艦これ、始まるよ。   作:マサンナナイ

11 / 153
君達の作戦の失敗は深海棲艦による本土攻撃の開始を意味する。

必ず深海棲艦に囚われている艦娘を助け出し生還してもらいたい。




第十一話

2014年8月某日。

 日本から見て西南にある海原で複数の護衛艦が巨大なクレーンを搭載した特殊な海洋調査船を守るために輪形陣を形作っている。

 

「海原を巨大な戦闘艦が征く、壮観だな・・・初めて自分がちゃんと自衛官をやってるんだと実感できたよ」

「戦いを挑む相手の規模を考えると蚤と象並の格差がある事を除けば素直に感動できるんだけどなぁ」

 

 今回の作戦の為だけに母港である舞鶴港からはるばる太平洋まで出てきたとある財団が所有する海洋調査船【綿津見(ワタツミ)】の甲板から中村と田中は見える灰色の最新鋭装備を搭載した護衛艦を眺める。

 

「薄い装甲に貧弱な小口径の単装砲、極めつけに主武装であるミサイルとか言う墳進弾は数十発撃てば国家予算をひっ迫するとか完全に欠陥軍艦じゃない。少しは私達を見習いなさいよ」

「陽炎、言葉を飾れとは言わんが選ぶぐらいはしろっ! と言うか艦娘と比べたら大抵の兵器が金食い虫になるだろ」

 

 甲板の通気口らしい場所に腰掛けて猫背で膝に肘を突いた少女が呆れの混じった言葉を漏らし、潮風に揺れるくすんだオレンジ色のツインテールに向かって振り返った中村は周りをキョロキョロと見回してから陽炎型駆逐艦の長女に注意する。

 白い半袖シャツの上にノースリーブの灰色ベスト、白い手袋と襟元の新緑のリボンタイに髪を飾る黄色いリボンが色彩豊かで髪色とも相まって彼女自身の活動的な性格を如実に表していた。

 

「十分な衣食住とちょっとした娯楽を保証すれば戦闘艦並の戦力になる存在って言うのも大概反則臭いけどな」

「と言うかお前は木村と一緒に待機中だろ」

「あのさー、やっぱり突入艦隊、私と時津風と交代しちゃダメかな?」

 

 苦笑して甲板の手すりにもたれ掛かり田中が振り返ると少し媚びるような色をした上目遣いで陽炎が鎮守府から出発する前にさんざん二人の自衛官を悩ませた問題を蒸し返そうとする。

 

「君がそれを言い出したら他の子達がまた騒ぐことになるよ。作戦実行直前でまた編成会議と言う名前の殴り合いを始めるなんて無駄は出来ないな」

「でも、あれは個人の能力を計るための演習であって勝敗は編成に直接影響しないって言ってたじゃない。だったら私が突入艦隊に入っても問題無いって事でしょ?」

「勝敗は関係無いとは言ったが目安には使うとも言ったぞ。と言うかまさかお前また木村とケンカしてんのか?」

 

 中村の指摘に陽炎は顔を背けて拗ねるように唇を尖らせ、口の中でもごもごと小さく呟く。

 

「そう言うわけじゃないけどぉ・・・妹が決戦艦隊で私が艦隊護衛って言うのは陽炎型のネームシップとして、むぅぅ」

 

 太平洋で存在を確認された今までになく巨大な深海棲艦の出現、それによって鎮守府に所属している人員は全て臨戦態勢を整え、事実上の艦娘達の最高司令官である田中と中村は集めた情報の前で額を突き合わせて彼らが考えうる限り最善の作戦を練り上げた。

 だが、その作戦を艦娘達に発表した直後に彼らの予想外の反応を彼女達が起こした。

 

 なんでこの私が留守番艦隊なの?

 私の方がその子達より早いから私を突入部隊に入れるべき!

 むしろ皆一緒に行けばいいんじゃない?

 とにかくアタシがいっちば~んなんだから!

 

 女三人寄れば姦しいとはよく言ったもので戦闘艦を基に産まれた為か全員が全員、可憐な見た目を裏切る好戦的な性格を持つ艦娘達は自分こそが今回の作戦の主役である巨大深海棲艦への突入艦隊に入るべきだと騒ぎ始めた。

 人数が多い事に越したことはないのは作戦立案者である田中も中村も同意見であるが、いかんせん艦娘に本来の実力を発揮させる指揮官は未だに彼ら二人を含めて六人しかいない。

 さらにいくら前代未聞の超巨大深海棲艦が相手であるとは言え本土の防衛の為に最低でも三人とその指揮下の艦娘がいつでも出動できるように鎮守府で待機しなければならない事になった。

 

 中村と田中、そして、二人の後輩である木村隆一尉の三人だけがこの作戦に参加できる艦娘司令官だった。

 

「むしろ俺が木村と代わって欲しいぐらいだ・・・何が悲しくて深海棲艦の巣に一艦隊で突入しなきゃならないんだよ」

「お前が一番多くの艦娘を指揮下におけるからだって言ったろ。俺が五人、木村君が三人、で義男が六人、限られた人数しか参加できない作戦である以上は最大戦力を運用できる指揮官の方が突入艦隊の生存率は格段に高くなる」

「・・・お前、実は指揮下における人数減らして報告してるって事ないよな?」

 

 陽炎との会話で頭の端っこに棚上げしていた嫌な情報を思い出した中村は肺の中身を全て吐き出すように深くため息を吐いて恨みがましい視線を手すりに持たれている田中へと向けた。

 

「増やせるなら今すぐにでも増やしたいぐらいだよ。お前が限定海域内にいる艦娘を保護するまで俺たちは敵がうじゃうじゃ湧いて来る海域でこの艦隊を守りながら持久戦をしないといけないんだからな・・・」

「はぁ・・・なら、あのアストラルテザーとか言うのちゃんと使えるんだろうな? あれが俺達突入艦隊にとって文字通り命綱になるんだぞ」

 

 綿津見の後部甲板にクレーンで固定された巨大な重機、忙しなく作業員が最終調整を続けているそれこそが今回の作戦において最も重要な役割を果たすことになる。

 

「理論的にも技術的にも問題無いと聞いている・・・と言うか、主任達が改めて設計を見直した時に言っていたがあれはもともと艦娘に装備させるために造られたような構造をしていたらしい」

「・・・は? なんだそれ?」

「内部の霊的エネルギーを制御するための回路や構造が艦娘の艤装に使われているモノとほとんど同じ仕組みをしていたんだよ。おかげで接続部や外装をちょっと手直ししただけで問題無く運用できるそうだ」

 

 艦娘が造られるよりも前に艦娘が問題無く使える装備が既に造られていたと言う情報に中村は困惑に顔を歪ませて田中を見るが彼は軽く肩を竦めただけでこれ以上は特に何も言う事は無いと態度で示す。

 これの応用次第では前世で見たゲームの中の艦娘のように武装の増強も可能になるだろうと予想する事は技術的には門外漢である中村にでも察することが出来た。

 

「なんか最近の俺達、味方のはずの連中に後出しジャンケンを仕掛けられてるような気がするんだが・・・」

「あれって私達の霊核を海の底から引き上げる時に使ったって言う回収装置だっけ、それを艦娘用に改造するだけじゃなく目覚めたばかりの長門さんに使わせようなんて司令達も無茶な事考えるわね」

 

 スペックの上では戦艦大和と武蔵を二隻同時に引き上げられると言う冗談みたいな強度を持った特殊ワイヤーにマナの伝達を補助する機構が元から組み込まれていたことで綿津見と共に舞鶴の端っこで潮風に晒されていたサルベージユニットは艦娘の艤装に接続して増設する形で運用が可能となっていた。

 

「ほぉ、どうやらこの長門の実力を疑われているようだ。まぁ、今の今まで揺り籠で眠りこけていたのだから無理も無い話だがな」

 

 問題だったのは使用する霊的エネルギーの供給元だったが、それすらも作戦会議が始まる直前に目覚めた数少ない戦艦型艦娘によって解決する。

 170cm半ばある中村達よりも長身で八頭身のモデル体型、そして、ステージを行くモデルのように背筋を伸ばした悠々とした歩き方なのに何故かノシノシと擬音が聞こえてくる迫力を持って今作戦の要が中村達の前に姿を現した。

 

「ひゃっ!? いや、そんな、長門さんの力を疑ってるわけじゃないですよ! その何て言うかですね・・・えっと」

 

 威風堂々と言う言葉を体現した態度と女性としてはかなり筋肉質である事を除けば、ファッションモデルのような長い脚と長身に腰まで届く漆黒の艶髪、凹凸のメリハリがある豊かな胸と括れた腰は非常に魅力的である。

 なのにあまりにも気迫に満ちた男勝りな態度が長門型戦艦を基に産まれた彼女の女性的魅力を皆殺しにして戦士としての威厳が凛とした顔立ちを際立たせていた。

 その為か臍だしタンクトップに股下10cmのミニスカートという妙に露出度が高い服装をしている長門を正面から見ている中村と田中は全くと言って良いほどエロスを感じなかった。

 

「敵地に囚われ顔も分からぬ姉妹の声に呼ばれ、立たねばならぬと調子付いた身ではあるが現代戦では素人であると私自身も理解しているつもりだ。陽炎、作戦行動中の艦隊護衛はお前の力を頼りにさせてもらうぞ!」

「は、はいっ! 長門さんっ! 任せてください!」

 

 田中と中村の説得では艦隊編成に納得しなかった駆逐艦娘はかつてビッグ7と呼ばれた戦艦からの激励に跳ねるように立ち上がりびしっと背筋を伸ばして下手な自衛官よりも形の良い敬礼をする。

 陽炎に答礼をしている戦艦娘の様子にもう自分達より目の前の長門が指揮官をやった方が簡単に話が進むんじゃないかと思いそうになった中村は意味も無く空を仰ぎ見た。

 

「中村少佐、綿津見の船長から後一時間ほどで作戦海域に入るらしいと聞いた。貴方の艦隊も戦闘待機するから集合すると言っていたぞ」

「はぁぁ・・・観念するしかないか。・・・あとな、しつこいようだけど俺は三佐だ」

「うむ、艦隊の命を預かる指揮官として責任を感じるのは無理のない話だが、部下の前では立場相応の態度を心がけて欲しいものだな」

 

 被っていた帽子を取って軽く苛立たし気に自分の髪を掻き混ぜた中村の態度に長門は小さく眉を顰め、そんな彼女の諫言に敵本拠地への突入部隊の指揮官となってしまった男は気の抜けた敬礼だけを返してその横を通り過ぎる。

 

「義男、無理に敵を倒す必要はない。俺たちの主目的は囚われている艦娘の救出だからな?」

「まかせろ、戦わずに逃げ回るのは得意だ」

 

 背中にかけられた田中の声に振り返らずに返事をした中村は水密ドアを開けて刀堂博士が設計開発に携わった海洋調査船の中へと入っていった。

 

「ふむっ、現代の日本国軍人とはあのような昼行燈ばかりなのか?」

「やる時はやるけど追い詰められないと実力を出し渋るって意味ではそうかもしれないですね。すみません長門さん」

 

 そして、耳に痛い話を始めた艦娘の間に取り残されてしまった田中は変に恰好を付け無いで自分も何か理由を用意して相棒と一緒に船内に逃げればよかったと後悔した。

 

「はははっ、構わん。それと陽炎、私達には艦種の違いだけで階級に差があるわけでもないいつも通りに喋ると良い。さて田中少佐、今回の作戦ではこの長門、貴官の指揮に従う事になるわけだが・・・」

「あっ、ちょっと、中村三佐も言ってましたけどね。我々は旧軍風の呼び方されるとちょっと立場的に不味いんですよ」

「ふむ? 呼び方一つ程度でか、面倒な時代になったものだな」

 

 




なお、編成は軽巡と駆逐と潜水艦のみから六隻で行ってもらう。


中村「ふざけんな! 運営絶対に許さねぇっ!!」









2019・2・21
半年近く気付かなかった致命的なミスを修正、修正箇所は諸事情により伏せます。
本当になんでこんな誤字が残っていたのか自分でも信じられんorz。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。