艦これ、始まるよ。   作:マサンナナイ

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どんなに絶望的だろうと諦めなければきっと希望はやって来るだって?


良い言葉だ。


感動的だな。



第十二話

 真っ暗闇の中で島が沈み始めている事に阿賀野達が気付いたのは彼女が普段見張りに訪れる岬から見える浜辺が無くなっていた事からだった。

 そして、何が原因かは彼女達には分からなかったが、コールタールのように黒く澱んだ海面はジワジワとだが目に見える速さで足下へと迫ってきている事に嫌でも気付かされる。

 

「外からの通信が来たの! だから、私達は今から救助との合流地点まで移動しないといけないわ!」

 

 外から流れ着いた機械類を集め夕張が通信機の修理をしていると言う話はスクラップ置き場のような島の拠点にいる艦娘全員が知っていた。

 その彼女が言い放った言葉に身を寄せ合い不安に押しつぶされそうになっていた駆逐艦娘達が歓声を上げて仲間同士で喜びを分け合う様にはしゃいだ。

 拠点すら失いいつ暗闇に引きずり込まれるかもわからない暗黒の海に放り出される恐怖が溢れそうになるよりも早く告げられた希望が多くの艦娘の心を支える。

 

「では、霊核を一つのコンテナに集めて海に出る準備をしましょう。不要なものは出来るだけ減らして運ぶ糧食も最低限にしてください。・・・名取さんその子達の指示をお願いできますか?」

 

 夕張の言葉を引き継ぐように神通が手早く指示を飛ばし、助けが来る知らせを喜ぶ数人の駆逐艦娘に抱き付かれてオロオロしていた目元を包帯で巻いた軽巡洋艦娘へと声を掛ける。

 

「えっ、わ、私ですか・・・でも、私・・・目が」

「名取さん私達もお手伝いしますから一緒にがんばりましょう」

 

 大人しく内向的な性格をしている長良型軽巡の三女は神通からの指示に身を縮めて顔の上半分を隠している包帯を掻くように触れたがその手は横から伸びてきた若草色の長い三つ編みを揺らす駆逐艦娘の手に取られた。

 そして、生存している十数人の艦娘のほぼ全員が身体に何かしらの負傷や障害を持っているが彼女達は気丈に進むべき場所への準備を始める。

 

「夕張・・・ホントはさ、通信なんか来てないんでしょ?」

 

 その場から少し離れた場所で見ていた阿賀野は自分が使っているコンテナに向かう為に近付いてきたらしい夕張に声を潜めて問いかける。

 

「・・・そうでも言わないと、私達、もうどうにもならなくなっちゃうじゃないっ」

「そう、だね・・・ホントにどうしようもないね」

 

 一番丈夫そうで気密がしっかりしているコンテナに少女たちは大げさに声を上げ引き攣った笑顔を無理やり浮かべて仲間の霊核が入った瓶や非常食を運び始めている。

 わざわざ聞かなくともここにいるほぼ全ての仲間たちは夕張のどうしようもない嘘に気付き、それでも彼女の言葉に縋って沈み始めた島からの脱出を決心している事は明白だった。

 

「私も霊核と通信機運ぶから・・・阿賀野も妹ちゃん達連れて来なさいよ」

「・・・恨まれ役は辛いだけだよ、夕張」

 

 自分達が使っているコンテナへと歩いて行く夕張の背中に向かって阿賀野は掠れた呟きを漏らした。

 

「それでも誰かがやらねばならない事です。元より夕張さんだけに任せるつもりはありませんよ」

 

 少し騒がしくなり艦娘達が運ぶ霊核の灯りで少し明るくなった拠点を背に神通が阿賀野に歩み寄ってくる。

 

「阿賀野さんお願いがあります・・・あそこまでの先導を、私は他の子が逸れないように周囲の警戒につきます」

 

 深海棲艦が作ったらしい渦に飲まれて気付いた時には太陽の光すら届かない奇妙な海へと堕ちた阿賀野は自分よりも先に此処へ来ていた仲間達と合流してからこの海域からの脱出方法を調べる為に何度か有志を募って遠出をした事があった。

 

「うん、壁まで最短で行ける方向はちゃんと覚えてる。阿賀野があの子たちをあそこまで案内するよ」

 

 その結果は散々な結果で、敵に追い回されて逃げ出すだけを繰り返すならまだしも必死に仲間と肩を貸し合って辿り着いた黒い海の端にあったのは歪な岩壁が果てしなく広がる光景だけだった。

 その探索の中心となっていた重巡洋艦娘は満身創痍で拠点の島へと帰還した後、意気消沈する探索隊の全員が彼女から少し目を離していた間に姿を消した。

 

 阿賀野が気付いた時には姉妹艦の霊核が眠るコンテナの壁に石で引っ掻いたような字で謝罪の言葉が繰り返しが並び、その傍の地面にはさびたナイフと脱ぎ散らかされた紫色の衣類、そして、重巡洋艦であった妙高の霊核がぼんやりと青白く光りながら転がっていた。

 その残酷な結果を知る艦娘も探索で負った怪我の悪化や自害によって今では阿賀野と神通しか残っていないありさまとなっている。

 

「やだなぁ・・・あの子たちに恨まれちゃうの」

「私だって嫌ですよ、こんな役回りで果てるなんて・・・」

 

 責任を押し付けるように楽になった仲間達へと二人が呻くように愚痴を吐いたからと言って迫りくる水位の上昇は止まってくれるわけではないらしい。

 黒い海が小さな島を蝕むように迫る中で阿賀野は自分の妹たちや夕張が運ぶ通信機や機械類を運ぶ手伝いを始める。

 名取を中心に動いている駆逐艦娘達のいるコンテナは流れ着いた廃材で補強と浮きを付けられて浸水はしない程度のお粗末な船となり、足や聴覚視覚を失い自力で航行できない艦娘と物言わぬ山ほどの霊核がそれに乗り込んだ。

 全ての準備が終わった頃には陸地は見えなくなり拠点の周りは黒い海面が揺れる浅瀬となっており艦娘達はロープやコンテナそのものを掴んで真っ暗闇の海へと漕ぎ出す。

 

・・・

 

 この世界に神様がいるのなら酷く性格が悪い存在なのだと私は改めて理解する事になった。

 ただ真っ暗闇の眠りの中で朽ち果てるように死ぬのではなく、もっと苦しんで死ねと言っているのだから酷い以外の言葉が出てこない。

 浮きになるものを所狭しと取り付けた二つのコンテナを引っ張って沈んでいく島から離れた私達を待っていたのは普段は島の近くに現れない妖しい光を目に宿した複数の巨体だった。

 

「皆、光を漏らしちゃダメだよ・・・なるべくゆっくり静かにね・・・」

 

 羅針盤も無いのに艦娘となった私には普通の人間とは違い目印が無い状態でも方向を見失わない。

 そんな能力が備わっていたおかげで前に妙高さんと一緒に行った黒い海の端っこまでは迷わずに向かえそうだけど。

 阿賀野達がこんな場所に来ることになった原因である深海棲艦、夢の中で矢矧達が駆逐イ級や軽巡へ級と呼んでいたモノや他にも歪な形をした艦影が遠く近くまるで逃げた囚人を探し回る看守のようにノロノロと動き回っている為にその歩みは遅々として進すまない。

 

「大丈夫だから・・・」

 

 ふと耳を澄ませば雷のような音や大きな獣が唸るような音がはるか遠くから聞こえてくるようで、普段は騒がしく元気を分けてくれる駆逐艦の子達は運んでいるコンテナに抱き付くように身を縮めて風の唸りに表情を強張らせている。

 頼りになるのは先導する私の指先に灯した小さな光とこの暗闇に落ちる前に深海棲艦の攻撃で失明してしまったと言う名取ちゃんや怪我を負っている子達が乗っているコンテナから洩れる霊核の灯だけが私達の影を黒い海に揺らめかせていた。

 

「あと少しだから・・・」

 

 敵艦をやり過ごし、何度も針路を変え、狭いコンテナに乗せれる程度まで減った残り少ない保存食を分け合いながら目指す方向へと私は皆を連れて行く。

 

 何時間、何十時間経ったのだろう。

 

 凄く疲れたりお腹がすぐに空く事もあれば逆に何時まで経っても眠くならない事もある時間の流れがおかしくなっているこの奇妙な空間には気力と正気を削られる事が当たり前だったけれど今は不思議とあまり眠くならないしお腹も減らない。

 

「・・・行き止まりっぽい?」

 

 嗚呼・・・そして、私は仲間達をここまで連れて来てしまった。

 

 果てなく何処までも上と横に広がる巨大な黒くごつごつした岩肌の壁を見上げて金髪碧眼の駆逐艦娘、夕立ちゃんが顔を青くして微かに波打っている黒い海の上で立ち尽くした。

 ほとんどの艦娘が似たり寄ったりな表情を浮かべ、遠く近く聞こえてくる鈍い音に震えあがって姉妹で抱き合いながら岩場にへたり込んだ。

 その中には既に事情を察してコンテナに寄りかかり諦めに脱力した笑みを薄っすらと見せる子もいる。

 ドォンドォンと何かの鼓動のように遠く近く響く音、泣きわめくような事をする子はいなかったけれどもう不安と恐怖に心が折れてしまった私達は海の上に浮かぶだけの弱い生き物になり下がっていた。

 

「・・・応答を願います。お願いです。私たちは此処にいますっ・・・」

 

 コンテナの中で夕張が結局直せなかった通信機のマイクへとうわ言を繰り返すように名取が呟いている音だけが妙に大きく耳に届いたけれどもう私の心はその女々しさに苛立ちすら感じる事を放棄してしまったらしい。

 不意に発砲音と黒い波が私達のいる壁際に押し寄せ、悲鳴を上げた仲間達がコンテナや岩場にしがみ付いて海に流されないように飲まれないように耐える。

 

「・・・あぁ、見つかっちゃったんだ」

 

 いや、違うかな。わざと見つけていないフリをしてネズミの様に逃げ惑う私達を揶揄って遊んでいたのだろう。

 

 遠く見える場所から小さな影にしか見えない深海棲艦の赤や緑に光る眼だけは暗闇だからかギョロギョロ動かしている様子がよくわかり、その口や身体から生えた大砲が私達のいる場所を狙っている事は簡単に想像できた。

 もはや此処まで、むしろ私は此処までよくぞ耐えたと自らの精神力を大袈裟に褒め称えながら最後の気力を振り絞り海面に立ち上がる。

 

「何処に行くんですっ! 阿賀野さん!?」

「・・・私がここから離れて精一杯光れば、ちょっとだけでも皆の時間が稼げるでしょ・・・?」

 

 コンテナや仲間達から離れるように脚を動かし始めた私の動きに気付いた神通さんが血相を変えて声を上げるけれど、私は振り返らずに迫りくる敵へと向かう。

 

 囮役は艦娘として目覚めてから嫌と言う程やったおかげで慣れっこだから。

 

 連続する発砲音の後に振ってきた砲弾は私達とは随分と離れた場所に落ちて水柱を高く上げ、弄ぶ意志が透けて見える砲弾が落ちる度にうねる大波が足を引っかけるように絡んで私は何度も無様に転げては立ち上る。

 

 もう最後だからという諦めの感情と最期まで戦えと言う艦娘としての本能に身体を突き動かされ、ワザと照準をずらして慌てふためく私達を弄んでいる事が分かる性格の悪い連中への怒りを漲らせて身体全体へと光を広げていく。

 

「死んだって負けてやるもんかっ! 阿賀野型は最新鋭でっ! 次世代水雷戦隊の旗艦でっ!! 私はお姉ちゃんなんだからぁっ!!」

 

 もう恥も外聞も関係なく感情のままに喚き散らして体そのものを探照灯に変えるぐらいの意気で光と力を漲らせる。

 

「そうですね、私も華の二水戦を預かっていた旗艦として、川内型として恥ずかしい真似は出来ません」

「素敵なパーティ始めるっぽい? 夕立も、やるよっ」

 

 泣き喚いていた私の背中にトンッと優しく手が添えられ振り向いたそこには私と同じように身体を輝かせた神通さんや夕立ちゃん達が立って苦しそうに恐怖を押し殺して微笑んでくれていた。

 ドォンドォンと遠く近く砲撃の音が近づく、足下の波が衝撃で揺れビシッピシッと背後の壁が異音と共に欠片を振り撒き無数の波紋が黒い海面にできては消える。

 

「此処にいますっ! 私たちはここにいます!! 助けてくださいっ!!」

 

 目が見えなくても動けなくても、少しでも助けになろうとしているのだろうか、必死にコンテナの中で叫ぶ名取ちゃんの声が此処まで聞こえてくる。

 

 気付けば戦えない仲間が乗っているコンテナを半円形に囲むようにぽつぽつと光を身体に宿して立ち上がる仲間達の姿が見えた。

 

 皆も私と同じように深海棲艦なんかに負けたくないと必死に戦っている事が何故か嬉しくて此処に落ちてから不安や恐怖と仲間を失っていく悲しみでもう枯れてしまったと思っていた涙が止め処なく頬を濡らしていく。

 どんどん近くへと降ってくる敵の砲弾の水柱や波に翻弄されながら私は神通さんと夕立ちゃんに身体を支えられ、支えながら最後の時まで身体の中の力を全てを使い尽くすように光る。

 

                         “神通、来るよ・・・”

            “夕立・・・諦めないで”

“大丈夫だよ・・・お姉ちゃん”

                            “しっかり・・・阿賀野姉っ”

 

 上も下も分からなくなるぐらいの大波に翻弄されてついには居なくなったはずの懐かしい声の幻聴まで聞こえ始めた私はふと遠く近く響いていた音が真後ろからも聞こえてくる事に気が付いた。

 でもそんなはずはない、だってここから先はもう行き止まりで、いくら頑張っても乗り越えられない黒い壁がそそり立っているんだから。

 

「そうですっ! ここに、私達は生きてますっ! だからっ助けてくださいぃっ!!」

 

 どれほど力を振り絞っていたのだろう?

 

 目と鼻の先に着弾した砲弾の水柱に飲まれ、波に押し戻されて抱き合っていた仲間と引き離され岩場に打ち付けられ、私はもう指先を光らせる程度の力しか残っていない身体を海面から突き出た岩に横たえた。

 

 少し遠くに見えるコンテナから聞こえてくる名取ちゃんの叫びが妙に耳にこびりつく。

 

 誰と話しているのだろう?

 

 あの通信機は結局は動かなかったと、直らなかったと夕張本人から聞いていた。

 

「な、とりちゃん・・・? みんな・・・」

 

 怠くて仕方ない身体を動かして見ればコンテナに張り付きながら手足を仄かに光らせている手先が器用な軽巡の友人が霊核が積まれた内部を覗き込みながら驚愕に顔を歪めている。

 

 何をそんなに驚いているのだろう?

 

 だけど光る力も使い果たした私は彼女達に何が起こっているのかと問いかける声を出す気力すら無かった。

 ガツンッガツンッと背後の堅牢な壁が震え細かい欠片がその下に倒れている私達の上に降り注ぎ、硬い岩の上で身体を丸めてぼんやりと岩場にコツンッコツンッと落ちてくるそれを見ていた私は不意に思う。

 

「・・・なんで、敵の砲撃は壁に当たって、無いのに・・・壁が揺れて、るの?」

 

『ガガッ、ビッジッ・・・ジジッれぇっ! 艦隊のアイドルッ!!』

 

 身体を起き上がらせることも忘れて呆然としていた私の耳にコンテナの方で上がった激昂したように叫ぶ男の人の声が飛び込む。

 

 あり得ない。

 ここにいるのは艦娘である私達と迫りくる深海棲艦だけのはずなのに。

 

 その直後、一際強くビリビリと肌を震わせる振動が駆け抜け、砕け散った壁の残骸が空中で散る雪のように細かく飛び、その発生源である10mほどだろうか、高い場所にある壁から私達が身体に宿していた光と同種だと分かる輝きが辺りに振り撒かれた。

 

『要救助者を確保し脱出までの時間を稼ぐっ! もうまともに戦闘できるのはお前しかいないっ、凌いでくれ、那珂っ!』

 

《こう言うのは那珂ちゃんのキャラじゃないんっ、だけどねぇっ!》

 

 バキバキと外側から伸びてきた巨大な手が私達を閉じ込めていた壁を引き裂くように砕き、黒鉄の脚甲に包まれた革靴が穴を広げるように黒い壁を蹴散らし黒い岩肌を踏み割る。

 

《皆、遅くなってごめん・・・でも、助けに来たよぉ!!

 

 見上げるほどの巨体を持った女の子、オレンジ色のセーラー服に焦げ茶色のスカート、片方だけ解けてしまっているお団子頭の下に覗く顔立ち。

 所々破れた服装も煤に汚れた顔も大げさに張り上げた声も神通さんと似通っている女の子は傷だらけの姿で私達の前に現れた。

 

「ぁ、あぁ・・・ぅっううっ!」

 

 もう、赤ん坊のような鳴き声で呻く事しかできない。

 前が見えないぐらい涙で水浸しになった視界の先にあるモノが現実なのか私にはもう分からない。

 

 助けに来てくれたと言うビルディングみたいに大きな身体の女の子はちょっと見ただけでも分かるぐらいに傷つき、両手の腕部に並ぶ単装砲は大部分がひしゃげて中には原型が無くなるほど壊れている。

 

 ただそんな状態になってまで助けが来てくれた事が、私達が外の世界に見捨てられたわけじゃなかった事が分かった事がひたすら嬉しかった。

 

「あ、阿賀野さんっ! 神通さんっ! ホントに、ホントに助けが来てくれたっぽいぃ!!」

 

 すぐ近くの岩の上でへたり込んでいた夕立ちゃんが顔いっぱいに笑顔を浮かべて叫ぶように歓声を上げ、それを聞いた全員が壁の向こうからこちら側の海へと着水した那珂ちゃんへと視線を集中させる。

 

『聞こえるか! もうすぐ迎えが来る、それまで俺達が君達を守るために敵の攻撃を防ぐ。その間に一か所に全員で集まってくれ! お互いここで逸れたら後がないぞ!』

 

「は、はいっ! 皆さんっこっちに! 集まってください、動けない子に手を貸してあげてぇっ!」

 

 通信機の向こう側から聞こえる男の人の叫び声に従って名取ちゃんが周りのみんなへと届ける為に今までにない大きな声を上げた。

 さっきまで全力で光を放っていた仲間達が疲労の滲む足を動かして必死に手をつなぎ合い肩を貸し合って通信機が積まれたコンテナの周りへと集まっていく。

 私も何とか手を岩に突いて起き上がろうとしたけれど完全に力を使い果たした腕は力なく震えるだけでまともに動いてくれそうも無かった。

 

「阿賀野さんっしっかりっ! 手をこっちにっ!」

「神通さんは夕立が連れてくっぽい! 春雨も急いで!」

 

 慌ただしく駆け寄ってきた白露型の姉妹が私や近くで倒れていた神通さんの身体を支えて暴れるように波打つ海面を頼りない足取りで進み皆が集まっているコンテナまで運んでくれる。

 疲労感による怠さと眠気に襲われ始めた私が何とか首を動かして私達を助けに来てくれた神通さんの妹へと視線を向けると、その先で深海棲艦が撃った禍々しく燃える砲弾がいつの間にか那珂ちゃんの片手に握られていた巨大でキラキラと輝く短刀で切り払われて砕けて消えた。

 

「・・・あぁ、なんだ・・・私達が見ていた夢は、夢じゃなかったんだね・・・」

 

 コンテナまで辿り着いた春雨ちゃんの手から私の身体が夕張の手で霊核の光で満ちた内部へと引っ張り込まれて寝かせて貰ったところで瞼が勝手に閉じ意識が夢の中へと引っ張られていった。

 

 願わくば、これが今際の際に見た幻想でありませんように・・・。

 




 
そう、諦めなければ希望はやって来る。

心の底からその通りだと言わせてもらおう。

反撃の狼煙はとっくの昔に上がっているのだからっ!
 
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