バカはつらいよ 前
無限に広がる大宇宙(意味不明)。
ここ文月学園は、受験戦争を勝ち抜くために作られた進学校。
いわば成績を武器に戦う、学力戦士の養成所である。
僕らはクラスの威信にかけ、得意科目を駆使して戦い、敵クラスの戦略的施設を攻略する。
力在る者は栄冠を勝ち取り、賞賛と優雅な学校生活を得――
力及ばぬ者は無残に散り行き、凄惨なる地獄での生活を強いられる。
これは、過酷な運命に立ち向かう、学力戦士達の物語である。
―――――――――――
Side 川上宗一
僕らがAクラスとの試験召喚戦争に敗れ、卓袱台がミカン箱になって次の日。
昨日は、雄二と明久は映画館でデート、しかし僕は補習室で鉄人とデートという、なんだこの格差はとどこかに訴えたくなるような最低の放課後だった。
僕だってデッドプール2観たかったのに。ちなみにパイプカットは必死に土下座をすることで許してもらいました、まる。
「…………自業自得」
朝、登校中に偶然出くわした康太にそんな愚痴を言ったら、呆れ顔で言われた。
「なんだよなんだよ。康太だって工藤の誘惑に釣られて鼻血を出していたじゃないか」
「…………誘惑に釣られてなんかいない」
ぶんぶんと首を振る康太。相変わら説得力がない。
「でもひどいよなぁ。工藤と木下が怒るんだったらまだ分かるけど、なんでAクラス女子全員に追いかけられるのか、これが分からない」
Aクラスとの一騎討ちの最中、工藤が僕に「保健体育の質問だったらなんでもしていいよ☆」なんて言うから、僕は素直に訊いただけなのに。
なんか僕悪いことした?
「…………あえて言うなら、女子にとって、宗一の存在自体が罪」
ひどい。
しかしまあ、今さら女子に嫌われるなんて慣れっこである。
小学生から嫌われ続けた元ぼっちを舐めないでほしい。他人の評価なんていちいち気にしてれば肩が凝って仕方がないだけだ。
「よお、宗一、ムッツリーニ」
「ん、雄二じゃないか」
文月学園の校門に入ると、偶然雄二と出くわした。あまり登校時間は被らないのに、珍しいこともあるもんだ。
「おはよう、雄二。昨日はぐぉぉおおお!!? 何雄二!? なんでいきなり朝から僕はアイアンクローをされてるのおぉぉおお!!?」
痛い! こめかみが! こめかみが割れるように痛いぃぃいいい!!
「ほう……? 覚えてねえのか……? お前が翔子に売った漫画とやらのせいで、俺がどんな目に遭ったか知らねえと言うのかぁ……?」
震え声で雄二が言う。その声には怨念やら怒りやら、あらゆる負の感情が込められており、どうやら激おこのようだということが分かった。
「…………何があった」
「ムッツリーニ。こいつの描いた漫画で、『雄二と私のカップルデイズ』というタイトルの同人誌を知っているか」
「…………(コクリ)」
ムッツリーニがPONと思い出したように手を叩く。
「…………確かヒロインが、主人公を拉致監禁して一生世話をすると言う話」
『食事から排泄まで』をモットーにヤンデレ系のヒロインが幼馴染である主人公をお世話する同人誌だ。ネタ自体は一年前の物で、書き上げたのはつい最近。1年生の時、ネームを康太に見せたが『……マニアック過ぎ、そしてやりすぎ』と言われてボツにされたネームだからだ。そのネタをリサイクルして、霧島に売ったのである。
「HAHAHA。何言ってるのさ雄二。あれは二次元の話で、それを本気で実行する奴があぁああああ!!! ピキって言ったぁ! 今ピキって頭蓋骨から鳴っちゃいけない音がアァアあ――――!!」
「あの後映画館で翔子にずっと捕まってた後、あいつの家に連れてかれ……その後に何があったか……お前に分かるのか……?」
口では言えないような何かをされたのだろうか。少し気になる。
「うぐぅ……こめかみが……」
「…………宗一はR-18(G)も描く。俺も全部を知ってるわけじゃない」
ムッツリ商会で写真や創作物を販売している僕と康太だが、実はお互いが普段どんな物を作っているのか、全てを知っているわけじゃない。隠しているのではなく、単純に量が多すぎて把握しきれていないのだ。
実際、僕は康太がどこに隠しカメラを仕込んでいるのか知らないし、康太は僕がどんな小説や漫画を描いているのか、すべてを知っているわけじゃない。たまに評価が欲しくて読ませることはあるのだが。
「ったく、お前が何を描こうがお前の自由だが、もうちょっとマシな内容を描け!人に迷惑をかけないような物をな!」
「いいじゃないか別に! 雄二の命に危機があるわけでも―――」
ポンッ
「宗一……お前は俺に命の危険がないとでも思っているのか?」
「…………」
僕の肩に手を置きながら、真剣に、そして諭すように言う雄二。
その言葉から頭によぎるのは霧島翔子。長年の片思いをかなえるべく、その為なら割と手段を選ばない子。
どうしてか、学年主席で一番美人なはずなのに、スタンガンと手錠を持つ姿が思い浮かぶ。そしてそれがなぜかよく似合っていた。
「…………ごめん」
「…………いいんだ」
僕が謝り、雄二はそれを許した。
今度はもうちょっと純愛物を描こうと思いました、まる。
―――――――――――Fクラス
「よぉ、明久。珍しく早いじゃないか」
「おはよう、明久」
「…………おはよう」
「雄二、宗一、ムッツリーニ」
教室に入ると、僕らより先に登校していた明久がいた。朝から何も食べていないのか、少し顔色が悪いように見える。……そういえばこいつ、昨日は二人の女の子とデートしてたんだよな……。くっ、羨ましい。
「昨日はどうだった?」
雄二も気になったのか、昨日についてさっそくと言わんばかりに尋ねた。
「今月の食費が一瞬にして映画の闇の中に消えた……」
溜息を吐きながら悲しそうに言う明久。映画って学割で千円だろ? そこにポップコーンとか飲み物を付け足しても二千円も行かないはずだ。
「ひょっとして、二人に奢ったのか?」
驚いたように雄二が言うと、明久は目から大量の塩水を流し始めていた。
「…………(ドバドバ)」
「その反応を見るからに、雄二の言う通りみたいだね……」
「…………哀れ」
涙を流す明久。いくら学割とは言え3人分の映画代は普通の学生には辛いだろう。万年金欠の明久には尚更。素直に金がないと言えばいいのに……でも、自分の命の危機を感じながら食費を削ってもなお、漢の甲斐性を見せつけた明久は賞賛に値するかもしれない。
「宗一は?」
「あの後Aクラス女子に捕まって一通り罵声とビンタを喰らった後、鉄人と補習デート……反省文20枚と鉄拳指導は地味に辛かった……」
エロ小説を書くのなら20枚なんてぱぱぱっと書けるのにね。こういうのになると途端に筆が止まるよね。不思議だよね。
「Oh……雄二は?」
「目が覚めたら……繋がれた牛が殺されるシーンだった……」
「えっ」
それ、地獄の黙示録(完全版)のワンシーンじゃなかったっけ? 確か3時間23分ある奴。
「隙を見て逃げ出そうとしたら、また電気ショックを喰らって気を失い……目が覚めたらまた牛が」
しかも二回観たのか。
「また逃げようとしたらまた気を失って……永遠に牛を殺すシーンで目覚め続けるんじゃないかと強迫観念に襲われて……逃げられなくなった……!」
霧島さん、確かに「逃げようとしたらスタンガンを食らわせてやれ」と言ったけど、本当にやるとは思わなんだ。
「永遠に映画の最初は観られないんだね……」
明久がそうつぶやくと、どこからか、「ぐぐぅ~……」という音が響く。
音の音源を視てみると、明久のお腹の音のようだった。よほど空腹なのだろう。
「はぁ……そんなことより次の仕送りまでどうやって生きよう?」
「あのゲームの山を売ればいいじゃないか」
雄二が「何を言ってるんだこの馬鹿は」と呆れながらそう言った。雄二の言う通り、明久の家には大量のゲームがある。中古販売は安くなってしまうとはいえ、あれぐらいの量のゲームを売れば3ヵ月は持つだろう。
「なんてこと言うんだ!何物にも代えがたい、優秀な作品の数々を、食べ物なんかに換えられるわけないじゃないか!」
「自業自得って言葉、知ってるか?」
「雄二はまだ余裕があるからそんなことが言えるんだよ!僕なんか命に関わるんだよ!?」
ポンッ
「明久……お前は俺に命の危険がないとでも思っているのか?」
「…………」
明久の肩に手を置きながら、真剣に、そして諭すように言う雄二。
その言葉から頭によぎるのは霧島翔子。長年の片思いをかなえるべく、その為なら割と手段を選ばない子。
どうしてか、学年主席で一番美人なはずなのに、スタンガンと手錠を持つ姿が思い浮かぶ。そしてそれがなぜかよく似合っていた。
「…………ごめん」
「…………いいんだ」
明久が謝り、雄二はそれを許した。
「…………康太」
「…………」
「……なんていうかさ……男って……辛いな」
「…………(肩ポン)」
どうしてか、涙が溢れて止まりません。
もうちょっと幸せになりたいと思いました、まる。
Aクラス戦の次の日の話でした。
アニメ版を視聴済みニキならお察しの通り、3話の辺りのお話ですね。
次回もアニメ版3話を少しいじって投稿したら、清涼祭編に入りたいと思います。