Side 川上宗一
『誰だよ吉井明久って』
『聞いたことないぞ』
明久の名前が出た途端、盛り上がっていたクラスの雰囲気は微妙な雰囲気になる。
「雄二! 折角上がりかけてた士気が下がっちゃったじゃないか! 僕は雄二や宗一とは違って普通の人間なんだから、普通の扱いを――って、なんで僕を睨むの? 士気が下がったのは僕のせいじゃないでしょう?」
明久がなんかほざいているが、そんなことはない。
康太や僕に不本意なあだ名が付いてるように、明久にもぴったりな肩書がある。
「嘘はダメだろ明久。君にも立派な肩書があるじゃん」
「え? あ、いやそんなことは」
「やれやれ――教えてやる。こいつの肩書は『観察処分者』だ」
明久がしどろもどろになっているところを、雄二がばっさりと言う。
観察処分者。
それは学習意欲が低く、学園生活の風紀を乱す者に与えられるある種の刑罰だ。
またの名を―――
『それってバカの代名詞じゃなかったっけ?』
「違うよ! ちょっとおちゃめな十六歳につけられる愛称で」
「そうだ、バカの代名詞だ」
「しかも学園始まって以来の初の観察処分者。制度自体はあっても、適用されたのは明久が初めて。前例のない物凄いバカってことだね」
「あぁ! 穴があったら入りたい!」
本当のことを言われて頭を抱える明久。
すると小首を傾げた姫路がそっと手をあげた。
「あの、観察処分者ってなんですか?」
姫路は知らないのか。それもそうか、優等生の姫路には縁もゆかりも無い制度なのだから。
「観察処分者って言うのは、特例で物を触れる召喚獣を召喚できる生徒のことだよ、姫路。その力を使って教師の雑用をさせられるんだ」
僕が簡単に姫路に説明する。
「そうなんですか? でも、物に触れられるってすごい便利じゃないですか!」
姫路の言う通り、物に触れられる召喚獣というのは特別だ。
通常の召喚獣は明久のと違って物に触ってもすり抜ける。物理的な干渉をすることができないのだ。
けれど明久の召喚獣は物に触れることができる。
召喚獣は人間より数倍以上のパワーを持っており、点数が100点未満でも一人じゃ運べない重い物を動かしたり、人間じゃ壊せない物を壊したりすることだってできる。
西村先生の話だと、観察処分者である明久が出る前は教師の召喚獣がサッカーのゴールポストや一人じゃ運べない重い教材を運んでいたらしい。
「でも、召喚獣が受けた痛みや疲れの何割かは召喚する明久本人にフィードバックする欠点もあるんだ。しかも召喚獣は教師の許可がないと召喚できない。だから明久のメリットはほとんどないんだ。実際はただの教師の奴隷だよ」
「だからこそ、観察処分は生徒への罰になる。教師の雑用をいいように手伝わされるんだ」
『痛みがフィードバックするって……おいおい、それっておいそれと召喚できないってことじゃないか?』
『召喚獣の戦闘にあんまり出せないってことだよな』
「気にするな。どうせ、いてもいなくても同じような雑魚だ」
「雄二、そこは僕をフォローする台詞を言うべきところだよね?」
明久は涙目になる。やれやれ。明久は馬鹿なのに意外とメンタルがもろい。
ここは僕がフォローしておいてやろう。
僕は明久の肩に手を置いて語りかける。
「宗一?」
「大丈夫だよ明久。明久は必要な人間だ」
「宗一……」
「ああ」
顔を綻ばせる明久。にっこりと笑う僕。
「明久はミートウォールとして必要不可欠な存在だ。だから勇気を出して、召喚獣を出して戦うんだ。ガンバレ」
「うん! 僕もがんば―――――うん? それって肉壁ってこと!? 仲間を盾にする気なの!? 痛みがフィードバックするんだって宗一も言ったじゃん! この外道!」
一瞬納得しかけた明久が、ようやく気付いたのか声を荒げる。くそ、ばれた。
「確かに……そういう使い方もあるな。さすがだ宗一」
「いやいや、さすがに雄二には及ばないよ」
「………盾は戦争において重要(コクコク)」
「クッソ! 僕に味方はいないのか!?」
―――閑話休題。
「皆、この境遇は大いに不満だろう?」
『『『当然だっっ!!』』』
「我々は最下位だ!!」
『『『オオッ!』』』
「学園の底辺だ!!!」
『『『オオッ!』』』
「誰からも見向きもされない!」
『『『オオッ!』』』
「これ以上、下のないクズの集まりだ!!!」
『『『オオッ!』』』
「つまりそれはっ! もう失う物はないということだ!!」
『『『 !!! 』』』
雄二がFクラスに語りかける。
このままでいいのかと。ただ黙って指をくわえてこの教室に閉じ込められていいのかと。
ただ底辺に沈み込むだけでいいのかと。
上へあがるプライドはないのかと。
それは雄二のある才能。学校のペーパーテストでは計測できない、点数にすることができない才能。
集団をまとめ上げ、道を示す。それは指導者に最も必要な才能。歴史に名を残した軍人ならば、誰もが持っていた必要不可欠な能力。
『カリスマ』と呼ばれる、大勢を引っ張り上げる力だ。
そしてFクラスの男共は、その扇動に魂を燃え上げ、雄二が示した道を突き進む。
「なら、ダメ元でやってみようじゃないか! 試験召喚戦争!!」
『『『オオ―――ッ!』』』
「全員ペンを執れ! 俺達に必要なのは卓袱台ではない! Aクラスのシステムデスクだ!」
『『『ウオオ―――っ!』』』
Fクラスは拳を振り上げ、叫び声をあげる。
こうなったらもうFクラスを止めることは容易じゃないだろう。
彼らの不満という薪に火をくべられ、油が注がれた。
僕も康太も秀吉も島田も、この言葉に拳を振り上げ、大声をあげた。
「お、おー……」
クラスの雰囲気に圧されたのか、姫路も小さく拳を作り掲げる。
相変わらず小動物のような可愛さだ。明久め、なんと羨ましい。
「手始めに、Dクラスを制圧する! 明久、お前にはFクラス大使としてDクラスへ宣戦布告をしてもらう」
「ええ、僕!? ……普通、下位勢力の宣戦布告の使者って、ヒドイ目に遭うよね?」
「それは映画や小説の中の話だ。大事な使者に、失礼なことをするわけないだろ?」
不安そうに言う明久に、雄二は力強く断言する。
「大丈夫だ明久! 騙されたと思って逝ってみろ!」
ここは雄二にならって、僕も明久を激励しよう。
「明久、逝って来い」
「………死者らしく胸を張って戻って来い」
僕と康太は、明久の眼を見て力強く言う。
間違ってもここで笑ってはいけない。こらえるんだ……。
「……うん、分かった! 行ってくるよ!」
こうして、クラスメイトの歓声と拍手に送りだされた明久は、Dクラスに向かって行った。
満足げに微笑む僕と雄二と康太。
そんな僕らを見て、秀吉はぽつりと言った。
「……明久への激励に、ちっとも心が籠ってないように聞こえたのは、儂の気のせいかの?」
「「「気のせい気のせい」」」
僕らが首を振ると、Dクラスの教室の方から叫び声が響いた。
「いぃーーーやぁーーーーー!!!騙されたぁーーーーー!!」
感想、評価をつけていただいた方、感謝します!
次回からいよいよDクラス戦。また次回!