あたし達は今、SCARLET本社へと向かっていた。
「ごめんね、せっちゃん。車イス押してもらって」
「ん~ん~。全然平気だよ~。
あたし美しい堕天使シャイニング梓お姉様の車イス押すの好きだし~」
「あはは、ありがと。でもちょっとお願い良いかな?」
「お願い?なぁに?」
「そろそろ…美しい堕天使シャイニング梓お姉様って呼ぶの止めない?」
「ほぇ~?あたしは別にいいけど~?
それじゃあ何って呼べばいいかなぁ?叔母さんって呼ぶと怒られちゃうし~?」
「ま、まぁ確かに"オバサン"はね…。あ、それなら普通にお姉ちゃんとか?」
「ふぇぇぇぇ……」
「え?何で!?」
せっちゃん?何でお姉ちゃんはそんな嫌そうなの!?
美しい堕天使シャイニング梓お姉様って呼ばされる方が嫌じゃない!?
そんな事をせっちゃんと話しながら、あたし達はSCARLETの本社へと辿り着いた。SCARLETってこんな大きなビルの会社だったんだ…。
あたしの名前は木原 梓。
またあたしのモノローグとか…まさかこのお話のヒロインはあたし!?って事はそろそろ結こ…。
「梓?何をニヤニヤしてるの?」
「澄香!?いや、何でもないですじょ!?」
「は?ほんまどしたん…?」
「はぁ~…来ちゃったか。ま、入るか」
そう言ってタカくんを先頭にSCARLET本社へと入った。
……え?何なのこのエントランス。
ビルの一角の部屋を事務所として借りてるとかじゃなくて、このビルが丸々SCARLETの会社なの?
日奈子ってこんなに大きなビル建てれる程…?
「あ、やっと来てくれましたね。お待ちしてました」
受付の所にいた来夢ちゃんがあたし達を迎えてくれた。
「あ、来夢、お疲れ様。今日ってお仕事だったんだ?」
「お姉ちゃんは何を言ってるの?今日は日曜だよ?めちゃくちゃ休日出勤なんやけど…」
休日出勤か…。来夢ちゃんお疲れ様…。
「まぁ、休日出勤手当がヤバいからありがたいけどね。
とりま仕事に戻っていいかな?」
「休日出勤手当?どれくらい貰ってるの?お姉ちゃん聞きたい」
「…………まずは葉川様、佐藤様、中原様、木原様、瀬羽様は17階の社長室に行って頂けますか?
他の方々は社員食堂までご案内します。
しばらくはそちらでお待ち頂きますようお願い致します」
そう言って来夢ちゃんは頭を下げた。
「ん?来夢?お姉ちゃんの台詞は無視なの?」
「って訳でタカにぃちゃん。社長室まで梓ねぇちゃん達を連れて行ってな」
「は?お前何言ってんの?俺も社長室とか知らねぇんだけど?」
「だから17階やて」
「17階行ったらわかんの?てか、それくらいなら別にいいけどよ?お前も社会人ならだな……」
「タカにぃちゃんうるさい。
わかっとる?今うちはお姉ちゃんと同じマンションに住んでんねんで?お姉ちゃんの部屋には理奈さんも奈緒さんもよー来とるよ?梓ねぇちゃんも同じマンションやで?お邪魔させて頂いて昔の話とかうっかりしちゃうかもやで?」
「来夢、梓達は任せろ。17階だな」
「タカにぃちゃんよろしく~」
そんなやり取りの後、あたしの車イスをタカくんが押して、トシキくんと英治くんと澄香との5人で社長室へと向かう事になった。
タカくんは来夢ちゃんに何を握られてるの?
そしてせっちゃんは、
『あたしが美しい堕天使シャイニング梓お姉様の車イス押すよ~。あたしも社長室について行く~!!』
とか、言っていたが、
『社員食堂は今日は食べ放題ですよ。ただし、皆さんが揃うまでという時間制限はありますが』
と、来夢ちゃんが言った途端、
『タカちゃん後はよろしく~!
うぉぉぉぉぉ!社員食堂~!!!』
と言って来夢ちゃんを連れて走って行った。
あたしより社員食堂の食べ放題か…。
まぁお昼から何も食べてないしね…。あたしもお腹空いちゃってるし。
・
・
・
-コンコン
17階に着いたあたし達は『しゃちょ~しつ』と書かれたプレートが下げられている部屋にノックして入った。
そこには日奈子と手塚さん、拓斗くんと晴香ちゃんとまどかちゃんが居た。
翔子はまだ来てないのかな。
「ああ、来たか。翔子ももう少ししたら来るみたいだしな。お前らも適当な所に座ってくれ」
「おいタカ。手塚さんは何でこんなに偉そうなんだ?まぁ、座らせてもらうけどよ』
「あ?こいつが偉そうなのは今に始まった事じゃねぇだろ。まぁ、座らせてもらうけどな」
「タカも英治も何を言ってるの。取り敢えず座らせてもらおうよ。手塚が偉そうにしてるのは腹立つけどさ」
「はーちゃんも英ちゃんも澄香ちゃんも…。手塚さんは一応ここでは偉いと思うしさ…」
う~ん…。手塚さんはSCARLETの上役な訳だし、タカくんのBlaze Futureからしても、英治くんのファントムからしても上司扱いだとは思うんだけど…。
「うん。翔子ちゃんはまだだけど、翔子ちゃんはトシキちゃんと一緒にって事だし、先にパッパとお話を済ませちゃおうか」
日奈子がそんな事を言うものだから、あたしは少しの違和感を覚えた。
ん?あれ?
今日はあたし達が昨日決めたバンドメンバーを各々部屋に集めて、あたし達からバンドのスカウトとか今後の話をするんじゃ?まだあたし達だけで話す事あるの?
「梓ちゃん達が来る前に拓斗ちゃんと晴香ちゃんには軽く説明したんだけどね」
拓斗くん達には先に?
「タカ…トシキ…英治…俺は今すぐにでも家に帰りてぇくらいだ…」
「宮ちゃん?何があったの?そんなヤバい話なの?」
「待てよ英治。お前何帰ろうとしてんの?帰るなら俺も連れて帰ってくれ」
「今日は盛夏ちゃんも美緒ちゃんもバイト休みにしてるからな。初音に負担を掛ける訳にはいかねぇだろ…」
「英治。もう腹を括ろう?今更それって無理があるし、私も諦めたから…」
まぁ、あたし達は日奈子の無茶振りで何度か死にかけたもんね。澄香も高校の頃から散々な目に合ってたし…。
「大丈夫だよ!みんな死んだりしないから!何だかんだってみんな今も生きてるじゃん♪」
「日奈子。お前は何をもって大丈夫だと言ってるのかわからねぇ。今までは大丈夫でもこれからどうなるかわからねぇだろ?お前ももう大人だろ?わかってくれ」
「もう!英治ちゃんは心配し過ぎだよ!
拓斗ちゃんが変な事言うからこんな事になるんじゃん!責任取って拓斗ちゃんがみんなに説明して!」
「は!?何で俺が!?」
「このままじゃ英治ちゃんもタカちゃんも、あたしの話を聞いてくれないでしょ!」
「チッ…タカ、英治。まぁ聞け。命の危険は一応無いからな」
命の危険は無い?まぁ、あったらあったで困るけど、それなら拓斗くんは何であんなに…?
「命の危険は無いだと?それはマジだろうな?」
「拓斗、俺はまだ初音を残して死ぬ訳にはいかねぇんだ。わかってんだろうな?」
「ハァ…俺らの企画バンドは全部で8バンド。その企画バンドでネット番組をやろうって話だ」
「あ?それなら元々ファントムのバンドでネット番組をやろうって話だったろ?」
「そうだよな。何でお前はそれで項垂れてんだ?あ、もしかして企画バンドで番組作るならお前は番組に出れないからか?お前そういうの出たかったの?」
あ、そういえばなっちゃんがそんな事も言ってたっけ?
『私がネット番組に出れるようになったら、梓お姉ちゃんも観てね!』とか…。
なっちゃんがそんな番組に出る事になったら、もちろんリアタイして録画して5回は見直すけどね。
「ちげぇよ。まぁ、聞け。日奈子のバカと手塚のアホと、渚の妹がな。ネット番組の放送時間を取る事に成功したらしい」
「あ?だからそれが何だってんだよ。放送時間も取れたなら良かったじゃねぇか」
「なぁ、それってCMとか入れる事出来るかな?ファントムのカフェのCMとライブハウスのCMとで別バージョンのCMとかやりたいんだけどよ」
日奈子と手塚さんと来夢ちゃんが頑張って、ネット番組の放送時間を取れた?それってファントムのバンドのみんながネット番組がやれる事になったって事だよね?
なっちゃんみたいにネット番組出たいって子達には良かったんじゃないのかな?
りっちゃんみたいに複雑に思ってる子達も居るかもだけど…。りっちゃんはcharm symphonyの事もあるしね。
「だから違うんだって!」
「あ?お前何言ってんだ?昔から言ってんだろ。作戦事項は明瞭に話せ」
「ファントムのバンドの番組として取ってあった1時間枠とは別に、日奈子と手塚と、渚の妹がそれぞれ取ってきた番組の1時間枠。つまり1時間枠の番組を4本作らなきゃいけねぇ事になった。年明け早々からの番組開始だ」
それってつまり1時間枠の番組を毎週4本作らないといけないって事?え?何なのそのハードスケジュール。
「おい…拓斗それマジか?日奈子、手塚さんそれってどういう事すか?」
「いや、待って。俺らまだハロウィンライブもファントムギグもあるんだけど?年明け早々に放送開始ってどういう事だよ…」
「宮ちゃん…?それって…。渉くん達は修学旅行もあるよ?」
そうだよね?このお話の時期はまだ10月頭だけど、そのスケジュールはキツ過ぎない?
「わーってるよ!だから俺も頭を悩ませてんじゃねぇか…」
「ああ。俺も今回ばかりはお前らにもファントムの奴らにも悪いと思ってる。けど、どの番組にもスポンサーか付いてくれてるしな。こんなチャンスはそうそうねぇからよ。水瀬 来夢もなかなか仕事出来るよな。関西から呼び寄せた甲斐もあるってもんだぜ」
「番組の日時としては日曜日の朝9時からと火曜日のお昼13時から。水曜日の夕方18時からと金曜日の夜22時からなんだよ」
「ちょっと…。日奈子も手塚もそれってさ…」
さすがの澄香も何とも出来ないよね。
ファントムのバンドには学生も社会人も多い訳だし…。
「ねぇ、タカちゃん。何とかならない?」
「お前は本当にアホだな。こればかりはさすがに無理だろ。スポンサーには謝って番組は1本に……」
「もうすぐクリスマスもあるじゃん?この件が何とかなったらバンやりのクリスマスイベントはキュアキャルイベントにして、マイミーはミニスカサンタ衣装にしようと思ってるんだけど…」
「何だと!?」
「梓ちゃん?マイミーのミニスカサンタ衣装の原画お願い出来る?」
え?あたし?それくらいなら何とかするけど…。
「まぁ…クリスマスイベントもあるだろうとは思ってたしそれくらいなら描けるけど…」
「だってさ。でもね。この番組の事が何とかならないと、あたしは社長としてやる気無くなっちゃうかもだし?ミニスカサンタマイミーは無しになっちゃうんだけど…?」
「……そ、それくら…うぐ…ミニスカサンタマイミーちゃん…ほ、欲しいし見たい…うぐ…」
タカくん?
「タカ。落ち着け。そんなのが実装されてもガチャで出なかったら辛いだけじゃねぇか?」
「ハッ!?そ、そうだった。危なかったぜ。
ありがとうな英治。あやうく罠にハマるところだっ…」
「マイミーはこないだガチャで新規SSR出したし、今回はイベント配布にしようと思ってたんだけどな~」
「日奈子様。私めにお任せ下さいませ。必ずや今回の4番組の企画を成功させてみせます」
「わぁ♪ありがとうタカちゃん♪
って訳で梓ちゃん。新規マイミーのミニスカサンタ衣装お願いしま~す」
「え?あ、うん。別にいいけど…」
本気なの?タカくんはそれで大丈夫なの?
「おい!タカてめぇ!!」
「タカ!いくら何でもそれは無理だろ!」
「拓斗も英治も黙れ。日奈子様の決定は絶対だ。俺は何としてもミニスカサンタマイミーちゃんを手に入れなくてはならん」
「は、はーちゃんは…本気なの…?」
「タカは本当に昔から変わらないね…」
と、今まさに日奈子と手塚さんの無茶振りが可決されようとしている時だった。
「ごめん、遅れちゃった…?」
あたし達のいる社長室に翔子が入って来た。
「ん?あれ?みんなどうしたの?何でタカは日奈子の前に跪いてんの?」
「あ、翔子ちゃん。実はね…」
そして遅れて来た翔子にトシキくんが説明をしてくれた。
・
・
・
「なるほど…。そうだったんですね。だから、拓斗も英治も曇った顔をしてるんだ?」
「うん。澄香ちゃんもそれでさ…。あはは」
いや、あたしも結構焦ってるよ?
トシキくんも翔子も何でそんなに落ち着いてるの?
「トシキさんは落ち着いてますね♪」
「うん。翔子ちゃんもわかってるでしょ?」
「はい♪」
何なのこいつら。何イチャイチャしてんの?
おっと、こいつらとか思っちゃったよ。危ない危ない。
あたしが気分を落ち着けようと深呼吸している時だった。
「拓斗も英治もさ。タカがやれるって言ってんでしょ?だったら大丈夫でしょ?」
翔子…?タカくんが…?
「確かにこの企画は時間的にも色々ヤバいって、あたしも思うけどさ。あんたらは昔も日奈子の無茶振りもやって来たじゃん」
「あ?い、いや。そうだけどよ…。なぁ、英治」
「ああ、いくら何でもよ…タカでもこれは無理だろ…」
「タカ。あんたやるんだよね?やれんだよね?」
「当たり前だろ。俺はミニスカサンタマイミーちゃんの為なら、今までの俺の培ってきた力を惜しみなく使ってでも、この企画を成功させてみせる。あ、インスピレーションおりてきたわ」
どうしよう。今更ながらタカくんが遠い存在に感じて来た。
「お、おい…タカ…。マジなのか…?」
「日奈子、手塚。この番組は1時間枠の番組を4本やれりゃいいんだよな?内容や出演者はどうでもいいのか?」
「ん?出演者?」
「ああ、SCARLETで番組をやるってだけだからな。スポンサーからは特に何か指定されてる訳じゃねぇ」
「そうか。ならまぁ多少はめんどくせぇけど何とか出来そうだな」
え?本当に?
「1時間枠の番組を4本って考えてっから面倒なんだよ。毎週4番組を作るって考えりゃいい」
いや、タカくんは何を言ってるの?
「お前、まさか1本の番組を作って、後は再放送とかにする気じゃねぇだろうな?それぞれスポンサーは違うんだからよ。それじゃスポンサーが納得してくれねぇぞ…」
「手塚黙れ。そこは俺もわかってるからな。取り敢えず聞け」
タカくんはあたし達の方を見て話を続けた。
「俺達は8バンドで番組を作る。ってのをぶち壊してな。
そうだな……。梓と俺で1番組。トシキと手塚で1番組、拓斗と澄香で1番組、英治と日奈子で1番組作ろう」
「「「「は?」」」」
えっ…と、それってどういう事?なのかな?
「俺ら各々が自分がプロデュースするバンドでな。各々30分くらいのコーナーを企画してだな…」
あ、なるほど。そういう事か。
「なるほどだよ!そしたら1バンド30分くらいのコーナーをやれば…!」
「ああ。その番組の収録は1週間の猶予も出来るし、企画に寄っては撮り溜めも出来るしな。まぁ、さっきの割り振りは適当だけどよ。企画内容や取れそうな時間とかで、誰のどのコーナーをどの曜日の番組に当てるか?それを考えたらいいんじゃね?」
「「「「……」」」」
「え?何なのこの沈黙」
「さすがタカだな。俺達BREEZEの大将はやっぱりお前しかいないぜ」
うん。英治くんの言う通りだよ。
こんな短い時間で、そんな企画を思い付くなんて…。
さすがタカくんだね。昔から変わってない。
すごく嬉しくなっちゃった。
あたしはそんなタカくんの為に、ちょっとえっちぃっぽい際どいポーズのミニスカサンタ衣装のマイミーちゃんを描いた。そのマイミーちゃんが実装された時にタカくんのSNSが若干どころか、かなりドン引きするくらいの浮かれた呟きばかりになったのはまた後日談。
「まぁ、問題はひとつあるんだけどな」
「問題?何それ?私もタカのその企画でいいと思うんだけど?」
「澄香ちゃん。俺達は今からみんなに企画バンドのスカウト話をしに行くでしょ?」
「え?うん。そうだけど…」
「そっか。そのバンドでコーナーを作る訳だから、企画コーナーの話もその時にしなきゃ…」
「うん。梓ちゃん正解。バンドをやるのは引き受けてもらえても、後からこんな番組やるから出演してね。とか言えないもんね。それならスカウトする時に話しておかなきゃ」
「あ、そっか。タカもちゃんと考えてんだね」
「澄香。お前は俺を何だと思ってんだ?」
そっか。みんなにバンドやるのは引き受けてもらえても、番組には出たくないって子もいるかも知れないし、企画内容によってはやりたくないって子もいるかも知れないもんね。
「あー、そうだな。やっぱ今決めとこう。うん、それがいいな」
「あ?タカ。てめぇ何を1人で納得してやがんだ?」
「ああ。悪い。ここにはプロデューサー陣が集まってる訳だしよ。 無茶振りってのは重々承知もしてんだけど、どのプロデューサーの番組が何曜日のどんな企画に参加すんのかも決めとこうと思ってな」
え?今から…?
「ちょっ…!待てよタカ!今からってのはいくら何でもよ…!」
「英治、心配すんな。俺らがこの部屋に来た時からだけどな?まどかも晴香もずっとノートに何か書きながら考え込んでやがる。こいつら自分のコーナー持つのやる気満々だと思うから」
「え?まどか?そうなのか?」
「英治うるさい。今あのメンバーでみんなに受ける番組企画考えてんだから。何も案が無いなら黙ってて」
「お、おい、晴香…?」
「兄貴!あたしプロデューサーとしての素質あるよ!
うん!この企画は絶対成功する!あたしに任せて!」
「晴香…俺、本当に帰っていいか?マジで帰りたいんだけど…」
え?本当に今から番組の事も話し合うの?
あたしはソッとまわりを見てみた。
「う~ん、それじゃ折原くんは嫌がるかも…」
「なるほどです。じゃあこんなのはどうですか?」
トシキくんも翔子もノリノリなの?
「ひっひっひ~。あたしはSCARLETの社長だもんね~。経費も使い放題だよね~」
日奈子は相変わらず独裁か…。
「タカのヤツ…。無茶振りし過ぎやろ…。うぅ~、どうしよう…」
「澄香、お前はいつも大変だな」
「うるさい英治。殴るよ?」
「何で!?」
ふふ、澄香も相変わらずだね。
いつもみんなの我儘に振り回されて…。
あたしはこんな発言の発端者。
タカくんに話し掛けてみた。
うわっ、この人落ち着いてタバコ吸ってるよ…。何でこんなに落ち着いてるの?……タバコ止めてって言ったら止めてくれるかなぁ?
「ねぇ、タカくん」
「ん?どした?」
『喉に悪いからタバコ止めてよ』
あ、言えないわ。あたし何様やねんてな。
……タカくんのお嫁様になれたら言おう。うん。
「タカくん落ち着いてるね」
「あ?そうでもねぇぞ?理奈にしても有希にしてもどんな企画にしても文句言われそうだし?」
「あはは、でもタカくんも色々考えてんだね」
「いや、お前も澄香も俺の事どう思ってんの?企画バンドやらせるってだけでも……。まぁ、何とかするわ」
うん。そっか。タカくんも昔からタカくんのままなんだね。
「あ、それよりな梓」
「ん?何かな?」
「俺が……もしな…」
タカくん?どうしたんだろ。
………あ、も、もしかして告白とかプロポーズとか?
え?や、ヤバい……どうしよう!?
よろしくお願いしますって言うべき!?それともしょうがないなぁとかツンデレちゃうべき!?
「も…もしもなんだけどな?」
「は、はい!」
わ、緊張し過ぎて思わず『はい!』とか言っちゃったよ!
「お、俺が…」
ゴクリ
「マイミーちゃんが受けのHな漫画描いてくれって土下座したら描いてくれたりしねぇか…?」
-ドゴン!
「わ!?びっくりした!?梓ちゃんどしたの!?」
「ん?タカくんがあまりにもドン引きするような事言ってたからつい…」
変な勘違いさせるもんだから、つい思いっきり殴っちゃった。
「は、はーちゃん生きてる…?」
「いいなぁ。タカのやつ…」
「兄貴は正気なの?」
全くもう…タカくんは…。
それにしてもあたしのバンドの企画…。どうしようかな?
・
・
・
「よし、私はこの企画で話してみようかな…」
「あ、澄香もどんなコーナーにするか決めたの?」
「うん。まぁ、一応ね。梓も決めたの?」
「あはは、うん。こんなのしか思い付かなかったけど…」
あたしがなっちゃん達ならやってくれそうと思った企画。なっちゃんはネット番組やりたいって言ってたし、これなら観てくれるみんなにも、ファントムのみんなにも良い企画コーナーになると思う。
「そろそろ予定の集合時間になるな。お前ら企画どんなのにするか決めたか?」
手塚さんがそう言って、ホワイトボードの前に立った。
「時間もねぇしさっさと決めるぞ。さっきのタカの企画でな。タカ、お前はどんな企画にすんだ?」
「俺か。俺は理奈を先生役。他のメンバーを生徒役として学園モノのコントにしようと思ってる。コントっても実際やるのはトークだけでな。SNSでファントムのバンドやSCARLETのバンドの質問とかそんなの授業形式で答えたり、バンド活動を宣伝したりな。それなら理奈も嫌とは言いにくいだろうしな」
わ、タカくんしっかり考えてんだ…。
「なるほどな。バラエティー路線でせめて告知やファンとの絡みを見据えたコーナーか。梓はどうだ?」
え!?あたし!?
「あ、あたしはなっちゃんと恵美ちゃんをメインにして、カフェとかバーみたいなシチュエーションで、ファントムのバンドをゲストに呼んでトークするコーナーにしようかな?って…。ゲストがDivalの時は恵美ちゃんと姫咲ちゃんをメインにしたりとか…。睦月ちゃんにはあたしと一緒にトーク内容の台本考えてもらおうかな?って…」
「梓もトークコーナーか。ファントムのバンドをゲストにって事なら、ファントムのバンドの宣伝にはいいな」
良かったぁ。トークコーナーってタカくんと被っちゃったし、どうしようかと思ったよ…。
「トシキ達は決まったか?」
「あ、はい。俺達は…」
「あたし達は音楽コーナーにしようと思って。本当はファントムやSCARLETに関係無く、前週に売れた音楽を紹介しようと思ってたんだけどさ」
「それだとSCARLETの番組として意味が無いと思いまして。それならファントムのバンドの曲やSCARLETの企画バンドの曲とかを毎週3曲ずつくらいを紹介するコーナーにしようと思いまして。渉くん達にバンド紹介してもらったりしながらね」
「さすがトシキさんです…。あたしじゃこんな企画思い付きませんでした…」
お~、さすがトシキくん。
そんなコーナーならファントムのバンドもSCARLETの企画バンドも番組を通して紹介出来るもんね。
「バンドと曲を紹介する音楽コーナーか。なかなか面白そうだな。拓斗達はどうだ?晴香の企画だったか?」
「晴香…。説明頼むわ…」
「うん。あたしらはみんなに身体を張ってもらうコーナーだよ。メンバーのみんなに、スポーツして勝敗を競ってもらったり、商店街とかこの辺のお店の1日体験バイトしてもらったりさ。地域活性にも繋がるし、上手くいけば体験バイトしたお店にもちょっとしたスポンサーになってもらえそうじゃん?」
1日体験バイトか。確かにそれなら商店街の人達にも喜んでもらえるかも…。
「晴香にしてはまともな企画だな…。確かにそれは美味いな。スポンサーが増えるのは俺達にとってもありがてぇしな…。澄香。お前の企画はどんなのだ?」
「あ、わ、私か。えっと…私のバンドにはベースボーカルの美緒ちゃん、ギターの志保、ドラムの栞ちゃんにキーボードの明日香ちゃんがいるからさ?各パートの楽器の弾き方講座的な…コーナーにしようかと…」
あ、確かに音楽番組っぽい。
みんな高校生だから、その年代のバンドをやってみたいって子達にも受けがいいかも…。
「楽器の講座コーナーか。なかなかいい案だな。英治達はどんなコーナーにするか決めたか?」
「ああ、俺はそれなりに料理も出来ますからね。バンドメンバーに簡単なレシピの時短料理とか作らせようかと…」
「主婦層の人気取るのもいいかな?って思って。小暮さんと木南さんには女子料理、日高くんと遊太には男のガッツリ飯とかさ。そういう料理番組にしたいなって」
お料理番組か…。よし、あたしも観よう…!!
「なかなかバランスの取れた番組になりそうだな。
日奈子。どうせお前はメンバーに旅行に行かせた旅番組とか思ってんだろ?」
「手塚!?何でわかったの!?」
「お前は旅行好きだしな。それにさっき経費も使い放題とかほざいてやがったからな…」
「て…手塚のくせに!!」
「なかなかバラエティーにとんだ番組がやれそうだな。
俺は奈緒と盛夏をメインパーソナリティーにした、ファントムやSCARLETのライブやイベント、そんでバンやりの情報を告知するような、情報番組にしてぇと思っていた。タカと梓と被っちまったな…」
バンやりの情報公開?
それって色んなゲームメーカーさんもやってるもんね。
「よし、トーク番組は、俺とタカと梓か…。この3つはバラけさした方がいいな」
「ああ、そうだな。んで、みんなの企画を聞いて考えたんだが、俺の企画は澄香の音楽講座と一緒にしねぇか?美緒ちゃん達も生徒役にして、その音楽講座は部活とか音楽の時間とかにするとかよ」
「あ、タカ。それいいじゃん。私はそれに賛成かな」
ん?タカくん?タカくんは澄香とやりたいの?澄香も?
そりゃあたしとじゃ、トークとトークで内容が被っちゃうけど…。それにしてもそれってDivalの理奈ちゃんと香菜ちゃんと志保ちゃんと一緒になるよ?なっちゃんは?
「そんで英治の料理番組か?あれは昼の時間がいいんじゃねぇか?これから今日の晩御飯にその料理やってみようとかあるかもだしな」
「あ、なるほどな。お前相変わらず頭いいな。ターゲットは主婦層だからその方が良いよな」
「タカのくせによく考えてんね」
「何なのそれ?まどか、お前俺の事誉めてんの?
んで、ターゲットが主婦層ってのもあるし、日奈子の旅番組を一緒にやりゃいいんじゃねぇか?それに時短料理ならそんな尺も取れねぇだろうけど、旅番組ならある程度尺も延ばせるだろ」
「おお!タカちゃんさすが!!」
「んで手塚のトーク番組と梓のトーク番組なんだけどよ。俺らのトークはSCARLETのバンドの情報番組にして、梓らはファントムのバンドをゲストにってんならファントムのバンドやライブの情報番組にしたらいいんじゃねぇかな?」
あ、そっか。あたしの企画はファントムのバンドをゲストにする訳だしその方がいいよね。
「ほう…。そうだな。バンやりの情報ってなると、俺の方が色々とやりやすいってのもあるもんな。タカ達がSCARLETとしての情報。梓達がファントムとしての情報。俺達がバンやりの情報ってすると内容も被る事はねぇか」
「だったら俺達の音楽番組は梓ちゃんの企画と一緒にしてもらってもいいかな?俺達もファントムのバンドの音楽紹介って企画だし」
あ、そうだね。トシキくんの言う通りだ。
あたし達の企画と一緒にした方がいいよね。
「いいね。それだと音楽番組観て、ファントムのライブに行きたいって思ってもらえるかも知れないし」
「って事はあたしらのスポーツとか1日体験バイトのコーナーは手塚と一緒にって事かな」
「チッ、手塚と一緒かよ…」
「拓斗。手塚さんの企画と一緒にって事は、お前は盛夏ちゃんと一緒に番組作るって事だろ?番組を上手く作れば盛夏ちゃんに許してもらえるんじゃねぇか?」
「ちょっ…待て、英治!盛夏ってまだ俺の事怒ってんのか!?」
ん?拓斗くんはせっちゃんに何か怒らせるような事したの?あたしの可愛い姪っ子に…!(ギリッ
「拓斗がかわいそうになってきた。これからは優しくしてやるか」
「タカ!?お前何言ってんだ!?」
「よし、タカの案でいくか。後は日奈子らは火曜の昼枠として、俺達とタカ達と梓達の番組をどの時間の枠にするかだな」
あ、そうだね。時間も無いし早くそれも決めちゃわないとだね。
「タカくんはそこら辺も考えてる?」
「いや、正直悩んでる」
う~ん、どうしたらいいだろ?
あたしは別にどの時間でもいいんだけど…。
「よし、こうすっか」
タカくん?何かいい方法思い付いた?
「手塚。お前らの情報番組を夜の枠にしてな。番組のラストあたりにファントムとSCARLETの情報も出すようにしろよ」
「何?俺の番組を…?」
「梓達はファントムバンドの紹介だから金曜の夜にして、土日のファントムでのライブの紹介もいいとは思ったんだが…」
「おお!タカ!それいいじゃねぇか!うちも儲かりそうだしよ!」
あ、確かにそれだったら当日券販売のお知らせとかするのもいいかもだ。
「でもな。それってリアルタイムってか、ほぼ生でやらなきゃ意味ねぇだろ?ファントムのバンドをゲストに呼んでってなると生放送は難しいしな」
あ、そっか。そう言われればそうだよ。みんな予定もあるだろうし。音楽番組も編集とかもいるだろうし…。
「手塚の情報番組を生放送にしてな。拓斗らのコーナーは録画にして、拓斗らのコーナーやってん時は奈緒達の休憩時間にしてよ」
「なるほどな。バンやりの情報を番組の前半でやって、拓斗達のコーナーを挟む。その後はSCARLETやファントムの宣伝に当てりゃ生放送でもやれなくもねぇな」
「そゆこと。そんで夕方よりは日曜朝のが視聴率も取れそうだしな。ファントムの宣伝する梓達がやって、俺らは夕方枠のがいいな」
うわ、本当にタカくん考えてるんだなぁ…。
「よし、それでいくか。お前らの中で反論はあるか?」
手塚さんの言葉に誰も反論する事はなかった。
「え?ほんまにええの?俺マジで適当に考えただけだぜ?」
タカくんは…。本当に一言多いよね。だからモテないんだよ?
今の話が一番纏まりやすそうじゃん。
そしてあたし達は各々の企画内容を伝える為に。
SCARLETに集まってくれたファントムのバンドメンバーを…。各々の部屋へと集めた。
もしかしたら断られるかも知れない。
そんな想いを胸に、あたしはなっちゃん、睦月ちゃん、姫咲ちゃん、恵美ちゃんの待っているであろう部屋の扉を開けたのだった。