バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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久しぶりの更新です!
時間が開きすぎてしまって、本当に申し訳ございません…


第19話 梓の場合

私の名前は水瀬 渚。

今、SCARLETの本社にある社員食堂で、ファントムのバンドメンバーと一緒に居る。

 

そう。今日は昨日、居酒屋そよ風で盗み聞きした…あ、言葉のチョイスを間違えちゃったね。

居酒屋そよ風に行った時に小耳に挟んだお話。

 

SCARLETに所属するバンドメンバーをシャッフルした企画バンドの話があるはずなのだ。

 

なのに何で梓お姉ちゃんや先輩達は先に呼ばれたんだろ?昨日の話では決まらなかった事とかあるのかな?

 

「渚さん!」

 

「ん?睦月ちゃん…?」

 

私達はSCARLETの社員食堂で、私の妹でもある来夢からお呼びが掛かるまで待機なのだけど、ボケーっと考え事をしていたら、Glitter Melodyのギタリストである永田 睦月ちゃんが話し掛けてきた。

 

「美緒から軽く話は聞きました。あたしと恵美は渚さんと同じバンドでやっていくんだって事」

 

「あ、あはは。睦月ちゃん…バンドをやっていくって言っても、SCARLETの企画バンドとしてだから。渚さん、これから改めてよろしくお願いしますね」

 

睦月ちゃんと一緒にGlitter Melodyのドラムス、松原 恵美ちゃんも私の所に来てくれた。

睦月ちゃんは翔子お姉ちゃんのギタリストとしての後継者。

恵美ちゃんは日奈子お姉ちゃんに憧れてって言っていたけど、私はArtemisの演奏は見た事ないしなぁ。

恵美ちゃんの演奏は見た目とは違ってすごくパワフルだった。香菜とはまた違うサウンド…。

 

「うん、睦月ちゃんも恵美ちゃんもよろしくね!」

 

そして私は梓お姉ちゃんが選んでくれた、Artemisのボーカル木原 梓の後継者。

梓お姉ちゃんのランダムスターを託してくれた先輩の期待にも応える為にも、私はDivalとしてだけじゃなく梓お姉ちゃんの企画バンドも頑張らなくっちゃ。

 

「あ、姫咲さん!姫咲さんにも挨拶行かなきゃ!」

 

「え?あ、睦月ちゃん、ちょっと待ってー」

 

そう言って睦月ちゃんと恵美ちゃんは行ってしまった。

姫咲ちゃんは澄香お姉ちゃんの後継者。

 

私達の企画バンドはArtemisの後継的なバンドなんだ。

 

 

………待って。

本当にそれでいいのかな?

 

 

私はキュアトロのライブに行って元気を貰って、そしてバンドやライブって最高に楽しいものだと思った。

 

仕事で疲れた時はライブに行って、ライブに行けない時には音楽を聞いて…。

 

そして志保と出会ってバンドをやりたいと思ってバンドを始めて…。

 

 

 

Artemisの後継的なバンドだから頑張らなきゃいけない?

ファントムに所属してるバンドだから、タレントとしての活動も頑張らなきゃいけない?

梓お姉ちゃんに選んでもらえたから頑張りたい?

 

 

……違う。どれも違うよ。

 

 

私は頑張らなきゃって思うバンドをやりたい訳じゃ…。

 

 

 

 

「Canoro Felice以外で…バンド活動…ですか」

 

「うん。秋月さんもやろうよ。絶対楽しいから」

 

「む、睦月ちゃん、誘うなら美緒ちゃんが説明してくれたみたいにもう少し具体的に…ね?」

 

睦月ちゃんと恵美ちゃんはこの企画バンドをやりたい感じかな?

昨日梓お姉ちゃん達の話を聞いてた時は私もやりたいって思ってたけど…。

 

「梓さんが私の事を澄香さんの後継者として、選んで下さったのはありがたいと思います。ですが…」

 

ん?姫咲ちゃんはやりたい訳じゃないのかな?

 

「私はCanoro Feliceが大好きです。Canoro Feliceのベーシストとして演奏している事に誇りを持っています。

いえ、この言い方では少し語弊がありますわね。

Canoro Feliceを私の誇りあるバンドにしたいと思っています。ですから今は他のバンドで演奏…というのは考えていませんわ」

 

姫咲ちゃん…。

そっか。Canoro Feliceとしての誇り…か。

 

さっから胸の中にあった変なモヤモヤ。

あれはきっとそういう事なんだ…。

私のDivalとしての誇り。私のバンドは志保と理奈と香菜と一緒のDivalなんだもん。

 

「でもそれはそれですわね。SCARLETに所属すると決めた時からこういう企画もやる事になるとは思っていましたし、是非、梓さんの企画バンドもやらせて頂きますわ!」

 

え!?え!?姫咲ちゃん!?

誇りは!?さっきのCanoro Feliceの誇りの話はどうなったの!?

 

「良かった。秋月さんもやる気で」

 

「あはは、そうだね。私もこの企画バンドは面白そうって思ってます。秋月さん、これからもよろしくお願いしますね」

 

「はい♪」

 

え、えええええ…。

そ、そりゃ私も梓お姉ちゃんに選んでもらえたって、昨日までは浮かれてた訳だし、この企画バンドも面白そうとは思ってるけど…。

 

 

 

私が色々考え過ぎなのかな?

 

 

 

志保も澄香お姉ちゃんのバンドを楽しみにしてるみたいだったし、理奈も香菜も先輩の…。

 

 

「ガラガラガラ…ピシャッ」

 

 

私達の居る会議室の扉が開かれ、梓お姉ちゃんが扉の開閉音を口にしながら入って来た。

 

 

「ハロー!エブリワン!」

 

……ん?え?ハロー?

 

「ありゃ?なっちゃんも睦月ちゃんも姫咲ちゃんも恵美ちゃんも!ちゃんと挨拶には挨拶を返さないとダメだよ!」

 

挨拶?え?ああ確かに挨拶は大事だけど…。

 

「じゃあもう一回ね。

ハロー!エブリワン!」

 

「「「「ハ、ハロー…」」」」

 

「うんうん!まぁオッケーオッケー!みんな揃ってるね!」

 

え?何なの一体……梓お姉ちゃん…?

 

「早速だけどみんな集まってくれるかな?」

 

さっきの挨拶は何だったんだろう?

とりあえず私達は梓お姉ちゃんの前に集まった。

 

これから梓お姉ちゃんから企画バンドの話があるんだろうけど……私はどうするのが一番いいのかな…?

 

「なっちゃん」

 

ん?え?私?

 

「まずはなっちゃんからね。

なっちゃんはね。まだまだ歌下手くそだよね(笑)」

 

………え?梓お姉ちゃん???

 

歌下手くそ…?え?

(笑)?かっこわらいって何?

 

「次は睦月ちゃん」

 

「え?はい?あたし?」

 

梓お姉ちゃん…?な、何なの…?

 

「睦月ちゃんのギターは翔子の真似っこだよね?」

 

「翔子ちゃんの…真似っこ…?」

 

「うん。翔子の弾き方とすごく似てる!あたしもビックリしちゃった」

 

「え?あ、ありがとう?ございます?」

 

「でもただの真似っこ。翔子の方が全然すごい」

 

「…え?」

 

睦月ちゃんの演奏が翔子お姉ちゃんの真似っこ?

私の歌の事もだけど、梓お姉ちゃんいきなりどうしたの?

 

「次は姫咲ちゃん!

姫咲ちゃんは澄香にベースを教わってたの?」

 

「あ、わ、私ですか?」

 

「うん。澄香が姫咲ちゃんは後継者だって言ってたから」

 

「あ、は、はい。澄香さんにベースを教わってましたわ」

 

「その割には澄香っぽくないよね。澄香の弾き方には似てるけどあのパワフル感が無いよ」

 

「え?」

 

梓…お姉ちゃん…?

 

「ラストは恵美ちゃん!」

 

「は、はい…!」

 

「恵美ちゃんは別に日奈子の後継者って訳じゃないよね」

 

「は…はい…日奈子さんのパフォーマンスは…参考にさせて頂いてますが…」

 

「全然ダメダメだよ」

 

「ダメ…ですか?…す、すみません…」

 

「え!?

い、いや、謝らないで…!?

そ、その…あれだよ?あれがあれであれだから」

 

「はい?」

 

梓お姉ちゃん…?本当にどうして…?

 

私達の演奏の事を悪く言おうとしてる?

何でそんな事を…。

いや、でもそれはそれとして恵美ちゃんへのダメ出しは雑じゃない?ダメな所が思い付かなかったのかな?

 

「あの…あれだよあれ…」

 

「あ、梓さん…?」

 

「あ、あれ!あれだよ!

日奈子はそんな可愛い性格じゃないし!

もうあの子いつも勝手なパフォーマンスばかりだったしさ!恵美ちゃんは…その…真面目!」

 

無理矢理過ぎない?

 

「あ、梓さん…?そ、その…真面目って…」

 

「梓ちゃんってあれだね。あんまり悪く言いたくないけど語彙力全然無いし…あの…あれだね?」

 

「睦月さん…あんまりそういう事を本人の前で言うものじゃありませんわ。見ていて…可哀想にはなりますが…」

 

「え!?可哀想!?」

 

あ、うん。そうだよね。

ちょっとお芝居なのか何なのかは今の状況じゃわからないけど…。

 

「睦月ちゃんも秋月さんもハッキリそう言うのは梓さんに失礼だよ?これでもあたし達の事を考えてくれての言葉だと思うし…」

 

やっぱり…。みんなも気付いたんだね。

そりゃ気付くよね。

梓お姉ちゃんは何の考えがあるのかわからないけど、私達をわざと悪く言ってるようにしか思えないもん。

 

てかわざとらしさが前面に出過ぎちゃってるよ…。

 

「梓ちゃん。そんな話はどうでもいいよ。

それよりあたしは梓ちゃんの考えたっていう企画バンドの話を聞きたい」

 

「睦月ちゃん、ダメだよ。

これってきっと梓さんが色々あたし達の事を考えてきてくれた上でのお話だと思うし」

 

意外と恵美ちゃんも言うよね。

 

「え、えっと…もしかしてみんな企画バンドの話を知ってたりする…?」

 

あ、あ~…そこか。うん、そこね。

ごめんね梓お姉ちゃん。みんなその話は知ってるんだよ…。

 

「え?なっちゃんも睦月ちゃんも姫咲ちゃんも恵美ちゃんも無言なの?え?何で?」

 

な、何て言えばいいんだろう?

まさか昨日の話を盗み聞きしてましたとか言えないしなぁ…。

 

「あ、それね。そこからね。

昨日、梓ちゃん達がしてた話を美緒や渚さんが盗み聞きしてくれてて。それであたし達も教えてもらった感じかな」

 

え?睦月ちゃんそれ言っちゃうの!?

しかも私の名前も出しちゃうの!?

 

「あー、あー?

あ!そっかそっか!

そう言えば晴香ちゃんが店内用のトランシーバーで盗み聞きするって言ってたっけ」

 

そう言った梓お姉ちゃんは私達の方を見て…

 

「なっちゃんも睦月ちゃんも姫咲ちゃんも恵美ちゃんも

この企画バンドの話を知ってるならこんな話をしても意味ないか…」

 

そして梓お姉ちゃんは私達の顔を見回してこう言った。

 

「あたしはみんなの事をね。

あたし達のArtemisのそれぞれの後継者みたいな気持ちでいるんだよ」

 

梓お姉ちゃん…。

私達がArtemisの後継者…。

梓お姉ちゃんにそう言ってもらえるのは嬉しいよ。

 

でも私、梓お姉ちゃんのライブとか見た事ないんだけどね…。曲も美緒ちゃんに聞かせてもらっただけだし…。

 

「睦月ちゃんは翔子にギターを習って、翔子の影響を受けて…」

 

「あ、梓ちゃん?あ、うん。あたしもそう言ってもらえて嬉しいです」

 

睦月ちゃん…。

睦月ちゃんも翔子お姉ちゃんに子供の頃からギターを教わってたんだもんね。

 

「姫咲ちゃんはちょっと演奏見せてもらっただけだけど、澄香にすごく似てる。澄香の演奏を思い出したよ」

 

姫咲ちゃんはキュアトロのユキホちゃんに憧れてベースをやり始めたって聞いたけど、やっぱり澄香お姉ちゃんにベースを教わってただけあって、澄香お姉ちゃんに似てるのかな…?

 

「恵美ちゃんは……

なっちゃんもだけど私達の演奏に影響受けてとか、私達に教えてもらってたわけじゃないよね。どうしよっかな…?」

 

梓お姉ちゃん!?

どうしよっかなって何!?え!?私と恵美ちゃん雑過ぎない!?

 

「待って下さいっ!」

 

「あ、え、恵美ちゃん?どうしたの?」

 

恵美ちゃん…。

 

「あ、あたしも日奈子さんのパワフルな演奏に憧れてドラマーになった訳ですし、あたし達に演奏を教えてくれたのは神原先生ですし、あたしもArtemisの影響を…!」

 

え!?恵美ちゃん!?そこなの!?

いや、そこはどうでも…いや、よくないのかな?

 

「あ、そっか。恵美ちゃんも翔子の教え子だもんね。

あ!それならなっちゃんもあたしの教え子だよね!ヲタ的な事とか!」

 

そこはどうでもいいよ梓お姉ちゃん!

ほら、睦月ちゃんも姫咲ちゃんも恵美ちゃんも私達の方を見てるよ!?

 

「でもね。なっちゃん達はあたし達Artemisの後継者って訳じゃない。なっちゃん達にはなっちゃん達のバンドや音楽があるんだよ」

 

梓お姉ちゃん!?ちょっと待って!

何かいい事を言ってる風だけど、さっきのヲタ的な事とかそういう発言で全部台無しだよ!?

 

「なっちゃんはDivalのボーカリストとして。

姫咲ちゃんはCanoro Feliceのベーシストとして。

睦月ちゃんと恵美ちゃんはGlitter Melodyのバンドマンとして…」

 

梓お姉ちゃん!

だからみんなもう梓お姉ちゃんの話を真剣に聞く雰囲気じゃないよ!?

 

「みんなには後継者じゃなくて、あたし達を越えるバンドマンになってほしい」

 

梓お姉ちゃん…。

その…気持ちは嬉しいんだよ?でもね…。

 

「うん。梓ちゃんの言いたい事はわかってる。

結構いい事を言ってる風を装ってるけど、ここにいるみんなそれはわかってるんじゃないかな?」

 

「え?睦月ちゃん…?」

 

「私もわかってますわ。

澄香さんを越える。今まで考えた事が無かった訳ではありませんが…」

 

「うん。秋月さんの言う通りだよね。

あたしもArtemisを越えるって考えた事無いわけじゃないですけど、あたし達は越えなきゃいけない。あたし達の音楽を伝える為に!」

 

「き、姫咲ちゃん?恵美ちゃん…?」

 

「梓お姉ちゃん…ご、ごめんね。

色々考えてくれたんだとは思うけど…。あの、その…」

 

ああ…何て言えば梓お姉ちゃんを傷付けずにお話出来るかな?

 

「なっちゃん…も…?え?もしかして…みんな…」

 

「「「「梓お姉ちゃん(さん)(ちゃん)の言いたい事はわかってるよ。みんなで越えるよ、ArtemisもBREEZEもクリムゾンも!」」」」

 

「みんな……。

ねぇ?これってあたしってピエロだったの?みんなわかっててあたしの対応を楽しんでたとかなの…?」

 

 

 

 

私達の企画バンドの話は終わった。

 

私達のバンド名はTwinkle Party(トゥインクル パーティー)というらしい。

一生懸命考えてくれたバンド名なんだろうけど…。

 

 

『あ、あの…それでですね…。あたしの企画バンド…みんなのバンド名なんだけどね。Twinkle Partyって書いてトゥインクル パーティーとか考えて来ちゃってたりね…』

 

『Twinkle Partyですか。素晴らしい名前ですわ!

梓さんこのTwinkle Partyというバンド名にはどのような想いが?』

 

『え?姫咲さん?本当にそう思ってます?』

 

『いえ、安直なネーミングだとは思いますが、これ以上梓さんに恥をかかせるわけには…』

 

『うわぁぁぁぁぁん!』

 

そう言って梓お姉ちゃんは泣き出してしまった。

 

 

まぁしょうがないよね。

私達みんな企画バンドの話は知ってた訳だし…。

 

私はそんな事を考えながら、SCARLETの本社前で立っていた。

 

志保は澄香お姉ちゃんの企画バンドメンバーとこれからそよ風でご飯らしい。澄香お姉ちゃんは参加出来ないらしいけど…。

 

奈緒は盛夏とご飯に行っちゃって、理奈は香菜と有希さんと双葉ちゃんとでこれからスタジオミルフィーユで練習だそうだ。

 

来夢はまだ仕事があるみたいだし…。

私はこれって梓お姉ちゃんと2人きりになれるチャンスじゃない!?と思い、梓お姉ちゃんが出て来るのを待っていた。

 

それにしても梓お姉ちゃん出て来るの遅いね。

もし先輩とか英治さんとかとこれから飲みに行くとかだったら私もお邪魔させてもらおう。うん。

 

あ、一応言っておくけど奈緒と盛夏は私の事も誘ってくれたからね?梓お姉ちゃんと2人きりになれるチャンスだと思って断っただけだから。だから別にぼっちって訳じゃないんだよ?

 

 

「んしょ…んしょ…」

 

 

そんな事を考えていると、SCARLETの本社から梓お姉ちゃんが出て来た。

梓お姉ちゃんは1人みたいだ…。

 

って!

 

何で車イスの梓お姉ちゃんを1人にしてるの!?

おのれ先輩めっ…!!

 

あ、でも今日は梓お姉ちゃんは1人の方が良かったか…。命拾いしましたね先輩。

 

「あ、梓お姉ちゃん…」

 

私は梓お姉ちゃんに声をかけた。

ってか私は何でどもってんの!?そんなに緊張してるの!?

 

「ん?え?なっちゃん?」

 

そして私は梓お姉ちゃんの車イスに手をかけた。

 

「あわわわわ、な、何でなっちゃんがこんな所にいるの!?私よりだいぶ前に部屋を出たよね!?もしかしてずっと待ってたの!?」

 

「あ、あはは。梓お姉ちゃんを待ってたんだよ」

 

「あ、あたしを待ってたやて!?

もうこんな遅い時間なのに!?世の中には変態とか変態とかタカくんみたいなのとかいっぱい居るんだよ!?女の子がこんな所で一人とか危ないよ!?」

 

先輩って変態のカテゴリーなんだ…?

 

「いや、それを言ったら梓お姉ちゃんもやん?梓お姉ちゃんも一人で帰ろうとしてたやん?」

 

「あ、あたしはもうオバサンだし!

あっ!自分で言って泣きそうになってきた!泣いていい?」

 

梓お姉ちゃんって…ほんと先輩に似てるよね…。

 

「もう!私は大丈夫だよ!

梓お姉ちゃん、一緒に帰ろ」

 

「え?あ、あ、うん…」

 

 

 

私は梓お姉ちゃんの車イスを押しながら他愛のない話を楽しんでいた。

 

「え!?そうなん!?

やから来夢も梓お姉ちゃんが生きてるって事知ってたんや!?」

 

「そだよ~。

あたしもたまに実家にも帰ってたし…。その度に何故かなっちゃんだけ居なかったんだよね…。修学旅行とか部活の合宿とか…」

 

そうだったんだ…。

だからお父さんだけじゃなくて来夢も梓お姉ちゃんの事を知ってたんだね…。

てか、何で私は1度も梓お姉ちゃんに会えなかったの?15年間ずっとだよ?何かの呪い?

 

 

 

私達はそれからも色々な話をしながら歩いていた。

もうちょっとで私達のマンションに着いてしまう。

 

せっかく梓お姉ちゃんと2人になれたんだから聞きたい事を…聞こうと思ってた事を聞かなくちゃ…。

 

でもどう切り出せばいいんだろう?

こんな事を梓お姉ちゃんに聞いちゃうのは…。

 

「なっちゃん?」

 

「ん?あ、何?梓お姉ちゃん」

 

「なっちゃん。何かあたしに聞きたい事ある?」

 

え?梓お姉ちゃんに聞きたい事…?

 

「あれ?違ったかな?」

 

何で梓お姉ちゃんはそう思ったんだろ?

私、そんなに変だったのかな?

 

「なっちゃん?」

 

ううん。違う。

今はそんな事を考えてる時じゃないよ。

せっかく梓お姉ちゃんが聞いてくれてるんだもん。

私の聞きたい事…。ちゃんと聞かなきゃ。

 

「あ、あのね梓お姉ちゃん」

 

「うん、何かな?」

 

「こ、こんな事を聞いちゃうのは…梓お姉ちゃんに失礼なのかも知れないけど…」

 

「失礼な話?

え?梓お姉ちゃんはまだ結婚しないの?とかそんな話!?」

 

ん?え?結婚…?

 

「ち!違うんだよなっちゃん!確かにあたしはまだ結婚出来てないけど、あの…あれだよ?結婚したいって想える人がいないというか?そんな感じ?い、いやモテないとかそんなんじゃなくてね…!?」

 

梓お姉ちゃん…?

 

「いや、マジで!ほんまに!

あたしは結婚出来ないんじゃなくてね!あえてしないと言うか?」

 

どれだけ必死なの梓お姉ちゃん…。

 

「違うよ。結婚とかそんな話じゃないよ」

 

「え?ほ、ほんまに?」

 

いやいやさすがにそれは聞けないでしょ…。

 

「そ、それならいいんだけど…あははは。

ってかそれなら失礼な話って何?結婚の話じゃなくて失礼な事?」

 

「……もしかして梓お姉ちゃんは結婚したいの?」

 

「は!?いや!ちゃう!ちゃうから!したいかしたくないかだとしたいとは思うけどその…ね?相手がね?」

 

ん~、相手かぁ。

確かに結婚って相手もいるしね。

あ、それならこれも聞きたかった事だし聞いちゃってもいいかな?

 

「相手ってさ?先輩は?」

 

「ふぇ!?タカくん!?」

 

「先輩もいつも結婚したい結婚したい言ってるしね~…」

 

「タカくんが!?結婚…!?え!?マジで!?

タカくんがそう言ったの!?ソースはどこ!?」

 

ものすごく反応してくるね梓お姉ちゃん…。

 

「え?いや、先輩もいい歳だし結婚したいと思っても…」

 

「タカくんが…結婚したい…とか言ってるだと…?

あ、もしかしてあたしが日本に帰ってきたから?

……いや、違うな。それなら15年前に…。となると澄香も無いよね…。

ハッ!?なっちゃん…!!大人になったなっちゃんと…!?いや、待て。待つんだ梓。その場合はりっちゃんや奈緒ちゃんの可能性も出てくる…。いや、それだけじゃない。せっちゃんも志保ちゃんも居るしこの15年の間に現れたあたしの知らない女の子の可能性も……。

違う!あたしは最大の敵を忘れていた……美来ちゃん…!(ギリッ」

 

梓お姉ちゃんの葛藤ものすっごいね。

梓お姉ちゃんやっぱりまだ先輩の事好きなのかな?

まぁ、私も入ってるみたいだから良かったけど…。

 

いや、待って。良かったって何?

別に良くないから。先輩とかどうでもいいから。

 

「あ、梓お姉ちゃん。その…先輩の事とかどうでも良くて…。私が聞きたいのは結婚とかの話じゃないよ」

 

とりあえず今は話題を反らしておこう。

 

「え?ほんまに?

なっちゃんはタカくんの事どうでもいいの?

良かったぁ~。もしかしたらなっちゃんもかも?とか思ってたし…。それならいいよ。聞きたい事って何?」

 

あ、いや、すみません。どうでも良くないです。

ちゃんと後で先輩の事どうでも良いってのはそういう意味じゃないって訂正しておこう。

いや、どうでもいいんだけどね?あれがあれだし?

 

「なっちゃん?」

 

おっと私もそんな事を考えてる場合じゃないですね。

聞きたい事をちゃんと聞かなきゃ…。

 

「梓お姉ちゃんは何でバンドを…歌うのを辞めたの?」

 

 

聞いてしまった。

 

 

梓お姉ちゃん達Artemisは梓お姉ちゃんが事故にあったから解散したって聞いている。

 

だけど梓お姉ちゃんは…車イスだけど無事に生きているし。話す事も出来ている。

それに私達…私と睦月ちゃんと姫咲ちゃんと恵美ちゃんに音楽をプロデュースしたいって言ってるくらいだ。

 

きっと…ううん。

本当は梓お姉ちゃんも今も歌いたいんだと思う…。

 

 

 

「あたしが歌う事を辞めた理由…か…」

 

 

梓お姉ちゃんは少し考えたのか、間を置いて私に話してくれた。

 

 

「あたしがもう歌えないって思ったのは…Artemisを解散したのは事故が原因じゃないよ。あの事故はただのきっかけ…かな」

 

事故が原因じゃ…ない…?

 

じゃあ何で…?

 

「あたし達Artemisの夢はエクストリームジャパンフェスで優勝してメジャーデビューする事」

 

エクストリームジャパンフェス…。

昨日聞いたメジャーデビューのオーディションみたいなフェスの事か…。

 

「だったんだけどね」

 

え?だったんだけどね…?って…?

 

「あたし達は関西では負け無しやったし、クリムゾンにも負ける事は無かった。エクストリームジャパンフェスの予選も順調に勝ち続けてて…メジャーデビュー出来るって思ってた」

 

やっぱArtemisって凄かったんだね…。

 

「そしてね。

エクストリームジャパンフェスの本戦に出場って時に…タカくんは足立と戦って喉を壊してしまった。そしてBREEZEは解散になっちゃった…」

 

先輩が喉を壊して…?

先輩達BREEZEがドリーミンギグに参加出来なくなっただけじゃなくて梓お姉ちゃん達も…?

 

「日奈子はね。メジャーデビューしたらテレビ番組とかラジオ番組とか出れるようになって、ゲストにBREEZEを呼ぶ事を目標にしてたんだよ。そしたらずっとBREEZEと音楽やれるでしょって」

 

BREEZEをゲストに…?

あ、そっか。先輩はメジャーデビューするつもりは無かったって言ってたし、ゲストって形でBREEZEを出してずっと一緒に…。

 

「翔子はあたし達ArtemisはBREEZEにはデュエルで勝てた事無かったから、メジャーデビューして実力を付けて、BREEZEとデュエルをやっていきたかったみたい」

 

晴香さんが言ってたっけ…。

Artemisは負け無しのバンドだったのに、初めてBREEZEに負けたんだって…。まぁ理由が理由やけど…。

 

「そもそもBREEZEに勝てなかったのは翔子がいつもトシキくんに見惚れてミスが多かったのが原因やのに…」

 

え?あれ?私が晴香さんに聞いた理由と違うよ?

 

「澄香はね。あたし達Artemisを守る為にタカくん達が戦ってくれて…それでタカくんが歌えなくなった事がすごく辛かったみたい」

 

澄香お姉ちゃん…。

 

「そしてあたしは…歌う事を…バンドを始めた理由がタカくんへの憧れだったから…。タカくんが歌えなくなって憧れの対象が……あはは、あたしが一番しょーもない理由だよね」

 

梓お姉ちゃんが先輩に憧れて…?え?

 

「ちょっと待って梓お姉ちゃん…。梓お姉ちゃん達が先輩達と初めて会ったのって、BREEZEとArtemisとの対バンの時じゃ…」

 

「ふふ、それは今度澄香が話してくれるよ」

 

澄香お姉ちゃんが?

 

「それってどういう事?」

 

「あ、なっちゃんは聞いてないのかな?

トシキくんが志保ちゃんや松岡くんと約束したみたいなんだけど…」

 

梓お姉ちゃんが話してくれた内容は私にとっても衝撃的だった。

 

 

南国DEギグの前日。

志保や松岡くん達の西グループで約束した話らしい。

 

先輩達BREEZEの…15年前の話をトシキさんが聞かせてくれると…。

 

先輩と英治さんは、梓お姉ちゃんと日奈子お姉ちゃんとで『ボーカルとドラマーで飲み会しちゃおう会』という訳のわからない飲み会をするそうだ。

それは昔の話をされるのは先輩と英治さんが恥ずかしがりそうだからという理由らしい。

 

先輩と英治をその会に参加させて、トシキさんと拓斗さん、澄香お姉ちゃんと翔子お姉ちゃんと晴香さんとで、私達ファントムのメンバーに昔の話を。

BREEZEやArtemisの結成の話や、どんなライブをしてきたのか……そして、どんな風にクリムゾンと戦って来たのかを…。

 

 

「そうなんだ…。志保からは何も聞いてないけど…私もその話聞きたい…」

 

先輩達と梓お姉ちゃん達…15年前の話ならきっと志保のお父さんや理奈のお父さんの話も。

 

 

 

ハロウィンライブが終わって、ファントムギグの開催の前に、私達は15年前の話を聞かせてもらえるらしい。

うん。すごく楽しみだよ。

 

 

でもね。

 

 

でもね、梓お姉ちゃん。

 

 

『バンドを始めた理由がタカくんへの憧れだったから…』

 

 

それってどういう事?

梓お姉ちゃんはArtemisをやる前から先輩と出会ってたの?

 

 

『タカくんが歌えなくなって憧れの対象が…』

 

 

梓お姉ちゃんが歌う事を辞めたのは先輩が歌えなくなったから?

 

 

だったら…私はきっと先輩の事は……。

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