バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第10話 その時隣では…

♪~。

 

「ハァ…ハァ…」

 

「今日の練習はここまでにしましょうか」

 

「り、理奈…私もっと…ハァ…やれるよ…」

 

「この後、片付けもあるのよ?それに…無理をして喉を痛めでもしたらどうするのよ…。私達は…知ってるはずよ」

 

「そうだよ渚。さっきの演奏はなかなか良かったじゃん?あたしもくたびれたよ~」

 

「うん、お母さんのギターにも馴れてきた。確かに軽い分動きやすいとは思う。でも、音にもうちょい重み欲しいかなぁ」

 

私の名前は水瀬 渚。

今日はDivalのメンバーとスタジオ練習に来ていた。

 

「あ、次のスタジオ練習どうする?あたし、予約してくるよ」

 

「そうね。来週にしておこうかしら?それまでにハロウィン用の曲を仕上げてくるわ」

 

「あはは、ハロウィン曲かぁ。楽しみだよ」

 

来月末にはハロウィンライブもある。

Ailes Flamme、Blaze Future、Canoro Felice、Glitter Melody、そして私達Divalでの企画ライブ。

すっごく楽しみだなぁ~。

 

「あ、そうだ。今日も晩御飯の用意出来てないしさ。この後はそよ風に行こうよ」

 

「お!志保、それいいね!美味しいビールが飲めそうだよ!理奈と香菜はどうかな?」

 

「私は大丈夫よ」

 

「あたしも大丈夫。そんじゃ来週の土曜に予約取ってくるね。あたしバイトだから夕方からになっちゃうけど」

 

 

 

 

私達がスタジオから出た頃には、外はすっかり暗くなっていた。

 

「ん?あれ?あそこに居るのって奈緒達じゃない?Noble Fateのメンバーもいる」

 

あ、ほんとだ。先輩はいないけど、Blaze FutureとNoble Fateのメンバー勢揃いだ。

えへへ、いきなり奈緒に飛びついたらビックリするかな?

 

私はターゲットの奈緒を見据え、ダッシュをかまして奈緒に抱きついた。

 

「奈~~緒~~!!」

 

「わひゃあ!?」

 

ビックリしたのか変な声をあげる奈緒。

奈緒って何でこんなに柔らかくていい臭いがするの?

 

「ふぇ?へ?渚…?」

 

「えへへー、こんばんは、奈緒」

 

奈緒に挨拶した私は、奈緒から離れ、他のメンバーにも挨拶した。

 

「みんなもこんばんは~。もしかしてみんなも練習してたの?」

 

「水瀬さん、こんばんは。ええ、僕達は合同練習をやってまして。タカさんはevokeのライブに行っていますので、残念ながら不参加でしたが」

 

え?先輩ってevokeのライブに行ってるの?

今日ってevokeのライブだったんだ?

 

「水瀬は本当に元気だね。あ、みんなごめん。私この後約束あるから行くね」

 

「あ、僕もそろそろ荷物を取りに帰らないと…。

今日は有意義な練習出来たと思います。ありがとうございました。ではまた」

 

そう言って木南さんと達也さんは帰ってしまった。

え?もしかして私が来たから?みんなの邪魔しちゃった?

 

「あはは、達也さんも大変だねぇ~」

 

まどかさん?

 

「本当に…。急な出張が決まったら、練習はまた今度にして、仕事優先にしてくれても良かったのにね」

 

「か、花音?仕事って?」

 

「もう!渚!いきなり走って行かないでよ」

 

私が達也さんの仕事の事を花音に聞こうとしたタイミングで、志保と理奈と香菜は私達の所に来てくれた。

 

「あ、ああ、うん。達也さんって11月にある修学旅行の下見に行かなきゃいけないんだって」

 

修学旅行の下見?

 

「それってあたしらが行く修学旅行だよね?え?先生って今から関西に行くの?」

 

あ、そっか。志保の学校って11月に関西に修学旅行に行くんだっけ?

 

「これから家に荷物を取りに帰って、夜行バスで関西に向かうらしいよ」

 

「マジで!?わぁ…先生大変だなぁ。よっし、あたしらは先生が頑張って良かったって思うくらい修学旅行楽しまなきゃね」

 

いいなぁ修学旅行。

私もDivalで旅行行きたいなぁ。

 

 

「ねぇねぇ~、ところで理奈達はどうしたの?Divalでお出掛け~?」

 

「私達はスタジオ練習していたのよ」

 

「ほうほう、理奈達もスタジオ練習したのか~。

もしかして同じスタジオミルフィーユで練習してたのかなぁ?」

 

あ、Blaze FutureとNoble Fateもミルフィーユで練習してたのか。すっごく奇遇~。あ、そうだ。

 

「ねぇ、私達これからそよ風でご飯にするつもりだったんだけどさ?みんなも一緒にどうかな?」

 

「お~!そよ風~!あたしは行く~」

 

「そよ風かぁ。お酒はあんまり飲めないけど、私もご一緒しようかな?」

 

「綾乃さんは本当にあんまり飲まないで下さいね。真希さんもこれから約束が無かったら、一緒出来たかもなのに残念だね」

 

あ、木南さんは本当に約束あるんだね。良かったぁ、私が嫌われてる訳じゃなくて。

 

「綾乃も盛夏も花音も参加なら、あたしも参加しようかな?奈緒はどうする?」

 

「私も参加したいんですけど…。美緒も一緒でいいですかね?そろそろバイトも終わってると思いますし」

 

「美緒ちゃんも?大歓迎よ」

 

「良かったぁ…。今日もあのバカップルの記念日だから…。私だけ逃げるのは美緒に悪いからね…」

 

バカップルの記念日?

ああ、前に言ってた奈緒のご両親の記念日かな?

いつも大変だよね…。

 

 

 

 

私達がそよ風の前に着くと、そこには美緒ちゃんが待っていてくれていた。

 

「あ、美緒~♪」

 

「皆さん、今日はお呼び下さってありがとうございます。今日も拷問のような時間を過ごすのかと思い悩んでいましたが、皆さんのおかげて助かりました」

 

「み、美緒?お姉ちゃんの呼び掛けは無視なの?」

 

「それよりもういい時間帯だし土曜日だしね。席が空いてたらいいんだけど…」

 

「へへへ、まどか姉、それは安心してよ。あたしらDivalはそよ風のお得意様だからね。さっき晴香さんに連絡したら大部屋が空いてるからってさ」

 

「あ、そうなんだ?あんた達どんだけそよ風に通ってるの?」

 

私達が店内に入ると、晴香さんが私達を迎え入れてくれた。

 

「いらっしゃい。

あ、そうだ。あんた達を通す席の隣なんだけどさ?

タカ達BREEZEとArtemisと手塚が来てるんだよ」

 

「え!?梓お姉ちゃん!?」

 

「あの男は…また今日も飲んでいるのね」

 

「あはは、理奈ち?どの口が言ってるの?」

 

「BREEZEとArtemisでって飲み会ならわからなくもないですけど、何で手塚さんも一緒なんだろ?」

 

「まどか?いきなり突撃してみようか?」

 

「お、いいね綾乃。それあたしも賛成」

 

「まどかさんも綾乃さんも…お願いですから止めて下さいね」

 

「タカちゃんめ~。evokeのライブって言ってたのに練習をサボって叔母さんと飲み会しているとは~」

 

「英治さんは私がバイトを上がるちょっと前に出ていきましたから、飲み会始まってまだ間もないかも?」

 

「何の話だろ?SCARLETの事かな?」

 

私達はワイワイ話ながら、先輩達が居るという個室の隣に通された。

 

「席はどうしよっ……ん?理奈ち?何でもう奥に座ってるの?渚も何で理奈ちの対面に?」

 

「わ、私はアレよ?ほ、ほら、私達の中では私が一番飲むじゃない?だから注文用のデンモクの近くがいいと思ったからよ」

 

「私もそうだよ?今日は理奈と飲み比べしようと思って」

 

そうそう。私達はよく飲むしデンモクの近くがいいからだもん。別に隣の話が聞こえるかも?とか思ってないよ?

 

「奈緒は良かったの?」

 

「花音は何を言ってるの?普通に考えて隣の話声なんか、ここでみんなで話してたら聞こえないと思うし?美緒の前では変なお姉ちゃんになる訳にもさ?」

 

「お姉ちゃん?手遅れだよ?」

 

変なお姉ちゃん!?

もしかして私と理奈も変なお姉ちゃんと思われちゃってますか!?いや、だから私達はデンモクの近くに居たいだけだって…!

 

「よいしょー」

 

ん?盛夏は私の隣?

 

「ちょ、盛夏正気!?やっと腕も治ってきたところでしょ!?」

 

香菜?

 

「だいじょ~ぶ、だいじょ~ぶ~。

あたしもデンモクの近くの方がいいし~」

 

ああ…盛夏はよく食べるもんね…デンモクの近くの方がいいよね…。

 

「あ、あの私、理奈さんのお隣に座らせて頂いてもいいですか!?」

 

「もちろんよ。美緒ちゃん、いらっしゃい」

 

「はいー!」

 

「美緒もお姉ちゃんの私より理奈の隣かぁ~。こうやってお姉ちゃん離れしていくんだねぇ」

 

「志保それよりも!(ボソッ」

 

「うん!渚の隣は盛夏、理奈の隣は美緒。あたし達はしばかれる心配無く、安心してご飯を楽しめそうだね(ボソッ」

 

「もしかしてDival結成してから初じゃない?(ボソッ」

 

「今日は最高の1日になりそうだね(ボソッ」

 

ん~?志保と香菜は何をボソボソ話してるんだろう?

あ、もしかしてせっかくDivalで飲もうって言ってたのに、私の隣は盛夏だし、理奈の隣は美緒ちゃんだしで、寂しいって思ってるのかな?ごめんね、志保、香菜。

 

 

「あ、そうだ。あんたらにコレ預けててあげるよ」

 

「ほぇ?何ですかこれ?」

 

「うちの店の従業員用トランシーバー。兄貴のトランシーバーをあたし宛に通話状態にしてあるから、これであんたらも隣の話が聞こえるよ」

 

え?隣の個室の会話を?

 

「は、晴香さん…そ、それっていいんですか?」

 

「ん?本当はいい訳ないけどね。一応、手塚とタカ以外には承諾は得てるしね。だから兄貴のトランシーバーも使える訳だし」

 

そうなんだ。だったらちょっとくらいならいいかな?

 

「BREEZEとArtemisだけだってんなら、兄貴の梓への暴走だけ気を付けてたらいいけどさ。手塚も居るなら何か大事な話するかもだし気になるっしょ」

 

そっか、そうだよね。

手塚さんは今はSCARLETとはいっても、元はクリムゾンエンターテイメントの大幹部。もしかしたら、何かクリムゾンエンターテイメントを倒す為の話かも知れないし…。クリムゾンエンターテイメントを倒せたらきっと美来お姉ちゃんも…。

 

「あ~、志保ズルい~」

 

「ほら!こういうのはあたしも気になるしさ!みんなの真ん中に置くのが一番じゃん?」

 

 

『お待たせしました~』

 

 

「ん?ほら、隣もドリンク来たみたいだしさ。あたしよりあんたらのが聞いてた方がいいと思うし。

みんな最初の一杯目はビールでいいよね?志保と美緒はどうする?」

 

「あ、私はオレンジジュースで」

 

「あたしもそれで」

 

「ん、承りました」

 

晴香さんはそう言ってウインクをして個室から出て行った。あの可愛さ何なの?本当に3児の母なの?

 

「ふぇぇぇ~…ご飯の注文まだなのにぃ~…」

 

「私も…漬物を注文するのを忘れてたわ…」

 

この2人はいいとして…。

 

こうして私達の席順は決まった。

先輩達の居る個室側の奥から、

私、盛夏、奈緒、花音、綾乃さん、

理奈、美緒ちゃん、志保、香菜、まどかさん。

トランシーバーは奈緒と志保の前に置かれた。

 

 

『『『『かんぱーい!』』』』

 

 

「あ、始まったみたいだね」

 

「ふぇぇぇ…お腹空いたぁ…」

 

「一体何の話なんでしょう?」

 

「あたしは面倒くさい事にならなかったら、それでいいんだけど…」

 

「何かいけない事してるみたいでドキドキするね♪」

 

「隣の個室には15年前の…。BREEZE、Artemis、クリムゾンエンターテイメントの人間が居るのよね。どんな話が始まるのか興味深いわ」

 

「私も気になります。翔子先生が見てきた世界。そんな話がもし聞けるなら…」

 

「取り敢えずあたしはどんな話になっても、しばかれるような事にはならないだろう席順に感動してるよ」

 

「あ、それわかる。ここの席なら志保もあたしも安全だもんね。久しぶりにのんびりとお酒を楽しめそうだよ」

 

「綾乃はあんま飲み過ぎちゃダメだからね?」

 

 

私達は私達での話ももちろん楽しんではいたけど、やっぱり隣の個室でどんな話が繰り広げられるのか。

 

それが気になっていた。

 

 

『いやいやいや!飲み会を楽しんでいた。じゃねーよ!聞けよ!俺の話を!!』

 

 

わ、びっくりした。

 

「BREEZEもArtemisも手塚さんの話は聞いていないようね」

 

「それよりさ?これってやっぱり手塚さんから大事な話があるって事だよね?」

 

 

「お待たせしましたー」

 

 

私達のドリンクが届いたので、取り敢えず私達も乾杯。

先輩達も梓お姉ちゃん達も好き勝手話してるみたいだもんね。今はビールに専念しててもいいかな?

 

く~、生き返る~~♪

 

「あたしは~、これと~これと~これと~これと~これ食べたい~」

 

「盛夏、待ちなさい。漬物は10人居るから10人前は必要だわ」

 

「あ、盛夏!あたしもたまご焼き!!」

 

「盛夏が適当に注文してくれるから、あたしらは楽だよね~」

 

「そうですね、あたしも通された料理を適当につまむ事にします」

 

私も盛夏が適当に注文してくれたやつでいいかな?

それより梓お姉ちゃんは何を食べてるんだろ?

確かこないだやらされた番組のヤツでは、豆腐が好きとか言ってたっけ?あの番組は結局ボツったけど。

 

「あ、待って下さい。手塚さんが何か話すみたいですよ」

 

美緒ちゃんの言葉にみんな静かになり、トランシーバーに注目していた。

 

 

『お前ら俺がクリムゾンのミュージシャンだった頃、思い描いていた夢を覚えているか?』

 

 

ん?手塚さんの思い描いてた夢?

 

「手塚さんの思い描いてた夢って何だろう?」

 

「理奈~?ビールおかわりする?それとも日本酒にしとく~?」

 

「手塚さんが音楽をやり始めた理由なのかな?」

 

「う~ん、でも手塚さんってクリムゾンエンターテイメントだもんね?」

 

「あ、盛夏ちゃん、私もビールおかわりで」

 

「そうね、まだビールにしておこうかしら?」

 

「日本酒でしたら私がお酌しますのに…」

 

「手塚さんってあたしと同じギタリストだったよね?」

 

「あ、そうだっけ?盛夏、あたしはカルピスサワーおかわり」

 

「ちょっと綾乃!あんたペース早すぎ!」

 

う~ん、私達が考えてもわかんないか。

そもそも手塚さんとか、SCARLETの本社に行った時くらいしか話した事もないし。

 

 

「ちょっと待ってちょうだい!今、貴さんは何て言ったの!?」

 

え?理奈?

 

「ああ、何かエクストリームジャパンフェスとか言ってたような?」

 

「あ、花音も聞こえてたんだ?エクストリームジャパンフェスって何だろ?」

 

エクストリームジャパンフェス?私も知らないなぁ。

 

「何言ってるのお姉ちゃん!エクストリームジャパンフェスっていったら、アマチュアのバンドマンの夢と言っても過言ではない一大フェスだよ!?」

 

「フェス?南国DEギグみたいな?」

 

「奈緒、エクストリームジャパンフェスってのはね。

メジャーデビューを夢見るバンドマンの、メジャーデビューへのオーディションみたいなフェスでさ」

 

あ、香菜も知ってるんだ?

 

「予選だけでも通過は難しいって聞くね。エクストリームジャパンフェスはデビューしているバンドは参加不可。南国DEギグみたいに実力のあるバンドは参加出来るってもんじゃないんだよ」

 

まどかさんも知ってるんだ?

英治さんが教えてくれてたのかな?なら綾乃さんも知ってるのかな?

 

「それって南国DEギグと何が違うの?デビューしてるバンドが参加出来ないなら、南国DEギグのが凄くない?」

 

あ、綾乃さんは知らないのか…。

 

「エクストリームジャパンフェスは、予選からデュエルでの勝敗で勝ち残れたバンドのみが参加出来るんだよ。つまり、本戦の出場バンドはその予選を勝ち抜いてきたバンドばかりって訳」

 

志保も知ってるの!?ヤバい、Divalで知らないの私だけだったんじゃん…!!

 

 

『それはそうかも知れないけどさ。手塚、あんたまさかファントムの子達を、エクストリームジャパンフェスに参加させたいって話?』

 

 

え?私達がそんなフェスに…?

 

「エクストリームジャパンフェス。確かに私達の実力を知る為にも参加したいとは思うわ。だけど…」

 

「そうですね。私達はファントムのミュージシャン。インディーズデビューしているという事になりますし」

 

「あたし達まだ実際には活動してない訳だしって事かな?」

 

「チーズコロッケ美味しい~」

 

ああ、盛夏は正常運転だね。

それよりいつの間に食べ物届けてもらったの?

 

 

『俺のプロデュース、Artemisのプロデュース、そしてBREEZEのプロデュースでそれぞれバンドを結成させてぇ。どうだ?』

 

 

え?

 

「どういう事かしら…BREEZEとArtemisと手塚さんでプロデュース…?」

 

先輩達と梓お姉ちゃん達が…?

手塚さんってどんな曲作ってたか知らないけど、クリムゾンエンターテイメントの大幹部だったくらいだし、きっとすごいバンドとかやってたんだろうけど…。

 

で、でも…。

 

「梓お姉ちゃん達がプロデュースするなら、私がボーカルやりたい……かも…」

 

「あたしはタカちゃんプロデュースならやってもいいかも~?もぐもぐ」

 

「ブ…BREEZEがプロデュースって…ガチですかマジですかこれって夢ですか?え?え?ガチ?」

 

「奈緒も落ち着きなって。そりゃBREEZEプロデュースなら、奈緒にとっては最高かもだけど、メンバーにも寄るんじゃないの?」

 

「う~ん…私は悩むなぁ。でもファントムメンバーから選ばれるにしても3バンドなら、私が選ばれる事はないかな?」

 

「冗談じゃないわね。私はDivalなのよ。

って言いたい所だけれど、私の歌の目標でもあるBREEZEのプロデュースっていうのは正直気になるわね」

 

「私はパスですかね。Glitter Melodyがありますし…。あ、でも睦月とか麻衣なら選ばれたら喜んでやっちゃいそうだなぁ…」

 

「あたしもDival以外の演奏は興味無いかな。もぐもぐ」

 

「って言ってもさ、手塚さんは知らないけど、BREEZEは作詞作曲タカ兄だった訳だし、Artemisも梓さんの作詞作曲でしょ?実際、タカ兄プロデュースと梓さんプロデュースじゃないの?」

 

「あたしは絶対反対。タカはBlaze Futureのタカなんだから…。承諾したらぶん殴ってやる…」

 

ま、まどかさん…先輩をぶん殴るって…。

何でそこまで怒ってるんだろう?

 

 

『今のお前の歌声じゃ作ったとしても歌えねぇだろ?作って届けたいと思わねぇか?あの頃のBREEZEの歌を!』

 

 

「「「「!?」」」」

 

私達は手塚さんの言葉を聞いてハッとした。

そうだ…。あの頃のような高いキーはもう先輩は…。

初めてBREEZEの曲を聞いた時、今の先輩と全然違う声だと思った。

Blaze Futureの曲を歌っている時も、かっこいい歌声はしているけど、あの頃とは全然違う。

 

 

『お前はアホだな。俺も拓斗と同じ気持ちだ。そもそもBREEZEプロデュースって何だよ。そんな曲でやるなら俺プロデュースになるじゃねーか。だから俺はパス。トシキと英治はやりたいならいいんじゃねぇか?』

 

 

「先輩…断るんだ…」

 

「難しい所ですなぁ~。タカちゃんにはBlaze Futureもあるもんね~。ま、タカちゃん自身も歌いたいと思うし。もぐもぐ」

 

「それなら…貴が昔のような曲を届けたいなら…その時は私が歌えば……ハッ!?BREEZEプロデュースの曲を私が歌うとか何と恐れ多い事を!?」

 

「いや、普通にそれもありなんじゃないの?」

 

「パスだとか言ってるけど、貴兄も本当はやりたいんじゃないかな…」

 

「貴さんの気持ちもわかるわね。喉の事が無ければ今もきっと…」

 

「私もお兄さんの作る曲に寄って、お兄さんとお姉ちゃんがボーカルを代わるっていうのもアリだと思いますけどね」

 

「確かに貴の曲って、BREEZEとBlaze Future、どっちも王道ロックって感じだけど、少し曲調は違うもんね。キーの高い曲は作ってなさそうだし」

 

「基本的に歌詞がえっちぃっぽい曲の時の曲調?あんな曲が無くなったよね。まぁ、それがBlaze Futureのコンセプトなんだろけどさ?」

 

「タカも…本当はきっと…あたし……」

 

まどかさん?

 

「まどか?どうしたの?」

 

「あたし…タカがボーカルじゃないとさ。何となく嫌なんだよね。もちろんゲスト参加とかは全然嫌じゃないよ?むしろ声掛けてくれたら嬉しいくらいだし」

 

「まどか先輩…」

 

「タカがさ。またバンドを辞めちゃうんじゃないかって、怖いんだよ。それが嫌…」

 

「まどかさ~ん。タカちゃんは大丈夫だよ~。タカちゃんはずっとあたしの隣に居てくれるって約束してくれたし~」

 

え?盛夏?先輩が盛夏の隣に居てくれるって何?

それボーカルとしてベースの横に居ますよって事だよね?

 

「そうですよ!まどか先輩!貴はずっと一緒に居てくれるって約束してくれましたもん!」

 

え?奈緒?ずっと一緒に居てくれるって、ボーカルとギターとしてBlaze Futureとしてって事だよね?

 

 

『あ?ようはお前プロデュースのバンドと俺達プロデュースのバンド、そしてArtemisプロデュースのバンドを結成してエクストリームジャパンフェスに出場させてぇって事だろ?俺は嫌だけどお前らは好きにしたらいいじゃねーか』

 

 

やっぱり先輩は…。

 

「エクストリームジャパンフェス…。私も出るのならDivalで出たいわね。私達の曲と演奏で」

 

「わかります。私も出場するならGlitter Melodyで出場したいです」

 

 

『タカくん。手塚さんはエクストリームジャパンフェスに出場させたいとは言ってないよ』

 

 

「ん?そういや確かに手塚さんは、夢を覚えてるか?ってだけで、出場したいとは言ってないね」

 

「え?でも話の流れ的にはさ…?」

 

そうだよね。あんな言い回しだと出場するつもりで、プロデュースしたいのかな?って思うよね。

 

 

『俺は俺のプロデュースするバンドで、BREEZEとArtemisを越えるバンドを作りてぇんだ。俺にとってBREEZEとArtemisはな、エクストリームジャパンフェスで優勝するよりも尊い目標になったんだよ』

 

 

「BREEZEとArtemisを越えるバンド…」

 

「むー!Blaze FutureはBREEZEを越えてるしー!」

 

「盛夏、それはちょっと言い過ぎだよ」

 

「奈緒…あんたどれだけBREEZEが好きなの?」

 

「さすがに私もNoble Fateでも今は越えられないかなぁ?すぐにサクッと越えられると思うけど」

 

「私達DivalならBREEZEもArtemisも越えてみせるわ。私達が最高のバンドになるのだもの」

 

「私も翔子先生を見てきた訳ですし、Artemisにはまだまだ…とは思いますが、お兄さんは越えられると思ってます」

 

「あはは、美緒も言うね~。でも、理奈の言う通りあたし達DivalならBREEZEもArtemisもクリムゾンも越えられると思ってるよ」

 

「英治先生を越えるかぁ。今まで考えてなかったけど、あたしらDivalは最高のバンドになるんだもんね」

 

「タカはどう考えてるんだろうね。今のタカ自身の事を…」

 

 

『お前も今日、ONLY BLOODのライブ観て思ったんじゃねぇか?BREEZEが、お前が喉を壊さなかったら、あの時のお前らしい音楽をもっとやれたんじゃねぇかってよ』

 

 

先輩が喉を壊さなかったら…。

先輩が喉を壊さなかったら、今でもBREEZEをやってたのかな?そしたらそのままデビューもしちゃったりしてたかもだよね?

 

そしたら……私は今、先輩と同じ職場じゃなかったかも知れないんだ…。

 

「ONLY BLOODかぁ~。もぐもぐ」

 

「え?盛夏はONLY BLOODって知ってるの?」

 

「もちのろんよ~。

ONLY BLOODはタカちゃん達BREEZEがデビューした頃からのライバルバンドで~。クリムゾンエンターテイメントに潰されちゃったらしいよ~」

 

クリムゾンエンターテイメントに…?

 

「それでタカちゃん達は叔母さん達を守る為に、アルテミスの矢を作ったみたいな~?」

 

「聖羅さんからそれ聞いたの?」

 

「おかーさんから聞いたって言うか、おかーさんが好きだったバンドの曲を聞いて育ったから~」

 

「でもタカ兄って、そのONLY BLOODのライブ観たみたいな話じゃない?」

 

「もしかしたらそのONLY BLOODってのも再活動したんじゃない?」

 

何か…先輩の気持ちがわかる…。

 

先輩は今はBlaze Futureとしてバンドをやってるけど、昔みたいな曲も作りたいんだ…。

でも昔みたいな曲はもう歌えないから…。

このプロデュースの案も断ってるのはきっと…。

 

「やりたいなら…やりたいって言ってくれたらあたしも…」

 

まどかさん…。きっとまどかさんもわかってるんだね。

今の先輩の気持ち。

 

 

『俺は佐倉 奈緒をボーカルとしてバンドをプロデュースしたい』

 

『はぁぁぁぁぁぁぁ!!?』

 

 

え?奈緒?

 

「ふぇ!?わ、私が手塚さんのプロデュースするバンドのボーカル!?」

 

「クッ……タカ…!!」

 

 

-ドン

 

 

まどかさんは急に立ち上がって、先輩達の居る個室の壁を殴った。

 

「何で…どうして…」

 

「ま、まどかさん?」

 

「まどか?」

 

「まどか先輩…?」

 

私達はそんなまどかさんを見て、何か言わなきゃいけない。何か言わなくちゃと思ったけど…、何も言えなかった…。

 

「あ、あはは、ご、ごめん。あたし…帰るわ」

 

「え?まどか姉?」

 

「これ、置いとくね。ごめん…」

 

まどかさんはそう言って財布から1万円を取り出し、バッグを持って個室から走って出て行った。

まどかさん…。

 

 

-ガラッ

 

 

出て行ったと思ったらすぐに戻って来た。

 

「あ、お釣りは今度会った時でいいから」

 

それだけ言ってまた個室から出て行った。

お釣りは取るのか…。

 

 

「まどかさん…どうしちゃったんだろ…」

 

「渚~。心配しなくても大丈夫だよ~。盛夏ちゃんには何となくわかっちゃったのだ~」

 

「私も…何となくだけど、まどか先輩の『やりたい事』わかっちゃった。はぁ~…私もまどか先輩みたいになれたらなぁ~…」

 

「あたしも何となくだけど、まどかさんの『やりたい事』わかっちゃったかな」

 

「まどかの置いていった1万円…。お釣りを返さないには、割り勘として10万円分か…。あ、無理」

 

「盛夏も奈緒も花音も…まどかさんが心配じゃないの?」

 

「理奈さん。私もまどかさんの『やりたい事』わかっちゃいました。私ももう少し勇気があったら…(ボソッ」

 

「え?美緒もわかったの?何だろまどかさんの『やりたい事』って…」

 

「あたしもサッパリだよ。まどか姉…大丈夫なのかな?」

 

う~ん、む~ん…。

まどかさんの『やりたい事』って何なんだろ?

奈緒達はわかってるみたいだけど…。

 

 

「多分この後もお話を聞いてたらわかりますよ」

 

美緒ちゃん…。本当に大丈夫なのかな?

 

 

『佐倉 奈緒はあくまでもBlaze Futureのギタリストだ。だが、それと同時にファントムに所属するバンドマンであり、SCARLETのタレントという位置付けではある』

 

 

ん?奈緒はSCARLETのタレント?

あ、そっか。私達はファントム所属のバンドだけど、ファントムはSCARLETの音楽事務所。

私達はSCARLETに所属しているタレントって扱いになるんだ?

 

「お、お姉ちゃんが…タレント…」

 

「あ、そうだよね?位置関係的にはそうなるのかな?

でも、美緒もタレントって事だよ?お姉ちゃんだけじゃないよ?」

 

「え?マジ?あたしもタレント!?」

 

「あ、香菜もそうなるんじゃない?あたしもタレントって事か…。お父さんはクリムゾンとしてタレント扱いだったとしても、お母さんはどうだったんだろ…」

 

「タレント…ね。charm symphonyのときの事もあるから素直に喜べないわね…」

 

 

『お前は佐倉 奈緒の歌声を聞いてどう思った!?クリムゾンエンターテイメントや海原に怯えてあいつの歌声を腐らせるのは勿体ねぇと思わねぇのか!?』

 

 

「さ、さすがお姉ちゃん…」

 

「ふぇ!?な、何でですか!?何で私の歌が!?」

 

「私もこないだの奈緒の歌声凄いと思ったよ。でも、何だろ?カラオケの時とはまた違ったんだよね~」

 

そう。奈緒の歌声は私とカラオケ行っている時とは全然違ってた。普段の可愛い歌声ってより、しっかり歌詞を伝えに来てるような感覚…。

 

「いやいやいや。あの時は緊張もしてましたし、ギター弾きながらちゃんと歌えるかって思ってましたしね…」

 

「お姉ちゃん。でも…私はあの歌嬉しかった。すごく…嬉しかったよ。理奈さんの歌の次くらいに感動した…」

 

「あ、美緒はそれでも理奈の歌の方がいいんだ?」

 

 

『覚えているか?SCARLETで番組を作りてぇと言った話を。俺のプロデュースするバンド、お前らのプロデュースするバンドはSCARLETの企画バンド。その番組内でのみ活動するバンドだ』

 

 

「……え?企画バンド?」

 

「おぉ?これってもしかして~、初音がSCARLETでやるって言ってたネット番組の事かな~?」

 

「…あ、でもそれなら尚更貴に…じゃない。BREEZEにプロデュースしてもらいたいような…」

 

「あ、ダメだ。これ面倒臭い事になりそう…。あたしはパスしたいかな…」

 

「番組の企画バンド…?給料出るなら仕事辞めれる…?」

 

「なるほど。そういう事ね。手塚さんのやりたい事、ようやくわかったわ。それなら貴さんもきっと…」

 

「あ~、なるほど。でしたらお兄さんがどうしてもって言うなら私がお兄さんのバンドに入っても…いいかな?」

 

「そういや初音がそんな事言ってたっけ?もぐもぐ。

そういう事ならあたしもやってもいいかな。もぐもぐ」

 

「志保が美味しそうにご飯を食べてるとこ、初めて見た気がするよ」

 

手塚さんが言うように、その番組内でだけのバンドなら…梓お姉ちゃんのバンドには私が入りたい…!

 

 

『タカに奈緒ちゃんをプロデュースさせたらいいじゃないですか。奈緒ちゃんも憧れのBREEZEのTAKAプロデュースとかなら大喜びしそうですし』

 

 

は?英治さんは何を言ってるの?

 

 

-ドン

 

 

取り敢えず隣の個室に向けてグーパンしてみた。

 

「な、渚…?」

 

……あ、いけない!

英治さんったら何を言ってるの?とか、思ってうっかり壁を殴っちゃった。

 

 

『だから佐倉 奈緒は俺がプロデュースしてぇって言ってんだろ。それに、タカが佐倉 奈緒をプロデュースするには問題がある。それはタカもわかってるだろう?』

 

 

「え!?私の歌に問題が!?」

 

「あれじゃない?お兄さんがお姉ちゃんをプロデュースするとかなると、我慢出来なくなってつい襲っちゃうとか?」

 

「いや、美緒は何を言ってるの?もぐもぐ。

奈緒と貴は同じバンドだし。もしそうなっちゃうなら、もうとっくにそうなってるんじゃない?」

 

「……!?お姉ちゃん!?もうお兄さんとそんな事を!?」

 

「何を言ってるの美緒は…。貴はそんなんじゃないし。

そんな妄想を暴走させてる妹が心配だよ、お姉ちゃんは」

 

「貴さんが奈緒をプロデュースする事の問題点……ね」

 

「ん?理奈ちは何かわかったの?」

 

「何となくなのだけど…。奈緒とはカラオケにも行った事あるのだけれど、先日のGlitter Melodyのライブで歌った奈緒の歌。いつもの奈緒の歌とは違ってたわ」

 

「あ!それ私も思った!奈緒ってカラオケの時はBREEZEの曲歌うけど、あの時と全然違ったよね!」

 

「え?そう?」

 

「うん。あたしもこないだの奈緒の歌声にはびっくりしたかも。綾乃さんもそう思いませんでした?」

 

「眠い……」

 

ありゃ?綾乃さんは飲み過ぎると眠くなっちゃうのかな?

 

「あの歌声は…そう。初めて美緒ちゃんの曲を聞いたような衝撃。それに近いものを感じたわ」

 

「り、理奈さんが…私如きの曲を…幸せ過ぎます…!」

 

 

『それは奈緒のあの歌声は俺の作った曲じゃ出せねぇ』

 

『あ?どういう事だよ』

 

『奈緒のあの歌声は奈緒が想いを込めて作った歌詞だから想いが乗る。だから、俺が歌詞を作っちまったら意味ねぇんだよ』

 

 

奈緒が作った曲だから…奈緒の歌が…って事?

 

「やっぱりね…」

 

「え?ふぇ?私が作った曲?」

 

「ええ。奈緒が作った曲だからこその歌声なんだと思うわ。それは美緒ちゃんも同じだと思う。美緒ちゃん達の聞いたも美緒ちゃんの作った曲だもの。

あなたには…いえ、あなた達にはそういったチカラがあるのかも知れないわね」

 

チカラ…?

あ、前に拓斗さんが言っていたチカラの事か…。

 

 

『手塚。それでテメェは奈緒に作詞させて、テメェは作曲しようって事か。それならタカでもよ…』

 

 

「わ、私が作詞!?いや、待って下さい!?無理です無理です無理です!」

 

「お姉ちゃんの作った歌詞……尊い…」

 

「クス、美緒ちゃんは本当にお姉ちゃんが好きね」

 

「あ、でも理奈さんの歌詞の方が素敵です」

 

「み、美緒ちゃん…?」

 

 

『これが最後の頼みだ。これ以上はもう言わねぇ。

タカ、俺は佐倉 奈緒をプロデュースしてぇ』

 

『はぁ…。まぁ好きにしたらいいんじゃねぇか?手塚の気持ちもわからなくはないしな。俺も奈緒の歌をもっと聞きたいと思ってたのは事実だしな』

 

 

「ふぇ!?た、貴も何を言って…!?」

 

-ドン

 

奈緒がそう言った直後だった。

焼鳥を咥えた盛夏が立ち上がって、壁にワンパンしていた。盛夏?普通にご飯食べてると思ってたのに…。

 

「む~、もぐもぐ。貴ちゃんは何を言ってるのだ~!!

奈緒は私達Blaze Futureのギタリストなのに!!もぐもぐ」

 

「せ、盛夏…?」

 

「もぐり。

あたしも奈緒の歌は好きだよ。こないだ奈緒の隣でベースを弾いててさ。とてもとても気持ち良かった」

 

盛夏…。

 

「でもね。奈緒はBlaze Futureのギタリストなの。

奈緒の歌が聞きたいなら、Blaze Futureでやればいいじゃん!奈緒が歌詞を書いて~、貴ちゃんが曲を作って~。それでいいじゃ~ん」

 

「盛夏。あの…ありがとう」

 

そう言って奈緒は盛夏の腕を引いて無理矢理座らせた。

 

「お?おお?奈緒…?」

 

「あ、あはは、盛夏…ありがとね。

私もBlaze Futureのギタリストと思ってる。ううん、私はBlaze Futureのギタリストだよ。

ボーカルの貴が居て、ドラムのまどか先輩が居て…そして、ベースは盛夏」

 

「奈緒…。うん、そうだよね~。

それなのに貴ちゃんときたらさ~」

 

「でもね、貴も本当はそう思ってくれてると思うけど…。貴の気持ちもわかるんだ」

 

「貴ちゃんの気持ち…?それは…あたしも…わかってるけどさ…」

 

先輩の気持ち…か。

 

あの頃のような歌を作りたいって気持ちと、奈緒の歌をもっと聞きたいという気持ち。

それとあの頃のBREEZEのような歌では奈緒の歌を活かせないって気持ちかな…。

 

「私は…手塚さんから正式にお話を頂けたら…このお話受けようと思う」

 

「……!?奈緒…?」

 

「貴の気持ち…すごくわかるから…。BREEZEは辞めたくて辞めたんじゃないと思うし。きっとそれは梓さんも手塚さんも…」

 

「……あたしもそれはわかってる。わかってるんだよ。

でもね…」

 

「それにさっき英治さんが言ってた事…。私の歌がそんなに凄いのなら…。私も憧れのTAKAさんを越えるボーカルになってみたい。憧れの人と並べるような…」

 

憧れのTAKAさんを越えるボーカルか。

私も…いつか梓お姉ちゃんや先輩を越えるようなボーカルになりたい…。ううん、必ずなる。なってみせる。

 

「あ~!香菜ぁ!それあたしが狙ってたから揚げ~!」

 

「え?いや、あ、ご、ごめん…?あれ?何であたし謝ってるの?」

 

「ちょ、盛夏!真面目に話してるのに!」

 

「もういいよ~。真面目な話してるとお腹空くし~。

奈緒の気持ちはわかったからさ~?」

 

「盛夏…?」

 

「あたしもBREEZE好きだもん。昔の貴ちゃんみたいな曲を聞きたい。

それに今の奈緒の歌も好き。もっともっと奈緒の歌を聞きたい」

 

「盛夏………うん、ありがとう」

 

「貴ちゃんの歌の時も、奈緒の歌の時も、あたしがベースをやりたいって我儘だから~」

 

「それは大丈夫だよ」

 

「ほえ~?大丈夫って~?」

 

「手塚さんには…私がボーカルやる条件として、ベースは盛夏にして下さいってお願いするつもりだから…」

 

「奈緒…。奈緒ぉぉぉ」

 

そう言って2人は抱き合……わなかった。

 

奈緒は盛夏が抱きつきにくるのを待っている感じだったけど、盛夏はその時運ばれてきたから揚げを目にして、から揚げを食べるのに夢中になってしまった。

 

「お姉ちゃん……ど、どんまい」

 

「美緒…言わないで…」

 

 

『あたしがプロデュースしたいボーカルは、当然なっちゃんだよ』

 

『渚!!?』

 

 

-ドン

 

あ、つい壁がある事を忘れて突撃してしまった。

思いっきりおでこをぶつけちゃったよ…。

 

「な、渚?大丈夫?」

 

「あ、あはは、ありがとう志保。大丈夫だよ~。

ってか、まさか梓お姉ちゃんがプロデュースしたいバンドのボーカルが私とは…!!」

 

「まぁ、梓さん直々に渚をボーカルに…って事だから嬉しくても無理は無いわね」

 

「あれ?理奈ちは反対しないんだ?」

 

「何故反対すると思ったのかしら?」

 

「いや、ほらだってさ?理奈ちの事だから、『私達はDivalよ。Dival以外にかまけている時間はないわ』とか言うかと思って…」

 

「もしかして今のは私の真似なのかしら?

さっきも言ったじゃない。BREEZEは私の目標にしていたバンド。この企画バンドは私も興味はあるのよ」

 

あ、そっか。そう言えばさっき興味あるって言ってたっけ。

 

「もちろんDivalが最高のバンドになる。その想いは変わらないわ。それに、15年前活躍していたバンドのプロデュース。そのバンドを越えるいい機会でもあるもの」

 

そっか。そう言われればそうだよね。

今はBREEZEもArtemisも居ない。私達の憧れの的であるだけ。そのメンバーがプロデュースするバンドを越える事が出来たら…。そんな想いもあるよね。

 

 

『タカちゃんと梓ちゃんと手塚だけズルいズルいズルい!あたしもあたしプロデュースの……!!!』

 

 

「「「「「え?は?」」」」」

 

「ひ、日奈子お姉ちゃん…?」

 

「まさかの日奈子さんもプロデュース?もぐもぐ」

 

「BREEZEとArtemis……確かに貴と梓さんプロデュースって感じですけど…」

 

「あはは~、ダメだわこれ。嫌な予感しかしない…」

 

「Zzz…」

 

「日奈子さんもプロデュース…。これは面白い事になりそうね」

 

「ほ、本気なんですかね…」

 

「う~ん…。そういう事ならあたしも企画バンドってのやってみたいかも…もぐもぐ」

 

「あー、確かにそれも面白そうだよね。企画バンドって事ならDivalの活動にも差し支えないようにはしてくれそうだし」

 

日奈子お姉ちゃん…本気なのかな?

 

 

『うるさい!あたしはSCARLETの社長だよ!

だからこうしよう!手塚、タカちゃん、トシキちゃん、拓斗ちゃん、英治ちゃん、梓ちゃん、翔子ちゃん、澄香ちゃん、あたしで9バンドをプロデュースしよう!

よ~し、決定!!あ、これもう社長命令だから』

 

 

あ、本気だった。

 

「あ、あはは、日奈子お姉ちゃん…本気なんだ…」

 

「う~ん…。何だかとんでもない事になりましたなぁ~」

 

「あわわわわ、TAKAさんだけじゃなく、TOSHIKIさんやTAKUTOさんやEIJIさんのプロデュースまで…!ゆ、夢ですかこれは…」

 

「いや、タカさんもトシキさんも拓斗さんも英治さんも普段から会ってるしね?タカさんに至っては奈緒は同じバンドだよ?わかってる?」

 

「ふぇ?あ、私寝てた…?」

 

「本当にこれは面白い事になりそうだわ。

私もどこかの企画バンドに参加したいものね」

 

「さすがにベースの理奈さんとベースの私じゃ、同じバンドになるのは無理かな…」

 

「9バンドって事はあたしも何処かに参加する事になるのかな?」

 

「もぐもぐ、そだね~。ファントム所属バンドの番組での企画バンドらしいし。あ、でもさっき聞こえた話だと翔子さんはトシ兄とやるみたいだし8バンドじゃない?もぐもぐ」

 

私は梓お姉ちゃんのプロデュースバンドのボーカルだとしても…、梓お姉ちゃんは他のメンバーは誰を選ぶつもりなんだろう?

 

 

『おこんばんはー!』

 

 

え?晴香さん?

隣の個室から聞こえた声。この声は晴香さんだ。

 

 

『あ、まどかは何を飲む。あたしはビール』

 

『あ、あたしもビールで…』

 

 

え?まどかさん!?まどかさんも隣の個室に!?

 

「ふふ、やっぱりまどか先輩。隣の個室に突撃したんですね」

 

「やっと登場か~。って感じだよね~。

はてさて、まどかさんはどう言うんだろう~?」

 

え?奈緒と盛夏はまどかさんが隣の個室に行くつもりだったってわかってたの?

いや、奈緒と盛夏だけじゃなさそうだ。

花音や綾乃さん、美緒ちゃんもやっとかーみたいに言っている。

 

えっと……どういう事なんだろう?

 

 

 

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-少し前の時間

 

「あれ?まどか?どったの?」

 

「あ、晴香さん…」

 

「もしかして帰るの?」

 

「いえ…そういう訳じゃ…えっと…」

 

「何か迷ってるんだ?お姉さんに話してみ?ほれほれ」

 

「晴香さん…あはは、えっと…実は…」

 

 

 

 

「なるほどね。BREEZEとArtemisのプロデュースでバンドを作ろうってか。

あはは、手塚も面白い事考えるじゃん」

 

「お、面白い事って…」

 

「タカがBlaze Futureを辞めて、そっちのプロデュースばっかりになりそうで怖い?」

 

「……少し。タカは昔みたいには歌えないから。

Blaze Futureの事も大事にしてくれるとは思いますけど、タカのやりたい曲は、バンドはもしかしたら…」

 

「大丈夫だと思うよ。タカは」

 

「……はい」

 

「ん~、そだ!あたしもう仕事あがりだしさ。2人であいつらの個室に突撃しよう!」

 

「え!?と、突撃って…」

 

「まどかもあいつらの個室に乗り込んでやろうって思ってるから、ここで帰らずに1人でいるんでしょ?」

 

「いや、まぁ…あははは…」

 

「あたしも一緒に行くからさ。大丈夫。

あいつらに、タカに言いたい事、今の気持ちをぶつけな」

 

「晴香さん……はい」

 

 

 

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そこで私達はまどかさんと晴香さんの加わった隣の個室の話を聞いた。

 

そっか。まどかさんは先輩がBlaze Futureじゃなくなっちゃうかも知れない事が不安で怖かったから、先輩に直接話を…。

 

「そっかぁ。まどかさんって…」

 

「きっとまどかさんは自分が弱いってわかってるんだね~。だから今を一生懸命になれるんだよ~」

 

「でもまどか先輩と英治さんのプロデュースバンドかぁ……ちょっと楽しみかも?」

 

「えっと…これで手塚さんと、タカさんと、佐藤さんアンド神原さん、晴香さんと宮野さん、英治さんとまどかさん、木原さん、澄香さん、社長の8バンドか…」

 

「おっちゃんとまどかのプロデュースバンド…。わぁ~めんどくさそぉ~…」

 

「私にはDivalの事もあるけれど、企画バンドとしても私も何処かに所属する事になるなら全力でやるだけだわ」

 

「私もやるという事になれば全力でやります。もし睦月達と別のバンドになったら負けたくないですし」

 

「あ、それならあたしは美緒とバンドやってみたいかも。もぐもぐ」

 

「う~ん…あたしはやるなら英治先生にプロデュースしてもらいたい気もするけど…やっぱBREEZEってなるとタカ兄かな…?」

 

 

15年前のバンド、BREEZE、Artemis、クリムゾンエンターテイメント。

そんな人達にプロデュースしてもらうバンド。

 

みんな今の自分のバンドが一番と思っているものの、やっぱり自分が憧れていた人にプロデュースしてもらえるかも知れない。

不安や心配もあるけど、そんな想いの方が大きく、私達はあれやこれやと歓談しながら、楽しい時間を過ごしていた。


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