バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第12話 執事戦隊!セバスマン!!

ドクン……ドクン…。

 

やはり…緊張していますわね。

 

 

私の名前は秋月 姫咲。

今日は昨日に引き続き、商店街の自治体の方々の支援…と言えばいいのでしょうか?

 

自治体のご当地戦隊の主題歌を担当するという名目の元、私達Canoro Feliceはミニライブをさせて頂ける事になりました。

 

まぁ…ヒーロースーツを着てショーにも出演する事になるとは思っていませんでしたけど…。

 

 

「昨日は私も台詞少なかったしね!今日は台詞も多いみたいだし楽しみだよ!」

 

結衣はノリノリですわね。

 

「昨日のミニライブの反響も良かったしさ。今日もみんな頑張ろうね」

 

春くんもSCARLETでの話以降…いえ、南国DEギグでのあの事件以降、すごくやる気を見せてくれてますわ。

 

「秋月、ちょっといいか?」

 

「松岡くん?ちょっと所かあなたに時間を割く時間は私の人生の無駄な時間だと思うのですが?大事なお話なら聞きますわよ?」

 

「うん…多分…大事な話だ…きっと……」

 

「何ですの?」

 

「昨日のミニライブの時に思ったんだけどな。お前は少し下がり過ぎてた。ベースはユイユイの音を刻ませる大事な要だ。もっと全面に押しだす感じでやってみてくれねぇか?ここの所なんだけどよ…」

 

そう言って松岡くんは私にスコアを見せて来た。

 

松岡くんも変わりましたわね。

以前までの松岡くんなら、結衣の事も私の事も気に掛ける事はなかったでしょうに。

 

「わかりましたわ。ここは私が前に出るように演じますわね。松岡くんもここの箇所なのですが…」

 

「……あ、なるほどな。さすが秋月だな。

よし、今日はその感じでやってみる」

 

「お願いしますわね」

 

本当に松岡くんは変わりました。

これも私達と…Canoro Feliceとバンドをやってきての成長でしょうか?

それとも……双葉の影響なのでしょうか…、

 

 

 

 

『セバスレッド!』

 

『セバスブルー!』

 

 

どうやらショーが始まったようですわね。

 

登場人物の紹介の後には、昔の昼ドラを思い出すようなドロドロとした恋愛ドラマが繰り広げられますし、私達もまだ少しだけ時間もありますわね。

 

 

「セバススプリング!私とセバスオータムのどっちが好きなの!?」

 

「待ってよセバスサマー。僕は誰にも縛られない。年中春のセバススプリングさ」

 

「本当にそうかよ…」

 

「「セバスウィンター!?」」

 

「セバススプリング…。お前はそれでいいのかよ?

俺との……あの夜は…。俺は忘れたらいいのかよ…」

 

「セ、セバススプリング!どういう事!?

私やセバスオータムだけじゃなくて……」

 

「ごめん…セバスサマー…」

 

「何で…?どうして……?ま、待ってよ。セバスウィンターは…」

 

「わかってる。わかってるんだよ!」

 

「何が…わかってるの…私…私はわからないよ…」

 

「セバススプリング。俺は…おみゃえにょ…」

 

 

「あー!またまっちゃん噛んだ!!」

 

「しょうがねぇだろ!こんな恥ずかしい台詞なんか言える訳ねぇだろ!」

 

「ははは…た、確かにね。俺もやってて恥ずかしいよ…」

 

「春くんも!お芝居はちゃんとやらなきゃ!ショーを待ってくれてる子供達にキラキラドキドキを届けなきゃ!」

 

「いや、待てよユイユイ…。こんなシナリオじゃ子供達はキラキラドキドキしねぇだろ…」

 

春くんも結衣も松岡くんも、この後のショーの練習に勤しんでおりますわね。

 

私達はバンドですし、ショーに参加する事でバンドのイメージも左右されるかも知れない。

ですから、自治体の方々にはショーはしなくてもいいと言われてますのに…。

 

「ねぇねぇ、春くん。ここの私の台詞ってxxxとか◯◯◯とかにした方良くないかな?」

 

「うん、うん?………そうだね。その方がドロドロしてるよね。結衣は何でそんな発想出来るの?」

 

フフ、結衣も張り切ってますわね。

でしたら私も本気の演技を披露しますわ。

 

 

私がそんな事を思った時でした。

 

 

………え?

 

 

あの…観客席に居る方は…。

 

 

「な、なぁ、春太、ユイユイ、秋月…。やっぱ俺らのショーは無しにしないか…?」

 

「まっちゃんは何を言ってるの!?子供達が私達のショーを待ってくれてるんだよ!?」

 

「冬馬…。俺もこんなショーは子供の心への悪影響しかないと思ってるけどさ…。観客席に居るお母様方は楽しみにしてるかもだし…。結衣と姫咲がやりたいって言うなら俺達には意見は言えないよ…」

 

「秋月…お前もやりたいのか?」

 

「やはりショーは無しにしませんか?」

 

「「え!?」」

 

「ど、どうしたの姫咲…?もしかして体調悪いの?

子供達が私達を待ってくれてるんだよ!?」

 

「そうだよ姫咲。昨日はショーを観覧するみんなにトラウマを植え付けてやるって張り切ってたのに…」

 

確かに私もショーに出るのは楽しみにしてましたわ。

 

ですけど…観客席には澄香さんが…。

いえ、澄香さんだけじゃありませんわ。

 

澄香さんと一緒に、梓さん、渚さん、志保さん、理奈さん、タカさん、盛夏さん、英治さんにトシキさんまでいらっしゃいますわ…。

 

出来ない…。あの面々の前では……ってあら?

 

 

『セバスインフィニット!』

 

『セバスインフィニットー!頑張って!!』

 

 

あの最前席でセバスマンを応援してるのは…美来さんでは…?

 

「秋月、本当にどうしたんだ?マジで体調悪いのか?」

 

「春くん、結衣。ここから客席を見てみて下さい」

 

「「客席?」」

 

「秋月…?俺は呼んでくれないのか?」

 

これは参りましたわ…。

しかし何故、澄香さんがここにいますの?

秋月家のメイド達にも賄賂……いえ、お願いして澄香さんには内緒にするように言ってましたのに…。

 

私達Canoro Feliceが、この場に居る事を知る人物…?

 

ヤツか(ギリッ

 

 

------------------------------------

 

 

「え?何?今、いきなり寒気したんだけど?」

 

「タカくんどうしたの?風邪?」

 

「あ?俺を誰だと思ってんだ?バカは風邪引かねぇんだよ」

 

「なるほど。説得力あるわね。梓さん、安心して下さい。貴さんが風邪を引く事なんてありえないわ」

 

「理奈?お前俺に喧嘩売ってんのか?そうなんだな?」

 

「でもタカってもう15年くらい風邪引いてねぇんじゃねぇか?」

 

「そういや、はーちゃんが風邪引いたとか聞かないよね」

 

「先輩…やっぱり…」

 

「いや、やっぱりって何だよ」

 

「貴ちゃ~ん。でも気を付けなきゃだよ~?風邪って万病の元って言うし?万病になっちゃうと大変じゃない?」

 

「え?マジで?万病って何?万病ってそんなヤバいの?」

 

「「「「……………」」」」

 

「え?何でみんな無言なの?そんなにヤバいの?」

 

「どうしよ。あたしも風邪引いた事ないんだけど、もし万病ってのになっちゃったら…」

 

「志保ちゃんは大丈夫だよ」

 

「え?志保は大丈夫なのに俺はヤバいの?」

 

 

------------------------------------

 

 

「え?何で澄香さん達がいるの!?」

 

「ねぇ?これってヤバくない?自治体さんには、すみちゃんには内緒にしてくれって言われてたよね?」

 

「ああ、そうだな…。自治体の人らはセバスに内緒で勝手にセバスマンをご当地ヒーローにしたからな。澄香さんにバレたらセバスマンの事怒られるかもとか言ってたしな。てか、葉川さん達もいるのかよ…」

 

これはまずいですわね…。

自治体の方々にセバスマンの事をバレてしまうのは、ここまで来てしまいました以上避けられないと思いますが、何よりヒーロースーツを着て澄香さんの前に出るのは恥ずかしいですわ…。

 

「まぁバレちゃったのは仕方ないよ。俺達はやれる事をしっかりやろう」

 

「みんなの前で恥ずかしいお芝居なんか出来ないもんね!」

 

「お、おい。本当にショーも…いや、やるしかないか。春太!ユイユイ!もう一度練習だ!」

 

え!?何で松岡くんまでやる気満々に!?

 

クッ…私はどうすべきですの…?

 

「あ、あの…みなさん…?ちょっとご相談があるのですが…」

 

「相談?何かな?」

 

「もしかして戦闘員達を傘下に加えた後に、戦闘員達をまっちゃんと戦わすんじゃなくて、姫咲自身がまっちゃんと戦いたいとか?」

 

「ちょっと待てよ。戦闘員の人達は手加減してくれるだろうけど……秋月相手ってなるとよ!?」

 

松岡くん…?

 

「そうじゃありませんわ。その…ショーなのですけれど…」

 

私はやはり…澄香さんの前では…。

 

「姫咲は何か凄い展開を考えたのかな!?このままだとセバスウィンターは……」

 

結衣。セバスウィンター……いえ、松岡くんはこれでいいんですの。でもショーの話ではありませんでして…。

 

「秋月…このままだと俺は…。だからか?やっぱショーとしても俺達は四人で居たいよな」

 

松岡くん、黙りなさい。

 

「あ、あの…ショーをやるのは…やっぱり止めにしませんか?」

 

やはりこんなショーを澄香さんの前でやるのは無理ですわ。さぁ!私は言いましたわよ!

 

「姫咲…もしさ、もし俺達がこのショーを止めたとしたらさ。誰が喜んでくれるの?」

 

春くん!?春くんは何を言っていますの!?

仮にこのショーをやり遂げたとしたら誰が喜んでくれますの!?

 

「姫咲…何で…?私達は…みんなを笑顔に…。

私達のショーを待ってくれている子供達はいっぱい居るんだよ!?」

 

結衣?このショーのお話は子供達は楽しみにしてないと思いますわ。観客席を見てくださいな。

子供達は好き勝手にはしゃいで、ショーをガン見して下さってる方々はお母様方ですわよ?

あ、美来さんらしき最前の方は泣いてますわね。

 

「秋月…お前まさか俺の為に…」

 

松岡くん、黙りなさい。

 

「姫咲、このショーを止めたい理由を…聞かせてくれないか?」

 

春くん?いや、何でわかってくれませんの?

 

「待ってよ春くん!姫咲も…もしかしたら何か考えがあるのかも知れないよ?」

 

結衣…。

 

「もしかしたら姫咲は…主役の座を狙ってるのかもだよ!」

 

ああ、そう来ましたか。結衣、あなたならわかってくれると…思ってはいませんでしたが…。

 

「秋つ…」

 

「松岡くん、黙りなさい」

 

「き…って、え?黙れ?」

 

あ、いけませんわ。

私とした事がつい口に出してしまいましたわ。

 

「あの…せっかく澄香さんや渚さん達が観に来てくれていますから…」

 

「そうだよ姫咲!せっかくすみちゃん達が来てくれてるんだよ!?なのにショーを中止にするなんて…!」

 

「え、ええ。ですから、自治体の方と掛け合って、ショーではなく、Canoro Feliceのミニライブを長めにやらせて頂けないかと…」

 

「ミニライブを長めに?」

 

「なるほど。確かに澄香さん達に観てもらうなら、ショーよりミニライブの方がいいよね」

 

「そうだな。今日は3曲の予定だったが、俺達には6曲あるしな。リハは出来てねぇが何とかやれるだろ」

 

「うん!そうだね!私もミニライブに賛成!」

 

ふぅ…。何とかなりましたわね。

さすがに苦し紛れの案かと思いましたが、春くん達も納得してくれて助かりましたわ。

 

私がそう思った時でした……。

 

 

「あ、Canoro Feliceのみなさ~ん。出番ですのでよろしくお願いしま~す」

 

 

「はーい!」

 

自治体のスタッフさんが、私達にそう声を掛けてきた。

その直後、結衣が元気よく応え……ステージへ向かった。

 

……ステージへ 向かったって何ですの!?

 

さっきまで!さっきまでショーは止めようと話してましたわよね!?何故結衣はステージに向かいましたの!?

 

「おい、春太…。ユイユイのやつ…」

 

「うん…。いきなりステージに行っちゃったね。さっきまでのって…」

 

ああ、春くん松岡くん。貴殿方ならわかってくれると思ってましたわ。

 

結衣はステージに上がってしまった。

私達はこれからどう立ち回るか考えませんと…。

 

「秋月…お前はどう思う?」

 

松岡くん?

そうですわね…結衣はヒーロースーツを着たままステージに上がってしまいましたわ。

私達がこの後出来そうな事と言えば…。

 

「よし!俺も行ってくるよ!姫咲、冬馬、後は頼むよ!」

 

そう言って春くんは走ってステージに向かった。

 

いや、だからステージに向かったって何ですの!?

何で春くんまでヒーロースーツを着たままステージに上がりましたの!?

 

私は呆気に取られたまま、松岡くんに顔を向けた。

 

「フッ、春太のやつ…なかなかやるじゃねぇか」

 

すみません。なかなかやるとは?

 

「秋月」

 

「は、はい?」

 

松岡くんが珍しく私の目を見て名前を呼んだ。

いつも私と話すときは目線を反らしたりして気持ち悪……じゃありませんわ。いえ、あの…。

 

いえ、今はそんな事を考えている時ではありませんわね。

 

「松岡くん、何ですか?」

 

「ああ。ユイユイも春太も行っちまった…」

 

「ええ。そうですわね」

 

「俺達が何とかしねぇとな」

 

松岡くん…。

いつもは頼り無くて、たまにウザったいと思っていましたが…今はすごく心強いですわ。

 

「ええ。私達で何とかしましょう!」

 

「はは、悪いな、秋月。俺はこんな性格だからよ。あんまいい考えってのは浮かばねぇ」

 

松岡くん?

 

「だから秋月。お前に任せる形になる。

お前の指示で俺を動かしてくれ。はは、俺ってカッコ悪いな」

 

松岡くん…。そんな事はありませんわ。

今までの松岡くんなら、そのように考えたりしなかったと思います。今は…心強いですよ。

 

………い、今だけですからね!

 

「秋月?」

 

「ええ。わかっています。今、この場をどうするかを考えていますわ。私と松岡くんはまだステー…」

 

「そう。俺達はまだステージに上がっていない。

なのにあの違和感の無いショーの展開。あいつら…ほとんどアドリブだけでやってやがる」

 

ええ…そうですわね。

うん?うん、そうですわね。

本来なら春くんが登場して自己紹介、その後は結衣、私、松岡くと続いた後にドロドロショータイムですものね。

 

……ちょっと待って下さい?何か違和感が…。

 

「俺もCanoro Feliceのメンバーだ。やれるだけやって来るさ」

 

……何をやる気ですの?

 

「後は任せたぜ!秋月!!」

 

そう言って松岡くんはステージへと走って行った。

 

……あの男は何をやってますの?

 

私はソッとステージを見てみた。

 

 

「セバスウィンター…何でここに…!?」

 

「セバスウィンターは帰って!これは私とセバススプリングの問題なの…!あの夜の事は…忘れてよ…」

 

「え!?あ、そっちなの?」

 

「セバスウィンター、そっちなのってどういう事だ?まさか…キミはセバスサマーと…」

 

「違うの!セバスウィンターは悪くないの!悪いのは…私…」

 

「あ?ああ、いや。セバスサマーは悪くねぇよ。悪いのはセバススプリングお前だろ。だから俺は…」

 

 

あの方達は一体何をやってますの?

全然台本と違いますけど…?

 

あ、結衣!元アイドルがそんな事を言っては…!

あ、春くん!?アイドル志望でしたわよね!?何でそんな黒い事が言えますの!?

松岡くんもヘタレのくせして何故そんなに臨機応変にアドリブに対応出来てるのですか!?

 

こうなってしまった以上、春くんも結衣も松岡くんも私がステージに上がるまで、お芝居を止める事は無いと思いますわ。てか、アドリブだらけのこのお芝居に私はどうやって入ればいいんですの!?

 

「くっ…やむを得ませんですわね」

 

私も覚悟を決めステージへと上がりました。

…この後どうお芝居を続ければ良いのか…。

無茶振りもいいとこですわよね…。

 

「セバスオータム!セバスサマーとセバスウィンターが…。何とか…してくれよ!!」

 

………。

おっと、一瞬トリップしてしまいましたわ。

春くん?台本とは全然違うストーリーにしておいて、今登場したばかりの私にいきなり何て無茶振りしますの?

 

「セバスオータム!私は…悪くないよね…」

 

結衣?マスクをしているから観客席にはわかりにくいと思いますが、しっかり涙まで流して…。Blue Tearの時はお芝居も練習してましたのね…。

 

「おい、セバスオータム…」

 

「セバスウィンター。黙りなさい」

 

「え?あ、はい」

 

さて、これからどのようにストーリーを進めていくか…。

 

私は観客席の方へ目を向けてみた。

 

 

------------------------------------

 

 

「「ぶは!ぶはははは!!姫咲(ちゃん)まで何やってんだ!ぶはははは!!」」

 

「ちょっ、はーちゃんも英ちゃんも笑いすぎだよ…」

 

「先輩も英治さんもうるさいです!今からとんでも展開があるかもなのに!」

 

「渚?…今のストーリーは頭からとんでも展開よ?これは本当に子供向けのショーなのかしら…?」

 

「………」

 

「澄香?大丈夫?女の子がしちゃいけないお顔になってるよ?」

 

「ねぇ?何で盛夏は泣いてるの?そんなお話だった?」

 

「志保ぉ~。子供向けのショーだと思って舐めて見てたのに~。まさかこんなに尊いお話とは~……うぅ…グスッ」

 

 

------------------------------------

 

 

クッ…タカさんと英治さんめ…。

 

そして私はもう1人の顔馴染みを思い出し、最前席に座っている美来さんへと目をやった。

 

………ハンカチを噛み締めながら私達を見ていますわね。その膝に置いてある望遠レンズ付きのカメラは何ですの?そこから望遠レンズが必要な被写体を撮るつもりで持って来ましたの?

 

そして私は空を見上げた。

雲ひとつない綺麗な晴天ですわね。

ああ、このまま何事も無かったように、お家に帰りたい…。

 

「「「セバスオータム!!」」」

 

………。

春くんも結衣も松岡くんも何ですか?私が登場したからといって、私の発言を待つ必要なんてないじゃないですの…。私は……。

 

 

もう……。こうなったら自棄糞ですわね。

 

 

「カニ怪人さん!カニ怪人さんはいらっしゃいませんか!?」

 

私はステージのセンターに立って、楽屋までも聞こえるように大きな声でお芝居をした。

 

「「「???」」」

 

春くんも結衣も松岡くんも訳がわからないってお顔をされてますわね。

 

私は更に声を高らかに…。

 

「カニ怪人さん!早くいらっしゃい!」

 

それから少しした後…

 

「な、何ですカニ~?」

 

「やっと来ましたのね。待ちくたびれましたわ」

 

カニ怪人さんがステージへと上がって来てくれました。

本来の出番はもう少し後でしたのにね。申し訳ございませんわ。

 

「すみませんカニ~」

 

ちょっと待って下さいな?

何で語尾に『カニ~』が付いてますの?昨日はそんな事ありませんでしたわよね?

 

ま、まぁいいですわ。

 

「カニ怪人さん。今から戦闘員を数人呼んで頂けませんか?」

 

「せ、戦闘員カニ?戦闘員はみんな休暇中カニ~」

 

「数人で構いませんわ」

 

「い、いや…でも…」

 

「いいから(ギロッ」

 

「…!?」

 

「いいから」

 

「は、はいカニ~!戦闘員共よ!来るカニ~」

 

カニ怪人さんがそう言った後、ステージの下に居たセバスマンの……何色かは覚えていませんが、セバスマンの数人がステージ袖へと戻って行った。

 

さて、セバスマンから戦闘員へのお着替えもあるでしょうし、しばらくはお芝居の間をもたせなくてはいけませんわね。

 

「さあ!カニ怪人さん!!今こそ先日の雪辱を果たす時ですわ!セバススプリングとセバスサマーを倒してしまいなさいな!」

 

「「「なっ!?どういう事だ!セバスオータム!」」」

 

「いや、本当にどういう事カニ?」

 

「待ってよ!セバスオータム!どうして私とセバススプリングにカニ怪人と戦わせようとするの!?セバスウィンターは……ハッ!?まさか…セバスオータムはセバスウィンターの事…」

 

結衣…よくもまぁそんな発想がポンポン出てきますわね。

 

「何だって!?セバスオータム!そういう事なのかい!?」

 

春くん…何をニヤニヤしてますの?

 

「秋…セバスオータム…そ、そういう事なのか?///」

 

松岡くんめぇ…(ギリッ

 

「あ、そういう事なのカニ?セバスオータムにとってセバススプリングとセバスサマーが邪魔だからカニ?」

 

「チッ」

 

「「「「え!?舌打ち…!?」」」」

 

「ふぅ…やれやれ。皆さんの勘違いには溜め息しか出ませんわ」

 

「溜め息しかって…今思い切り舌打ちしてなかったか?」

 

「セバスウィンター如き…カニ怪人さんの手を煩わせる事はありませんわ。私が直々に仕留めますわ」

 

「え!?何で!?ちょっと待って…!?」

 

「覚悟はよろしいですね」

 

「いや!本当にちょっと待って…!!?」

 

私がこれまで鬱憤を……いえ、ショーの成功の為にセバスウィンターを仕留めようとした時でした。

 

「あー、カニ怪人さん何スかー?」

 

とても面倒臭そうに戦闘員の方が8人程上がって来てくれました。今から松岡くんを仕留める大事な場面でしたが、ここからが私の本当の目的ですわ。

松岡くん、命拾いしましたわね…。

 

「戦闘員さんご苦労様です。こういう時は悪役が子供達を人質に取るというのは定石ですわ。さぁ、観客席から子供達を連れて来て下さいな!」

 

「「「は?」」」

 

私は戦闘員の方々にそのようにお願いをしたのですが…

 

「いや、うちそういうのはやってないで」

 

「子供達を人質に取るのはね~…ヤバいよね?」

 

「てか、俺らこんなんやらされるとか聞いてないですけど?」

 

「そんな事して親御さんに怒られたらどうするんですか」

 

ええい…。最近の戦闘員は軟弱ですわね…!!

 

「わかりました。では、人質も無しに今から私と戦う訳ですわね?リハもやってませんから手加減は出来ないと思いますが(ギロッ」

 

「「「………子供達を人質に取ってきます!」」」

 

物分かりのいい戦闘員達で良かったですわ。

 

そして戦闘員達がステージから下りて、どの子供達を連れて来るか見定めている時に私は戦闘員に声を掛けた。

 

「あ、すみません。人質にはあそこで見物しているおっさん2人を連れて来て下さいますか?あそこの2人です」

 

私はそう言ってタカさんと英治さんを指差した。

 

「え?ちょっ…セバスオータム…?」

 

「セバススプリング?私の邪魔をするなら容赦はしませんわよ?あ、戦闘員さん、あの2人以外の人質は適当に選んで頂いて構いませんわ。怪我などさせないように丁重に連れて来て下さい。あの2人は嫌がるようなら骨の2、3本なら折っても構いません」

 

「セバスオータム?これってヤバくない?何か考えがあるの?」

 

「大丈夫ですわ。セバスサマーも安心して下さい。ショーを丸く収めてみせますわ」

 

 

「キャ、キャー!助けてー!!セバスマーン!!」

 

 

え!?戦闘員さん?タカさんと英治さん以外の方は丁重に扱って下さいと…。

私は観客席に目を向けた。

 

 

「た、助けてー!」

 

 

私の目を向けた先には、戦闘員にわざと捕まろうとしている美来さんが居た。……美来さんもノリノリですわね。

 

 

 

 

そしてステージ上にはタカさんと英治さんと美来さんが追加された訳ですが、美来さんはタカさんと英治さんの顔を見た途端に大人しくなってくれました。恥ずかしかったんですのね…。

子供を人質にって話でしたが、人質にした3人共私より年上の方ばかりですわね。

 

まぁそれはさておき…。

 

「戦闘員さん達、ご苦労様でした。

さぁ人質が逃げ出さないように押さえて下さいね」

 

「ちょっ…姫さ…セバスオータムさん?一体これはどういう事なんでしょうか?」

 

「おい、なんで美来がここにいんの?てか、お前さっきノリノリだったな?人質になりたかったの?」

 

「うるさい。あなた誰?あたしは美来なんて知らない」

 

「お前さっきのばっちり梓にも見られてるからな?」

 

「さっきからおじさんうるさい」

 

私は戦闘員に押さえられているタカさんの前まで来た。

一番怪しいのはこの男ですものね。

 

「あ?セバスオータムお前何のつもりなの?」

 

さて…。

 

「澄香さんに今日のショーの事を喋ったのはお前か?(ボソッ」

 

「あ?澄香?」

 

-ドスン

 

「グホッ…!」

 

私はタカさんのボディーにいい一撃を入れた。

 

「ちょっ…こ、これショーだよね!?何で俺殴られたの!?マジで痛いんですけど!?」

 

-ドスン

 

「グハッ…」

 

「うるさい。聞かれた事にだけ答えなさい。澄香さんに今日の事を話したのは誰ですか?(ボソッ」

 

「い、いや…ちょっと待っ…」

 

-ドスン

 

「ガハッ…」

 

「お前か?」

 

-ドスン、ドスン

 

「ガ…ガフッ…」

 

チッ、根性のない男ですわね。

答える前に落ちてしまうとは…。

 

まぁいいですわ。自白は諦めていましたし。

それにその為の人質2号にも来てもらっていた訳ですしね。

 

私は次に英治さんを見た。

 

「ま、待ってくれ。澄香に話したのは俺じゃない。梓が昨日のショーを見てたみたいでな。そ、それで夕べ俺らで飲んでた時によ…」

 

「昨日、梓さんが…?」

 

「うん。英治くんが言ってる事は間違いない。

あたしも昨日、お母さんと一緒にショー見てたし」

 

そ、そうだったのですね。

 

「梓さんが…でしたらしょうがないですわね…」

 

「ちょっ…ちょっと待てテメェ。お、俺は冤罪で殴られたってのか…?」

 

「チッ」

 

「え?何で舌打ち…?」

 

でしたらこのショーはそろそろ終らせてミニライブに移行させるのが良いですわね。

 

「カニ怪人さん!戦闘員さん!罪なき一般人もよくも!!セバススプリングとセバスサマーとセバスウィンターと力を合わせて、あなた方を倒させて頂きますわ!」

 

「「「「「え?」」」」」

 

「倒させて頂きますわ!」

 

「え?あ、ああうん。そうだね…」

 

「倒しちゃっていいのかな?」

 

「ま、まぁ……いいんじゃねぇか?」

 

 

そして私達はカニ怪人さんと戦闘員を倒し、ミニライブを終えたのでした。

 

 

 

 

「本当に申し訳ございませんでしたわ!」

 

「いや、別にいいけどね…。いや、よくねぇけど…まぁ誤解だってわかってくれたみたいだし」

 

「ああ…やっぱり私がセバスをやってた時のイメージで作ったご当地ヒーローなんだ…?」

 

「そうみたいっス。だから澄香さんには今回だけは内緒にしてくれと自治体から頼まれてまして…」

 

「美来お姉ちゃん…。ゆっくりお話したかったのに…」

 

「渚、心配しなくても大丈夫だよ。美来さんとはまた会えるよ」

 

私達はショーが終わった後、今日はSCARLET本社で話があるという連絡が、夕べ手塚さんより通達が来ていましたので、澄香さん達とSCARLET本社へと向かっていた。

 

「それより英治さん、SCARLETで話って何ですか?手塚さんからって…」

 

「ああ、それは行ってみたらわかるさ。一瀬くんにも悪くない話だとは思うぞ」

 

「 昨日の話って晴香ちゃんじゃなくて、理奈ちゃん達が聞いてたんだ?ははは、勝手にあんな事にしちゃってごめんね」

 

「いえ、トシキさんが謝る事では…。それに企画としては面白そうと思ったのは事実ですから」

 

「え?え?何の話?もしかしてSCARLETでやる番組とかのお話なのかな?」

 

「そっか。せっちゃんも聞いてたんだ?」

 

「まぁ~ね~。でもみんなやるのかなぁ?」

 

SCARLETで手塚さんからの話。

一体どのような話なのでしょうか?

 

私達はこの後、とんでもない企画話を聞かされるのでした。


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