バカとテストと変態紳士っ!   作:ガオーさん

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第九問 バカは通さない

Side 川上宗一

 

 

 

「明久、宗一、ここはやめよう」

「ここまで来て何言ってるのさ!」

「来たいって言ってたのは雄二じゃないか」

「頼む! ここだけは、Aクラスだけは勘弁してくれ!」

 

 僕らはAクラスの教室の前に来ていた。例の噂の出所はここ、Aクラス【メイド喫茶「ご主人様とお呼び!」】だった。ネーミングセンスはうちの【中華喫茶「ヨーロピアン」】とどっこいどっこい。

 最初はSM風俗店かな、と思ってワクワクしてたのに、営業内容はごく普通のメイド喫茶。裏切られた気分です。

 

「そっか。ここって坂本の大好きな霧島さんのいるクラスだもんね」

「坂本君、女の子から逃げ回るなんてダメですよ?」

 

 雄二が抵抗している間に女子三人も追いついてきたみたいだ。あと康太もちゃっかりカメラを構えてついてきている。

 

「…………!!(パシャパシャパシャパシャ!)」

「……ムッツリーニ?」

「…………人違い」

「ムッツリーニ、駄目じゃないか。盗撮とか、そんなことをしたら撮られている女の子が可哀そうだと」

「…………一枚百円」

「2ダース買おう――可哀そうだと思わないのかい?」

「アキ、普通に注文してるじゃない」

「はっ、いつの間に!?」

 

 あらかた撮り終えて満足したのか、康太は「当番の時間」と言って教室に戻って行った。

 

「それじゃあ、入るのは明久、雄二、美波、姫路、葉月ちゃんの5人だね」

「あれ?宗一はいかないの?」

「珍しいわね。宗一だったら我先に入ると思ってたのに」

「いや、入りたいのは山々なんだけどさ……」

 

 僕がちらりと入口の横に張り付けられた張り紙に目線をやる。

 それにつられて明久達もその張り紙を見ると、一瞬で呆れ顔になった。

 

「宗一……アンタ何やったの?」

 

 美波があきれ果てた表情で僕に言う。

 

「むしろそれ僕が訊きたいんだけど」

 

 張り紙にはでっかい文字(しかも達筆で)【 川上宗一お断り!! 】と書かれていた。

 

「大方、この間の試験召喚戦争でやらかした宗一のセクハラを気にしての出禁だろうな」

「このムラムラと悔しさをどこにぶつければいいの。訴訟したい」

「そこは悔しさだけにしとけよ」

「多分、裁判をやっても負けるのは宗一だよ……」

「学園祭で出禁にされるのって、多分アンタが史上初よ」

 

 せっかくのメイド喫茶を目の前でお預けされるなんてひどすぎる。純情で性欲盛んな男子高校生になんたる仕打ち。

 さっき2回戦が終わった後、ここに立ち寄ってあの張り紙を見た時は思わず膝を突いてしまったほどだ。

 おのれAクラスの女子どもめ。生殺しにも程がある。せっかく木下姉とか工藤のメイド服を見れると思ったのに。

 まあ、出禁にされたのなら仕方ない。後で康太の写真を見て我慢するとしよう。

 

「まあ、そんなわけで僕はここで待ってるよ。偵察行ってらっしゃい」

 

 僕がそう言うと、明久達は中へ入っていく。明久と雄二なら、仮に例の常夏コンビが現れてもうまくやるだろう。メイドになった霧島の攻めを雄二が回避できなければ話は別だが。

 ああ、それにしても観たかったなぁ、メイド。

 ここのメイド喫茶は秋葉原とかでよく見るやっすいミニスカタイプのメイドではなく、膝近くまでしっかりとした黒のスカート、白のエプロンとカチューシャという、本格的なメイドさんの格好なのだ。

 古き良き伝統的なメイド衣装を、同い年の女の子が着ているというだけで興奮する。是非とも一度は眼にしたかった。

 

「はぁ。まあ仕方ないか。確か清水のクラスは焼きそば屋だったっけ? せっかくだからそっちに行って――」

「あれ? 川上君じゃん」

「ん?」

 

 振り返るとそこには、パンパンになったコンビニの袋を持っていた工藤が立っていた。買い出しにでも行ってたのだろうか。

  

「……」

「ど、どうしたのさ。ボクの方をじっと見て。ひょっとして、ボクのメイド服姿に見惚れちゃったのかな?」

「うん」

「――ふぇえ!?」

 

 工藤と関わったのは、この間の試験召喚戦争でからかったのと、休日の時にちょっと出くわした時だけだ。

 たった二回しか関わりがない、その両方とも彼女は制服で、普通よりあげたミニスカート+スパッツという、オシャレさと動きやすさを兼ねた格好が彼女の基本的なスタイルだった。

 だが今の彼女はロングスカート! しかもメイド服! 普段の活発的でボーイッシュな彼女の姿はどこにもなく、今目の前にいる工藤愛子は、清楚なメイドさんだった。

 

 すなわち、ギャップ萌えである。

 

「…………」パチパチパチ

「急に拍手を始めた!? ちょっと、他にお客さんがいるんだからやめてよ!」

「ごめんごめん。僕、メイド喫茶出禁にされてるからさ。工藤のメイド姿を見て、思わず感動しちゃったんだ。メイド服、似合ってるよ工藤」

「え、あぁ……うん……ありがとう……なんで今日に限ってこんなに素直に褒めてくるのかな……調子が狂うよ……もう

 

 顔を真っ赤にする工藤。さすがの自称経験豊富な工藤さんもメイド服は恥ずかしいのかな。

 

「ところでこんな所で何をしているのさ?」

「……出禁にされたから」

「あー……そういえばあんな貼り紙作ってたね。ねぇ川上くん、一言言っていい?」

「何さ?」

「ざまぁみろ」

「おのれ」

 

 工藤は僕が出禁にされたのが面白いのかにやにやと笑みを浮かべている。

 

「けれどこんなメイドさんが観れるなら、ちゃんと中に入って体験したかった。萌え萌えオムライスとか食べてみたかったなー。工藤にアーンとかしてほしかった」

「ははっ、残念だったね川上君。ボクは店に入るぐらいいいんじゃないかって言ったんだけど、優子が『絶対にあの変態を入れちゃ駄目』って」

 

 おのれ木下姉。僕が何をしたって言うんだ!ただちょっとパンツをねだっただけじゃないか!

 

「残念だけど当然だよね。川上君の日頃の行いが悪いからだよ?」

「え?僕なんかした?」

「よくそんなすっとぼけ……えぇ、無自覚!? なんで『僕なんか悪いことした?』って顔できるの!? キミ、ひょっとしなくてもぜんっぜん反省してないんだねこの間の試験召喚戦争の時のこと!」

「もしかして、工藤に質問攻めしたこと? あれは工藤がなんでも質問してって言ったからじゃん。大体、10分の1も終わってないんだから、まだまだ質問させて欲しいんだけど」

「10分の1!?まだ10分の9も残ってるのあれだけボクに質問しておいて!?」

「だって経験豊富だぜーみたいなこと言ってたから」

「だからってあんなにセクハラ普通する……?」

「だって工藤可愛いから、気になって」

「か、かわっ……!?」

 

 本当のことである。康太の保健体育に匹敵する保健体育力。そして知識が豊富に見えて、実際は処女だなんて可愛いじゃないか。

 それに見た目も彼女はキュートだ。短いショートヘア、プールを続けているせいなのか少し薄い色素、細めだけど鍛えられたしなやかな足や腕。ぱっちりとした大きな目もそうだし、にこっとした笑みも可愛い。

 例えるなら遊んでいると見せかけて処女だったと言う感じのギャル。「あたし……好きな人を初めてにって決めてたのよ?」みたいな純情系だとなおよし。可愛くないだろうか?いや可愛い(反語)。そういうシチュエーションのエロ漫画、ひどく好きです。

 こうして改めて見ると、文月学園は女子のレベルがかなり高い。

 霧島や秀吉が下手をすれば芸能人レベルの可愛さを持っているので工藤や他の女子の影は埋もれてしまいがちなのだが、普通の学校であれば学年一のアイドルに祭り上げられてても不思議ではないのだ。

 なのに、一つの学年にこれだけ美少女が集まるのは、学費が安く、試験召喚獣システムという特別なシステムを導入した先進的な学校だからこそ、美少女達が集まるのかもしれない。試験召喚獣システムサマサマである。

 

「でももし不快に思ってたら謝るよ。この前のことと言い、ごめんね工藤」

「ああ、うん……この前のことって?」

「ほら、駅前でさ。嫌だったんでしょ、僕に触られたの」

「ぼ、ボクの方こそごめんね。びっくりしちゃってさ。あれは川上君が謝ることじゃないよ?」

「え、そうなの。罪悪感感じて損した。謝って工藤」

「……ぷぷっ。やだよっ」

 

 僕の返しが気に入ったのか、工藤は笑顔になる。ううん、メイド服少女の満面の笑み。ここは楽園だったか。

 

「ところでさ。そ、そんなにボクに質問したいの?」

 

 すると工藤はもじもじしながら僕にそう言った。

 

「ん? もちろん」

「……なら、1個だけいいよ」

 

 工藤は小声で、顔を赤くしながらぽつりと呟く。

 

「え? 本当? ならちょっと気になってたんだけど」

「うん」

「今日はスパッツ履いてるの?」

「…………」

「どうしたの工藤」

「あ、いや、身構えてただけ。思ったより普通の質問で拍子抜けしちゃった」

「オイ」

 

 工藤の中での僕の評価が気になる所だ。

 

「今日は履いてないよ」

「あ、履いてないんだ」

「うん。ロングスカートだし、今日は履かなくてもいいかなって。ひょっとして、ボクのがそんなに見たいの?」

 

 工藤がにやにやと、調子を取り戻したのか小生意気な笑みを浮かべて僕に言う。

 

「まあ、そんなに見たいならちょっとぐらい見せてあげなくも━━━」

「ほほう、どれどれ」バッ

 

 そう言うなら遠慮なくしっかりと確認させてもらおう。僕は工藤のスカートの裾をつまんでまくり上げる。

 膝を曲げ、腰を落とし、目線を工藤のパンティの高さまで下げる。

 

「………………!?」

「ほうほう、黒の下着か。ややレース目があってアダルティな感じだね。工藤ってこういう大人びたのを選ぶんだ。純情な工藤だから白だと思ってた。意外だなー」

 

 うんうん、目が潤うね。それにしても工藤の太もも細くて綺麗だ。白い肌に黒い下着がマッチしてて最高。それにほんのりいい匂いするし。これが女性のフェロモンなのだろうか。ていうかおへそ見えてる。小さくて可愛いなー。

 ――工藤さん?どうしたのそんなに顔を真っ赤にして手を振り上げて――

 

 

 

 

 

 バチンッッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お会計は、夏目漱石1枚か、坂本雄二を一名のどちらかとなります」

「坂本雄二を一名でお願い」

「……ありがとうございます」

「ケーキ美味しかったですね!綺麗なお姉ちゃん!」

「そうですね、葉月ちゃん。それにしても、吉井君本当に可愛かったです……」

「そうね。じゃあウチらも中華喫茶に戻りま……宗一? どうしたのその頬のもみじ」

「……聞かないでくれる?」

 

 

 この後から、Aクラスの周辺では『スカートをめくる変態が出る』と噂が流れ、しばらく警備が強化されたと言う。

 


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