバイオレット!』

 

\\\\ワァー!キャー!!////

 

なんでバイオレットだけこんなに歓声大きいの!?

 

『セバスコバルトブルー!』

 

\\ワァー//

 

何人居るの!?戦隊だよね!?もう12人だよ!?

 

『セバスゼブラ!』

 

\\ワァー//

 

ま、まだ居るの…?

 

 

 

 

「梓さん!はい!隆弥!!」

 

「ありがとうしおりんちゃん!はい、悠聖くん」

 

「お母さんも無事に交換出来て良かった」

 

「美来ちゃんもありがとね。私も美来ちゃんのおかげで無事に刀児くんお迎え出来て良かったよ~」

 

あたし達は無事にアクスタの交換をする事が出来た。

でも今はそれよりも…。

 

 

『セバスタイガー!』

 

\\ワァー//

 

本当に何人居るの!?もうステージに上がれなくてステージ下に半分以上居るし!

それにもう色じゃなくて動物になってるしね!

 

『セバスフェニックス!』

 

\\ワァー//

 

『57人合わせて…』

 

『『『『執事戦隊セバスマン!』』』』

 

\\\\ワァー!キャー!イヤッフー!////

 

57人って…。

これって怪人とか戦闘員とか出てきたらこの場がカオスにならない?

 

 

そしてヒーローショーは開始された。

怪人や戦闘員が出て来る事もなく、何か昔の昼ドラみたいなドロドロとした恋愛模様のストーリーだった。

てか、ここ子供多いよ?いいの?そんな内容のショーをやって…。いや、ストーリーはちょっと先の展開が気になるレベルには面白いけどさ…。

 

ショーが始まって15分程が過ぎた後、舞台袖から狭い中を一生懸命掻い潜って怪人らしき人が出てきた。

 

 

『カーカッカッカ!俺様の名前はカニ怪人!!お前らセバスマンを一人残らず抹殺してやる為にここに来たのだ~!』

 

『『『『な、なんだと!?』』』』

 

 

本当になんだと!?って展開だよね。

57人相手に怪人1人だけって…。この怪人強いの?

 

 

『カーカッカッカ!戦闘員共は全員有給休暇中だからな!俺様1人で貴様らの相手をしてやるー!』

 

 

戦闘員は全員有給休暇って…。

でも本当にこの怪人さんは57人を相手に戦うのか…。

 

 

『カーカッカッカ!この人数相手に勝てる訳もない!

そこでセバスレッド!貴様に一対一の決闘を申し込む!』

 

 

あ、勝てる訳ないんだ?そりゃそうだよね。

 

 

『なにぃ!?一対一の決闘だと!?』

 

『レッド!こんな決闘を受ける必要はないわ!私達全員でカニ怪人と戦いましょう!』

 

 

うわぁ…ショッキングピンクもえげつない事言うね。

 

 

『ショッキングピンク!その通りだな!

おい!カニ怪人!!俺達は57人で力を合わせて貴様を倒す!!』

 

 

57人で力を合わせてって…。それもうフルボッコじゃん…。

 

 

『『『『そこまでだ!』』』』

 

 

ん?え?ここに来て新キャラ?あ、怪人の助っ人かな?

 

そしてステージから数人のセバスマンが下りて、ステージ上にはレッドとショッキングピンクとカニ怪人だけになった。そして舞台袖から現れたのは…。

 

 

『セバススプリング!』

 

\\オォー!//

 

 

ここに来て追加のセバスマンなんだ?

 

 

『セバスサマーだよ!』

 

\\オォー!//

 

『セバスオータムですわ!』

 

\\オォー!//

 

『セ、セバス…ウィンター…』

 

\\オォー!//

 

 

セバスマン4人追加か。これで61対1…。

 

 

『ま、まさかキミ達は新しい戦士なのか!?』

 

『ええ、そうですわ』

 

『セバスマンのピンチを聞きつけて、私達は助っ人に来たんだよ!』

 

 

ピンチ…?何のピンチなの?

 

 

『さぁ、ここは俺達に任せて!』

 

『そ、そうだぜ…こ、ここは俺達に…』

 

『ああ!ありがとう!!自己紹介といきたい所だが!

まずはこのカニ怪人を倒してからだなっ!』

 

 

そしてレッドはカニ怪人に近付いて行き…

 

 

『レッドパーンチ!!』

 

 

カニ怪人にパンチをした。

 

 

『ぐわぁぁぁぁ!!やられたぁぁぁぁ!!』

 

 

そしてカニ怪人はフラフラしながら舞台袖へと戻って行った。いや、結局レッド1人で勝ってるしね…。

 

 

『今日も俺達セバスマンの活躍で悪の驚異を倒し、世界に平和がもたらされた。だが、この世に悪がいる限り、俺達セバスマンに安息の日々は無いのだ!』

 

 

いや、さっきめちゃ昼ドラってたよね?

確かにドロドロしすぎてて安息では無さそうだったけど。

 

ん?あれ?

 

セバスレッドがステージの真ん中で喋っている中、他のセバスマン達はステージに何かを運んで来ていた。

 

あれはギターとベースとドラムセット…?

 

「あ、そろそろ始まるかな?」

 

始まる…?

 

「さっきのショーもある意味面白かったけど今からが本番ね」

 

「ああ、あたしもせっかくの公休に来たんだし楽しませてもらいたいね。意外とさっきのショーも見いっちゃったけど」

 

そっか。何か変だと思ってたけど、FABULOUS PERFUMEのみんなはさっきの特撮ショーじゃなくて、これから始まる何かを観に来たのか。

 

楽器が運び込まれてるって事は、誰かのミニライブかな?

 

「ねぇしおりん。今から何が始まるの?ライブ?」

 

「あ、うん。

どうもね、このセバスマンの主題歌をCanoro Feliceが歌う事になったみたいで、今日は新曲お披露目ライブやるみたいなんですよ」

 

「「Canoro Feliceの新曲お披露目ライブ!?」」

 

Canoro Feliceって澄香の言ってたバンドだ。

こないだ引っ越しの時もお世話になったもんね。

 

へぇ~、今から新曲お披露目のミニライブがあるんだね。すっごく楽しみ!今日は来て良かったな♪

 

「Ailes Flammeのみんなも誘ったんだけど、今日はファントムとは別のライブハウスで、evokeがゲスト出演するライブがあるみたいでさ。Ailes Flammeとたか兄はそっちに行ってるんですよ」

 

「ん?タカくんも?」

 

「うん。何かevokeをゲストに呼んだバンドさんが、たか兄の昔のお友達なんだって」

 

へぇ~、タカくんの昔のお友達かぁ。

もしかしてあたしの知ってる人かな?アルテミスの矢に居たバンドとか?

 

 

『みんなー!こーんにーちはー!』

 

\\こんにちはー!//

 

 

セバススプリングが観客席に向けて挨拶をした。

ステージ上ではセバススプリングがセンターに立ち、セバスサマーがギターを構え、セバスオータムがベースを、セバスウィンターがドラムの前に立っていた。

 

あの追加戦士の4人がCanoro Feliceくんだったんだね。

 

 

『それでは聴いて下さい!執事戦隊セバスマンのテーマソング!ヒーロー ~one for all~(ひーろー わんふぉーおーる)!!』

 

 

♪~

♪♪~

♪♪♪~

 

 

……すごい。さすが澄香が絶賛するバンドだ。

子供達が覚えやすいように、口ずさみやすいメロディーに、みんなで踊りやすいダンス。

一見子供向けな曲だけど、歌詞はしっかり大人の心にも響くような単語を選んで作られてる。

 

「みんな演奏技術が格段に上がってるわね」

 

「ああ、一瀬のダンスも子供達にも覚えやすいシンプルなダンスだし、本当に良い曲だな」

 

「うん。今度は私達のゲストって形じゃなくて、対バンをやりたいね」

 

「むー!松岡 冬馬め!ボクももっと練習しなくちゃ!」

 

「Canoro Felice…。演奏を観るのは初めてだけど、4人共なかなかやる。だけどまだあたし達の敵じゃない」

 

 

『ありがとうございました!執事戦隊セバスマンのテーマソングでした!そして俺が……』

 

 

そう言ってセバススプリングは頭に被っていたマスクを外した。

 

 

『Canoro Feliceのダンスボーカル!一瀬 春太です!』

 

\\キャー!春くーん!!//

 

 

へぇ、女の子のファンでいっぱいだ。

Canoro Feliceってもうこんなに知名度があるんだね。

 

 

『そして私がギターの夏野 結衣です!よろしくね!』

 

\\ワァー!ユイユイちゃーん!//

 

 

さすが元Blue Tearのユイユイちゃんだよね。

この子は男の子のファンでいっぱいだ。

 

 

『ベースの秋月 姫咲です。よろしくお願い致します』

 

\\ブヒィー!姫咲様ぁぁぁ!//

 

 

え?姫咲ちゃんのファン層って……。

 

 

『ドラムの松岡 冬馬です。よろしく』

 

\\冬馬くーん!//

 

 

松岡くんも女の子に人気みたいだね。

 

「冬馬~♪」

 

ふたにゃんちゃんが小さい声で松岡くんの名前を呼びながら小さく手を振っていた。

あ、もしかしてふたにゃんちゃんって。

フフン、お姉さんにはわかってしまいましたよ?

いいねぇ。青春だねぇ~。

 

 

『次は俺達のミニライブです!みんな、盛り上がっていこう!』

 

\\はーい!//

 

 

『んじゃあ行くよ!まっちゃんも準備いい?

Canoro Feliceで!』

 

『『『『Friend Ship』』』』

 

 

♪~

♪♪~

♪♪♪~

 

 

あたし達はCanoro Feliceのミニライブが終わった後、少しカフェでお茶を飲みながら談笑し、デパートを出て駅へと向かっていた。

 

本当にかっこよくて可愛いバンドだったな。Canoro Felice。

 

Canoro Feliceのメンバーは明日もショーとミニライブがあるらしく、これから居残りで打ち合わせだそうだ。

 

 

『明日もショーもミニライブもありますんで、是非明日も来て下さいね!ショーの方は今日の続き!復活カニ男です!楽しみにしてて下さいね!』

 

 

復活カニ男…。正直観たいと思ってしまった。

 

 

そして、沙織ちゃんと弘美ちゃんは、この後Noble Fateの木南 真希ちゃんって子とご飯の約束をしているらしく別れ、ふたにゃんちゃんとしおりんちゃんは、バイトという事で駅で別れた。

あたしと美来ちゃんもここでお別れだね。

 

「じゃあ…美来ちゃん」

 

「うん。お母さん…毎日LINEする」

 

「うん。待ってるよ」

 

そして美来ちゃんはあたしの乗る電車のホームまで車イスを押してくれていた。あたしの乗る電車の向かい側が美来ちゃんの乗る電車。どっちかの電車が来たら…。

 

って、それよりあたしって電車で来たら良かったんだね…。

 

「じゃあお母さん。あたしはここまでだけど迷子にならないように」

 

「うん。美来ちゃんも迷子にならないようにね」

 

「あ、そうだ。ちょっと待って」

 

ん?何だろう?

美来ちゃんは首もとをゴソゴソとしだした。

 

「これ。お母さんから預かった御守り。返しておく」

 

この御守りは…。

あたしが初めてタカくんに会った頃に買った御守り…。

ずっと持っててくれたんだ…。

 

「ずっと持っててくれたんだね。ありがとう」

 

「ちゃんと返せて良かった」

 

でもこれは。この御守りは…。

 

「美来ちゃん」

 

「ん?何?」

 

「これはあたしが美来ちゃんにあげた御守りだよ。

だから、これはずっと美来ちゃんが持ってて」

 

そう。この御守りは15年前にあたしが美来ちゃんにあげたんだ。

 

「いいの?でも、お母さんはあたしにこの御守りを渡したりしたから…」

 

「あの事故は御守り関係ないよ。それにあたしは御守り無くて車にひかれても無事だったんだしね」

 

「お母さん…」

 

あたしは御守りを渡そうとする美来ちゃんの手を握って…

 

「これは…美来ちゃんの御守りだよ。お母さんからのプレゼント。あはは、こ、こんな汚い御守りで悪いけど…」

 

「お母さん…」

 

 

『〇番ホームに電車が参りま………』

 

 

あ、美来ちゃんの乗る電車が来ちゃうね。

 

「ほら、美来ちゃん、電車来ちゃうから」

 

「お母さん…わかった。ありがとう」

 

そして電車が到着し、美来ちゃん電車に乗り込んだ。

 

「それじゃ…お母さん」

 

「うん。またね」

 

「お母さんが託してくれたこの恋愛成就の御守り。ずっと大切にする。お母さんの想いも」

 

ありがとう美来ちゃん。

あはは、あたしの想いもとか言われたら照れちゃうね。

 

「だから、お母さんの意志を継いで、あたしがタカくんと結婚してみせる」

 

ん?え?タカくんと結婚って何?

 

「お母さんが成就出来なかった恋愛を、あたしが必ず成就させてみせる!この御守りの為にも!」

 

「え?あの…?美来ちゃん?」

 

「ありがとうお母さん。いやー、でもタカくんと結婚かー。お母さんに恋愛成就を託されたから仕方ない。本当はタカくんと結婚なんて嫌なんだけど。マジ嫌だけど」

 

「え?ちょ、ち、違…」

 

-プシュー

 

そして電車のドアは閉まってしまった。

 

……え?は?

 

まさか…まさか美来ちゃんも…?

あ、あた…あたしの遺伝子ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!

 

 

 

 

あたしは今の家の最寄りの駅に着き、1人で少し考えていた。いや、タカくんの事じゃないよ?

いや…本当は少しは考えてたけど…。

 

 

Ailes FlammeとLazy Windのライブを観て考えた事。

そして今日のCanoro Feliceのライブを観てしたいと思った事。

 

あたしは日奈子に電話を掛けた。

仕事中かも知れないけど大丈夫かな?

 

 

『もしもし?梓ちゃん?』

 

「あ、日奈子。ごめんね、仕事中だった?」

 

『ううん。大丈夫だよ。そろそろ帰ろうと思ってたし』

 

「そっか。良かった。

それでごめんね…。手塚さん…いるかな?」

 

『ん?手塚?あいつも休日出勤してたみたいだし、まだ居るんじゃないかな?』

 

「もし良かったら手塚さんに代わってくれない?」

 

『手塚に代わるとか嫌だけど、梓ちゃんの頼みならしょうがないね。ちょっと待ってて』

 

そして日奈子は手塚さんに電話を代わってくれた。

そして…私は…。

 


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