バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第17話 手塚の場合

「皆さん、お疲れ様です。今、小暮さんと木南さんが到着しましたので、これからお伝えする会議室へ行ってもらえますか?」

 

私達がSCARLETの社員食堂で少し早目の晩御飯を戴いていると、渚の妹である水瀬 来夢ちゃんが私達に声を掛けてきた。

 

「ほら、盛夏。呼ばれたし行くよ」

 

「ふぇぇぇぇ…。あたしまだ食べ足りないよ~…」

 

「あはは、ならお話終わったらどこかご飯食べに行こっか?」

 

「おぉ~!それはナイスなアイディアだ~。何食べに行こっか~?」

 

私の名前は佐倉 奈緒。

私達は今SCARLETの本社にいる。

これから私達は昨日聞いた企画バンドの話を聞く事になるのだろう。

 

はぁ~…。何でこんな事になっちゃいましたかね?

大好きで憧れていたBREEZEのボーカルTAKAさん。

彼にたまたま出会って、デ、デートの約束を取り付けて…。そしてカラオケに行って"今の"葉川 貴としての歌声を聴いて、一緒にやりたいと思って始めたバンド活動。

 

あれから半年ちょっとしか経ってないですよ!?

何ですか!?企画バンドで私がボーカルで歌詞も書く!?世の中こんなに面白い展開が起こるものですかね!?

 

「奈緒は何でそんな嫌そうな顔をしてるの?」

 

「綾乃先輩?いえ、まぁ…」

 

「わかる、わかるよ奈緒~。まだもうちょっとSCARLETの社員食堂のご飯を堪能したかったよね~。呼び出しの時間早すぎだよね~…」

 

「いや、盛夏は何を言ってるの?そんなんじゃないから」

 

さっきこの話の後にご飯行こうって話してましたよね?

盛夏はそんなにSCARLETのご飯が気に入ったの?

 

「じゃあ何をそんな嫌そうな顔を?」

 

「……あれですよ。私が歌詞を書かなくちゃって事が」

 

「奈緒は歌詞を書きたくないの?」

 

「あんまり…ですかね。ほら、企画バンドとはいえ、やるからにはしっかりやりたいですし。私なんかの歌詞でとか思いますと…プレッシャーって言うんですかね」

 

「何で?」

 

「え?ふぇ?何でって何ですか?歌詞を書くとかなりますと…」

 

「奈緒は貴兄の事大好きだよね?」

 

「ふぁ!?あ、綾乃先輩!?な、何言ってんですか!?

私が貴の事好きとかありえないじゃないですか…!」

 

ほ、本当に綾乃先輩は何を言ってるの!?

歌詞の話から何で貴が…。

 

「あ、うん、そんなのはもうお腹いっぱいだからどうでもいいんだけどね。聞き方が悪かったね。

奈緒はBREEZEのTAKAの事大好きだよね?」

 

え?ふぇ?BREEZEのTAKAさん?

いや、それは大好きですよ。めちゃ好きです。

あ、TAKAさんの事を言ってたのか…。いや、待ってTAKAさんと貴は同一人物。

 

「ま、まぁ…。バンドマンとしての貴の事は憧れてますし、尊敬もしてますよ。歌詞の話から何で貴の話になるんですか…」

 

「BREEZEの時は……あ、Blaze Futureの今もか。

歌詞も曲も貴兄が作ってるでしょ」

 

「そ、そうですね」

 

「奈緒は貴兄の今までの歌詞を聞いてさ。カッコつけてるとか、受けが良さそうな単語を考えて作ってるなとか思った?」

 

「貴の歌詞…ですか?」

 

「うん。カッコいいって思う?いや、カッコはいいのか。何て言えばいいだろ…う~ん…」

 

「うふふ~。あたしは綾乃さんの言いたい事わかるよ~」

 

ふぇ?盛夏…?

 

「貴ちゃんの書く歌詞ってさ?日常にありふれた景色な感じじゃん~?」

 

日常のありふれた景色…?

そうだ。貴の作る歌詞はいつもそうだ。

自分やまわりの人が見ているような景色を言葉にして…。だから私はBREEZEの歌が、Blaze Futureの歌が好きなんだ。

 

「だから奈緒もね…」

 

「ありがとうございます。綾乃先輩。

私、やれそうな気が…いえ、やれると思います。私が好きなのは貴の歌ですから」

 

そうだ。そうなんです。

私は子供の頃から貴の歌を聞いてきた。ずっと好きで…。

そんな貴の歌を聞いて来た私だから。貴の側にいる私だから…。きっと私も大好きって思える歌詞を作れる。

 

「奈緒~。あたしも貴ちゃんの歌が大好きだから。あたしもお手伝いするからね~」

 

「ふふ、ありがとう♪盛夏♪」

 

私は何を迷ってたんだろ…。

綾乃先輩と盛夏の言葉で安心したのか…。

私が歌詞を書くこの企画バンド。

今は…さっきとは違ってすごく楽しみになってます。

 

私達は来夢ちゃんに向かうように言われた会議室の前に立っていた。

 

うん、もう何も不安な事はないです。

私は貴と同じバンドの、Blaze Futureのギタリスト。

そして、手塚さんのプロデュースするバンドのギターボーカル。

どっちも私のバンドです。どっちも私が大好きな、楽しんでやれるバンドにします。いえ、楽しんでバンドをやっていきます。

 

私は会議室のドアを開けました。

 

 

「……あ」

 

え?誰ですか?

 

私が会議室のドアを開けたその先には、会った事もない可愛い女の子。私と同い年くらいですかね?

そんな女の子が椅子に座っていた。

 

昨日の手塚さん達の話を思い出してみる。

 

 

『有希はギターボーカルとキーボードの2人バンドだからな。キーボードのヤツの名前は桐谷 亜美(きりたに あみ)。俺のバンドにはこいつを入れようと思っている』

 

 

あ、この子が桐谷 亜美ちゃんって子ですかね?

手塚さんの娘さんで…SCARLETのバンドのキーボード担当の女の子。

 

「ちょっ…マジで?え?Blaze Futureの奈緒さんに盛夏さん…?」

 

「お~。あたし達の事を知っているのか~。何だか有名人になった気分~」

 

「いや、SCARLETの本社にいる訳だし、私達の事は普通に知ってるんじゃ…」

 

でもこの子本当に手塚さんの言ってた桐谷さんかな?

手塚さんに全然似てないしすごく可愛い…。いや、本当に可愛い。サイドアップにしている髪がすごく似合ってます。

いやいや、そんな事考えてる場合じゃなくてですね。

 

「あ、すみません。あたし桐谷 亜美っていいます。

一応…SCARLETでバイトしながら、有希ちゃんとバンドやってます。あ、あたしのパートはキーボードでして…」

 

やっぱりこの子が手塚さんが言ってた…。

 

「おおー、はじめましてー。蓮見 盛夏と申します~。以後お見知りおきを~」

 

「も、もちろん存じています!あ、あのお父さん…あ、父に聞いたのですが、本当に奈緒さんと盛夏さんとあたし…同じバンドやれるんですか…?」

 

あ、桐谷さんも手塚さんから企画バンドの事を聞いてるのかな?ま、まぁ私達は盗み聞きな感じもしますけど…。

 

「亜美さんは奈緒と盛夏ちゃんとバンドやりたいって思ってるの?」

 

私と桐谷さんが話していると、綾乃先輩が私達の間に入ってきた。

 

「あ、Noble Fateの綾乃さんですか!?まどかさんと幼馴染みでありライバルという…あの…」

 

「え?う、うん、そうだけど私の事も知ってる感じかな?さすがSCARLETの事務員さん」

 

「ち!違います!いえ、SCARLETの事務員であるにはあるんですけど…。綾乃さんの演奏も先日聴かせて頂きした!あの…すごくパワフルでかっこよくて…!」

 

「Glitter Melodyのライブの日かな?

あの日来てくれてたんだね。ありがとう」

 

桐谷さんも綾乃さんのドラムを聴いた事はあるんですね。私達も桐谷さんの演奏を聴いてみたいなぁ。

 

「ねぇねぇ、桐谷さ~ん」

 

「は、はい?何ですか盛夏さん?あ、あたしの事は亜美でいいですよ!?」

 

「ん~、ならあたしの事も盛夏って呼びタメしてくれたら嬉しいかと~」

 

「うぇ!?ま、マジっすか!?あ、あたしもそれなら…あ、あの…せ、盛夏っ!」

 

あ、桐谷さんも呼びタメ大歓迎な感じですかね?

私も一緒にバンドやる訳ですし、奈緒って呼び捨てにしてもらえる方が嬉しいですし…。

 

よ、よし…。頑張れ私…!

 

「あ、あ~…、亜美も手塚さんから企画バンドの事を聞いてる感じかな?」

 

「な!?奈緒さん!?」

 

「ありゃ?違いましたかね?もしそうなら私も奈緒って呼びタメしてもらいたいなぁって思ったんですけど…」

 

「き、聞いてます!あたしも…あの、その…奈緒さん達と…」

 

「奈緒さん?ですかぁ…」

 

「ち、違っ、あ、奈緒と、せ、盛夏と…あの…」

 

あ、あははは。ちょ、ちょっと意地悪過ぎましかね?

 

「ありがと、亜美。これから私達は同じバンドとしてやっていく仲ですから…。よろしくお願いしますね♪」

 

「こ、こちらこそ…!な、奈緒。……よろしく」

 

「もう。奈緒と盛夏とばっかり。私の事も綾乃でいいからね。よろしくね、亜美」

 

「は、はい!い、いや、うん!綾乃!これからよろしく!」

 

亜美。ほんと可愛い子ですね。

これから仲良くやっていけそうです。

 

「って訳でさ?奈緒も私の事は綾乃でいいんだよ?いつまでも綾乃先輩って呼び方はさ?」

 

「あ、いえ、それは無理です。綾乃先輩は綾乃先輩ですので。ほら、まどか先輩も同じBlaze Futureでも先輩呼びですし」

 

「ほうほう。やっぱり奈緒は美緒のお姉ちゃんだよね~」

 

え?盛夏?何が?何でいきなり美緒の話が出てきたの?

 

 

 

 

「おう。みんな揃ってるみたいだな。待たせた」

 

私達が話をしていると手塚さんが部屋に入ってきた。

これから私達の…企画バンドの話が始まるんですね。

 

私達は4人並んで近くの席へ座った。

 

「ふぇぇぇ~…お腹空いたぁ~…」

 

盛夏は平常運転ですね。

 

「さて、ここに集まってもらったのは他でも…」

 

「お父さん…、いえ、手塚。ここのみんなは大体話の内容はわかってる。余計な前置きはいいから要件だけ話して」

 

手塚さんが話を始めようとしたけれど、それを亜美が割って話した。

 

「チッ…まぁいいか。いや、良くねぇな。桐谷 亜美。いくら父娘と言ってもSCARLET(ここ)では俺は上役でありお前は従業員だ。パパとは呼ばずに手塚さんと呼べ」

 

「パパと呼んだ覚えはないんだけど…?」

 

「何で佐倉 奈緒達も話の内容を知っているのかわかんねぇが…。まぁそれなら説明は適当に省かせてもらう」

 

そして手塚さんは私達に企画バンドの話をしてくれました。

 

SCARLETのタレントとしてのバンドである事。

私達がメインとしてやるネット番組をやる事。

私と盛夏はBlaze Future、綾乃先輩はNoble Fate、亜美は有希ちゃんとのバンドが一番である事。

この企画バンドの作詞作曲は私がやる事。

 

 

……は?

 

 

ちょ、ちょっと待って下さい!?

この企画バンドの作詞作曲は私がやるって何ですか!?

私がやるのは作詞だけじゃなかったんですか!!?

 

「と、まぁ、俺からの説明はそんなもんだ。何か質問はあるか?」

 

「はい!」

 

綾乃先輩もこの話をおかしいと思ってくれたんでしょう。昨日の盗み聞きしたお話では、手塚さんが作曲って事でしたもんね。

 

私の作詞はあっても、作曲はさすがに無いです。

そもそもそれでは手塚さんプロデュースという話がおかしくなりますもんね。

 

「北条 綾乃か?何だ?」

 

「お給料はどうなりますか!?」

 

え?お給料?

 

「ああ、そこは番組次第だな。もちろん撮影が入ったり、企画バンドのイベントで出演とかなったら出演料は払わせてもらう」

 

「よし…!頑張ろうね!奈緒、盛夏、亜美!」

 

いや、いやいやいや、そ、そりゃ頑張りますけどもね!?そういう話じゃなくないですか!?

 

「奈緒、気持ちはわかるよ~」

 

「せ、盛夏…?」

 

「あたしに任せとけ~♪」

 

さすが盛夏です!さすが私の親友です!!

 

「手塚さ~ん」

 

「ん?蓮見 盛夏か?何だ?」

 

「撮影とかなると時間も長くなると思うんですけど~?お腹空いちゃわないですかね~?」

 

ん?え?盛夏?お腹…?

 

「そこは安心しろ。ちゃんとロケ弁的なやつも出してやる。人気が出てきたらスーパーでデラックスなロケ弁にしてやろう」

 

「よ~し!スーパーでデラックスなロケ弁!奈緒~、綾乃~、亜美~頑張ろうねっ!」

 

ロケ弁!?ちがっ…違うよ盛夏!?

私が心配してたのはそこじゃないよ!?

 

「綾乃も盛夏も…奈緒の気持ちもちゃんと考えなきゃだよね…」

 

え?亜美?

 

「お父さんが迷惑掛けちゃってごめんなさい。奈緒の気持ち、わかってるよ」

 

ふぁぁぁ~!ありがとう亜美!

 

「手塚さん、あたしからもいいですか?」

 

「あ?何だ?」

 

「いつもいつも勝手な事ばかり言ってさ…」

 

「…質問は何だ?」

 

「あたし達の企画バンドの事…。バンド名はちゃんと決まってるんでしょうね?カッコ悪いバンド名は嫌だよ?」

 

え?バンド名?いや、確かに気になりますけど…。

 

私が亜美の方に目をやると、亜美はパチンと私にウインクをしてくれました。

 

いや、私が気になってたのはそれじゃありませんから…。盛夏も綾乃先輩も亜美もどうなってるの?

私が作詞作曲って事よりそっちが気になりますか?

 

「フフフ、お前らにぴったりのバンド名を考えてある。

Starglanz(スターグランツ)!グランツってのはドイツ語で輝きって意味だ。

お前らは1人1人が俺にとっての星だ!それぞれ1人1人に輝いてもらいたい!そう思って付けた名だ」

 

Starglanz…スターグランツですか。

響き的にも悪くないですし、私達が手塚さんにとっての星であって、その私達に輝いてほしいって気持ちも嬉しいです。

 

いやいやいや!違います違います!

確かにバンド名も気になる所ではありますが、私が気になってるのはそこじゃないです!

 

「あ、あの…手塚さん、ちょっといいですかね?」

 

私は手塚さんにちゃんと聞かないといけません。

 

昨日のそよ風での話では、私が作るのは歌詞だけだったはずです。曲は手塚さんが作るってお話でしたし私も作曲はさすがに自信はありません。

 

「佐倉 奈緒。お前の言いたい事はわかっている」

 

あ、良かった。

どうやら手塚さんもちゃんと私の言いたい事もわかってくれてるみたいです。

 

そりゃそうですよね。作詞ってだけでもかなりの無茶振りですのに、作曲までってなりますと…。

 

「フフフ、何故glanzだけドイツ語なのか?って事だろう?」

 

ん?は?え?ドイツ語?

 

「俺は15年前の戦いで左腕をやらかしちまってな。

もう左腕を動かすのは不可能とまで言われていた。だが、ドイツに航り、数回の手術と何年ものリハビリのおかげでな。

……もうギターを弾く事は出来ねぇが日常生活に支障がない程度には動かせるようになった」

 

は?え?あ、あぁ…貴達から手塚さんの左手の事はお聞きしていますけど…。

 

「その時にドイツ語ってかっこいいなって思ったしよ。敬意を込めてバンド名にドイツ語を入れてぇって思ったんだよ」

 

「父さん…グスッ」

 

え!?亜美!?

今の話って泣いちゃうお話だったですか!?

 

「グスッ、手塚さんは…私達のバン…バンド…に…うぅ…」

 

いやいやいや、待って下さい綾乃先輩。

何で綾乃先輩も泣いちゃってるんですか?おかしくないですかね?

 

「お腹…空いたぁ~…」

 

あ、盛夏は正常運転だった。良かった。

ちょっと私がおかしいのかな?とか思っちゃったじゃないですか。

 

「あの~…バンド名はいいとしまして~。

私が聞きたいのは…」

 

「クッ…グスッ…何だ?佐倉 奈緒」

 

いや、何で手塚さんも泣いちゃってるんですか?

もうハッキリ言っちゃった方がいいですかね…。

 

「私達でバンドをやる。

それはわかりました。いえ、わかってます。貴や梓さん、手塚さんの気持ちも」

 

それは私もわかってるんです。

貴にバンドをやろうと言ったのは私。

貴もやってくれると言ってくれて始まった私達のBlaze Future。

 

だけど貴の作ってくれる音楽は、私達Blaze Futureの音楽で…。

 

貴自身がどう考えているのか、この前までは私にはわかりませんでした。

 

BREEZEとは違う音楽でやりたいのか。

BREEZEでやりたかった音楽をやれないのか。

貴のやりたい音楽が今のBlaze Futureなのか。

 

でも、今はわかる気がします。わかっているだけなのかも知れませんが…。

 

「私は、私達Starglanzで音楽をやるなら、私達がやってて楽しいと思える音楽をやりたいです。貴がそう思ってBlaze Futureをやってくれているように」

 

「奈緒…?」

 

盛夏が私の方を心配そうな顔で見て来た。

大丈夫だよ盛夏。

 

「佐倉 奈緒。お前は何が言いたい?ハッキリ言ってみろ」

 

手塚さんに声を掛けられた私は、手塚さんの目を見てハッキリと…

私のやりたい気持ちを素直に伝えた。

 

「手塚さんや貴、梓さんも…。私の歌を誉めて下さってありがたいと思ってます。ですが…。

私のやりたい音楽は私がやりたい音楽じゃなくて、私達でやりたい音楽なんです」

 

「そうか…。それで?」

 

「手塚さんが企画をして下さったこの試み。

すごく楽しそうだと思います。私達で思いっきり楽しんで…やっていきたいと思っています。

そんな機会を設けて頂いて、本当に感謝しています。ありがとうございます」

 

「そ、そんな改まって言われると照れちまうな」

 

「ですが…」

 

「ですが?…何だ?」

 

私はまずは感謝の気持ちを伝えました。その気持ちは本物だから。

……だけど、それはそれ。これはこれなんです。

 

「な、何で私の作詞作曲なんですかね?って思いまして…」

 

「あ?作詞作曲?」

 

「え、ええ。先程手塚さんはこのバンドの作詞作曲は私がやるみたいに言ってましたような…」

 

「ああ、その事か。

フッ、まずはこれを見てもらおうか」

 

そう言って手塚さんは私達の前に、丁寧にファイリングされた紙の束を見せてきた。

 

 

 

『バンドやりまっしょい!GIRLS SIDE(ガールズサイド)企画書』

 

 

 

………え?何ですかこれ?

 

「フフ、驚きのあまり声も出ないようだな」

 

いや、そりゃ驚きですよ。

何ですかこれ?私の作詞作曲って話の事を聞きたかっただけですのに、何でバンやりの企画書が?

 

「ば~んど~やりまっしょい~!が~るずさいど~?

バンやりの女性版?」

 

「バンドやりまっしょい!って奈緒や花音が好きなゲームの事?」

 

「お父さん?何これ?」

 

「あの…手塚さん?これって…?」

 

「夕べ、タカや梓と企画バンドの話をしていてな。

思いついてしまったんだ。俺のバンド、タカのバンド、梓のバンド、澄香のバンドはガールズバンドだってな」

 

ん?え?

 

手塚さんのバンドは私と盛夏と綾乃先輩と亜美。

タカのバンドは理奈と有希さんと双葉ちゃんと香菜。

梓さんのバンドは奈緒と睦月ちゃんと姫咲ちゃんと恵美ちゃん。

澄香さんのバンドは美緒と志保と栞ちゃんと明日香ちゃん。

 

確かにみんなガールズバンドですね。

でもそれが何故バンやりガールズサイドに?

いえ、そもそも私の作詞作曲に…?

 

「フフフ、このガールズバンドで、バンドやりまっしょい!のガールズサイドとして新規にゲームを作る。

その『バンやりGS(ばんやりじーえす)』ならお前らの曲を発表するいい場にもなるし、それ関係でイベントもやれる!声優としてお前らを起用すればコストも最小限に抑えられるしな!」

 

え?は?

 

「金の匂いがしてきやがったぜ…!」

 

ちょっと待って下さい。頭が追い付きません。

私が…声優…?

 

「お、お父さんは何をとちくるった事を言ってるの!?」

 

「あ?亜美…いや、桐谷。お前は反対か?」

 

「あ、当たり前じゃない!声優とかゲームとか何よ!

ちょっと盛夏も言ってあげて!」

 

「ふっふっふ~。いや~、盛夏ちゃんもとうとう声優さんとしてデビューする時が来ちゃいましたか~。

わかる、わかるよ~。あたしもそんな才能があると思ってたんだよね~」

 

「え?せ、盛夏?何を言ってるの?あ、綾乃も何か言ってやってよ!」

 

「これはもしかしたら声優としてもお給料を貰えるチャンス?このバンドでイベントとかもするなら出演料も…ブツブツ」

 

「あ、綾乃?あ、え…っと…。な、奈緒!奈緒ならきっと…」

 

亜美…。

うん、亜美の言いたい事はわかってますよ。

このゲームだけの話だとは思いますが、私達が声優をやるだなんて。

 

いきなり何なんですかね?

 

 

「手塚さん。このお話、是非お受けさせて頂きます!」

 

 

子供の頃からずっとアニメを観てきて、やってみたいと思い幼心に描いていた声優という夢。

まさかこんな所でその夢が叶う時が来ようとしているとは…。

 

私は手塚さんに力強く答えた。

 

「え?な、奈緒…?」

 

「本当か!?佐倉 奈緒!?」

 

「はい!もちろん本気です!!是非!!」

 

「いやー、良かったぜ。本当はこの企画バンドの作曲は俺がやろうと思ってたんだけどよ。

バンやりGSの企画を思い付いちまったからな。俺はこっちの作業や企画も忙しくなりそうだからよ」

 

あ、なるほど。それで私が作詞も作曲もやるという訳ですか。

 

「もちろんお前の曲の編曲や譜面に起こす作業とかな。ダメ出しやアドバイスはしっかりやるつもりだ」

 

「ありがとうございます。この企画。絶対成功させましょう!」

 

「ちょ……奈緒…?マジなの?お父さんの企画…マジでやるの…?」

 

亜美が何かを言っているようでしたが、私は手塚さんに力強くやると意思を伝えました。

 

これから私のバンド、Blaze Futureももちろんですが、Starglanzとしても…夢だった声優さんとしても頑張っていくつもりです!

 

 

 

その決意が後日私の作詞作曲作業に頭を悩ませる事になるのはまた別のお話…。


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