艦これ、始まるよ。   作:マサンナナイ

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「ナナイさん、【艦これ、始まるよ。】を書き始めたのっていつからだっけ?」

「ええと・・・だいたい二年前だったかな」

「この前、破綻したプロットの修正が終わったのは?」

「・・・二カ月前だね」

「も一つ質問良いかな・・・修正後のプロットで出撃メンバーになってる谷風

 どこ行った?

「・・・君のような勘の良い作者(ガキ)は嫌いだよ。」


「この野郎! やりやがったなこの野郎! また自分の好みで出演艦娘、変えやがった!!」


・・・

【艦これ、始まるよ。】は連載開始から二年経ちました!


二周年ですよ、読者さん!

三年目ですよ、読者さん!

 


第百二十六話

 

 紅い灯火が残像の線を作りながら突風の尾がうねる空を亜音速で走り抜け、猟奇的な乱杭歯を剥き出しにした顎が切り裂いた空気が笛にも似た音を上げ。

 その航空力学を無視した形の後部に突き出す翼と言うにも小さ過ぎる突起が炎を吹き無理矢理に黒鉄色の爆弾を抱えた深海棲艦の飛行端末をさらに加速させた。

 

《ちっ、しつこいわね! って、はぁっ!? 司令っ何を言って!?》

 

 死神を呼ぶ口笛を吹き鳴らす異形の艦上爆撃機の下、エナメル質に近い光沢をヌラつかせる群青に染まった海で銀色のロングヘアが高波の間を縫うように蛇行航跡を描くが速度は上空で群れを成す航空機編隊が大きく上回っており、紅い火を宿す隻眼達が捉えた獲物に目がけ一斉に急降下し爆撃体勢に入った。

 

《ああっもぉ! 了解よっ!!》

 

 直後、爆撃機に照準された駆逐艦が自棄になった様な叫びを上げ最大戦速で走っていた海面へと突っ張る様に両足を突き刺して群青の海を抉り、纏う布地の両肩や腰の左右に幾何学模様が浮かび上がり本来ならば装備を増設する霊力端子がサブスラスター(予備推進機)として細く引き絞られた光粒の渦を放ちその細身が受ける海水の抵抗による転倒を防ぎつつ急減速させる。

 しかし、その程度の減速回避でこの爆撃は凌げるものではない、とばかりに上空から高速かつ広範囲に爆弾が投棄され凄まじい爆発が巻き起こり、急降下爆撃を行った球体戦闘機の群れが一糸乱れぬ動きで海面に向かっていた機首を引き上げ巨大な水柱を爆ぜさせた海から舞い上がる水飛沫を浴び。

 

 降り注ぐ海水のカーテンを貫いてきらめく無数の弾丸が瑠璃色の豪雨の中から空へと戻ろうとしていた高速飛行物体へと襲い掛かり、数機を撃ち抜き爆散させた。

 

《なにこれ・・・はっ、あはははっ♪ 悪くないじゃない、ええ、悪くないわ!》

 

 爆撃によって立ち上る海面の水柱を置き去りに急上昇を始めた球体爆撃機が自分達の後方で上がった幸運にはしゃぐような笑い声に気付く間もなく。

 

《自分達が歪ませた空間のせいで攻撃外すなんて愚かにも程があるんじゃないの!》

 

 白い球体に宿った紅い炎を通して健在な敵の姿を見た冷徹な支配者が驚きに目を見開き、自分が操る戦闘機が二機、四機、六機と次々に撃ち落とされ火の玉になっていく様子に戸惑いながらもまだ生き残っている機体へと回避を命じる。

 周りでは爆撃によって舞い上がった海水が豪雨の様に降り注いでいると言うのに彼女が身に着けたワンピースセーラーどころか腰にまで届く白銀色にすら液体鉱石の様な青色が触れる事は無く。

 

《この私が撃ち落としてあげるんだからありがたく海の藻屑になりなさい!》

 

 そんな奇妙極まりない現象の中で引きつった顔で息を荒げてはいるがその口はこれ以上ない程に高飛車なセリフを吐き、吹雪型の五番艦は上空へ逃げる敵機を背部艤装に標準搭載されている対空機銃で更に追撃を続けようとするが彼女の意図しないタイミングで銃声を撒き散らしていた武装が停止する。

 

《次! 再装填っ、はぁ? なに? 今は口を動かすより、はぁ!?》

 

 対空射撃を逃れ逃げ去っていく深海棲艦の目が見下ろした海上ではまるで歪んだ鏡に映っているかの様に駆逐艦娘の手足の長さどころか身長までもが数m離れ数センチ角度を変えるだけで万華鏡が如く変化する半径十m程の一帯が存在し、そこを避けるように吹き荒れる強風が爆風の残滓である水飛沫をどこか遠くへと弾き飛ばしていく。

 

《何ばっ・・・(か言っ)んんっ! いいえ、なんでもないわ、そうね、アナタの言う通り雑魚にばっかり構ってられないわよね、司令官》

 

 即座の反撃によって敵航空編隊の三割ほどを撃墜した興奮のまま全て撃墜してやるとばかりに殺気を撒き散らしていた駆逐艦娘が身の内から聞こえた声に対して反射的に何かを言い掛け。

 寸でのところで自らの指揮官にぶつけかけた言葉(罵声)を全身全霊をもって噛み潰してから取り繕うように編み紐で房の様に整えている横髪をいじる。

 

《うっさいわね、分かったって言ってるでしょ! って言うか、潜水艦は私が司令と話してる時に割って入ってくんじゃないの!》

 

 そして、自他ともに認める犬猿の仲(喧嘩友達)である艦娘への悪態を誰に憚る事無く吐き出しながら駆逐艦娘は十数mの身体を翻して自分の内側(艦橋)から聞こえる指示に従って外から見える広さを大きく裏切る捻じれた空間から風に舞い踊る水飛沫の中へと飛び出した。

 

・・・

 

「なんとか追い払えはしたが、まだまだ前途多難か・・・」

 

 推進機関の制御レバーを押し上げたと同時に高速航行を再開した叢雲、身体に押し寄せてくる重圧に呻くなんて情けない事はしなかったが流石に余裕だなんて言い切れる程の剛毅さは指揮席に座る田中良介にはない。

 だが三十分前に体験した時速にして500knot(926km)の世界、彼にとってはプレス機の間に挟まれたかと思ってしまう程の慣性重圧の中で方向指示を行っていた事と比べれば幾分かマシである事も確かな事だった。

 

「相手の進路を制限して空襲を仕掛ける、見事と言う他ない作戦ね・・・私達にとっては最悪だけど」

「司令官が捻じれ(・・・)を見付けられる人じゃなかったら私達ここに来るまでに全滅してたわね」

『縁起でもない事言うんじゃないわよ、それにしても電探も探信儀も目視も、何から何まで噛み合わな過ぎて気持ち悪いったらないわね、この海』

 

 姫級深海棲艦が造り上げようとしている限定海域(箱庭)からハワイを守る防壁の一部を開き、数十秒間だけハワイ近海への瑠璃色の浸食拡大と引き換えに田中艦隊が踏み込んだ領域はまともな生物ならその場に居るだけで死に直結する過酷な環境。

 十数mへと巨大化する戦闘形態の艦娘を余裕で見下ろす津波が至る所で共食いをする様にぶつかり合い、空から白雲を引きずり下ろし渦の中へと巻き込む無数の竜巻が大蛇の様にうねりながら暴風を海上へと叩きつける。

 

「ところで提督、米軍に怪しまれない程度には囮と漸減(ぜんげん)をやらないといけないのは分かりますけれど、こんな所で消耗し続けていたら肝心な時に戦えなくなってしまいますわ」

「と言ってもね、一直線に走ったところで空母棲姫の居る場所には辿り着けないのも事実なんだよ、この羅針盤も大体の方向しか教えてくれないしね・・・と言うかちゃんと空母棲姫がいる場所を指していると言い切れない辺り正直頼りない」

 

 ハワイを防衛している艦隊に装備された防御装置が作るバリアで区切られたスタートラインを踏み切って深海棲艦が蔓延る海域へと島風は突入し、まるでロケットを背負っているかの様な加速で波を切り裂き、道中で遭遇した敵を己の速さだけでねじ伏せて深海棲艦の警戒網を蹴り破る様に突破し田中達が立てた作戦の第一段階を見事に達成させた。

 

 正直に言えば突入する直前の田中は海上の疾風と化した駆逐艦娘が自分の全速力に陶酔して暴走をするかもしれないと危惧していたのだが。

 その予想に反して速さこそ正義と言って憚らない島風型駆逐艦は驚くほど行儀良く彼の命令を聞き、海域への突入前には遅ければ置いていくと言っていた味方の艦載機を気に掛けて速度を合わせるなんて事もやってみせた。

 

「流石の提督も波一つ向こうがどこに繋がってるかは分からないって事?」

「今は残念ながら目に見える範囲の事だけしか分からないな、艦載機で空から俯瞰できれば話は違うんだが」

「それだけでも凄い事なのに慣れてしまった自分の順応力に驚いちゃうわね、・・・まぁ下手な方向に走って限定海域からはじき出されてハワイに戻される事だけは無さそうなのは救いかしら?」

 

 とは言え数居る艦娘の中でも最速の名を誇る駆逐艦が今まで見せた事が無いぐらい行儀良く頭上を守る直掩機達と共に超高速で走り抜けた航行であったが、それは全くの無傷で済んだと言うわけでは無い。

 

「俺は波を越えた途端に敵の大艦隊から盛大な歓迎を受けるかもしれないって可能性が怖いよ」

 

 海上から数百トンの身体を巻き上げようとする竜巻の鞭や相対速度のせいで鉄の壁となる高波や散弾と化した水飛沫によって島風の耐久力は確実に削られ、弾丸と化した水滴に穿たれた不可視の障壁装甲の下では服だけでなく肌にも無数の傷が出来ており。

 さらに全速力で島風を追いかけていた事で燃料を使い果たした艦載機を空母艦娘である龍驤が回収を行おうとした際、間の悪い事に着艦に気を遣う激しい風の中で巻物型飛行甲板を広げていた龍驤へ上空から深海棲艦の戦闘機が強襲し、全ての回収が間に合わず彼女は三分の一近く艦載機を失う事になった。

 

 とある理由から限定海域の外と連絡を取り合う必要性が田中艦隊にとって殆ど無い為、絶対に通信を中継する機能を持つ空母艦娘が霊力によって造り出す艦載機を死守せねばならないと言うわけでは無い。

 とは言え、ハワイの米軍との間に交わした約束事を果たしているという体面を作る為に出来るだけ多くの敵艦を減らさねばならないし、その為に必要な戦力が数字として目に見える形で削られたと言う事実は指揮官にとって気分の良い物ではないのも事実だった。

 

「前方1000? いえ、1600? とにかく敵艦と思われる反応が一つ、恐らく駆逐艦か軽巡と思われます! もぅ、さっきから電探の精度が滅茶苦茶ですのっ!」

「さて一難去ってまた一難か、とは言え単艦・・・哨戒ならやり過ごしてしまう方が賢いやり方だな、叢雲!」

『ええ、了解! あんた、じゃなくてっ! 司令官に針路を任せるわ』

 

 メインモニターに表示されている頼りないレーダー機能へと口を尖らせる三隈の声に肩を竦めた田中は自分の感覚頼りという根拠のない命令に素直に応じ、荒波の坂を乗りこなすサーファーの様に滑走する叢雲が強気な笑みを浮かべる様子に言葉なく感謝しつつ、ふと視界の端に見えたコンソールパネルの下から生えている黒いウサギの耳のようなリボンへと顔を向ける。

 

「ねー、りゅーじょー、まだ飛行機の修理終わんないのー? ちょっと遅くない? ねー、早く早く!」

「あぁもぉ・・・悪気が無いのは分かってるけどさぁ、ホンマなんやねんなアンタはぁ」

「なんやねん? 私が何って、そんなの島風に決まってるでしょ? そんな事よりボスが居る場所までの道が分かんないと提督が困るんだってばー」

 

 揺れるリボンが見える操作盤のすぐ下を田中が背もたれから軽く身を起こして覗き込めばその下にはペタンとしなやかな脚を延ばしている座っている島風が両脇の有線式連装砲(特殊な増設装備)の砲塔を撫でながらすぐ隣で難しい顔をして唸っている龍驤を急かしていた。

 

「そんぐらいウチかて分かっとるって、・・・そうやなくて、はぁ、キミぃ、ちょっと今ええか?」

 

 小首を傾げる駆逐艦の顔に毒気を抜かれ子供を相手にする親のような顔で脱力した空母艦娘はコンソール越しに自分達を頭の上から覗き込んでいる指揮官を見上げながら首筋の肌に直接差し込まれていたUSBケーブルをプツンと引き抜く。

 

「龍驤、どうだ?」

「アカン、これエラーとかやなくて基盤かCPUが焼けてもうてるわ、艦載機が撃墜された時の負荷を全部喰らってもうた感じやね」

「修理が無理なら予備は?」

「ははっ、せやな、今から赤城か加賀から借りてこよか?」

 

 一般的なハードディスク(3.5インチ)とほぼ同じサイズまで小型化された特殊なコンピューター、乾いた笑いを漏らす龍驤の手の平に乗っている過去に存在していたレシプロ機のデータ(記憶)を管理すると言うたった一つのタスク(作業)を実行する為だけに造られた精密機器は四角い本体の中心で銀色のガラスネジを輝かせる。

 

「彩雲は諦めるしかないか・・・、まいったな」

「烈風とかもやなぁ、素の状態やと九六式か九七式ぐらいしか使えへんのは我ながら痛いわぁ、ホンマ、シャレにならんで」

 

 まぁ集中すれば初期型の零戦なら用意できるけど、と軽くおどけて肩を竦めながら部隊備品がまとめられている段ボールの一つへと装備を突っ込んでいる龍驤へと田中は小さく溜め息交じりに頷いて見せてから顔を上げ指揮席に座り直し。

 小さく見積もっても20mを超えるだろう津波が無数に立ち上る海原のさらに向こう、どの高波の頂上よりも高い位置に見える水平線へと視線を向ける。

 

 その常識ではあり得ない現象を認識したと同時に、すり鉢状に空へとせり上がる群青色の海面はあと数時間もすれば完全に田中達の頭上を覆いつくして閉鎖空間を完成させるのだ、とまるでどこかの子供向け図鑑に描かれるイラストのような図解が指揮席に背を預ける青年の頭の中に浮かび上がった。

 

(やれたとして艦長達はタイミングをちゃんと合わせてくれるのか? それなりの数は撃破したが全体から見ればそれなりでしかない、だが頃合いを見誤れば本当に全滅する)

 

 在ハワイ米軍にとっては寝耳に水かもしれない、だが、IFFの識別信号は外に届いているはずだから死人扱いされる事だけはないだろう、と田中は階級も年齢も一回りも上である護衛艦艦長が自分達の作戦通りに立ち回ってくれている事を期待する。

 

「だか・・・やるしかない、か」

 

 ハワイ北東の深海から海底を這いながら近づいてきた深海棲艦の巣窟の一部が一体の姫級深海棲艦の能力によって表面化し、最終的には完全に外界から隔離され暴風と瑠璃色に支配された迷宮と化そうとしている。

 どういう原理でそうなるのか田中には分からないがその箱庭の完成が長引いているのは偏にこの限定海域を作ろうとしている空母棲姫がハワイの近海だけに止まらずハワイの島々ごとを支配領域に飲み込もうとしており、田中達の後方で文字通り防壁となっている軍艦の列によってその浸食を押し止めている為に箱庭は姫級深海棲艦が思い描く完全な形へと至っていない。

 

《司令、敵の追跡振り切ったわよ!》

 

 だからこそ現在進行形で空間の圧縮が行われているここには断片化した部分や距離や大きさの差が発生する穴が存在しており、田中達は限定海域の創造者である空母棲姫ですら把握していないその不完全な部分に付け入る事で生存していると言っても過言ではない。

 

 一歩間違えば即座に危機が訪れる危険な領域の中から比較的安全な場所を見切る第六感、部下である艦娘達にはそう言い訳している目視による認識と同時に頭の中で更新される津波の壁で区切られた迷宮の構造図の存在。

 

 それを今も艦橋の中に隠れている三等身の小人から受け取る事が出来る田中は寝不足でヒリヒリする目元を指で揉み解しながら「指揮官が部下の前でへこたれるな」と自らへ気合を入れる。

 

「ああ、叢雲、よくやってくれた」

《ま、この程度は当然ね、次も何かあったらこの叢雲に全部任せて良いわよ。、司令官》

「それは心強いな、で、そう言ってくれた後にこう返すのもなんだが今から龍驤へ旗艦を交代してもらいたい」

《たよ、んぐっ、なよ、ちが、いっ、い・・・ええっ! 司令官の命令の通りにするわ! 何も問題なんか無いわよ!》

 

 迂回する形で敵との戦闘を回避した叢雲は何故か数秒間だけ言葉を詰まらせた後に細身の胸を張り高飛車だが田中に対する確かな友好を感じる声を上げ。

 その返事を受けた指揮官は深海棲艦側の戦略的目的を阻止する為、味方であると同時に敵とも内通している妖精からの情報を信じて利用する事に対する迷いを今だけは振り切って決断を下す。

 

「艦載機は制空ではなく索敵を優先、発艦を行った後に接敵を最小限に抑え、我が隊は最高速度で限定海域最深部へ向かうっ!」

 

 田中が自らを鼓舞する為に張り上げた声に少女達が声を揃え了解を返すと同時に指揮官の手がコンソールパネル上で駆逐艦の名が書かれたカードと空母のカードを入れ替え、艦橋を包む球形のメインモニターが旗艦変更を知らせる眩い光に染まる。

 

《さぁ、いっちょやったろか! 空母龍驤、一世一代の腕の見せどころっちゅうヤツやでっ!!》

 

 そして、光を纏って艦橋の円形通路に現れた叢雲と入れ替わる様に指揮席のすぐ近くで光が散って消え、そのすぐ後に龍驤の威勢の良い声がメインモニターの外から聞こえた。

 

・・・

 

 なるほど、と小さい思惟と共にけぶる睫毛の下で紅い灯を揺らし白い大理石を磨き上げた様な美の権化がセーラー服に見えなくも無い黒衣を纏い、絡み合う金属のの枝木で造られた玉座の上で両足を組み。

 下僕共が手こずるのも無理はない程度には面倒な力を持った敵である事は認めざるを得ない、と荒れ狂う嵐の根元に座する空母の姫は面白くも無い情報へと不機嫌そうに小さく鼻を鳴らす。

 

 そうして深海棲艦達に傅かれている空母の姫は呼び戻した艦載機を自らの艤装へと着艦させながら大儀そうに視線を動かし、その先に平伏していた三本ある艦首の一つが原型も分からないぐらいに潰れている軽巡ト級など小さな敵の攻撃によって戦闘に支障が出る程の損傷を受けた情けない下僕達へと重厚な黒装甲に包まれた片腕を伸ばし。

 

 ガチンッと重苦しい鉄を打つ音と共に火花が鋼鉄のロンググローブに包まれた指の間で散り。

 

 直後、まるで指を指す様に空母棲姫の人差し指が軽巡達に向けられたと同時に突然の火柱が宵の群青から新月の黒へと至った海面を照らした。

 

 姫級深海棲艦が睥睨する玉座の下、黄色い目(フラッグシップ)の空母ヲ級を筆頭に数十の深海棲艦が控える(停泊する)鉄鋼で造られたイバラの海上基地で軽巡ト級達が上げる悲鳴のような遠吠えが響き。

 数隻の深海棲艦が一つの炎となって燃え盛り、玉座の端から急激に伸びてきた刺々しい金属の枝が巻き付く様に断末魔の叫びを上げる異形達を一つの塊へと形成させ。

 辛うじて火の色が隙間から見える程度まで燃え盛る深海棲艦を隠した黒鉄の焼却炉の中からバキバキと装甲が砕ける音と火炎が溢れ、そんな同族にして配下である者達が魂ごと溶鉱炉の中で押し潰され溶けていく様子を空母棲姫は眉一つ動かす事無く見下しながら自分の敵に対する思考を巡らせる。

 

 波の迷路の中を最もこちらの手勢が薄い場所を走り風の槌すら避ける速力を持った金尻尾、妙な喚き声を吐き散らしながら飛ぶ緑色の飛行端末を操るだけならまだしも薄っぺらい甲板で風を受け自ら宙を舞う赤いヒレ、そして、驚くべき探知能力で折り畳んだ空間の隙間を察知し逃げ込むだけでなく少なくない自分の艦載機を撃墜した銀尻尾。

 

 それ以外にもあの卑小な船体(身体)の内部には(艦種)の気配が複数あると感じられ、自らの領域に再び入り込んできた敵が自分達(深海棲艦)とは似て非なる力と形を持つ奇妙な存在であると理解した空母棲姫は玉座に頬杖を突きながら嘆息する。

 

 あれらを生け捕りにするのは少々骨が折れそうだ、と思うと同時に必ず生け捕りにして我らが女王に献上せねばならないとも考える。

 

 戦艦の姫からの癪に障る激励に送られながら領地から出陣した時点では、とりあえず自分の領域に目的の島ごと取り込みその後、適当に爆撃を仕掛け焼いた後に偉大な女王へは手加減を間違えたとでも言って残骸を差し出せばよいだろう、と空母棲姫は考えていた。

 だが、いざ自分が支配する領地への無断で侵入してきた無礼者にして捕獲対象である敵艦を自らの目で見た際に空母の姫は絶対にアレは生きたまま泊地水鬼へと捧げねばならないモノだ、と考えを改める事となった。

 

 お労しい事に偉大な女王は(領主)でありながら(騎士)として生まれてしまった為かその強大かつ強靭な御身体に不具合を抱えておられる。

 

 しかし、飛行端末によって見下ろした敵、その矮躯(わいく)が持つ姿形だけでなく内側に見える質や格までもを自在に切り替える事が出来る能力、それを奪う事が出来たなら小虫共の無礼によって怒る泊地の姫の思惟(御心)を鎮めるだけでなく、下僕を建造できず悲しみにくれる主人の悩みまでもを解決する事だろう。

 

 自分は新たな眷属を建造出来ないがその分はお前達が造ってくれる、と無邪気な笑みを浮かべていた愛おしい相手の姿と同時に自分や戦艦の姫へ向けられた僅かな思惟(羨望)を聴いていしまったある日の光景。

 

 支配者の格と大きさ、それにふさわしい質と力を持ちながら信じられない程に大らかな気質の持ち主ではあるが泊地水鬼は紛れも無く空母戦艦の両棲姫を大きく上回る霊力を持った深海棲艦の中でも稀に見る上位者である。

 そして、深海棲艦の魂に刻まれた鉄の掟と言っても過言は無い道理においては例えその場に居た三隻ともが姫級であったとしても上位者が下位の者に対して羨ましい等と思う事などあってはならないのだ。

 

 それこそ自分が持たない物を持つ目障りな(羨ましい)存在であると感じた時点で相手を廃棄しても咎められる事など無い地位の差があると言うのに自分も恋敵も泊地の姫に許されている事が深海棲艦の道理からは到底あり得ない奇跡と言っても良い状態だった。

 

 我が身の下僕を作り出す力(建造能力)を抉りだせるならば喜んで女王に献上すると言うのに、と主人の漏らした思惟に感じてしまった切なさ思い出しながらこの場の最高権力者は玉座に頬杖をついて傾けていた身を起こし、黒鉄の炉をも内側から溶かす凄まじい火柱が海水を蒸発させ立ち上る白濃霧のうねりへと変わった事に気付き、そちらへと冷ややかな赤眼を向ける。

 

 二度目は無い、次に無様を晒せば(燃料)の一滴たりとも残さず廃棄処分とする。

 

 そう聴く者達の心胆を凍えさせる程に冷え切った思惟(決定)黒イバラの中(簡易ドック)から生れ落ちようとしている欠陥品を掛け合わせた再利用物へと空母棲姫は発し、急激な熱の変化で砕け散っていく鉄の枝から黒い海面へと水柱を上げて進水した深海棲艦が誕生と同時に両腕と頭を海に着いて平伏す。

 数隻の損傷した深海棲艦の魂と船体を素材に空母棲姫から新たな力を与えられ新たな姿へと生まれ変わった深海棲艦は左目に宿した青緑の灯火と共に創造主にして絶対の主人へ忠誠を真新しい船体から溢れさせ本能が命ずるまま上位者の命令へ了解の思惟を返した。

 

 あれは我が女王(泊地)を癒すこれ以上ない薬の素材となる、だから決して逃がすな。

 

 その場に居る全ての眷属の魂に刻み付けられた金属の様に無機質な思惟(命令)に従い規律正しく陣列を整え、玉座から見下ろす空母棲姫へと彼女の近衛艦の一隻である空母ヲ級が輪形陣の真ん中で出撃を知らせる遠吠え(汽笛)を吹き鳴らす。

 限定海域の中心に広がるイバラの玉座(海上拠点)から離れていく深海棲艦達の様子を白髪の空母は鷹揚な態度で見送った。

 

 そして、艦種を切り替える敵の姿を見たと同時に脳裏に閃いた天啓(囁いた声)、そこから敬愛する泊地水鬼の抱える先天的な障碍を癒す薬を得られるだろう千載一遇を確信し姫級空母は微笑を浮かべる。

 

 小賢しく妙な能力はあるが所詮は小さき弱者。

 

 戦場を整え、艦列を揃え、数と力を持って事を成せば小さき弱者は大きな強者の前へと這いつくばるのは当然の帰結。

 

 その魂に刻まれた深海棲艦にとって世界の真理と言っても過言ではない命の理に従ってそう思惟(断言)を発した空母棲姫はふと何かを思いついたのか小さく唸り、玉座の下で沈みかけている黒枝が絡み合う中身の無い球体を見る。

 

 数秒ほどの逡巡の後、空母棲姫の鋼鉄に包まれた指がもう一度火花を散らす。

 

 直後についさっき欠陥品を焼却して重巡を建造する簡易ドックとして使った金属の枝の塊が固体化する程に密度を増した空気圧によって宙に浮かび上がり、下手な船舶よりも巨大な金属は四方八方から押し寄せる空気の圧力で空っぽの内側を低音楽器の様な音で震わせた。

 

 こんな感じだろうか、と何気ない思惟(呟き)を漏らしながら空母棲姫が差し出した手の上へと運ばれてきたで空っぽの金属の球が姫級深海棲艦の身体から溢れた瑠璃色の霊力と周囲の黒イバラから運ばれてきた無数の素材によってその形を変え。

 仕上げとばかりに海底の岩や砂から取り出された石英がマナ粒子と編み合わされ水晶となり球体の表面へ煌びやかな輝きが施され、元は無骨な金属の塊でしかなかったそれは数十分後には210mの美女が胸の抱え持つ輝く宝玉へと姿を変えていた。

 

 なんとなく思い付きで作ってみたが上手くいったらしい。

 

 きっとあの品の無い無骨者ではここまで上手く己の発想を形にする繊細さなど無いだろう。

 

 クックッと喉の奥で笑いながら空母棲姫は恋敵である戦艦棲姫の目の前で霊薬(敵艦)を詰めた宝箱を泊地水鬼に献上する時を想像し、あの武骨者はきっととても悔しそうに鳴くだろう確信して白い美貌に半月の様な笑みを浮かべる。

 

 まぁ、自分が今回の手柄によって最も女王の寵愛を受ける身(No.2)となったなら余裕と気品に満ちた義姉として装甲(衣服)を砂浜に脱ぎ散らかす事を趣味にしているはしたない義妹が少しでも上品さに目覚められるようアクセサリーの一つでも作ってやるべきだろう。

 

 そんな愉快な未来に莞爾とした微笑みを浮かべ、深海棲艦は何故か作り方を知っていた艦娘を逃がさず捕らえる(保存する)為の術式が組み込まれた宝石と黒鉄で出来た(容器)をピンと立てた指の上でクルクルと回転させた。

 




 
Q.二周年ってお前、前回の更新の時点で過ぎてるだろ?

A.前書きはすべて事実です。私は嘘()言ってません。
 
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