第1章 バンドやろうぜ!
--ビリッ
違う。これじゃない。
--ビリッ
違う。これでもない。
--ビリッ
違う。
--ビリッ、ビリッ、ビリッ……
だめだ、ダメだった……。
俺は…、推しを引き当てる事が出来なかった……。
俺は
今日は『バンドやりまっしょい!』
通称『バンやり』ってゲームのカフェイベントに来ている。
朝早くから並んでアクキーを購入制限いっぱいまで買ったのだが、推しキャラが来なくて絶望していた。
このゲームどう考えてもエデンでライブやってる
「まぁ、ピュアキャルのマイミーが来たしいいか…。とりま交換探して無理だったらTwitterで交換募集かけてみようかな」
そう、諦めたら試合終了なのだ。
昔の俺の恩師がそう言ってた。
俺、頑張るよ。安西先生。
「おにーさん、おにーさん」
「え?はい?」
「声がする方に振り向くとそこには美少女が立っていた」
「あの……。勝手に人のモノローグ改変するのやめてくれます?」
「すみません~。何か考え事してらっしゃるみたいだったので、そんな事思ってるかな?と思いまして」
「あ、いえ。それでなんですか?」
「あ、すみません。推しが来なくて交換を探してらっしゃるのかな?って思いまして」
「ああ、ちょうど最推しが来なくて今から交換探そうかな?と……」
「わぁ!そうなんですね♪どのキャラ探されてますか?
私、超レアのロングヘアマスターありますよ」
「いや、ロングヘアマスターいらないですから。そもそも何で俺がそれ欲しがってると思ったの?」
「違いましたか。じゃあどのキャラ探されてます?」
「えっ…と、oasisの京太くんですけど……。」
「チッ、推し被りかよ……(ボソッ」
え?今この娘舌打ちした?
「そうなんですね~。残念です。
では。またです~。」
「はぁ……」
びっくりした…。
そもそもロングヘアマスターで京太くんと交換出来ると思ったんだろうか?
確かに100個買って出たらラッキーってくらいのレア枠だけど人気ないのに……。
若い姿のマスターなら人気あるんだろうけどな。
ま、ピュアキャルのチェリーは友達用に取っておくとして、京太くん交換探すか……。
ふぅ、ミッションコンプリート!
交換出来た!
ふっ、やはり俺は推しに愛されている。
愛されてるなら自引きしろって話だけどな。
ハッ!?
と言うことはマイミーを自引きした俺はマイミーに愛されていると言うことになる。
マイミーの元ネタ(?)は絶対マイリーだよな?
って事はこれはもう俺はマイリーと結婚だな。
ふぅ……。QED。証明終了。
俺が満足気にそんな事を考えていると、
さっき声をかけてきた女の子がまだ何かを探してる様子だった。
まだ京太くん交換出来てないのかな?
「おねーさん、おねーさん」
「はい?
あ、ナンパですか?後にしてもらっていいですか?ごめんなさい」
「は?まだ京太くん探してるのかな?って思っただけですけど……」
「あぁ、さっきのおにーさんでしたか。
それがまだなんですよ~。
oasisの他のメンバーは揃ったんですけど京太くんがまだ……」
「交換枠誰が残ってんですか?」
「ロングヘアマスターなら2つ!」
何この娘、ロングヘアマスター2つも当てたの?ある意味強運の持主だな……。
「1つはレンと交換してもらえたんですけどね……」
え?3つも当てたの?何それ怖い。
「んー、なら俺の持ってるのと京太くん交換探してる人見つけたら交換してあげますよ」
「へ?」
「俺の推しは揃いましたし。
ブレイドのトマトか、メアリーアップルのアサリありますし、この2人は人気枠ですし何とか交換してもらえるんじゃないかな?」
「え?あの……ありがとう…ございます…」
「何とか交換して貰えましたね」
「ほんと良かったです。ありがとうございました!」
「いや、何もしてないですよ。結局、ロングヘアマスターと交換出来た事ですし……」
「ほんとびっくりですよねー」
「じゃあ、俺は帰りますんで」
「待って下さい。
おにーさん、Twitterとかやったりしてないです?」
「ん?まぁやってるけど…」
「せっかくこうやって出会えたんですし、Twitter繋がりませんか?これからも色々お話しません?」
「あー、あー……是非是非。
これ俺のアカっす。」
「タカ……?」
「あぁ、そです」
「今、フォローしました……。
アーヴァルとか、ラーメンがお好きなんですね…」
「ん?
あ、なおちんさんです?フォロー来ましたんで、フォロバしました。これからよろしくお願いしますね」
「本名が…
「んー、あー…俺は本名が葉川 貴っていいます。
女の子だけに名乗らせるとか、なんかあれであれなので…」
「ハカワ…タカさん……。
あの!!タカって、貴重品の貴って字でタカですか!?」
「え?ああ、貴族の貴でタカだけど?」
「うわ!?わざわざ貴族のとか言い直すとかキモいです!
さっきは大変お世話になりましたので、親しみを込めてTwitterでは漢字に様を付けて貴様(タカさま)って呼びますね!」
「いや、それ、Twitterで文字になると貴様(きさま)になるからね。親しみ込もってないからね。
まぁ、俺も呼びタメでいいんでよろしくお願いしますわ。」
「はい……。では。今日は失礼しますね。
本当にありがとうございました」
「あ、いや、こちらこそ。
楽しかった……かと。んじゃ」
そう言って奈緒ちゃんはこちらを見る事もなく走って去って行った。
ん?なんかよそよそしい?
何か失敗したかな?
まぁ、俺の人生失敗してない事なんかないか。
ラーメン食べて帰ろ……。
「あー、今日は疲れた。
明日は仕事か……。会社爆発しねぇかな?
あ、ダメだ。会社爆発したら推しに貢げなくなる。しょうがない寝るか。」
ん?Twitterに通知が来てる?
あ、なおちんからだ。
『貴様、今日は本当にお世話になりました。また、改めてお礼させて頂きますね。貴様に。』
「……」
リプしなきゃな。
『きさまきさまって連呼されてるみたいですな。別にお礼はいいので今日はゆっくり休んでくださいね。』
『いえいえ!今日は本当に助かりましたから!(o^O^o)今度カラオケとかご飯とか行きましょう!
タカさんってお酒とか飲めたりします?(´・ω・`)』
『お酒は大好きですよ(*´ω`*)
是非是非♪カラオケとかご飯とか行きましょう♪』
「ふっ、社交辞令だな。
訓練されたぼっちの俺はこの程度の事では浮かれたりしない。何度失敗したと思ってんだ」
『お!まじですか!(*゚∀゚人゚∀゚*)♪
私もお酒大好きなんです~!
今度行きましょう!私は土日休みなんですけど、タカさんの休みも土日ですか?』
『僕の休みも土日ですよ(*´ω`*)
なおちんさんも飲めるんですね!
安い居酒屋とかで良ければいつでも大丈夫ですよヽ(・∀・)ノ』
『お!言質頂きました(* ̄∇ ̄)ノ
いつでもって事は次の土曜とかどうですか?
お昼はカラオケ行って夜はご飯行きましょう(。^。^。)」
「は?マジで?
おいおい、俺が訓練されたぼっちじゃなかったら勘違いしてるからね?」
『土曜なら大丈夫ですよー。楽しみにしてますね(*^^*)』
『あぁ、だからって変な勘違いはしないで下さいね?( ´,_ゝ`)
TwitterじゃあれなのでLINE交換しませんか?待ち合わせの時間とか決めなきゃですし(#^.^#)」
「してないからね!全然勘違いなんかしてないからね!!」
『勘違いなんかしてないからね!マジで!
全然勘違いなんかしてないからね!!マジだから!!
ならLINEのID、DMで送りますね~\(^o^)/』
『あら、勘違いしてませんでしたか。それはそれで残念というか面白くないというか。
LINEで時間と待ち合わせ場所送りますね~』
タカ『はーい』
「はぁ、LINE待つか……。」
LINEこねぇぇぇぇぇ!!
DMしてから1時間経ってますけど!?
いやん、1時間も待つとか俺って超律儀!!
………はぁ、寝よ。あ、お風呂入らなきゃ。
「いや、もう木曜ですよ?」
来ない!奈緒ちゃんからLINE来ない!
それどころかTwitterもあれ以来絡みねぇ……。
たまに呟いてるみたいだけど……。
まぁ、そんなもんだよな。うん。
「はぁ、帰って酒飲んで寝よ」
--ライ~ン
『LINE遅れてしまって本当にごめんなさい(´;ω;`)
佐倉 奈緒です。Twitterのなおちんです。
貴さんのお住まいどちらかお伺いするの忘れてまして、先日のカフェイベの近くならいいかな?と思ってたのですが、どこのカラオケも予約いっぱいで……。
ちょっと駅から歩くかも知れませんが、やっと予約出来るカラオケ店見つけまして…。
12時から予約してるんですけど、駅前で11時に待ち合わせとかいかがですか?
フリータイムでカラオケして飲み会と思いまして、19時にカラオケ店の近くの居酒屋で飲み放題で予約してます。
お気に召さないとか、LINEも遅くなってしまいましたし、他にお約束とか入れちゃったとかなら言って下さればいいので……。長文失礼しました。』
「可愛いかよ……」
おっといかんいかん。俺は訓練されたぼっちだ。
こんな事くらいで浮かれたりはしない。
びしっと返事しなくちゃ。びしっと。
--ライ~ン
『LINE ID教えていただけて本当に嬉しかったです。』
これもう勘違いしてもいんじゃね?
あれだ。これって青春×バンドのSSだもんね。
あ、SSとか言っちゃったよ。
これって青春の部分だよ。青春だよ。
あれ?このSSまだバンド要素ねぇよ?
…いかんいかん。ちょっとトリップしてしまった。青春頑張る俺。
『こんばんは。
LINE貰えて俺も嬉しいですよ。
遅くなったとか気にしないで下さい。
予約とか頑張ってくれてありがとうございます。
待ち合わせ時間と場所はOKです。
土曜日楽しみにしてますね。』
こんなもんかな……。送信と。
これでハートの絵文字付きのLINE来たら役満だな。
--ライ~ン
『私もです。本当に。楽しみにしてますね(ハート』
ハートきたぁぁぁぁ。役満じゃん。俺の時代来たんじゃね?やっぱ世の中青春だよな。よし……。
『俺も本当に楽しみです(ハート』
--ライ~ン
『ハートとかまじキモいんですけど?やめてくれません?』
よし、青春×バンド、完。
やっぱ青春とかねーわ。なんだよ青い春って。
青春謳歌してるやつって青い春ってより脳内ピンク色じゃねーの?いや、脳内ピンク色最高じゃん。むしろピンクのお花畑最高じゃん。
「はぁ…、もうスタンプで返しとこ…」
「そして土曜。俺は駅前で待っているわけだ。現在時刻11時20分。
何度もLINEを見返したが待ち合わせの時間は11時だよな?
まぁ、4時間待たされた若かりし頃の黒歴史よりマシか」
「すみませーん!
はぁ…はぁ……。遅れちゃいました…」
「うん、めちゃ待ったわ」
「そこは……はぁ…はぁ…。
今来たとこだよ。キリッ。とか言うとこじゃ…な…ないですかね……?」
「いや、もう11時40分だしね?今来たとことか俺も遅刻した事になるよね?」
「怒って……ます?……よね?
はぁ…はぁ…。」
「いや、別に。
それより何でハァハァ言ってんの?何か興奮する事あったの?」
「な…!何言ってるんですか!
めちゃ急いで来たからに決まってるじゃないですか……!!」
「駅ってか改札すぐそこなのに?ここまで50mもないのに?」
「チッ」
うわ、この娘遅れてきた挙げ句
急いで来ましたよアピール失敗して舌打ちしましたよ。僕怖いよママン。
「遅れて本当にごめんなさいでした」
「ま、いいけどね。とりまカラオケ向かおうか」
「そうですね。
あぁ、今日は私の我儘に付き合ってもらうんですし、遅れたお詫びもあるのでカラオケも飲み会も私に奢らせて下さい」
「いや、いいよ。女の子に全部出させるとか嫌だし。割り勘でいんじゃね」
「いえいえ!ここは!私が!
これはお礼も含まれてるんですから!」
「いや、お礼とか別にいいし。
お礼なら別の形で返してくれた方が……」
「身体ですか!?」
「いや、ねぇわ……」
「ふぅ……危なく通報するとこでした」
「カラオケってどっち?」
「ああ!こっちですこっちです!」
そして俺達はカラオケ店に向かった。
「さぁ!何歌いましょうかね!」
「その台詞10分前にも聞いたけど?」
「あぅ…」
「俺から歌おうか?」
「待って下さい!もうちょっとだけ!」
さっきからこの調子で全然歌おうとしない奈緒ちゃん。
俺が歌おうとしても、もうちょっと待つように言ってくるし…。
まぁ、それなりに会話はしてるし退屈してるわけじゃないからいいけどね。
「まぁ、いいけど…」
「それよりお腹空きませんか!?
まずは何か軽く食べてからにしませんか!?」
「そうね…」
「ふぅ!お腹いっぱいですね!」
「まじでか。アイスしか食べてないじゃん」
「女の子なんてこんなもんですよ?」
「うん、俺の知る限りそんな女の子はいないわ。いや、いるのか?
ちょっとタバコ吸いたいんだけど……」
「タバコ吸うんですか?」
「うん、まぁ。奈緒ちゃんは吸わないみたいだし、俺ちょっと部屋出て吸ってく……」
「喉に!喉に悪いじゃないですか!何でタバコなんか吸ってるんですか!!」
「え?」
「あ、あ……すみません。
タバコ大丈夫ですよ。お父さんも吸いますし。ここで吸ってもらっても大丈夫です…」
「ん?いや、まぁ、いいってんならいいけど……個室はすぐ臭いこもるから、外で吸ってくるよ。すぐ戻る。
あ、飲み会の時は普通に吸わせてもらうな。酒飲んでると我慢出来なくなるし…」
「はい…」
う~ん、やっぱ嫌煙家かな。出来るだけ我慢するか。
「ごめん。お待たせ」
「貴さん」
「はい?」
「歌って下さい。私の知らない歌でも何でもいいです。
……歌って下さい」
そう言って真剣な眼差しを向けてくる。
どうしたんだろう…?
「何でもいいの?」
「はい」
「何でもか…。バンやりやってるって事はOSIRISとか知ってるよね?」
「もちろんです。ライブもよく行きますし」
「ならOSIRIS歌うな?」
「はい!」
♪
♪♪
♪♪♪
「ふぅ…」
「……」
「奈緒ちゃん?」
「……」
「はは、俺下手過ぎてびっくりした?」
「……」
俺の歌が終わってから、いや、歌ってる途中から奈緒ちゃんはずっとボーっとしていた。
「……ハッ!」
「大丈夫?」
「あ、すみません!下手なんて事ないですよ!
男の人にしてはすごく高い声出るなぁって思いまして!!まぁ、男の人とカラオケ来たことないのでよくわかりませんが!」
「あ、そう……?」
「あの…ありがとうございます…」
「え?いや、うん?こちらこそ?
あれだ。次は奈緒ちゃんが歌ってよ」
「……はい。貴さんは知らないかもしれませんが、私の好きなバンドの歌でも構いませんか?」
「え?うん、いいけど?カラオケは歌いたい好きな曲歌うってのが1番だし」
「はい。……では」
♪~
このイントロ…なんで…。
「私の好きなバンドで、BREEZEっていうんです。もう15年も前に解散しちゃったバンドなんですけどね」
この曲は……俺の……。
「このバンドのボーカルさん。
知ってるよ……。
そう、俺は知ってる。この曲は俺の曲だ。
15年前やっていたバンド。
メジャーデビューこそはしてなかったし、マイナーだったけど、それなりにファンもいてくれたしライブも何度もやった。
当時の大人気バンド、アーヴァルからドリーミン・ギグに誘われた時はバンドメンバーみんなで喜んだものだ。
もうすぐドリーミン・ギグってタイミングで、
俺が喉を壊さなかったら……。
今もバンドやってたかも知れないな……。
♪
♪♪
♪♪♪
「ふぅ……。
ど……どうでしたか……?」
「うん、上手かったと思うよ。奈緒ちゃん声いいね」
「私の好きなバンドの曲って言ったじゃないですかぁ?
曲については…どう思いましたか?」
「え?ああ……15年前に解散したバンドさんだっけ?俺はよく知らないけど…。まぁ、いい曲だったと思うよ?」
「本当にかっこいいバンドだったんですよ~。メジャーデビューしてたわけじゃないので、カラオケにはあんまり曲入ってないんですけど」
「ああ、そうなんだね」
「カラオケに入ってるのはちょっと歌詞がエッチっぽい歌ばっかりなんですよね~」
「ハハハ……確かにちょっとエッチっぽかったね」
「ですよね~。
『首筋に残された痣、君を求め夜を彷徨う』
とか、ぶっちゃけ一夜限りの関係の女を忘れられなくて夜の街でその女を探すとかですし~」
「ハハハ…ソウデスネ」
「『君の傷跡が消えなくて、次は僕がヴァンパイアになる』とか、ぶっちゃけその女忘れられなくて他の女抱いちゃった~って感じですし」
「ソウデスネ」
「ちょ~童貞くさいです」
「童貞じゃねーし!」
「は?」
「いやいや、昔の?なんてーの?そういうバンドさんってそんな歌詞多かったやん?」
「はぁ?よくわかんないですけど。
それとかGood nightって曲あるんですけど、歌詞には全くGood nightって入ってなかったり」
「ヘェ」
「何をとち狂ったのか、インナー着ずにお腹出してジージャンとデニムでライブやったりとか、初ライブの時なんか40分枠で2曲だけで残り時間ずっとMCとかやってたらしいですよ」
「ソウナンダ…サスガ、クワシイネ」
もうやめてっ!
お願いっ!これ以上黒歴史を掘り返さないで!!
もう貴のライフはゼロよっ!!
「でも……。本当にかっこいいバンドだったんです。曲もかっこいいのもいっぱいあったんです」
「……」
「当時私は小学生で。母に連れられてライブも行った事あるんですよ。当時の私は友達とかあんまりいなくて…ってそれは今もなんですが。
BREEZEの曲を聞いて勇気とか夢とか…色々貰った気がします」
「……」
「ライブで最前に行った時に、Futureって曲の歌詞を聞いて…感動とかっこよさで泣いてしまって……。そしたら、ボーカルのTAKAさんが私の頭をポンってしてくれて撫でてくれて。初恋でした。」
「ふぁ!?」
「なんですか?変ですか?小学生の女の子なんてそんなもんじゃないですか?」
あの時の女の子か…。覚えてるわ……。
え?覚えてるとか俺まじきもくね!?
「まぁ、なんだ……。そう思ってくれてるファンが…。
そういう人が解散してから15年も経ってるのに居てくれてるって。そのバンドは幸せじゃないかな?もし俺がそうだったら……。バンドやってた事……良かったって思うと思うよ?」
「はい……。それじゃ、じゃんじゃん歌いましょうか!」
「う~…飲みすぎました…」
「いや、ほんとな?自分のペース考えて飲めよ」
「ちょ~眠いです」
「帰れそうか?」
「帰れないとか言ったらどこか連れ込まれちゃいますか?まじ勘弁して下さい。通報します」
「心配しとるだけや……。え?帰れないの?」
「大丈夫ですよ~。実はここ電車ですぐですし、家近いですから」
「ならいいけど…。帰宅したらLINEかTwitterでちゃんと報告してね?」
「大丈夫です~。ちゃんと家に着いたら連絡しますね。もう遊んでくれないってなったら嫌ですし…」
「ああ、よろしく」
「じゃあ……電車来ましたので…。ホームまで送っていただいてありがとうございました。今日は楽しかったです」
「俺も楽しかったよ。また飲みなり遊びに行こう」
「はい!約束です!」
「じゃあね…」
「はい…」
「電車乗らないの?」
「……」
奈緒ちゃんは電車に乗らずドアの前に立ったままだった。
「あ、ドア閉まった……」
「ああ!貴さんが引き止めるからうっかり乗り忘れました!!どうしてくれるんですか!?そんなに私とバイバイしたくなかったですか!?」
「は?」
「……すみません。やっぱり伝えたい事があるので…聞いてください。酔ってないと言えそうにないので」
は!?何!?告白!!?
ちょっと待って!やっぱ世の中青春か!?
「貴さん…、私と……」
ゴクリ
「バンドやろうぜ!」
「………………は?」
「バンドやろうぜ!」
「いや、2回も言わなくていいから」
「あ、もしかして愛の告白とか期待しちゃいましたか?年の差とかもあるのでそこは勘弁して下さい。ごめんなさい。
だから、バンドやろうぜ!」
「ごめんなさい」
「え~!?何でですか!?」
「いや、何でバンド?てか、それこそ年齢考えようね?バンドやりたいなら年の近い人とやった方がよくね?」
「いや、私そんなに友達いませんし」
「だからってな…」
「ずっとバンドしたかったんですよ。ほら、私ってBREEZEが好きじゃないですか?バンドのボーカルには声の高い男性にしてほしいって思ってましたし」
「あ、俺ボーカルなの?」
「はい!」
「……ごめんな」
俺は気付いたら奈緒ちゃんの頭を撫でていた。
「あ……」
「気持ちは嬉しかったよ。でも…ごめん」
「うっ…ひっく……ぐす……」
え!?泣かせた!?まじで!?
やべぇ!これはやべぇ!!?
「頭…ぐす…」
「あっ…。悪い…ごめん」
「大丈夫です。もっと撫でて下さい」
「え?いいの?なら……」
「……」
「……」
え?
何これ。俺駅のホームで何やってんの?
「ふっ…、ふっふっふ」
え?今度は笑いだした?
「セクハラされました」
「ふぁ!?」
「それに言ったじゃないですか?
頭撫でてもらったのBREEZEのTAKAさんとの思い出だって!」
「あぁ…そうね」
「その大事な思い出をおじさんに嫌な思い出に上書きされちゃいました!
ありえないです!ちょ~やばです!」
「嫌な思い出なのね…」
「だから……嫌な思い出にしたくないので。
私は貴さんとバンドやるの諦めません」
「だからバンドやるつもりは…」
「責任取って下さいね」
「いや、無理だけど?」
「だから諦めませんって!昔、私の大好きな先生が言ってたんです!諦めたら試合終了だよ。って!!」
さすが安西先生。
どの世代にも有名ですね!
「あ、電車来ましたし行きますね」
「あぁ…お疲れ…」
「ではではです。ちゃんと帰ったらLINEしますね」
そう言って奈緒ちゃんは帰って行った。
バンドか。
ライブとか行く度にまたステージの上で歌いたい。ってよく思う。
昔の事思い出して歯痒い気持ちになる時もある。悶える事も多いけどな……。
多分俺は……
出来る事ならもう一度バンドをやりたいんだと思う。
でもそう踏み切れないのは……