バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第8章 リゾートバイト

「ハァ…ハァ…ハァ…、ま、待ってよ…渉…」

 

「ハァ…ハァ…拓実…!頑張れ!もう少しだぞ!」

 

俺は江口 渉。

今、俺と拓実は全力で走っている。

 

何故かというと今日から俺と拓実でリゾートバイトを始めるからだ。

まぁ、3日間だけの短期バイトなんだけどな!

しかし、そのバイトの集合時間に俺達は遅刻しそうで焦っているのだ。

 

「わ、渉が…この電車だって言うから乗ったのに…」

 

そう、俺は行き先の違う電車に乗り込んでしまったのだ。途中で拓実が気付いてくれなかったらアウトだったな。

 

 

 

 

「つ、着いた…。間に合った…」

 

「いやー、焦ったな!集合時間の20分前!やっぱり人間やれば何とでもなるもんだな!」

 

「電車を…乗り間違えなかったら、ハァ…ハァ…ゆっくり歩いても……余裕で間に合ったんだ……けどね…ハァ…ハァ」

 

「初日から大変だな。ドンマイ!」

 

「それ自分で言うの?」

 

俺と拓実が何故リゾートバイトをする事になったかと言うと、ただ単にお金が欲しかっただけだ。

 

俺はバイトもしなきゃな~。って思ってはいたけど今はバイトもしてないし、拓実はケーキ屋でバイトをしてるんだけど、お盆のこの時期は店が休みみたいだからな。

 

それでせっかくの夏休みだし、旅行気分も味わえるリゾートバイトに応募してみよう。って事になった。

 

どんなバイトをやるのかは、バイト先の班に寄って変わるらしいんだけど、友達同士の応募は優先的に同じ班にしてもらえるみたいだから、応募してみたってわけだ。

実働は合計8時間でそれ以外は自由時間みたいだし、ホテルの宿泊費も交通費も支給みたいだし、なかなか楽しいバイトになりそうだ。

 

「亮と井上くんも来れたら良かったのにね」

 

亮と井上も誘ったんだけど、このバイトは8月13日から15日まであって、今日8月12日にはバイトの説明会があるし、帰りは16日になるからバイト参加者は実質5日間は拘束される事になる。

 

亮は14日に蕎麦の会という会合があるから来れないらしく、井上は今日12日の昼間は友達の13日からのイベントの手伝いを毎年やってるらしくて無理との事だった。

 

「あ、渉。あそこが受付じゃない?」

 

俺達は受付に身分証明書と履歴書を渡して署名をし説明会の会場へと通された。

 

「結構応募した人多いんだね」

 

通された会場にはたくさんの人が居てガヤガヤとしていた。

大学生くらいの人は男女でグループみたいなのを作ってたり、なんかナンパ紛いな事までしてる人達も居た。

 

「なぁ、拓実…」

 

「何?」

 

「なんか俺達場違い感あるな…」

 

「あはは、そうだね…。あ、あそこの席空いてるよ。あそこに座ろ」

 

俺達が空いてる席を見つけてそこに座ると…

 

「ご、ごめんなさい。友達が到着したみたいなんで…また今度…」

 

「じゃあまた今度遊ぼうよ。LINEとかやってる?交換しようよ」

 

「あ、あはは、すみません。LINEとか興味ありませんので…」

 

そう言ってチャラそうな男の人達に群がられていた所から出てきたのは香菜さんだった。

 

「え?香菜さん…?」

 

「渉くんも拓実くんもこんちは~!」

 

「香菜ねーちゃんこんちは!香菜ねーちゃんもここのバイト応募したのか?」

 

「うん、まぁね。旅行気分も味わえるだろうし楽しそうって思って応募したんだけどね。………ナンパばっかりでうんざりしてたとこだったんだよ」

 

「か、香菜さん、可愛いですからね。ナンパもされちゃいますよね」

 

「えへへ、可愛いって言ってくれてありがとね拓実くん」

 

香菜ねーちゃんナンパされまくってたのか。そう思ってさっきの男達の方を見ると

 

「チッ男連れかよ」「狙ってたのにつまんね~」「おい、次あの子行こうぜ」

 

うっわ~、ホントうざいなこいつら。

ここに何しに来てんだよ。バイトだろ?

にーちゃんが居たらキラークイーンで全員吹っ飛ばしてもらってたくらいだぜ。

 

「ね、ね、せっかくこんな所で会えたんだしさ。あたし渉くんと拓実くんの友達応募って事にしてくれないかな?あんなのと同じ班になったら嫌だし…」

 

「僕は全然構いませんよ!良かったら是非!」

 

「そういう事なら俺も全然いいぞ!」

 

「ありがとー!助かる!」

 

そうして、俺と拓実と香菜ねーちゃんは同じ友達応募としてバイトに参加したって事になった。

 

「へー、渉くんってバイトしてないんだ?」

 

「バイトしなきゃなってのは思ってるんだけどなかなかこれだ!ってのが無いって言うか…」

 

「なんかやりたいなー?ってバイトとかないの?」

 

「今は特になぁ…。これなら出来るってバイトも思い付かないし…」

 

「拓実くんは?バイトやってる?」

 

「僕はケーキ屋でバイトを…」

 

「ケーキ屋さん?」

 

「拓実の夢はパティシエベーシストだからな!」

 

「わ、渉…!」

 

「そうなんだ?じゃあ、ケーキ屋で販売じゃなくて作る方?」

 

「あ、レジも時々やってますけど基本は作る方で…」

 

「そうなんだ!?今度お店教えてよ。拓実くんの作ったケーキ食べてみたいし」

 

「いいですけど、男で…そのケーキ屋とか変じゃないですか?」

 

「何で?パティシエになりたいんでしょ?だったら勉強にもなるしケーキ屋のバイトとか最高じゃない?全然変な事ないよ。夢に向かって頑張ってるってかっこいいと思う」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

良かったな、拓実。

ちゃんと見てくれる人は見てくれるんだ。

 

-コンコン

 

部屋の扉がノックされ、スーツを着た人達が入ってきた。説明が始まるのかな?

 

「皆さん、この度は弊社のアルバイトの応募をして頂き誠にありがとうございます。それではアルバイトの説明を始めさせて頂きます」

 

説明を簡単にするとこんな感じだった。

企業側が無作為に5名の班を決める。

その班毎に系列の海の家や、ホテルのウェイター、ガードマンや掃除係etcetc。

そんな仕事が割り振られるそうだ。

この後、班毎に研修という名の仕事の説明があり、それが終われば今日は自由時間になるそうだ。

 

「僕出来るかなぁ…。海の家の仕事とか大変そう…」

 

「大丈夫大丈夫!一緒に頑張ろう!」

 

「香菜さん………はい!」

 

「それよりあたしは同じ班になる人が心配かなぁ。さっきみたいな男の人ばっかだったらどうしよ…」

 

「香菜ねーちゃん大丈夫だ!そん時は俺と拓実で守ってやる!」

 

「ふふ、ありがとうね。渉くん」

 

そして俺と拓実と香菜ねーちゃんのグループが呼ばれた。

その時に一緒に立ったのは男の人と香菜ねーちゃんみたいに色々な男の人に言い寄られていた女の子。

 

そういやこの女の子の所には男の人だけじゃなくて女の子も多かったみたいだけど友達グループでの応募ってわけじゃなかったのか…。

 

 

 

 

「それではこれよりこの班の説明に入らせていただきます。雪村さん、この班の班長をお願い致します」

 

「え!?あたしですか!?」

 

「はい。この班の最年長は雪村さんですので」

 

「は…はい。わかりました…」

 

香菜ねーちゃんがこの班の班長なのか。

迷惑かけないように頑張らないとな。

 

そして俺達の班の仕事が決まった。

1日目、8月13日が朝の10時から19時まで海の家の仕事。

2日目の8月14日が10時から14時まで海の家で、休憩と自由時間を挟んで18時から22時までホテルの屋上レストランでウェイター。

3日目の8月15日が13時から22時までがホテルの屋上レストランでウェイターらしい。

 

2日目の昼の空き時間は、せっかくのリゾート地だから昼に遊びたい人もいるだろうからと企業側の配慮らしい。

 

「以上で説明会は終了です。この後は自由時間ですが、怪我等されませんようにお願い致します」

 

 

 

 

「う~……ん、やっと終わったぁ~」

 

「渉も香菜さんもお疲れ様」

 

「おう!拓実もお疲れ!」

 

この後はどうしようかな?

ホテルの部屋に戻って寝るのもいいけどなんか勿体ないよな。

 

「あの~…え、えへへ」

 

俺がこの後どうしようかと考えてると、可愛い女の子が話し掛けて来た。

 

「わ、私夏野 結衣っていいます。しばらくの間よろしくお願いします」

 

夏野 結衣?ん?どっかで聞いた事あるような?

 

「え?もしかしてBlue Tearのユイユイ?」

 

拓実がそんな事を言った。

Blue Tear……確かアイドルグループにそんな名前のグループがいたような?

 

「だよねだよね!あたしもそうじゃないかな?って思ってたんだよー。まさかこんな所で会えるなんて!」

 

「あ、あははは、元アイドル…だけどね」

 

「やっぱりそうなんだね!あたし雪村 香菜!この子達は友達の江口 渉くんと内山 拓実くん。よろしくね」

 

香菜ねーちゃんがユイユイとやらに俺達の事を紹介してくれた。

俺あんまりアイドルグループには詳しくないからなぁ。

 

「あはは、よろしくお願いします。同じ班に女の子が居てくれて良かったよ~」

 

そういやもう一人も男の人だもんな。そう思ってに一緒に呼ばれた男の人に目をやった時だった

 

「あ、あの。3日間よろしくッス。そ…それであの…」

 

男の人が挨拶をしてくれた。

だが何故かモジモジしている。俺も挨拶した方がいいかな?

 

「俺は江口 渉だ!一緒の班になったのも何かの縁だしよろしく頼むな!」

 

「は!はいぃぃぃぃ!よろしくお願いします!!」

 

ん?どうしたんだろ?

 

「んん…!オレ、不破 大地(ふわ だいち)っていいます!あの!オレこないだのevokeのライブでAiles Flammeのライブ見て!その!かっこいいなって!」

 

俺達の…ライブを見てくれた…?

それをかっこいいって…。

 

「えぇー!ほんと!?嬉しいなぁ!ねっ!渉!!」

 

ああ…、嬉しい…嬉しい…!

 

「渉くんも拓実くんもやったじゃん!これからもかっこいいAiles Flammeにしていかないとね!」

 

何だこれ…。言葉に出来ないって言うか…。

たった2曲。それも1曲目のBLASTのDreamerの時はダメダメだったのに…。

 

そんな俺達をかっこいいって…。

すげー幸せな気分だ…。

 

「えー!えぐっちゃんも、たくみんもバンドやってるんだ?」

 

あ、俺のあだ名はえぐっちゃんなんだ?

 

「オレ、BLASTってバンドのライブ見てライブに行くのが好きになって、それでたまたま行ったevokeのライブで…」

 

「そうなんだな!ならバイトの間ってわけじゃなくてこれからもよろしく頼むな!」

 

その後簡単にみんなの自己紹介をした。

 

不破 大地くん。

俺達の1つ下の高校1年の16歳。

俺達Ailes Flammeの初めてのファンになってくれた人だ。

 

 

 

 

 

8月13日。

今日は俺の初バイトの日だ。

夏休み真っ只中。それもお盆休みに入った所だしな。忙しい1日になりそうだぜ!

 

今日のバイトは海の家の手伝いだ。

拓実とユイユイは料理が出来るからと厨房の手伝い。

 

俺と香菜ねーちゃんと不破くんで呼び込みやらウェイターやらをやっている。

 

もちろんこの海の家のスタッフも数人はいるから、そこまでキツいという事はないそうだ。

 

 

 

………って言ったの誰だよ。

 

 

 

「渉!焼そばとラーメン!3番テーブルに持って行って!」

 

「お、おお!」

 

「拓実くん!8番テーブルのお客様の注文!ビール3つとかき氷のイチゴ、それとラーメン4つ!」

 

「は、はい!」

 

「すみませ~ん、注文いいですか~?」

 

「は、はい!ただいま!江口さん、雪村さんオレが行ってきます!」

 

「ごめん!よろしく!」

 

「ねー!ビールと焼そばまだぁ?」

 

「す、すみませ~ん!ただいま!」

 

こんな感じでまさに海の家は戦場と化していた。昼時だから回転が早い。もっと効率良く動かないと…。

 

 

 

14時を過ぎたあたりから少しお客さんも減ってきて、俺達は休憩を取れることになった。

 

俺は香菜ねーちゃんと一緒に休憩を取る事になり、こないだはゆっくり話せなかったしBlaze FutureとDivalのライブの事を話して過ごした。

 

「にーちゃんも渚ねーちゃんもスッゲーかっこ良かったよな」

 

「あはは、渚は飛ばし過ぎちゃって途中バテてたけどね」

 

「俺も早くライブとかしたいんだけどなぁ」

 

「Ailes Flammeはライブの予定ないの?ファントムギグまで予定無し?」

 

「う~…ん、俺達は曲がないからな」

 

「そっか。そう言えばシフォンもそんな事言ってたっけ」

 

「Divalはライブの予定あるのか?」

 

「あたしらも今のとこは予定ないかな。タカ兄にはまた対バンやろって言ってんだけどね」

 

対バンか…。

俺もにーちゃんや香菜ねーちゃん達と対バンしたいけどな。曲がないからどうしようもないしなぁ。

 

「そだ。渉くんさ?今回のこのバイトの事を歌詞にしてみたら?」

 

「バイトの事?」

 

「バイトの事って言うか、このリゾート地に来てさ。明日も明後日もバイトだけど遊ぶ時間もあんじゃん?その時に思った事とか歌詞にしてみるとか」

 

そっか。こういう日常の中で思った事とかも歌詞にすりゃいいのか。

 

「そうだな。この3日の間に考えてみる!ありがとうな!香菜ねーちゃん!」

 

「全然!うちもいつも理奈が大変そうだしね。さ、そろそろ仕事に戻ろっか」

 

そうしてバイト初日は終わった。

 

 

 

「う~…疲れたよ~。今日だけで何日分のキャベツ切ったんだろ…」

 

今、俺達は同じ班の5人で飯を食っている。

 

「あはは、結衣さんもお疲れ様でしたよね。僕も今日だけで何日分の麺を茹でたんだろうって思いますよ」

 

「内山さんもお疲れ様です。オレらは昼過ぎからはまだ楽な方だったかもですね」

 

みんなバイト初日の思い思いを語り合っている。そんな風景を見て俺は歌詞を書けるような気がしてくる。

 

「へー、香菜ぽんもバンドやってるんだ?Divalって聞いた事あるような?」

 

「へ?あたしらバンドやり始めたばっかりだし勘違いじゃない?」

 

「あー!そうだ!DivalってたぁくんのBlaze Futureと対バンやったバンドさんだよね!?」

 

「え?うん、そうだよ。すっごく楽しいライブだった……けど、結衣見に来てくれてたの?」

 

「私は行ってないけど友達がね…えへへ」

 

「うん、本当に凄かったですよ。僕達も早くライブしたいよね。渉」

 

「Ailes Flammeのライブとかオレ絶対行きますんで!」

 

「いいなぁ。私もたぁくんのライブ見たかったなぁ」

 

「ねぇ、結衣。今さらなんだけどさ?たぁくんってタカ兄の事?」

 

「うん!そうだよ!」

 

「タカ兄と知り合いなんだ?」

 

「うん、言ってなかったっけ?私もバンドやってるからさ。こないだライブの時にお世話になったの」

 

「へー、夏野さんもバンドやってるんスね。何てバンドッスか?」

 

「Canoro Feliceってバンドだよ」

 

「す、すみません。聞いた事ないッス…」

 

「あはは、ライブもこないだFABULOUS PERFUMEのゲストとして出させてもらっただけだからね」

 

「FABULOUS PERFUME?ね、結衣。もしかしてイオリともお知り合いなの?」

 

「しお……イオリくんともお友達だよ」

 

「マジで!?あたしあの子と同じ師匠の元でドラム習ったんだよ!」

 

「わ!そうなんだ!?」

 

Canoro Felice……?どっかで聞いた事あるような?

ってか、FABULOUS PERFUMEからゲストとして呼んでもらえるってすげぇな。

FABULOUS PERFUMEは俺でも知ってるすごいバンドだし。

 

「あ、あの結衣さん、もしかしてCanoro Feliceってファントムギグに参加するバンドさんですか?」

 

あ、そうか。Canoro Felice。

どこかで聞いた事あると思ってたけど拓実のおかげで思い出した。

ファントムギグに参加するバンドでそんな名前を聞いた気がする。

 

「え?ファントムギグ?」

 

「えっと、11月にBlaze Future主催のギグイベントなんですけど」

 

「あ!そういえば11月にイベントに参加するって言ってた気がする!」

 

「へ~、結衣達も参加するんだね。あたし達Divalも渉くん達のAiles Flammeも参加するんだよ」

 

「まじっスか!?Ailes Flammeも参加するんスか!?」

 

「おお、俺達も出るぞ」

 

「オレ!絶対見に行くッス!」

 

 

 

 

そうして1日目が無事に終わり、

バイト2日目が始まった。

 

今日は午前中は海の家、午後からは少し自由時間があって夜はレストランでウェイターだ。

 

午前中の海の家のバイト!

気合い入れるぜ!!

 

と、思ってたら店長が話し掛けてきた。

 

「雪村さん、江口くん、今日は海辺に行ってジュースやビールを売り歩いてくれないかな?」

 

「え?あたしと江口くんの2人でですか?」

 

さすが香菜ねーちゃんだ。

ちゃんと人と話す時は俺の名前も名字呼びするんだな。

バイトとか始めたら俺も見習わないと……。って今まさにバイト中じゃねーか。

 

「雪村さんは昨日もお客様受け良かったからね。それでジュースとか量が多いと重いから江口に荷物持ちをしてほしくてね。それで雪村さんと江口くんにお願いしたいんだけど」

 

「俺は全然いいぞ!身体も鍛えられそうだしな!」

 

「あたしも大丈夫ですよ」

 

「ありがとう。特にノルマとかあるわけじゃないしのんびりやってくれ」

 

そう言って店長はでかいクーラーボックスと電卓とお釣りや売上管理用の巾着を俺達に渡してくれた。

 

「よし、じゃあ行こっか。荷物持ちお願いね」

 

俺はクーラーボックスを持ち上げた。

うっ……クソ重い……。

 

「おう!全然大丈夫だぞ!店長はノルマないって言ってたけど売り尽くしてやろうぜ!」

 

「そうだね!頑張ろ!」

 

ほんと…少しでも売ってクーラーボックスを軽くしたい…。

 

 

 

すごい…。

このジュースとかビールってぼったくり価格なのに1時間くらいでクーラーボックスの中身が売り切れた。

香菜ねーちゃんの接客上手かったもんな…。

 

「すげぇ…本当に売り切れた…」

 

「えへへ、やったね!それもこれもひとえにあたしの可愛さのおかげだね!」

 

「あはは、そうだな!」

 

「もう!ここは同意せずにツッコミ入れてよ!」

 

「え?いや、本当にそう思ったし…」

 

「え…?」

 

う、何だこれ。何だこの沈黙…。

俺何か失敗しちゃったか?

 

「オイオイオイ、こんな往来で何イチャついてんだよ」

 

イチャついてるって……。

俺と香菜ねーちゃんの事か?

 

「お姉ちゃん可愛いじゃん。そんなガキほっといて俺らと遊びに行こうよ」

 

そう言って3人組の男が俺達に絡んできた。

 

「はぁ…めんどくさ(ボソッ」

 

「俺達がクールにイかせてやるからよ。行こうぜ?」

 

「すみません、バイト中ですんで。行こ」

 

香菜ねーちゃんはそう言って俺の手を引っ張った。

 

「いいじゃんいいじゃん。バイトなんて抜けちゃえよ。金なら俺ら持ってるし」

 

そう言って男達は回り込んできた。

しつこいなこいつら…。

 

「ごめんなさい。あたしは別にあなた達に興味ありませんので。はい、さよなら」

 

「おい、大人しくしてたらなめやがって…。いいから来いよ」

 

一人の男が香菜ねーちゃんの腕を掴んだ。

 

「ちょっ…離してよ!」

 

「いいから来いよ。オラ」

 

香菜ねーちゃんを無理矢理引っ張ろうとする男の腕を俺は思いっきり掴んで言った。

 

「ねーちゃんから手ぇ離せよ。嫌がってんじゃねーか。それがわかんねーのかよ」

 

「痛て…ガキ…離せよ…!ぶん殴るぞ!?」

 

「いいぜ?このギャラリーの中ぶん殴れるならな」

 

「んだと、てめぇ…」

 

「おい、勝男もう行こうぜ。そんな女もガキもほっとけよ」

 

「ああ、目立ち過ぎたしな。もしかしたら益男のやつが他の女ナンパ出来たかも知れねぇしよ」

 

「則助…多良雄……チ、わかったよ。命拾いしたなガキ…」

 

男が香菜ねーちゃんから手を離したので俺も男から手を離した。

 

「覚えてろよガキ!」

 

男の手を握った記憶とか忘れたいから覚えとくつもりねーよ。

 

「香菜ねーちゃん、大丈夫だったか?」

 

「ありがとね。渉くん…」

 

「ははは、俺に惚れたか?」

 

「そだね~。渉くんが歳上だったら惚れてたかもね」

 

「歳上?にーちゃんくらいか?」

 

「タカ兄は歳上過ぎでしょ……」

 

香菜ねーちゃんは歳上が好きなのか。

前途多難だな。拓実。

あれ?そういや拓実ってまどかねーちゃんと香菜ねーちゃんどっちが好きなんだろ?

 

 

 

 

「もう!どっちも違うよ!まどかさんも香菜さんも綺麗だと思うけど!」

 

なんだ違ったのか。

 

あの後、海の家に戻った俺と香菜ねーちゃんは、あんなに早く売り切れたもんだからと店長からもう一度ジュースの売り子を任された。

 

また売り切った俺達は嬉しくなってもう1回行こうと張り切ってたけど、午前のバイトの終了時間になり、今はみんなで海で遊ぼうと水着に着替えている。

 

もちろん俺と拓実と不破くんは男子更衣室で、香菜ねーちゃんとユイユイは女子更衣室でだけどな!

 

「へ~、売り子の時そんな事があったんスね。大変でしたね」

 

「それで拓実がまどかねーちゃんの事が好きなのか香菜ねーちゃんの事が好きなのか気になっちまってな」

 

「それで何でそんな思考に至ったのか僕にはわからないよ…」

 

俺達は着替え終わり、バイトしてた海の家で借りたバラソルを浜辺に差して、香菜ねーちゃん達を待っていた。

 

「お待たせー!」

 

「お、場所取りごくろー!」

 

そんなに待つ事もなく香菜ねーちゃんとユイユイが水着になって

………ないだと!?

 

「え?あれ?香菜ねーちゃんもユイユイも水着じゃないのか?」

 

「あっれぇ?渉くんあたし達の水着見たかった?おっとこのこだねぇ~」

 

いや、そんな訳じゃないけど見たかった。あれ?なんか日本語変だな。

 

「ほら?今日は夜もバイトあるしさ?あんまり疲れてもダメだから泳がないし?ね、香菜ぽん!」

 

「そそ、ならTシャツとショーパンでいっかーってね!」

 

なるほどな。確かにバイト前に体力使い果たす訳にもなぁ。

 

「って訳でビーチバレーで遊ぼう!」

 

ユイユイが器用にビーチボールを指先で回している。すげぇな。ユイユイ。

 

そして俺達は男チーム、女チームに分かれてビーチボールを楽しんだ。

 

特にハプニングとかもなく…。

普通に楽しい時間が過ぎて自由時間は終わり、夕方からのレストランでのウェイターも問題なく終わり、こうして2日目が終了した。

 

レストランではジャズバンドの生演奏もあったりして、雰囲気もいい楽しいバイトになった。

 

 

 

 

バイト最終日。

 

今日のバイトは午後からなので、俺はホテルの部屋でゆっくりしていた。

拓実は不破くんと一緒にお土産を買いに行っている。拓実は亮とシフォンへ、不破くんは友達へのお土産らしい。

 

香菜ねーちゃんに言われたように、このバイトの3日間の事を歌詞にしようと考えてるけど、なんか言葉に出来ないんだよなぁ。俺も拓実達と一緒にお土産買いに行けば良かったかな。

 

「………」

 

あー、ダメだ。

一人で部屋に居ても歌詞が浮かばない。

ちょっと出掛けるか…。

 

「あー!えぐっちゃん見っけ!」

 

俺が部屋を出てホテルの廊下を歩いているとユイユイと会った。

 

「ユイユイ、おっす!」

 

「うん!おっす!!」

 

「ユイユイも午前中はホテルでゆっくりなのか?」

 

「ううん、さっきまで香菜ぽんと一緒にお土産買いに行ってたよ。でもなんかDivalの危機だとか言って部屋に戻っちゃったから、えぐっちゃんかたくみんを探してたの」

 

Divalの危機?何かあったのかな?

まぁ、これはBlaze Future編かDival編の第8章でわかるだろ。

それより俺か拓実を探してたって何の用だろ?

 

「俺か拓実を探してたって?何の用だ?」

 

「うん!今度の私達とのライブ楽しみだね!」

 

「は?」

 

え?ライブ?誰が?

私達との…?Canoro Feliceとライブ?

 

「あれ?秦野 亮って人に聞いてないの?」

 

「亮から?」

 

あ、そう言えば歌詞考えてばっかで夕べからスマホとか全然見てなかったな。

 

「うん、ファントムでね。私達Canoro Feliceとえぐっちゃん達のAiles Flamme。そしてFABULOUS PERFUMEで8月24日にライブやるんだって。後イボーク?ってバンドさん?とかも!

元々はFABULOUS PERFUMEのワンマン予定だったらしいけどベースの子が怪我しちゃったみたいで…」

 

まじかよ…。イボークってevokeか!?

ってちょっと待て!?俺達曲もないのに!?

 

「頑張ろうね!えぐっちゃん!!」

 

「あ、ああ…」

 

歌詞……どうしよう……。

 

 

 

 

そうして歌詞も思い付かないままバイトの時間になった。

歌詞も考えなきゃいけないけど、今はバイトに集中しないとな。

 

最終日のバイトも滞りなく順調だ。

不破くんとユイユイが最初に休憩に入り、拓実と香菜ねーちゃんが次に休憩に入って、今俺は休憩室で休んでいる。

 

今はもう20時を回ったところだ。

俺の休憩もそろそろ終わる。

残り1時間と少しでバイトも終わりか…。

 

俺は初めてバイトをやってみて、どう思ったんだろう?

その気持ちを言葉に出来たら簡単に歌詞も作れるんだろうか?

 

俺がそんな事を考えていると……

 

 

<<<ガシャーン>>>

 

 

「な、何だ!?」

 

レストランのフロアの方で何かが割れるような音がした。

 

俺はまだ少し休憩時間も残って居たが急いでフロアに戻った。

 

 

 

 

「なんかすげー音がしたけどどうしたんだ?」

 

「あ、渉くん」

 

香菜ねーちゃんを見つけたので聞いてみた。

 

「あれ見てよ。酔っ払いがさ…」

 

香菜ねーちゃんの指を指した方を見るとジャズバンドさん達のステージにお客さんが登っていた。

あれ?あいつら昨日昼間の…。

 

 

 

「お前らの下手な演奏で飯も酒も不味くなんだよ!」

 

「俺らが本物の音楽っての教えてやるよ。どけよテメェら」

 

男達がジャズバンドの人達にいちゃもんをつけている。

 

 

 

「な、なんだあいつら…」

 

「酔っ払ってバンドの人達に絡んでるんだよ…。料理とかお酒とかも投げたりしてすごく迷惑なんだ」

 

「迷惑なんだって…止めなきゃだろ?俺行って来る!」

 

俺がステージに行ってあいつらに注意してやろうとしたが香菜ねーちゃんに腕を掴まれた。

 

「今、拓実くんと不破くんがオーナーに話しに行ってるから待って!結衣も厨房やレジのスタッフに話しに行ってる!」

 

「でもよ!?早くなんとかしないと!」

 

「わかってる!渉くんの気持ちもわかってるよ!でも、あたし達が下手に注意しに行ってあいつらが暴れだしたら他のお客様にも、オーナーにも迷惑が掛かる!あたし達は今はここのバイトなんだからっ!」

 

うっ…。そうか…。下手に暴れられて他のお客様に被害が行ったり、もちろん殴ったりはしないけど怪我でもさせてしまったら…。

いや、怪我とかしなくても少し当たっただけで大袈裟に騒がれたら店に迷惑がかかる…。

 

香菜ねーちゃんに掴まれてる腕が痛い。

香菜ねーちゃんも悔しくてしょうがないんだな…。

 

「悪い。香菜ねーちゃんの言う通りだな。オーナーの指示を待とう」

 

それより今出来る事をやらないと…。

今の所はジャズバンドの人達の所に行ってるから他のお客さんには被害はいってないしな。

 

「俺、他のお客様にご迷惑おかけしてすんませんって声掛けてくる!そんくらいならいいだろ?」

 

「うん、そうだね。あたしも一緒にまわるよ」

 

それから少しして拓実と不破くん、そしてユイユイも戻ってきた。

 

「オーナーが警察に連絡してくれたんだけど、今日はこの辺で花火大会があったらしくてみんなそっちに行ってるから来るのが遅くなりそうって…」

 

「え!?それでどうしろって?」

 

「オーナーは他の部署のガードマン呼んでくるから、それまでオレらバイトは他のお客様の対応して、あの酔っ払いは正社員のスタッフに任せろって事でした」

 

そう聞いた後ステージに目をやるとスタッフの人達が酔っ払いの方に歩いて行ってるのが見えた。

そしてやっと解放されたって安堵の顔でバンドの人達はステージから降りて行った。

 

ふぅ、これで一応解決するかな?

 

そう思った時

 

<<<ゴン>>>

 

スタッフの一人が殴られた。

人を殴った音をマイクが拾い、鈍い音がレストラン中に響いた…。

 

あいつら…!!

 

「許せないッスね、あいつら…」

 

不破くん…。俺もあいつらが許せない…。

 

「……くっ」

 

香菜ねーちゃんも今にも飛び出して行きそうだ。

 

 

 

「最初っから俺達に演奏させてれば良かったんだよ。バカが」

 

「飯食ってるお前ら!今から俺らが最高の音楽を聴かせてやっからよ!」

 

「女達は後で俺らの所に来いよ。全員抱いてやっからよ!」

 

「お前ら今夜はラッキーだぜ?なんせ俺らはあのクリムゾングループのミュージシャンだからな!」

 

 

 

 

「「「「クリムゾン!!?」」」」

 

 

 

俺と拓実、ユイユイと香菜ねーちゃんもクリムゾンって言葉に反応した。

 

俺と拓実は亮の事もあるからクリムゾンはぶっ倒すリストに入れてんだけど、ユイユイと香菜ねーちゃんも何かあるのかな?

香菜ねーちゃんは雨宮絡みか?

 

「俺らはDESTIRAREもXENONも越える本物のバンドだ!こんな所で俺らの演奏を聴ける事を光栄に思え!!」

 

ボーカルらしき男がそう叫んで演奏が始まった。

 

こいつらの演奏……まじかよ…。

 

「う~…耳が痛い…。なんなのこのギター…コードもちゃんと押さえれてないしヘタクソすぎる……」

 

ユイユイが耳を塞ぎながらそう言った。

そうかと思えば…

 

「な…何なのあのベース…全然リズム取れてない。僕もまだまだヘタクソだけどあれはない!」

 

拓実も怒っているようだ。

 

「あのドラム…全然ダメじゃん…。あたしが相手にしてた野盗共のが全然上手い…あれがクリムゾン…?」

 

香菜ねーちゃんは呆れている。

 

そしてボーカルはただ叫んでいるだけ。

まわりの音を全然聞けてない。声の強弱も全然つけれてない。

っていうか歌詞が何を言っているのかわからない…。

 

「オレもう無理っス」

 

不破くんが俺達の方を見て言った。

 

「これって他のお客様にもかなりの迷惑になってると思うんス。だから、ステージジャックしましょう」

 

「「「「は?」」」」

 

ステージジャック?

不破くんがそんな事言い出すもんだから俺達は驚いた。

 

「夏野さんはギターやってんスよね?雪村さんはドラム。そして江口さんがボーカルで内山さんがベース」

 

「そ、そうだけど…」

 

「控え室にはきっと予備の楽器もあると思うんス。それ持ってステージに上がってデュエルであいつらを蹴散らしましょう」

 

デュエル…?なるほどな。

俺達の音楽で蹴散らしてやればいいのか…。

 

「いいね。あたしは不破くんの案に賛成」

 

「俺も大丈夫だぞ!」

 

「ぼ、僕も頑張ってみるよ」

 

「でもさ?あの人達がデュエルを受けなかったらどうするの?」

 

そっか…確かにそうなると面倒くさいな…。

 

「それは大丈夫だよ。英治先生に聞いた事あるんだけどクリムゾンのミュージシャンはデュエルを申し込まれたら絶対に受けないといけないんだって」

 

そうなのか?なら大丈夫そうだな。

 

「よし!そうと決まれば早速控え室に行こうぜ!」

 

 

 

 

 

 

 

「ハーハッハ!ノッて来たぜ!!」

 

「ああ!もっと演奏しようぜ!ここは俺らのステージだ!」

 

 

 

「「「「そこまでだ!!」」」」

 

 

 

「あん?」

 

「お前達の勝手もここまでだぞ!俺達とデュエルをしてもらう!負けたら素直に会計して帰ってもらうからな!」

 

「俺らとデュエルだ?ふざけんな。何で俺らがお前ら如きとデュエルなんかしなきゃなんねーんだよ?」

 

「は?あんたらクリムゾンなんでしょ?だったらデュエルは断れないはずだよね?」

 

「あ?あ、ああ!そうだな!そうだ!いいぜ!やってやるよ!」

 

ん?何だこいつら?

なんか妙に焦ってるな。

 

「あ。よく見たらてめぇら昨日のガキ共じゃねぇか!おもしれぇ、デュエルでボコってやんよ!」

 

なんとかデュエルは出来そうだな。

 

「じゃあ行くぜ!デュエル!!」

 

俺の叫びと共にユイユイがギターを鳴らす。

俺達に共通してやれる曲はBLASTのAlternativeがやれそうだった。

この1曲で終わらせる!!

 

 

 

 

 

 

「江口くん、内山くん、夏野さん、雪村さん。本当にありがとう」

 

俺達はあっという間にデュエルに勝利した。

 

あいつらが戦意喪失してコソコソと逃げようとしている所にオーナーと数人の警察がやって来て、あの男達は警察に連れていかれた。

 

俺達は残りのバイト時間をオーナーからよかったら演奏してくれないかと頼まれ、俺と拓実と香菜ねーちゃんでBLASTのDreamer。

ユイユイのギターボーカルと香菜ねーちゃんでFairy AprilのStorm flight!を、

そしてまたラストにみんなでAlternativeを演奏して俺達のバイトは終わった。

 

 

 

 

8月16日。

バイトを終えた不破くんはこのまま母方の実家に帰るらしいので別れ、俺と拓実とユイユイと香菜ねーちゃんで地元に帰っている。

 

「なんだかんだと濃い3日間だったよね。実質上4泊5日だったわけだし」

 

拓実がそう言って俺はこのバイトを思い出していた。

 

忙しかった海の家。

あっという間に売り切れた浜辺での売り子。

みんなで遊んだビーチバレー。

楽しくやれたレストランのウェイター。

初めてのデュエルギグ。

 

そして……

 

「あ、そだ。渉くん、歌詞出来た?」

 

「ああ!バッチリだぜ!」

 

「え?渉!?本当に!?いつの間に書いたの!?」

 

「へへへ、夕べにピピーンと来てな!ユイユイ!次のライブ楽しみだな!」

 

「うん!すっごく楽しいライブにしようね!」

 

 

 

俺は歌詞を完成させて次のライブの為に必死に練習しようと意気込んでいた。

 

しかし、まさか地元に戻った後、

あんな事が起こるとは今ここにいる誰もが思っていなかった。

 

俺達は本物のクリムゾングループのミュージシャンと対峙する事になる。

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