所詮は主人公達に倒されるだけの敵に余計なバックボーンなんていらないと思わない?
だって、そんな悪役に同情出来ちゃう様なエピソードとかがあったらさぁ。
いざ倒しちゃった時に後味が悪くなるでしょ?
油の様なぬめりを感じる玉虫色と硬質な瑠璃色の表面を揺らめかせ彷徨う昏い光を宿す奇妙な形の泡がゆったりとした動きで深海の流れに従い海底を漂う。
地球規模、大海原が内包する広大さと奥深さから見ればほんの一滴ともいえる程に小さなひょうたん型の気泡。
だが人の尺度で測ったならば数十mの体積を不安定に捩じりくねらせる奇妙な光を宿した巨大な気泡とでも言うべき人類の常識からは大きく外れたあり得ない現象が暗黒に満ちた重苦しい水圧の中に存在していた。
闇に満ちた深海から押し寄せる凄まじい水圧と巨人の腕の様に力強い海流に捻じられても、二つの楕円球が繋がった奇妙な気泡は暗い水底で弾ける事無く。
それどころか気泡に触れた海底の岩場がまるで巨大な舌に舐めとられたかの如く岩盤ごと抉り取られる。
そして、光も射さない海の底をぼんやりと照らしながら海流に乗って彷徨う巨大泡の内側、それぞれの直径が60m程度の歪な楕円の双球の外見と明らかに釣り合わない広さを持った箱庭に満ちたインクの様な黒色の海が叩きつける様な突風で無数の渦潮を作っていた。
見えない槌の様な突風で激しさを増すその黒い海面を荒立てる幾つもの黒い渦潮の一つ、人間側から駆逐イ級と呼ばれる一匹の怪物が乱杭歯を打ち鳴らし野太い汽笛の音を上げながら渦に振り回されいる。
ミサイルの直撃にすら耐える黒鉄の装甲を押し潰しそうな程に強い水圧の中で助けを求める
不可視の障壁に使える力の全て消費し尽くした駆逐イ級は船体の隙間に入り込んだ海水をピューピューと水鉄砲の様に吹きつつ自分を嵐の海から助け出したてくれた
だが、下級な深海棲艦の緑に光る目が自分を抱き上げている相手の姿を捉えた瞬間に駆逐イ級はまるで物言わぬ彫像の様に身体と思惟を硬直させる。
そこに居たのはまだこの世界の人類側には存在を認識されていない姫級深海棲艦の一体であり、120m近い船体の駆逐艦を小さな荷物の様に小脇に抱える程に巨大な
イ級にとって自らが仕えるべき主人として本能に組み込まれた相手であり、彼女から見れば
全ての深海棲艦がその行動理念の基礎としている
しかし、そんな潔く覚悟を完了させている従僕とは裏腹に些末事など知った事ではない主人は小脇のイ級をぬいぐるみか何かの様に抱えながら荒れ狂う黒い海へと遠い視線を向けて眉を顰めていた。
美の女神像に命を吹き込んだ様な美貌と
荒れ狂う波に巻き起こされた重い湿気を伴う強風が長い脚まで届く黒髪を弄ぶようにはためかせ、生物が生存するにはあまりにも厳しい環境の中だと言うのに泰然と黒海に立つ戦艦に分類される深海棲艦。
戦艦棲姫は額に生える二本の短角と顔の真ん中を通る様に垂れ下がる一房の前髪の下で鋭くした瞳から赤い灯を漏らしていた。
顰められた表情の見つめる先にあるのは彼女にとって自分が支配する領域の端であり、本来ならば
だが、その戦艦棲姫が見つめる先には彼女が海底のさらに奥深くから産まれ出てから当然にあるものだと考えてきた自らの霊力で編み上げられた水壁は無く、海面に口を開くトンネルの様に半円の穴が存在していた。
さらには彼女が支配する海域の中に嵐を作り出している元凶ともいえる巨大な穴の向こう側には戦艦棲姫と同じ様に顔を顰めた深海棲艦が豊かな白髪を風に舞わせながら腕を組んで仁王立ちしている。
戦艦棲姫から見れば自らほぼ同じ身長ではあるが髪の色は対照的に真っ白。
肌を大きく露出し胸元から股下を隠す程度の薄絹を身に着けた戦艦に対し襟を黒い旗の様にはためかせる布地の厚みだけでなく手足を覆う黒鉄の飾りで肌が見えるのは顔と肩の一部程度と装束も真逆と言って良い
そんな相手の容姿とその内から感じる力の質と量を計った戦艦の姫は結論を出す。
奴は空母である。
しかも、よりにもよって自分と同じ
外へ遊びに出かけた下僕達が泡を食ったように領地へと引き返してきた直後に起こった空間を鳴動させる強烈な衝撃の後に始まった不愉快極まる大異変。
それからかれこれ数十時間、何度も太々しい顔で腕を組む空母の実力を疑い計ってみても変わらない結論と威嚇し合う様な睨み合いに辟易し戦艦棲姫は色の無い唇をわずかにへの字にした。
いい加減に退屈さを持て余した姫はさっき拾った
そうしている間も遠くに立つ空母の姫と睨らみ合う視線を微動だにせず戦艦の姫は変わらず顔を顰めたまま。
双方の背後には彼女達にとって配下である深海棲艦の
頭の左側に
姫の端的な
一時の手慰みであろうと主の戯れの相手となった
直後に
姫たる自分の領地に踏み込んでおきながら足元へと首を垂れ
しかし、あそこに立つ侵入者は艦種は違えど領主である自分と同じ階級を持った存在、
その証拠に相対している空母の姫の背後には自らの配下と比肩するだろう数と質を揃えた艦隊が列を成し、そして、
あの空母の姫の支配する領地と戦艦の姫たる自分の領地が何故そうなったのかさっぱり分からないがくっついてしまっただけでなく、異なる支配者が居る黒い海を繋ぐ穴が開いてしまった。
そういう意味では今の状況は相手側にとって自分達こそが侵入者と言えなくも無い、と頭の痛くなるトラブルの内容を再確認し終えた戦艦棲姫は眉間のシワを深める。
領地同士の接触の影響で海が時化が可愛く思える程の荒れ模様となった為か海に沈んでしまった
苛立ちを覚える程の手間をかけたと言うのにお気に入りの寝床の回収は失敗し、今も掻き混ぜられている箱庭の海流の中を彷徨い、回収に向かわせた
戦艦棲姫にとって今の時点ですら少なくない不利益を自分達は被っており他にも面倒事は時間が経つ程に増えていくのは目に見えている。
そんな状態でこれらの問題の原因と思われる相手へとこちらから思惟を送れば間違いなく従僕に自分達の主が余所者にへりくだったと動揺させるだけでなくあの空母の姫はこちらを
深海棲艦の姫たる者としての本能が
とは言え、姫級故に産まれ持った支配者としてのプライドは守りたいものの、戦艦棲姫は背後で行儀良く並ぶ
迂闊な行動は異なる領地に住む
おまけに領地に巡る
仮に相手が同じ姫の格を持っていても明らかに自分より
次の瞬間、ボッと火を吹く様に黒い影がネグリジェの大きく開いた白い滑らかな背から溢れ出し、影の中から勢い良く突き出された巨大な腕が海面をひっかく様に爪を立てたと同時に黒い薄絹が千切れ飛び、内側の膨張で弾けた布地が昏い粒子に変わり。
続けて現われた黒鉄の巨大連装砲を備えた筋骨隆々の体躯が太い筋肉を漲らせて戦艦棲姫の艶めかしい身体を抱く様に包み込む。
船首像の様に巨大な胸板の真ん中に収まった美女の頭上で鉄球の様な巨頭が玉虫色の天井へと牙の並んだ大口を開いて咆哮を上げた。
偉大な姫の艤装が始動する雄姿に戦艦棲姫の背後に控えていた深海棲艦達が次々に主を称え感動を表現する
同じ
その逞しい背筋に施された無数の火砲、振り上げられた両腕の握り拳の威容、見るからに巨大な胸板が放つ威圧感。
その全てが戦艦棲姫の存在をさらに大きく見せ、笑みを浮かべた戦艦は
だがしかし、彼女の思惑は直後に横と縦に広がった空母の手足を飾る黒鋼によって瓦解する事となった。
金属を斬る様な鋭い音が無数に重なり展開した黒色の手甲と脚甲の内側と繋がった両手足のケーブルから注がれる霊力によって質量を急激に増大させる黒鉄が噛み合い合体して巨大かつ鋭角な船首を形成。
そして、鋭い鋸の刃を思わせる歯を持った巨大な顎が210mオーバーの身長を持つ美女を軽々と乗せ、黒いリボンが結われた
戦艦棲姫が変身に要したとほぼ同じ時間で海上に無数の対空砲と大量の艦載機を格納庫にひしめかせる空母棲姫の艤装が戦闘形態への変形を完了させた。
通常時でさえ普通種の深海棲艦を倍する巨体を持っているのにお互い艤装の展開によって三倍近くまで巨大化した二隻の姫級が赤い灯火を揺らめかせる視線を交差させ。
二つの限定海域の接触によって発生する突風が黒い海同士を繋ぐ大穴を風鳴と共に吹き抜ける。
さらにややこしくなった事態を前に戦艦棲姫は高慢な笑みを強張らせかけながらも余裕そうな態度を取り繕い、しかし、今までに経験が無いタイプの問題にただただ戸惑う。
姫の雄姿に感動している従僕達に対する面子を保つ為か毅然とした表情で向かい合う戦艦と空母、奇しくもその二隻の姫級は同じタイミングで同じ
よもや階級や力の質と量だけでなく艤装の大きさまで同じだったとは、と。
今度は不機嫌さではなく動揺によって眉間にシワが寄りかけた戦艦棲姫はふと艤装の展開によってより鮮明になった
ふと小首を傾げ巨体を捩る様に彼女が視線を背後に整列する艦隊へ向けると自軍の空母の取り纏めを任せている黄色い瞳のヲ級が興奮の色が見える表情と共にその視線を風鳴りの向こうにいる空母棲姫へと向けていた。
ほっておけば求愛でも始めかねない程の
その勢いのまま突き出された巨大な
隊列を乱す程ではなくすぐに
この問題が片付いたら改めて配下の躾をし直さねばと頭痛の種がまた増えた戦艦の姫が少しの目を離していた領地の境目に視線を戻せば何故か戦艦ル級フラッグシップらしい個体が巨大な顎の上から動力ケーブルを撓らせ振り抜かれた白く滑らかな素足によって頭から海面に叩き込まれている。
そして、こちらを振り向いた大顎の上の空母棲姫はやはり戦艦棲姫へと思惟を掛けてくる様子はなかったがその表情は若干の精神的な疲れが感じ取れるモノであり。
姫としての体裁は保ちたいがこのまま何の得にもならない問題が増え続けるぐらいならここら辺で妥協してやるべきか、と。
戦艦棲姫、空母棲姫、両者は砲戦と航空戦の違いはあれどその得意分野において右に出る者はないと言う本人たちの自負通り、深海棲艦の上位者として相応しい強大な力を持っている。
そして、一言たりとも意思疎通を行っておらず相手が実際に戦う姿を見たわけでは無いが、仮に戦う事になればお互いとその従僕を含め無傷で済む事はないと分かる程度には相手が隠し持つ実力を察する冷静さと洞察力も持ち合わせていた。
勝てないわけでは無いが戦っても何の実りも利益も無い、戦略的にも戦術的にも意味の無い同族同士による争いなど無駄を嫌う本能を
ただ艦隊の長として侮られるのは我慢がならない、せめて姫として相応しい堂々とした
その直後、当ても無く海流に流されるまま海底を漂っていた二つの箱庭が闇に満ちた深海の流れを遮る様に存在していた巨大な何かへと触れ、泥に沈み込む様に巨大なひょうたん型の気泡が溶けるように海底から消える。
そして、不意を打つ様な前触れなく巨大な生き物に身体ごと丸呑みにされた様な未知の感覚に唖然とした二隻の姫級深海棲艦は信じがたい光景を目の当たりにしてその場に立ち尽くした。
目の前にあったはずの二つの海域を隔てていた玉虫色と瑠璃色の境目が針で突かれた泡の様に弾けて消え去り、ついさっきまで異なる姫が支配する領域が内包する霊力のぶつかり合いで荒れ狂っていた風と波が更に大きな力で塗り潰される様に凪いでいく。
呆気にとられたまま見上げた天井は姫級達が今まで見た事が無い程に高く広く、その澄み切った空色に染められた頂点で虹色に光り輝く宝石の様な照明があっと言う間に穏やかに平定された黒い海を見下ろす。
自らの領地の広さを把握し内にある全てを掌握出来なかった事など一度たりとも無かった姫達は自分の知覚を大きく超えた巨大すぎる領域に立ち尽くしお互いの様子を伺う様に視線を交わした。
だが二つの視線が交わったと同時に、あなた達は誰、と周りの空間そのものから問いかけられたと錯覚する程の凄まじい力と大きさを感じる
戦艦棲姫はすぐさま背中へ艤装を仕舞い込み、深海棲艦としての本能が命じるまま素肌を隠す衣を再構築する暇も惜しんで
そんな彼女と同じ様に空母棲姫もまた巨大な顎となっていた艤装を大慌てで縮め手足へと
そして、ついさっきまでお互いを相手に散々に渋っていた
瞬間、空間が歪み無造作に距離と言う概念が縮む様に彼女達はそれぞれの艦隊ごと引き寄せられ、海面に平伏する戦艦と空母の目の前に白くきらめく砂浜と水晶の木が生い茂る島が現われた。
虹色の太陽の下で光り輝く木々はおろか砂一粒までマナの結晶で作られた島、姫ですら圧倒される凄まじい光景を前に彼女達の後ろに侍っていた従僕達がそこに居るだけで損傷が癒え活力に満たされ始めた事に驚きと感動の
その直後にその中の数隻が過剰供給されたエネルギーに耐えられず悲鳴を上げた。
装甲の間から火を吹く船体をのたうち回らせ海水ですら消えない炎に飲み込まれ
どう贔屓目に見ても水晶の森の中から感じる力の胎動と眩暈がする程に広大な領地からその相手が自分を軽く上回る支配者であると本能的に理解させられた戦艦棲姫ではあるが、相手が何に怒っているのか分からないまでも
自分よりも上位であると明らかに分かる存在へと反乱とも取られかねない意思表示をする戦艦の姫に目を剥いて驚いた空母の姫は横目に見える自分の配下達が自爆寸前の船体へ必死に海水をかけて消火しようとしている姿に自分も隣の姫と同じ意志を見せる必要があると決意し顔を上げた。
怒ってなどいない、ただ加減が分からなかった、と。
もがき苦しむ同胞の助命を込めた
気付けば突然に始まった急速かつ大量な霊力の過剰供給が緩まり、海の上で焼け死にかけ海に倒れ込んだ普通種の深海棲艦達の船体が今度は慎重な程にゆっくりと癒されていく。
同胞が理不尽かつ無意味な処刑に晒されずに済んだ事は戦艦棲姫が決死の嘆願が叶ったとも言えるが、その思惟を発した黒髪の美貌は従者達の無事を確認する事も出来ず空間を飛び越えて目の前に現われた白いドレスを纏った深海棲艦の姿に釘付けにされる。
艶やかな黒から毛先に向かって白へと変わっていく滑らかな髪、長い前髪の揺れる額から頭の後ろへと弧を描き伸びた冠にも見える白く長い角。
その身に纏うドレス、白亜の真珠を糸にして織り上げた様な艶と煌めきはどのような攻撃ですら穢す事が出来ないであろう強靭な障壁であると深海棲艦達は一目で理解できた。
だが、戦艦棲姫達にとって未知の深海棲艦である彼女の身体には右腕が無く砂浜に向かうロングスカートの下には本来存在するはずの脚部や推進機関に類する物が無い。
そこにいる深海棲艦が自分達の上位者であるとこの広大な領域に飲み込まれた時点で戦艦棲姫も空母棲姫も頭では理解は出来ていたが、その世界を支配する女王の予想外過ぎる姿を直に見た二隻の姫級は思考を漂白された様に呆気にとられた表情をただただ晒す。
その身体は幾本もの水晶の大木が広げる
しかし、そんな建造途中と言う不完全な状態でありながら彼女はこの広大な領域の主人として空間そのものを望みのままに操作できてしまう支配者としてこれ以上ない程の能力を苦も無く使い。
領域への招かれざる侵入者を全員纏めて自らの元へと引き寄せ、さらには与える霊力の手加減を間違えたと言う他愛のない失敗で両軍合わせて180隻に達する大艦隊を全滅させかけた。
その事実を前にして戦艦と空母の姫は再び深海棲艦としての本能に従い虹色の光を浴びて煌めく水晶の島へ向かって平伏する。
この方こそは
自分達の領地ごとその支配下へと飲み込んだ絶対者へ戦艦と空母はお互い競い合う様に最大の敬意を込めた
最高に後味の悪い話を見せつけてやる!!
ついてこれない読者は置いていくぜ!!
ヒィッヒャッハー!!