バカとテストと変態紳士っ!   作:ガオーさん

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第二問 歌うバカに作るバカ

Side 川上宗一

 

 

 

「なぁにこれ」

 

 

 改めてFクラスの春の学園祭の出し物として提案された案を見てみよう。

 

 

【候補① 写真館『秘密の覗き部屋』】

 

 

 ……うん、これ提案したの絶対康太だわ。個人的には一番推したいアイデアだけど、公序良俗的にアウトだよね。

 それにしても秘密の覗き部屋か……そういえば一時期ネットに「女子大生の生活の1日」という盗撮物が流行ってたっけ。自分の生活風景を生放送して視聴者に金を払ってもらうって奴。

 行為すらしていない動画にはあいにく僕の性癖に刺さる所かかすりすらしなかったけど、あれって今でもやってるんですかね。

 

 

【候補② ウエディング喫茶『人生の墓場』】

 

 

 これは誰が提案したんだろう。ウェディングドレスフェチが我がクラスにいたとは驚きだ。

 でも教会とウェディングドレスってあんまいいイメージないんだよね。

 結婚式、神父の前で待つ新郎。しかし新婦は控室で間男と(偏見)

 まあ百歩譲って喫茶店はいいとしても「人生の墓場」ってなんだ。もうちょっといい店の名前を出せないのか。

 

 

【候補③ 中華喫茶『ヨーロピアン』】

 

 ……3つの中で唯一まともな中華喫茶。けれど、ヨーロピアンってなんだ。中華なのにヨーロッパ風なのかよ。中華バカにしてんのか。

 

 

「もしかして明久、君が全部書いたの?」

「うん」

 

 僕は教卓の前に立っている美波を見る。

 

「……美波、明らかに人選ミスだよ……」

「どういう意味だっ!?」

「とにかく、これは消した方がいいよ。もしこれを西村先生に見られたら――」

 

 

 ――――ガラララッ

 

 

「皆、清涼祭の出し物は決まったか?」

「あ、来ちゃった」

 

 教室の扉が音を立てて開き、筋骨隆々の鉄人こと西村先生が現れた。

 

「今のところ、候補は黒板に書いてある三つです」

「ほうほう」

 

 美波が言うと、鉄人はゆっくりと明久が描いた黒板に目をやった。

 

「…………うぅん?」

 

 

【候補① 写真館『秘密の覗き部屋』】

 

【候補② ウエディング喫茶『人生の墓場』】

 

【候補③ 中華喫茶『ヨーロピアン』】

 

 

「……補習の時間を倍にした方がいいかもしれんな」

 

 ぽつりと呆れ顔でつぶやく鉄人先生。

 

『せ、先生! それは違うんです!』

『吉井が勝手に書いたんです!』

『僕らがバカなわけじゃありません!』

 

 補修の時間を増やされたくない一心でFクラス全員が抗弁する。明久を一人バカ扱いすることで。

 

「馬鹿者! みっともない言い訳をするな!」

 

 さすがの西村先生も明久ひとりに押し付けようとすることに腹を立てたのか、大声で一喝する。

 

「先生は、馬鹿な吉井を選んだこと自体が頭の悪い行動だと言っているんだ!」

 

 ……反論できない。

 

「まったくお前らは……稼ぎを出してクラスの設備を向上させようとか、そう言った気持ちすらないのか?」

 

 溜息まじりの鉄人の台詞。それは、僕が先日の昼休みに出した提案と一緒だった。

 そしてその言葉に一気に活気づく教室内。

 

『そうか! その手があったか!』

『何も試召戦争だけが設備向上のチャンスじゃないよな!』

 

 しかし、活気付いたのはいいものの、やはりFクラス。協調性とまとまりがない。

 

『中華喫茶なら――』

『お化け屋敷のほうが――』

『簡単なカジノを――』

『焼きとうもろこしを――』

 

 烏合の衆とはまさにこのことだろう。意見が徐々にばらばらになっていき、まとまりがなくなっていく。

 試験召喚戦争の時は雄二が『打倒Aクラス』という指針を彼らに与えていたからこそ、まとまっていたのだ。その頼れるリーダーは……いた、あんなところで寝てる。元々やる気がないから美波達に押し付けたのだろう。

 

「はぁ、まったくもう……」

 

 先ほどから美波が必死に声を荒げてまとめようとするものの、そんな程度で止まるFクラスではない。ざわめきは大きくなる一方だ。

 

「ねえ、アキ、宗一。坂本を引っ張り出せない?これじゃああまりにまとまりが悪すぎるわ」

「う~ん……無理だと思うよ。雄二は興味のないことには驚くほど冷たいから」

「前から試験召喚戦争以外には興味なさげだったからね……仕方ない、僕がやるよ」

「宗一が?」

「そりゃありがたいけど……宗一がなんとかできるの?」

 

 明久が心配そうにこっちを見ている。明久は「宗一にそんなことできんの?」と言わんばかりの疑いの目を向けてくる。友達に向ける目ではないだろう。

 

「まあ見といてよ。ねえ皆。ちょっとこっちを――」

 

『初期投資が――』

『カジノのほうが簡単で――』

 

 僕が声を上げるが、連中はちっともこっちを見やしない。だから僕は、小声でぼそりとこう言った。

 

 

「――今から三秒以内に全員が黙ったら一番最初に静かになった奴に僕のエロイラストを進呈する(ボソリ」

 

 

 

 ―――――シンッ

 

 

 

 あの大騒ぎの中、エロイラストという単語を聞き逃さなかった連中が一瞬にして黙る。一番最初に静かになったのは須川かな? あとでJKのエロイラストをくれてやろう。

 さて、ようやく静かになった。教室が静かになった今なら少しは美波達もやりやすいだろう。

 

「………………」

「………………」

「ほら、美波。ぼけっとしてないで。今がチャンスだよ。明久も間抜け面してないで」

「誰が間抜け面だっ!?」

「え、あ、あれ? あ、そ、そうね。 皆、この三つの中から一つだけ選んで! このままじゃまとまりがつかないから多数決を取るわよ!」

 

 美波はさっそくと言わんばかりに多数決を取り、決を採りにいく。結果、中華喫茶が一番多くの手が上がり、僕らの出し物は中華喫茶になった。

 

「Fクラスの出し物は中華喫茶! 全員、協力すること!」

 

『『『ウィース』』』

 

 気の抜けた返事が教室に響く。とりあえず不安が残るけどこれで清涼祭への準備を進めることができるだろう。

 

「それならお茶と飲茶は俺が引き受けるよ」

 

 と、須川が立ち上がる。

 

「須川が? 飲茶ができるなんて意外」

「中華喫茶を提案したのは俺だぞ? 自信はあるから任せてくれ」

 

 へえ、中華に詳しいのか。クラスメイトの意外な一面を見た気がする。

 

「………………(スクッ)」

 

 そしてムッツリーニこと、土屋康太も立ち上がる。

 

「ムッツリーニ、料理なんてできるの?」

 

 明久の訝しむ声。

 

「…………紳士の嗜み」

「中華料理が紳士の嗜みだなんて話、聞いたこともないよ」

「違うよ明久。この間、僕と一緒に横浜の中華料理店にチャイナドレス見たさに通ってたら見よう見まねでできるようになったってだけだよ」

「…………チャイナドレスなんて、興味はない(ブンブン)」

「ムッツリーニのスケベ力は相変わらず凄まじいね……」

「康太は手先は器用だし、物覚えも良い方だからね」

「じゃあ、土屋と須川が厨房ね。厨房班を希望する人は二人の所に、ホール班はアキの所に集まって!」

 

 美波が厨房班の代表に康太と須川を任命し、明久はホール班の代表に。そして美波の指示に従って、クラスメイトが移動を開始する。

 

「ん? ムッツリーニもできるっていうことは、宗一も料理できるの?」

「できるけど、今回は厨房班は無理かな」

「へ? なんでさ」

「ちょっとね……おーい、皆訊いてー」

 

『なんだなんだ?』

『まだなんかあるのかよー』

 

 僕が声を張ると、クラスメイト達がめんどくさそうに僕に視線を集めてくる。

 

「実は、今回の清涼祭でもライブをしたいと思ってるんだ。最終日の後夜祭でね。それでバンドを手伝ってくれる人を探してるんだ」

「宗一、今年もまたやるの?」

「そうそう。アコギで弾き語りもいいんだけど、やっぱドラムとかベースも一緒に演奏したくてね」

 

 そう、僕は今年もまた清涼祭でライブに挑戦するつもりだった。去年はクラスメイトに無理やりやらされ、あまり乗り気じゃなかった。だからギターで適当に歌ってただけだけど、今回はドラムとベース、あともう一人、サイドギターかキーボードを弾ける人がいると演奏できる幅が増えていいのだが……。

 

『バンド?』

『あぁ、そういえば川上は去年ライブで活躍してたんだっけ?』

『でも楽器なんてできねえよ』

『かったるいしなぁー』

『人前で演奏するなんてできっこねえよ』

 

「まあ、皆の気持ちも分かるけど……やれる人いない? 裏方も募集中」

 

『やだよめんどくせー』

『出し物の方もあるのにやってらんねえよ』

 

 僕の提案に対して、クラスメイト達はめんどくさそうだ。まあ、今年は中華喫茶のこともあるし、後夜祭で更に演奏だなんて疲れることはしたくないのだろう。

 

「んー……明久はどう?」

「え? あー、僕もさすがに、後夜祭まで働くのはちょっと……」

「そっかー。残念だな」

 

 僕は教室にいる男子生徒全員の耳に届くようわざと声を張り上げて言う。

 

「清涼祭でバンドをして活躍することができれば、女子にバンバンモテるのにな―――」

 

『『『詳しく聞かせろぉ!!』』』

 

 明久、康太、そして須川達Fクラスのモテない男共が食いつく、いや噛みつく勢いで前のめりになる。

 

「バンドをするとモテる。その日のうちに告白される。ソースは僕」

 

『『『俺達に任せろぉ!!』』』

 

 こういう、自分の欲に真っ直ぐなところ、嫌いじゃないし好きだよ。

 

「ちょっとちょっと! バンドもいいけど、中華喫茶の方を優先だからね!

 

 美波が声を荒げる。Fクラスのほとんどの男子がバンドの話にくぎ付けになりかけたから焦ったのだろう。

 

「ま、今美波が言った通り、中華喫茶が優先だから。希望者は後で僕の所に来てね。人数が多かった場合、僕が独断と偏見で決めるからよろしく」

 

「ほらほら、時間がないんだから、早く全員、ホール班と厨房班に分かれなさい!」

 

 美波の指示で、再びクラスメイト達が動き出す。

 

「それじゃあ、私は厨房班に――」

「駄目だ姫路さん! 君はホール班じゃないと!!」

「そ、そうだよ! 可愛い姫路がホールじゃなかったら誰がウェイトレスをするのさ!?」

 

 平然と厨房班に分かれようとしていた姫路を呼び止める僕と明久。

 まさか学園の喫茶店で食中毒者を出す訳にはいかない。食品衛生法に引っ掛かって大変なことになってしまう。

 

『明久、宗一! グッジョブじゃ!』

『……………!(コクコク)』

 

 必殺料理人姫路の文字通り殺人級の腕前を知っている秀吉と康太からアイコンタクト。寝ている雄二も、よく見ると小刻みに震えている。

 

「そういうわけで、姫路。ホール班だけ(・・)頑張って! 店の利益の為に! 美波と姫路がいれば、ダブルウェイトレスとして、客がたくさん入るから! ね、明久!」

「そ、そうだよ!可愛い姫路さんがホール班なら最高だよ!」

「か、可愛いだなんて……。吉井君がそう言うなら、ホールでも(・・)頑張りますね!」

「ホールだけ(・・)で頑張ってくれ!」

 

 必死に僕は説得する。あんな料理をお客に出してしまったら救急車を呼ばなければいけなくなってしまう。この間の僕みたいに臨死体験者を増やすわけにはいかない。

 

「は、はい……そ、そこまで言うなら……」

「あ~でも、ウチは料理できるから、厨房班にしようかな~?」

「あ、うん。適任だと思う」

「…………」

「それならワシも厨房班に……」

「秀吉、何をバカなことを言ってるのさ。そんなに可愛いんだからもちろんホールにみぎゃぁあ! み、美波様! 折れます! 腰骨が! 命に関わる大事な骨が!」

「……ウチもホールにするわ」

「そ、そうですね……それがいいと、思います……」

 

 こんなドタバタで、ミカン箱とござの生活から脱出することができるだろうか?

 

「そうじゃ、宗一」

「…………」

「ん? 康太、秀吉。どうしたのさ」

「さっきのバンドの話、儂にやらせてくれるのかの」

「…………(グッ)」

「え、本当?」

「演技の幅が広がるかもしれんしの。何事も体験じゃ。それに、以前楽器を使った演目があったから、力になれると思うぞい」

「助かるよ! ……でも、康太は?」

「…………別に、モテたいわけじゃない」

「ア、ハイ」

 

 こうして、僕らは清涼祭に向けて準備を始めるのであった。




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