バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第22話 トシキと翔子の場合

俺の名前は江口 渉!

Ailes Flammeのイケメンボーカルだ!

 

俺は今、BREEZEのギタリストだったトシキにーちゃん。

Artemisのギタリストだった翔子ねーちゃんに呼ばれ、SCARLET本社の一室に居る。

 

この場に呼ばれたのは俺以外のメンバーは、

Ailes Flammeのベーシストの拓実、Canoro Feliceのドラムスの松岡パイセン、evokeのギタリストの結弦さんだ。

 

俺達はトシキにーちゃんと翔子ねーちゃんから、企画バンドをやる事になる。との説明を受けた。

Ailes Flammeとしてまだバンド活動をしっかり出来てるとは言えない俺達には、15年前にクリムゾングループと戦いながらバンドをやっていたトシキにーちゃん達にプロデュースしてもらえるのは、きっとこれからの俺達の力にもなる。そう思っていた。

 

そしてこんな大事な話の時に俺のモノローグ。

やっぱりこの物語の主人公は俺だな!そう思っていた。

 

まぁでも何だな。

この物語全然バンド活動もライブもやってないよな!

俺なんかこないだ歌ったのいつだっけ?

 

そんな事を考えながら、今まさに翔子ねーちゃんと結弦さんがデュエルをしようと構えているのを眺めていた。

俺はいつになったら歌ったり出来るんだろうなぁ?

 

 

「ガキ。あたしが勝ったらトシキさんに頭を下げろ。むしろ土下座な」

 

「うっせぇ。土下座だろうが何だろうがしてやんよ。ただし俺が勝ったらこの話は無かった事にしてもらうぜ」

 

「俺は頭なんて下げていらないから翔子ちゃんも少し落ち着いて…。そもそも俺がどうとかって話じゃないし」

 

「トシキさんは優しすぎですよ!そんな所もステキなんですけど///」

 

「折原くんもこの企画バンド自体はいいって思ってるんでしょ?翔子ちゃんとデュエルしてみたいって気持ちはわからなくはないけど…」

 

「トシキさん、俺はevokeとして雨宮 大志に勝ちてぇ。だから、あんたの企画バンドで腕を磨くのは悪くねぇとは思った。だが、ギターを教えてくれるってのがあんたじゃなくて、この女ってのが気にいらねぇ」

 

「もう…翔子ちゃんも折原くんも…。何でこんな事に…」

 

 

そう。トシキにーちゃんの言うこんな事。

こんな事になったのは少し前の時間に遡る。

 

 

 

 

「そんな訳でさ。俺もちょっとバンドやってた時の事を思い出したんだ。はーちゃんに俺の音楽を観て貰いたいって目標を持ってた事…」

 

「トシキにーちゃんの音楽をにーちゃんに…か。

わかるぜトシキにーちゃん!俺もにーちゃんに俺の音楽を観てもらいたいしな!」

 

トシキにーちゃん達BREEZEの時は作詞も作曲も全部にーちゃん事葉川 貴がしていた。

 

トシキにーちゃんも拓斗にーちゃんも英治にーちゃんも、にーちゃんの音楽が好きだったから、ずっとにーちゃんに任せてばっかりだったみたいだけど、トシキにーちゃんもにーちゃんの音楽の力に。にーちゃんに自分の音楽を観て貰いたいって思ってたみたいだった。

にーちゃんが喉を壊した時から、ずっと自分が力になれてたらって思っていたらしい…。

 

「僕も少しトシキさんの気持ちわかります。

僕達Ailes Flammeは作曲は亮ですし、作詞も今は渉とシフォンに任せてばっかりですけど…。僕も…拓斗さんや東山先生、渉や亮やシフォンにも僕の音楽を観て貰いたいって思ってますし!」

 

拓実…。

そっか拓実もそんな風に考えてくれてたんだな。

俺も拓実の音楽、観てみたいって思う。

俺達は4人でAiles Flammeだもんな。

 

「トシキさん…。あの頃そんな事を想ってらしたんですね…。タカなんかトシキさんに比べたらミジンコのクソ程度でしかないのに…」

 

ん?え?翔子ねーちゃん?

にーちゃんの事ミジンコのクソとか思ってんの…?

 

「佐藤さんの気持ち…わかりました。

南国での雨宮 大志さんとのデュエルの時、俺の演奏は全然歯が立たなかった。でも、佐藤さんがギターで加勢してくれたから…。

佐藤さんがプロデュースするバンド。是非参加させて貰いたいって思います」

 

南国での雨宮の親父さんとのデュエルか。

あのデュエルの事は俺も聞いている。

聞いた後に特別編の第6話も読んでみたしな!

おっと、こういう事は自重しないとな。

 

あの時は雨宮と拓実と松岡パイセンで雨宮の親父さんとデュエルをしたらしい。

全然歯が立たなくて…圧倒的な実力差で拓実達は負ける所だった。

 

だけど茅野先輩とトシキにーちゃんが加勢して何とか引き分けに終わった。

 

茅野先輩のベースもすげぇとは思うけど、トシキにーちゃんのギターが無かったら…。

 

いや、デュエルに『もし』とか『だったら』なんて言葉は存在しねぇ。

……ってにーちゃんが言ってた。

 

『もし』『だったら』ってみんな誰しもが思う。みんな不満や、あの時こうしてれば、あの時こうだったらと後悔するものだ。と…。

 

でも『今』ってのはその時に選んだ事、選ばざるを得なかった事。そうなるしかなかった事ってのが複雑に絡み合って『今』がある。

 

自分が良かれと思って至った今も。

自分が選びたく無かったのに至った今も。

今が俺の『今』なんだと…。

 

そう。俺がもしあの時、東雲 大和に野球で負…

 

「俺はこの企画バンドってのをやるつもりはねぇ。時間の無駄だ」

 

けてなかったら、きっとバンドは…。

 

って!!!

 

俺、みんな企画バンドは賛成派だと思って自分の世界に入っちゃってたけど、結弦さんは企画バンド反対派なの!?

 

「折原くんはやりたくないかな?この企画バンド。

良かったら理由を聞かせてくれる?」

 

「あ?ああ、理由か。

南国での雨宮 大志とのデュエル。俺は完全に負けた。

だが、負けて初めて見えるモノが出来た。

俺がギタリストとして更に高見へ行けるって道がな」

 

トシキにーちゃんの問いに結弦さんが答えた。

今みんな結弦さんの話の続きを待っている。

そして、結弦さんは一呼吸置いた後にこう続けた。

 

「雨宮 大志のギターはまるで魔術みてぇだった。

俺の音をあいつの音でかき消されて…。雨宮娘達とのデュエルの時もそうだ。あいつのリズムが雨宮娘達のリズムを崩しに来てやがった。あんなギターテクは俺は見た事も聞いた事もねぇ」

 

結弦さんはジッとトシキにーちゃんを見詰めて

 

「そんなあいつのギターテクにも対抗しうるパワフルなサウンド。技術も何もかもを突き破るような荒々しさがありながら静かなサウンド。それを佐藤さん、あんたがやってのけた」

 

「俺?いや、あの時は必死だったのもあったからね」

 

「もうあんたはギターはやらねぇって話だ。

だがかつてのギタリストとして、あんたの事もすげぇギタリストだと俺は尊敬してる」

 

「え?あはは、ありがとう。そんな風に言われると照れちゃうな」

 

「尊敬に値するギタリストがプロデュースするバンドなら、これからの俺のレベルアップにいい経験値になるだろうぜ。雨宮 大志にも色んなヤツラとセッションして周りを見ろとも言われたしな。あいつに従うみたいでムカつきもするが…」

 

トシキにーちゃんのプロデュースするバンドをやる事が結弦さんの経験値にもなるなら…。

 

「そうですよ!渉の言う通りですよ!

結弦さんにもevokeにもいい経験になるの思いますよ!なのに何で…」

 

ん?拓実待って。

渉の言う通りですよって何?俺は何も言ってないよ?

やっぱり今日も俺の心はみんなに筒抜けなの?

 

「折原さん、俺もそう思いますよ。

15年前にクリムゾンと前線で戦っていたBREEZEのギタリストがプロデュース。俺達のレベルアップにはありがたい話だと思うんですけど…」

 

松岡パイセン。

俺もそう思いますよって拓実に同意したんだよな?

松岡パイセンにも俺の心が読まれてる訳じゃないよな?

 

「ああ、テメェらの言う通りだな。

だからこそだ。今は俺はこの企画バンドをやるつもりはねぇ。

佐藤さん、俺とデュエルしろ。本当に俺が尊敬しうるギタリストかどうか試させてもらいてぇ」

 

トシキにーちゃんとデュエル…?

 

「お、俺とデュエル…?う~ん、どうしよっかな…」

 

「どうした?あんたが勝てば俺は素直にあんたがプロデュースするバンドのギタリストを引き受ける。

いや、むしろあんたにギターを教わりてぇ。こっちから頭下げてでも参加させて貰いたいってくらいだ」

 

「俺の実力を見たい訳か…。なら、しょうがないかな…」

 

「上等だ。やるぜ!デュエル!」

 

そう言って結弦さんはギターを取り出して構えた。

 

「待てクソガキ」

 

トシキにーちゃんがギターを取り出そうとした時、今まで黙って話を聞いていた翔子ねーちゃんが、結弦さんの前に立った。

 

「あ?何だ女。あんたに用はねぇ」

 

「しょ、翔子ちゃん?」

 

「トシキさん…すみません。少しあたしに任せて下さいませんか?お願いします…!」

 

「翔子ちゃん…。うん、わかったよ」

 

う~ん、翔子ねーちゃんって、やっぱり俺達と話す時とトシキにーちゃんに話す時と口調も声の高さも違うよなぁ…。何でだろ?

 

「え?いや、渉は本当にそう思ってるの?何でかわからないの?」

 

「拓実?何だ?何の事だ?」

 

「まぁ…渉だもんね…」

 

ちょっと待ってくれ拓実。

本当に何の事なの!?

 

「ガキ。あたしもやりたくもない音楽ってのはやらせたくねぇ。そんなんじゃクリムゾンと一緒だからな」

 

「あ?」

 

「だからやりたくねぇってんなら、やる必要はねぇよ」

 

「しょ、翔子ちゃん!?確かに俺もそう思うけど、このバンドは…」

 

「だがガキ、お前はやりたくねぇって訳じゃなくて、ただトシキさんの力を見たいだけ。そして自分のレベルに見合わなければバンドをやるつもりは無いって事だろ?」

 

「…ああ、そうだな。佐藤さんには悪いが、俺はもっともっと上に行かなくちゃいけねぇ。どうせやるなら俺は自分のレベルアップに繋がる人に教わりてぇ。

だがこう思うのはしょうがねぇ事だろ?」

 

「ガキ、お前の気持ちもわかる。だけどあたしはお前を許せねぇ」

 

「翔子ちゃん?な、何をそんなに怒ってるの?」

 

そうだよな。

結弦さんはギターの腕を上げたい。

だからトシキにーちゃんとデュエルして、トシキにーちゃんの実力を知りたい。

デュエルで負けたらこの企画バンドをやる。

デュエルで勝てばこの企画バンドはやりたくない。

 

う~ん、確かに結弦さんの勝手だとは思うけど、翔子ねーちゃんも気持ちはわかるって言ってたし、そんなに怒る事じゃないと思うんだけどなぁ…。

 

「女。つまりテメェは何が言いてぇ?」

 

「ガキがトシキさんに上等キってんじゃねぇよ。あたしがデュエルしてやる。あたしに負けたらトシキさんに土下座な」

 

「あ?何だと…?テメェとデュエルだ?」

 

ん?うん?え?

 

「翔子ちゃん?何を言ってるの?」

 

「だってぇ~、トシキさんの事バカにし過ぎですよ、このクソガキ。大志如きに負けたくせに…!」

 

「あ?大志…如き…だと…?」

 

「あ、あのさ、翔子ちゃん?」

 

「トシキさん!あたしがあのガキをちゃんとわからせてやりますから!」

 

「いや、俺も翔子ちゃんが何を言ってるのかわからないよ?」

 

「まぁまぁ!あたしに任せて下さい!」

 

そう言って翔子ねーちゃんはトシキにーちゃんを俺達の方に押しやってきた。

 

「おい女。大志如きってどういう事だ?

確認するまでもねぇが、大志ってのは雨宮 大志の事だよな?」

 

「あ?ああ、そうだ。

あたしは大志とのデュエルは勝ち越し。まぁ、負けた事もあるっちゃあるけどな」

 

「雨宮 大志とのデュエルで…勝ち越しだ…と…!?」

 

「神原先生ってそんなに凄いんですか!?」

 

松岡パイセンと拓実が驚いている。

だけど、俺達はこの後の翔子ねーちゃんの言葉で更に驚く事になった。

 

 

「だけど、あたしはトシキさんにはデュエルで1度も勝てた事がない。1度もな…」

 

 

俺達は耳を疑った。

あの雨宮 大志とデュエルで勝ち越してる翔子ねーちゃんが、トシキにーちゃんには1度もデュエルで勝てた事がないなんて…。

 

俺はトシキにーちゃんの方に目を向けた。

 

 

……ん?

 

 

トシキにーちゃんはまるで、にーちゃんみたいに死んだ魚のような目をしていた。

 

 

「ト、トシキさん!本当なんですか!?」

 

「あの雨宮 大志に勝ち越してる神原さんにデュエルで負け無し…」

 

拓実と松岡パイセンがトシキにーちゃんに詰め入るように質問していた。

 

「う~ん…確かに翔子ちゃんと『デュエル』なら俺は負けた事は無いかな…」

 

「や、やっぱりBREEZEはすごいや…」

 

「澄香さんからArtemisはエクストリームジャパンフェスの本選に出場する事になっていたと聞きました。佐藤さんはそんなバンドのギタリストよりも…」

 

エクストリームジャパンフェス…?

そういやそんなフェス大会があるって聞いた事がある。

 

各地のバンドとデュエルをして、戦って、戦い抜いて、最後まで勝ち残ったバンドだけが与えられる本選リーグへの出場権。

 

Artemisはそんなフェスの本選に行けるくらいの…。

そしてトシキにーちゃんはそんなバンドのギタリストに勝てるくらいの…。

 

「いやいやいや!待ってみんな!」

 

トシキにーちゃんは羨望の眼差しを向ける俺達を制止した。

 

「た、確かにね!俺は翔子ちゃんとデュエルした時は負けた事が無い!

だけど、ギターの演奏に関しては翔子ちゃんの方が全然凄いし、技術に関しても俺は足下にも及ばないくらいだよ?」

 

ん?どういう事だ?

それなのに翔子ねーちゃんにはデュエル負け無しなのか?

 

「な、何かね、翔子ちゃんは俺とデュエルする時はいつも体調が悪かったみたいでさ…」

 

体調が悪かった…?

トシキにーちゃんとデュエルする時にたまたま?

 

「あ、あのトシキさん、神原先生の体調が悪かったっていうのは具体的には…?」

 

「あ、ああ、うん。

翔子ちゃんは俺とデュエルしてる最中に急に演奏を止めてボーっとしたり、ギターを落っことしちゃったり…。顔を真っ赤にして倒れた事もあったかな」

 

急に演奏を止めてボーっとしたり?倒れたり?

翔子ねーちゃんはそんな状態でもデュエルを…。

さすがArtemisのギタリストだぜ!

 

「な、なぁ、内山。

それって神原さんの体調が悪かったんじゃなくて…」

 

「ですよね…僕もそう思います…。

神原先生は多分トシキさんに見惚れて…」

 

「だよな?」

 

松岡パイセンも拓実もコソコソと何を話してんだろ?

 

「翔子ちゃんは別に身体が弱いって訳でもないのに、何故か俺とのデュエルの時だけね…あはは…」

 

「なぁ、内山。

佐藤さんは全く理由がわかってないみたいだな」

 

「うん。さすがBREEZEのギタリストですよね。

タカさんといい勝負ですね。こういうとこ。

はぁ~…。渉もどんどんこんな感じになってきてるしなぁ~」

 

ん?拓実のやつ俺の名前出したか?

何だろう?すげぇ気になる。

 

 

 

 

と、そんな事があって、今から翔子ねーちゃんと結弦さんのデュエルが開始されようとしていた。

 

「翔子ちゃん…さすがだね…」

 

「佐藤さん、この神原さんの演奏。

まるでこないだの雨宮さんみたいな…」

 

「うん、折原さんの音の刹那に神原先生が音を被せてきてる…。これが15年前のギタリストの演奏…」

 

開始されようとしている所じゃなかった。

どうやら俺の回想中にデュエルは始まってしまったらしい。

俺の回想シーンが長すぎたようだ。

 

 

「どうだガキ。これがお前とあたしの差だ。

トシキさんに聞いたけど、あんた大志にこの技法で負けたんだってね?」

 

「(う、嘘だろ…!?南国から帰ってきてから俺はあの時の雨宮 大志に打ち勝てるように練習してきたんだぞ…!?それを…!!)」

 

「喋る余裕もないか…」

 

「(これが15年前のギタリストの…。俺はまだまだだ…。だが、それは俺がもっとすげぇギタリストになれる可能性があるって事だ…!こいつらに…神原さんと佐藤さんに勝つ時には俺は…きっと…!!)」

 

 

 

 

「確かに根性だけはあるみたいだね。最後までやりきるとは正直思ってなかった」

 

「ハァ…ハァ…。息も切れてねぇのかよ…ハァ…ハァ…」

 

結弦さんと翔子ねーちゃんのデュエルが終わった。

 

結弦さんのギターも俺は凄いと思っている。だけど、翔子ねーちゃんの演奏には足下にも及ばなかった。

 

「翔子ちゃんも折原くんもお疲れ様…。

翔子ちゃん…ちょっとやりすぎじゃない?」

 

「そ、そんな…!?だ、だって…だって…うぇぇぇん…」

 

「わ!?わわわ!?翔子ちゃん、怒ってる訳じゃないから泣かないで…!」

 

「ねぇ、松岡さん…神原先生のあれって…」

 

「ああ。十中八九ウソ泣きだろうな…」

 

え?あれウソ泣きなの?

拓実と松岡パイセンは何であれがウソ泣きだってわかるの?

 

「佐藤さん!」

 

「ん?折原くん?」

 

「ん?あれ?トシキさん?

もうちょい。もうちょいでその手があたしの頭に届きますよ。ほら、あたしを泣き止ます為に早く撫で撫でして下さい」

 

トシキにーちゃんが泣いている翔子ねーちゃんの頭に手を置こうとした瞬間。

結弦さんがトシキにーちゃんに声を掛けた。

 

トシキにーちゃんは翔子ねーちゃんの頭の手前で手を止めて結弦さんの方に目をやった。

 

……翔子ねーちゃんお疲れ様。

 

「折原くん、どうしたの?」

 

「…どう言えばいいか。

さっきの…あんたを試すような言葉。悪かった。

いや……すみませんでした」

 

「気にする事ないよ。俺は折原くんの気持ちもわかるからね。それに…デュエルの相手が翔子ちゃんじゃなくて俺だったら、折原くんは負けてないかもしれない」

 

「トシキさん!ほら!頭!頭!」

 

翔子ねーちゃんはトシキにーちゃんの方に頭を向けているけど、トシキにーちゃんはそんな事も気にせずに結弦さんとの話を続けた。

翔子ねーちゃんドンマイ!

 

「どうする?俺ともデュエルやってみる?」

 

「いや、遠慮しておく。

今の俺じゃ…多分あんたには勝てねぇ」

 

「あ、あはは。そんな事は無いと思うけど…」

 

「テクとかの話じゃねぇ。ハートの問題だ。

15年のブランクのあるあんたにはギターテクでは勝てるかも知れねぇ。だが、ハートは今の俺じゃどう足掻いて勝てそうにねぇ。今は素直にそう思える」

 

「……うん、そっか」

 

「だから…頼む!

あんたの企画バンドに…俺を…俺をギタリストとして入れてくれ!

そしてあんたと…佐藤さんと神原さんにギタリストとして足りない事を教えてもらいてぇ!

あんたらの言う事なら何でも聞く…!だから!!」

 

「ありがとう折原くん。

俺の企画バンド…WORLD CRISIS(ワールド クライシス)のギタリストを引き受けてくれて」

 

「WORLD……CRISIS…?」

 

WORLD CRISIS?

それが俺達企画バンドのバンド名か…。

 

「うん。意味は…。

やっぱり言うの止めとこうかな」

 

あれ?バンド名の意味とか由来とか教えてもらえないの?

 

「このバンド名の意味は…これからみんなで感じとって欲しい。渉くん、拓実くん、松岡くん、折原くんならきっと見つけてくれると思うから」

 

「僕達が…見つける…?」

 

「なるほどな。この企画バンド…。やっていけば…いや、やっていく中で俺達自身で意味を見つけろって訳か」

 

俺達が…自分でこのバンドの意味を…?

 

 

 

 

それからトシキにーちゃんと翔子ねーちゃんから、このWORLD CRISISをやっていく上での話を少ししてもらった。

 

俺と拓実はトシキにーちゃんにBREEZEのにーちゃんと拓斗にーちゃんの技術を。

結弦さんと松岡パイセンは翔子ねーちゃんに部活のメンバーに教えているセッションの技術を教えてもらえるらしい。

 

ただ、それは俺達にとっての正解かどうかは俺達が見つけるという事になっている。

俺達の音楽は俺達で見つけるのが正解だからと…。

 

 

「しかしとんでもない事になったよね~。

企画バンドかぁ~、おっちゃん達も色々考えてるんだね」

 

「うん…。でもAiles Flammeとは違うバンドで練習するのも、いい経験にはなりそうだと思ってるよ。僕はまだまだベースの技術はダメダメだしさ」

 

「お前らはまだバンドだからいいじゃねぇか。

オレなんかアイドルグループだぞ?ダンスとか正直自信ねぇよ」

 

今、俺はAiles Flammeのメンバー。

シフォン、拓実、亮と帰路についている。

 

特に待ち合わせしてた訳じゃないけど、たまたま帰りが一緒になった。

 

「俺はトシキにーちゃん達の企画バンド楽しそうって思ってるぞ!

でもな。やっぱり俺の一番はAiles Flammeだ!」

 

「渉くんは改まって何を言ってるの?

ボクだってもちろん一番はAiles Flammeだよ」

 

「僕もそうだよ!トシキさん達の企画バンドもしっかり頑張るけど、僕はAiles Flammeのベーシストなんだから!」

 

「オレもそうだ。なるだもんな、オレ達Ailes Flammeが天下一のバンドに」

 

うんうん!やっぱりAiles Flammeが最高のバンドだな!

企画バンドは企画バンド。

俺もしっかり頑張って勉強もさせてもらうつもりだ。

 

だけど天下一のバンドは。

東雲 大和の言ってる天下一のバンドは、俺達が…Ailes Flammeがなってみせる!

 

「……っと。

話もまだまだ、し足りねぇ気もするけどここまでだな。

拓実とシフォンはあっちだろ?渉はうちで飯食って行くか?」

 

「あ、ほんとだね。

じゃあシフォン、途中までだけど一緒に帰ろうか」

 

「うん、そうだね!渉くん、亮くんまた明日ね!」

 

「シフォン…気を付けて帰るんだぞ。

クッ…心配になってきた。シフォン、やはりオレもお前らと一緒に帰ろうか?何なら家まで送るぞ?ご両親にも挨拶しておきたいしな」

 

「え?あ、ああ、うん、ありがとう亮くん、でも大丈夫だよ」

 

「さ、シフォン。僕と帰ろうか。亮が変な事やらかす前に…」

 

「変な事…?う、うん、そうだね!」

 

「じゃあな!拓実、シフォン!

亮、俺達も帰ろうぜ!親父さんのカツ丼も食いたいしな!」

 

そう言って俺達は別れ、俺は亮と一緒に亮の親父さん達がやっている定食屋で晩飯を食う事にした。

SCARLETの食堂じゃあんまり食べる時間無かったしな。

 

 

 

 

 

 

そして…亮の親父さんのやっている定食屋に入った時、俺達は見たんだ。いや、見てしまった?どんな言葉もしっくりと来ない。

 

そいつは味方の雰囲気でも敵の雰囲気でもなく、生きているようにも死んでいるようにも見え、存在すらあるようでなかった。暑くて寒い、冷たくて火傷しちまいそうな…。

 

ただ…俺達はとうとうあいつと会ってしまったんだ。


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