バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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しばらく間が空いてすみませんでした!
またぼちぼち更新していきますので、よろしくお願い致します!!






第14話 澄香の場合

私の名前は佐倉 美緒。

今日はファントムでのバイトもお休みを頂き、

SCARLET本社へと来ています。

 

SCARLETの本社に来ているのは、私達ファントムのバンドが、バンドマンとしてでは無く、SCARLETに所属するタレントとしての活動である企画バンドのお話をする為。

 

バラエティとかいった番組や、どこかの会場でファンの前でイベントをやったりとかやらされるとは思っていたけれど、まさかGlitter Melody以外のバンド活動をやらされる事になるとは思っていませんでした。

 

SCARLETの本社に来る前、私達は学校の部室に集まっていた。

 

 

 

『ふぅ…。よっし!美緒、睦月、恵美!そろそろ休憩にしよっか!』

 

『朝からぶっ通しだったもんね。あたしも疲れたよ』

 

『ふふ、睦月ちゃんもお疲れ様。…うん。でも美緒ちゃんの考えたセトリいいよね。ハロウィンライブ楽しみだよ』

 

『と言ってもハロウィンライブ用の新曲…まだ出来てないんだけどね。かっこいい感じにするかポップな感じにするか…』

 

今月の末に行われるハロウィンライブ。

私達はそのライブの為の練習をしていた。

 

『美緒もいつもお疲れ様だよね。それよりさ?睦月はどんなハロウィンコスするか決めた?』

 

『ううん。考えてはいるけど、どれもしっくりこなくて。やっぱりせっかくコスプレするなら気合い入れたいし、他の参加バンドと被ったりしても嫌だし。そう言う麻衣はどう?何か考えた?』

 

『ううん、私も悩んでるよー。そうだよねー。私も被らないようにコスプレしたいからさー。なかなか決められなくてー』

 

『あはは、コスプレするのとかって初めてだもんね…。それより美緒ちゃんはどうしてそんな難しい顔をしてるの?』

 

『え?わ、私そんな顔してる?』

 

『うん。あたしもそれ思った。今日の美緒は変だったよ?』

 

『え?睦月まで…?私…そんな変?』

 

『何かあるなら話してよ。あたしも美緒ちゃんの悩み事に協力出来るかも知れないよ?ね、麻衣ちゃん』

 

『ま、マジで?睦月も恵美も何でそう思ったの…?ごめん、美緒。私は全然気付けてなかったよ…』

 

『いや、麻衣が普通だと思うんだけど…。私も気取られないようにしてたのに……。うん、わかった。私達にとっても大事な話だし…』

 

私は睦月と恵美と麻衣に、企画バンドの話をしました。

私がやっていきたいのはGlitter Melodyだ。それは絶対の私のやりたい事。

 

だけど、お兄さんや梓さんや手塚さんの話を聞いて…。いや、盗み聞きなんですけども。

そして、私のベースと歌を尊敬していたArtemisのベーシストである澄香さんに選んでもらえて…。少しやりたいと思ったのも事実です。

 

睦月とは違うスタイルのギタリストの志保と、恵美とは違うリズムを刻む栞さんと、そして麻衣とは違うパフォーマンスの明日香さんのキーボード。

 

そんな音楽もやってみたい。

 

睦月と恵美と麻衣は何って言うんだろう…。

 

 

 

 

『ふぅん、なるほどね。話はわかった。恵美と麻衣もわかった?把握出来た?』

 

『うん、あたしは大丈夫だよ。……企画バンド…かぁ。梓さんのプロデュースで…』

 

『アイドルとかも超楽しそうじゃん!日奈子さんのプロデュースアイドルかぁ~』

 

ま、まぁ、麻衣は思った通りの反応かな。

 

『あたしは美緒のボーカルとしてしかバンドをやるつもりは無い』

 

む、睦月…。

 

『あたしは…Artemisの…日奈子さんの演奏をDVDで観て、バンドをやるって決めた訳だし…。あんな小さい女の子でもあんな力強い演奏が出来るんだ…って思って…』

 

恵美…。

 

『でもアイドルとなるとキーボードの演奏は無いよね?私、運動神経鈍いしダンスとかなるとなぁ~…』

 

麻衣も…か。

 

そっか。 睦月と恵美と麻衣は反対か。

半分安心しなような、半分残念なような…。

 

『でもね美緒』

 

『ん?睦月?何?』

 

『美緒自身はどうしたい?さっきの話だと美緒は澄香さんの企画バンドでしょ?あたし達とは違うバンドだよ?美緒はやりたいの?やりたくないの?』

 

『私は…』

 

やりたいかやりたくないかならやりたいと思ってる。

いや、やりたいって言うよりやってみたい。

 

『……ごめん。私はやってみたいって思ってる。だけど、Glitter Melodyが私のバンド。一番大切にしたい場所。そんな風には思ってるんだけどね』

 

そう。Glitter Melodyが一番大切な場所。

でも、だからこそ睦月達にも本当の気持ちを伝えておきたい。

 

『だからさ。これは私のワガママ』

 

『そっか。なら安心』

 

安心…?

 

『あはは、睦月ちゃんも…やりたいと思っちゃったんだ?』

 

え?ちょっと待って。それってどういう意味…?

 

『美緒のボーカルじゃないとバンドをやりたくないって思う気持ちはある。だけど、翔子ちゃんの後継者として梓さんがあたしを選んでくれたのは嬉しい。こないだあたし達のデビューライブの時の渚さんも、梓さんみたいでかっこ良かったし』

 

『ふふ、睦月ちゃんもそう思ったんだね。あたしも梓さんに選んで貰えたんなら…ちょっとやってみたいかな』

 

睦月…恵美…。

 

『ね!ねぇ!美緒!睦月!恵美!どう!?このターン決めてからのポーズ!可愛くない!?』

 

いや、麻衣…もうダンスの練習してるの?

 

 

 

 

ほんの数時間前にあったこんなやり取り。

 

そして今は私はぼっちでSCARLETの社員食堂でラーメンを食べている。

せっかくの食べ放題だというのに、私があんな話をしてしまったせいで、睦月と恵美は渚さんのところに行っちゃうし、麻衣は優衣さんと架純さんのところに行っている。

 

やっぱまだ話すべきじゃなかったかな…。

 

 

ん、ここの豚骨ラーメンも美味しいですね。

さっき食べた醤油ラーメンも味噌ラーメンも美味しかったし、次は塩ラーメンを頼んでみようかな。

 

私がそんな事を考えている時だった。

 

「美緒」

 

「ん?あ、志保」

 

私に声を掛けて来たのはDivalのギタリストである志保だった。そして私達の企画バンドのギタリストでもあります。

 

「あ、ラーメンも美味しそう。私もラーメンにしたら良かったかな?」

 

「美緒さんは本当にラーメン好きだね」

 

「それより私はさっき聞いた志保と沙智の話でお腹いっぱいなんだけど…」

 

evokeのドラムス河野さんの妹である沙智さんと、FABULOUS PERFUMEのドラムスである栞さん、Lazy Windのキーボードの明日香さんも一緒にいた。

沙智さん以外は私達の企画バンドのメンバーだ。

 

「昨日の話で企画バンドの話は終わったと思ってたんだけど、何であたしらここで待たされてんだろうね?」

 

ん……?確かにそうですよね。

志保の言う通りだ。何でお兄さんや梓さん達は呼ばれたのに私達はここに…?

 

「いや、それより私はその企画バンドってのを詳しく聞きたいんだけど?志保も佐倉さんも私の話聞いてる?」

 

「明日香ちゃ~ん!そんなの些細な話だよ~!」

 

「いや、何が?全然些細な話じゃないし。沙智、その抱き付いてくる癖治して」

 

「ボクもその企画バンドの話は聞きたいかな?もしかしてボクってFABULOUS PERFUME以外でもバンドしなきゃなの?」

 

うん。FABULOUS PERFUMEって正体不明の男装バンドだったはずなのに、もうみんな普通に中身が誰なのか知ってる風で話してるね。

 

「明日香も栞も心配しなくていいよ。楽しい話だからさ」

 

「「楽しい話?」」

 

楽しい話…か。うん、確かに楽しそうだけど。

 

「志保ちゃんも明日香ちゃんも栞ちゃんも美緒ちゃんも、私の事忘れたら嫌だよ?私もみんなと一緒にアイドルやりたかった…!」

 

「「は?アイドル?沙智(河野さん)は何言ってるの?」」

 

 

 

「皆さん、お疲れ様です。今、小暮さんと木南さんが到着しましたので、これからお伝えする会議室へ行ってもらえますか?」

 

私達が話していると、渚さんの妹さんである来夢さんが私達に声を掛けてくれた。

 

そしてみんな来夢さんの前に集まり、各々にプリントのような物が配られていた。

 

「よし、あたしらも行こっか。栞も明日香も移動しながら説明したげるよ」

 

「ちょっ…、志保、待ちなさいよ!説明って何なの!?」

 

「ねぇ?美緒さんと河野さんは何の話か知ってる感じなの?ボクと観月さんだけ知らないの?」

 

 

 

 

私達は河野さんと別れ、長い廊下を歩いていた。

 

第1008会議室…ここかな?

 

「ちょっと!何それ!企画バンド!?私そんなの聞いてないし、Lazy Wind以外でバンドやるつもりなんか…!」

 

「そ、そうだよ!イオリだからボクはバンドやれてたってのもあるし!」

 

「でもさ?楽しそうじゃない?

あたしもDivalが1番だと思ってるけどさ。美緒の歌やベースも凄いし、うちらにはキーボード居ないからどんな音楽やれるかな?ってのもあるし、栞も香菜と一緒で英治さんにドラム習ってたでしょ?栞はどんなリズムを刻むのかな?って楽しみもあるし」

 

「いや…そんなの私には関係無いし…」

 

「……」

 

「え?小松どしたの?」

 

「ん…雨宮さんの言う事もわかるような気がして…。FABULOUS PERFUMEをやってる時、ボクはイオリなんだよね」

 

「え?あ、う、うん」

 

「2年くらいかな。FABULOUS PERFUMEやってきてさ。ドラムの技術も、オーディエンスの前での演奏も昔より凄くなったと思ってるんだ」

 

「小松…」

 

「イオリじゃなくて、小松 栞として演奏するのも楽しそうかもって…。も、もちろん一番はFABULOUS PERFUMEだけどね!」

 

「ひひひ、栞もやる気になってくれてるみたいで嬉しいよ」

 

栞さんも色々と思う所があるんですね。

 

「ここが私達の集められた部屋みたいです。入りますよ」

 

私は志保達に声を掛けて部屋のドアを開いた。

 

 

 

そこには誰もおらず、机の上に私達の名前が書かれた名札が立て掛けられていた。

この席に座れという事でしょうか?

 

「この名札のある席に座れってことかな?」

 

志保はそう言って自分の名札のある席に座った。

私も座らせてもらおうかな?

 

「ちょっと志保!私の話はまだ…」

 

「いいじゃん、観月さん。取り敢えず座ろうよ。澄香さんから話を聞いてから決めたんでもいいんじゃないかな?」

 

「こ、小松まで…」

 

栞さんに座るよう促された明日香さんも観念したのか、自分の名札のある席に座った。

 

 

-パチン

 

 

え…?

 

「ちょ!いきなり電気が消えたんだけど!?」

 

「わ、わわわ!?ゆーちゃん助けて…!!」

 

何で電気が?

おかげで部屋が真っ暗です。

 

私がそう思った直後。

 

 

-ガチャ

 

-ジジ…

 

 

私達が座った席の前にあるホワイトボードに、ライブの映像が流された。このライブって…。

 

 

『ざわざわざわ』

 

 

ステージに立っているのは……Artemis…?

 

 

そしてライブ映像に映し出されたステージがライトアップされ、軽快な音楽が鳴り響いた。

 

 

『いっくよぉ~!!Artemisぅぅぅぅ!!』

 

 

ステージに立つ梓さんの掛け声と共に軽快な音楽は、激しい音楽に変わった。

この曲は翔子先生に聴かせてもらった事があります。

ArtemisのStand-Up(スタンド アップ)

 

すごく楽しそうなライブだ。

私達も色々見習いたい所があります。私はベースボーカル、梓さんはギターボーカルという違いはあっても、同じように楽器を演奏しながら歌うボーカル。

 

私にももっともっと出来るパフォーマンスもあると思う。

 

「あ、あれって…」

 

「たか兄?」

 

Artemisの演奏が終わった後に、ステージに上がって来た人達。

今とそんな変わらないからか、誰だかよくわかります。

 

お兄さんとトシキさんと拓斗さんと英治さん。

BREEZEのメンバーです。やっぱりこのライブは15年前の…。

いや、待って下さい。

 

BREEZEのメンバーもArtemisのメンバーも今と全然変わらないんですけど?これ15年前のライブ映像ですよね?

実は最近撮ったとかじゃないですよね?

 

 

『お前らぁ!今のArtemisの演奏最高だったよなー!』

 

 

ステージに上がって来たお兄さんが梓さんからマイクを奪ってMCを始めた。

 

 

『男共ぉぉぉ!お前らしっかり〇〇〇したか!?

女の子はしっかり××ちゃったかぁ!?』

 

 

え!?ちょ、ちょっと、お、お兄さん!?

 

「ん?ねぇ、観月さん?たか兄の言ってる〇〇〇とか××って何の事?」

 

「こ、小松!?何で私に聞くの!?わ、私も何の事かわかんないし…!」

 

「これが噂に聞く貴の下ネタMCか…」

 

「お母さんもお姉ちゃんも…BREEZEのTAKAさんが好きだったんだよね…?」

 

それからも…私の口では言えないような単語を連呼するお兄さん。こんなMCだったんですね…。

あ、そういえばこないだラーメン屋に一緒に行った時…。

 

 

------------------------------------------

 

 

「あ、そういえばお兄さんってBREEZEの時はどんなライブやってたんですか?」

 

「ん?急に何?奈緒とかお母さんから聞いてないの?」

 

「お兄さん。漢字が違います。お母さんじゃなくてお義母さんです」

 

「美緒ちゃんは何を言ってんだ?」

 

「いえ、ですからBREEZEの時はどんなライブをやってたのかな?と。

gamutの時は翔子先生や学校の先輩にアドバイス貰ってましたけど、Glitter Melodyとしてやっていく訳ですし、私達らしさを出して行きたいと言うか…」

 

「いや、俺が聞きたいのはお母さんの漢字の話なんだけどな?まぁ、いいや。ようは俺らはどんなライブやってたのか聞いて参考にしたいとかか?」

 

「まぁそんな感じです。BREEZEの曲はさして興味も無いのであまり聴いた事ありませんし」

 

「よくそれを俺の前で言えるよな」

 

「で?どんな感じだったんですか?」

 

「翔子にも聞いた事ないのか?」

 

「学校で見せてもらえるライブ映像ってArtemisか学校の先輩方の映像ばかりでして」

 

「そっか。……うぅん。俺らのライブがどんなのか聞いても参考にはならんと思うけどなぁ」

 

「それはお兄さんの話を聞いて私達で判断します」

 

「いや、絶対ならんわ。気にすんな」

 

「……?そんな風に言われると余計気になりますけど」

 

「ん~、誰かのライブ参考にするってのももちろん良いとは思うが、美緒ちゃん達もそれなりにライブ経験もあるだろ?これまでやって来た中で自分らが楽しかったって思ったライブをやっていくのがいいと思うぞ?」

 

「確かにそれはそうかも知れないですけど…」

 

「そんなライブをやっていくのが美緒ちゃん達らしさのライブになるんじゃねぇの?」

 

「なるほど。確かにそうですね。さすがお兄さん、伊達に歳は取ってないですね」

 

「いや、歳は関係ないから………いや、あるのか?」

 

「わかりました。私達は私達が楽しかったライブを私達らしくこれからやっていきます」

 

「おう、それがいいやな」

 

「でもまぁ、それはそれとして。やっぱりお兄さん達がどんなライブしてたのか気になるので教えて下さい」

 

「あ、美緒ちゃんラーメンもうないやん。替え玉頼むか?奢るぞ?」

 

「お兄さん…(キュン」

 

 

------------------------------------------

 

 

いや、待って下さい。何で私はアレでときめいてるんですか?安すぎじゃないですかね?

 

いや、それよりもお兄さんがBREEZEのライブの事を話したがらなかったのは、これが原因か…。

 

 

私がそんな事を考えているとBREEZEの曲が始まった。

 

Blaze Futureの曲よりもずっとキーの高いサウンド。

お兄さんがこのキーで歌えるの…?

 

「す…すごい…。いつものパワフルな感じだけじゃない…疾走感もすごくあって…これがおっちゃんの本気のドラム…」

 

栞さんも英治さんの演奏に夢中みたいですね。

 

「拓斗…。こんな顔して演奏してたんだ…今と全然サウンドも違う…これがBREEZEのTAKUTO…」

 

「トシキさんのギター…お父さんとデュエルした時と全然違う。こないだとは違ってすごく繊細な演奏だ…なのに、何なのこの全体に響くような力強いサウンドは…」

 

明日香さんも志保もBREEZEの演奏に驚いている。

 

そして曲はサビに入ろうとしていた。

サウンドのキーが更に上がった。

そのキーに合わせて高音で歌うお兄さん。いや、それだけじゃない…次は…

 

「一気にキーが下がった!?こんな高低差の激しい歌を…わ、私じゃこんな歌い方…」

 

すごい。すごいとしか言葉が無いです。

それにすごくかっこいい。お母さんやお姉ちゃんがBREEZEを好きだって言ってたのがわかります。

 

その後もArtemisとBREEZEのライブ映像を数曲見た私達。

部屋の明かりが点いた後は、誰も何も言葉を発する事は無かった。

 

 

それから少しして部屋のドアが開かれた。

 

「あ、あははは~…みんなお疲れ~…」

 

そう言って部屋に入って来たのは澄香さん。

やっぱりさっきのライブ映像を私達に見せたのは、澄香さんの考えなんでしょうか?

 

「あ~…、えっと、今みんなには昔のArtemisとBREEZEが対バンした時のライブ映像を見てもらったんだけど…ど、どうだったかな?」

 

凄かったしかっこよかった。

これが私の率直な感想。

 

Blaze Futureの時とは違うお兄さんの曲や歌声。

梓さんの胸に響くような歌声。

私はまだまだだと実感した。

15年前のライブ映像って事は、そんなに私とも歳も違わないと思うのに…。

 

ん?え?15年前であの見た目…?

ちょっと待って下さい?お兄さん達も梓さん達も一体何歳なの?

 

「あ、あんまり響かなかったかな?」

 

あ、誰も何も言わないものだから、澄香さんが心配しています。何か言わないと…。

 

「すごくかっこいいライブでした!BREEZEもArtemisも…!」

 

私が感想を言おうとしたら、先に志保が声を上げてくれた。私も同じ感想です。

 

「私もすごくかっこいいし、楽しいライブだったと思います。すごく勉強になりました」

 

「かっこいいライブか。ありがとう。

明日香ちゃんと栞ちゃんはどうだったかな?」

 

「ボクも…かっこいいライブだとは思いました。楽しいってのも思いましたし…でも何て言えばいいかな?」

 

栞さん?どうしたんでしょう?他に思う事が?

 

「小松の言いたい事…何となくわかります。

オーディエンスや私達も楽しいって思えるライブだったと思いますが、BREEZEのみんなやArtemisの皆さんが、すごく楽しそうでした」

 

明日香さんの言葉に私はハッとしました。

確かにすごくかっこいいし楽しいライブでしたが、MCにしてもパフォーマンスにしても、誰よりもお兄さん達が楽しそうに演奏しているのが感じ取れるライブでした。

 

私達もそんな楽しそうなお兄さん達の気持ちや想いが伝わって来て…。

 

「拓斗もあんな顔してライブやってたんだね…」

 

「まぁ拓斗の顔とかどうでもいいとしてね」

 

…澄香さん。やっぱり拓斗さんの事は嫌いなのでしょうか?

 

「私達Artemisにはメジャーデビューしたいって夢があったし、BREEZEにも武道館やらアニメのタイアップやら夢もあった。志保のご両親の大志さんや香保さんも…みんな夢を持ってバンドやってたと思う」

 

うん、わかります。

私達Glitter Melodyも4人でメジャーデビューをしたいっていう夢もありましたし。

だけどそれ以上に、私は睦月と恵美と麻衣と4人でバンドをやってる事が、すごく楽しくて…。

 

「でも、さっきのライブの時もさ。私達はすごく楽しかったんだよ。夢も忘れちゃうくらいにね。その時その時が最高に楽しかった」

 

そして澄香さんは私の前に来て

 

「美緒ちゃんにはGlitter Melodyでメジャーデビューしたいっていう夢がある」

 

私…?

 

そして澄香さんは志保達の方へ目を向けて

 

「志保にはDivalで最高のバンドになるって夢が…。

明日香ちゃんにはクリムゾンエンターテイメントを倒す目標が、栞ちゃんには英治の弟子の中で1番のドラマーになりたいって目標がある」

 

澄香さん?

 

「私はみんなのその夢や目標を応援したい。応援していきたいって思ってる。今のバンドもすごく楽しいとは思うけどね。また別の形で楽しいってバンドもやってみてほしいんだよ」

 

別の形で楽しい…?

私はGlitter Melodyが楽しいと思っている。

だけど志保達とバンドをやってみるのも楽しそうだとは思いました。そういう事なのでしょうか?

 

「みんな1度肩の力を抜いてさ。ここにいる4人で新しいバンドをやってみてくれないかな?」

 

私はこのバンドをやってみたい。

きっと志保もそう思っていると思います。

だけど明日香さんと栞さんは…。

 

「ふざけないでっ!!」

 

私がそんな事を考えていると、明日香さんが大声を出して澄香さんの話を遮った。

 

「あ、明日香ちゃん?ど、どしたかな?あ、あはは」

 

「……!どうした!?どうしたですって!?澄香さんにもわかってるんじゃないですか…!?」

 

私も志保も栞さんも何も言えないまま明日香さんと澄香さんを見ていた。

 

 

少しの間

 

 

「……だからどしたん?ちゃんと言ってくれへんねやったら私はわからへんよ?」

 

澄香さんはさっきまで私達に向けていた営業スマイルっていうのかな?そんな笑顔をやめて真剣に明日香さんを見ている。

 

「私は…ずっと楽しい音楽なんて…。音楽なんて楽しんでやるものじゃないと思って…ました」

 

「うん。それは知ってるよ。それで?」

 

私と志保と栞さんはそんな明日香さんと澄香さんのやり取りを黙って見ている。

 

「BREEZEと…澄香さんにもそこには居たから知ってると思いますけど、BREEZEとデュエルをして…タカさんに音楽は楽しんでやるものだって…教えられました」

 

「うん」

 

「そんな音楽があるなら…そんな音楽をやってみたいと思った。けど…私はやっぱり…」

 

「やっぱり何?音楽は楽しくない?こないだのAiles Flammeとの対バンをやってみて、楽しくないって思った?」

 

「ちが…違います。そうじゃなくて…私はクリムゾングループを…」

 

「クリムゾングループとか関係あらへんよ。それに私が聞いてるのは、明日香ちゃんはこないだのAiles Flammeとの対バンが楽しかったのか、楽しくなかったのかって事」

 

「だから!私は楽しんで音楽なんてやれないんです!クリムゾングループを倒さなきゃいけないんだからっ!」

 

「音楽は楽しんでやるもの。南国DEギグの時にタカに言われたでしょ?」

 

お兄さんに…?

そう言えばお兄さん達とLazy Windはデュエルをしたんでしたっけ。それでお兄さん達が勝って…。

 

「それは…」

 

「それに私の質問の答えになってないよ。明日香ちゃんはこないだの対バン。楽しかったの?楽しくなかったの?」

 

明日香さんは澄香さんの言葉に少しうつむき、何か耐えているような…。

 

「う…うぅ…」

 

私はそんな明日香さんが見ていられなくなり、気付いたら観月さんの手を握っていた。

そしてそれは私だけじゃなく、志保も栞さんも明日香さんの手を握っていました。

 

「志保…小松…佐倉さん…」

 

明日香さんはそんな私達を驚いた顔で見て、そして澄香さんの方を真っ直ぐに見て…

 

「楽しかったです。すごく…すごく。音楽って、バンドってこんな楽しいものだったんだって思った。あの時間が終わってほしくなくて…、架純の声が出なくなった時も必死になれて…上手くいって嬉しくなって…それから…それから…」

 

明日香さん…。

 

「でも…それじゃダメなの。私は…私は…」

 

「ストップ。もういいよ、明日香」

 

「志保…?」

 

「あたしも昔は音楽なんて大嫌いだった。でも渚と出会って、理奈や香菜と出会ってDivalでライブして…。

タカや江口や美緒や栞、そして明日香とも出会ってさ。

あたしは音楽って、なんて楽しくて最高なんだろうって思った。

ううん、今も思ってる。音楽は最高に楽しいって」

 

「志保…」

 

「あたしもまだお父さんを倒す事も、クリムゾングループを倒す事も忘れてない。でもさ、音楽は楽しいから。

あたしは楽しんで音楽をやって、そしてお父さんもクリムゾンも倒す」

 

「私も…そうしたいけど…でも…」

 

「観月さん、ボクも音楽が、バンドが大好きだよ。さいっこーに楽しいと思ってる。だけどね、クリムゾンを倒すって気持ちもあるよ。クリムゾンを倒すって気持ちとはまた別の倒すって気持ちだけどさ?ボクの場合はゆーちゃんもまどか姉も綾乃姉も香菜姉も倒したいって思ってるよ。もちろんたか兄も江口 渉もね。ボクの楽しい音楽で!」

 

「小松…タカさんや渉達もって…」

 

次は私の番ですかね。

私もカッコつけたりせずに、ありのままの気持ちを…。

 

「明日香さん、私も…クリムゾンとたたか…」

 

「うん!みんな感動した!私がやりたかったバンドはこんなバンドだよ!」

 

…え?は?いや、待って下さい澄香さん。

私まだ何も言ってませんし、これから割といい事を言うつもりなんですけど?

 

「美緒ちゃんにも志保ちゃんにも栞ちゃんにも明日香ちゃんにも、みんな熱い想いが…音楽へ各々の彩った鼓動(ビート)がある。

私はここにいる4人みんなでこのバンド、PASTEL BEAT(パステル ビート)をやってみて欲しい」

 

PASTEL BEAT…?それが私達のバンド名…?

 

「パ、PASTEL BEATって…」

 

「そして明日香ちゃん。私はこのPASTEL BEATのリーダーを、明日香ちゃんにやってほしいと思ってる」

 

「は!?はぁ!?しかも私がバンマス!!?」

 

明日香さんがバンマス…。うん!私もそれがいいと思う。

 

「いや、バンドの事は100歩譲って受けるとしても…」

 

「ししし、いいんじゃん!あたしもこのバンドのリーダーには明日香がいいと思う。やろうよ、明日香」

 

「し、志保まで…」

 

「うん!ボクもこのバンドのリーダーは観月さん…。明日香がいいと思うよ!これからもよろしくね、明日香!ボクの事は栞でよろしく~♪」

 

「ちょ、小松……し、栞まで…」

 

ふふ、何だかんだと栞さんの事を栞と呼ぶ事は了承したんですね。

 

今度こそ私もちゃんと言わないと…。

 

「明日香さん…ううん、明日香。私の事も美緒でよろしく。楽しんでやろうPASTEL BEATを」

 

「美緒まで…これで私が意固地になって…やらないとか言うのはカッコ悪いじゃない…」

 

そして明日香は私達を見て、顔を真っ赤にしながら言った。

 

「しょ、しょうがないから私もやるわよ!でもいい!?やるやからには最高に楽しんでやるわよ!覚悟しなさいよっ!」

 

明日香…。

そして私と志保と栞さんは、明日香に笑顔で

 

「「「うん!よろしくね、リーダー!」」」

 

 

 

 

 

 

と、ここで話は終わったかと思ったのですが、澄香さんから追加の話がありました。

 

 

それは私達PASTEL BEATのメンバーがやる番組企画のコーナーの話。

 

私達で楽器講座か…。番組の企画としては面白そうかも。

 

「うぅ~…ドラムを教えるのかぁ~。ボク上手く教えられるかな?」

 

「ま、また厄介な話が…」

 

「いいんじゃない?うちの学校とは違う制服も着れるみたいだし。うちより可愛い制服だといいな~」

 

「し、志保は余裕ですね。バンドだけじゃなく番組の企画も楽しんでやれたらいいんですけど…」

 

「ああ、それなら大丈夫。楽器講座はみんなが部活の一貫としてやるコーナーだけど、メインは女教師に扮したりっちゃんの…」

 

「ぴぎぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「「「「美緒(さん)(ちゃん)!?」」」」

 

私はそこまで聞いて倒れてしまった。

女教師理奈さん…何と尊い…。

個人授業をお願いしたいです…。

 

 

そうして私達はPASTEL BEATとしても、バンド活動をしていく事になったのでした。

 

私はそこまで


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