バカとテストと変態紳士っ!   作:ガオーさん

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第四問 バカおん!

Side 川上宗一

 

 

 

 校庭で試験召喚獣を使った、絵描きのパフォーマンス。

 

 

 あまりにも楽しそうなので思わず安請け合いしてしまったのだが、よくよく考えればかなり大がかりだった。

 まず、高さ。

 さっき鉄人先生に確認してみた所、文月学園の校庭の広さのほとんどと、校舎より高めのフィールドを展開するようだった。

 仮に、この高さを活かしてゴジラを完成させるとなると、並大抵の労力ではない。梯子を使ったって作るのに何時間かかることやら。機械も使わずに自由の女神か奈良の大仏に登れと言っているような物なのだから。どう考えても現実的じゃないし、実際無理だろう。

 

 だが、そんな無理を通すのが召喚獣。

 

 僕の召喚獣は絵を描いて実体化させると言う、他の召喚獣とは違う力を持っている。けれど、召喚獣のスペック自体は変わらない。仮に明久程度の点数しかない召喚獣でも、身体能力は人間の十倍以上を持つ。ジャンプをさせれば人間じゃ届かない場所まで飛ぶことだってできるだろう。いざとなれば絵を実体化させる力を使って踏み台でも描けばいいだけだし。

 

 とりあえず、高さについては問題はない。

 

「問題なのは何を描けばいいのか。それが問題だ」

 

 頭の中でどんな絵を描こうか大雑把なイメージはできている。

 けれど、あまりにも描きたい絵が多すぎる。

 鉄人先生も学園祭での仕事があるため1日中フィールドを展開することはできないし、召喚獣の点数のことだってある。腕輪があると言っても、絵を描いている最中、一秒に一点減るというデメリットがある。小学生レベルの漢字テストで千点取ることができたとしても、1000÷60で17分ちょい。

 圧倒的に時間は足りない。なのに、描く物が多すぎる。

 

「どうしたものかなぁ」

「宗一よ、こっちの方も集中してほしいのじゃが」

 

 頭を抱えていると、秀吉がそう言う。見てみると、ジトっとした目つきで僕に文句を言いたげな康太と秀吉がこっちを見ていた。

 

「後夜祭のライブの曲目を決めるのじゃろ? もう少し真剣になってほしいのじゃが」

「…………(コクコク)」

「ごめんごめんって」

 

 Fクラス教室。人がいなくなったこの教室で、僕達3人は後夜祭で演奏する曲を決めていた。

 さっき、秀吉と康太にどれぐらいできるか訊いてみた所、康太はギターもドラムも問題なくできるようだった。理由を訊いてみると、去年のロックフェスに連れて行った時にミニスカートで跳ね回るガールズバンドを観てえらく興奮したらしい康太は、ライブハウスに定期的に通っていたようだった。僕も連れていって欲しかった。

 演奏している所を見ただけでできるようになるとは、康太は手先が器用云々より普通に天才なのかもしれない。

 エロ目的でパソコンを使い始めたら異様に上達が早くなったみたいな。エロは何物にも代えがたい原動力なんだって、はっきりわかんだね。

 秀吉は歌はもちろん、驚いたことにギターができるようだった。他にもピアノや、ギターよりやや劣るもののベースもできるらしい。誰かに教わったの、と訊いてみると、中学の時、ある演劇でバンドの演奏するシーンがあったとか。そのシーンを完璧に演じる為、役者魂の塊みたいな秀吉は独学でそれを極めてしまったようだった。ちなみに、その演劇の秀吉の役は主人公ではなくヒロインだったらしいです、まる。

 

「秀吉はリードギター、僕がベース、康太がドラムとしても……うーん、あと二人は欲しいかなぁ」

「なんじゃ、Fクラスのクラスメイト達はどうしたのじゃ? あれほどおれば、何組でもバンドを組めそうじゃが」

「全員、女子と付き合いたいというだけで弾ける奴がほとんどいなかったんだよ。「何か楽器弾ける?」って訊いてみたら「リコーダーが得意です」って言われた僕の気持ち分かる?」

「…………宗一の苦笑いが目に浮かぶ」

「小学生レベルじゃったか」

 

 確かに初心者でもいいとは言った手前、僕は根気よく全員、どれぐらい楽器が弾けるか訊いてみた。

 けれど、ドヤ顔で「鍵盤ハーモニカが得意です!」とか「カスタネットが得意です!」と言われてどうすればいいんだよ。うんたんうんたんするのかな?バンドするって言ってるの。軽すぎる音楽じゃないの!

 そんな感じでFクラスの連中のほとんどその場で不採用通知を出した。モテたいならもっとギターのテクを磨いてくれ。

 

「ではどうするのじゃ? ワシらだけではこの曲は厳しいぞい」

「…………決めないとマズい」

 

 清涼祭まで時間はない。はやい所、メンバーを決めないと……って、

 

「あれ? そういえば雄二と明久はまだ帰ってこないの?」

「そうじゃの。もう20分以上経つじゃろうし、そろそろ戻ってくるんじゃないかの?」

 

 姫路の転校を阻止するべく、学園長室に向かってそのまま帰ってこない二人。もう教室の修繕を頼みに行ってから結構経つけど、まだ帰ってきていない。

 

「教室の修繕か。普通の学校だったら当然しなきゃいけないことだけど、そう簡単に説得できるかな?」

 

 学園長は厳しい。試験召喚戦争システム自体、学力至上主義のバカに厳しい仕組みだが、その学園の事実上トップの役を持っている学園長はもっと厳しい。

 

 姫路の転校を阻止するために必要なことは三つだと、雄二は言っていた。

 

 一つ目は『ござとミカン箱という設備から最低でも卓袱台以上のランクに上げること』。

 二つ目は『腐った畳と隙間風だらけという健康を害する可能性がある老朽化した教室の改修』。

 三つ目は『学力を向上することができないレベルの低いバカなクラスメイトをなんとかすること』。

 

 一つ目は今回の清涼祭の売り上げ、三つ目は召喚大会で優勝でもすれば問題ないということになった。

 けれど、二つ目は教室という建物自体の改修。これはいくら清涼祭で売り上げがあったって、学生で払うことは難しい。どうやったって学校側に頼む必要がある。

 

 けれどそこで問題なのがこの学校の方針だ。学力至上主義、まともな教室で勉強したいなら振り分け試験で良い点を取れ、というのが文月学園のルール。

 あの学園長のことだ。明久達が丁寧に頼み込んでも『ガタガタぬかすんじゃないよガキども』と一蹴するだろう。設備に差をつけて学力の意欲を向上させるというこの学校で、Fクラスだけ、しかもわざわざ一人の生徒の為に教室を改修しよう、と言うほどあの学園長は子供に優しくはない。スポンサーが多く、学費も安いこの文月学園で生徒が一人転校しようとあまり大きな影響はないだろうし。

 

「そこは雄二の交渉次第じゃろう。あれでもよく頭は回るしの」

「確かにね……」

 

 そんなことを言っていると、廊下側からこつこつと足音が響き、Fクラスの教室の扉が開かれる。入ってきたのは明久と雄二だった。

 

「ただいまー」

「おう、今戻った」

「明久、雄二」

「首尾はどうじゃった、明久」

「ああ、うん、実はね――」

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

「「「試験召喚大会?」」」

「うん。そこで優勝して如月ハイランドのプレミアムオープンチケットを手に入れれば、教室を改修してくれるって」

 

 学園長から明久と雄二に提示された条件は、これまた珍妙な物だった。なんでも、学園長が知らぬ間に試験召喚大会の優勝者に与えられる副賞となってしまった『如月ハイランドプレミアムオープンチケット』。それを回収してこい、とのこと。

 優勝者と交渉して手に入れるのではなく、あくまでも明久達が優勝して手に入れることを前提とした、なんとも奇妙な条件だった。

 

「……で、さっきからそこでブツブツとよく分からない独り言をつぶやいている雄二は霧島との結婚を回避するために、なんとしてでもそれを手に入れる必要があると」

「僕もよく分からなかったんだけど、霧島さんがもしチケットを手に入れたら一緒に行く、なんて約束をしたみたいで……」

「…………目が死んでる」

「ちなみにもしそれを破ったら?」

「霧島さんと結婚するって」

 

 明久の話によると、このチケットはやってきたカップルを、如月グループが半強制的に結婚までプロデュース、というある種の商業戦略が組み込まれているらしい。如月ハイランドにやってきたカップルは幸せな結婚ができる、というジンクスを作り、カップルたちを集める宣伝をするためだとか。試験召喚システムで話題になっているうちの学園からカップル第一号ができれば、学園にとっても如月グループにとっても世間的にアピールできる。どちらにとってもWin-Win、ということだろう。

 

「チケットでプレオープンに行っても結婚、約束破っても結婚、って……もうこれ詰みじゃない?」

 

 僕だったら諦めて投了するまである。

 

「冗談じゃない! 俺はまだまだ自由を謳歌したいんだ!翔子と結婚だなんてやっていられるか!」

「雄二もいろいろと難儀じゃのう……」

 

 さっそくと言わんばかりに王手をかけてきた霧島の魔の手を回避するべく、雄二は自分達が有利になるよう、対戦表が決まったら科目の指定をさせてもらうように交渉してきたようだ。

 

「…………でもこれは学園長にとって悪い話ではない。宣伝になる」

「そうじゃのう。ムッツリーニの言う通り、何故チケットを回収をせねばならないのじゃ?」

「ババア曰く、『可愛い生徒の将来を勝手に決めるのは気に入らない』ってさ」

「うーん、まあ気にしても仕方ないか」

 

 明久の話から、カヲル先生が副賞以外の何かを目的としているのは明らかだった。優勝をしてもらいたいのなら、明久達ではなくAクラス、三年生辺りに頼むはずだ。なのに、明久達にチケットを回収するように指示してきた。明久達だけが有利になるよう対戦科目を決める権利を与えるということは、明久達以外にこの指令は出ていないという証明になる。

 つまり、優勝できる高得点者ではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということだ。Fクラスの問題児ツートップを誇る二人でなければいけない理由が。

 その理由がまったく分からないけれど、それなら手助けをするしかないだろう。

 

「とりあえず協力はするよ。二人が優勝できるようにね」

「え、本当!?」

「どうせ二人じゃ勝てっこないし」

「ひどい!」

「では、儂も協力しようかの。せっかくの級友の晴れ舞台じゃからな」

「…………(スクッ)」

「秀吉に、ムッツリーニまで……」

「それに、どうせ雄二のことだから僕達の協力も計算内でしょ?」

「当然だ」

 

 いつの間に復活していた雄二が腕を組みながら言う。

 

「教室の改修をするためには優勝しなきゃいけないからな。お前達にもしっかりと働いてもらう。何が何でも、どんな汚い手段を使ってでも俺達は勝つ。最悪相手を殺してでも。絶対にだ」

 

 ここまで堂々と卑怯に手を染めると宣言できる人間はそうはいない。だが雄二の眼は座ってる。アレはマジでやる気だ。どんな卑怯な手も堂々とやるのだろう。

 

「そこまで結婚したくないの?」

「当たり前だ!!」

「雄二は霧島に弱いからのう……」

「…………尻に敷かれるのは目に見えている」

 

 うんうん、と頷く秀吉と康太。

 霧島は雄二に監禁まがいのことをやっているが、アレは雄二が必死に逃げようとするから力づくになっているだけだ。抵抗を止めて素直になれば、普通にイチャイチャできるというのに。

 

「……まあ、チケットのことがなくても、そう遠くない未来に雄二は捕まりそうな気がするけど」

「どういう意味だっ!?」

 

 いや、冗談とかではなく、あの霧島から逃げれた雄二の姿が単純に想像できないのだ。どうしてか、手錠をかけられた新郎姿の雄二と、花嫁衣装で着飾った霧島の姿しかイメージができない。

 

「国外逃亡とかしない限り、……いや、それすら無理な気がする。文字通り地の果てまで追ってきそう。雄二、諦めて運命を受け入れたほうが、きっと楽になるよ?」

「お前、俺に死ねと言うのか?」

「大丈夫、どうにかなるって。Don't worry.Be happy」

「全ッ然大丈夫になれる気がしねえ!」

 

 諦めんなよお前。

 

「それで、宗一たちは何やってたの?」

「今度の後夜祭のバンドの相談だよ」

 

 僕は明久達に、康太と秀吉と一緒に演奏すること、けれどあと二人楽器ができる人を探していることを伝えた。

 

「そうなんだ……Fクラスにはいなかったの?演奏できる人」

「現状で一番できる奴は鍵盤ハーモニカだった」

「鍵盤ハーモニカって、小学生レベルじゃん……。じゃあさ、人数が足りないなら、僕がやっていい?」

「明久が?」

 

 ………………………………。

 

「できるの?」

「宗一、今の長い間は何? 言いたいことがあったらはっきり言えばいいんじゃない?」

「明久、トライアングルができるのは凄いけど、せめて鍵盤ハーモニカ以上じゃないと……」

「まさかの幼稚園児レベル!? いくらなんでも馬鹿にし過ぎじゃない!?」

 

 いやあ、明久が楽器を演奏できるところがイメージできなくて……。

 

「確かに本物のギターはやったことないけれど、音ゲーとか大得意だからね。太鼓の達人とか得意だよ」

「太鼓じゃんか」

 

 そこはドラムマニアとかにしろよ。

 

「でも、ギタドラならできるよ? 家庭用の据え置き型でも結構極めたし、自信はある」

「へぇ……それなら明久、『チューニング』って何か知ってる?」

「え? ガムがどうしたの?」

「………………」

「明久よ。それはチューイングガムじゃ」

「不採用」

「ちょ、ちょっと言い間違えただけだよ!」

 

 まあ、ゲームのギターじゃチューニングなんてする必要ないし、知らなくても不思議じゃないか。

 

「なんでそんなにやりたいの?さっき訊いた時、あんなにやりたくなさそーだったのに」

「うっ、それは……せっかくの学園祭だし、思い出が欲しいんだよ。それに、宗一だけじゃなくて、ムッツリーニと秀吉も出るんでしょ? それだと、いつも一緒に遊んでいる友達から仲間外れされて寂しいし、友達と何かひとつのことを成し遂げ―――」

「本音は?」

「モテたい」

 

 御託を並べてないで最初からそう言えばいいんだよ。

 

「それじゃあ明久と雄二は参加だね」

「ちょっと待て。俺は参加するなんて言ってねえぞ」

「僕が今決めた」

「自由すぎるだろ!」

「大丈夫だよ雄二。僕はちゃんとわかってる。本当は仲間になりたくてしょうがないって」

「気持ちの悪い笑顔で勝手に語るな」

 

 ひどい。

 

「とにかく、俺は参加しねえ。試験召喚大会に喫茶店まであるんだ。バンドなんてやってられるか!」

「そんなこと言わないでよ。僕達は友達じゃん?」

「断る。どうしてお前とバンドなんか――」

「断ると雄二が中学時代に作った自作曲をネットで配信する」

「お前は悪魔か!?」

「鬼畜じゃのう」

 

 秀吉が何か言っているが気にしない。僕はスマホを取り出し、そこに表示されたある文章を歌い上げる。

 

「『俺は誰からも縛られたくないんだ♪ ただ自由に生きたいと大空に叫ぶ――♪』」

「ぎゃああああ!! やめろぉぉおおおおおおお!」

 

 慌てた雄二が叫びながら僕の口を塞ごうとするが、僕はひょいひょいと躱す。伊達にアイアンクローを喰らってばかりの僕じゃない。これぐらいなら回避は余裕だ。

 

「雄二……」

「雄二も男の子だったんだね……」

「…………思春期は誰にでもある。恥じることはない」

「その生暖かい目をやめろぉおおお!!」

 

 雄二が頭を抱えて畳に倒れ伏す。中二時代に書いたポエムなんて、黒歴史以外の何物でもないよね。

 

「ていうかなんでお前がそれを持ってるんだ!? 天井裏にきっちり閉まっておいたはずなのに!」

「いやあ、霧島に『雄二の弱みなんかある?』って訊いたら、雄二×翔子の同人誌と引き換えに快く教えてもらったよ」

「あいつか! またあいつなのか!? あれほど俺の部屋に勝手に入るなと言ったのに……!」

「『どこで手に入れたの?』って訊いたら『……お義母さんから教えてもらった』って」

「俺に安息の地はないのか!?」

 

 霧島による対雄二の包囲網は徐々に狭まりつつある。やっぱり詰みじゃないか(溜息)

 

「で、どうする雄二。参加する? しない?」

「……ぐっ、畜生……いつか覚えておけよ……」

「よっしゃ」

 

 前々から雄二はアイポッドで音楽を聴いていたりと、かなり通だと思っていたんだよね。行動力がある雄二のことだから、ギターぐらい余裕だろう。

 実際、霧島から訊いた話だと中学時代、相当慣らしてたみたいだし。やっぱバンドは中二病(世界一バカな生物)の憧れだよね!

 

「じゃ、さっそく練習してみよっか。2日ぐらい練習すればすぐできるよ。プロの演奏をするわけじゃないし、楽しむつもりでね」

「うん、そうだね!」

「そうじゃの。時間もあまりないし、さっそくやるかの」

「…………(コクコク)」

「しょうがねえなぁ……」

 

 こうして、Fクラスのバカ五人組のバンド、『バカのクインテッド』が結成された。

 まんまだって? 細かいことはいいんだよ!

 

 

 

 




大分遅くなりました。続きを待っていた読者の皆様、ホントーにすいません!
リアルで色々と多忙だったのとあって少し休んでました。まだまだ書いていくのでこれからも読んでいただければ幸い。

感想、誤字報告いつもありがとうございます。

どんどん評価していただければ幸いです。
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