私が艦娘だった時の決め方?
初めの頃は秋刀魚を一番多く取った艦隊の指揮官がMVP艦娘を指名してたよ。
その後は確か・・・四年目だっけ、クジ引きに変わった事があったかな。
何でって?
スケジュールが合わなくて秋刀魚対策に参加できない子達がストライキ起こしてね。
あの時は僕の提督も大慌てでね・・・ふふっ。
それでサンマリーダーだけは艦娘全員にチャンスをって話になったんだけど。
ははっ、そうお祭り事になると皆大騒ぎするのは前も今も変わらないって事。
まっ、クジ引き方式は当たりを引く子が偏っちゃう事が分かったせいで次の年に止めになっちゃうわけだけどね。
見上げれば陽の光と波に揺れる海面の揺らぎを見ることが出来る浅い深度で等間隔でコーンコーンとソナー音が連続して海中に広く広がっていく。
濃紺に染まった水底を見下ろす陰陽の境目に溶け込む紺色の布地、無数の泡が海面を目指す下で潮の流れに胸元を隠す程度しか丈の無い半袖セーラー服の襟が揺らめき。
目を閉じ耳を澄ませるように海水の流れを素手と素足で受け流しながらその場に止まっていた少女が不意に桃色のネクタイと髪を靡かせて身体を捩じる様に方向転換を行う。
『こっちに向かって反応接近でち、てーとく、とっても大きいよ』
『デカいんじゃない多いんだ、って事は待ち伏せは俺達の場所が当たりってか、田中艦隊の方は確認してるのか?』
髪と同じピンク色の瞳が開き自分の身体に備わる高精度の
『ん~・・・イムヤの方には居ないんだって、こっちに合流するって言ってるでち』
『よし、ゴーヤは取り敢えず群れの進行方向から離れろ、まだ夜じゃないって言ってもあいつらが光を見たら突っ込んでくるのは変わらんだろうからな』
指揮官である中村へと了解を返した伊58は自分達のいる方向へと近付いてくる海中を突き進む無数の発泡音を見据えながら淡い月明かりの様な
『あっ、今一匹通ったでちっ!』
ついさっき自分が止まっていた場所を一筋の銀色が通り抜けた様子に目を見開いた伊58が声を漏らし、その一番手を追う様に無数の魚影が観測者達の目の前を驚くべき速度で走り抜けていく。
『レースじゃねえんだろうに、どこに急いでんだよ・・・』
鋭い嘴の長細い身体、銀の腹と黒い背の配色、ダツ目-ダツ上科にカテゴライズされるその姿は中村だけでなく伊58にも見覚えのある魚だった。
そして、先頭を追いかける様に次々と水深40mにも満たない浅い領域が大量の魚が集まって出来た魚群で埋め尽くされ潜水艦娘とその艦橋にいる者達の目の前で銀にきらめく壁が蛇の様にうねる。
『本当に・・・秋刀魚でち』
だが、それは秋刀魚と呼ぶにはあまりにも大き過ぎた。
『秋だからってデカくなりすぎだろうが、何食ったらああなるんだよ』
中村の呆れ声を聞きながら伊58は純粋に驚き、海中がカジキマグロ並みの巨体を持った大量の秋刀魚の群れの我先にとでも言う勢いで荒く掻き乱され13mの身体を持つ潜水艦娘ですら水の勢いに押されてバランスを崩しかける。
魚雷の様な速度で産卵地である日本近海を駆けまわるその魚の群れは上空から見ればまるで巨大なクジラ、いや、大型タンカーの影と言っても過言ではなく。
その一端が掠りでもすれば自分の身を守る不可視の障壁ですら割られかねないと思える自然の驚異を前に桃色髪の潜水艦娘は漁船に被害が出るのも無理はないと身を以て実感する。
『ゴーヤ、潜航しろ』
『ふぇ? てーとく、でもあの群れを追わないといけないんじゃないの?』
『いや、下の方に足の遅いはぐれが居るみたいだ・・・捕まえるにおあつらえ向きのな』
指揮官の悪戯っぽく笑う声に何度か瞬きした潜水艦娘は彼の言いたい事を察し、ニッコリと笑みを浮かべて身体を丸める様に縦回転して頭と足の方向を入れ替え海底へと手を伸ばし水を掻き、そのタイミングに合わせて伊58の背中で艤装がエアを放出しながらスクリューを回転させ始める。
『ゴーヤ、潜りまーす♪』
・・・
「これで網はすべて引き上げましたの?」
「はい、毎回手間かけてしまってすんません、ありがとうございます」
「そんなに畏まったお礼は必要ありませんわ、大した事ではありませんでしたもの」
そんな自分に向けられたお礼の言葉に少し誇らしそうに胸元に手を当て笑みを浮かべる艦娘、小豆色のブレザーと黄土色のプリーツスカートを着こなす可憐な顔立ちの少女の姿に頭を下げていた漁師の男は自分が立っている場所が漁船の上だと言う事も忘れかけて目の前の美少女に見惚れる。
「それにしても今日獲れたお魚はこれだけですの? 前来た時よりも少ない気がしますわ」
「いや、なんでか分かんないけれど最近はこんな感じになってん、・・・ます」
「もぉ、・・・不格好になるなら敬語なんて始めから使わないくださいましっ、貴方は何度
カスタード色に近い茶髪のポニーテールを揺らし少し不満そうに鼻を鳴らすお嬢様に漁師の男は頭が上がらない様子で誤魔化し笑いを浮かべた。
「正直、船直して漁に出れてもこれじゃやってけない、オマケにここ最近は船底にぶつかってきたり仕掛け網に穴開ける今まで見た事も無いデカいヤツが漁場を荒らしまわってるみたいで・・・他の所でも秋刀魚どころかアジも数獲れないってさ」
「まぁっ! そんな事になっているんですの・・・?」
そんな二人の様子を漁船の操舵室から眺める熟練漁師が我が孫ながら情けない奴だとでも言う様に頭を横に振り、その傍にいる中年漁師は息子へともっと強気で行けとジェスチャーで伝えてくるが若手漁師は敢えて野暮な身内の姿を視界の外へと追い出す。
「そう言えばそこら辺の話とか何か聞いてたりしないか? 港の事務所で自衛隊の艦娘が調査してくれるって話になったって聞いたんだけど」
「ええ、
「なんかその犯人の見付ける作戦に参加するってちょっと前にくまりんこが言ってたね~、今どんな感じか聞いたげよっか?」
少し申し訳なさそうに物憂げな表情を浮かべて腕を組み頬に片手を添える重巡艦娘熊野の絵になる仕草に漁師の口から感嘆の溜め息が漏れそうになったと同時に船の縁の向こう、海の上から呑気そうな女の子の声が聞こえた。
「ちょっと! 鈴谷、一般人に軍機を漏らす様な真似は!?」
「え~、機密って程の話じゃないっしょ、てか調査が終わったら漁師の人達にも知らせるんだから遅いか早いかの違いじゃん?」
向かい合っていた二十代後半の漁師から熊野は声がした方向へと向かい、船端から海へと身体を乗り出して波の上で漁船の左舷にもたれかかりながら携帯端末をいじっている姉妹艦へと注意を飛ばす。
「・・・と言うか、今更なんだけど二人ともこんな所に居ていいのか? その軍事的にとかその辺の難しい事は俺に分かんないけど」
「いや~、鈴谷達ってば重巡っしょ? んで、今任務でやってる近パトって軽巡と駆逐が居れば大体なんとかなっちゃうから鈴谷と熊野ってばぶっちゃけやる事無くて暇なんだよね~」
「私達が出向くとなれば空母や戦艦級が出現した時ぐらいですもの、拠点艦の中で無為に過ごすぐらいなら護衛中の船団を視察している方が有意義ですわ、呼び出しに遅れさえしなければ文句も言われませんし」
「てか、前も一週間何もしないで鎮守府に帰る事になったし~、しかも今の提督って敵が多くても駆逐ばっか連れてくし、そのせいで基本給しかコイン貰えないしぃ、もう鈴谷別の艦隊に移ろっかなぁ・・・」
鈴谷が口にした近パトと言う単語に日に焼けた男が首を傾げれば
「あ~、でも今募集出てる小笠原輸送とか沖縄航路は忙しくて遊んでる暇無いらしいんだっけ・・・マジどうしよっかな」
海の上でフリーダム過ぎる態度を隠さないだけに止まらず歯に衣着せぬ物言いで喋る鈴谷の様子に、もしかして自分は知らない内に聞いちゃいけない類の機密を聞かされてるんじゃないか、と漁師は戦々恐々に顔を引きつらせ。
そして、部外者が心配する事ではないかもしれないが存在自体が軍事機密であると言うのにまるで昼休みの学生みたいな二人の艦娘の様子に「それで大丈夫なのか自衛隊」と声にならない呻きを青年は心中に漏らした。
「そんな顔しなくてもここからならちょっと急げば拠点艦まで三十分ちょいだし・・・それよりさ、改めて見るとやっぱ前来た時より漁師さん達減っててなんだかなぁって感じじゃん?」
「ああ・・・まぁ、網やられたり不漁が続いてるから船出さずに様子見しているのも多いけど・・・」
艦娘を主戦力とした深海棲艦に対する海自による防衛戦闘行動が行われるのが平常となってきたある日、いつも通りの仕事に精を出していた青年漁師は仕掛け網を引き揚げている最中に誰もいない筈の海上から「ごきげんよう」と聞き覚えのある声をかけられた。
そして、青年は奇妙な出会いを切っ掛けに「人見」と言う仮名で自分と文通している艦娘が微笑みを浮かべて波間に立ち船の上に居るこちらを見上げている姿に目を剥いて驚愕の叫びを上げて祖父に頭を引っ叩かれる事となる。
「中には船がもう直せないからとか、年だからとかであの
運が良ければ艦娘に会えると深海棲艦の出現にも負けなかった親父共は網の設置や引き上げを手伝い漁師飯を喜ぶ可愛い二人の女の子の姿に少しばかり鼻の下を伸ばしながら張り切っていた。
だが、それも三月中旬と言う時期外れに日本を襲った霊力を纏った巨大台風と言う事になっている災害のせいでそれ以前にも減少傾向だった彼の同業者は明らかに目減りし、ライバルであり気の良い仲間だった顔馴染み達が海から去っていく姿にはやるせなさを感じずにはいられない。
「あ、う~・・・なんかごめん」
「
青年が口にした台風が原因と言う言葉に二人の艦娘は同時に表情を曇らせ。
妙に後ろめたそうな熊野と鈴谷の顔に江戸時代から続く漁師の跡継ぎは無為に頬を掻きながら港に帰る準備が出来たと操舵室から不躾な視線を自分達へと向けてきている父親と祖父に知らせる。
「俺も他の漁師も気にしても仕方ない事って割り切ってるから大丈夫だって」
テレビや新聞では港の建屋を叩き潰す様な勢いで吹き付け船を好き勝手にひっくり返した突風や高波を特殊な台風によるものだと言っている。
しかし、某県沿岸部から撮影された列をなして出航していく護衛艦の艦列の映像、その二日後には天高く雲ごと空を焼くような爆炎が何度も水平線上に打ち上る動画がネットに投稿され。
そして、台風が収まった後に写されたらしい満身創痍と言う言葉がマシに感じる程の重傷を負った巨大な美女達が何処かの港に倒れ込む姿を捉えた複数の写真が存在している時点で公式発表は何か別の出来事を隠すためのカバーストーリーだと言う事は一漁師でしかない青年にも察しがついている。
ただ彼は熊野達がその日、何と戦っていたかは分からないまでも彼女達が日本を守るために尽力してくれていた事を疑う事は無い。
「だから二人がそんな顔する事ないって」
「・・・そう言っていただけるなら、
諸事情で同業者の数は減ってしまったがそれでも自分は漁業から離れるつもりなど無いと心に決めている漁師は二人の艦娘へと出来るだけ快活な笑みを向けた。
深海棲艦への警戒の為に船団を組んで操業している他の漁船へと操舵室の無線で連絡を入れる父親の様子を確認してから業界では若手な漁師は熊野達に洒落た別れの挨拶でもするべきかな、と考える。
「・・・熊野! Kーちゃん!」
船の上の空気が緩みかけたそんな時、突然に沖へと顔を向けた鋭い鈴谷の声が響き何事かと彼女が見ている方向へと熊野と彼は顔を向けた。
「なんかに掴まって! 揺れるよ! ジイちゃん達も気を付けて!!」
「鈴谷、それはどう言う事ですの!?」
「へ? わ、わっ、なんだ!?」
海上から素早く漁船の船縁に飛びあがった鈴谷が舷端に手と足を掛けて警告を発し、漁師と熊野が困惑の声を漏らしたと同時、彼らの乗る船から目測で2kmほど離れた水平線にほど近い海面が山の形に盛り上がっていく。
そして、突き破られる様に弾けた海水の中から振り上げられた両腕と桃色のショートヘアが日の下に飛び出し、頭頂でCの形にカールしたアホ毛をバネの様に弾ませる艦娘の出現にその場にいた漁師達が絶句する。
《獲ったでちぃっ!!》
勢い良く斜め前へと海面に飛び出した輝く笑顔が何か銀色に輝くモノを握った両手を天に突き上げ、その誇らしげな声が離れた場所にいる漁師達の元まで届き。
水飛沫と共にスク水に包まれた腹から海面へとうつ伏せる様に着水した潜水艦娘の背中に装備された艤装が水抜き弁を開放して大量の水を噴いて海水の滝を作る。
《大漁♪ 大漁♪》
更には桜の花びらをあしらった髪飾りが揺らすピンク頭に続いて鮮やかな赤色のポニーテールが海を破り胸元に何かを抱きしめる様にしてセーラー服とスクール水着と言う些か実用性に疑問が浮かぶ恰好をした二人目が先に現れた同艦種と同じ様にメインタンクの排水を始め。
「もしかしてあの子達って潜水艦の、艦娘? でも、なんでこんな場所に・・・」
なんの前触れもなく彼らの前に現れた趣味性の高い恰好をした巨大な艦娘はそれぞれ数匹の巨大魚を捕まえており、その活きの良さを主張する様に大きな魚達は彼女達の腕の中で尻尾をビチビチと暴れさせている。
「き、気安くこの熊野に触れるなんてっ・・・」
潜水艦二人分の浮上によって遠くから波紋となって伝わって来た高波で少し大きめの上下運動を始めた漁船の上でよろけかけた熊野の身体を支えて船縁を掴んで揺れに耐える青年は目を丸くした。
「ぷぷっ、熊野、顔真っ赤じゃん、ウケる」
・・・
下手な巡洋艦、いや、ヘリ空母並みの巨体を与えられた表向きは民間所有の最新鋭海洋調査船、硬い音を立ててその階段を上がって水密扉を押し開ければ広い前方甲板が目の前に広がりその一角に人だかりができている事が分かる。
後ろ手に手を組んだ時雨を連れてそちらへと足を向ければ灰色の作業服よりも研究用白衣の割合が多いその集団の中に悪友の笑みを見付け、俺は溜め息を吐きながらこちらへ軽く手を上げている義男の隣へと立つ。
「よぉ、良介遅いぞ」
「お前が余計な事をした上に定時報告丸投げしてくれたからな」
「いや、お前の方もイムヤ止めなかっただろ、報告も作戦の全体指揮権持ってるお前がやんのが当然だろ」
その上下関係を分かってるならちゃんと言う事聞けよ、と溜め息交じりの呟きを漏らした海上故に遮るのモノの無い太陽の下、口を尖らせて言い訳にもならない不平を漏らす義男を横目に睨んでから俺は足元に視線を向けた。
巨大な魚が黒い背に銀色の腹を横たえ若干潮臭い臭いを周囲に漂わせている光景に騙し絵を見せられ遠近感を狂わされた時の様な感覚を覚える。
「それにしても直に見ても信じられないな、これは・・・」
「うん、見た目は本当に秋刀魚だね・・・でもこれ、本当に秋刀魚なのかな?」
俺のすぐ横にしゃがんでそれの頭に顔を近づけまじまじと見つめる時雨も困惑の色が強い表情でその魚が本当に自分の知るモノと同じ存在なのかを疑っている様だった。
「サイズはともかくこれは間違いなく秋刀魚だよ、いやはや凄い発見だ! 実に研究のし甲斐がある!」
この厄介事が始まったのは災害復興だけでなく領土問題まで浮上して混乱極まる国会が何とか鎮静化に向かい始め、春先の戦いで発生した被害を受けた太平洋側沿岸の復興事業の為の折り合いが付いて鎮守府からも被災地支援の為に輸送艦娘達が艦隊を組んで出撃を始めた時期。
目が回る煩雑さを言い訳に行政側の海上保安庁と地方公務員は「お願いだからこれ以上の問題を持ってこないでくれ」と悲鳴を上げ被害報告と共に出された漁協からの嘆願を半ば無視していた。
しかし、一週間前に義男が助け出した漁船の遭難から港関係者への聞き込みと研究室による科学的調査から
殴り書きの
だが、よく考えれば南方棲戦姫との戦いが終わってからここ数カ月、ほぼ休日返上で執務に出動にと働かされ続けている俺はむしろ彼らに向かって「ざまぁ見ろ」とでも言ってやるべきだっただろうか、とこのビッグサイズの秋刀魚をめぐる騒動の発端となった出来事を思い返す。
「主任、そんな小学生が使ってそうな小さい実験セットで分かるもんなんですか?」
「まぁ、これだけ完全な実物があれば同定は簡単だよ、それに船内でも検査をしてるからもう少し時間を掛ければこの変異した秋刀魚の事がもっと詳しく分かるよ」
吹雪と不知火が一匹一匹が80kg以上あると言う魚体を軽い荷物の様に扱い研究者の作業を手助けをしている様子を背に振り返った主任は試験管を手に妙に生き生きとしている。
「おお、やっぱ科学って凄いんですね」
そして、子供みたいな質問をしておきながらその返事に対して思考を完全に放棄した頭の悪いセリフを吐いている義男は目の前の研究者がどれほどの大物だったのかを分かっているのか。
そうだ。
今回の事で最も驚かされたのはこの任務へ同行したいと研究室がかなり強引に割り込みをかけその上にその無茶の交換条件として鎮守府の
今、巨大秋刀魚を囲み、その正体に解明のメスを入れて興奮している研究者達の代表である火野原主任は財団に対してかなり顔が利くらしく大塔会長とも個人的に交友があるらしい。
よく考えれば彼は艦娘の能力を支える霊的技術の先駆者であった刀堂博士の教えにどっぷり浸かった生徒の一人である。
俺と義男が着任する原因を作った前任指揮官達と前基地司令官も民間人である筈の彼に対しては触らぬ神にたたり無しとでも言う様に研究棟に軟禁するだけに止めていたし、検証実験と言う名目で艦娘を助けようとしていた研究室の行動に制限は付けても彼らの要請を門前払いで握り潰す事はしなかった。
そして、艦娘の霊核を世界中の海から回収すると言う困難な任務を勤め上げただけでなく老朽した船体を押して深海棲艦との戦いで何度も俺達を手助けしてくれた【綿津見】、その今年の春に五十年と言う長い船歴を終えた名船の改良型後継船である新造船。
【
「ところで主任、一つ気になる事があるんですけど」
と言うのに、そんな凄まじいコネを持っていた人物へと今までと変わらない態度で気軽に話しかけられる義男のコミュニケーション力に俺はもう脱帽する他ない。
「なんだい、中村君?」
「こいつ・・・食えるんですかね?」
・・・こいつ何言ってんだ?
「そうだねぇ・・・構造は秋刀魚そのものだけど細胞内に溜め込まれたマナは明らかにまともな生物とは言えないレベルだ、今のところ調べた限りでは毒物の反応は無いけれど・・・人体に害が無いとは今の段階では保証できないなぁ」
「ほう、毒があるわけじゃないなら、・・・つまり、マナに耐性がある人間なら食えるって事で良いですか?」
食える、その義男が言った言葉に否応なく俺の顔は引き攣り眺めていた巨大魚の死んだ黒目と何故か目が合った様な錯覚を感じる。
「・・・ぉおっ! 確かにその通りだ! 問題なのはマナ粒子による影響だけ、むしろ耐性があれば問題など・・・いや、そうか! やはり木村特務三佐の急激なマナ適正の上昇は遭難時に食べていたと言う魚類が原因なんじゃないかなっ!」
「主任待ってください! 摂取した食物のマナが生物に影響を与える可能性は低いと言うデータはこの前出たばかりじゃないですか!」
「そうです、大体、木村三佐の場合は限定海域内の力場圧力が有力であると仮説をまとめたばかりで・・・」
「いや、細胞内に高いレベルのマナを内包している有機物では条件が・・・」
興奮した火野原主任の声で途端に調査の手を止めて仕事そっちのけに輪になってガヤガヤと議論を始めた研究者達。
その突発性討論会開始の原因を作ったクセに科学者の輪を気にも留めず顎に手を当てて屈む様に甲板に寝かされた2m弱の秋刀魚を眺めている義男の顔を見た俺の背を嫌な予感がザワリと撫でた。
「おい、義男ちょっとこっち来い」
「ん、なんだ、って引っ張んなよ、なんだってんだ」
長年の付き合いでコイツが良からぬ事を始める時には決まって勘が働くようになったのは俺にとって進歩なのだろうか、としょうもない事を考えつつ義男の襟を掴んでその場から少し離れる。
俺達の動きに気付いたらしい時雨が立ち上がりこちらへとついて来ようとしたので大した事ではないからそこでちょっと待っていてくれと手で制した。
「義男お前、・・・何考えてる」
「何って、なぁ~、そっちこそ考えて見ろ、あれ秋刀魚だぞ?」
「だからなんだ・・・」
ついさっき甲板に出る為に使った船内の入り口がある壁際、日陰になったそこで立ち止まり改めて義男に問いかければ悪びれた様子も無くニヤケ面で握った手に親指を立てて一時間ほど前にイムヤとゴーヤが捕まえた数匹の巨大秋刀魚を肩越しに指さす。
「艦娘が捕まえた秋刀魚って言ったら、そりゃ、もう・・・食うしかないじゃねえか」
その返事自体はなんとなく予想が出来ていたが、まさか事もなげに何の躊躇いも無く言い放つとは思っていなかった俺は額に手を当ててやたら天気の良い秋の青空を仰いだ。
え? 今日は何の用でここに来たのって?
カフェまで来て話してたのに随分と今更な事聞くんだね。
いやいや、怒ってないさ。
ちょっと私の仕事の事で良介さ・・・こほん。
田中少将と話をするんだよ。
へ、私の仕事? あれ、言ってなかった?
いや、大した事じゃないよ。
旅行プランとかイベント事の企画屋みたいものさ。
ほら、あそこのポスター、今度横須賀でやる秋祭りにも私の会社が関わってるんだよ。
うん、そう言うの。