Side 川上宗一
猛烈な睡魔と疲れにやられ、僕は卓袱台に突っ伏していた。
「うぅ……」
「…………宗一、大丈夫か?」
「寝不足が……やばい。服を脱いで全裸で寝たい」
「…………いつも通り(グッ)」
「ムッツリーニ、宗一のセリフがいろいろおかしいことに気付こうよ」
先日のDクラス戦での報酬として、イラストを10枚ぐらい描いた。例の須川達の報酬の分だ。おかげで随分睡眠時間を削られて寝不足がヒドイ。あと姫路の弁当のせいでお腹が痛い。
そこに加えて今日の午前中はずっと補給試験だった。睡眠不足でただでさえ少ない体力が更に削られてへとへとだ。もう保健室で休んでていい? あ、駄目? そっかぁ……これが社畜かぁ……。
ちなみにMVPの姫路には明久のイラストを描いてあげた。R-18な奴ではなく、珍しくきりっと真剣な表情の明久の横顔の絵だ。自分でも言うのもアレだが、なかなかうまく描けたと思う。明久は普段気が抜けた顔の方がデフォルトだから、ああいうカッコイイ顔を描くのは少し難しいんだよね。
ちなみに明久を想う彼女にとってはとっても好みだったらしく、「また描いてください」と真っ赤な顔をして言われた。
「宗一、よくやった。おかげでクラスの士気はダダ上がりだ」
雄二が労いの言葉をかけてくれる。
見てみると、さっきイラストを渡した連中の顔は闘志に満ちており、もらえなかった連中は悔しさに涙を流していた。
ちなみに姫路は顔を赤くして幸せそうにイラストを胸に抱え、島田はそれを見て歯ぎしりしている。
「ねえ、宗一? 僕の分は? 僕もDクラス戦は活躍したよ?」
「えぇ……」
「なんでそこまで露骨に嫌そうな顔をするんだよ!」
「うーん……ごめん、これでいい?」
僕はスケッチブックを一枚破り取って、明久に渡す。
「これって……」
「この間書いた姫路のスケッチだよ」
そこに描かれたのは、先日、放課後に姫路の恋愛相談に乗りながら描いた姫路の横顔だ。
恋をした少女は、可愛く、そして美しい。そんな女の子の魅力を体現した姫路を、僕はそのまま描き写した。ラフで色塗りもしていない、絵と呼ぶには不完全な物だけど、気に入ってくれるだろうか。
「どう?」
「うん……ありがとう、宗一。なんだか勇気が出てきたよ」
「そっか。ならよかった」
明久はスケッチ絵を綺麗に折り畳んで、胸ポケットに仕舞う。お守り代わりなのだろう。気に入ってくれたなら何よりだ。
「それで雄二、今日の作戦はどうするの?」
「今回は敵をBクラスの教室に押し込めることが重要になる。開戦直後は姫路に指揮を取ってもらい、相手を部隊ごと押し込める。ほかの連中は姫路に付き従ってもらう」
「僕は?」
「宗一は昨日遅刻したからまだ補充試験は終わっていないだろう? ここで試験の続きを受けてくれ」
「そっかぁ……もう帰っていい?」
「駄目に決まってるだろ馬鹿」
うちの教室、ブラック過ぎない?
「転校したい……」
「…………(ポンポン)」
康太が首を振りながら肩を叩く。くっそう、助けてくれないと言うのか。
重いため息を吐いていると、雄二は教壇の上に立ち、教卓に手を叩きつける。
その音に反応し、Fクラスの視線が雄二に集中する。開戦の時間だと悟ったのか、教室内の空気が一気に引き締まった。
「さて皆、総合科目テストご苦労だった。午後はBクラスとの試召戦争に突入する予定だが、
「「「おうっ!」」」
男達のフラストレーション。狭苦しい教室に押し込められた怒りは生半可な物じゃない。男達の野太く、地に響く声が教室を揺らす。
「今回の戦闘は敵を教室に押し込むことが重要になる。渡り廊下戦は絶対に負けるな。負けたらそのまま敗北につながると思え」
「「「了解!」」」
「前線部隊は姫路に指揮を取ってもらう。野郎ども、きっちり死んで来い!」
「が、頑張ります!!」
「「「うおぉーっ!」」」
部隊のテンションは最高潮。
まもなく戦いが始まる。Fクラス51人中40人が注ぎ込まれ、大規模な戦闘となるだろう。
そして―――
キーンコーンカーンコーン
「よし行って来い! 目指すはシステムデスクだ!」
「「「サー・イエッサー!!」」」
そして40人の生徒は教室から飛び出し、その後を追いかけるように姫路が駆け足でBクラスに向かった。
「さて、僕は補充試験か……」
『居たぞ!高橋先生をつれている!』
『生かして帰すなぁー!』
何やら物騒な声が聞こえるけど、気のせいということにしておこう。こっちはこっちで集中しなければ。
エナジードリンクを一気飲みにし、僕は補充試験を始める。
明久達は、まあとりあえずは心配ないでしょ。何かあったら、僕が行くことになるだけだ。それまで準備を念入りに。
『やったるでぇー!』
『姫路さんサイコー!』
しばらくペンを走らせていると、そんな怒声が廊下から聞こえてくる。向こうは向こうで大分盛り上がっているらしい。
姫路のファンクラブが順調で増えていく中、僕は文系の科目を中心にテストの点数を補充し終えて、教室で一休みをしている。
教室に残っているのは、僕、康太、雄二、そしてFクラスの戦士数名だ。
康太は今回のBクラス戦においての要なので、教室に待機らしい。前線に送って万が一補習室に送られれば勝てる可能性が低くなるからだ。
「Bクラスとの戦況はどう?」
「…………こちらの戦力が削られているが、順調に敵を押し込んでいる」
雄二は康太の盗撮カメラと盗聴器を駆使し、戦場の状況をリアルタイムで把握している。機械の扱いが得意な康太、
「だがやはり相手の壁は厚いな。姫路がいるとはいえ、戦力が削られるのはやはり痛い。前衛部隊に通達。点数が0になりそうな兵士はすぐに撤退し、補充試験を受けるよう指示をしろ。採点が早い先生を呼んで、戦場と補充を早く往復できるようにするんだ」
「了解!」
こんな感じで雄二の指示が前線に行ったり来たりしていると、見慣れぬ使者が教室にやってきた。
「失礼、Fクラス代表の坂本雄二はいるか?」
「俺がそうだが、何か用か?」
敵か? 警戒する僕と康太だが、雄二が手を出してそれを制する。よく見ると相手は使者のようで交戦要員ではないらしい。
「Bクラス代表から協定の申し出がある。屋上まで来てほしい」
「……分かった」
雄二はしばらく考え込んで、そう言った。
「では、案内する。後についてきてくれ」
「分かった。だが護衛はつけさせてもらう。宗一、ムッツリーニ。ついてきてくれ」
「「了解」」
ようやく出番か。僕はよいしょと腰を浮かすが、雄二は突如僕の肩を組んで小声で耳打ちしてきた。Bクラスの使者に聞こえないように。
「宗一、一緒に廊下を出て階段前まで来たら、Fクラス教室まですぐに戻れ」
「……理由は?」
「万が一の為だ。相手はあの根本だからな。用心に越したことはない」
根本恭二。Bクラス代表の男だが、その男からはあまりいい評判は聞かない。
卑怯と言えば根本、根本と言えば卑怯と言うぐらいだ。雄二が留守の間にFクラスに何かされるのを嫌っての指示なのだろう。
雄二がやれというなら、僕は従うまで。僕は小さく頷いた。
Bクラスの使者が先頭に立ち、雄二、康太、僕の順で後を着いていく。そして階段前の辺りで、僕は突如踵を返してFクラス教室に向かった。
「な、おい待て貴様!」
「おいおい、どうしたんだ? さっさと案内してくれよ、Bクラスの使者さん?」
「…………支障はない。早く案内しろ」
「くっ……こっちだ!」
Bクラスの使者から悔しそうな声が聞こえる。どうやら雄二の読みは当たりだったようだ。
ガララッ
「うわ、なんだ!?」
教室に戻ると、今まさにFクラスの筆記用具や机を荒そうとする5人の生徒達がいた。
名前は知らないけど、おそらくBクラスの連中なのだろう。
「なるほど……こっちが留守にしてる間、筆記用具を壊して補給の邪魔をしてやろうって算段か」
「な!? 川上宗一だと!? 何故ここに!?」
「くっそ、三河の奴、しくじりやがったか!」
「まあいい、こっちは5人だ、一斉にかかって補習室送りにしてやれ!」
「「「「おうっ!」」」」
「「「「「
Bクラス生徒の足元に発生する幾何学模様。そこに現れた試験召喚獣はかなり強そうな武器を持っている。
さてさて、勢いで飛び込んだのはいいけど、科目はなんだっけ?
「……現国か。ちょうどいいや。それじゃあ、
現代国語勝負
Fクラス 川上宗一 485点
VS
Bクラス 加賀谷寛 214点
&
小野明 195点
&
井川健吾 181点
&
加西真一 179点
&
工藤信二 206点
「な、なんだあの点数は!?」
「400点オーバーだと!? Aクラス並じゃないか!?」
「Fクラスにあんな奴がいたのか!?」
「変態のくせに!」
「変態は余計だ!」
ちょうどいい。相手はそこそこ強い。おまけに今回は400点オーバーだから初の腕輪もついている。自分の召喚獣の性能を確かめるにはもってこいって奴さ。
「――さてさて。芸術家たるもの日々鍛錬を怠るべからずってね。どこまで描けるか、スケッチの時間だ! 君達に芸術の真髄ってモンを見せてやる!!」
徹夜による深夜テンションのおかげでなんだか楽しくなってきた。最高にハイって奴さ。さて、それじゃあ、戦争を始めよう。
―――10分後
Fクラス 川上宗一 121点
VS
Bクラス 加賀谷寛 DEAD
&
小野明 DEAD
&
井川健吾 DEAD
&
加西真一 DEAD
&
工藤信二 DEAD
最後の召喚獣を打倒すと同時に、教室に鉄人がやってくる。
「0点になった戦死者は、補習ぅ――――!!!」
「「「ぎゃぁぁあ!!」」」
「なんなんだあの召喚獣はぁ!」
「まったく歯が立たなかったぁ……くっそぉ――――!!」
「ふぅ……眠い」
Bクラスの兵士を鉄人に補習室に連れてってもらい、ひと息をついていると明久達が戻ってきた。
「宗一!さっきの鉄人とBクラスの5人は……」
「ああ、明久お帰り。あれは雄二の留守を狙った不届きものって奴だよ」
「お主……Bクラス5人を相手に勝ったのか?」
僕が頷くと、秀吉と明久が目を丸くして驚いた。
「でも大分点数が削れた。また補充しなきゃなぁ……」
僕が一人愚痴っていると、康太を連れて雄二が教室に戻ってきた。僕はBクラスの連中が忍びこんでいたことを話すと、雄二は「やはりな」と呟いた。
「やっぱり根本の差し金がいたか。宗一、ご苦労だった」
「雄二! 今までどこに行ってたのさ、もし宗一が負けでもしたら!」
「宗一は負けねえさ。仮に現国以外の科目でも、あいつの召喚獣は時間稼ぎにはもってこいの性能だからな」
え、僕ってそんなに信頼されてたの。ちょっとびっくり。
「ところで雄二よ。お主はムッツリーニと一緒にどこに行っておったのじゃ?」
「Bクラスの根本から協定の申し出があってな。少しの間、教室を開けていた。ムッツリーニは護衛だ」
雄二の話によると、以下の申し出があったらしい。
1.四時までに決着がつかなかった場合、戦況をそのままにして続きは明日午前九時に持越し。
2.その間、試験召喚戦争に関わる一切の行為を禁止する
「あいつらを教室に押し込んだら今日の戦闘は終了になる。例の作戦は明日が本番だ」
そう言う雄二だが、僕は不安感を拭いきれなかった。
「姫路を万全にする分には随分都合がいいけど……都合がよすぎない? 雄二」
「どういうことだ? 宗一」
「だって、根本だよ。雄二ほどじゃないけど、アレだって頭は結構回る。何か裏がありそうなんだよね」
去年、僕の才能に目をつけていろいろ誘ってきたけど、あまり気分がいい奴ではなかった。陰湿で根暗。けれど頭が回ると言う僕が苦手なタイプだった。
一応、表面上は僕の絵や音楽を褒めていてはくれたけど、あれは本心じゃない。心の奥底では僕を馬鹿にしていた。だから僕は根本が嫌いで苦手だった。できれば関わりたくない。
「……分かった。一応警戒しておこう」
「うん、そうしてほしい」
「それじゃあ、宗一はもう一度回復試験だな。明久達は前線部隊に合流してくれ」
「うっへぇ……了解」
僕は頷いて回復試験に向かう。
明久達もそれぞれの戦場へ。
まだ戦いは始まったばかりだ。
本日筆がのったので2話目投稿。
宗一をかっこよくしてみたかった。