艦これ、始まるよ。   作:マサンナナイ

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前回のあらすじ。

金剛「貴女が協力すると言うまで頼むのを止めない!!」
伊勢「わ、私もお願いしたいなぁって・・・だめ? 瑞雲あるよ?」

龍驤「なんて日やぁ!?」

駆逐〇潮「秋津洲さんだ!」
駆逐長〇「囲め囲め!」
駆逐〇霜「逃げるな、護衛させろ!」
  ヽ(゚д゚)vヽ(゚д゚)yヽ(゚д゚)v(゚д゚)っ
 ⊂( ゚д゚ ) と( ゚д゚ ) 〃ミ ( ゚д゚ )っ ( ゚д゚ )つ

秋津洲「息が止まるまで逃げるんだかもぉ!?」

大和&武蔵( ゚д゚)゚д゚)ナニソレ?
 


第百一話

「おはよう陽炎、今から朝ご飯?」

 

 艦娘達が生活する寮の一階の大部分を占めるエリア、そこそこに賑わいながらも急ぎの予定があるもしくは単純に早食いがクセになっている者達が朝食を終えて席を空けていく程度には時間が経った食堂の一角で大和は自分に近付いてきた駆逐艦娘へと挨拶する。

 

「もしかしたら凄く遅い夕飯かもしれません、ちょっと前に近海から帰ってきたばかりです、あはは・・・」

 

 昨日の夜は仲間の艦橋で総合栄養食と言う名のクッキーで済ませる事になった、と眼をはっきりと開けてられない程に眠そうでその下には薄っすらとクマまで見える陽炎の疲れ果てた様子に武蔵が驚きそんなに大変な任務だったのかと問う。

 

「いえ、ほとんど戦闘は無かったんですけど、まだあの戦いで入渠したままになってる子達が多くて今絶賛人手不足なんですよ」

 

 私も一応は重傷だったんですけどね、と二カ月前に起こった南方棲戦姫との戦闘から帰還した直後にその命に係わる危険な状態から高速修復材と一緒に治療用カプセルに放り込まれた陽炎は力無く笑う。

 

「限定海域から脱出できたと思ったら司令が病院に連れてかれるし、私の方は治療が終わって起きたら勝手に改になってたし、そのせいでお気にのマグカップ割っちゃうし、やっと力加減に慣れてきたと思ったら帰ってきた司令にパトロールいくぞとか言われてこき使われるし・・・司令部が修復材ケチらなきゃ二、三日で何とかなる問題でしょーに・・・」

 

 ぶつぶつと最近ついていないと愚痴を漏らしながら陽炎は丁度空いていた席、大和の正面でありテーブルに突っ伏して頭を抱えている水上機母艦娘の左隣の椅子へと腰を下ろした。

 

「そう言えば大和さんの方は結局どう言う能力が出たか分かったんですか?」

「さぁ、陽炎と同じで基礎能力の強化じゃないかって主任は言ってたけど、改じゃない私の戦闘形態のデータが無いから断言ができない状態らしいわ」

「艦娘の第二段階か、私にもその改とやらが起こるかもしれんと考えるとなかなかに興味深い話だ」

 

 駆逐艦娘と戦艦娘の左目の瞳孔に重なる透明な菱形の花びらが向かい合うが知恵の欠片(異能力)でも生命の雫(肉体強化)でもなく小さく無邪気な魂を世界樹から持ち帰った大和は苦笑いで実情を隠して陽炎へと当たり障りない言葉と共に肩を竦めて見せ。

 そんな力の証である菱形を瞳に宿す二人の姿を武蔵は思案する様に自分の下顎を指で撫でながら眺める。

 

「本当は単純強化よりもカッコイイ異能力が欲しかったんですけどね~、ところであなたってもしかして秋津洲? そんな恰好で何してるの?」

「気にしないで欲しい、かも・・・」

「ぁ、ホントにかもって言うんだ」

 

 やっとの事で休む暇も無い任務を終え温かいご飯と憩いを求めて食堂にやって来た陽炎は大和達との雑談を一段落させて箸を手に合掌し、先ほどから気になっていたテーブルにつっぷして鼻をすすっている秋津洲へと顔を向ける。

 そんなわざわざ弱った相手へ物怖じせず無遠慮に近づく陽炎の姿に彼女と初めて会った時の事を思い出しながら大和は自分の頭の上に電球が閃いた様な気がした。

 

「ねぇ、陽炎は今の鎮守府に詳しいって一緒にリハビリしてた時に言ってたわよね?」

「はい、姉妹艦が多いと“通信”で勝手に集まってくるんで、まぁ、特型駆逐姉妹ほどじゃないですけど」

「なら、秋津洲に関しての話を何か知らない?」

 

 少し身を乗り出す様に自分を見つめる大和の様子に味噌汁へと箸を付けようとしていた陽炎は小首を傾げ、鷹揚に頷く武蔵やチラチラと自分を見上げる心細そうな秋津洲の様子を確認してから、どう言う事情なのかあらましぐらいは聞かせて欲しいと大和の質問に質問を返した。

 

「・・・、えっと、つまり秋津洲が戻って来てから他の子達に絡まれたり観察されたりしてるのが原因って事ね」

「秋津洲、攻撃力も防御力も低いから演習でもあたしがいるチームいっつも負けちゃうかも、だから迷惑だって思われてるかも・・・一緒に帰ってきた子達もなんだか余所余所しくなっちゃったし、気が付いたら無言で囲まれてたりするし、うぅぅ・・・」

「貴女はその身体になってまだ二カ月程度なんだから、心配しなくてもちゃんと力を使いこなせる様になったら演習にだって勝てるようになるわ」

「お前の様な空母系の艦娘は空を制する事が仕事なのだろう? そして、空を飛ぶと言う戦い方が我々の様な大砲にモノを言わせるやり方よりも熟練が必要なのは素人目に見ても明らかだ」

 

 卵焼きとご飯を口に掻き込みながら大和から状況説明を受けた陽炎が項垂れる秋津洲を励まそうとしている戦艦二人の様子を眺め、一旦お茶で口の中のモノを胃に流し込んだ駆逐艦はふむっと小さく頷いた。

 

「秋津洲の心配って当たらずとも遠からずってところね」

「かも・・・?」

「確かにみんな秋津洲の事が気になって仕方ないのよ、良い意味でも悪い意味でも」

 

 まるで何か確信がある様な陽炎のセリフ、それを言われた秋津洲本人は意味深なその言葉で呆気にとられながら顔を上げて自分の横で漬物を口に放り込んでいる情報通の艦娘を見上げる。

 

「む? 陽炎、それはどう言う意味だ?」

「これって、つい最近鎮守府に帰ってきた三人が知らないのも無理ない話なんですけど・・・秋津洲って実は私達の間ではかなり有名な艦娘なんです」

「ふぇっ・・・え、ぇえっ!? あたしが有名かも!?」

 

 あまりの驚きに悲鳴じみた声を食堂に響かせ跳ね起きた秋津洲は目を白黒させそれでも驚き足りなかったのか酸欠を起こした様に口を無意味にパクパクと開閉する。

 

「有名ってどう言う事? 私達は長い間行方不明になっていたからこの子の事を直接知ってる艦娘もいないんじゃないかしら?」

「あ~、それはえっと・・・なんて言うか大和さん達って中村二佐と田中二佐の前世の話とか聞いたことあります?」

 

 少し歯切れ悪い言い方で陽炎は箸先を行儀悪く揺らす。

 

「その二人って確か私達の救出の為に独自行動してた艦隊の指揮官よね、話した事は無いけど一応顔は知ってるわ、でも前世って? 仏教とかで言う輪廻云々のあれ?」

「・・・ああ、そう言えば清霜がそんな話をしていたな、違う世界から鎮守府を救う為にやって来た正義の味方だったか、あれは与太話の類ではないのか?」

 

 軽い調子で繰り出されたオカルト話に戸惑う大和と知り合いになった(何故かすごく懐かれた)駆逐艦娘から少しだけ情報を得ていたものの小信大疑の武蔵、全く心当たりがないと言う顔で首を傾げる秋津洲と言う三者三様に陽炎は大前提として二人の優秀だがどこか抜けている指揮官の話を先にするべきと判断して口を開く。

 そして、今の自分達が生きている世界と似通いながらも決定的に違う歴史を進んだ世界で生きた経験を持つ二人の転生者の話を陽炎は出来るだけ簡単に要約して大和達に伝えた。

 

「と言うわけで中村二佐達は私達以上に艦娘の事に詳しいわけなんですけど、えっと、秋津洲の話よね、確かあの話はえっと・・・」

「その人達がいたから今の鎮守府に・・・信じられないわ・・・そんな事があったなんて」

「だがこれだけの急激な我々の待遇の変化を考えるとそれぐらい突飛なモノでもないとありえんとも言えるな」

 

 ムムムと眉間にシワを寄せて頭の中から目的の情報を引き出そうとしている陽炎と彼女が語った現在の改善された鎮守府に至った概要(あらすじ)に大和と武蔵は大袈裟な程に戸惑い驚きの声を漏らす。

 

「そう! 確か一番初めの限定海域の攻略が成功した後、落ち着いてから中村艦隊に所属してたメンバーで集まって祝杯上げてその時に一番強い艦娘は誰なのかって話で盛り上がったの」

 

 そんな大和型姉妹の動揺を他所に箸を持っていない方の指をパチンと弾いてやっとその話の切っ掛けを思い出したと声に出す陽炎だが、秋津洲の話をすると言っていた筈なのに何故か彼女の口からはかつての同僚と最強の艦娘は何某かであるかを論争した事があるなどと言う話題が飛び出てきた。

 

「それでやっぱり戦艦が最強とか空母の人達の方が強いとかでケンカ一歩手前、それじゃ埒が明かないって深雪、特型駆逐艦の子が中村二佐に聞いたのよ、最強の艦娘って誰なんだーっ? て」

「ふむ、戦船として我々戦艦がその話に上がるのは分かるが、しかし、砲を持たん空母と並べられると言うのはなぁ・・・」

「武蔵、空母を侮る事がどうなるかは私達自身が良く知ってるじゃない」

 

 少し不満そうに呟く武蔵に肩を竦めながら注意を促す大和、そして、なんだか蚊帳の外に置かれている気分になっていた秋津洲の肩を少し遅い朝食を食べ終わり箸を置いた陽炎の手が軽く叩いた。

 

「ところがね、中村二佐が最強の艦娘って言ったのは・・・秋津洲、あなただったのよ」

「・・・かも?」

 

 意味が分からない、生まれて初めて自分に掛けられた言葉が理解出来ないと言う不思議な体験を味わう事になった秋津洲は間の抜けた顔でたっぷり数十秒かけて自分を見ている陽炎と見つめ合い。

 

「か、かも!?」

 

 もう一度、艦娘として生まれた時から口癖になっている二文字をテーブルの上で叫んだ。

 

・・・

 

「え・・・秋津洲、って誰?」

「確かラバウルの方にそんな名前の船が居たような、居なかったような?」

 

 中村の出資によって机一杯に並ぶジュースとお菓子を前にその場の艦娘達が聞き覚えの無い艦娘の名前に全員が同時に困惑し自分達の記憶を探る様に話を交わし、そんな部下達の姿を眺めて愉快そうに笑いを漏らした指揮官は手近なおつまみを口に放り込みながら秋津洲型水上機母艦の簡単なプロフィールを彼女達へと聞かせる。

 

「そりゃおかしいって、空母ならともかく水母が最強だなんて納得できるわけないじゃんか! おまけに大砲も魚雷も積めない艦娘ってなんだそりゃぁ!?」

「深雪ちゃん! 司令官を疑うなんて失礼だよ!」

 

 口を尖らせ指揮官の言葉に対して苛立たし気に反抗する妹艦娘に対して大袈裟に感じる程強い噛みつくような言い方で吹雪が注意するが、テーブルに手をついて身を乗り出した特型駆逐艦の長女の後ろ襟を中村の手が捕まえて少し強引に引っ張り戻したその頭を撫でまわす。

 そして、髪をかき乱されたのにはにかみ笑う吹雪を椅子に座らせてから中村は部屋にいる全員の顔をおもむろに見回し、納得がいかないのも当然だと、深雪の文句に深く同意する様に頷いて見せてからポリポリとスナック菓子を齧りながら様子見をしていた陽炎へと一つの問を投げ掛ける。

 

 戦闘においてもっとも合理的な戦術とは何か、と。

 

「そりゃ、反撃されないぐらい遠くから敵を一発でやっつけられるぐらい強力な攻撃をする事でしょ」

 

 その時期はまだ中村艦隊と木村艦隊の掛け持ちしていた陽炎は自分で言ったそのシンプル極まる戦術論にそれが出来れば苦労は無いけどと苦笑する。

 そして、その駆逐艦の返事に中村も深く頷き同意して、だからこそ秋津洲が戦場において最も恐ろしい戦闘能力を発揮することになるのだ、と改めて先程の最強議論の回答としてその艦娘の名を出した。

 

・・・

 

「ふぇ・・・、わけが分からないかも」

「よね~、いきなりあなたは最強の艦娘なのよ、なんて言われても何が何だかってのは分かるわ」

 

 よーくわかる、と深く頷いている陽炎の様子にその場にいる三人の目が点になる。

 

「いや待て、遠距離高火力ならばそれこそ戦艦の領分ではないか」

「艦娘の手札は砲雷撃や艦載機だけじゃない、装備とは別の要素が限定された状況下で恐ろしい威力を発揮する事がある」

 

 テーブルに肘をついて頬を支え呆れ顔をしている武蔵が言う言葉に大和も同意する様に頷くがその言葉尻を奪いピンと指を顔の前に立てた陽炎は誰かの口調を真似する。

 

「中村二佐が言うにはね・・・秋津洲と言う艦娘の特殊性がある戦術と噛み合ってしまうと誰にも止められなくなるらしいのよ、本人にすら、ね」

 

 ひたすら意味ありげに微笑を浮かべ声を潜める陽炎の様子と戦術という艦娘から切り離せない要素への強い興味に引っ張られて大和は自然と前のめりになり、秋津洲も駆逐艦の話を疑いながらも自分がどういった評価をされているのか気になっているらしく顔をテーブルから上げた。

 

「キーとなるのは秋津洲が装備している二式大艇って艦載機」

「大艇ちゃん? 大艇ちゃんは艦載機じゃなくて飛行艇かもっ!」

 

 持ち主の細かい指摘に苦笑しながら陽炎は説明を続け、普通の空母なら海上から上空へとジャンプする際に使った中継機はすぐに霊力に分解され回収されてしまうがその二式大艇だけは秋津洲がジャンプする為に使っても中継機にならずにそのまま運用できる、と言い。

 さらに巨大なその飛行艇は本体である秋津洲を上に乗せたまま高高度と長距離飛行を両立させ、その優れた飛行性能による広大な索敵範囲から最小限の労力で艦隊を目的地へと案内する事が出来る水上艇母艦は優秀な水先案内人(ルート固定要員)となる事が出来る、と陽炎は解説する。

 

「だ、大艇ちゃんスゴいかも! そんな事出来るんだぁ」

「秋津洲の艦隊支援能力が高いのは分かったが、それがどう最強の艦娘と繋がるんだ」

 

 自らの主砲に絶大な自信を持っている武蔵は少し憮然とした顔で腕を組み、前のめりで陽炎の話に聞き入っている秋津洲はともかく同じ格好の大和の姿には小さく鼻を鳴らす。

 

「ところで鳳翔さんや一航戦の人達がやってる無茶苦茶な加速からの飛び蹴り、あれの本当の名前って知ってる?」

 

 宙に線を引く様にヒュッヒュッと唐突に素早く指を振った陽炎の言葉に大和達は揃って首を傾げ、その姿にクスクスと笑った陽炎は言葉を続ける。

 

秋津洲(・・・)流立体機動戦闘術、ワイヤーによる加速と遠心力、そして、瞬間的な重量操作による質量と障壁硬度を脚部に集中させて叩きつける・・・中村二佐の前世では秋津洲が初めて実践した航空格闘術だそうよ」

 

 陽炎の言う自分がいない間に鎮守府で確立されていた戦術に自分の名前が付けられていると言う話に目を剥き口を半開きにした間抜けな顔で秋津洲は言われた言葉を理解しようと必死に頭を働かせる。

 だが秋津洲自身ですら知らなかった二式大艇の隠された性能に関してまだ飛行訓練まで練度が達していない水母艦娘は実感出来ずに菊紋入りの帽子の上に大きな?マークが立つ。

 

「でも、二佐曰く鳳翔さん達がやってるアレって不完全なモノらしくてね、恐ろしい程の持久力と中継機に使っても分解せず高度も落とさない性質を持った二式大艇、そして、その飛行艇が待機する上空5000mまで届く秋津洲の長射程大型クレーンのワイヤーがあってこそ、その戦術は本来の威力を発揮するらしいの」

 

 空母障壁の効果で重量を軽減して二式大艇そのものに掴まる事で約7000kmと言う長距離航行を可能とし、高高度から遠心力と重力を借りて垂直落下する秋津洲の一撃はもはや砲弾ではなく宇宙から襲来する隕石と言って良い威力、それはさながら人の形をした大陸間弾道弾と言っても過言ではない。

 だが一度爆発すればそこで終わりのミサイルとは違い秋津洲は着弾後であっても再跳躍によって自分で二式大艇の元へと戻れるだけでなく霊力さえあれば即座に再攻撃(落下)が可能。

 

「数百トンの艦娘が時速数百キロで落ちてくる、しかも耐久力が許す限り何度でも、と言えばその戦術的価値は下手な戦艦砲なんて目じゃないのは分かるでしょ? 反撃しようにも二式大艇と一心同体の秋津洲は高高度へとすぐさまジャンプしてしまうし、その度に上空で大艇を軸に秋津洲は再加速して目標目掛けて致命的な攻撃を落とす・・・一度でもジャンプされればもうその攻撃を止める事が出来なくなる」

 

 だから、演習で敵チームになった艦娘はその能力を警戒して秋津洲を集中攻撃するし、味方艦は秋津洲を守る為に彼女が望む望まないに限らず輪形陣を組む、と話を一段落させた陽炎は澄まし顔で食後のお茶を手に取る。

 

「い、いや、だがそれでも最強と言うのは言い過ぎではないか、要は射程外に逃げられる前に撃ち落とせば良い話だろう?」

「はい、その通りです・・・と言うかここまで言っておいてなんだけど、ぶっちゃけ秋津洲はその航空格闘があっても弱い艦娘らしいです、輸送艦の子達といい勝負ってレベルの速力、防御力と攻撃力も駆逐艦の私より低いんじゃないかしら?」

「ふぇ、ふぇぇ、そんなにはっきり言われるなんて・・・」

 

 文字通り上げて落とされた秋津洲のおでこがテーブルに落ちてゴロリと意気消沈した顔が涙目をさらに潤ませ、その様子に慌てた大和が眉を顰めて武蔵と陽炎を睨みつければ妹戦艦は気まずそうに頬を掻いて顔を逸らし、駆逐艦娘は苦笑を浮かべながら話はまだ終わってないと告げる。

 

「中村二佐の前世でも秋津洲は文句無しに弱い艦娘で最弱四天王の一人とか言われてたらしいです、だけど、改造を受けて改となった秋津洲はその評価が逆転して戦略級の破壊力を持った、・・・決して本気を出してはいけない(・・・・・・・・・・・)艦娘になってしまう」

 

 そう呟いた陽炎の声に周囲が静まり返った。

 

「基本的に艦娘の限界突破、第二段階で手に入る力はほぼランダムだけど一部の艦娘は代替わりしても必ず同じ異能力が発生する、そして、その例外的な艦娘の一人が秋津洲なの」

「例外って、あたしが改造受けたら必ず異能力がもらえるって事かも?」

「そう、で、その異能力が問題なのよ・・・それが重力圧縮、マイクロブラックホールを作り出してしまう異能」

 

 重力力場を無理やりに捻じ曲げ押し固めた黒球を造り上げる異能力、それが先程の二式大艇を利用した戦術と合わされば長距離射程と命中力を両立させた連発可能な一撃必殺の重力爆弾と言う悪夢の破壊兵器が出来上がる。

 

「宇宙にある本物と比べれば芥子粒よりも小さい疑似的なものだけど地球上で使えば地図を書き換える程の破壊力、一度発動すればどんな攻撃も秋津洲ではなく黒球に吸収されその威力を高める手伝いにしかならない攻防一体の性質」

 

 そして、中村二佐の世界では誇大表現甚だしいハリボテとか理論上は可能なだけの妄想など、眉唾扱いされていた秋津洲のその力が使われたのは一度だけ、と目を伏せて陽炎は二年前に元指揮官から聞いたここではない世界の物語を口にする。

 

 深海棲艦の勢力拡大を確認してその敵艦隊へと先制攻撃する為に主力艦隊が前線へと出払っていたある時期に伏兵と言うにはあまりにも大規模な艦隊の奇襲を受け後詰めの艦隊の努力も虚しく本土にまで姫級や鬼級の上陸を許してしまった。

 これ以上の侵攻は絶対に防がなければならないと焦った日本政府と自衛隊上層部の決定によってその作戦にGOサインが出されてしまう。

 

「おい、まさか・・・」

「東北沿岸に上陸した深海棲艦群の上空から秋津洲単艦による強襲、誰が言ったか秋津洲チャレンジなんてふざけた名前の作戦・・・結果は笑えないものになってしまった」

「どう、・・・なったの?」

 

 ただの又聞き話であるのに陽炎の語り口に戦々恐々とした大和型姉妹、別世界の自分が『艦娘として守るべき国や人々』に対して何をやらかしたのか想像してしまい顔を真っ青にしている秋津洲、そんな三人の前で陽炎型の長女は妙に多くの注目を浴びている感覚に内心首を傾げながら肩を竦めた。

 

「分からない、らしいわ」

「は?」

「前世では一般人だった二佐が知る事が出来たのは鎮守府の主力艦隊が出払ってる時に東北地方に深海棲艦が上陸したって事と政府と自衛隊がその大群への緊急対策を立てたと言う話、そして・・・その数日後に日本を震度七の大地震が襲い、その日を境に上陸した深海棲艦が消えてなくなったって事だけ」

 

 その後、数年に渡って深海棲艦が上陸したと言われていた地点とその周辺地域は危険な汚染を理由に近づく事も許されない立ち入り禁止区域とされ。

 

 避難していた元の住人が戻った十年後、そこには何一つ彼らの故郷の面影は残っていなかった。

 

「更地と言うよりは無理やり土砂を放り込んで穴を埋めた様な状態、規制が解除され撮影された衛星写真には不自然な半円形に塗り分けられた土の色と機械的に整えられた海岸が広がっていた」

 

 独白する様な陽炎の声が静まり返った食堂で妙に大きく聞こえ、オレンジ色のツインテールを揺らして湯呑をテーブルに置いた音にその話を聞いていた全員が小さく身を震わせる。

 

「アングラでは外国の衛星が撮影したクレーターみたいに抉れた海岸線の写真とかが出回っていたとか言う話もあるらしいけど政府側は突発性の地震と本土防衛艦隊と深海棲艦の戦闘による被害って言葉で突き通した、ただ、その地震が起きる直前に上陸した深海棲艦群に対して秋津洲単艦による攻撃と言う不自然過ぎる作戦が行われた」

 

 状況証拠からの推測は簡単だけれど、ここではない世界の話である以上はもうその真相を確かめる手段などない、と陽炎はまるで怪談を語る様に顔を軽く伏せてそう呟く。

 

「って言っておいてなんだけど、これ全部、法螺吹きな中村二佐の言ってた話だし何処までが本当か分かったもんじゃないのよね~」

 

 誰かが固唾を飲む音が聞こえたと同時、スッと顔を上げた陽炎が打って変わって気の抜けた苦笑を浮かべてわざとらしく肩を竦めた。

 

「法螺って? 嘘なのかも!? 全部!?

「まっ、秋津洲は噂とか周りとかなんか気にせず自分らしく上手くやってく方法を見付ければ良いんじゃない?」

 

 そう話を締めくくった陽炎は今にも卒倒しそうな程に顔を青くして震えている秋津洲を励ます様にテーブルに突っ伏している猫背を撫でる。

 

「じゃぁ、結局、秋津洲が他の子達から見られているって話は・・・?」

「多分、伝言ゲームみたいに尾ひれが付いた最強の艦娘って噂が独り歩きしてるんだと思います、だから秋津洲にライバル心を持った艦娘は負けるもんかって思うし、素直に凄いと思った子は周りに集まってくるんです」

 

 会った事も無い指揮官が吹いた法螺話のせいで身に覚えのない評価を受けていた水上機母艦は軽い口調で励まされつつ自分が周りの艦娘から嫌われているわけでは無いのだと言う陽炎からの保証にひとまず安堵の溜め息を吐いた。

 

・・・

 

 朝食を食べに食堂に踏み入れた俺はそれなりの人数が居るのに妙に静まり返っている空気に困惑する。

 

 士官や研究員とか大人だけならともかく駆逐艦の子達まで黙り込んでいるのは異常としか言いようがない。

 

 すぐ横にいる時雨へと顔を向ければ彼女も戸惑い首を傾げており。

 とりあえず時雨に妙な沈黙の理由を聞きに行ってもらう事にした。

 

「秋津洲チャレンジだって? それ、いったい誰から聞いた話なんだ?」

 

 そして、二人分の定食を手に時雨が手招きする席に着いた俺は前世の艦これプレイヤーの間で悪ふざけの一種として有名だった言葉を陽炎から久しぶりに聞いて呆気にとられる。

 

「心配しなくても俺の目が黒いうちはそんな事は絶対にさせやしないよ」

「か、かも?」

 

 その単語を聞いただけで顔を青くしている秋津洲の姿は恐怖に震えており、あの馬鹿がばら撒いた迷惑な噂の種がまた芽吹いてしまったと察しがついた俺は小さくため息を吐きながらいじめっ子を見て怯える子供の様な状態の水母艦娘へと語りかける。

 

「知っているのか、その作戦の事を?」

 

 少し驚いた顔をしてこちらを見る褐色金髪の美人、かなり露出度が高い恰好の筈なのに色気を全然感じない所が長門と妙に似通っているな、と初めて会った武蔵に対する感想を頭の中で呟きながら俺は茶碗を手に箸を進めた。

 

「作戦? あんなのは作戦なんて言えるもんじゃない、被害ばかりが大きくなるだけで人道的にも誰も幸せにしない馬鹿馬鹿しい悪ふざけだ」

「ほぉ・・・言うじゃないか」

 

 武蔵だけでなく周囲からも「おお」と声が聞こえたが俺としては別に感心される様な事を言ったつもりはないので周りとの変な温度差を感じてしまう。

 

「えっ、田中二佐も知ってるって事はあれマジな話だったの!?」

 

 確か秋津洲を単艦で連続演習に突撃させるD敗北を前提にしたお遊びだったか。

 

 と古い記憶を掘り出した俺は良く考えれば現実にそんな事をやれば確実に目の前で哀れな程に震えている艦娘にトラウマを刻んでしまう事なるのは間違いないと気付く。

 

「信じられないくらい馬鹿な話なのは分かる、だが、陽炎も陽炎だ、徒に相手を怖がらせる様な話はするもんじゃない」

「はぁ~い・・・」

 

 まったく、別の世界とは言え自分が集団リンチされていたと聞かされて良い気になれるわけがないだろうに。

 

「・・・本当にしない、かも?」

「しないよ、大丈夫だ」

 

 不安そうに震える童顔と子供っぽい口調である為か、それとも単純に身体を縮める様に丸めている姿勢が小動物に見えるからか、戦船を原型としているとは思えない程に普通の女の子にしか見えない秋津洲を安心させるために真摯さを込めた優しい笑みをつくる。

 

「もしそんな事をされそうになったら俺のところに来ると良い」

「わ、わはぁ・・・」

 

 直後に秋津洲はすぐに顔をテーブルに伏せて隠してしまったが、少なくとも横から見える顔色は良くなったし身体の震えも止まったので上手くフォローが出来た様だと俺は卵焼きを一切れ口に放り込む。

 

「流石だね、提督」

「こんなのは褒められる程の事じゃないだろ」

 

「か、カッコ良くて優しい人かも~♪ 俺のところにって、じゃあ、お願いしたら秋津洲の提督になってくれるってことかな・・・? えへ、えへへっ♪」

 

 すると、金細工の髪飾りをしゃらりと鳴らし時雨が俺の方へと「仕方ない人だ」とでも言う様な呆れを含んだ微笑みを向けてきた。

 

「・・・ホント流石だよ、僕の提督は」

 

 変な事を言ったつもりはないはずなんだが。

 




 
T「お前なぁあの子達に変な事吹き込むのいい加減止めろよ」

N「最近は自重してるっての、それにしても秋津洲チャレンジかぁ、大分前に言ったネタだな・・・あん時は」

 ~斯く斯くシカジカ~

T「・・・What?」

N「下手な艦娘を引き合いに出すと角が立つからその時には居なかった秋津洲をちょっとな」

T「じゅ、重力圧縮って、どこのグ〇ンゾンだ・・・」

N「いや、あの時はネタの一つでも通って強い艦娘が増えれば後で楽が出来るかもって話盛ったけどな、流石の猫吊るし(刀堂博士)もあの話を全部再現するとかは無いだろ」ダイジョウブダイジョウブ

“中村君”
“・・・知っているかな?”

“吐いた唾は飲めないんだ”


その後、秋津洲(改)が物理的に世界を滅ぼせる能力を手に入れ田中艦隊専属のルート固定要員(封印兵器)となるのはまた別のお話。

2020/10/7 少しだけ表現に手を加えました、内容に変更はありません。
 
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