ぼ…僕の名前は井上 遊太。
今日はSCARLET本社に来ている。
SCARLET本社に呼ばれたものだから、僕達のバンドAiles Flammeのこれからの話とか…クリムゾングループとのこれからの話をすると思ってた。
だけど…。
15年前に解散したBREEZEってバンドのドラマーであり、ライブハウスファントムのオーナーである中原 英治さん。通称おっちゃん。
BREEZEのボーカルだった葉川 貴とバンドを組んだ僕のドラムの先輩である柚木 まどか。通称まどか姉。
この2人に何故かシフォンの姿ではなく、遊太の姿で来いと言われた。
SCARLETの本社に行くのに遊太の姿なの?
さっきまで僕の中にあった疑問は、おっちゃんとまどか姉の話で納得…うん、納得かな?
納得は出来た。
・
・
・
「って訳で沙織、木南さん、日高くんと遊太には俺とまどかのプロデュースするバンドをやってもらいてぇ」
「あはは、みんな心配とか不安もあるだろうけどさ。
さっき英治の話した企画バンド。あたしもみんなでやりたいって思ってるんだよ」
おっちゃんとまどか姉が僕達に話した企画バンド。
FABULOUS PERFUMEのボーカルである小暮 沙織さん。
Noble Fateのギタリストである木南 真希さん。
evokeのベーシストである日高 響さん。
そしてAiles Flammeのドラマーである僕、井上 遊太。
その4人でやる企画バンド。
バンド名は融合する音という意味で『
そこまでならまだ良かったんだ…。
沙織さんも…。
「ファントム所属メンバーでSCARLETの企画バンド…ですか?」
「ああ。お前にとってもクリムゾンの目眩まし…って言えばいいかな。姉にFABULOUS PERFUMEの事はバレてるとは言え、他のクリムゾングループの目眩ましにはなるだろ?」
「栞も栞として、双葉も双葉としてバンドをやる。
まぁ、弘美はプロデュース側なのかしら?
でもそれだとFABULOUS PERFUMEの正体が特定されやすくはなると思うのだけど…」
「え?まどか?そうなのか?」
「いや、英治。あんたアホなの?
ファントムのバンドでSCARLETの企画バンドってなったら、SCARLETの企画バンドに居るのにファントムのバンドでは見掛けない人。その人がFABULOUS PERFUMEの正体なんだろうって予想立てやすいじゃん」
「すまん。何を言ってるのかわかんない」
「英治…あんたねぇ…」
その後まどか姉がおっちゃんに何か説明しているようだった。
あっちの話は長くなりそうだし、僕もこの企画バンドの事で沙織さんに聞いておきたい事があるし…。
聞いても大丈夫かな…?
「あ、あの…さ、沙織さん…」
僕は思い切って沙織さんに話し掛けてみた。
あはは…やっぱり上手く話せないや…。
「井上くんから話し掛けてくるなんて…。珍しい事もあるものね」
沙織さんは一瞬びっくりした顔をした後、僕にそう話し掛けてくれた。
沙織さんとは栞ちゃんとの繋がりで何度か話した事もあるはずなんだけど…。
「あ、え?そ、そう…です…か?」
あ、やっぱり上手く話せないや…。
「フフ、いつもはシフォンちゃんだものね。
井上くんと話すというのは珍しいわよ」
そ、そういえばそうか。
いつもはシフォンの格好だから話せてるだよね…。
僕は今は井上 遊太だしね…。
「それで?井上くんからの話は何かしら?」
あ、そうだ。
「あ、あの…えと…沙織さんは…このバンドの事…反対だったりするのかな…?って…」
「それが聞きたい事なのかしら?」
え…?
うん、そりゃそうですよ。僕が聞きたいのはこの企画バンドの事。
ぼ、僕が言うのも何だけど、僕がシフォンじゃなくて遊太の時に聞ける事とかそれくらいしか…。
そう言った後、僕をジッと見てくる沙織さん。
うぅ…何て言えばいいんだろう…?
「意地悪が過ぎたが知れないわね。ごめんなさい」
え?意地悪…?
僕が話せないでいると沙織さんが何故か謝ってきた。
「この企画バンド。
シグレではない私として歌う。そして、双葉や栞と別のバンドとして競い合う事が出来る。とても興味深いし面白そうだと思うわ」
シグレとしてじゃなく沙織さんとして歌う…。か…。
そうだよね。僕もシフォンじゃなくて遊太としてドラムを叩く事になる。
正直シフォンの格好をするようになってから、人前で遊太としてドラムを叩く事に自信を失くしていたけど、夏休みに野生のデュエルギグ野盗とデュエルした時は、僕は遊太でドラムを叩けた。
あの時は必死だったからかも知れないけど…。
でもあの日から少し…ほんの少しだけ…。
シフォンじゃなくて遊太としてドラムを叩く機会がまたあったらな。と思っていた…。
「中原くんにはああは言ったけれど、私はこの企画バンドをやってみるのもいいと思っているわ。井上くんはどうかしら?」
沙織さんも…この企画バンドをやってみてもいいって思ってくれてるんだ…。だったら僕も。
「さ、沙織さんが…そう思ってくれて…て良かったで…す。僕も…やってみたいと思ってました…から。
ゆ、遊太としてドラムを叩くの…少し自信無いですけど…や、やってみたいと思って…です…から」
沙織さんにちゃんと自分の気持ちを言わなきゃ…。
う、上手く喋れないけど…。
「自信がない…か。双葉達にバンドに誘われた時の私もそうだったかしらね…」
え?沙織さんも…?
「ふふ、でも私だけじゃないと思うわ。
真希さんや日高くん、中原くんや柚木さんに聞いても多分同じ事を言うと思うわよ」
おっちゃんやまどか姉も…みんなも?
「今あなたはシフォンちゃんじゃない。
井上くんとしてみんなに聞いて来てもいいんじゃないかしら?」
みんなに…?
僕はソッとみんなを見てみた。
おっちゃんとまどか姉はまだ何か話してるみたいだし…日高さんは……あ、安定に寝ちゃってるね。
木南さんは…。
「真希さんも今は暇そうね。行ってらっしゃい」
え!?
た、確かに木南さんは暇そうに、おっちゃんとまどか姉の話が終わるのをボーっと待ってる感じだけど…。
「ほら。栞なら普通に話しかけると思うわよ」
む…、こ、ここで栞ちゃんの話なんか出さなくても…。
「井上くん。行きなさい」
う…。
で、でもまぁこれから一緒に企画バンドをやるんだし、木南さんとも話せるようにならないとね…。
沙織さんの目も怖いし僕は木南さんの前まで来た。
…来たのはいいけど何て声を掛けたらいいんだろう?
僕は恐る恐る沙織さんの方を見てみた。
うわぁ~…めっちゃこっち見てるよ…。これは逃げられないか…。
僕がそんな事を考えていると…
「井上くん?どうしたのかな?」
目の前に来た僕を見て、先に木南さんが声を掛けてくれた。
「いや、あ、あの…その…」
あああああ…!!!
だ、ダメだ!やっぱり話せない!
せっかく声を掛けてもらったっていうのに、何か話さなきゃって事で頭がいっぱいになっちゃって何を言ったらいいのかわからない!!
「ど、どうしたのかな?」
僕はまたソッと沙織さんを見てみた。
あ、もうこっち見ずにスマホ触ってる。
うぅ…助けてもらえないか…。
「井上くん?」
木南さんをこのままにしとく訳にもいかないよね…。
よ、よし、勇気を出して…。
「あ、あの!きにゃみしゃん!」
噛んだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
盛大に噛んじゃったよ僕!!!!
しかも叫んだもんだから日高さんは起きちゃうし、沙織さんもめっちゃこっち見てるよ!!
あ、でもおっちゃんはまだまどか姉に何か言われてるみたいだ。
「あ、あはは…い、井上くん?どうしたの?」
うぅ…よ、よし…。
思い切って聞くぞ!うん!頑張れ遊太!!
「あ、あの…。き、木南さん…は、この…このバンド…」
……頑張れなかった。
これが僕の精一杯だよ…。
「このバンド…?あ、この企画バンドの事を聞きたいって感じかな?」
あぅ…大まかにはそうだけど…。
聞きたいのは企画バンドの事じゃなくて、今までバンドでライブをしてきた時の緊張の事とか…。自信持ってやれてたのかとか…そんな事も聞かせて欲しいんだけど…。
「はい…まぁ…」
はいとか言っちゃったよ僕。
「…」
ん?あれ?
「…」
木南さん…?
「…」
僕じゃなくて沙織さんを見てる…?
「あの…木南さん?」
「あ、ごめんね井上くん」
「あ、あの…いえ…」
「私は…うん、まだちょっと悩んでてさ。井上くんはどうしたいと思ってる?参考までに考えを聞かせてくれない?」
「え!?」
ええええええ!?
き、木南さん悩んじゃってるの!?
どどどど…どうしよう…?
「ほら、井上くんの話を聞いたら私も考え方変わるかもじゃん?」
いやいやいや!そんな僕の意見で考えを変えられても!
「井上くん」
うっ…。
そ、そんな風に見られたら…。
僕は遊太としてこのバンドをやってみるのもいいと…ううん、やってみたいと思ってる。
だけど僕にはその自信が無い。
木南さんは僕の意見を参考にしたいと言っている。
自信が無いのにやってみたいと言ってもいいの?
自信が無いからやりたくないと言うべき?
怖い…怖いよ…。
「井上~」
ん?え?
僕がどう言おうかと悩んでいると日高さんが声を掛けて来た。
あ、もしかして僕らがうるさくて寝れないとか…?
「そんなんじゃないよ。ってかね」
そんなんじゃない?え?僕、心が読まれてるの?
僕がそんな事を考えていると日高さんは木南さんの前に来て…
「木南さんも小暮さんも井上を苛めすぎ…」
え?僕…?苛め…?
「ちょっ…!?響!人聞きの悪い事を言わないで!べ、別に苛めてる訳じゃ…!」
「ま、井上も井上だけどね。自分が聞きたいならちゃんと…聞か…聞かな…うぅ…眠い…」
あ、あれ?木南さんって日高さんの事を響って呼んでる?いや、それよりやっぱ眠いんだ?
「ん?井上?どしたの?あ、もしかしてあれ?
さっき木南さんが俺の事を名前呼びしたから?」
あ、バレちゃってる。
もしかして心を読まれている…?
「いや、そんな訳ないでしょ。
木南さんは俺のねーちゃんとバンドやってたからさ。その繋がりでね」
いやいやいや、これ絶対僕の心読まれてるよね?
木南さんと日高さんのお姉さんが同じバンド…?Noble Fateの前のバンドかな?
……待って。それより日高さん。
一人称が『僕』じゃなくて『俺』になってる?
日高さんが自分の事を『俺』って言ってるの初めて聞いたような…。
「あ、井上くん。あのね、私の前のバンドって言ってもNoble Fateの前のバンドじゃなくて、高校の頃にやってたバンドの話でさ」
「そそ。俺とねーちゃんは歳が離れててね。そんで俺はそんなねーちゃんに教わってベースやってんだよ」
「響…。あんたそれ、わざわざ歳が離れてるとか言う必要あった…?」
Noble Fateの前のバンドの前…?
「そうね。真希さんがギター、日高くんのお姉さんがベース。そして私の姉がボーカルをやっていたバンドよ」
僕達の会話に見ているだけだった沙織さんが話に入って来た。沙織さんのお姉さんがボーカルって…。
沙織さんのお姉さんは今はクリムゾンエンターテイメントの…。
「ま、それはそれとしてね。木南さんは今はNoble Fateのギタリストだし。そんなカビも生えたような昔の話はいいとして」
「カビも生えたような昔の話って…。なんなの?あんた私の心を折りに来てるの?」
「井上~。奏も結弦も鳴海もライブ前はめちゃ緊張してるよ。
もちろん俺もね。いつも失敗したらどうしようとか、上手く弾けるかな?って思ってるし、自信満々でステージに上がった事って無いんじゃないかなぁ?」
日高さん…?それって僕が聞きたかった話ではあるけど…。もしかして寝てると思ってたけど僕達の話が聞こえてたの?
「井上くん、私もそうだよ。いつもライブ前は不安になったりするよ。この中じゃ私が一番経験も長いだろうけどさ。ステージに上がる前はいつも震えてる。
花音や綾乃の前ではかっこつけて虚勢張ったりもしてるけどね」
木南さんも…?
そっか。木南さんくらい経験豊富でも本番前、ライブ前は不安になったりするんだ…。
「てかさ響。これから私らは企画バンドとは言え一緒にバンドやってくんだよ?井上くんから私達に言いたい事は言えるようにしないとさ!」
僕から言いたい事は言えるように…?
だから木南さんは僕が何かを言うのを待ってて、沙織さんは助けてくれなかったのか…。
「それもそうだと思いますけどね。でもいきなり過ぎでしょ」
「私はAiles Flammeの演奏聞いてシフォンちゃんのドラムはすごいと思ってる。だから、そんなシフォンちゃんと…井上くんとバンドやるのも面白そうって思った。
だから、井上くんにもこのバンド面白いって思ってもらいたい」
「ま、その意見には俺も同意しますけど」
「同じバンドメンバーなんだしさ?言いたい事は言い合えるように、聞きたい事は聞けるようにならなきゃ…その…日常会話くらいは?」
「日常会話くらいは?って聞かれましてもね。
ま、そん時が来たら大丈夫ですって。シフォンは井上だし、井上は男だし。やる時はやりますよ。な?井上」
え?え?もしかして僕のせいで言い争いになっちゃってる?
「あ、あの…日高さんも…木南さんももしかして…ぼ、僕のせい…で…」
「「いや、井上(くん)は関係ないよ。いや、あったりするのかな?」」
わ、なんか綺麗にハモってる…!
「そうね。真希さんも日高くんも自分達が言いたい事をお互いに言い合ってるだけよ。まぁ、論争の元は井上くんの事だから関係ないとは言い切れないけれど…」
沙織さんはそう言って僕の肩に手を置いてきた。
「井上くん。私もシグレとしてステージに立っている時はいつも緊張しているよ」
「さ、沙織さんも…?」
「ええ。歌詞を間違えたらどうしようとか色々不安になる時もあるわ」
「あたしもそうだよ。奈緒と盛夏の手前もあるし失敗したらどうしようとかさ。あんた達の目もあるしね」
え?まどか姉?
「はははは、トシキも拓斗もいつもライブ前は緊張してやがったぞ」
おっちゃんも…?
「佐藤くんと宮野さんもって…。中原くんと葉川くんは緊張してなかったと言う事かしら?」
「ん?おお。俺もタカも緊張とは無縁だったぞ?失敗したらこれは今日だけの特別演出ですとか言って誤魔化してたしな」
誤魔化してって…。
『いや、そんな事無いから。めちゃ緊張してたから。お前と一緒にすんじゃねーよ』
え?たか兄!?
「あ?何でタカの声が聞こえてきたんだ?」
「まぁバカは置いておいてさ。
あたし達もみんな緊張したり不安もあったりしてる。遊太も不安もあると思うけどさ…」
まどか姉…。
うん、そうだね。僕…言うよ。
「ぼ、僕…やるよ。この企画バンド…」
自信は無いけど…。
不安なのは…みんな一緒なんだ。
沙織さんも、木南さんも、日高さんも…。
遊太としてドラムを叩きたいって思った気持ちは本当だから。
きっと大丈夫だよね。ね、シフォン。