艦これ、始まるよ。   作:マサンナナイ

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これよりハワイ防衛作戦における第二海域(E-2)の攻略が開始されます。

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 【甲作戦】

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ふむ、もしかして選択権が君達にあるとでも思っていたのかね?
 


第百二十話

 海の底から鉱石の様な硬く昏い色を宿した光が這い上がる様に海水を染め、海の底を覆う巨大な舌を思わせる泥の中から瑠璃色の力を纏った巨体が従者を連れ遠く月明かりに揺らめく海面へと向かって浮上を開始する。

 雪よりも白く顔立ちは鋭く血の様に赤いツリ目によって白亜の大理石から名工の手によって削り出されたかの様な美しさ、身の纏った黒いセーラー服にも似た布地とリボンを海流の中に躍らせて明らかに重荷にしかならない両手足を隈なく覆う手甲と脚甲が水圧を押し退けて全高にして210mを超える彼女の身体に浮力を与えていた。

 

 その昏い霊力を放つ深海棲艦の名は空母棲姫、ここではない世界のさらに創作物の中においてそう呼ばれていた深海棲艦の上位種は自分に付き従って海底の泥の中から姿を現す近衛とさらにその随伴である下僕達を赤く燃えながらも冷たさを宿した視線で見下ろす。

 そして、数十の従者達を引き連れ月の灯りに照らされる海面に手を伸ばせば届くぐらいの深度まで登った姫級深海棲艦は儚く柔らかい月光に向かって舌打ちをして一時浮上を止めて海中に留まる。

 

 彼女がつい先程まで居た海底にて偉大なる泊地の姫が支配する広大な箱庭に満ちる黒く芳醇な海原と比べれば搾りカス以下の力の素が僅かに漂う透明な海水への不快感。

 さらには偉そうに自分を空から見下ろしているくせに照明としての役割も満足に果たせない月明かりの不完全さに眉を顰めた深海棲艦の上位種は夜闇の中ですらくっきりと浮かび上がる純白の髪を扇の様に広げた。

 

 かつては砕けた原石を思わせる瑠璃色で満ちた限定海域の支配者にして空母を主体とした90隻以上の深海棲艦の群れ(艦隊)の頂点に君臨していた存在である自分が何故に小虫の処分と欠陥品の捕縛の為に自ら出向かなければならないのか。

 それもこれも最上位者である女王(泊地)から命令を受けた自分の近衛艦である黄色い灯を宿す戦艦がしくじった上に討ち死にしたからだ、と空母棲姫は苛立ちに満ちた思惟と共に瑠璃色の波動を放ち周囲の海流を蠢かせる。

 

 彼女の艦隊の中でその戦艦ル級は空母棲姫にとって考え無しに砲弾をばら撒く事しか考えていない粗暴な個体が多い戦艦種の中で雄々しい大砲を備えた剛力はもちろんの事、珍しいぐらいに賢い頭を持ち、さらに他の個体と共に外へと遊びに出かけるよりも自分の傍に控え付き従う事を選ぶ忠義の厚さがあったからこそ特別に目をかけていた個体だった。

 

 だから本来は鬼級(騎士)が成すべき支配領地(限定海域)守護(牽引)を果たせる者は居ないかと泊地棲姫(水鬼)から問われた空母棲姫は掛けられた思惟(問い)に返答を躊躇した戦艦棲姫を横目に自らの側近を推挙した。

 

 思い返せばあれが今の自分が不本意な遠征に至る原因だったと空母棲姫は今更な後悔を心中で疼かせながらもう一度、海面の向こうに浮かぶ月を見上げてその身を取り巻く生温い海水を揺らめかせるように舌打ちする。

 

・・・

 

 三体の姫級を含めた200隻近い大艦隊が住む(停泊する)泊地の姫の領地はただでさえ地球の動脈の上と言う深海棲艦にとって最上の住処となる立地。

 質と量は言うの及ばず強大と言う他ない力を内包する泊地棲姫(水鬼)の支配領域は並の深海棲艦では移動はおろかどれほど動力を振り絞ろうと小動もしないのは空母の姫にも分かっていた事である。

 だからこそ彼女は領地の外壁それもごく一部を長く引き延ばし目的の島ごと外海(外界)を我らが領地へと飲み込んでしまえば良いと鬼級が居なくとも可能な方策を自らの主人へと奏上した。

 

 それですらあの品は無いが力は有り余っている戦艦の姫ですら難しいのではないか、と思惟(呟き)を漏らす程の重労働ではあった。

 しかし、己の艦隊において無双の剛力を誇る黄色い炎をその身に宿す戦艦ならばやってのけると自信満々にル級フラッグシップの直接の上司たる空母は胸を張る。

 

 その強い思惟(推薦)に感心した純真な女王は空母棲姫から紹介され恭しく跪くル級へと艦隊を率いあの美しき島々を手に入れてみせよと命じた。

 

 だが、偉大なる支配者から与えられた栄誉ある役目を背負い意気揚々と海上に向かうその艦隊を送り出してやってから一日足らず、女王の領地を目的に島へと拡張する任に就いていたル級の反応が唐突に思惟一つ残さずに掻き消える。

 さらに続いて他の下位個体の思惟までもが次々に消えていく様子に泊地棲姫(水鬼)を自分の浮島(寝床)へと招待して歓待していた空母棲姫は遊び盛りの若い(緑目)個体ならまだしも愚直な忠誠心の塊であるあの戦艦ル級フラッグシップが女王から直接に受けた栄誉ある命令を放り出して遊びに出かけてしまったのかと驚き。

 

 生え抜きとは言え普通種にとっては重労働をやらせるのだからとかなり多めに随伴艦を付けてやったのに知らせも無く遊びに行くだけでなく思惟(気配)まで隠すと言うのか、これでは何のために戦艦の姫とその下僕達を差し置いて自らの艦隊からあの戦艦ル級を推薦したのか分からないではないか。

 そんなふうに部下が失態を晒したのだと思い込み憤慨した空母棲姫は主人と過ごしていた時間に水を差されて盛大に顔を顰めたくなった。

 

 とは言え自分のすぐ横で深海棲艦の群れ(艦隊)を眺めて無邪気に喜んでいる自らの女王に無様を晒すわけにはいかないと表面上はにこやかな笑みを浮かべ主に寄り添い。

 

 そして、配下の空母達が操る航空端末(戦闘機)の曲芸飛行や規律正しく黒い海を行進する艦隊が連発する花火(砲撃)など自分の来訪を歓迎する従者達が行う観艦式に目を輝かせ夢中になっている泊地の姫の様子を窺いながら空母棲姫は主人に聞こえない様に糸の様に細く絞った思惟を探知可能な範囲に居る海上の下僕へと繋げ。

 空母の姫は苛立たし気な思惟を込め勝手に遊びに出かけた(遠征に出た)連中を連れ戻せと遠く離れた場所にいる下僕達へと命令しようとした。

 

 しかし、海上にいる下僕達は何者かと戦闘を始めていたらしく飛び交う思惟は今までになく乱雑で聞き取るのにすら苦労する程の状態。

 ひどく興奮した様子で“仇討ち”“道理に従え”と騒ぐ深海棲艦達の思惟(喧騒)は小さく出力を絞ってしまった上位者の通信に気付く事は無く。

 

 そうしている間にも一隻、また一隻と痛み(損傷)を訴える思惟(悲鳴)上げては海上にいる下僕の気配(反応)が消えていく様子に空母棲姫は十分過ぎる程の戦力を与えて送り出した艦隊が正体不明の敵によって多大な損害を受けているのだと遅ればせながらに理解した。

 

 そう、その時点で海上の艦隊に明らかな異常が発生している事を空母の姫は理解していた。

 

 だが、それと同時に自分達の最上位者である女王へと策を申し出たのは自分であり、おまけに自信満々に推薦した艦隊も自らの配下達の中でも選りすぐった者が大半であった為に作戦の失敗がほぼ全て自分の恥となる事にも気付いしまっていた。

 そして、いくら手強い敵が相手であろうと自分の近衛艦である(信頼する)戦艦ル級が轟沈した等と露程にも思っていなかった空母棲姫は海上で愚直に戦闘を続けている従者達の数が徐々に減っていく様子に苛立ちながらも我らが女王(泊地)から大役を命じられたと言うのに全くもってあの黄色い目(フラッグシップ)の戦艦ル級は何をやっているのかと内心でひどく憤慨して海上の艦隊に思惟を投げる。

 

 まさか無様に気絶でもしているのではあるまいな、そのように空母棲姫は表立って思惟を放たず(大声を上げず)に何度も小さな通信出力で呼び出しを繰り返し。

 目的の島への侵攻を命じられた艦隊が出発してから二日と半日が過ぎた頃やっと繋がった思惟(通信)は何故か呼び掛け続けていたル級フラッグシップではなく一隻の駆逐艦からの返答だった。

 

 あまりにも返事が遅い上に随伴艦に返信をさせる等とは、と舌打ちしつつこれで万が一にも作戦をしくじりおめおめと帰って来たならば艦首(おでこ)がへこむ程の蹴りをル級にお見舞いしてやると澄まし顔の裏側で心に決めていた空母の姫は細い思惟の糸(通信回線)を辿って駆逐イ級が送ってきたイメージ(記録映像)を読み取ってから程なくしてぎょっと驚きに目を見開く。

 

 その原因は最も長く自分に仕えていた黄色い灯をその身に宿す近衛艦(戦艦ル級)が奇妙な力を使う下位個体の出来損ない(駆逐艦より小さい空母)に撃沈されると言う信じがたい光景。

 

 戦艦ル級フラッグシップを筆頭に過剰と思えるほどの戦力を与えたのだから目標の島にいる数だけが取り柄の小虫など物の数などではない。

 そう高を括っていた空母棲姫の予想を裏切り、海上から思惟(映像)を送って来た駆逐艦の目と記憶が正常ならば彼女の側近が早々に討ち死にしただけでなく随伴していた艦隊も今では連携を維持できない程の壊滅的な打撃を受けているのだと言う。

 

 そして、元々の生まれは(所属は)戦艦棲姫の配下であるが目的の島を発見した手柄によって女王から栄誉ある勅命を受け色鮮やかなる島々へ侵攻する艦隊の一隻(一員)なった緑目の駆逐イ級が送って来た銀色の線でズタズタに切り裂かれた戦艦の姿が信じられず驚愕を顔に浮かべ硬直した空母棲姫は直後に自分の真横で膨れ上がった憤怒の炎に顔色を真っ青にする事となった。

 

 私の所有物(下僕達)がそのような矮小極まる欠陥品によって撃沈された?

 

 人間の言葉にすればそんな意味になる思惟(怒り)が白い(かお)に開いた紅い炎が揺れる瞳から溢れ出し、頭上の白角の冠(大型電探)で海上から空母棲姫へと送られてきた思惟(報告)を横から奪う様に読み取った泊地棲姫が歯軋りする。

 

 刹那、空母棲姫が自身の寝床として使っている浮島が真っ二つになり、それでも収まらない余波によって巨大な爪で引っ掻かれた様に五本の深い溝が黒い海原に刻まれ。

 広大な領地の主である泊地棲姫の暴挙によって巨大な海水の谷と化した割れ目へと雪崩落ちていく下僕達の悲鳴に震えあがりもう一度腕を振るおうとしている偉大なる女王に抱き着き空母棲姫は必死に宥めすかし。

 癇癪を起した泊地の姫へとまずは海上から艦隊を呼び戻し事情を問い質すべきと進言した事でかつては自らの領地の玉座であった宝石の原石と黒鉄を混ぜ合わせ造られた浮島を粉々にされる事だけは免れた。

 

 そして、ある程度は落ち着いたとは言えあからさまに機嫌が悪くなった女王の様子に戦々恐々としながら空母の姫は不本意ながらも取り急ぎ戦艦の姫に協力を求めて黒い海の海溝に呑まれた配下達の引き上げ作業と同時進行で海上の物を領地へと引き込む黒い渦を造り出し侵攻艦隊の残存を回収する。

 

 その半日近く使った作業が終わり、弾薬と燃料を損耗しただけでなく大半の個体がひどく損傷している艦隊を泊地棲姫(水鬼)水晶の島(玉座)の前に平伏させ三体の姫達が海上で何が起こったのかを問い質せば目的の島から奇妙な力を持つ下位個体が現われ襲い掛かって来たと下僕達はひどく恐縮しながら記憶の中の景色と共に思惟(報告)を始め。

 

 それはフラッグシップに匹敵する霊力の質をその身に内包すると言うのに体躯は駆逐イ級の数分の一しかなく、その身に纏う装甲はこちらと比べるのもおこがましい程に貧弱な薄板程度であるのにあまりにも早い速力のせいで攻撃がかすりもしない。

 さらに駆逐艦、潜水艦、空母と変幻自在に艦種を切り替えながら戦うその姿は深海棲艦である姫達にとって奇妙であると同時に途方もなく卑怯、言うなれば存在そのものを否定したくなる醜悪な欠陥品に見えた。

 

 力を持つ者はそれにふさわしい大きさと(艦種)を持たねばならない、高い霊力の資質は自ずと相応しい(階級)となってその在り方を定めるものである。

 なのにその奇妙な個体共(艦娘達)は深海棲艦達にとって常識とも言うべき魂に刻まれた道理(本能)に真っ向から反する様に己の力と大きさを偽り、卑劣な搦め手を労し、逃げ隠れを繰り返しては弱った相手を狙う。

 それは深海の姫達にとっては見るに堪えない異質な欠陥品と言う他に形容の仕方が分からない存在であり、そんな下手人にいい様に弄ばれた目の前の下僕達があまりにも情けなく感じた戦艦と空母の姫は自艦隊の汚点とすら感じる手負いの群れを冷たく見下ろして不用品は処分せねばならぬと思惟を漏らした。

 

 深海棲艦の基準においてではあるが、内側に秘める質はともかくとして明らかに自分達よりも小さい敵(弱者)に打ちのめされた深海棲艦達は弁明も出来きない様子で二隻の姫が下した判決に震えながらも首を垂れて大人しく支配者による処分の宣言を待つ。

 だが、上位者からの処刑を覚悟していた群れは次の瞬間に自分達を取り巻いた癒しの力に驚きそれぞれの目を瞬かせて恐る恐る水晶の玉座に座る女王の様子を窺った。

 

 侵攻に参加していなかった普通種だけでなく空母と戦艦の姫も揃って奇妙な能力を持ってはいるが明らかに自分達よりも劣る欠陥品それもたった一隻に見える相手に無様な敗退を喫した弱者共へと何故情けをかける必要があるのかと問いたそうな表情を泊地の姫へと向け。

 

 外海(外界)から未知の知識(情報)を持ち帰った者達には褒美を与えねばならない。

 

 酷く不機嫌そうにその思惟を全ての配下へと宣言した泊地の姫は海上から戻った群れの中で最も格の高い軽空母へと船体の修復後に罰として他の生き残りと共に本艦隊の末席(閑職)に降格せよ命じる。

 そして、白亜のドレスを纏う偉大なる姫の温情に平たい円盤の頭が海面に沈むほど平伏した軽空母ヌ級達が感動に咽ぶ思惟(泣き声)を漏らす様子を横目に女王の傍仕えである姫級深海棲艦は主人が決めた事ならばと上位者の命令が絶対であると言う深海棲艦の掟に従いそれ以上の思惟(進言)は余計な事であると考えかけ。

 

 我が所有物を奪い壊した道理知らずを処断する為に自ら打って出る。

 

 そう高らかに響いた鬼級(騎士)勇ましい(直情的な)性質を併せ持つ女王の思惟に空母と戦艦だけでなくその広大な限定海域に住む全ての深海棲艦達が騒然となった。

 

 それは非常にマズイ、それだけは女王の意志に反してでも御止めせねばならない。

 

 普段はお互いをライバル視して泊地棲姫の傍に侍るナンバー2(正室)の座を争っている二隻の姫級が泡を食った顔をしながら玉座の前に跪いてなりふり構わずその脚に縋り“それだけはご勘弁ください”とぴったりと息を揃えて懇願する。

 

 姫級深海棲艦が造り出す限定海域において領主たる存在は黒い海原と輝く天井を支える主柱とも言うべきものである事を本能的に知っている彼女達にとって自分達を含めた艦隊全てと比べても尊い御方と言い切れる貴種がよりにもよって普通種の下僕を多少失った程度の理由で敵艦を討伐する為に自ら出陣するなど到底認められる事ではなかった。

 

 しかし、“姫が居なくなれば領地が荒れてしまいます”そう必死に訴える二隻の姫級に泊地棲姫(水鬼)は事も無げに“姫ならばここに二隻もいるではないか”と信頼の篭った思惟をいつも甲斐甲斐しく世話をしてくれる自らの侍従達へと向けその二隻の顔を引きつらせ。

 この領地が明らかに自分達の許容量を大きく上回る広大さである事を身を以て知っている空母と戦艦はその頭の内側に圧縮空間の重みに潰されながら霊力の循環を滞らせて大嵐となった海原とその中で群れ(艦隊)ごと木の葉の様に黒波に呑まれる自分達の姿を想像し震えあがりますます命乞いする様な必死さで泊地棲姫に縋りつく。

 

 そんな空母と戦艦の姿にまさか自分の思惟(一言)がそこまで従者達を恐れ悲しませるとは思っていなかった泊地の姫は戸惑いながらも、しかし、変わらず自分の従者達(所有物)を壊した不届き者への敵意を疼かせ。

 

 あの様な醜い欠陥品は自分の手で捻り潰さねば気が済まない、と幼い子供の様な思惟(言い分)と共に不満げに口を尖らせた。

 

 上位者である女王(泊地)の意志は絶対であるがそうなったら領地に残った自分達の命が危ない、かと言って命惜しさに領地から逃げ出せばこの豊かな霊力に満ちた至高の主人だけでなく最高の住処まで失ってしまう。

 理不尽に巨大な津波の前に放り出された様な気分となった空母棲姫が横目に戦艦棲姫の様子を窺い紅い視線同士を交わらせると“お前は私よりも小賢しさだけは優れているのだから何か主を説得できる妙案を出せ”と勝手な思惟(要求)が返ってきた事で艶やかな白髪の隙間に見える額に青筋を浮かんだ。

 

 お互いの上下争いはまだ決していないが女王の下で義姉妹(同盟艦隊)となった事は認めている黒角戦艦の問題を丸投げしてくる様な思惟に相手の顔面に己の鉄靴を叩き込んでやりたくて仕方なくなった空母棲姫ではあったがそんな事をして無駄な時間を使えば艦隊全体が危ないと自らの自制心を最大まで働かせて必死に思考を巡らせ。

 

 失態を犯したのは我が配下であり方策を立てたのも私であり、だからこそ汚名を返上する為に私自らかの欠陥品を捕らえ献上致します、そして、その後に女王自らの手でその下手人を如何様にも処分して頂きたく願います、と空母の姫は平身低頭で願う。

 

 そんな空母棲姫が誠心誠意を込めて平伏す姿に泊地棲姫は少し渋る様な表情を見せたものの普段から群れの規律に関して少し口うるさいがそれが気にならない程に良く気が利く賢臣が言うならばと自らの出征を思い留まる事を認めた。

 

・・・

 

 自分の配下を貸してやっても良い。

 

 遠征に備えて空母棲姫が限定海域の出口である内側と外界を隔てる壁の前で随伴艦の編成を行っていた際に現われ代案一つ出さなかったクセに自分に今回の問題を全て押し付けた戦艦棲姫の偉そうな態度と思惟(物言い)に白髪の姫はビンタで返事を返す。

 しかし、不可視の障壁にヒビが入る程強く自分の頬を叩いた黒鉄のロンググローブに包まれた手を掴み黒髪の姫は勝気な笑みを浮かべて空母棲姫を身体ごと引き寄せて無遠慮にその唇を奪う。

 そして、手柄を立てて帰って来たなら労いとしていつもより可愛がってやる、とまるで自分が(上位)であるかの様に尊大な思惟を触れ合った肌に染み込ませてきた戦艦の身体を空母棲姫は顔を真っ赤にして突き飛ばし睨みつけて追い払った。

 

 威嚇しても逆にそれが楽しいとでも言う様に不敵に笑い“面倒事はさっさと終わらせて帰ってこい”と宣う戦艦棲姫。

 

 自分が遠征艦隊を率いる原因を思い出していた空母棲姫は少し前に同盟相手と交わしたやり取りまで思い出してしまい。

 己の群れ(自艦隊)の汚名を返上した後にしっかりと戦艦の姫に自分の方が姉である事を知らしめてやる、と忌々しそうに歯軋りしながら海面を突き破った。

 

 水飛沫を昏い霊力によって編まれた障壁で弾き飛ばしながら咆哮と共に空母棲姫の身体から瑠璃色に煌めく幻想世界(神秘の再現)がさらに広がっていく。

 

 全く以てあれの品の無さは度し難い、肌を見せつけ徒に下僕を欲情させては所かまわず腕試し(相撲)をしては気に入った相手を抱くだけなら別の派閥の事情として放置できる。

 だが、戦艦棲姫がその放蕩癖を自分にまで向けてくる事に空母棲姫はほとほと呆れていた。

 

 とは言え、純粋無垢でそれ故になんにでも興味を持つ泊地棲姫(水鬼)がそのマネをしようとした時には原因である痴女に爆弾を抱えた大量の飛行端末(爆撃機)にけしかけた事はあるが本気で戦艦棲姫を亡き者にしたいとは空母棲姫も思ってはいない。

 

 今の領地で合流するまで彼女は自分と同じ格を持つ深海棲艦と出会った事は無く、だからこそそれまでに思惟()を交わしてきた格下の同族とは一線を画す質と力を持った姫級との交流は彼女にとって今までにない心地良さがあったからである。

 

 しかし、あれと思惟だけでなく肌を交わす事そのものは嫌ではないがどうにもそのやり方に品が無いのは癪に障る。

 

 黒いセーラー服と両手両足の装甲、そして、海面に直立しても毛先が海の中で揺らめく程長い白髪から海水を滴らせ空母の姫は従えていた艦隊の輸送艦に命じて海底の限定海域から運ばせてきた資材を解放する様に命じた。

 

 思惟の交わりは自らの群れの大きさを実感する充実と安心に微睡む様に揺蕩う事こそが醍醐味。

 だと言うのに大切な白い肌が腫れるだけに止まらず身体の節々()まで痛くなる程に絡み合うのは刺激的だが私の好みではないし我らが女王まで同じ事をし始めたらたまったものではない。

 

 とてもではないが泊地の姫が相手では蹴り飛ばして止めさせると言うわけにもいかない、とは言えあの風情を知らず品も無い戦艦の姫と言えど女王を相手にいつもの傍若無人さは見せず多少は大人しくなるのだから最悪な事にはならないだろう、と考えながら空母の姫は自分の身体から放出する瑠璃色の霊力と海中に放出された大量の資材を混ぜ合わせる。

 

 その場に人間が居たのなら耳を塞ぎ不快感にのたうち回るだろう金切り音が海中で響きながら黒いイバラの様な金属の棘が空母棲姫を取り囲む様に突き出し真夜中の海面へと広がっていく。

 月下の海面に広がるイバラは幾重にも重なり岩礁の様に波を遮り水飛沫を弾けさせ、海面下から様々な艦種の十数、いや、数十の深海棲艦が浮上したと同時に空母棲姫が造り出した急造の玉座が海中で根を生やす様に鎖の様なツタを生やして海底に這う異空間へとその突端を繋いだ。

 

 全ては我が主の命を叶える為に。

 

 暗闇の中で光に揺らめく宝石の原石の色に染まっていく海とその中心となっている黒鉄の玉座に深く腰かけて重厚な鋼の装甲に包まれた両脚を組んだ空母棲姫が手を振るう。

 すると巨大な金属の塊となったイバラの岩礁がゆっくりとだが確実に姫級深海棲艦の指し示した方向へと前進を始め、その巨大な玉座に付き従う深海棲艦達がそれぞれの身体から鎖と錨(アンカー)を投射し、海底の限定海域と屈強な鋼鉄の臍の緒で繋がった空母棲姫とその玉座(海上航空基地)を牽引し航行を手助けする。

 そして、空母の姫は月光で白くきらめく髪を騒めかせ紅いオーラを纏う身体から放出している瑠璃色の波動に強く威圧の意を込めた思惟を乗せ、真っ直ぐに水平線の向こうにあるだろう島々を目掛けて霊力の波を放った。

 

 女王の求める色鮮やかな島を蝕む下賤な小虫共、首を垂れ平伏すならばその血肉を資材として我らに役立てる栄誉を授けよう。

 

 数日前に自分の主が放った規模と比べれば些か見劣りするが内容事態はほとんど同じく人の言葉にするならば大仰にして高慢な思惟(威圧)を敵対者へと叩きつけた空母は澄まし顔で造ったばかりの玉座のひじ掛けに頬杖を突く。

 だが、その表情は放った自分の波動がまるで受け流される様に散らされた気配で歪み、口元と眉間に刻まれたシワの深さがその不快感を如実に示す。

 それは下位個体と言うにもあまりに小さく取るに足らない質と力しか持たない小虫(弱者)の群れが誰が見ても圧倒的な上位者である自分の発した思惟を不遜にも拒絶したと言う事であると空母棲姫は受け取った。

 

 ならば最早、無駄なくその身を糧としてやるなどと言う慈悲の心は必要ない。

 

 女王に献上する島を傷付けない事とあの奇妙な欠陥品を捕らえると言うのは少々面倒ではあるが下賤な虫共だけは一匹残らず島の隅々からほじくり出し挽き潰さねば、と決心して両の瞳から紅い炎を溢れさせて黒鉄の艦隊と瑠璃色の海域を従える姫は前衛艦隊へと進撃を命じた。

 




 
提督、緊急事態です!

ハワイ沖北東の哨戒ライン上で有力な敵機動部隊の接近が発見されました。
敵機動部隊は数群に分かれており、空襲による強襲を図っている可能性が高いと思われます。

作戦行動可能な艦娘は、指揮官に従い直ちに緊急抜錨!

また、真珠湾軍港に停泊中の通常艦船も防空の任にあたられたし!
当方の重要拠点であるハワイ諸島への敵機の跳梁を許すな!

総員、緊急出撃せよ!




2020/2/24 少しだけ改稿しました。
 
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