「姫路?」
Fクラスの教室が驚きを隠せない喧騒を見せる。
そりゃそうだろう。現時点で最もFクラスにふさわしくないとも言える女子生徒がこのおんぼろ教室に現れたのだから。
「丁度よかったです。今自己紹介をしているところなので姫路さんもお願いします」
「は、はい! あの、姫路瑞希といいます。よろしくお願いします……」
そう言って綺麗にお辞儀をする。今一瞬、彼女の小柄な体躯には似合わない豊満なバストから「ばるん」という擬音が聞こえた気がした。相変わらずなんて凶器だ。いいぞもっとやれ。
「はいっ! 質問です!」
すでに自己紹介を終えた生徒の一人が高々と右手を挙げた。
「あ、は、はいっ。なんですか?」
「なんでここにいるんですか?」
いじめとも取れる質問だが、これはクラス全員にとって当然の疑問だった。
綺麗というより小動物系の可愛さを思わせる彼女、姫路瑞樹は勉強ができる。
そりゃもう、ものすごくできる(語彙力皆無)
ここ文月学園は学力至上主義。通常の学校と大きく違うのはテストの点数に上限がないということだ。
例えば普通の高校だったら、中間、期末テストは100点までしか取れない。
しかし文月学園はあろうことかその上限を取っ払ってしまったのだ。テストの際、生徒は時間内であれば好きなだけ問題を解くことができ、いくらでも点数を稼ぐことができる。
そして稼いだ点数はそのまま召喚獣の強さになるのだ。
となれば、試験召喚獣システムが採用されたこの学園では、「勉強ができる=召喚獣が強い=学園内の強さ」という方程式が出来上がる。勉強ができればできるほど、その学園の中でのヒエラルキーは上になってくる。そうすれば自然と上位に名を連ねる猛者は有名になってくるのだ。
有名なのは霧島翔子、久保利光、木下優子辺りかな? この辺りの生徒は1時間程度のテストの時間で一教科300点以上を余裕で取ってくる秀才、天才達だ。
とまあ、例にあげた3人は僕ら2年生の中では特に有名な方だが、その中でも姫路瑞希という名前は別格だ。
彼女は『学年主席』もしくは『学年次席』は確実と言われるほど勉強ができる超優等生なのだ。
なので本来であればこのFクラスではなくAクラスにいるのが当たり前なのだが……。
「そ、その……振り分け試験の最中、高熱を出してしまいまして……」
その言葉を聞いた僕らは「ああ、なるほど」と納得する。
この学園では試験途中で退席すると問答無用で0点扱いになるのだ。それまで何問解いたとか何科目受けたとか関係なしに。そのせいでFクラスに落とされてしまったのだろう。
「(なんていうか、不幸というか、哀れというか)」
体調管理ができなかったから、と言えばそれまでだが、彼女の実力を考えればAクラスが妥当なはずだ。ただ一回、たった一回のテストを受けれなかっただけでこんなぼろ教室に落とされるなんて、思わず同情してしまう……ん?
「(……明久、なんて顔してんの)」
見てみると、明久の表情は暗かった。恐らく姫路の境遇に同情してしまってるんだろう。優しい明久らしいな、と思った。
『ああそうそう、俺も熱の問題が出たせいでこのクラスに……』
『ああ、化学だろ? あれは難しかったなぁ……』
『妹が事故に遭ったって心配で……』
『黙れ一人っ子』
『前の晩彼女が寝かせてくれなくて』
『今年一番の大嘘をありがとう』
それに比べて、このクラスの連中はひどい(確信)
「で、ではっ、1年間よろしくお願いします!」
そう言って姫路は集まる視線から逃げるように、空いていた明久の隣の卓袱台に着いた。
「あのさ、姫―――」
「姫路、おはよう。これから1年よろしく」
「か、川上君?」
僕が声をかけると、姫路は驚いたように目を見開いた。
「宗一! 今僕の声にわざと被せて言ったろ!」
明久は憤怒の表情で僕を睨みつけるが、それを無視して言葉を続ける。
「もう体調は平気なの?」
「あ、それは僕も気になる」
「よ、吉井君!?」
明久の顔を見てさらに驚く姫路。声をかけただけでなんでそんな反応するんだ? まるで恋する――ははぁ、そういうことか。
「姫路、明久がブサイクでスマン」
ショックを受けた明久を見て、雄二がへったくそなフォローをかける。
「そ、そんな! 目もぱっちりしてるし、顔のラインも細くてきれいだし、全然ブサイクなんかじゃ――」
そんなフォローを聞いた姫路が顔を赤くして反論する。おいおい、もう確定か。いつの間に学年のアイドルとフラグを建てたんだ明久。
「へぇ、去年から時々ムッツリ商会で明久のイラストと写真を買いにきたのはそれが―――フガッ」
「きゃああ!川上君それは言わないでください!」
姫路が慌てたように僕の口を押える。どうやら図星だったようだ。
「? 姫路さん、僕がどうしたの?」
「あ、あはは、なんでもないですよ!(川上君、あれは秘密にしてくださいって言ったじゃないですか!)」
姫路は小声で僕にこそこそと耳打ちする。実は僕は姫路とそれなりに面識があった。 去年、康太と立ち上げた「ムッツリ商会」。 写真やイラスト、同人誌を書き上げ売ったりしているのだが、これがなかなか好評で、姫路は去年からちょくちょく明久のイラストや写真を買っていたのだ。偶に頼まれて明久の写真を撮ってきたりもしていたのだが……。
「(いやだって姫路も
「(違います! ていうか腐ってるってなんなんですか!? いいですから、これ以上言わないでください!)」
いや、でもなぁ……。言っちゃあれだが、僕の絵や小説はかなり特殊だ。普通の風景、デフォルメした全年齢向けの物を描くこともあれば、エロいのも描くし、BLも百合も描く。明久の絵を買う女子(たまに男もいる)はほとんどが腐った方々だから、てっきり姫路もそうなのかと思ってた。
まあここは黙っててあげよう。僕がコクコクと頷くと、姫路はようやく僕を解放する。
すると僕らを見ていた雄二は気になったのか姫路に声をかける。
「姫路は宗一と面識があったのか?」
「はい、少しだけ……えっと、あなたは……」
「坂本だ。坂本雄二。だが、姫路の言うこともあながち間違いじゃないかもな。確かに言われて見れば明久の顔面はそこまで悪くない顔をしているかもしれない。俺の知人にも明久に興味を持っている奴がいたような気がするし」
雄二が勿体ぶった言い方をする。
明久に興味を持っている人。モテない男筆頭の明久、その明久が気になっている姫路からすれば、是非とも知っておきたい情報だ。
「え?それは誰―――」
「そ、それって誰ですか?」
「あ、僕も知ってる」
「え、宗一も知ってるの!?」
「なんだ、宗一も知っているのか」
僕は頷いてその人の名前を教えてあげる。
「うん。久保――」
「久保さん?どの久保さんだろう」
「―――利光だよね」
久保利光。生物学上、彼はれっきとした男(♂)である。
「ああ、そうだ。よく知ってるな」
だってまあ、よく明久の絵を買いに来てくれるし、腐男子とかではなく純粋に明久に好意を抱いてるみたいだし……(遠い目)
「…………」
「おい、明久、さめざめと泣くな」
「ほっ……」
安心したように息を吐く姫路。畳を涙で濡らす明久。すまし顔に見えるが実は笑いを隠し切れていない雄二。
ちなみにうちの上客である久保利光。彼が購入するのはほとんど利光×明久のBL本か明久の写真である。
「ねえ宗一? 嘘だよね? 冗談だよね?」
「姫路はもう身体は平気なの? さっき高熱を出したとか言ってたけど」
「あ、はい。もうすっかり平気ですよ、川上君」
「ねぇ宗一!? 答えてよ! 冗談だって言ってよぉ!」
思わず大きな声を出した明久に対し、担任の福原先生は教卓をバンバンと叩いた。
「はいはい、そこの人達、静かにし―――」
バキィッ バラバラバラ……
教卓は叩いた振動で一瞬でゴミ屑となった。腐ってたのかな?
「え~……替えを用意してきます。少し待ってください」
そう言って福原先生は教室から出て行った。
先生が教室から出ていくと、監視の目が無くなったのをいいことに教室がすぐにざわめき立つ。中にはゲームを取り出してスマブラをやりだす生徒も出てくる始末。あとで僕も混ぜてもらおう。
「……雄二、ちょっといい?」
「ん? なんだ?」
「ここじゃ話しにくいから、廊下で」
「別に構わんが」
すると、明久は雄二を連れて教室から出て行った。
何をする気だろう? まあいいや。ちょうど時間も空いてるし、昨日買ってきた快楽天を読もう。
今月の作家は誰かな~♪
僕が今日のおかずを確認しようとすると、僕の席に歩いてきた康太が突如鼻血を出して倒れた。
「………宗一、俺を殺す気か……!(ブシャアアア)」
いや、表紙のイラスト絵だけで鼻血は出すなよ康太。ドスケベのくせに初心過ぎるだろ。今月の快楽天の表紙の絵けっこうエロいけどさ。
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数分後、廊下から戻ってきた明久と雄二。
そして、戻ってきた雄二はさっそくと言わんばかりにFクラスの馬鹿どもにこう宣言した。
「皆、聞いてくれ。Fクラス代表として提案する。FクラスはAクラスに、『試験召喚戦争』を仕掛けようと思う」
こうして、坂本雄二は戦争の引き金を引いた。
土曜に投稿すると言ったな?あれは嘘だ(ウワアアアアア)