バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第27話 レガリアの在りか

「あ?お前何を怒って…」

 

今、タカは英治に胸ぐらを掴まれている。

英治は今にでもタカを殴ってしまいそうな…、そんな雰囲気をまわりは感じていた。

 

俺の名前は宮野 拓斗。

前回の話のトシキからバトンタッチされて、今回は俺がモノローグを担当している。

 

俺達は企画バンドの話を終え、BREEZEのメンバー、ボーカルだったタカ、ギタリストだったトシキ、ベーシストだった俺、ドラマーだった英治、そしてチューナーだった英治の嫁の三咲。

この5人で久しぶりに飲みに行くはずだった。

 

だが、三咲との待ち合わせ場所へ向かう途中、かつて俺達のライバルバンドのボーカルだった波瀬 源二郎と鉢合わせた。

波瀬はONLY BLOOD2代目のボーカル大神 大吾からタカに継承された射手座の宝玉を渡せと言ってきた。

 

射手座の宝玉、レガリアはタカにはもちろんだが、俺達BREEZEにとっても大切なものだ。

だが、今はもうアノ時じゃない。

タカはレガリアを使えないだろうしな。

 

大神さん達の戦いや音楽への想い、俺達の戦いや音楽への想いは、後世のニュージェネレーション達に語り継ぎ、託していかなくてはならない。

それはタカだってきっとわかっちゃいるんだろうが、ファントムのメンバーに託すのは嫌だろう。あんなクソみたいな戦いにはファントムの奴らを巻き込みたくねぇと思ってんだろう。

俺だってそうだ。あいつらにはこれからは楽しい音楽をやっていってもらいたいと思っている。

まぁ、クリムゾンとの戦いには巻き込まれちまったが…。

 

トシキや英治も俺と同じ気持ちだろう。

そう思っていたんだが、英治は波瀬にレガリアを譲ろうとした時、英治が怒りタカの胸ぐらを掴んだ。

 

英治?何を怒ってやがんだ…?

 

「タカ!レガリアはっ!射手座の宝玉は、大神さん達からお前に託された大事なもんだろうがっ!BREEZEのTAKAに託された大事なもんだろう!?」

 

「お、おい中原オメェ…」

 

「うるせぇ波瀬!黙ってろ!俺は今、BREEZEのEIJIとしてTAKAと話してんだ!!」

 

波瀬もヤバイと思ったのか止めに入ろうとしたが、英治に怒鳴られてしまった。

 

「タカ、お前が普段からやる気がねぇのもふざけてんのも構わねぇ。お前はそうやっててもやる時ゃやる男だからよ」

 

「英治のやつどうしちまったんだ?タカの胸ぐらを掴むとかあいつ正気か?」

 

「えーちゃんは何をあんなに怒って…」

 

「いいか、タカ。大神さんからレガリアを託されたのはお前だ!でもな!レガリアは俺達BREEZEのメンバーにとっても大事なもんなんだよ!」

 

「い、いや、そ、それは俺もわかってるけど…」

 

「わかってねぇよ!わかってんなら波瀬に渡すなんて半端な真似するわけねぇ!

俺だってファントムのみんな…渉くんや一瀬くん達にあんな重みは持たせたくねぇとは思ってる!けどな、大神さんの想いやお前の想いは、俺達が託していかなきゃなんねぇもんなんだよっ!!」

 

英治…。

そうか、お前は…お前にとってもレガリアは…。

そうだな。確かにそうだ。

そんな大事な役目は波瀬なんかにゃ任せてらんねぇよな。

 

「確かに俺はもうバンドもやってねぇ…。BREEZEも15年前に解散したバンドだ。だけどな、俺は今でもBREEZEのドラマーだと思ってんだよ。俺の大将はお前なんだよタカ」

 

英治わかる。わかるぜ。

すまねぇ英治。俺も波瀬に渡してしまってもいいと思っちまってた。だけど今はお前の意見に肩を入れるぜ。

 

「う~~ん…」

 

「どうしたトシキ?」

 

「宮ちゃん?あのさ、何か変じゃない?」

 

「変?どういう事だ?」

 

「いや、いつものえーちゃんならさ」

 

『おい!良かったなタカ!レガリアの継承者は波瀬が見つけてくれるってよ!ファントムの誰かに託すのは何かな~って思ってたし、ちょうど良かったよな!』

 

「とか言いながら笑ってそうじゃない?」

 

「あ?確かに…そう言われたらその方が英治っぽいよな」

 

そういやそうだ。

英治が珍しくまともな事を言うもんだから騙されかけたぜ。

 

「あ、あのな?英治、とりあえず落ち着けな?そもそもレガリアは…」

 

「頼むぜ大将…俺を…俺達をガッカリさせないでくれ」

 

そう言って英治はタカの胸ぐらから手を離し、俺とトシキを連れてタカと波瀬から離れた。

英治、お前本当にどうしちまったんだ?

何で俺達を…?

 

そう思っていると、英治は再びタカと波瀬の方へと顔を向けて…

 

「タカ!俺とトシキと拓斗はここからお前のやり取りを見させてもらう!レガリアの後継者を見つけるのは俺達BREEZEだ!テメェはそこで波瀬にその事を説明して納得させろ!」

 

「え?は?何で?」

 

「お、おい、葉川。中原のやつどうしちまったんだ?

レガリアを譲ってくれってのは俺達の勝手な言い分だしよ。お前らが気に入らねぇってんなら俺は無理矢理譲ってもらおうとは思ってないぜ?」

 

「何してんだタカ!さっさと波瀬と話し合えって言ってんだよ!」

 

「な、何を言ってんだあいつ?まぁ、いいか。

波瀬、そんな訳だからレガリアは…」

 

「いや、さっきも言ったが今は無理矢理とは…」

 

英治の迫力に押されたのか、タカと波瀬は俺達から離れた所で話し合いを始めた。

 

さて、英治のやつ。

一体どういうつもりなんだ?

俺は英治の方へと顔を向け、どういうつもりか問いただそうとしたんだが…

 

「よ、良かった…上手くいった…。生きた心地しなかったぜ…タカの胸ぐらを掴むとかどうしようとか思ったが、勢いで何とか押しきる事が出来た。本気で怖かった…もう全部ちびった後で良かったぜ…」

 

英治?どういう事だ?

さっきのやり取りの事も気になるには気になるが、全部ちびった後ってどういう事だ?お前まさか…

 

「えーちゃん、さっきのはすごく不自然過ぎるよ?はーちゃんも変に思ってるんじゃない?一体どうしたの?」

 

「頼むトシキ、拓斗。

俺はBREEZEを結成した時からお前らの事は親友以上の大切な戦友だと思って愛している。だから今から話す事はタカに内緒にして俺の味方になってくれ」

 

「え?はーちゃんに内緒に…?」

 

「英治テメェ、南国DEギグで久しぶりの再会をした時、俺を金属バットで殴り飛ばそうとしてただろ?なのにそんな事を言うのか?」

 

ってかタカにさっき『お前は俺の大将だ』的な事を言ってやがったくせに、その大将には内緒の話なのか?

嫌な予感しかしねぇんだけどな。

 

「レガリアは15年前、タカが足立との戦いを終えた時だ。足立を倒す事は出来たが、タカは歌えなくなり俺達は解散した」

 

ああ、そうだな。

あの時にタカを一人で行かせなければ…。

いや、タカの喉のダメージもそうだが、俺達も日々のクリムゾンとの戦いでダメージをおっていた。

あの時の俺達にもっと力が…。いや、ダメだ。

必要だったのは力じゃねぇ。俺達はあの時はそうだったから、ダメだったんだ。今なら俺もわかるぜ。

 

「そしてBREEZEを解散後、タカは俺達の後継者が現れるまで、託すバンドが現れるまで、レガリアは俺に預かっててくれとレガリアを渡してきた」

 

「それは俺達も知ってるよ。俺も宮ちゃんもその場に居たんだし」

 

「ああ、その時の事はもちろん覚えてるぜ」

 

「少しだけ俺の昔話に付き合ってくれ。そう、忘れもしねぇ…あれは2年前…の事だったかな?」

 

忘れてんじゃねぇか?

 

 

 

 

2年くらい前だったと思うんだが、その頃の大晦日も間近に迫った年末くらいの事だ。

 

俺は初音に怒られながら、嫌々しぶしぶと俺の部屋の大掃除をしていた。

 

「んッだよ、も~!特に掃除する所なんかねぇよ~」

 

「お父さん!毎年毎年大掃除から逃げて!今年こそはちゃんと掃除してよね!押し入れも何年も掃除してないでしょ!」

 

押し入れの中かぁ…。確かに何年も掃除してないな。

何を入れてんのかも覚えてねぇしな…。

 

「いい?今年こそちゃんと掃除しないと、私ぐれちゃうからね?反抗期になってお父さんのパンツ全部捨てちゃうからね!」

 

「ああ、わかったわかった。ちゃんと掃除するよ。面倒くせぇけど。ぐれちゃうのはいいけどパンツ捨てられると困るしな」

 

「約束だからね!私は他の部屋掃除してくるからサボっちゃダメだからね!サボったりしたら、夜中寝たふりしてお父さんとお母さんの寝室覗いちゃうからね!」

 

何て恐ろしい事を言う娘だろう。

早くタカの所に嫁に行ってもらいたい。初音が16歳になって結婚出来るようになったら、タカを酔わせて騙して婚姻届に判を押させよう。

そう思いながら俺は長年開ける事なく封印していた押し入れの扉を開けた。

 

「おお!?こ、これは!?」

 

俺は押し入れの中にあったダンボールの中から、昔、俺が若かりし頃にコレクションしていたえっちぃ本や、えっちぃDVDが大量に出てきた。

 

「な、何という事だ…こんな、こんな所…に…う、うぅ…」

 

俺は泣いた。

三咲と結婚した時に全て処分されたと思っていたが、俺は厳選したコレクションを大切に保管していたのか…と。

 

俺は大掃除の事なんか忘れて、そのコレクションを見返しながら整理を始めた。

 

そしてそのダンボールの中から、小さな箱が出てきた。

見覚えのない箱だったが、こんなコレクションを入れていたダンボールの中にあったのなら、きっとえっちぃ物に違いない。

 

俺はそう思い、ワクワクしながらその箱を開けた。

 

「あ?ネックレス…?何だこれ?」

 

箱の中から出てきたのは、ヘッドの部分に綺麗な宝石の付いたシルバーチェーンのネックレスだった。

 

「ホント何だこれ?こんなダンボールの中に入れてたって事は三咲へのプレゼントって訳でもねぇだろうしな。って事は他の…おっとあの頃の事は黒歴史だ。今は俺も真面目だしな。うん」

 

俺はこのネックレスはマズイ物だと判断した。

これが初音や三咲に見つかってしまっては、一方的に俺が暴力をふるわれるだけの夫婦喧嘩の火種になりかねない。

 

これは再び箱の中に入れて封印しておこう。

そう思った時だった。

 

「お父さ~ん!ちゃんと掃除してる~?」

 

マズイ!初音がこの部屋に近付いて来ている!

初音にはまだこのコレクション達を見せるには早すぎる!!

 

俺はとっさにそう判断し、コレクション達を丁寧に梱包して再び押し入れの中へと戻した。

 

「お父さん!……ってあれ?ちゃんと掃除したんだ?」

 

「当たり前だろ。お前はお父さんを何だと思ってんだ?不燃物もちゃんと分別してるしぬかりはないぜ?」

 

しかしその時俺は焦っていた。

コレクションをしまう事には成功したが、俺の手にはまだネックレスが残っていたからだ。

 

「なら良かった。ちょっと私の部屋のベッドとか動かしたいんだけど思ってた以上に重くて。お父さん手伝ってよ」

 

これはマズイと思った。

このネックレスを何とかしてからじゃないと手伝いに行くわけには…。

 

「あ?力なら圧倒的に俺より三咲の方が強いじゃねぇか。三咲に手伝ってもらえ三咲に」

 

俺は何とか初音から逃れようと考えたが

 

「いや、お母さんは台所の掃除に忙しいし。お父さんも部屋の掃除終わったんだし少しくらいいいじゃん」

 

「いや、でもな…」

 

「あー、グレて夜行性になっちゃおうかなー」

 

「あー!もうわかったわかった!手伝ってやるよ」

 

「さっすがお父さん!頼れる~♪」

 

こうなってしまっては、もう初音から逃げる事は出来ないだろう。だが、このままネックレスを持って手伝いに行くのは自殺行為だ。

 

初音が自分の部屋へ戻ろうと後ろを向いた瞬間、俺は急いでネックレスを窓の外に投げ出した。

 

「ふぅ、これで今夜も安心して熟睡出来るな」

 

「ん?お父さん何か言った?」

 

「いや、何も言ってねぇぞ。それよりベッドだなベッド。大掃除なんて早く終わらせちまおうぜ」

 

そして初音の大掃除を手伝い、その後も色々な部屋の掃除に付き合わされたが無事に大掃除は完了した。

 

その日はそれから家族で夕飯を食べ、風呂に入り、初音の勉強に少し付き合ったりしてから、俺は部屋で布団に入った。

 

「あ~…今日は疲れたな。ま、明日もファントムは休みだしゆっくり寝るか」

 

俺はまさに眠りに入ろうとしていた。

 

「ふぁ~…あ…。しっかし、あのネックレスは何だったんだろ…うな…全然覚えが…ね…や……Zzz」

 

ガバッ!

 

「お!思い出した!あれってレガリアやんけ!!」

 

まさに夢の中へ入ろうとした時、俺はあのネックレスが大事な射手座の宝玉だと思い出す事が出来た。

 

若かりし頃の俺が何を思ってえっちぃ本と同じダンボールに封印していたのか、今となっては謎ではあるがアレを投げ捨ててしまったのは果てしなくマズイ。

大神さん達や俺達の音楽の想いの詰まった大切な物ではあるが、アレを捨てたなんてタカにバレてしまっては、俺の命が死んでしまう。

 

俺は懐中電灯を手にし、急いで家の外に出てレガリアを探した。

だが、もう真夜中であり辺りは真っ暗だ。

15分程探してはみたが、懐中電灯の明かりだけではレガリアを見つける事は出来ず、俺は明日の朝一から探そうと部屋に戻り眠りについた。

 

翌日、昼前に起きた俺は昼食を食べる事もせず、必死にレガリアを探した。

20分程探してみたが、結局レガリアを見つける事は出来なかった…。

 

 

 

 

「ってな事があってよ」

 

「ってな事があってよ。じゃないよね?」

 

「つまりテメェはレガリアを…」

 

「ああ…失くした」

 

「「失くしたぁぁぁぁぁぁ!!?」」

 

「バカッ!トシキも拓斗も声がでけぇ!……タカと波瀬には聞こえてねぇだろうな…?」

 

こ、こいつ…黙って話を聞いてやってたらレガリアを失くしただと!?

 

「ちょっと!えーちゃん!それホントなの!?マジでレガリアを失くしちゃったの!?」

 

「まぁ…結局見つける事は出来なかったからそうなるな」

 

「英治、テメェはバカだバカだと思っていたが、まさかここまでバカだったとはよ」

 

「バカバカ言うなよ。俺だってホントに反省してるし、申し訳なく思ってる」

 

「いやいや、ホントに反省してる?失くしたって気付いた夜も15分しか探してないし、朝一に探すとか言いながら昼前まで寝てるし、翌日も20分しか探してないんだよね?」

 

「英治、今回ばかりは俺もお前の味方はしてやれねぇ。覚悟を決めてタカに○されろ。三咲と初音にはよろしく伝えててやる」

 

「タカに○されろ。って何だよ!だからお前らに相談してんだろうがっ!」

 

「さすがにレガリアを失くしたのは俺も許せないよ。はーちゃんの手を煩わせるまでもないね。俺が送ってあげるよ」

 

さすがにトシキもキレちゃったか。

まぁしゃーねぇな。俺もこればかりはな。

レガリアは大神さんからタカに引き継がれ、そして、タカも本来なら誰かに引き継いで…そしてその後継者もまたその後継者に…。

 

レガリアなんて誰でも扱えるようなもんじゃねぇが、その素質やその者の音楽への想いを見て、レガリア戦争なんてつまらない争いのせいで倒れていったバンドマン達の想いも語り継いでいかなきゃいけねぇもんだ。

 

昔も今も俺達がやってるのは音楽なのにな。ホント何を言ってんだ?とか思ったりもしたが…まぁ、そんな事言ったらこのお話は破綻しちゃうしな。

 

「えーちゃん?覚悟を決めてね?」

 

トシキのマジ殴りを受けたら英治もさすがにミンチになっちまうだろうな。

 

さらばだ、親友よ。

 

「待て待て待て待て待て!トシキ!本当に落ち着け!まず聞いてくれ!俺の話を!」

 

「何かな?あ、三咲ちゃんと初音ちゃんへの最期の言葉?わかった、伝えとくよ」

 

「ちげぇよ!よく聞けトシキ!

俺達が本当に受け継がせていかなきゃならねぇのは、レガリアじゃねぇだろ!大神さん達や俺達の音楽への想い、言葉、歌、そんな軌跡だろう?俺はレガリアを受け継いだ訳じゃねぇが、そういった形にならねぇ想いはしっかり受け継いだし、まだこの手の中に残ってるぜ」

 

英治…確かにいい事を言ってるんだろうが、あの話の後だとただの言い訳に聞こえてしまうぜ…。

 

「えーちゃん…確かにそうだけど…あの話の後に言う言葉じゃないよね?」

 

「レガリアなんてもんがあったから、レガリア戦争なんて起こってしまい、大神さんは音楽をやれなくなっちまった。だから、俺はレガリアなんかじゃなく、想いを受け継がせていきてぇんだ。俺のこの手とハートに詰まった俺の想いも一緒によ」

 

まぁ確かにな。

レガリアも大事なもんではあるが、俺達が本当に引き継いだのは音楽への想いだもんな。

 

「そうだね。えーちゃんの言う通りだ。

レガリアは…確かに俺も渉くん達にも、理奈ちゃんや志保ちゃんにも受け継がせたくない。…うん、俺達が伝えていかなきゃいけないのは音楽への想いだもんね。レガリアは…必要ないか」

 

「わかってくれたかトシキ」

 

え、英治のやつ…キレたトシキを納得させただと!?

さすがタカと長年付き合ってるだけあるな…。上手いこと言いやがる…。

 

「ま、それはそれとして。

俺も音楽への想いを渉くん達に語り継いでいきたいとは思ってるし、レガリアは引き継がせるのはとは思うけど、レガリアを失くした罪は消えないよね」

 

「ま、待て!待ってくれトシキ!」

 

そう言ってトシキは英治を殴ろうとした。

まぁそりゃそうだな。レガリアは渉達に渡さなきゃいいだけだし。アレを失くしたってんだからしばかれても文句はねぇよな。

ん?待てよ?渉達に語り継ぐ?それって。

 

「えーちゃん、バイバイ」

 

「南無三!」

 

……

………

 

「ん?あれ?俺トシキに殴られてない…?」

 

「宮ちゃん?何で止めるの?」

 

俺は英治を殴ろうとするトシキの腕を掴んでいた。

 

「拓斗!助けてくれるのか!ありがとう、ありがとう!」

 

「トシキ、悪いが拳を収めてくれ。レガリアを失くした事は許せねぇが、レガリアは失くなって良かったのかも知れねぇ」

 

「宮ちゃん!?な、何を言って…」

 

「今、俺達はクリムゾンとの戦いの真っ最中みてぇなもんだ。渉や春太や渚達、ファントムの連中も巻き込んでな」

 

「あ…うん、それは…そう…だね」

 

「俺達にレガリアがあって、渉達に渡さずに波瀬に渡してたとしてもだ。あいつらがレガリアを持ち、後継者を探してたりなんかしたら、他のレガリアの持ち主と鉢合わせてデュエル。そしてあのレガリア戦争がまた勃発するかも知れねぇ。他のレガリアの持ち主には会わなくても、レガリアの存在を知って、レガリアを欲しがってるバンドマンもそれなりには居るだろうしな」

 

「…!?そうだね。確かにそうだ。クリムゾンエンターテイメントはレガリアを狙ってはいなかったけど、レガリアの存在を知って欲しがってるバンドは居たもんね」

 

そう、そんな連中が増えてしまったらレガリア欲しさにまた戦いが始まるかも知れねぇ。

だったら俺達のまわりには無かった方が良かったような気もする。渉達にはそれこそ巻き込めねぇしな。

 

「…波瀬に渡しててももしレガリア戦争なんかが起こってしまったら、それこそはーちゃんは動くだろう、もしそんな事になったら俺達も…。そうなったら渉くん達も巻き込んでしまうか」

 

「ああ、梓のレガリアも失くなってしまってるしな。タカのレガリアもそれで良かったんだと…俺は思うぜ」

 

「ありがとう拓斗!本当にありがとう!持つべき者やっぱ友達だな!今度Artemisと海に行った時に撮った水着梓の写真をあげるからな!」

 

何!?海に行った時の水着梓の写真だと!?

ほ、欲しい…!めちゃくちゃ欲しい!!

しかしこの野郎、あの時写真なんか撮ってやがったのか…。

 

「ま、まぁ、その写真も貰うには貰うが、英治俺もテメェには怒ってんだ。それだけは忘れんなよ」

 

「あ、ああ。本当に悪かった。マジ反省してる」

 

さて、ここからがネゴシエーションの時間だ。

俺もタカとは付き合い長いしな。あいつを見習って…と

 

「さて、俺は今トシキからお前の命を守ってやった訳だ。俺はお前の命の恩人だ。わかるな?」

 

「あ、ああ、わかってるけどよ。何だよ急に」

 

「今から俺がお前に頼む事。これは他言無用だ。特にタカに知られないようにしろ。そしてテメェは黙認しろ」

 

「あ?タカに?俺は黙認?」

 

「ああ、英治、お前もさっき言ってたよな?大神さん達や俺達の音楽への想いは語り継いでいきたいってよ」

 

「あ?ああ、まぁな」

 

「俺とトシキ、そしてArtemisのやつらでファントムの連中に昔の俺達の戦いや、どんな音楽をやってきたかを話す」

 

「ちょ、宮ちゃん!?それはえーちゃんには!」

 

大丈夫だトシキ。俺に任せろ。

 

「あ?ファントムのみんなに?」

 

「ああ、テメェの黒歴史やタカの恥ずかしい過去なんかも場合に寄っては話す事になるだろうな」

 

「!?バ、バカかお前!ファントムのって事はまどかや綾乃もいるんだろうが!あいつらに俺の黒歴史なんか知られる訳にはいかねぇんだよ!」

 

「テメェは黙認しろって言っただろ。何だ?嫌なのか?」

 

「嫌に決まってんだろ!アホかお前は!!」

 

「交渉決裂か。チッ、しょうがねぇ。

トシキ、さっきは止めて悪かったな。英治はお前の好きにしてくれ」

 

「え?宮ちゃん?いいの?」

 

「ちょっと待てよ拓斗!わかった!黙認する!どうせあいつらも多少は俺の過去を知ってやがるだろうしな!黙認するよ黙認!だからトシキを止めてくれ!」

 

「よし。黙認するんだな?トシキ、そんな訳だ。ファントムのやつらにあの時の話をする為にも今英治を屠るのは止めてやってくれ」

 

「ああ…もう香菜にすら先生と呼ばれなくなったらどうしよう…うぅ…」

 

よし、ここまでは予想通りだ。

次の手は…。

 

「交渉は終わりだ。さて、タカに英治のやつがレガリアを失くしたって伝えてくるか」

 

「!?ま、待てよ拓斗!さっき約束したじゃん!俺は黙認するって!なのに何でタカにチクるの!?お前俺の事嫌いだったっけ!?」

 

ここまで英治が予想通りに動いてくれると、人生ってやる気になりゃ何でも思い通りになるんだろうなとか錯覚しちまうな。

 

「あ?何を言ってやがる。トシキから命を助けてやったから、テメェは昔の話を黙認するって約束だろうがよ。タカに話さないとは言ってねぇ」

 

「宮ちゃん…それはあまりにもさ…」

 

「そうだそうだ!トシキの言う通りだ!何の為にあんなひと芝居うってタカから離れてお前らだけに自白したと思ってんだ!」

 

「あ?知った事かよ。トシキなら一撃でお前を仕止めてくれただろうが、覚悟しとけよタカはネチネチ攻撃してくるぞ?」

 

「待てよ!お願い!本当に待って!何でもするからっ!」

 

何でもする…か。

ここまで思い通りになるとは…。

 

「英治、何でもするんだな?テメェに二言はねぇな?」

 

「もちろんだ!あ、でも梓と結婚させろとか不可能な事は出来ねぇからな?俺に出来る範囲でだから!」

 

梓と結婚するってのは不可能な事なのか…。

ヤバい、泣きそうになってきたぜ。お家帰りたい。

…いや、だが今は泣いてる場合じゃねぇな。

 

「梓と結婚って別に不可能じゃね…」

 

「いや、無理だって。無理無理。不可能だから早く諦めろ」

 

ヤバい。本当に帰りたい。帰って枕を濡らしたい。

 

「宮ちゃんには悪いけど俺も無理だと思うなぁ」

 

トシキまで!?

 

「お前らうるせぇよ。今はそんな話をしてる場合じゃねぇ。英治、今から俺の言う事をやんならタカにレガリアを失くした事を黙っててやる。いや、それよりレガリアは俺が失くした事にしてやるよ。どうだ?」

 

「な!?レガリアを失くしたのを拓斗のせいにするだと!?」

 

「ああ。そんかわりファントムの連中に俺達の過去を話す時、テメェも参加しろ。俺やトシキが知らねぇ話もあるだろうしな」

 

そう。いくら俺達がいつも一緒だったと言っても、毎度毎度一緒だったって訳じゃねぇ。

俺が知っててもトシキや英治の知らない話や、トシキが知ってて俺や英治が知らない話、英治が知ってて俺やトシキが知らない話、俺達みんなが知っているが、感じ方や想いが違った話なんかもあるだろう。

 

ファントムの連中に俺達の事を話すなら、きっと今回以上に深く話す時は稀にしかないはずだ。全員が揃う事もな。

 

「いや、いくら何でも…お前らが話すって事を黙認するのはいいとして、俺まで話をさせられ…」

 

「ん?どした?レガリアを失くした事をここでタカにバレて○されるか、多少恥をかくかの2択だろ?○されるよりは…」

 

「…いや、ちげぇよ。そうじゃねぇ。

わかった、その話乗ったぜ。俺もまどか達にいつか話してやりてぇと思ってたしな。いい機会っちゃいい機会か」

 

「えーちゃん…」

 

フッ、いつもふざけてるバカだと思っていたが、やっぱこいつも想いの根っこは一緒だな。

 

「よしわかった。英治、約束だぜ?そんかわりレガリアの罪は俺が背負ってやるよ」

 

「ああ、いや、それもな…。やっぱレガリア失くしたのは俺だしよ。お前に罪を被ってもらうのはな…。

失くしたってのだけ内緒にしておけばいいじゃねぇか」

 

「あ?今は良くても今後タカがレガリアを出せって言ってきたら困るだろ?」

 

「でも…本当にいいの?はーちゃんが怒った時の怖さは宮ちゃんもわかってるでしょ?」

 

「そうだぜ、拓斗。レガリアを失くした俺が言うのも何だが、あいつ怒らせたらヤバいぞ?俺も逃げたいと思ったくらいだしな」

 

「ああ、わかってんよ。ちゃんと考えはある。

考え無しにあのタカに挑もうとする程バカじゃねぇ」

 

多分…大丈夫だと…思う。うん。

 

「だって、宮ちゃんは南国DEギグの時も思いっきり殴られてたじゃん」

 

「そうだぜ、拓斗。タカから逃げたいと思った俺が言うのも何だが、あいつは俺達相手なら容赦なく手をあげるぞ?」

 

「んな事は昔っからわかってんよ。怒らせたら俺達の言い分なんか聞かねぇだろし…」

 

だから何とかさっきの英治みたいに押し通さねぇとな。

 

「本当に大丈夫?それに今は大人しいけど、昔のはーちゃんはスーパー我が儘大王だよ?」

 

「そうだぜ、拓斗。お前が罪を被ってくれると聞いて安心してる俺が言うのも何だが、あいつは自分の思い通りにならなかったら平気で殴ってくるぞ?」

 

「それでいて変な事はずっとネチネチと覚えてやがるしな」

 

「うん、そして何かすごい事があったらやたら自慢してくるしね」

 

「なぁ、今のあいつは波瀬と会って昔に戻りつつあるしよ。やっぱ逃げようぜ」

 

確かに昔のあいつなら俺がしばかれる未来しか見えねぇが。今のタカなら大丈夫だろう。

…大丈夫だといいなぁ~。やっぱ2、3発は殴られる覚悟してた方がいいかなぁ~?

 

「ほら、高校ん時のあの事とか…」

 

「あ、そういえばあんな事もあったよね」

 

「何であの時の俺達はあいつに着いて行ってたんだろうな?」

 

昔を思い出せば思い出す程、俺の心は折れそうになっていた。

だが、渉達ファントムの連中に俺達の事を話す為、梓の水着写真の為にもやり遂げなければ…。

 

あの頃の話を聞いて明日香や架純や聡美の音楽への想いがもっと復讐なんてつまらないものと思ってもらえる機会でもあるしな。

 

俺達がそんな話をコソコソとしている時だった。

 

「なぁ?何かお前ら俺の悪口言ってねぇか?なんとなくそんな気がするんだけど?」

 

タカ!?

 

「やだなぁ、はーちゃんは。

俺達がそんな話をするわけないじゃない」

 

トシキがすかさずタカに否定してくれた。

 

「ほら拓斗。ヤバいって。こんだけ離れてコソコソ話してんのにあいつに聞こえてるかもじゃん」

 

「ホントだよ。ヤバいよ宮ちゃん」

 

何でこの距離でこの話の声量でタカに聞こえてんだ。

マジあいつ地獄耳かよ。

 

「んー?やっぱお前ら俺の悪口言ってんじゃねぇの?」

 

そう言いながらタカは俺達の方へと歩いて来た。

 

や、ヤバい!?

波瀬との話はどうなったんだ!?

そんなに俺達の会話が気になんの!?

 

「チ、トシキ、英治。時間がねぇ。後は俺に任せろ。そして英治は約束忘れんなよ!」

 

「宮ちゃん、ホントにいいの?」

 

「だから、その事ならファントムのみんなにあの時の事を話すいい機会だって俺も言っただろうが!だけどタカには絶対言うなよ!」

 

…よし、これからの…ファントムの為だ。

俺は覚悟を決めた。

多少殴られて泣く程度で済むだろ。

明日香達に楽しい音楽ってやつを教える為、いわば俺の贖罪みたいなもんだ。

 

見てろ、トシキ、英治。俺の生き様を。

 

「タカ、別にお前の悪口を話してた訳じゃねぇ。

トシキと英治には先に謝ってたんだ」

 

「あ?お前がトシキと英治に?」

 

「まず怒らずに最後まで話を聞いてくれ。波瀬もな」

 

タカは騙せるかわからねぇが、波瀬を騙す事は出来るだろう。そして、波瀬を騙す事が出来れば、取り敢えずこの場はタカは納得せざるを得ないはず。

そしたらその後は三咲を待たせてるからとか何だでうやむやに…。

 

「拓斗、話って何だよ?」

 

おっと、考え込んでる場合じゃねぇな。

 

「タカが英治に預けたレガリア。アレは俺が英治から奪い取った。そして、レガリアはもう俺の手にはねぇ。何処にあるかもわからねぇ」

 

「あ?拓斗、お前何言ってんだ?」

 

「宮野!それはどういう事だ!?俺の聞き間違いか!?オメェ、今レガリアは何処にあるかわからねぇって言ったか!?」

 

波瀬、上手く食いついてくれたな。助かるぜ。

 

「宮ちゃん、大丈夫なの?」

 

「拓斗、お前…俺の為に…グスッ」

 

トシキ、心配すんな。大丈夫だ。

そして英治、別にお前の為じゃねぇ。

 

「話を最後まで聞けって言っただろ。

俺は、レガリアを後継者に託す為に英治からレガリアを奪ったんだ。そして俺はレガリアをある男に託したんだ」

 

「あ?拓斗?お前何言ってんの?」

 

「何だと!?宮野!?そ、それはどういう事だ!?」

 

タカの反応は予想外だが、波瀬の反応は予想通りだな。

…タカにいきなり殴られなくて良かった。

 

「波瀬も噂程度には知ってるだろうが、俺はBREEZE解散後も1人でクリムゾンと戦いながら日本中を旅していた」

 

「ああ、それは俺も知ってるぜ。オメェ、木原のmakarios biosを探して…」

 

ああ、こいつもさすがあの時代のバンドマンだな。

makarios biosの事も知ってやがるか。

 

「ああ、その旅の途中で、俺はあの頃のタカを、そして、大神さんを思い出させる男に出会ったんだ。

俺はそいつに惚れこんで、大神さんや俺達の戦い、音楽への想いを話した」

 

「ほう…それで?」

 

何かタカの反応冷たくないか?

 

「オメェらと大神さん達の話を聞かせて…そいつはどうなったんだ!!」

 

波瀬は予想通りだな。

 

「宮ちゃん…それ…本当なの…?」

 

トシキ、すまん。ただのでまかせだ。

 

「拓斗、お前…まさかその男にレガリアを…!?」

 

いやいや、ないだろ。英治、お前本当にアホなの?

レガリアはお前が失くしたんじゃん。

俺が仮にそんな奴と出会ってても渡せるわけねぇだろ。

 

「俺はその男にレガリアを託し、そいつは大神さんや俺達の想いも背負って歌ってくれると言っていた」

 

「ほう…それで?」

 

「大神さん達やオメェらの想いを背負って…か」

 

「…あの頃の想いを背負って歌ってくれるのは少し複雑だけど、少し嬉しい気もするね」

 

「あ。それならそいつからまたレガリア返してもらったらよくね?」

 

英治、お前は本当にアホだな。本当にアホだ。

 

「だが、俺がそいつにレガリアを託したのもずっと昔の話だ。そいつはまたそいつが見つけたヤツに大神さんや俺達の想いと、そいつの想いをレガリアと共に託したらしい。そうやってレガリアは想いと共に次世代次世代へと受け継がれ、今では俺もどこにあるのかわからねぇって話だ」

 

「はぁ~ん…なるほどな」

 

タ、タカ…?

 

「グスッ…なるほどな。オメェもBREEZEのメンバーだっただけあるな。さすが宮野だぜ…グスッ、そして俺は、ONLY BLOODの波瀬 源二郎だぜ!」

 

こいつ何泣いてやがんだ。

さすがに泣かれると心が痛むんだが…。

 

「宮ちゃん…思い付きにしてはいいお話だと思うよ」

 

トシキ!黙って!

 

「なるほどな。それならレガリアは諦めるしかねぇな。チッ、拓斗め。それならそうともっと早く言えよ」

 

英治。

俺が約束したのはトシキから命を守ってやる事とタカにチクらねぇって事だけだからな。俺が殴らねぇって約束はしてねぇからな?

 

「なるほどな。よくわかったぜ。

レガリアは今もきっと大神さん達の遺志を継いだヤツラがその想いと共に守っている。そう思っておくぜ」

 

いや、遺志ってな。

大神さん達はバンドは辞めたが別に亡くなった訳じゃねぇから。

 

「フッ、だったらもうオメェらにも用はねぇ。

邪魔したな。俺はもう行くぜ」

 

そう言って波瀬は道脇に停めてあったスモークバリバリの真っ黒な大きな車の後部座席に乗り込み

 

「俺はONLY BLOODの波瀬 源二郎だぜ!」

 

わざわざ窓を開けてそう言って、この場を去っていった。

 

何なのあのいかつい車!

あいつやっぱそっちの人じゃないの!?

 

まぁ何にせよ。波瀬は納得したみたいだし、俺の土壇場の言い訳も何とか良かったって事かな。

 

「いや~参ったよなタカ。

波瀬も今更レガリアを寄越せとか言ってきたのもビックリしたがよ。まさかレガリアは拓斗が後継者に渡してたなんてな。いや~、俺達の肩の荷もおりたってもんだぜ」

 

英治…やっぱお前は後で思いっきりぶん殴る。覚悟してやがれ。

 

「さ、三咲も待ってるだろうしな。さっさと俺達も行こうぜ」

 

あ、やべぇ。そういやそうだったな。

かなり時間をくっちまった。三咲のヤツ怒ってなきゃいいけどよ。

 

「英治…」

 

「あ?どうしたタカ?早く行こうぜ?」

 

「テメェ…」

 

あ?タカのヤツどうしたんだ?

急がねぇと三咲が怒った時の怖さはタカも知ってるだろう?

 

「テメェ、レガリア失くしたな?」

 

そう言ったタカは鬼の形相をしていた。

な、何で!?何でバレた!?

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