Side 川上宗一
パッチィィィン
話をしよう。あれは今から……まあいい(雑)
今回のBクラス戦は疲れた。僕は今回あまり活躍しなかったが、僕にとっての本番は試験召喚戦争が終わってからだった。
そう、撮影会である。
根本の女装撮影会は、康太と僕、そしてBクラスの男女数人(根本にかなり恨みがある人達だった)の手によって行われた。自分で言うのもあれだが、なかなか業が深い物が撮れてしまったと康太と一緒に盛り上がっていた。本人は泣きながら「勘弁してくれ」って言ってたけど、雄二の命令だから、ま、是非もないよネ。
ちなみにムッツリ商会の監修の下に行われた写真集は後日売り出す予定だ。定価1500円。結構高い? まあ、出版部数はそんなに出す訳じゃないし、これぐらいが適正価格なのだ。要望があれば部数を増やすつもりだが、仮に売れずに赤字になったとしても、ムッツリ商会はもともと儲かってるのでこれぐらい屁でもない。スケッチもいい物(?)を描けたし、収穫としては十分だろう。
「宗一、例の写真集ができたら俺にも一冊頼む」
片付けの最中、雄二は僕にそう言ってきた。
「え、雄二。根本の写真集なんて何に使うのさ? 君はノーマルだろ?」
「こいつが今後また変なことをしないとは限らないからな。その為の保険だ」
なるほど。いざとなったら脅迫の為に使うのか。
「ふーん……分かった。雄二にはいろいろと世話になってるし、試し刷りならタダでいいよ。どうする?」
「ああ、十分だ」
本人からすれば出来上がった写真集は黒歴史の塊だろうし、抑止力になるに違いない。
あ、そうだ。
「根本、せっかくだから小山に見せてみる?きっと気に入ると――」
「そんなわけないだろう!? お前らは俺を社会的に殺すだけじゃ気が済まないのか!?」
むぅ、せっかく上手く撮れたのに。残念だ。
「…………また罪深い物を撮ってしまった」
康太がどこか満足げに頷いている。BLも許容範囲な僕と違い、女の子専門の康太も今回の写真集の出来は満足いく結果となったようだ。
「康太、お疲れ」
「…………お疲れ」
「それじゃあ、手伝ってくれた人達もお疲れ様ー。撮影会はこれで終わりなので、この後は自由解散でー」
「「「お疲れ様ー!」」」
どこかすっきりした表情のBクラスの有志達に解散を指示する。どうやら恨みが晴れてスゲーッ爽やかな気分になっているようだ。新しいパンツをはいたばかりの 正月元旦の朝のよーによォ~~~~~~~~ッ。
「……ちょっと待て。俺の制服は?」
「いやー疲れたー」
「帰りマック寄ってくー?」
「康太ー帰ろー。編集しなきゃいけないし」
「…………(コクリ)」
「ムッツリーニ、宗一、ご苦労だった。明日は補充試験だから復習ぐらいしとけよー」
「俺の制服をどこにやったぁぁあああ!!?」
制服? さっき用務員のおばちゃんがゴミ箱と一緒に焼却炉に持って行ったよ。
――――――――――――土屋家
「…………宗一、ここのレイアウトはどうする?」
「んー、もっと大きくしていいんじゃないかな。それか、1ページに4枚貼って……(カチカチ)。うん、こんな感じ」
「…………了解」
「康太、あの写真どのフォルダにあるの? 数が多すぎて見つかんないんだけど」
「…………どれ」
「秀吉が女子制服着た奴(生着替えVer)」
「…………それならこれ」
「お、あったあった。それにしても秀吉は可愛いなぁ……今度は秀吉の写真集でも作る?」
「…………ナイスアイデア」
「秀吉は何着ても似合うからなぁ。あえて今度は男らしい恰好とかさせてみる?」
「…………それはそれでアリ(グッ)」
大量の愛読書が隠された康太の部屋には2台のパソコンがある。1台は康太のデスクトップのパソコン。毎日のように写真を盗撮しているムッツリーニの写真が保存されたムッツリ商会の心臓部だ。
もう一台が僕のノートパソコン。これは僕が自分で買ってここに置かせてもらっている物だ。ペンタブも置いてあり、よくここで絵の練習や作業をさせてもらっている。
もちろんタダでというわけじゃない。電気代使わせてもらってるし。
なので康太には僕が描いたイラストや小説を、僕は康太が撮った写真を見せてもらったり写真集の編集を手伝うことで互いに利益を勝ち取っている。親友同士だが、貸し借りなどはしない。ギブアンドテイクに徹するからこそ、僕達は常に対等なのだ。
根本の写真集の編集を行いながら、次の秀吉の写真集の企画を考えていると、部屋の扉が叩かれる音が響いた。
「(トントン、ガチャリ)康兄ちゃーん、ご飯だけど――ってあれ。宗一兄ちゃんじゃん。久しぶりー。今日は来てたんだ」
「陽向ちゃん」
扉を開けて部屋を覗いたのは、康太の妹である土屋陽向ちゃん。康太の二つ下だから、確か中学三年生だっけ?
ショートボブがよく似合う活発そうな女の子だ。
小柄だけど、テニス部で鍛えた健康的でスリムな身体、笑顔が似合いそうな丸くて大きな目。とても可愛い。
「お邪魔してるよ。陽向ちゃんはテニス部?」
時計を見てみると、もう6時になる頃だ。
「うん、もうすぐ最後の中体連だからね! 毎日特訓頑張ってるよ!今日はご飯食べてく?」
「…………食べていくといい」
「いいの? じゃあ、お願いしようかな。陽向ちゃんのご飯久しぶりだなー」
陽向ちゃんの料理はおいしい。何故知っているかって? 前からよくここに遊びに来ては夕飯を食べさせてもらっているからだ。
「じゃ、腕によりをかけて作るから待っててね」
陽向ちゃんは僕にウィンクをして部屋を出て行った。
「……陽向ちゃんと会うたびに思うんだけど、康太の妹だとは思えない」
「…………失礼な」
土屋家は4人兄妹である。一番上のお兄さんである颯太さん、二番目が次男の陽太さん、三番目が康太、四番目が末っ子の陽向ちゃんだ。3人ともすごい運動神経で、康太を除く兄妹全員が部活で活躍する体育会系だ。康太も部活に所属してはいないが、運動神経は平均よりずっと上。それにエロは体育の延長とも言えるし、ある意味で康太も土屋のスポーツ一家の血をしっかり継いでいると言えるだろう。
「それにしても、康太の家に来るの久しぶりだなぁ。春休み以来? 相変わらず陽向ちゃんは部活と家事を頑張ってて偉いなぁ」
振り分け試験とかいろいろあったから、最近はここに来れなかった。仲がいいとはいえ、毎日無理やり来るのも悪いしね。
「…………陽向は毎日そんなに料理を作らない。…………宗一が来た時だけ(ボソリ)」
「ん? なんて言ったの?」
「…………なんでもない」
なんだろう。今聞き逃しちゃいけないことを聞き逃してしまった気がする。
――――――――――――
「やっぱりアンタは、変ね。変で変態だわ」
「やっぱり川上君は変わってますけど、いい人ですね」
僕こと川上宗一は自他共に認める変人である。変態ではない。ここ重要。テストに出ます。
『変人』と言う字を辞書で引くと、「一風変わった人」という意味が出てくる。
けれど『変態』と言う字を辞書で引くと、「性的倒錯があって、性行動が普通とは変わっている状態。また、そのような傾向をもつ人」という意味が出てくる。
誤解されがちだが、僕はアブノーマルな性癖を持っているわけではない。広い範囲で見れば僕の性癖はそこまで特殊ではなく、単純に女の子の身体に人一倍、いや二倍か三倍程度興味があるだけで、一般的に見れば僕の性癖は割と普通だ。例えるなら普通のAVが料理で言うカレー、いつ食べても飽きずに食べれる物なら、レズ系のAVはマクドナルドのハンバーガー。毎日は食べれないがたまに食べると美味しい、みたいなあれである。え?例えが分かりにくい?ごめん。
僕だってよくいる男子高校生の一人だ。性行為をするなら普通に綺麗で可愛い女の子としたいし、秀吉で抜けると公言はしているけど、別にヤリたいわけではない。つまり僕はボーイズラブやガールズラブ、いわゆる同性愛的な物も好きではあるが、それは一つの嗜好として嗜んでいるだけであって、実際に秀吉を屋上に「まずうちさぁ…屋上…あんだけど…焼いてかない?」と誘ったり、アイスティーに薬を「サーッ(迫真)」と盛って秀吉の意識がないところを襲おうとは思わない。
テレビに映るアイドルを見て「ヤリてぇなぁ」みたいなことは思うけど、実際に手を出そうと想像はしてもやらない。できる可能性がほぼゼロだということもあるけれど、願望としてはあっても行動に移す訳ではないのだ。誰だってそういう「やってみたいけどやろうとはしない」ことがあると思う。
結局、何が言いたいかと言うと、僕は昔から変わっていた。変態ではなく性的なことに人一倍興味がある変人だったのだ。
どこが?と訊かれると具体的にうまく語ることはできないのだが、あえて言うなら『価値観』だろうか。
周りのクラスメイトが昼休み、学校のグラウンドで追いかけっこをしている最中、僕は教室で漫画や女の子の絵を描いているほうが楽しかった。図書室にこもってかいけつゾロリとか火の鳥とかを読んでいるほうが面白かったのだ。特に火の鳥とか時々おっぱい出てくるしね。昔の漫画は性表現の規制がガバガバだったのでまだ読めたのだ。ガキの頃から僕はそういうのが大好きだったのである。
それと、音楽室に行ってピアノを演奏することも楽しかった。好きなアニソン、涼宮ハルヒの憂鬱の「ハレ晴レユカイ」を演奏するとか楽しすぎて演奏しながら歌うぐらいだ。身体がひとつしかないので歌いながら踊ることができないのが残念だったが。ところであれの続編は一体いつになれば出るのだろうか。
だがしかし、美波には話したが当時の小学生は「絵とかピアノは女の子の遊び」という考えが強く、その女の子の遊びをしている僕は当然のことながら男子から孤立した。ついでに「男のくせに女の子の絵を描く」僕は女子からも阻害された。理不尽。これが噂に聞く性差別と言う奴である。
僕にとって絵を描くことは当たり前でも、他の人から見れば異常だったのだ。更に本を他の人より多く読んで知識や哲学を年相応以上に吸収してしまった僕は考えが一種の悟りの領域に入ってしまっていた。妙に達観していたのである。
そんな僕を、先生や周りの子供は不気味に思ったのだろう。ますます孤立した。
そして孤立した僕は本を読み込んだり絵を描くことにのめり込んで、更に達観して孤立し、孤立した僕はまた……という感じに負の無限ループにいつの間にか囚われてしまったのである。
唯一家族は僕を常に気にかけていてくれたので変に拗らせることはなかったのだが、小学校を卒業する頃には立派なぼっちが誕生していた、と言うわけだ。その頃には周囲の評判なんかも気にすることがなくなり、僕は自由になっていた。
ただ、エロイラストを描いていたところ先生に見つかり、親を学校に呼び出されたのはひどかった。
自由を良しとする教育機関に表現の自由はなかったのである。親は叱ったりしなかったが『もうちょっと落ち着いて生活して』と言われたのは心に刺さったのを覚えている。
僕はこれから、一生一人なのだと思っていた。
他の人のように誰かと遊んだり笑ったりすることはないのだと、予想していた。
だから、こういう風に友人ができることは完全に予想外なのである。
似たような趣味を持つ同年代の仲間。僕の趣味を一つの個性として認めてくれる友達。
康太、明久、雄二、秀吉。
そして、島田美波と、姫路瑞希と言う女の子。
同年代の男ではなく異性に認められたのは今回が初めてである。僕の歌や絵ではなく、僕の中をしっかり見てくれた。中学の時もし二人に会って話をして、あんなことを言われていたら確実に惚れていたまである。
まあ、二人とも明久に惚れているから、僕が入り込む隙なんてないのだが。
それでも僕は嬉しかったのだ。
「~~♪」
「…………宗一、ご機嫌」
「ん? まあねぇ。今日ちょっと嬉しいことがあってさ。ほら」
「…………(ズイッ)」
スケッチブックを康太に見せると、康太は口端を上げて笑う。普段無表情な康太にしては珍しい微笑みだった。
「…………間違いなく、今日の最高傑作」
「うん。明久達喜ぶかな?」
「…………バッチシ」
『康兄ちゃん!宗一兄ちゃん! ご飯できたよー!』
「お、ちょうどいいや。行こっか」
「…………(コクリ)」
スケッチブックを置いて立ち上がる。
そこには、幸せそうに笑う姫路と美波に両腕を組まれ、照れ笑いをしている明久の3人のイラストだった。
もう僕は孤独ではない。
独りぼっちの変わり者ではなく、変わり者の集団の中の一人にしてなった僕は、これからも僕らしく絵を描いていくのだろう。
さあ、陽向ちゃんのご飯を食べて、明日に備えなければ。
次は、この戦争の終着点―――Aクラス戦なんだから。
幕間です。なので少し短め。
宗一のキャラを掘り下げてみたかった。