以下の問いに答えなさい。
「バルト三国と呼ばれる国名を全て挙げなさい」
姫路瑞希の答え
「リトアニア エストニア ラトビア」
教師のコメント
そのとおりです。
土屋康太の答え
「アジア ヨーロッパ 浦安」
教師のコメント
土屋君にとっての国の定義が気になります。
吉井明久の答え
「香川 徳島 愛媛 高知」
教師のコメント
正解不正解の前に、数が合っていないことに違和感を覚えましょう。
川上宗一の答え
「地球には国境などどこにもない。まして、冷戦や東西の線引などどこにもない。皮肉なことに、米ソのミサイル競争も、宇宙開発競争もこの答えにたどり着くために行われているようなものだ」
教師のコメント
ザ・ボスの台詞を覚える前に地名を覚える努力をしましょう。
Side 川上宗一
「宗一、ちょっといいかしら」
帰りのHRが終わり、絵と楽器の練習をするために帰ろうとしたところ、美波に呼び止められた。その後ろには明久もいる。
「ん、何か用。明久との今日の放課後デートのためのおすすめスポットを教えてもらいたいの?」
「そうなの、できればロマンチックなところが――って何言わせるの!」
「オススメのラブホだったらいくらでも紹介を――ぶべらっ」
「美波、駄目だ!それ以上は宗一が死んじゃう!」
「放しなさいアキ! ウチはこの男の顎を粉々に砕いてやらないと気が済まないの!」
相変わらず美波の右ストレートはキレがあるようで、それどころか最近威力が上がっているような気がする。毎日明久と取っ組み合いをしているからかしらん?
「いつつ……で、何?」
「アキにはもう話したんだけど、その、坂本を学園祭に引っ張り出せないかなって」
「雄二を? ん~~……」
雄二はどちらかと言えば快楽主義者だ。自分にとって楽しい、面白いことに集中するタイプだ。逆に言えば興味がないことはおざなりにしてしまうタイプ。
「明久が頼めば? だって一番の友達は明久じゃないか」
「え? 別に僕が頼んだからって……」
「だって、二人は愛を誓い合った仲なんでしょ?」
「もう僕お婿にいけないっ!」
「やっぱり宗一もそう思う? ウチもそう言ったんだけど……」
「どうして真顔でそんなセリフが出てくるの!? だったら僕は、断然秀吉の方がいいよ!」
「あ、明久?」
偶然近くにいた秀吉の動きが止まる。
「あれ? なんだか妙なことになってない?」
「やっぱ明久はその気があるんやなって」
「そ、その、お主の気持ちは嬉しいが、そんなことを言われても、ワシらにはいろいろと障害があると思うのじゃ。その、ホラ、歳の差とか……」
「ひ、秀吉! 違うんだ! もの凄い誤解だよ! さっきのはただの言葉のアヤって奴で……!」
秀吉が……ベッドの上で……■■■が秀吉の■■■に■■して秀吉の■■■を■■■■■――――
「……(たら)」
「えぇ!? 今までどんなエロトークをしても鼻血を出さない宗一が鼻血を!?」
僕だって興奮することぐらいある。それにまだ一滴だから。全然セーフだから。
「まあ、動かす方法ぐらいなら普通に思いつくよ」
「本当? よかった、宗一が動いてくれるなら安泰だよ!」
明久が手を上げて喜ぶ。なんだろう、変に必死だな。
「何? そんなに喫茶店を成功させたいの?」
「!? も、もちろん!」
目に見えて動揺する明久。
「何か理由があるの?」
「……」
「……一応、話してみ」
「……分かったよ、美波、いい?」
「そうね、事情が事情だし、宗一にも手を借りる以上、話さないのはね……実は――」
―――――――――――
「はぁ、姫路が転校か」
想像以上にディープな問題だった。姫路が転校、なるほど、明久が必死になるわけだ。さっきの話し合いでも姫路はかなり積極的だったし、なんとしてでもこの出し物を成功させて設備を上げたいのだろう。
「転校の理由は、両親の仕事の都合じゃないんだよね?」
「そうね。純粋に設備の問題ってことになるわ」
改めてFクラス教室を見渡す。ござとミカン箱という糞みたいな環境だ。
親からすれば転校させてもっといい学校に通わしたいのだろう。
それに姫路は体はそこまで強くない。カビと埃だらけの教室は明久みたいな頑丈の塊ならともかく、姫路のような女子には厳しいはずだ。
「念のため確認するけど、姫路は転校を望んでいない?」
「うん。瑞希も抵抗して『召喚大会で優勝して両親にFクラスを見直してもらおう』とか考えているみたいなんだけど、設備をどうにかしないと」
「それだけじゃ転校を止めるには厳しいね」
所詮、僕ら子供は保護者の庇護下にいなければ生きていけない存在だ。両親が転校を決めてしまえば、姫路は有無を言わさず別の高校に移されてしまうだろう。そもそもFクラスに落とされたのは姫路が体調を管理できなかったのが原因だ。親からすればちょっと体調が良くなかっただけで勉学が進まない、しかも身体に害がある可能性が高い教室から一刻も早く出してあげたいと思うのが親心だ。文月学園は進学校だけど、勉強をするだけなら別にここじゃなくてもいいのだから。
まあ、姫路が転校したくないのはFクラスうんぬんより明久と離れたくないと言う思いの方が強いのだろうが。
「明久は姫路に転校してほしくない?」
「もちろん嫌に決まってる! 姫路さんに限らず、それが美波や秀吉、宗一であっても!」
明久の力強い言葉。心の底から思っていると言わんばかりの顔だ。
「そっか……うん、アンタはそうだよね!」
美波が嬉しそうに頷く。
「そうじゃな。ワシもクラスメイトの転校と聞いては黙っておれん」
「じゃあ、とりあえず雄二を見つけに行かなきゃね」
僕は教室から出ようとする。
「あれ? 宗一、雄二の場所知ってるの?」
「何言ってるの明久」
僕はにやりと笑う。
「――――僕はムッツリ商会の創設者だよ?」
後で言われたのだが、カッコよく言っていたが全然カッコよくなかったとだめだしされた。
―――――――――――
「やぁ雄二、奇遇だね」
「奇遇奇遇。すごい奇遇」
「……どういう偶然があれば女子更衣室で鉢合わせするのか教えてくれ」
体育館にある女子更衣室。僕は康太が仕掛けた盗撮カメラから、雄二がここに入り込んだことを突き止めていた。ついでに、雄二が霧島から逃げてここに入り込んだということも。
「まさか雄二が堂々と女子更衣室に入るとは思わなかったよ。誘ってくれればよかったのに」
「変態紳士のお前と一緒にするな!」
ガチャッ
音を立ててドアが開くと、その向こうには体操服姿の女子の姿があった。
「えーっと、あれ? Fクラスの問題児コンビと……ゲッ、変態」
現れたのは木下優子だった。相変わらず秀吉そっくりで可愛らしい。
けれど、この間の工藤といい、僕はAクラスの女子達からすっかり変態というイメージが定着してしまったようだ。
「やぁ、木下優子さん。奇遇だね」
「秀吉の姉さんか。奇遇じゃないか」
「やっほー、元気ー?」
あっはっは、と爽やかに笑い、あくまで偶然を装う僕ら。だが、こんなことでAクラスの優等生は騙されない。
「先生! 覗きです! 変態です!」
「逃げるぞお前らっ!」
「「了解っ!」」
更衣室の小さな窓から飛び出す。やっぱりごまかせなかった!
「しまった……!」
「どうしたの宗一!?」
「ひとつぐらいブラジャー盗ってくればよかった!」
「「何を言ってるんだこの変態!?」」
『吉井と坂本と川上だと!? またアイツらかっ!』
「雄二、宗一、不味い! 鉄人の声だ!」
「とにかく走れ!」
上履きだけど構わず外へ走る。鉄人先生に捕まれば最後、どんなお仕置きをされるか分かったもんじゃない。
「見つけたぞ! 三人とも逃がすか!」
野太い男の怒声が近づいてくる。やっぱり鉄人先生の身体能力は伊達じゃあない。
「明久、宗一! あそこだ!」
雄二が叫ぶ。その視線は前方の新校舎二階にある開け放たれた窓だ。
「オーケー!」
「了解!」
雄二と僕が先行し、開いた窓の下に立ち止まって、走ってくる明久の方を向く。明久は上着を脱いでこっちに走ってくる。
「よし、宗一!」
「はいよ! 明久!」
「行くよ!」
雄二と手を組んで作った踏み台を、明久が足をかけ、一気に跳び上がる。その瞬間に僕と雄二が勢いよく腕を跳ね上げ、明久はなんなく二階の窓に侵入する。
「宗一!」
「よいしょぉ!」
明久に続き、僕も雄二の踏み台を使って一気に跳び上がり、窓に飛びついた。
「くっ! このバカども! こういう時だけ無駄に運動神経を発揮するとは!」
「雄二!」
「あらよっと!」
明久が制服の上着を窓の下に垂らし、雄二は壁を蹴って跳び、空中でそれを掴んだ。
「「せぇーのぉ!」」
制服に体重がかかった瞬間、僕と明久は一本釣り。嫌な音が制服からしたけど、まあ明久のだから別にいいよね。
『吉井! 坂本! 川上! 明日は逃がさんぞ!』
「ふぅ……流石の鉄人先生も二階まで飛ぶことはできないか」
ちょっと怖かった。あの先生なら二階までジャンプしてきそうだから。何それ怖い。範馬勇二郎かよ。
「はぁ、また要らない悪評が増えていく……」
明久の溜息。
「俺の方こそいい迷惑だ。お前らが来なければこんなことにはならなかったのに」
木下姉が来た時、なんて言い訳をするつもりなのだろうか。
「そもそも雄二が女子更衣室なんかに隠れていたのが悪いんじゃないか」
「し、仕方ないだろ! 相手はあの翔子だぞ! 普通の場所なんかで逃げ切れるか!」
「まあ、男子トイレぐらいだったら躊躇いなく入ってきそうだよね……」
霧島翔子。二年Aクラス代表、学年主席。成績優秀、容姿端麗と物凄い子なのだが、雄二が大好きという若干ヤンデレ気味な女の子である。あとちょっと常識が欠けている。
「ところでどうしてそんなに必死に霧島さんから逃げてるの?」
「……ちょっと家に呼ばれてな」
家に? それがどうしたと言うのだろう。二人は幼馴染だ、お互いの家に行くことぐらい、あまり珍しいことじゃ――
「………………家族に紹介したいそうだ」
「……まだ付き合ってるわけじゃないんだよね?」
「大方、婚約者として親に紹介して、雄二を逃げられないようにするんでしょ」
ガンガン行こうぜ!を地で行くスタイルは尊敬に値するが、さすがに雄二に同情する。
「さて雄二、そんな君に朗報ですっ!」
明るく茶目っ気を含みながら言う明久。
「そうか。嫌な報せだったら殺すぞお前ら」
ドス声で殺意を迸らせる雄二。
「え、僕も?」
何故かターゲットにされて、動揺を隠せない僕。
「そ、宗一、例の物お願い」
明久に言われ、スマホを取り出し例の番号を呼び出して雄二に渡す。
「まったく、何の真似だ?―――もしもし?」
『……雄二、今どこ』
「人違いです」
ブツッ。
凄い。反射的に『人違いです』なんて切り返せる人間はそうはいない。
「コロス」
片言で迫ってくる雄二。はっきり言って超怖い。
「まあまあ、ちょっと落ち着いてよ。お願いを聞いてくれたら悪いようにはしないからさ」
「お願い? ふん。学園祭の喫茶店のことか。やれやれ、こんな回りくどいことをしなくても、お前が『大好きな姫路さんの為に頑張りたいんだ! 協力してください!』と言えば、面倒だが引き受けてやるというのに」
「なっ!? べ、別に、そんなことは一言も!」
「雄二、からかい過ぎだよ。今回は割とシャレにならない事態みたいだしさ」
「あーはいはい。話はわかった、仕方ないから協力してやるよ」
雄二がにやりと楽しげに笑う。どうやらエンジンがかかったようだ。
「それより宗一」
「ん?」
「お前、翔子と親しかったのか?」
「聞いても怒らない?」
「バーカ。どうせ引き受けたんだ。今さら怒ってどうするんだ」
「実は電話で恋愛相談をよく霧島からされるんだ。昨日も『どうすれば雄二と結婚できると思う?』って電話で訊かれたから、『両親に明日にでも紹介して、雄二を婚約者にして逃げられないようにすればいいよ』って話を――」
「目を瞑って歯を食いしばれ」
うそつき。
感想、誤字報告、いつもありがとナス!