その主人公が「自分の好きなマンガを読むためには自分で描くしかない」って言ってたんですよ。
第一話
しかめっ面でいつも上から押さえつける偉そうな態度をした司令官から命令を受けてどれほど時間が経ったのだろう。
『輸送船団から敵集団を引き離す為に囮として指定海域で戦闘を開始せよ』
夜明け前の空は曇天、分厚い雲に覆われ今にも落ちてきそうな薄暗い空の下。
気を抜けば身体がそのまま吹き飛ばされそうな暴風が服の袖や襟を乱暴にはためかせて波しぶきで濡れた布地を突っ張らせる。
火薬が破裂したような爆音が連続して遠くから響き渡り波しぶきで不自由な視界を庇う様に手を翳して音の発生源へと視線を向ければ遠く波間の向こうに見える黒い巨体が見えた。
風切り音が耳に届いたと同時に周囲の仲間達へ警告の声を上げようとしたと同時に一際高い波に足を取られて海面に転ぶ。
海水を嫌というほど頭から浴びてその塩辛さに私が呻きを上げたと同時に巨大な水柱がわずか数m前方で立ち上って海を掻き混ぜる。
さっきの転倒から立ち上がる事も出来ず、飛んできた質量が海面を掻き混ぜて海流を暴れさせて身体が高波にのまれて洗濯機に放り込まれたハンカチのように振り回される。
鼻や口に流れ込んでくる海水の辛さに悲鳴を上げそうになりながらも必死に水を掻き海面を探してもがき。
何とか水面を見つけて顔を突き出し噎せるように空気を肺に取り込んで顔に纏わりつく前髪や海水を手で乱暴に拭う。
「皆はっ!?」
そして、巨大な黒い影が波を割りながらこちらへと突き進んできている様子に目を見開き。
両手で海面を掴むようにして私は身体を海から引き抜き両足で波を踏みつけて立ち上がった。
「返事をっ、ぁ・・・」
チリチリと消えかけの灯のような光の粒を撒く何かがすぐ近くに浮かぶ。
人間の手、見覚えのある靴を履いた足が途切れた根元からほどけるように光を散らして水の中へと沈んでいく。
それが仲間のモノであると直感しながらそれを認めることが出来ずに口をマヌケに開けたまま呆然と荒波の中で立ち尽す。
後数分もすればまた敵が放つだろう暴力の塊をわざわざ待つ案山子のような様を私は晒した。
「誰かぁっ、痛いよぉっ・・・」
「大丈夫!? 今行くからっ」
暴風の中で微かに聞こえた仲間の声に振り向く。
茶色い髪と赤い髪留めに長袖のセーラー服が暴れる波に弄ばれている姿を見つけた事でその名前を呼ぶよりも先に波を蹴って駆け寄る。
片腕が不自然にねじくれて何かの破片で引き裂かれた服の下に見える肌には痛々しい痣が刻まれた小学生にも見える小柄な少女。
私が駆け寄った事に気付いた彼女は痛みに呻きながらこちらへと視線を向けて助けを求めるように無事な方の手を伸ばしてきた。
「しっかりしてっ・・・立てるっ!?」
「・・・痛いのですっ、何で、何でこんなことにっ・・・ぅぅっ」
完全に心が折れている仲間に手を差し伸べて肩を貸して立ち上がらせる。
だが、お互いにもうまともな戦闘行動は既に取る事は出来無い事は分かっていた。
いや、そもそも、戦意を持って立てたとしても光る球を手足からポンポンと気の抜けるような音を出して飛ばす程度ものを戦闘能力などと言って良いのかは考えるだけ無駄な事なのだろう。
「他に誰かっ! 叢雲ちゃんっ! 漣ちゃん、五月雨ちゃんっ!! いないのっ!?」
さっきの砲撃で隊列が乱されただけ、ただ少し離れた場所にいるだけだと必死に自分に言い聞かせ。
叫び声をあげるがそれに応えてくれる声は無く、メソメソと気の滅入るような泣き声を漏らす同型姉妹の末っ子を支えながら迫りくる黒い影から逃げるように脚を動かす。
溺れかけて海中から脱出した直後に見た惨状、頭が理解する事を拒んだ事実は無情にも仲間の名前を呼ぶ事自体が無駄だと告げている。
だけど、それでも喉が枯れても良いからと私は風の中で誰何の叫びを上げる。
そして、背後からまた空気を揺らし身体ごと鼓膜を壊さんばかりの爆音が鳴り響く。
恐怖に突き動かされて呆気ないほど簡単に仲間が沈んだ場所から少しでも離れる為に生き残りである少女を引っ張って走る。
いつ飛んでくるか分からない砲弾への恐怖に歯の根が合わないほどガチガチと震えていた身体を必死に動かした。
「今度、生まれてくる時は、平和な世界だと良いなっ・・・」
その時、ドンっと肩と背中を突かれて身体が浮いて肩にかかっていたはずの重みが離れて行く。
「ぇっ!? 電ちゃっ・・・!?」
突き飛ばされた身体が海面に叩き付けられて驚きに表情が固まった私は自分を突き飛ばした相手へと振り向く。
海面に膝を着いてねじれた片腕をぶら下げた少女が泣き笑いをこちらに向け。
無様に海面に転んでもがき、手を伸ばすその視界の先で濡れた茶色い髪と胸元に錨のマークが描かれたセーラー服の上へと赤く灼熱した質量が狙いすまして落ちてきた。
何でこんなことになったのだろう、どうして私達がこんな無様な真似をさせられるのだろう。
かつて鋼の船体を持っていた頃の戦争が栄光に満ちたモノだと言い切れるほど私は厚顔ではない。
(けれど、コレはあんまりに、あんまりじゃないですかっ)
元は国民を守る為に造り出され多くの兵士達を乗せて奮戦し護国を志した記憶のせいか民間の船団を守り海の藻屑になる事には苦痛ではあるけれど納得はできる。
けれど、その手段が当たれば敵を少し損傷させられる程度の光弾と海の上を少し早く走り回れるだけの貧弱で小さな身体では実力不足にも程がある。
精々が照明弾代わりに光弾を打ち出して囮となって無様に逃げ回る程度しか出来ないのだから少し考えれば誰にだって分かるはずなのに。
私達の存在が強大過ぎる敵勢力に対しての戦力として何の足しにもならない事など正しく目に見えている。
なのに、今の世界の海を跳梁跋扈する怪物である深海棲艦に対する決戦兵器として生み出されたなどと誰が嘯いたのか。
(ぁあ、でも、誰か・・・嘘でも良いから、私達が無力な存在じゃないと言って・・・くださいっ)
どうせ何度でも生き返るから使い捨ての囮にしても問題ないなんて言われたくない。
嘘でも良い、気休めでも良い、誰かに必要とされているからこそ戦えるのだと胸を張って言いたい。
例え身体を壊されても魂が鎮守府に戻ってまた新しい自分が生まれ直す。
それまで人の身体を得てから覚え感じた記憶が消えても同じ姿と同じ声で再生する。
自我を持った兵器として戻ることが出来る事なんてなんの慰めにもならない。
・・・
彷徨うには広過ぎる海の上、一人の艦娘の乾いた心が自分達が無駄な存在ではないのだと言ってくれる相手を求めて悲鳴をあげていた。
「嫌っ・・・! いやだよぉ・・・・・・」
海面を叩き割るような砲撃の衝撃で上がる水柱に飲み込まれ、姉妹艦に庇われた命は圧倒的な暴力の前に翻弄される。
けれど、敵艦を商船団とそれを護衛する最新鋭の戦闘艦から引き離して彼らが逃げ切るまでの幾ばくかの時間を稼ぐ事に成功した。
・・・
「信じられるか? 冗談みたいな話だが・・・、艦娘が滅茶苦茶弱い」
「事実だとしても本人たちの前で言うなよ? 振りじゃないからな?」
白い士官服を着込んだ二人の青年がため息とともに吐き出した言葉は港を見下ろす軍事施設に吹く海風に溶けるように消え。
遠くに見える湾の出口に建つ巨大な壁のの内側で見せかけだけは長閑な風景が広がっている。
「俺たち以外にこの艦これの世界に転生したヤツが居るとしたらあまりのギャップに憤死するだろうな」
艦これ、艦隊これくしょんとはソーシャルゲームが元となり史実を意識しながらも肝心なことは明かさないフワッとした設定で漫画だのアニメだのだけでなくファンによる二次創作で無数の派生を造り出した一大ジャンルである。
その艦これの中に登場する艦娘とは第二次世界大戦時に活躍した日本海軍属の船舶が擬人化した存在であり、正体不明の上に現代兵器が通用しない人類に敵対する怪物、深海棲艦と戦いこれを打ち倒す力を唯一持つとされている。
「なら深海棲艦に砲撃やミサイルが効かないわけではないってのもそのギャップの一つってヤツかな?」
「現代兵器が通用する? 平均速度が100ノットオーバー、砲撃を跳ね返す謎バリア、少々の損傷なら勝手に再生する船体に効果があるとは言えんだろっ、中国が戦術核落とした南シナ海は敵が全滅するどころか今じゃ深海棲艦の巣だぞ」
それぞれの理由から艦隊これくしょんに登場する艦娘や深海棲艦が実在する世界に転生することになった二人の青年。
彼らは幼少期にたまたま出会い相手が自分と同じ境遇であると知ってから衝突と共闘など紆余曲折あって友人となった。
そして、艦これのプレイヤーであった事や転生で持ち越した前世の記憶や知識で周りから神童や天才ともてはやされ。
人生を楽観視していた為に深海棲艦の出現によって混乱する世界に英雄として一石を投じてやろうなどと調子に乗った二人は今こうして自衛隊の士官として日本の防衛拠点に立っている。
「対する艦娘は艤装も無く、駆逐艦でもせいぜい20ノットにグレネード弾ぐらいの威力の弾を手足から打ち出す程度って、なんだそれ!?」
「敵の駆逐艦とのサイズ差からして1対100だからな、戦車に豆鉄砲撃つようなもんだね。普通の人間と比べたらはるかに強いけど怪物と戦うには荷が勝ちすぎている」
ゲームの知識を利用して成り上がり、美人揃いの艦娘とキャッキャウフフの愉快な生活をおめでたい頭で考えていた。
彼らの誤算はその前提である頼りの艦娘が想定をはるかに超えるほど弱いと言う事実であった。
深海棲艦が現れる事を1999年時点で警鐘を鳴らすように様々な学会や講演会で叫び優秀な頭脳を持ちながら狂人扱いを受けた艦娘の設計と理論の提唱者。
その人物の事故死によって宙ぶらりんになった設計図は危機が目の前に現れるまで全く相手にしていなかった自衛隊。
彼らは深海棲艦の出現でただでさえ制限された所有する少なくない戦力を無駄に消耗させる事になり、藁にも縋る思いで新設された艦娘の製造と教育を行う施設。
鎮守府が東京湾の某所に設置される事となった。
この青年たちがこの世界に転生してから21年、深海棲艦が太平洋に出現して敵対行為を始めてから五年と数か月。
艦娘が作り出されて戦場に立つ事になって記録の上では約三年が経っている。
2013年も冬が近づいた季節となり数日後には艦娘の指揮官として任官することになっている彼ら。
転生者の二人に今までが順風満帆であったが為に自らの将来を楽観視し過ぎたツケを支払う時が刻一刻と近づいていた。
「拳銃とか持たせたらそれが大砲並の力を発揮するとか無いか?」
「光弾が纏わりつくだけで威力に変化は無かったらしいぞ、ちなみに肉体面は平均的な自衛隊員より少し高い程度で装備できる重量も同程度になるとの事だ」
「やっぱりもう粗方試したってか、他に何かないのか? あの刀堂博士の残した資料にまだ表に出てないのとかよ?」
刀堂吉行と言う十年以上も前から深海棲艦の出現を予見していた人物の存在をきっかけに前世の記憶を利用していた二人は狭き門である自衛隊士官候補としての進路を選び。
手に入れた艦娘に関わる計画への参加権に飛びついて彼女達の指揮官に収まるための行動に腐心していた。
自分たちの思考に決定的な穴がある事に気付いたのは艦娘の指揮官として配属されることが決まり。
バカみたいに二人して肩を組み歓喜しながら前世で知る美人揃いの艦娘達とどうイチャイチャするかという低俗な相談をしながら上官となる相手から渡された極秘資料を開いたのは数日前の事。
実際に運用されていた彼女達の情報に目を通し、後に調べれば調べるほどに出てくる冗談みたいなお粗末極まる戦闘記録に彼らは港の見える自衛隊基地が併設された鎮守府の一画でうなだれる事になった。
「艦娘の運用についてか・・・艦娘は指揮官と共にある事でその能力を十全に発揮する、だったか?」
「あとは、あくまで彼女達は過去の日本に対する義理で協力してくれている英霊の具現であるとか、抽象的過ぎて注意喚起ぐらいにしか使えなさそうな文章だったね」
刀堂博士が提唱した科学と言うよりはオカルトに属するような複雑怪奇な理論によって作り出された人造人間、それがこの世界における艦娘と言う存在の定義である。
人間にとっては心臓の位置に存在する霊核と言う結晶体が破壊されない限り何度でも鎮守府に存在するクレイドルと言う名の再生治療施設で蘇生する事が可能である。
その霊核には艦娘の肉体が生命活動を停止した時点で粒子状に変換され鎮守府の中枢へと自動的に転送されるファンタジーな仕掛けが存在している。
理論上は不死と言える艦娘は鎮守府そのものを機能停止させられない限り何度でも蘇るらしい。
どうしてそんな出鱈目な能力を持った存在を造り上げられたのかと言えば艦娘に関する刀堂博士が生前に残していた資料が小さな図書館を建てられる程の量で残されていた事と彼の教え子である優秀な研究員達の存在。
戦後最悪の戦死者数を叩きだす事になった深海棲艦との初めての海戦によって発生した大損害の影響で大混乱に陥った世界情勢。
さらに日本の政界がある政党の台頭によってバランスを大きく変えた事。
刀堂博士のシンパであった一部とその尻馬に乗った大人数の政治家達が深海棲艦によってもたらされる危機的状況への打開と政権奪取後に意気揚々と掲げた法案によって艦娘の研究開発が決定されたからである。
「それよりなにより、こんだけ苦労して艦娘の司令官に着任したと思ったら運用可能な艦娘がたった一人だけって、なんの冗談だよっ!」
「一応は治療中や霊核だけ保管されている状態では数十人いるらしいけど、大部分が船団護衛の囮に使い潰されてMIAになってるのを鑑みるに俺たちは鎮守府が機能不全に陥った責任を押し付ける為の身代わりに使われたようなもんだな」
一カ月前に日本とロシアを結ぶシーライン上で発生した重巡洋艦クラスの深海棲艦との戦闘によって護衛を行っていた鎮守府最後の戦力であった駆逐艦に属する五人の艦娘が囮となって商船団と海上自衛隊の護衛艦を逃がす事に成功させた。
だがその艦娘達の中で生還できたのはたった一人の駆逐艦だけであり、他の四人は物言わぬ霊核となって鎮守府へと転移することになり後に肉体を再生するための水槽の中で保管されている。
「いくらオカルトとファンタジーを混ぜた様な内容でも現内閣が政権奪取後に高々と掲げた法案だから、少なくない税金を投じて何の成果も得られなかったなんて地位も名誉も守りたい人間にとっては口が裂けても言えないだろう」
「そんな時に都合よく、丁度良い人材が自分から落とし穴に飛び込みたいと志願してきた、か・・・ちょっと考えれば任官と同時に二人して三佐とかどう考えてもおかしいって分かるべきだったなぁ」
おそらくは自分達の頭の上にいる上層部の大半は拝金主義の政治家と狂人科学者が残した設計図に押し付けられたオカルト染みた不思議兵器に対する期待などもう抱いておらず、後始末の為に艦娘の指揮官を志願してきたそこそこに成績の良い二人の新人へと責任云々を全て被せる為に一足飛びの任官を許したのだろう。
「うぇ・・・前途多難だぁ、前世みたいに気楽なアルバイターに戻りたくなってきたぜ・・・」
「俺を巻き込んでそんなセリフを言わないでくれよ。本当にこんなはずじゃなかった、・・・筈なんだがなぁ」
理想としていた美女に囲まれちょっと優秀なところを見せてゲームの中でしか存在しないようなキャッキャウフフと充実した生き方。
そんな荒唐無稽なものを楽しめると思い込んでいた二人の愚か者は真昼間の太陽の下で揃って項垂れていた。
だから・・・、誰も書いてくれないんだから自分で書くしかないじゃない!