Side 川上宗一
「こら、放しなさい須川! 吉井、川上! アンタ達絶対に許さないからね!」
「は、早く連れて行って! なんかその禍々しい視線だけで殺されそうだ!」
「そ、その通り! 須川、早く錯乱した島田を本陣に!」
「ちょっと、放し―――殺してやるんだからぁ!!」
恐ろしい捨て台詞を吐いた島田は須川に羽交い絞めにされてFクラスの教室の方へ連れてかれる。
それにしてもなんて鋭いパンチを放つんだ島田は。まだ鼻血が止まらないし。高校止めてボクシング始めれば世界がとれるよ。
「ねえ、宗一、本当に恐ろしいのは戦争中の相手じゃなくて味方なんじゃないかな……?」
同じく鼻血を流している明久は疲れ切ったようにそうぽつりとこぼした。それには同意せざるを得ない。
僕は顔を両手でぱあんとはたいて、改めて気合を入れ直す。
「よし、それじゃあ全員、仕切り直しだ! 20分――いや、30分時間を稼ぐ! それまでなんとしてでも生き延びろ! 1点でも残れば戦死にはならない、覚悟を決めるぞ!」
『『『 オォ――――!!! 』』』
秀吉達が補給に向かってすでに30分近く経過している。
この戦争が始まってからはすでに1時間以上。もうすぐ放課後だ。雄二の作戦が実行できる時間。
そして、僕らの切り札が力を蓄える時間も十分だろう。
「全員死ぬな! 死ぬなら
『『『 おっしゃぁ――――!!! 』』』
男共が拳を振り上げ気合を入れる。
ここからが踏ん張り所だ!
「宗一」
「どうした?」
「鼻血流してて、全然締まらないよ」
「うるさい」
―――――――――――
「川上隊長! 横溝がやられそうだ!!」
「五十嵐先生側の通路だが、俺以外の疲弊が激しい!! 援軍を頼む!」
「藤堂の召喚獣がやられそうだ! 助けてやってくれ!」
「宗一! なんとかできないのぉ!?」
やはり、Dクラスとの地力の差がじわじわ出てきた。モチベーションや士気はこっちの方が高いとはいえ、戦力はやはりあちらの方が上だ。
これでDクラスよりFクラスのほうが人数が上とかだったらもっとやりようがあったんだけど、ないものねだりはできない。
「みんな、一度下がれ! ――
もう一度僕は召喚獣を呼び出し、筆を振るう。
Fクラス 川上宗一
化学 7点
召喚獣が筆を振ると、Dクラスの召喚獣たちの足元が青色の絵の具で塗られる。
「な、なにこれ!?」
「絵の具で急に滑って……!」
それを踏んだDクラスの生徒の召喚獣は次々と転倒していく。
「さらにさらに、絶景を御覧じろ!」
僕の召喚獣は突如1m大の大きな筆に持ち替えたかと思うと、何もない空中に絵を描き始める。
それは大きな富士山だった。
渡り廊下の端から端まで埋め尽くし、DクラスとFクラスの間に立ちふさがる。
「な、なにこれ!? 私達の召喚獣が通れない!?」
「攻撃しろ! もう奴らの点数はほとんどない! この絵を壊してとどめを刺すんだ!」
「で、でも足元が滑ってうまく召喚獣の操作がぁ――!」
Dクラスの連中は突如現れた富士山に攻撃を仕掛けようとするものの、足元が滑ってうまく攻撃できずにいる。あれは召喚獣が描いた絵だ。人間は通れるが、召喚獣は通れない。
一時的だけど、これで時間稼ぎができるはずだ。
「すっげぇ! さすが川上隊長だ!」
「変態紳士のくせに、やることがさすがだぜ!」
「「「変態紳士っ!変態紳士っ!」」」
突如鳴り響く変態紳士コール。なぜか全然嬉しくないっ!
「うるさいうるさーい! そのあだ名で呼ぶな! 今のうちに戦況を立て直す! 点数が0になりそうな奴は後衛と交代だ! 点数に余裕がまだある奴はもう少し踏ん張ってもらう!」
「「「了解!」」」
「すごいよ宗一、宗一の召喚獣はこんなこともできるんだね!」
「僕の召喚獣だからね」
召喚獣はシステムの設定にもよるが、武器や能力は召喚者本人の素質や性格、趣味嗜好が反映されるらしい。
僕の場合は筆なので攻撃力は現国とかでもない限り相手にダメージを与えることは難しいんだけど、こういう絡め手に使うこともできる。
「うん、姑息で変態な宗一らし足の親指に踏み抜かれたような痛みがぁ――――!!」
「それより明久も体勢を立て直すんだ。あの壁は7点で作った絵だから、すぐに突破される」
「うん、分かった! だから足をどけてくれないかな!?」
「Fクラスめ、明らかに時間稼ぎが目的だ!」
「何を待っているんだ!?」
やばい。こっちの意図に気付き始めたか。そりゃこんな防御主体の戦い方をしてたら時間稼ぎだって誰でも気付くか。
「大変だ! 斥候からFクラスに世界史の田中が呼び出されたって報告が!」
「Fクラスの奴ら長期戦に持ち込むつもりか!」
「まずいよ宗一……」
明久の顔に焦燥が滲みだす。焦るの分かるけど、落ち着いてほしい。
すると先ほど島田を連れ出した須川が戻ってきた。
「吉井、川上。本陣からの情報だ。Dクラスは数学の木内を連れ出したみたいだ!」
「木内先生か……採点の速さをあげて一気に押し潰すつもりか」
今日は新学期初日。普段より授業が終わるのは早いとは言っても、時間はまだまだかかる。
このままだと前線は潰れる。どうしたものか……
「ねえ、須川君」
「なんだ?」
「明久? 何か思いついた?」
「――Dクラスに偽情報を流してほしいんだ」
―――――――――――
「みんな! 1対1じゃ勝てないからね! コンビネーションを重視して!」
明久が指示を飛ばす。さっき弱腰になっていた明久はもうどこにもいない。その表情は真剣さに満ちている。
柄にもなくさっきは明久にあんなことを言ったけど、明久は誰よりも優しい。本来あんなことを言ってケツを叩くまでもなく、明久は自分の足でしっかりと立てる奴だ。他人のために体を張れる男なのだから。
これもまた、雄二とは違うけどテストでは測れない力。いや、力というより人間としての魅力と言ったほうがいい。
人を疑うことを知らない馬鹿、と言えばそれだけなのだが、今の世の中であそこまで素直にいられる人間はいないと思う。
だからこそ、雄二は明久の試験召喚戦争の誘いに応じるぐらいには、明久に心を許してる。
僕も康太も秀吉も、そんな明久だからこそ信頼して友達になったのだ。
姫路も島田も、そんな明久だからこそ惹かれたんだろう。
現にこうやって、メンバーに指示を飛ばし責任を果たそうとしている。
「明久! もう一度後退させて!」
「分かった! 皆、一歩下がるんだ!」
Fクラスのメンバーが一歩下がったのを見計らって召喚獣が筆を振るうと、再び渡り廊下にハリボテの富士山が現れる。
「またぁ!?」
「くっ、この卑怯者! 変態!」
「無駄にうまく描きやがって!」
「葛飾北斎かよ! このド変態!」
なんで富士山を描いただけで変態って言われなきゃいけないんだ。
「塚本! このままじゃ埒があかない!」
「もう少し待っていろ! 数学の船越先生を呼んでくる!」
「船越先生!?」
よりにもよってあの人を呼ぶのか。熟女も基本的にOKな僕だけど、あの人は嫌いだ。
45歳♀独身なのは同情するけど、だからって単位を盾に交際を迫ってくるか? 僕も迫られたが、話していて普通に人間として魅力がなかったのでばっさり断った。
「宗一、まずいよ! 向こうは船越先生を立ち合い人にする気だよ!」
「あーもう、須川はまだなのか!?」
明久が須川に頼んだこと。それは偽情報を流して先生を別の場所に誘導することだ。
単純な偽情報だと、さっきから大声で怒鳴っているDクラスの塚本によって偽情報が看破される。単純に声が大きいってだけだけど、あれは混乱した部隊をまとめる力を持っているんだよね。
「こうなったら明久、君もそろそろ召喚を……!」
「僕ゥ!? やだよ、召喚獣のフィードバックがあるんだよ!? もし攻撃が当たったら痛みで気絶しちゃう!」
「そんなこと言ってる場合!? 僕なんか7点の召喚獣を出してるんだ! 君も覚悟を決めろこの腰抜け野郎!」
「なんだとこの馬鹿! 7点なんて点数取る君が悪いんだろこの変態糞野郎!」
などと明久といがみ合っていると―――
ピンポンパンポーン<連絡します>
聞き覚えのある声で校内放送が流れだした。
「この声は須川君! そっか、放送室に行ったから時間がかかったのか!」
<船越先生、船越先生>
しかも呼び出し相手は件の船越先生。ナイスだ!
と思った矢先。
<吉井明久君と川上宗一君が体育館裏で待っています>
「「――――は?」」
僕と明久の間抜けな声。
<生徒と教師の垣根を越えた、男と女の大事な話があるそうです>
「ひぃぃい! 何て危険なことを言ってるの須川君! あの船越女史だよ? 婚期を逃して生徒達に手を出そうとしてる船越先生になんてことを!」
なるほど、これなら体育館裏に確実に向かってくれるな(白目)
僕と明久の貞操を犠牲にして。
僕は携帯電話を取り出してある友人に電話をかける。
「吉井副隊長……川上隊長……アンタぁ男だよ!」
「ああ、感動したよ。まさかクラスの為にそこまでやってくれるなんて!」
仲間達が握手を求めてくるが無視する。明久も狼狽えてるけどそれも無視。
「おい、聞いたか今の放送」
「連中本気で勝ちに来てるぞ」
「あんな確固たる意志を持ってる奴らに勝てるのか?」
Dクラスもなんか言ってるけど全部無視!
―――プルルル ガチャッ
『どうしたのじゃ、宗一』
電話に出たのは秀吉だ。
「秀吉、今の放送は聞いた?」
『もちろん、ばっちり聞こえたぞい』
「――雄二だね?」
『……そうじゃ』
ふふ、やっぱりな♂
雄二、撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだって名言を知らないのかな?
「じゃあ秀吉、これから放送室に向かってメールに書いてある文章を読み上げてくれ」
『いや、待つのじゃ宗一。仕返しをしたいのは分かるが、じゃがそれは―――』
「断ったら二度と演劇部の台本を書かない」
『…………』
交渉成立。
それから僕は二言三言秀吉に指示して電話を切った。
そして期待を込めた目で僕を見つめる皆に言う。
「……皆」
「川上隊長?」
「僕達の屍を踏み越えていけ! 僕達の貞操を無駄にするな!」
「おお! さすが川上隊長だ!」
「絶対に勝つぞーーーー!」
「いけますよ隊長! この勢いで押し返しましょう!」
せっかく盛り上がった士気。こうなったらとことんまでやってやるよ!
「……す」
ぷるぷる震える明久。怒りに震えてるのがよく分かる。
でも僕も同じ気持ちだ。やられたらやり返す……倍返しだ!
「須川ぁぁああああああっ!」
―――――Side 坂本雄二
「ふむ、そろそろ頃合いか」
放送が聞こえてから5分。船越先生も体育館裏に向かったし、そろそろ前線で闘ってる宗一と明久を回収に向かうか。
姫路の点数も回復できた。島田や秀吉達も回復できてる。ここまでできたのはあいつらが踏ん張ったおかげか。
それにしても……さっきの放送、傑作だったぜ。
いかん、笑いが……。
「ん?」
おかしい。秀吉の姿がどこにも見えない。さっきまでここにいたが、携帯で誰かと話したかと思うとどこかに行っちまった。便所か?
などと考えていると。
ピンポンパンポーン <Fクラス代表、坂本雄二だ>
―――は? 俺の声? なんで?
<船越先生、体育館倉庫で待っていてくれないか?>
ちょ、ちょっと待て!? 誰だ俺の声でこんな放送流してる奴!?
こんなことをできるのは―――まさか!
<俺に、俺に「女」を教えてくれ! そして俺を男にしてくれ!>
「ちょっ―――」
なんてこと言ってくれるんだこいつは!?
<家族は二人欲しい。俺を父親にして欲しいんだ! 体育館倉庫での保健体育の実習……楽しみにしてるぜ>
――――ブツリ
放送がブツリと切れた。なるほど、さっきの放送よりインパクトが強い放送だ。結婚願望の塊のような船越女史には効果覿面だろう。
そしてこれを流したのは秀吉に違いない。ここにいないのはおそらく放送室に向かったからだ。演劇部のホープである秀吉なら俺の声を真似するぐらいは朝飯前だろう。
だが秀吉にはこんな文章を、ましてやこれを放送しようだなんてことは考えない。やる度胸うんぬんより、ただ単にそういう性格だからだ。
なら、俺の周りでこんなことを思いつくのはあいつしかいねぇ!
「宗一ぃぃいいいいいっ!」
―――――Side Aクラス教室内
「代表? どうしたの?」
「…………許さない、雄二は私の物」
―――――Side 川上宗一
「ねえ宗一。今の雄二の声の放送は……」
「イヤー、さすが代表だなー。僕らのためにあんなに身体を張ってくれるなんてナー」
「清々しいまでの棒読みなんだけど……」
「気にしてはいけない。さて、そろそろ撤退するよ、皆!」
「「「了解!」」」
ここまで時間を稼げば十分だろう。時計を見ればもうすぐ放課後。他の学年で授業とHRを行っていた先生は職員室に引き上げる。撤退するにはちょうどいい頃合いだ。
「くっ、逃がすな! 本陣に帰られる前にとどめを刺せ! 戻られれば本隊と合流される! その前に―――!」
「させない! 最後の絵を持っていきな!」
僕は再び渡り廊下の前に富士山の絵を出現させる。何度でも描き直してやるさ!
「くっそぉぉおおお!」
向こうの隊長の悔しそうな声が響く。あの絵は10秒もあれば壊すことができてしまうもろい盾だ。
だが、Fクラスに戻るまでだったら十分!
「撤退だ!」
こうして、僕達中堅部隊は一人の戦死者を出すことなく、Fクラスへ撤退した。
―――――――――――Fクラス教室内
教室に戻り、化学のテストを受け直した後。
「やってくれるじゃねえか宗一ぃ……!」
「その言葉そっくりそのまま返すよ雄二ぃ……!」
僕は代表と固い握手をしていた。お互いの手を握り潰す勢いで。
「雄二、すまぬ。宗一に頼みを聞かなければ演劇部の台本は二度と書かないと言われてしまっては……」
「くっ……秀吉もなんだかんだと言って
秀吉は演劇部のホープ。作家の僕とはベクトルは違うが、役者を目指すその心は芸術家そのものだ。
だからこそ、雄二のことより演劇の方を優先することができる。僕じゃなくても台本は用意できるだろうが、その辺の台本を書いたこともない奴に用意させるなんていう愚行は、演劇に一切妥協をしない秀吉にとっては許されない。
あんな脅しが通じるのは秀吉だからこそだ。何故なら芸術家というのは、時に友人よりも自分が好きな物を優先してしまうという悪癖があるからだ。
「今は戦争中だ。処刑は後にしてやるが、覚悟しておけよこの野郎……!」
「やれるもんならやってみろこの野郎……!」
僕らがガンを飛ばしあっていると、補給試験を受け終えた明久が戻ってきた。
「明久、よくやった」
するとさっきまでの形相が嘘のような笑顔で明久を出迎える雄二。
「校内放送、聞こえてた?」
「ああ、ばっちりな」
明久の不幸を喜ぶ雄二。
僕も逆の立場だったら同じような気持ちになるだろう。
僕の方は仕返しは済んでいるので、今さら言うことはないが。
「雄二、須川君がどこにいるか知らない?」
にっこりと笑う明久。その笑顔は狂気に染まっている。
いつの間に家庭科室に行ってきたのか、よく見ると右手に包丁が握られていた。
というより、まだ雄二の仕業だと気付いてないのか……まあいいかほっといて。
「やれる、僕なら殺れる……!」
「殺るなっての……ちなみに、だが」
「何を言ってるのさ雄二、僕にとって今の最優先事項は―――」
「あの放送を指示したのは俺だ」
「シャァァァアッ!」
包丁を突き出す明久。振り下ろされるブラックジャック。
「あ、船越先生」
そして明久は
この間わずか2秒弱。
「よーし、行くぞお前ら。そろそろ決着をつけるぞ」
「そうじゃな。そろそろ頃合いじゃろう」
「………(コクコク)」
「じゃ、さっさと行こうか。明久、船越先生が来たってのは嘘だよ。ていうか、本当に来てたら僕も雄二もただじゃ済まないでしょ」
「ほっとけ。それに気付かないから馬鹿なんだ」
雄二は僕を含め、Fクラスに温存していた兵隊たちを引き連れて教室から出ていく。
狙うはDクラス代表、平賀源二の首だ。
そして教室から出てしばらくすると、明久の叫び声が響いた。
「雄二ぃい――――!!」
―――――――――――
下校を始めた他のクラスの生徒達。
HRを終えて職員室に戻ろうとする先生達。
Fクラスと戦おうと召喚獣を引き連れたDクラス。
Dクラスと戦おうと召喚獣を引き連れたFクラス。
僕達の2学年の渡り廊下は、混沌と呼ぶに相応しい戦場と化していた。
「下校している連中にうまく溶け込め! 取り囲んで多体一の状況を作れ!」
「そっちから回り込め! 俺はこいつに数学勝負を申し込む!」
「なら俺は古典勝負を―――!」
悲鳴と怒号と放課後の喧騒が混ざりに混ざってもうよく分からん。
けれど、そんな中でも雄二の声はよく通る。
「宗一! お前の出番だ、現国勝負で連中を引き付けろ!」
「了解。――
僕は再び召喚獣を呼び出す。今自分がいるフィールドは高橋先生の現国のフィールドだ。これなら――!
現代国語勝負
Fクラス 川上宗一 365点
VS
Dクラス 鈴木一郎 89点
&
玉野美紀 82点
「な、なんだあの点数!? Fクラスにあんなのがいたのか!?」
「あの人は、変態紳士の川上宗一さん……!?」
「怯むな、相手の得物はただの筆だ!簡単に倒せる!」
確かに、筆では剣には勝てない。鍔迫り合いになれば、いくら僕の召喚獣の点数が高くてもただじゃ済まないだろう。
でも、こんな言葉があるのだ。
「
その言葉の意味を彼らは身を以て知るだろう。
「さぁさぁご照覧あれ! これが川上宗一の渾身の一筆だ!」
召喚獣に力いっぱい筆を振るわせる。空中に絵の具が飛び散り、徐々にそれはある形をなしていく。そしてその絵は2Dから3Dへと形を生み出していく。
それは真っ黒な大怪獣。渡り廊下の天井まで届きそうな、ゴジラだった。
『GYAOOOOOOOO!!!』
ゴジラは僕が操作せずとも、勝手に動き出す。下校中の生徒達から悲鳴が響く。そりゃ、目の前にゴジラが出てきたらそうなるよね。
自分で描いといてあれだけど、まるで本物のような実態感があった。試験召喚システムが絵に命を与えたように、まるで生きているようだった。自分の絵が動くところをこんな形で観れるなんて、すげえ、感動だ。
ゴジラは大きく息を吸い込むと、召喚獣に向かって大きな炎の塊を吐きだし、Dクラスの戦士たちを焼き尽くす。
現代国語勝負
Fクラス 川上宗一 290点
VS
Dクラス 鈴木一郎 DEAD
&
玉野美紀 DEAD
Dクラスの召喚獣は一瞬で燃えカスとなって戦死になる。それと同時に点数を消費して描きあげたゴジラは徐々に姿が透けていって消滅する。
「0点になった戦死者は補習ぅ――――!」
「なんだあの召喚獣は!?」
「絵を描くとそれが攻撃してくるって!? 冗談じゃない!」
あっという間にDクラスはパニックに陥った。一撃で補習室送りにされるとは思わなかったのだろう。
「それが宗一の召喚獣か! なかなかやるじゃねえか!」
興奮したように雄二が笑う。
「攻撃用の絵を描くと点数がすぐなくなるからあんまり燃費はよくないんだけどね……! それもういっちょ!」
今度は緑色の自衛隊の戦車を描き上げる。それはまるで本物のようにカタパルトを回し、砲塔が動き出す。
「
合図と共に撃ち出された砲撃。爆音を響かせたかと思うと遠くにいるDクラスの戦士たちを吹き飛ばした。
現代国語勝負
Fクラス 川上宗一 220点
VS
Dクラス 笹島圭吾 12点
&
小野寺優子 18点
砲弾を喰らった召喚獣の点数が一気に削られる。
「くぅう! 点数が!」
「反則よあんなの! チートよぉ!」
ううん、さっきの富士山の絵のような動かない物なら点数は消費しないが、強い火力を持つ物を描きだすと点数の消費がひどい。
でもこれならDクラスには負けない!
「皆、怯むな! 援護に来たぞ!」
あれはDクラスの代表平賀!
「ようやくDクラスの大将が出てきたな!」
雄二が獰猛な笑みを浮かべる。いよいよ決着の時だ。
「本隊の半分は川上宗一を狙え! あの召喚獣はやっかいだ! もう半分はFクラス代表坂本雄二を取りに行け!」
「「「おおー!」」」
平賀の号令の下、Dクラスは僕の召喚獣を取り囲む。
「絵を描く前に一斉に攻撃しろ! 相手の得物は筆だ! 描かれなければ何も問題はない!」
「……ふふ」
そんなことをしてていいのかな?
「作戦成功だ」
僕の役目は、連中をやっつけることではない。
僕の役目は、連中の視線を僕に集中させること。
突如現れたゴジラや戦車は、連中の戦力を自分に向けるのに十分だった。現に平賀の周りの近衛部隊はほとんどいない。なぜか明久がいるが、それはどうでもいい。
僕の役目は、下校生徒に紛れる姫路瑞樹を気付かせないことだ。
平賀の後ろから、申し訳無さそうに姫路が平賀の肩を叩く。
「え? あ、姫路さん。どうしたの? Aクラスはこの廊下を通らなかったと思うけど」
「いえ、そうじゃなくて……」
もじもじと言い辛そうに体を小さくする姫路。まあ、不意打ちなんて戦い方姫路にとっては初体験だろう。
「Fクラスの姫路瑞希です。えっと、よろしくお願いします」
「あ、こちらこそ」
「その……Dクラス平賀君に現代国語を申し込みます」
「……はぁ、どうも」
「あの、えっと……さ、
現代国語勝負
Fクラス 姫路瑞希 339点
VS
Dクラス 平賀源二 129点
「え? あ、あれ?」
「ご、ごめんなさいっ!」
姫路の足元に現れた召喚獣には、大きな剣が握られている。気弱な姫路には似合わない、大きな剣。
そしてその剣はDクラス代表平賀源二の召喚獣を真っ二つにした。
こうして、新学期初日から行われた試験召喚戦争はFクラスの勝利に終わった。
Dクラス戦終了です!
評価感想、ありがとうございます!
バカテスの世界の召喚獣たちの武器は剣や槍が基本的ですが、アニメを見ていて本やカメラを武器にしているのがいたので、宗一にはペレットと筆を持った召喚獣を与えました。
イメージとしては、Fate/Grand Orderの葛飾北斎ですね。大好きです。私はお迎えできませんでしたが。