バカとテストと変態紳士っ!   作:ガオーさん

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第七問 第一次試召大戦 ~Dクラス戦~ 同性愛も愛の一種

Side 吉井明久

 

 

 

「美波お姉さま――――――!!」

 

 渡り廊下に女子の声が響く。どうやらDクラスの女子に見つかってしまったみたいだ!

 

「く、ぬかったわ!」

 

 そこには化学担当の五十嵐先生を連れた、ドリルのツインテールがよく似合う女の子が立っていた。

 傍らには彼女の姿をデフォルメし武器を持たせた召喚獣が立っている。

 

「み、美春!」

「お久しぶりですね、美波お姉さま! 美春はお姉さまに捨てられて以来、この日を一日千秋の想いで待っていました!」

 

 まずい、島田さんも僕も、そして宗一も化学の点数は高くない! 早く高橋先生の所に行かなきゃいけないのに!

 思わず歯噛みしていると、美春と呼ばれた女の子は宗一の方を見てにぱっと笑った。

 

 

「あ! 宗一お兄さま!」

 

 

「えっ!?」島田さんが驚愕の声を上げる。

 

「清水。そっか、清水はDクラスだったんだ」

 

「えぇっ!?」島田さんがさらに驚いたように目を見開いた。何を驚いているんだろう。

 

「はい! ご無沙汰してます、宗一お兄さま! お兄さまはFクラスだったんですね?」

「そうそう。それにしても清水は相変わらず島田にお熱なんだね」

「はい! お陰様で美春お姉さまと順調に愛を育んでいます!」

 

「お兄さま!? うそっ! 美春が川上をお兄さま呼び!? ていうか何普通に雑談してるのよ! アンタこっち側の味方でしょ!?」

 

 島田さんがよく分からないけど宗一を見てすごく驚いている。一体どうしたんだろう?

 

「島田さん、あの女の子のこと知ってるの?」

「知ってるも何も……あの子はDクラスの清水美春! 去年からずっとウチに付き纏ってくる子よ! 毎日アプローチしてくるの!」

 

 ……なんだか、島田さんが遠い。

 

「川上! アンタなんで美春と知り合いなの? 美春は男嫌いがひどいのに!」

「ああ、清水とは普通に友達だよ?」

「友達じゃありませんわお兄さま! 宗一お兄さまは美春が唯一尊敬できる人なんです! 好きとかではなく、純粋に憧れているんです!」

「一体何があったのよ!?」

「別に、大したことはしてないよ。いろいろと悩みとか相談とか聞いてたらいつの間にかこうなってたんだ。最初の出会いは確か……」

 

 宗一はそう言って語り始める。

 

 

 

Side 川上宗一

 

 

 

 そう、あれは半年ぐらい前のこと。

 当時、僕と康太が共同で発足したムッツリ商会がようやく軌道に乗り始めた頃のことだ。

 僕のイラストと康太の写真が順調に売れ始めていたある日、放課後に僕のイラストを買いに来たのが、清水だった。

 

「いらっしゃい。何か希望は?」

「……この女の子のイラストを買います」

 

 静かな声でぽそりと、清水はポニーテールの女の子のイラストを買った。え? 誰をモデルにしたかって? それはまあ置いといて。

 その時の清水の表情は暗くてね。なんとなく聞いてみたんだ。

 

「どうしたん? 僕の絵がどこか気に入らない?」

「いえ、そんなことはないです。豚野郎のくせに、美春が愛する人の魅力が詰まった素敵な絵です」

「愛する? 女の子のイラストを? ……ひょっとして、この絵のモデルの人が好きなの?」

「……おかしいですか? 女の子は女の子を愛しちゃ、いけないんですか?」

 

 話を聞くと、どうやら清水は友人に「女の子を好きになった」と相談した所、その友人からドン引きされて疎遠になってしまったのだと言う。

 そのことでかなり思いつめていたらしく、清水は涙を流していた。

 

 だから、僕はこう言ったんだ。

 

「確かに、世間一般から見れば同性愛は普通じゃないだろうね」

「―――豚野郎め、そんなの―――!」

「でも、話を聞いていて分かったよ。君は愛に一途な人だ。その対象が女の子だったってだけで」

 

 清水の動きがぴたりと止まった。

 

「……いち、ず?」

「そう、素敵な感情だ。僕はこうやってBLとか百合とかいろいろ描いてる。いろいろなジャンルを描けるっていうのは芸術家にとって強みだけど、僕は百合の絵をずっと描いている人には負けると思ってる。BLをずっと描き続けている人にも負ける。だって、『そのジャンルが好きだ!』っていう思いが僕とは全然違うからね。僕からすれば、一つのジャンルを極めれるってのはすごいってことなんだ」

「……意味が分かりません」

 

「そうだね。例えるなら、結婚60年、浮気もせずにずっと一人の相手を愛し続けてきた人と、浮気や離婚と結婚を繰り返す人、どっちの愛情が強いかって話。僕の場合は、後者。浮気者だ。でも君は、前者。ずっと一人を愛せる心を持っている。だから、一途に誰かを愛せる君は、とても尊くて美しいと僕は思う」

 

「…………!」

 

「世の中には愛情を異性ではなく別の物に向けてしまう人だっている。中にはエッフェル塔と結婚しちゃった人だっているんだぜ? だから女の子を好きになるぐらい問題ないさ。だから、僕は君にこう言おう」

 

 

 

 

―――――回想終了

 

 

 

 

 

「そして僕はこう言ったんだ。『―――逆に考えるんだ。女の子を好きになっちゃってもいいさ、と考えるんだ』……ってね」

 

 

 

 

「アンタだったのね!! 美春がウチに付き纏うようになったのはアンタが原因だったのねぇ―――――!!!」

 

 島田さんの絶叫が廊下に響く。

 ウチがレズに付き纏われている原因は友人だった件。

 そして僕の友人が同性愛に対して無駄に寛容過ぎて怖い。すごく深くていい話に聞こえるのがまた。そして僕の友人の島田さんがその愛に晒されていて可哀そう。

 

 

「ひどいです! 何を言っているんですかお姉さま! 宗一お兄さまのおかげで、美春はこんなにも自分に素直になれたと言うのに!」

「そうだよ島田。同性愛もひとつの愛の形。正面から向き合うべきだよ」

 

 あれ? 宗一ってFクラスだよね? なぜか段々とDクラス側(清水さんの味方)のように見えてきたよ。

 

「だからウチは普通に男の子が好きだって言ってるじゃない!! 何度も何度も!!」

「まあ、島田がノーマルだってのは分かる。でも、半年以上ずっと島田を想っていた清水の愛も、たまには受け止めるべきだと僕は思うんだよ」

「重すぎるのよその想い!」

 

『いい話だな……』

『一途な愛、とっても素敵じゃない……』

『いけない……ちょっと涙が……』

 

「何よこのしんみりとした空気はぁ――――!?」

 

 すると渡り廊下で戦闘をしていたDクラスとFクラスの面々はいつの間にか争いの手を止めて宗一の話に聞き入っていた。

 中には話に感化されて泣き出す先生や生徒が出る始末。

 ここそんなに感動するところ? もしかして僕と島田さんが間違ってるの?

 

「大丈夫です! 卒業するまでに、美春がお姉さまを落として見せます! そしてゆくゆくは美春と甘い新婚生活を!」

「頑張れ島田。君の恋愛事情もある程度知ってるけど、友人として清水の味方をしてやりたいってのもあるんだよ。だからお互い納得するまでぶつかり合うべきだと思う」

 

 だからガンバレと爽やかにサムズアップする宗一。

 なんだか、ここで僕が清水さんと戦ったらすごく空気が読めない奴みたいになりそう。

 

「よし、島田さん、ここは君に任せて先に行くよ!」

「ちょっ……! 普通逆じゃない!? 『ここは僕に任せて先を急げ!』じゃないの!?」

「ここは二次元じゃない!」

「こ、このゲス野郎! ここにウチの味方はいないのっ!?」

 

「お姉さま、逃がしません!」

 

 試験召喚獣を召喚した清水さんがじわじわと島田さんに近寄ってくる。

 

 

「くっ…やるしかないってことね!」

 

 

 

「――試獣召喚(サモン)っ!」

 

 

 

 島田さんの喚び声に応えて彼女の足元に幾何学模様の魔法陣が現れる。システムが起動した証だ。

 そして姿を現したのは島田さんそっくりの召喚獣。

 軍服とサーベルを持った、80センチ前後のデフォルメされた島田美波。

 

 

「いい加減、ウチのことは諦めなさい!」

「諦められません! この想いは、そう簡単には―――!」

 

 二人の召喚獣の距離が縮まり、ついに激突する。

 正面からぶつかり合い、力比べが始まった。

 

 しかし、相手はDクラス。決着はあっさりと訪れた。

 

 島田さんの召喚獣の武器が弾き飛ばされ、清水さんの召喚獣に押し倒されてしまった。

 

 

化学勝負

 

   Fクラス 島田美波   53点

 

      VS

 

   Dクラス 清水美春   94点

 

 

 しばらくすると、召喚獣の頭の上に二人のテストの点数が表示される。

 召喚獣の点数は、ゲームで言うならHP(ヒットポイント)。なくなれば戦死扱いだが、この点数に応じて召喚獣の攻撃力も変わってきたりする。

 そして召喚獣には急所というものがあり、足や腕に攻撃を当ててもそこまでダメージは与えられない。

 頭や喉が急所というのは人間と同じであり、そこに剣を突き刺せば即死することが多いのが召喚獣だ。

 

 押し倒された島田さんの召喚獣の喉元に、清水さんの召喚獣の剣が添えられる。

 

「さ、お姉さま。勝負はつきましたね?」

「いやぁ! 補習室だけは嫌ぁ!!」

「補習室……? フフッ」

 

 楽しそうに笑った清水さんは、笑いながら取り乱す清水さんの手を引っ張っていく。あれ?どこ行くの!? そっちは保健室だよ!?

 

「ふふっ、お姉さま、この時間ならベッドは空いていますからね」

「よ、吉井! 早くフォローを! なんだか今のウチは補習室行きより危険な状況にいるの!」

 

 僕もそう思う。できることなら助けてあげたいんだけど……。

 

「殺します……もう迷わないって決めたんです……美春とお姉さまを邪魔する豚野郎は全員抹殺します……!」

 

 僕にはそこに飛び込む勇気はない。

 

「島田さん! 君のことは忘れない!」

「ああっ! 吉井! なんで戦う前から別れのセリフを!?」

 

 

僕が島田さんを見捨てようとしたその瞬間。

 

「清水、ゴメン。そこまでだよ。――試獣召喚(サモン)

 

 すると、殺気を放つ清水さんの前に立ち塞がるように、宗一が召喚獣を呼び出した。

 宗一の足元の魔法陣から現れたのは、青いツナギを着て赤いベレー帽をかぶった召喚獣だ。

 右手には絵具がつけられたパレット、左手には絵を描く筆を持ってる。

 召喚獣なのに武器すら持ってない!?

 

 

化学勝負

 

   Fクラス 川上宗一   7点

 

      VS

 

   Dクラス 清水美春   41点

 

 

「しかも7点!? なんて数字をとってるんだよ宗一!」

「うぇーん! ウチもう終わったぁー! もうお嫁にいけないー!」

 

 宗一が召喚したせいで、辺りに暗い敗北ムードが漂う。もうこれはダメだ……。

 

「邪魔をするというのですか、宗一お兄さまっ!」

「ごめん、清水。これは戦争なんだ。清水を応援したいのは山々なんだけど、僕は指揮官。島田をここで戦死させるわけにはいかないんだ。ここで2人を見送って後で初体験をゆっくり聞きたいってのもあるんだけど「聞くなバカァー!!」代わりと言ってはアレだけど――この間から「ウチと美春の新婚生活」っていうのを小説で書いてるから、それをプレゼントするってことでここは引き下がって欲しい」

 

「…………――――ハッ! あ、危うく甘い誘惑に落ちるところでした……! さすが宗一お兄さま、一瞬も油断できませんっ!」

「なんて物書いてるのよこの変態――――!」

 

 多分、タイトルからして島田さんの視点で描かれた清水さんとの新婚生活の小説なんだろう。しかも挿絵付のR-18。きっと官能的な小説なんだろうなぁ……。

 

「ここまできたなら、いくらお兄さまと言えど容赦はしませんっ! お姉さまとの愛のために、補習室へ行ってください!」 

 

 清水さんの召喚獣が剣を構えて宗一のほうへ突進する!

 やばい! いくらなんでも筆で剣に対抗するなんて!

 けれど宗一はまったく焦らずにこう言った。

 

「清水! 足元がお留守だよ!」

 

「え? あっ!」

 

 宗一の召喚獣が筆を振ると、清水さんの召喚獣の足元が絵の具で塗られる。その絵の具を踏んでしまった清水さんの召喚獣は滑って転んでしまった!

 そしてその瞬間を待っていたかのように宗一が叫ぶ。

 

「今だ、総員突撃!! 島田美波を救出しろ!」

 

 

『『『うおぉ――――!!』』』

 

 

 宗一の掛け声に応えたのは、須川君達だった。渡り廊下での戦闘をいつの間にか終わらせて駆けつけてくれたんだ!

 

 

「く、もう少しだと言うのにぃ――――!!」

 

 

 清水さんの叫び声が響く。哀れ、Fクラスの中堅部隊に総攻撃をくらった清水さんの召喚獣は吹っ飛ばされ、点数はすぐに0点になってしまった。

 

 

「戦死者は補習ぅー!!」

「須川、ありがとう! 西村先生、早くこの危険人物を補習室に!」

「おお、清水か。たっぷり勉強漬けにしてやるぞ。こっちに来い」

 

 清水さんは鉄人に担がれ、補習室に連行されていく。島田さんは点数は減らされた物の、戦死扱いにはなっていないようだった。

 

「くっ、お姉さま! 美春は諦めませんからね! 無事に卒業できるとは思わないでください! あとお兄さま、放課後買いに行くのでちゃんと小説用意しておいてくださぁ――――い!」

 

 なんて捨て台詞だ。

 

 そしてこれが試験召喚戦争……なんて危ない戦いなんだ!

 

「ふぅ……時間稼ぎがうまく行ってよかった。ありがとう須川」

「川上」

「島田さん、お疲れ。とりあえず一度戻って科学のテストを受けてくるといいよ」

「吉井」

「よし、明久、須川。このままDクラス前の方へ―――」

 

「吉井ィ! 川上ィ!」

 

「「は、ハイィ!」」

 

「……ウチを見捨てたわね、吉井」

「き、記憶にございません……」

「……美春をたきつけた挙句、なんか変な物を売ってるそうじゃない、川上」

「き、記憶にございません……」

 

「…………」

 

 

 

 

 島田さんの拳が僕と宗一の顔面に突き刺さった。

 

 

 

 

 

 




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ありがとうございます!

実は清水は結構お気に入りです。

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